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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1515件

プロフィール| 書評

No.1175 8点 第三の眼
ケイ・ノルティ・スミス
(2020/04/25 09:49登録)
基本的には事件の真相を追うデイモン刑事の視点から書かれた作品です。それにもかかわらず後半は裁判が続く法廷ミステリになっているのは、デイモンの驚くべき転身があるからなのです。
その裁判になる事件が殺人なのか事故なのかという点も謎ではあるのですが、殺人だとしたら犯人は逮捕される女性記者に決まり切っているのであり、それ以上に、女性記者は何を考えているのか、そしてさらに重要なのは死んだ文化・道徳価値研究所所長がどんな人物だったのかという点が、追及される中心問題になります。まあ、初っ端に書かれているこの所長の主張からすれば、彼の考えがどんなものだったのかの見当はすぐにつきますが。
それでも、大統領選挙につながる政治的思惑も絡めて、社会学者の思想を示すカセット・テープがどうなるのかなど、最後まで緊迫感が続き、エドガー賞処女長編賞受賞も納得のいく作品です。


No.1174 7点 ハメット
ジョー・ゴアズ
(2020/04/22 23:17登録)
ヴィム・ヴェンダース監督は好きで、『パリ・テキサス』等いくつも見ているのですが、コッポラがプロデュースした本作の映画化は未見のまま。で、その原作の方ですが、読んでいて奇妙な感じにおそわれました。主役はハメットなわけですが、いつの間にか何となくハメットの作品を読んでいるような気分にさせられてしまうのです。ゴアズは一応ハードボイルドの枠の中で様々なタイプの作品を書いているため、明確なスタイルを掴みきれず、ゴアズの小説を読んでいるという意識が、希薄になってしまうことも原因でしょうか。
作中のハメットが『デイン家の呪い』の改稿に苦労している様子が、あの珍作を知っていると笑えます。
ただラストの二重の意外性については、個人的にはそれほど感心できませんでした。一方の方は人物造形に多少疑問を感じましたし、もう一つはそんな技巧を使う意味があったのか疑問だと思ったのです。


No.1173 5点 秘書室の殺人
中町信
(2020/04/18 08:47登録)
「酔いどれ探偵」課長代理深水文明の社内殺人シリーズ第3作。
プロローグに叙述トリックを仕掛けるのは中町信らしいところですが、今回はその種明かしになっているエピローグと合わせて4ページだけ、一人称形式になっています。というわけで、その「私」とは誰なのかということが謎になっているわけです。構成全体の中での使い方は、この作者を初めて読む人だったら驚かされるでしょうねというぐらいのものとは言え、やはりおもしろいアイディアであるとは思いました。まあ偶然が過ぎると言う人もいるでしょうが。それ以外の謎というと、プロローグの「私」の行動理由などむしろホワイダニットになっているところが、この作者としては珍しいところでしょうか。
しかし事故か自殺か他殺か、決め手に欠ける最初の事件について、その原因が具体性に欠けるのは、非常に問題があります。


No.1172 6点 砂州の死体
マーガレット・マロン
(2020/04/15 20:16登録)
1981年デビュー後、1992年デボラ・ノットが登場する第1作『密造人の娘』でアメリカのミステリ関係の賞をほとんど総なめにした作者の、同シリーズ第3作。第1作では弁護士だったそうですが、本作では判事になっています。途中裁判シーンもありますが、本筋とは関係のない交通事故や離婚などの裁判ばかりで、中心となる殺人事件の関係者が被告人になる自転車窃盗事件だけはさすがに数ページ費やされていますが、それ以外は詳しい内容は書かれていません。そんなわけで、主役の職業から想像されるような法廷ミステリではありません。また少なくとも本作では、必ずしも彼女が探偵役というわけでもないのです。
要はデボラの一人称で語られるミステリということで、コージーとも言いづらいし、登場人物たちをじっくり描くリアリズム系の、犯人の意外性など無視した「小説」です。そのような作品としてはこの評価でしょうか。


No.1171 7点 不思議な国の殺人
フレドリック・ブラウン
(2020/04/12 23:25登録)
邦題はルイス・キャロルの代表作を元にしていますが、原題は “Night of the Jabberwock”。『鏡の国のアリス』の方に出て来る「ジャバウォックの詩」に描かれた鳥のような怪物です。と言っても、実は『不思議の国のアリス』でさえ忠実な翻訳は読んだことがないのですが。
一人称の主人公、小さな町の週刊紙主筆ドックはアリス・シリーズの研究者でもあり、アリスおよびキャロルについての蘊蓄はふんだんに出てきます。これまで大した事件も起こらなかった町で、新聞発行の前日の夜、ドックが特ダネになるような出来事に次々出会うことになる、その積み重ねが楽しい作品です。中心となるのは、作品紹介にも書かれたドックが容疑者になる殺人事件ですが、それが起こるのは6割ぐらい経ってからで、それまでにも様々な事件が、これでもかというぐらい起こります。それら全部の最終的なまとめ方がまた、ばかばかしいようなおもしろさでした。


No.1170 6点 天使に見捨てられた夜
桐野夏生
(2020/04/06 22:08登録)
タイトルは、作中で殺されるミュージシャンの曲名です。この殺人事件は、ミロが依頼された失踪人探しとは当然無関係と思われたのですが、その棺の中に入れられていたビンが、失踪AV女優の出演ビデオに映っていたものとそっくりだったことから、何らかのつながりがあるのではないかとの疑惑が出てきます。
そういった細かい点を地道に調べていく調査小説として、なかなか楽しめます。ただ、そのビンの中身「雨の化石」については、化石の基礎知識さえ得た後は、図書館巡りなどせず、さっさと専門家に現物を見せろやと言いたくなりましたが。ミロに協力する彼女の父親や同性愛者の隣人トモさんなど、登場人物たちの魅力が、作品自体の魅力もアップしています。
ところでミロって、スペインの画家みたいな名前ですが、第2の依頼人宅にはダリの絵がありました。ツグジ(藤田嗣治のことでしょう)のデッサンの方は、それに気づくなんて、ミロ美術に詳しすぎ。


No.1169 7点 道化の町
ジェイムズ・パウエル
(2020/04/03 22:35登録)
本サイトにも登録されていることは気づいていたのですが、つい最近になって奇妙な味の短編系の作品集だと知って、さっそく読んでみたのでした。
ユーモア感覚が高く評価されている作家のようですが、最初の3編を読んだ段階では、まさに「奇妙な味」はあるものの、笑える感じではないじゃないかと思っていたのです。特に『プードルの暗号』はむしろ不快な結末です。しかし次の『オランウータンの王』の冗談としか思えないラストには、唖然とさせられました。この2作に限らず、全体的にファンタジー的な要素が濃厚ですが、一方『アルトドルフ症候群』は事件の語り手設定こそSF的ですが、凝ったトリックのまともな謎解きミステリになっています。一方メイナード・ブロック巡査部長代理シリーズの2編、特に『折り紙のヘラジカ』はおふざけぶりが徹底しています。表題作はサーカスのユーモアとペーソスが融合された傑作。


No.1168 5点 死はつぐないを求める
ジョゼフ・ハンセン
(2020/03/30 23:15登録)
同性愛者の保険調査員デイヴ・ブランドステッター・シリーズの第2作です。本作でも最初に会う人から、「ねえ、ミスタ・ブランド―?」と言われる、覚えにくい名前の探偵役。
前作『闇に消える』における彼の私生活については記憶に残ってないのですが、ところどころに愛人ダグのことが出てきます。事件そのものにも同性愛が絡んでくる話になっていますが、デイヴ自身が同性愛者であることとの関連性がなく、2作目にしてこのモチーフへのこだわりに多少無理が出てきているようにも思えます。捜査小説としてはおもしろいのですが、謎解き的には、犯人が印象の薄い登場人物で、意外性があまり感じられないという不満がありました。
ハードボイルドらしい抑制された文章ですが、翻訳のせいなのか、三人称形式であるにも関わらず完全にデイヴの視点からのみ描かれているため、「私」でないことに違和感を覚えてしまいました。


No.1167 5点 二幕半の殺人
高木彬光
(2020/03/27 00:03登録)
霧島三郎検事シリーズの中短編5編。
最初の『被害者を探せ』は、取り壊し中の家に備え付けられた防空壕の中から発見されたコンクリート詰めの死体が誰かという謎ですが、真相にはなんとなく不満を感じてしまいました。犯人の狙いはわかりますし。作者自身の某初期長編のアイディアにさらにひねりを加えているのは悪くないとは思うのですが。次の『毒の線』はあまり印象に残りません。最もおもしろかったのが『同名異人』で、脅迫の相手はどちらだろうという、同名異人アイディアにもこんな使い方があったかと感心しました。『鬼と鯉』というのは刺青の絵柄のことで、暴力団の世界が扱われていますが、刺青の使い方に工夫があります。最後の表題作は100ページ近い中編ですが、長いわりに大したことはないという印象でした。
それにしても気になるのが、『同名異人』と表題作の最後のまとめ方で、これは法律的にまずいでしょう。


No.1166 6点 ニコラス街の鍵
スタンリイ・エリン
(2020/03/21 16:23登録)
エリンの長編第2作は、ジャンル分けに困る作品でした。
殺人が起こって、その事件の犯人が誰かという謎があり、最後にはその謎がそれなりに論理的に解かれるという点では、本格派的と言えなくないかもしれません。しかし作者の狙いは全く別で、隣人の女流画家が殺された事件を中心にして、ニコラス街に住むアイレス家の人間関係を語っていくところにあります。全体は5部に分れ、家族の家で働く家政婦の視点で書かれる第1部から始まり、残りは家族それぞれの視点から、すべて一人称形式で語られます。そして5人の語り手以外の事件関係者は、被害者と、もともと被害者の知り合いで、アイレス家の人々ともつき合うようになった男、この男が相当癖の強い人間です。
作品紹介文を読み、登場人物表を確認した段階で、なんとなく犯人が誰かは見当がついてしまいましたが、それでも全く問題ない作品です。


No.1165 6点 七つの時計
アガサ・クリスティー
(2020/03/17 22:53登録)
本作にも叙述トリックが仕組まれていることは、訳者あとがきなどで最初からわかっていたのですが、ナンバー7の正体には驚かされました。途中である登場人物に、セブン・ダイヤルズ組織について「なにもかも小説で百ぺんも読まされたことばかりだ」と言わせて、笑わせてくれるのですが、このオチには完全に騙されました。窃盗未遂事件の真相は見当がついても、それと組織との関係がうまく結びつかないままだったのです。
ただ、最初の死亡事件でマントルピースの上に並べられていた7つの目覚し時計の意味は、拍子抜けですし、上記ナンバー7の件も、意外ではあるものの、訳者あとがきにある「気持ちよくだまされた」という感じにそれほどならないところはあります。
なお、『チムニーズ館の秘密』の続編とも言われますが、話は全く別で連続性がなく、どっちを先に読んでもかまわないと思います。こっちの方がバトル警視が名探偵らしいです。


No.1164 6点
笠井潔
(2020/03/13 22:31登録)
この私立探偵飛鳥井シリーズ3冊目は、2冊目の短編集『道』と同じく漢字1文字タイトルですが、今回はサブ・タイトルも付いていません。2編の中編からなっていますが、どちらも直接的にはセラピストの鷺沼晶子から依頼を受けるというだけでなく、季節も真冬、年末から年始にかけての事件という点でも共通しています。前作から期待していたとおり、ロス・マクドナルド後期風の作品で、冬がハードボイルドな雰囲気に似合っているように思えますが、特に『痩身の魔』が印象深く感じられました。
もともと3部作の予定だったのが、3編目の構想が膨張しすぎたため、2編だけで刊行したことが、巻末の作者自身のエッセイ『私立探偵小説と本格探偵小説』の中で説明されています。さらに佳多山大地による笠井潔論、笠井潔スペシャル・インタビュー、著作リストと、3編目の埋め合わせのつもりもあったのか、資料的な部分が充実しています。


No.1163 6点 ハード・タイム
サラ・パレツキー
(2020/03/09 23:42登録)
『バースデイ・ブルー』の後5年ぶりに発表されたヴィク・シリーズ長編第9作です。その間に書かれたシリーズ外の『ゴースト・カントリー』は未読。
ハヤカワ・ノヴェルズ版訳者あとがきの中には、パレツキー自身の「シリーズのなかで最高に力強い作品だと思います」という言葉が紹介されています。しかし、むしろ厳しいとか辛いとか、要するにパワフルよりハードと言った方がいいのではないでしょうか。アジア女性の死亡事件を探ろうとするヴィクは、悪徳刑事から執拗にでっち上げ証拠で逮捕されそうになり、ついには拘置所に入れられてしまうのです。これが拘置所と刑務所を兼ねた施設で、裁判前の容疑者と受刑者を一緒に収容するなんて、法律上許されるのかとも思えますが。最後の悪役との対決シーンもずいぶんハードです。
ただし謎解き的には、悪役の正体は早い段階からわかりきっていますし、隠された違法行為にも意外性はありません。


No.1162 6点 赤毛のストレーガ
アンドリュー・ヴァクス
(2020/02/27 20:03登録)
カバーでは、本作のテーマは「未成年ポルノ業界」とされていますが、単に未成年というだけじゃなく、バークが見つけるのは生後まもなくからせいぜい10歳ぐらいまでの子どものポルノ写真の山です。「幼児・児童」(性別はその部分では書かれていませんが、男児のはず)と言うべきでしょう。
本作は、前後の作品と比べても、主筋は特に単純だと思いました。脇道のバークとその仲間たちのエピソードはあいかわらず。タイトルのストレーガは「人を追いかけたり、逆に追いかけられたりする魔女のこと」で、本名ジーナ、彼女自身が「今じゃストレーガって呼ばれているわ」と言っています。バークが彼女から事件の依頼を受けるのが、半分近くなってからです。この赤毛の魔女のキャラクターが、依頼は真面目そうなのにバークを誘惑したりして変なのですが、最後の最後で彼女の過去が明らかにされるところには、納得させられました。


No.1161 4点 駒場の七つの迷宮
小森健太朗
(2020/02/24 22:40登録)
カバー裏の作品紹介では、法月綸太郎が「18禁コミック作家の死にまつわる<見えない人>の珍無類のアイディア」を褒めていますが、どうでしょう。実際にはコミック作家が書いた漫画コンテ中のアイディアで、確かに珍無類ではあるのですが、その漫画にとってさえ、最適な使い方とは思えませんし、小説全体の中ではこのコンテ自体不要と断言してもいいものなのです。
では作中漫画でなく実際の事件のトリックはというと、古くからある方法のヴァリエーションに過ぎませんし、特に国内某古典の華麗さにはほど遠い出来です。密室状況が説明された瞬間に、このタイプかなと予測できてしまいました。書かなければアンフェアだし、書けばすぐばれるというところはあるのですが。
後半の展開は乱歩通俗長編並みのご都合主義ですし、ラスト、想亜羅(ソアラ)の態度豹変は理由不明ですし。まあ『人間豹』等を読むようなつもりで接すれば、少なくとも途中は楽しめるでしょうか。


No.1160 7点 人魚とビスケット
J・M・スコット
(2020/02/19 20:35登録)
「海洋冒険小説とミステリの見事な融合として名高い幻の傑作」
1955年に発表された本作の大半を占める海洋冒険小説部分の時代設定は1942年。第二次世界大戦中、シンガポールを出港した客船が日本軍によって撃沈されたことから始まる男女4人の漂流物語です。この部分は冒険と言うより極限状況での4人の心理的な葛藤が読みどころで、実におもしろくできています。
ただ、ミステリとの融合ということではどうなんでしょう。絶賛されているらしい冒頭の1951年春の新聞個人広告欄は、どうでもいい感じがしました。巻末解説によるとこの個人広告自体は実話だそうですが、そこから架空の漂流物語を創り上げたことを『九マイルは遠すぎる』とも共通すると褒め上げるのは、違う気がします。最後の「現在」に戻ってからの、特に人魚の正体には、説得力のある意外性がありましたが。


No.1159 7点 目撃
ドロシー・ユーナック
(2020/02/16 20:55登録)
巻末解説には、バウチャーの「最初の本格的な、そしてきわめてすぐれた婦人警察官探偵小説は、ニューヨークの地方検事局特別捜査班の二級刑事クリスティ・オパラが初登場するドロシイ・ユーナックの『おとり』である」という言葉が引用されています。考えてみれば、コーンウェルでも1990年デビューですし、女私立探偵小説のパレツキーやグラフトンでさえ1980年台になってからです。1968年初登場というと、確かにずいぶん早いわけです。それ以前はたぶん、ミス・マープルなど素人名探偵だけだったんですね。
で、本作は翌1969年に発表された第2作で、邦訳は1972年。そんな時代ですから、〈婦人刑事シリーズ〉と銘打たれています。
といっても、オパラ刑事の視点だけから描かれたものではなく、リアダン検事や犯人側など、複数の視点を取り入れています。謎解き的な興味はほとんどありませんが、警察小説らしいおもしろさは充分です。


No.1158 6点 キリオン・スレイの生活と推理
都筑道夫
(2020/02/11 11:18登録)
名探偵の名前 Quillion は、フランス語の古語で剣のつかを意味することが、最初の作品で説明されています(ちなみに Qui はフランス語では原則「クィ」ではなく「キ」と発音します)。目次には、作品名として文字によるタイトルではなく絵が使われていますが、それが様々な西洋の剣の絵であるのも、そんなわけなのです。
収録6編すべて、「なぜ」から始まるサブタイトルが付いていますが、本当に「なぜ」の部分に魅力があり、その理由に意外性が感じられるのは、3番目と4番目だけのように思えました。最初の「なぜ自殺に~」も銃殺トリックは意外なのですが、自殺に見せかけようとするなら被害者に自殺の動機があったことを示さなければなりませんから、「なぜ」が謎として成立していないと思います。密室殺人デーマの5番目と6番目も、むしろちょっとひねった不可能性の方が印象的で、実際密室トリック自体悪くありません。


No.1157 6点 砕けちった泡
ボアロー&ナルスジャック
(2020/02/08 18:42登録)
主人公のデュバルは一種のマッサージ師、作中ではキネジテラプートという専門用語を、適当な訳語がないからと注釈をつけて、そのまま使っています。結婚したものの、数か月で妻にうんざりした彼が、彼等二人の乗る車のタイヤを交換した際、衝動的にタイヤのボルトをゆるめたままにして、交通事故が起こってもかまわない状態にしたことから始まるサスペンス小説です。
読み終えた後で振り返ってみると、この偶発的なデュバルの行動も、だからこそのクライマックスになっていたことがわかります。その意味では、必然と偶然を巧みにからめたプロットはよくできていると思います。特に警察が、デュバルの妻が巻き込まれた交通事故の容疑者を突き止めたことを彼に告げに来たシーン以降の、彼の絶望的な行動には迫力があり、ラストのひねりも予想してはいましたが、うまく決まっています。
ただ、途中のデュバルの勝手な思い込みにはうんざりしたところもありました。


No.1156 7点 魔性の馬
ジョセフィン・テイ
(2020/02/03 22:41登録)
原題 “Brat Farrar” は主人公の名前です。巻末解説でも触れられていますが、冒頭部分は『太陽がいっぱい』を思わせます。と言っても、クレマン監督の映画は見ているものの原作小説は読んでいないのですが。本書の方がハイスミスより16年も早く発表されています。しかし、決して犯罪小説ではなく、謎解き要素がかなりあるのです。何といっても、ブラットがなりすました相手パトリックの8年前の「自殺」事件の真相が中心です。
まあ、その謎は簡単に推測がつきますし、さらにブラットについても、何となくこの人物と関係があるのではないかとは早い段階から思っていました。その意味で読者を驚かせる意外性にはとぼしいのですが、邦題の馬ティンバーの扱いも含め、サスペンスはなかなかのものです。ティンバーは重要な役割を果たすんじゃないかとも思っていたのですが、ただ比喩的な意味だけだったのが少々不満でしょうか。

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