空さんの登録情報 | |
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平均点:6.12点 | 書評数:1515件 |
No.1235 | 7点 | 深夜の張り込み トマス・ウォルシュ |
(2020/12/24 23:19登録) 先入観を覆してくれる作品でした。 読むことにした時点では内容を全く知らず、タイトルから何となくかなり地味目の警察小説かと思っていたのです。ところが粗筋を見ると、「殺人鬼と化していく悪徳警官の心理をヴィヴィッドに描く」ということ。それで犯罪小説的な作品だろうというつもりで読み始めたのです。 なるほど、強盗犯人を殺してその金を奪おうとするあたりまでは確かにそうです。ただ優柔不断な刑事を自分の言いなりにさせようという計画はあまりに危険としか言いようがありませんが。しかしその後は、この悪徳警官の行動は一緒に張り込みをしていた刑事や上司の警部に即座に怪しまれ、半分にも達しないうちに真相は彼等に知られてしまいます。その後は双方の立場を切り替えながら描かれていくサスペンスフルな警察小説展開。 追う者、追われる者の心理描写も悪くなかったのですが、ただ訳文がどうもぎくしゃくしていて。 |
No.1234 | 5点 | 林の中の家 仁木悦子 |
(2020/12/19 07:26登録) 登場人物が多くてごちゃごちゃした印象があるとか、偶然が多いとかいう意見はもっともだと思われる作品でした。 最初に起こる殺人事件に、細かいものまで入れるといったいいくつの偶然が重なっているのか、ざっと数えただけでも7つあります。これら偶然がすべて広い意味では登場人物の行動に関係するもので、天候など人知の及ばない偶然はなしというのですから、いくらなんでもという気はします。さらに幼児誘拐まで起こり、それで話を面白くしてはいるのですが、メインの事件とは基本的には無関係です。そしてその誘拐事件の真相解明部分で明かされるある人物の意外な正体には、同じ町にいるなんてあり得ないだろうと思ってしまいました。 伏線がいろいろ張ってあったことは最後に説明されるのですが、直接真犯人を示す手がかりは、少々弱いと思います。全体としてみれば、そんなに悪くないのですが… |
No.1233 | 6点 | もう一人のアン スーザン・ジャフィー |
(2020/12/14 23:16登録) 作者は、巻末解説によると出版社の編集責任者兼副社長だそうですが、その人のデビュー作は異常心理サスペンス。同姓同名(ミドルネームにNが付くかどうかだけの違い)の人物への嫉妬というアイディアを突き詰めていった作品です。最後近くなるまでは、この2人の女を巧みに描き分け、非常に面白かったのです。 しかしクライマックスに向かうあたりからが、不満になってくるのです。同姓同名の2人と関係することになった弁護士アーサーが、加害者が誰であるかに気づく段取りがあっけなく、またその後の「罠」の部分も、何が起こったかを明確に書かない手法は、成功しているとは思えません。そもそもこのアーサー、現在証拠がないから行動しないなんて、依頼人に有利な証拠を見つける(あるいは事実を解釈し直す)のが仕事である弁護士としては失格です。まあ彼の職業設定を変えていれば済む話ではありますが。 |
No.1232 | 6点 | おれはやくざだ! ミッキー・スピレイン |
(2020/12/11 22:53登録) 中編の表題作と2編の短編を収録。この表題作はつかみの部分から真相が明かされるラストまで、いかにもスピレインらしい作品で、安心して(?)楽しめます。 『ドラゴン・レディとの情事』のドラゴン・レディとは第二次大戦中の爆撃機B-17の名前で、彼女を愛おしむ「十人の夫ども」の話です。全くミステリではありませんが、ヘミングウェイ的な意味でハードボイルドな感じはあり、「おれたち」のノスタルジックな思い入れと現代における彼女の意外な活躍が実に楽しめます。 『蹴らずんば殺せ』は、巻末解説には、宿屋の女主人が主役の男の症状を麻薬中毒と勘違いして薬を捨ててしまうところだけを取り上げて「ある種のドタバタのファルスで、これも変わっている」と書かれていますが、それは軽い味付け部分に過ぎません。全体としては最後が慌ただしすぎるきらいはありますが、主役が町を牛耳る悪党どもをやっつけるハードボイルドです。 |
No.1231 | 4点 | 箱根路、殺し連れ 太田蘭三 |
(2020/12/08 20:49登録) 相馬刑事が活躍する北多摩署純情派シリーズ第3作。 太田蘭三は初めてで、登録された作品のタイトルからしてもトラベルミステリ系かと思っていたのですが、少なくとも本作は違っていました。そもそもこの作家の文章は非常に単純、直接的であり、旅情を感じさせるような味わいのある風景描写などには向かないと思います。会話にはユーモアがありますが、流れがちょっと不自然。 で、プロットの方ですが、まず新宿の駐車場に停めていた相馬刑事の自動車に死体が入れられ、その殺人事件の重要参考人の死体を、相馬刑事が芦ノ湖への旅行で釣りをしていて針に引っかけて上げ、さらにその旅行で知り合った女性二人が別の殺人事件に関係することになり、という展開は、いくらなんでも偶然を重ねすぎです。古典的アイディアが犯人の意図したものではなかったという部分はよかったですけれど。 |
No.1230 | 6点 | クロイドン発12時30分 F・W・クロフツ |
(2020/12/03 23:32登録) 凡人探偵の創始者による、凡人犯人の殺人物語。 しかし犯人が伯父に殺意を抱き、殺人計画を練っていく部分には、探偵が少しずつながら着実に捜査を進めていく過程ほどのおもしろさはありません。同じ本格派巨匠でもクリスティー、クイーン、カー、セイヤーズ等だと、もっと犯罪小説的な緊迫感も出せたでしょうが、クロフツの淡々とした平易な文章では、のんびり感が先立ちます。でもまあ、これはこれでいいでしょう。 クロフツ初の倒叙長編として有名ですが、むしろ真犯人である被告人の視点から、有罪判決を受けるまでを描いた法廷ミステリでもあるという点が新鮮ではないかと思われます。70ページほどの裁判シーンはさすがにおもしろいのですが、検察側の主張が少々根拠薄弱で、たとえ有罪にならなくてももう一つの殺人の証拠は十分あったという言い訳が後から付くのは、フィクションの構成としては不満です。 |
No.1229 | 5点 | レティシア・カーベリーの事件簿 M・R・ラインハート |
(2020/11/28 13:01登録) ティッシュ(レティシアの愛称)・シリーズの第1作で、3編が収められています。ティッシュの他にアギーと語り手のリジーのオールドミス・トリオが巻き起こす大騒ぎのユーモアが持ち味。 キャロリン・G・ハートの『ミステリ講座の殺人』の中では、ミステリじゃないと書かれていた本シリーズですが、最初に収められた約150ページもある『シャンデリアに吊された遺体』は、病院でのタイトルどおりの不思議な事件に始まり、殺人まで起こるという筋で、パズラーでこそありませんが間違いなくミステリです。 他の50ページぐらいの2編は、どちらも若い人の恋の手助けを結局3人がすることになるコメディで、とんでもないことは次々起こっても、確かにミステリとは呼べません。 前述ハート作に登場してアニーを悩ませる義母たち3人組は、ティッシュのトリオを意識しているんでしょうね。 |
No.1228 | 6点 | 地獄の道化師 江戸川乱歩 |
(2020/11/25 23:39登録) 長めの中編、あるいは短めの長編という長さの本作は、石膏像の中から死体が発見されるという乱歩らしい発端ですが、偶然踏切での事故が起こらなかったら犯人はどうするつもりだったのか、少々疑問はあります。もちろんなんとかして死体が発見されるようにできなくはありませんが。 その後もいかにも乱歩らしい展開は続きますが、全体としては皆さん書かれているとおり、謎解き的興味の強い、犯人の意外性を工夫した作品に仕上がっています。ただあい子が誘拐されるシーンについては、犯人はあい子に道化師の扮装をしていない顔を見せ、会話もしているように書かれているのは問題ありで、これも説明がつかなくはないのですが、明智の推理だけでははっきりしません。 最初の事件の死体の偶然要素については、その偶然があったからこそ、犯人はこんな計画を立てたわけだとは思うのですが、それでもいくらなんでもという気はします。 |
No.1227 | 7点 | マッキントッシュの男 デズモンド・バグリイ |
(2020/11/23 23:13登録) タイトルはアップル・コンピューターとは無関係で、登場人物の名前です。 このタイトルで検索してみると、出てくるのはほとんどジョン・ヒューストン監督、ポール・ニューマン主演の映画ばかりです。小説原題が "The Freedom Trap" なのに対し、映画は原題も "The Mackintosh Man"。有名監督・俳優の映画ですが、映画サイトの投稿レビューではあまり評判がよくありません。わけがわからない、説明不足だという意見が多いのですが、まあもっともだと思えます。原作で半分近いあたりでのどんでん返しには驚かされ、最初の方を読み返してみたくなったのですが、そんな叙述トリック系の仕掛けは、映画の場合拒否反応を引き起こす可能性の方が高いでしょう。読了後確認してみたところ、筆が滑ったと思われる個所もありますが、概ねフェアプレイが守られていました。 ラストは映画よりも原作の方が、はるかに派手なスペクタクル・シーンで締めくくってくれます。 |
No.1226 | 7点 | 名無しのヒル シェイマス・スミス |
(2020/11/16 23:15登録) 「名無しの探偵」なんかじゃないんですから、明らかに矛盾した邦題です。「おれ」ことマイケル・ヒルが冒頭で、「名前は?」と訊かれて「自分のケツでも掘ってろ」と答えたことを元にしているんでしょうけれど。原題の意味は「モグラの檻」です。なお、作者のファースト・ネームは Seamus ですから、シェイマス賞のようなShの発音ではないはず。 前2作は未読ですが、かなり過激な犯罪小説だったようです。しかし本作は「獄中青春小説」と宣伝され、巻末解説には「広義のミステリとも言い難い」とも書かれています。じゃあなぜミステリ文庫で出版されたのだと言いたくもなりますが。実際のところ、アイルランド人である作者の自伝的な作品だそうで、当然作者も収容所生活を送ったことがあるのでしょう。まともな裁判もなく入れられた拘置所でも監獄でもない捕虜収容所でのひどい生活が、ユーモアも交えた語り口で描きあげられていて、読みごたえがあります。 |
No.1225 | 5点 | ローズガーデン 桐野夏生 |
(2020/11/13 23:14登録) 4編を収めたミロシリーズの中短編集ですが、ハードボイルドらしいというと、中国系やくざもからむ『独りにしないで』ぐらいのものです。この作品は、ミロに調査依頼をしてきた男(ミロは依頼を断ります)が殺され、中心となる謎はその動機という話です。 冒頭の表題作は、ハードボイルドどころかそもそも全くミステリではありません。シリーズ番外編とでもいうか、ミロの夫である河合博夫の視点から書かれたものです。彼が仕事で赴任しているインドネシアの川を遡りながら、高校時代ミロと出会ったころから一緒に生活し始めるまでを回想していくというだけの話ですが、一番気に入りました。表題はミロの家の荒れるままに放置された庭のこと。 一つだけ短い『漂う魂』はミロの住むマンションで起きた幽霊騒ぎの顛末。最後の『愛のトンネル』は雑誌発表時の『天使のような私の娘』を改題したそうですが、これは元題の方がよかったように思えました。 |
No.1224 | 6点 | 殺意 ビル・プロンジーニ |
(2020/11/10 23:49登録) この名無しの探偵シリーズ第3作は、邦題が原題の意味とは異なるものになる最初の作品です。本作の原題は “Undercurrent”。第9章の終りに「目に映る一連の事件の下に、黒々とした底流が深く、速く流れている。」という文があり、その後も「底流」という言葉は何度か繰り返されます。 巻末解説によれば、プロンジーニ自身気に入っている作品らしいですが、最初のうちは夫の浮気調査という平凡な感じです。しかし尾行していた男がモーテルで殺されてからは、おもしろくなってきます。以前に読んだ後の『脅迫』でも登場することになる自称三文文士のラッセル・ダンサーが20年近く前に書いた犯罪小説が、事件の手がかりになるところは、パルプ・マガジンのコレクターである名無しの探偵ならではの着眼点でしょう。 真相解明に直接結びつく手がかりは、よくあるパターンですが、決着の付け方も含め、悪くありません。 |
No.1223 | 6点 | ミステリ講座の殺人 キャロリン・G・ハート |
(2020/11/07 08:48登録) この作家は初めてですが、ミステリ・マニアによるマニアのための作品というか。それも、日本のように謎をやたら複雑にするとかではなく、ああ、あの作品知ってる知ってるという知識タイプです。作中で言及される作者、作品の数は、ウィムジイ卿の古典文学引用など問題にならないほど膨大。巻末には150件を超える言及作品等ガイドが付いています。ただ、英米作品に限られていて、他の国はルパンさえないのが不満かな。最初の方に出てくる、ミステリ書店店主のアニーが客に対して行う懸賞クイズの5枚の絵が表す作品については、どれも未読でした。 アニーが非常勤でミステリ講座を担当することになった大学での事件は、謎解き的には、鮮やかな決着を求めるならこれくらいかなと思っていたとおりのもので、たいしたことはありません。でもラインハートをもう少し読んでみたいという気にさせてくれたことで、1点おまけ。 |
No.1222 | 7点 | 夜の光 坂木司 |
(2020/11/01 23:05登録) 高校で天文部に所属する4人の生徒たちそれぞれの視点から一人称形式で書かれた連作短編集です。でも5編あるので、最後はひょっとしたら顧問の田代先生の話かとも思ったのですが、違っていました。 第1話『季節外れの光』は「日常の謎」系らしい作品で、続く『スペシャル』も、そんな面倒なことするかと思える暗号小説ですが、第3話以降は謎解き要素がだんだん希薄になってきて、最後の『それだけのこと』は全くミステリではありません。そもそも第1話から高校生の悩みがていねいに描かれていたのですが、各人の家庭問題と4人の奇妙な絆こそが、この連作のテーマであったことが、最後には明瞭に伝わってくる構成になっています。評価はそんな小説としてのもので、ジャンルも青春ミステリにしました。 謎解き的には、第3話『片道切符のハニー』が、シンプルながら悪くないと思いました。 |
No.1221 | 7点 | キャサリン・カーの終わりなき旅 トマス・H・クック |
(2020/10/30 23:19登録) トマス・H・クックの邦題に「記憶」がついた作品群は、日本で勝手にシリーズみたいにしただけで、原題はそれぞれ全く違ったものでしたが、2009年発表の本作から2013年の『サンドリーヌ裁判』までの5作は、原題もすべて人名が付いたものになっています。 そんな、「人名シリーズ」第1作は、3重の入れ子構造になった、その意味では技巧的な作品です。前作『沼地の記憶』では技巧派ぶりがわざとらしい感じがしたのでしたが、本作は読み終えてみると納得のいくものになっていました。語り手ジョージ・ゲイツの話の聞き役であるマヤワティ氏がなぜ登場したのかは、最後に暗示されることになります。まあ、「謎」の合理的解決という意味でのミステリと言えるのかと疑問に思えはするのですが、このような小説も決して嫌いではありません。 早老症の12歳の少女アリス・バロウズが、実に愛らしく描かれています。 |
No.1220 | 5点 | ロマンス作家「殺人」事件 エリザベス・ピーターズ |
(2020/10/23 23:46登録) エリザベス・ピーターズは、日本ではほとんどこのジャクリーン・カービー・シリーズ3冊のみが知られているようですが、本作を読んでみると、この作者本来の代表的シリーズである歴史ミステリが邦訳されたのは第1作のみで、敬遠されてしまっているのもわからないではない気がしました。巻末解説に「ユーモア本格ミステリー」と分類されていますが、コージー系のほのぼのではなく現代的なかなり辛辣なユーモアで、このスタイルによる時代物ってどんな感じになるんだろうと不安を感じてしまいます。まあ、シリーズごとにがらりと雰囲気を変えているのかもしれませんが。先ほど現代的と書きましたが、翻訳文は当時の流行語をかなり取り入れたもので、かえって古びてしまっているようなところもあります。 謎解き的には殺人方法と動機のアイディアは小粒ですし、解明には専門的知識が必要ですが、これくらいでいいと思いました。 |
No.1219 | 5点 | 死神の座 高木彬光 |
(2020/10/20 23:24登録) 神津恭介シリーズの中では、たぶん最長の作品です。それにもかかわらず、神津恭介は最後の推理部分で「僕の手がけた事件の中では、これはそれほど難解な事件ではなかったはずです」と語っています。ただ続けて彼が言うとおり、犯人以外の登場人物たちにも隠している秘密があり、それが事件を厄介なものにしているのです。 ずいぶん前に読んだことがあるのですが、覚えていたのは、神津恭介が犯人の正体に確信を持てたという推理の部分だけでした。それも、なんだ、これだけの手がかりかと不満を持ったからだったのです。しかし再読してみると、推理はたいしたことがなく、説明不足な点もありますが、話は意外に楽しめました。占星学がテーマとして扱われていますが、占いには詳しい作者らしい趣向でしょう。しかし、最初の占星学によるという予言については、途中で一応意外な事情が明かされますが、さすがに偶然すぎます。 |
No.1218 | 7点 | 射撃の報酬5万ドル ハドリー・チェイス |
(2020/10/13 23:48登録) 1970年発表ですから、チェイスとしては後期の作品で、邦訳作はこの後翌年の『切り札の男』があるだけのようです。そんなせいもあるのかもしれません、射撃学校を営むベンスンが南米の富豪の息子にライフル射撃の訓練をする前半は、チェイスとは思えないくらいじっくりした展開で、文章はともかく話はディック・フランシスあたりにも近いと思えるほどです。 それが後半に入ると、報酬が5万ドルから20万ドルにはねあがることになり、チェイスらしい、次から次へと意外なことが起こる目まぐるしい展開になってきます。特にクライマックスのどんでん返しには、驚かされましたが、これが意外でありながら、さほど不自然さを感じさせません。 ただ、最初の方で登場したパラダイス・シティ警察のレプスキ刑事が、事件にどう絡んでくるのだろうと期待していたのですが、その点だけは肩すかしでした。 |
No.1217 | 6点 | 鏡の国の戦争 ジョン・ル・カレ |
(2020/10/10 12:41登録) 『寒い国から帰ってきたスパイ』の次に書かれたル・カレの4作目には、引き続きスマイリーが脇役として登場します。ただし、前作ではスマイリーは事件の黒幕だったのに対し、本作ではほとんど傍観者的な立場です。それが最後には、主役たちが集まっているところに首を突っ込んできて、彼等に容赦のない現実をつきつける役割。この人、本作で「職を辞しては、また復帰するといった行動をくりかえしておる」と言われています。なるほど、デビュー作『使者にかかってきた』の後、彼はやはり一度辞任していたのですね。 で、その本筋に関わるのは、スマイリーの所属する外務省諜報部とは、いわばライバル関係にある陸軍情報局の連中です。最初の方に彼等の建物について「甘美な時代錯誤」という言葉が出てきますが、そのような感情を引きずっているがための悲惨な結末のブラック・コメディとも呼べそうな作品になっています。 |
No.1216 | 5点 | ストレンジ・シティ ローラ・リップマン |
(2020/10/06 23:10登録) テス・モナハンのシリーズ第6作で、彼女もだいぶ私立探偵らしくなってきています。といっても、以前には第2作を読んだだけなので、その間の推移はわからないのですが。それでも同業者から、「我流のアマチュア探偵さん」と言われたりもして、どことなく頼りないところは残っています。 最初の殺人事件は、シリーズの舞台ボルチモアで死去したE・A・ポーの墓所で、ポーの誕生日1月19日に起こります。ポーの遺品らしき品も出てきたりしますが、書き方の問題でしょうか、それほど楽しくありません。 でもまあ、犯人は意外です。しかしその人物が犯人だったことで、すべてすっきり説明がつくという感じがあまりしません。テスが真相に気づく理由も、あいまいです。ストーリーも文章も、なんとなくごちゃごちゃした印象があって、原則的には切れの良さを身上とするハードボイルドとは相いれないところがあると思います。 |