大尉のいのしし狩り |
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作家 | デイヴィッド・イーリイ |
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出版日 | 2005年06月 |
平均点 | 7.50点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 8点 | クリスティ再読 | |
(2025/06/28 13:24登録) イーリイというと、70年代くらいの翻訳ミステリ雑誌によく掲載されていた記憶がある。だから評者も、翻訳冊数は少ないけどもコンプしてやろうと思ったんだ。異色作家は好物だからねえ。 でこの本は、70年代あたりに紹介された作品を中心に、日本での独自編集で編んだ晶文社のアンソロ。「ヨットクラブ(タイムアウト)」の好評を受けた第二弾で15本収録。「昔に帰れ(コミューン始末記)」とか「別荘の灯」といったMWA候補作も含んでいる。とはいえ、狭義のミステリ色は強くなく、アイロニーの効いた奇談やホラーが主体。まあこういうカラーって、70年代の翻訳ミステリ雑誌らしいものなのだけどもね。だから評者とかとっても懐かしい...というのが狙いかな。 内容は極めて高水準。ストーリーテリングの妙を存分に味わうことができる。結末を暗示的に終わらせるのがイーリイの好みのようだ。軍隊での復讐譚である表題作は、復讐の主体となるテネシーの木こりたちの郷党的一体感をしっかり描くというかたちで特異性がある。「裁きの庭」はやや例外的にオーソドックスな絵画を巡るホラーだが、完成度は高い。失踪したグルメをグルメ仲間が追いかけが「十人のインディアン」みたいにどんどんと脱落していく「グルメ・ハント」も面白いが、外出するたびにどこかの灯がつきっぱなしになるという怪異を描いた「別荘の灯」はそれとないサイコホラーで、原因はその妻にあるようだし、やはり主婦を主人公とした「いつもお家に」なら、<いつもお家に>という防犯設備を巡って心理的に主婦が追い込まれていく心理ホラー。 といった具合に怪異の有無はともかく、心理的に追い詰められていく恐怖感がイーリイの持ち味で、長編の「蒸発」もそういう怖さが主体だからね。若干それを純化した心理小説にしたら「走る男」「歩を数える」といった妄想話になってくるし、ヒッピーコミューンが想定外に押し寄せた観光客によって崩壊していく「昔に帰れ」の閉塞感もそのようなベースからのものだろう。 だからこそ「登る男」の結末は好き。有史以来の巨木メタセコイアにTVのショーとしてそれに登る「リス男」の解放の話。大好き。 きわめて濃度の高い短編集。 |
No.1 | 7点 | 空 | |
(2020/06/20 07:58登録) 『いつもお家に』を本全体のタイトルにした第2短編集からの7編に、単行本未収録の8編を加えた、日本オリジナル短編集です。巻末解説には、この第2短編集には、普通小説的な作品が相当数混じっているから、このような編集にしたことが書かれていますが、それでも純粋にミステリと言える作品、つまり犯罪小説あるいは謎解き小説はごくわずかです。 表題作では、大尉があえてあの二人を連れていのしし狩りに行くかという点が、ひっかかりましたが、こんな幕切れになるとは。大尉も二人も、それぞれの意味で極端な人物ですが、収録作の多くは極端な人物や状況設定によるプロットになっています。『グルメ・ハント』の失踪した公爵なんて典型例ですし、MWA賞候補になった『昔に帰れ』にしても、扱われた社会的問題点はある程度実際にあるにしても、その傾向を極限まで突き詰めることによって起こる不快な結末になっています。 |