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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1505件

プロフィール| 書評

No.1165 6点 七つの時計
アガサ・クリスティー
(2020/03/17 22:53登録)
本作にも叙述トリックが仕組まれていることは、訳者あとがきなどで最初からわかっていたのですが、ナンバー7の正体には驚かされました。途中である登場人物に、セブン・ダイヤルズ組織について「なにもかも小説で百ぺんも読まされたことばかりだ」と言わせて、笑わせてくれるのですが、このオチには完全に騙されました。窃盗未遂事件の真相は見当がついても、それと組織との関係がうまく結びつかないままだったのです。
ただ、最初の死亡事件でマントルピースの上に並べられていた7つの目覚し時計の意味は、拍子抜けですし、上記ナンバー7の件も、意外ではあるものの、訳者あとがきにある「気持ちよくだまされた」という感じにそれほどならないところはあります。
なお、『チムニーズ館の秘密』の続編とも言われますが、話は全く別で連続性がなく、どっちを先に読んでもかまわないと思います。こっちの方がバトル警視が名探偵らしいです。


No.1164 6点
笠井潔
(2020/03/13 22:31登録)
この私立探偵飛鳥井シリーズ3冊目は、2冊目の短編集『道』と同じく漢字1文字タイトルですが、今回はサブ・タイトルも付いていません。2編の中編からなっていますが、どちらも直接的にはセラピストの鷺沼晶子から依頼を受けるというだけでなく、季節も真冬、年末から年始にかけての事件という点でも共通しています。前作から期待していたとおり、ロス・マクドナルド後期風の作品で、冬がハードボイルドな雰囲気に似合っているように思えますが、特に『痩身の魔』が印象深く感じられました。
もともと3部作の予定だったのが、3編目の構想が膨張しすぎたため、2編だけで刊行したことが、巻末の作者自身のエッセイ『私立探偵小説と本格探偵小説』の中で説明されています。さらに佳多山大地による笠井潔論、笠井潔スペシャル・インタビュー、著作リストと、3編目の埋め合わせのつもりもあったのか、資料的な部分が充実しています。


No.1163 6点 ハード・タイム
サラ・パレツキー
(2020/03/09 23:42登録)
『バースデイ・ブルー』の後5年ぶりに発表されたヴィク・シリーズ長編第9作です。その間に書かれたシリーズ外の『ゴースト・カントリー』は未読。
ハヤカワ・ノヴェルズ版訳者あとがきの中には、パレツキー自身の「シリーズのなかで最高に力強い作品だと思います」という言葉が紹介されています。しかし、むしろ厳しいとか辛いとか、要するにパワフルよりハードと言った方がいいのではないでしょうか。アジア女性の死亡事件を探ろうとするヴィクは、悪徳刑事から執拗にでっち上げ証拠で逮捕されそうになり、ついには拘置所に入れられてしまうのです。これが拘置所と刑務所を兼ねた施設で、裁判前の容疑者と受刑者を一緒に収容するなんて、法律上許されるのかとも思えますが。最後の悪役との対決シーンもずいぶんハードです。
ただし謎解き的には、悪役の正体は早い段階からわかりきっていますし、隠された違法行為にも意外性はありません。


No.1162 6点 赤毛のストレーガ
アンドリュー・ヴァクス
(2020/02/27 20:03登録)
カバーでは、本作のテーマは「未成年ポルノ業界」とされていますが、単に未成年というだけじゃなく、バークが見つけるのは生後まもなくからせいぜい10歳ぐらいまでの子どものポルノ写真の山です。「幼児・児童」(性別はその部分では書かれていませんが、男児のはず)と言うべきでしょう。
本作は、前後の作品と比べても、主筋は特に単純だと思いました。脇道のバークとその仲間たちのエピソードはあいかわらず。タイトルのストレーガは「人を追いかけたり、逆に追いかけられたりする魔女のこと」で、本名ジーナ、彼女自身が「今じゃストレーガって呼ばれているわ」と言っています。バークが彼女から事件の依頼を受けるのが、半分近くなってからです。この赤毛の魔女のキャラクターが、依頼は真面目そうなのにバークを誘惑したりして変なのですが、最後の最後で彼女の過去が明らかにされるところには、納得させられました。


No.1161 4点 駒場の七つの迷宮
小森健太朗
(2020/02/24 22:40登録)
カバー裏の作品紹介では、法月綸太郎が「18禁コミック作家の死にまつわる<見えない人>の珍無類のアイディア」を褒めていますが、どうでしょう。実際にはコミック作家が書いた漫画コンテ中のアイディアで、確かに珍無類ではあるのですが、その漫画にとってさえ、最適な使い方とは思えませんし、小説全体の中ではこのコンテ自体不要と断言してもいいものなのです。
では作中漫画でなく実際の事件のトリックはというと、古くからある方法のヴァリエーションに過ぎませんし、特に国内某古典の華麗さにはほど遠い出来です。密室状況が説明された瞬間に、このタイプかなと予測できてしまいました。書かなければアンフェアだし、書けばすぐばれるというところはあるのですが。
後半の展開は乱歩通俗長編並みのご都合主義ですし、ラスト、想亜羅(ソアラ)の態度豹変は理由不明ですし。まあ『人間豹』等を読むようなつもりで接すれば、少なくとも途中は楽しめるでしょうか。


No.1160 7点 人魚とビスケット
J・M・スコット
(2020/02/19 20:35登録)
「海洋冒険小説とミステリの見事な融合として名高い幻の傑作」
1955年に発表された本作の大半を占める海洋冒険小説部分の時代設定は1942年。第二次世界大戦中、シンガポールを出港した客船が日本軍によって撃沈されたことから始まる男女4人の漂流物語です。この部分は冒険と言うより極限状況での4人の心理的な葛藤が読みどころで、実におもしろくできています。
ただ、ミステリとの融合ということではどうなんでしょう。絶賛されているらしい冒頭の1951年春の新聞個人広告欄は、どうでもいい感じがしました。巻末解説によるとこの個人広告自体は実話だそうですが、そこから架空の漂流物語を創り上げたことを『九マイルは遠すぎる』とも共通すると褒め上げるのは、違う気がします。最後の「現在」に戻ってからの、特に人魚の正体には、説得力のある意外性がありましたが。


No.1159 7点 目撃
ドロシー・ユーナック
(2020/02/16 20:55登録)
巻末解説には、バウチャーの「最初の本格的な、そしてきわめてすぐれた婦人警察官探偵小説は、ニューヨークの地方検事局特別捜査班の二級刑事クリスティ・オパラが初登場するドロシイ・ユーナックの『おとり』である」という言葉が引用されています。考えてみれば、コーンウェルでも1990年デビューですし、女私立探偵小説のパレツキーやグラフトンでさえ1980年台になってからです。1968年初登場というと、確かにずいぶん早いわけです。それ以前はたぶん、ミス・マープルなど素人名探偵だけだったんですね。
で、本作は翌1969年に発表された第2作で、邦訳は1972年。そんな時代ですから、〈婦人刑事シリーズ〉と銘打たれています。
といっても、オパラ刑事の視点だけから描かれたものではなく、リアダン検事や犯人側など、複数の視点を取り入れています。謎解き的な興味はほとんどありませんが、警察小説らしいおもしろさは充分です。


No.1158 6点 キリオン・スレイの生活と推理
都筑道夫
(2020/02/11 11:18登録)
名探偵の名前 Quillion は、フランス語の古語で剣のつかを意味することが、最初の作品で説明されています(ちなみに Qui はフランス語では原則「クィ」ではなく「キ」と発音します)。目次には、作品名として文字によるタイトルではなく絵が使われていますが、それが様々な西洋の剣の絵であるのも、そんなわけなのです。
収録6編すべて、「なぜ」から始まるサブタイトルが付いていますが、本当に「なぜ」の部分に魅力があり、その理由に意外性が感じられるのは、3番目と4番目だけのように思えました。最初の「なぜ自殺に~」も銃殺トリックは意外なのですが、自殺に見せかけようとするなら被害者に自殺の動機があったことを示さなければなりませんから、「なぜ」が謎として成立していないと思います。密室殺人デーマの5番目と6番目も、むしろちょっとひねった不可能性の方が印象的で、実際密室トリック自体悪くありません。


No.1157 6点 砕けちった泡
ボアロー&ナルスジャック
(2020/02/08 18:42登録)
主人公のデュバルは一種のマッサージ師、作中ではキネジテラプートという専門用語を、適当な訳語がないからと注釈をつけて、そのまま使っています。結婚したものの、数か月で妻にうんざりした彼が、彼等二人の乗る車のタイヤを交換した際、衝動的にタイヤのボルトをゆるめたままにして、交通事故が起こってもかまわない状態にしたことから始まるサスペンス小説です。
読み終えた後で振り返ってみると、この偶発的なデュバルの行動も、だからこそのクライマックスになっていたことがわかります。その意味では、必然と偶然を巧みにからめたプロットはよくできていると思います。特に警察が、デュバルの妻が巻き込まれた交通事故の容疑者を突き止めたことを彼に告げに来たシーン以降の、彼の絶望的な行動には迫力があり、ラストのひねりも予想してはいましたが、うまく決まっています。
ただ、途中のデュバルの勝手な思い込みにはうんざりしたところもありました。


No.1156 7点 魔性の馬
ジョセフィン・テイ
(2020/02/03 22:41登録)
原題 “Brat Farrar” は主人公の名前です。巻末解説でも触れられていますが、冒頭部分は『太陽がいっぱい』を思わせます。と言っても、クレマン監督の映画は見ているものの原作小説は読んでいないのですが。本書の方がハイスミスより16年も早く発表されています。しかし、決して犯罪小説ではなく、謎解き要素がかなりあるのです。何といっても、ブラットがなりすました相手パトリックの8年前の「自殺」事件の真相が中心です。
まあ、その謎は簡単に推測がつきますし、さらにブラットについても、何となくこの人物と関係があるのではないかとは早い段階から思っていました。その意味で読者を驚かせる意外性にはとぼしいのですが、邦題の馬ティンバーの扱いも含め、サスペンスはなかなかのものです。ティンバーは重要な役割を果たすんじゃないかとも思っていたのですが、ただ比喩的な意味だけだったのが少々不満でしょうか。


No.1155 6点 横溝正史探偵小説選Ⅰ
横溝正史
(2020/01/31 22:38登録)
探偵小説選となっていますが、実際には後1/3近くの分量がエッセイです。しかし読んでみると、横溝正史はやはり学術的な文章より芸術的な小説の方が、はるかにいいと思いました。
その小説の方ですが、冒頭の『霧の中の出来事』は新発見の「微笑小説」。続いて『水晶の栓』と『奇岩城』を自由に翻案して中編にまとめたものがあり、その後も戦前の作品を中心とした21編のうち、単行本初収録作が19編という、珍しい作品ばかり集めた選集になっています。中には本当に横溝正史作か疑問のあるものも含まれています。
エッセイ集の最初に『ビーストンの面白さ』が収められていますが、なるほど、ビーストンを思わせる短編がいくつも入っています。『化学教室の怪火』『十二時前後』等初期の謎解き系から『卵と結婚』『お尻を叩く話』等ミステリでないヨタ話まで、有名作はデビュー作『恐ろしきエイプリル・フール』だけですが、なかなか楽しめました。


No.1154 7点 死の配当
ブレット・ハリデイ
(2020/01/25 19:05登録)
最初に読んだ時は、犯人の意外性というのではありませんが、様々な伏線をうまく回収して事件のからくりを解き明かしていて、謎解きミステリとして感心したのでした。また、ラファエロの絵の真贋問題については、『ギリシャ棺の謎』のダ・ヴィンチを連想したのですが、今回久々に再読してみるとそれだけではなく、上述事件の真相自体、本作のちょっと前に発表されたやはりクイーンの作品と似たアイディアを使っていることに気づきました。後の『夜に目覚めて』ではダネイをちょっとですが登場させていますし、EQMMに対してマイク・シェーン・ミステリ・マガジンを出すなど、ハリデイは意外にクイーンを意識しているのではないかという気もします。
それにしてもマイケル・シェーンって、赤毛を金田一耕助並みにかきまわす癖が(少なくとも初期には)あったんですね。後には彼と結婚する依頼人フィリスが、なかなか可愛らしく描かれています。


No.1153 5点 優しく殺して
アン・モリス
(2020/01/22 20:03登録)
調べてみると、訳者あとがきに載っているアン・モリスの24作品は、最初の別名義2作を除いて、女優テッサ・クライトンのシリーズのようですが、それにもかかわらず、邦訳があるのは現在のところ本作のみ。全然売れなかったのでしょうか。コージー系パズラーとしては、悪くないと思うのですが。
ただしそれは謎解き要素についてはということで、小説としてはあまり感心できないところもあります。この手の小説に欠かせないユーモアは、上品で微笑を誘うわけでもなく、ドタバタで大笑いさせるわけでもありません。ちょっと野暮ったい感じで、あまり笑えないのです。また、真相解明シーンに至る流れが、あまりにあっさりと説明が始まってしまい、知的サスペンスを感じさせる演出がありません。
それでも、ごく少ない容疑者で意外性を出してみせるフーダニットのアイディアはなかなかのものです。


No.1152 7点 聖悪魔
渡辺啓助
(2020/01/18 22:57登録)
表題作等戦前の小説8編、詩2編、戦後の小説4編を収録しています。
戦前の作品は、大雑把に言えば犯罪要素を加味した異常心理小説と言っていいでしょう。中にはそうと思わせておいて最後に軽くひっくり返すものも2編ありますが、そのうち1編はひっくり返った状況もまた、それまでほどではなくても異常なものになっています。また、『血蝙蝠』と『タンタラスの呪い血』は、謎解きミステリ的な意外性も持った作品です。8編どれも不気味と言うか狂気めいた雰囲気が印象に残ります。
戦後の作品は、戦前の作品にもそういうものが多かったのですが、本書に収録された4編はすべて海外が舞台になっています。ストーリーについては、登場人物の異常さは薄らいで、より普通の犯罪が描かれています。なお、最後の『吸血鬼(ヴァムピロ)一泊』はタイトルにもかかわらずミステリでもホラーでもありません。


No.1151 4点 殺害者のK
スー・グラフトン
(2020/01/15 20:07登録)
1994年に発表され、翌年のシェイマス賞を受賞、またアンソニー賞にもノミネートされた作品です。
しかし、これは個人的には駄目でした。いや、全体の8割を過ぎるあたりまでだったら、充分おもしろく、6点はかたいと思っていたのです。警察では一応殺人と推定しているというぐらいで、死因を断定できない事件の捜査を、キンジーは家族から依頼されます。事件は地味ではあるのですが、死者の生活を明らかにしていく地道な捜査過程の中で、さらに新たな事件が起こってという展開は楽しめます。
ところが最後の方になって、これをどうまとめるのだろうと心配になってきたのですが、心配は的中し、犯人は特定されるものの、事件全体像はなんとなくあいまいなままなのです。途中で出て来る謎の大物人物の組織の正体も不明なままですし、第2の事件の最終的な原因も説明されません。なんとも中途半端な結末でした。


No.1150 4点 大胆なおとり
E・S・ガードナー
(2020/01/09 22:43登録)
メイスンの勧告にもかかわらず、依頼人が自分に疑いがかからないよう勝手に何やら画策し、そのためかえって警察に疑われる羽目に陥ることの多いシリーズですが、本作の依頼人は基本的に冷静な若い社長ということもあるのでしょう、下手なことは一切せず、メイスンの指示に従っています。
しかし、それにもかかわらず今回その社長が容疑者になってしまう原因は、ちょっと複雑すぎます。そのような結果を生み出した犯人でないある人物の行動の動機には、さすがに無理がありますし、行うことも手が込みすぎていて不自然です。さらに凶器でなかった拳銃のからくりは、偶然の多用でいたずらに事件を複雑化させているだけで、入れない方がよかったでしょう。
それにしても今回のバーガー検事、慎重なトラッグ警部はもとより、直情型のホルコム部長刑事さえ自制しているのに、粗暴な振る舞いが多すぎます。


No.1149 7点 静かな炎天
若竹七海
(2020/01/06 23:17登録)
葉村晶シリーズ久々の短編集、収められた6編、7月から12月までの各月にちなんだ作品になっています。葉村はミステリ専門書店〈MURDER BEAR BOOKSHOP〉でバイトもしていて、ミステリのことがふんだんに語られますので、これはどこかでクイーンの『犯罪カレンダー』が言及されるかとも思っていたのですが、ありませんでした。しかし最後には作中書店の富山店長からということで、出て来るミステリの解説が入れてあります。
長編『悪いうさぎ』はハードでしたが、本作の短編はいずれも軽いノリで、笑えます。これがなんとなくハードボイルドらしいユーモアなのが楽しい。次々に舞い込む依頼があっという間に片付いていき、最後に意外な関連性が浮かび上がる表題作が最も気に入りました。最後の『聖夜プラス1』は、ほとんどミステリじゃないって感じですが、それでもやはりおもしろく、タイトルの意味にも納得。


No.1148 7点 テロリスト
マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー
(2020/01/02 23:09登録)
1965年に『ロセアンナ』で始まったマルティン・ベックとその仲間たちシリーズは、1975年に発表されたこの第10作で打ち止めになりました。夫君のヴァールーは同年に没していますが、もっと長生きしていたらシリーズはどうなっていたのでしょう。本作自体は、これで「完結」という感じはしないのですが。
さて、その最終作、1/3近くまでは、最初の方でどこかの国に出張したラーソンがテロ事件に遭遇するエピソードは入るものの、銀行強盗事件の裁判とポルノ映画監督殺害事件が中心です。その後、テロリストの視点から描かれる部分をところどころに加えながら、来訪したアメリカ上院議員の暗殺計画をめぐる攻防が始まります。
ベックたちの暗殺阻止計画は、ごく早い段階で見当がつきましたが、その後起こる展開には驚かされます。ラストの緊迫感が今ひとつとも思えましたが、充分楽しめる作品でした。


No.1147 7点 砕かれた夜
フィリップ・カー
(2019/12/29 08:39登録)
カーといっても KERR ですから、密室の巨匠とは綴りだけでなく、おそらく発音も違うはずです。
作者初期のグンター・シリーズ3部作の第2作ですが、本作では、彼は刑事警察総監からの要請(「きみにはあまり選択の余地がなさそうだ」と言われて)で、警察に警部として一時復帰し、部下の刑事たちを指揮して、少女連続殺人事件の捜査に当たります。そんなプロットですから、ジャンルとしては警察小説としました。しかし、私立探偵になった者が一時的に警察官に戻るなんて、戦争の準備を着々と整えつつあったヒトラー政権下のドイツという特殊状況でも、あり得るんでしょうか。
その点を除けば、1938年ベルリンの情勢がリアルに描かれていて、迫力があります。と言っても、当時のドイツ史については細かいことはほとんど知らないのですが。ただ殺人事件真相と史実のユダヤ人迫害との絡め方には、少々疑問も感じました。


No.1146 5点 聖者の行進 伊集院大介のクリスマス
栗本薫
(2019/12/23 23:22登録)
ジャンルを何にしようか困った作品でした。伊集院大介シリーズの1冊ということでまず思い浮かぶ本格派としては、あまりに弱いのです。最後の真相解説は、読者にも示されていた伏線を基にした推理にはなっていず、今まで実はこんな調査をやっていたということが説明されるだけです。
というわけで、こんな考え方もありかなと思った社会派という分類ですが、反対される方も多いと思います。
もちろん松本清張のような企業や官僚組織の腐敗等にメスを入れていくという意味の社会派では全くありません。小さなレズ・バーの経営者である藤島樹の一人称形式で語られる本作は、彼女―いや、本人にしてみれば「彼」と呼んでもらいたいかもしれませんが、樹の生き方や、事件の舞台となるゲイバーの思い出などを語るのが主体となっていると言っていいほどです。そのようなバブル時代の同性愛社会を描いた作品という意味で。

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