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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1505件

プロフィール| 書評

No.1225 5点 ローズガーデン
桐野夏生
(2020/11/13 23:14登録)
4編を収めたミロシリーズの中短編集ですが、ハードボイルドらしいというと、中国系やくざもからむ『独りにしないで』ぐらいのものです。この作品は、ミロに調査依頼をしてきた男(ミロは依頼を断ります)が殺され、中心となる謎はその動機という話です。
冒頭の表題作は、ハードボイルドどころかそもそも全くミステリではありません。シリーズ番外編とでもいうか、ミロの夫である河合博夫の視点から書かれたものです。彼が仕事で赴任しているインドネシアの川を遡りながら、高校時代ミロと出会ったころから一緒に生活し始めるまでを回想していくというだけの話ですが、一番気に入りました。表題はミロの家の荒れるままに放置された庭のこと。
一つだけ短い『漂う魂』はミロの住むマンションで起きた幽霊騒ぎの顛末。最後の『愛のトンネル』は雑誌発表時の『天使のような私の娘』を改題したそうですが、これは元題の方がよかったように思えました。


No.1224 6点 殺意
ビル・プロンジーニ
(2020/11/10 23:49登録)
この名無しの探偵シリーズ第3作は、邦題が原題の意味とは異なるものになる最初の作品です。本作の原題は “Undercurrent”。第9章の終りに「目に映る一連の事件の下に、黒々とした底流が深く、速く流れている。」という文があり、その後も「底流」という言葉は何度か繰り返されます。
巻末解説によれば、プロンジーニ自身気に入っている作品らしいですが、最初のうちは夫の浮気調査という平凡な感じです。しかし尾行していた男がモーテルで殺されてからは、おもしろくなってきます。以前に読んだ後の『脅迫』でも登場することになる自称三文文士のラッセル・ダンサーが20年近く前に書いた犯罪小説が、事件の手がかりになるところは、パルプ・マガジンのコレクターである名無しの探偵ならではの着眼点でしょう。
真相解明に直接結びつく手がかりは、よくあるパターンですが、決着の付け方も含め、悪くありません。


No.1223 6点 ミステリ講座の殺人
キャロリン・G・ハート
(2020/11/07 08:48登録)
この作家は初めてですが、ミステリ・マニアによるマニアのための作品というか。それも、日本のように謎をやたら複雑にするとかではなく、ああ、あの作品知ってる知ってるという知識タイプです。作中で言及される作者、作品の数は、ウィムジイ卿の古典文学引用など問題にならないほど膨大。巻末には150件を超える言及作品等ガイドが付いています。ただ、英米作品に限られていて、他の国はルパンさえないのが不満かな。最初の方に出てくる、ミステリ書店店主のアニーが客に対して行う懸賞クイズの5枚の絵が表す作品については、どれも未読でした。
アニーが非常勤でミステリ講座を担当することになった大学での事件は、謎解き的には、鮮やかな決着を求めるならこれくらいかなと思っていたとおりのもので、たいしたことはありません。でもラインハートをもう少し読んでみたいという気にさせてくれたことで、1点おまけ。


No.1222 7点 夜の光
坂木司
(2020/11/01 23:05登録)
高校で天文部に所属する4人の生徒たちそれぞれの視点から一人称形式で書かれた連作短編集です。でも5編あるので、最後はひょっとしたら顧問の田代先生の話かとも思ったのですが、違っていました。
第1話『季節外れの光』は「日常の謎」系らしい作品で、続く『スペシャル』も、そんな面倒なことするかと思える暗号小説ですが、第3話以降は謎解き要素がだんだん希薄になってきて、最後の『それだけのこと』は全くミステリではありません。そもそも第1話から高校生の悩みがていねいに描かれていたのですが、各人の家庭問題と4人の奇妙な絆こそが、この連作のテーマであったことが、最後には明瞭に伝わってくる構成になっています。評価はそんな小説としてのもので、ジャンルも青春ミステリにしました。
謎解き的には、第3話『片道切符のハニー』が、シンプルながら悪くないと思いました。


No.1221 7点 キャサリン・カーの終わりなき旅
トマス・H・クック
(2020/10/30 23:19登録)
トマス・H・クックの邦題に「記憶」がついた作品群は、日本で勝手にシリーズみたいにしただけで、原題はそれぞれ全く違ったものでしたが、2009年発表の本作から2013年の『サンドリーヌ裁判』までの5作は、原題もすべて人名が付いたものになっています。
そんな、「人名シリーズ」第1作は、3重の入れ子構造になった、その意味では技巧的な作品です。前作『沼地の記憶』では技巧派ぶりがわざとらしい感じがしたのでしたが、本作は読み終えてみると納得のいくものになっていました。語り手ジョージ・ゲイツの話の聞き役であるマヤワティ氏がなぜ登場したのかは、最後に暗示されることになります。まあ、「謎」の合理的解決という意味でのミステリと言えるのかと疑問に思えはするのですが、このような小説も決して嫌いではありません。
早老症の12歳の少女アリス・バロウズが、実に愛らしく描かれています。


No.1220 5点 ロマンス作家「殺人」事件
エリザベス・ピーターズ
(2020/10/23 23:46登録)
エリザベス・ピーターズは、日本ではほとんどこのジャクリーン・カービー・シリーズ3冊のみが知られているようですが、本作を読んでみると、この作者本来の代表的シリーズである歴史ミステリが邦訳されたのは第1作のみで、敬遠されてしまっているのもわからないではない気がしました。巻末解説に「ユーモア本格ミステリー」と分類されていますが、コージー系のほのぼのではなく現代的なかなり辛辣なユーモアで、このスタイルによる時代物ってどんな感じになるんだろうと不安を感じてしまいます。まあ、シリーズごとにがらりと雰囲気を変えているのかもしれませんが。先ほど現代的と書きましたが、翻訳文は当時の流行語をかなり取り入れたもので、かえって古びてしまっているようなところもあります。
謎解き的には殺人方法と動機のアイディアは小粒ですし、解明には専門的知識が必要ですが、これくらいでいいと思いました。


No.1219 5点 死神の座
高木彬光
(2020/10/20 23:24登録)
神津恭介シリーズの中では、たぶん最長の作品です。それにもかかわらず、神津恭介は最後の推理部分で「僕の手がけた事件の中では、これはそれほど難解な事件ではなかったはずです」と語っています。ただ続けて彼が言うとおり、犯人以外の登場人物たちにも隠している秘密があり、それが事件を厄介なものにしているのです。
ずいぶん前に読んだことがあるのですが、覚えていたのは、神津恭介が犯人の正体に確信を持てたという推理の部分だけでした。それも、なんだ、これだけの手がかりかと不満を持ったからだったのです。しかし再読してみると、推理はたいしたことがなく、説明不足な点もありますが、話は意外に楽しめました。占星学がテーマとして扱われていますが、占いには詳しい作者らしい趣向でしょう。しかし、最初の占星学によるという予言については、途中で一応意外な事情が明かされますが、さすがに偶然すぎます。


No.1218 7点 射撃の報酬5万ドル
ハドリー・チェイス
(2020/10/13 23:48登録)
1970年発表ですから、チェイスとしては後期の作品で、邦訳作はこの後翌年の『切り札の男』があるだけのようです。そんなせいもあるのかもしれません、射撃学校を営むベンスンが南米の富豪の息子にライフル射撃の訓練をする前半は、チェイスとは思えないくらいじっくりした展開で、文章はともかく話はディック・フランシスあたりにも近いと思えるほどです。
それが後半に入ると、報酬が5万ドルから20万ドルにはねあがることになり、チェイスらしい、次から次へと意外なことが起こる目まぐるしい展開になってきます。特にクライマックスのどんでん返しには、驚かされましたが、これが意外でありながら、さほど不自然さを感じさせません。
ただ、最初の方で登場したパラダイス・シティ警察のレプスキ刑事が、事件にどう絡んでくるのだろうと期待していたのですが、その点だけは肩すかしでした。


No.1217 6点 鏡の国の戦争
ジョン・ル・カレ
(2020/10/10 12:41登録)
『寒い国から帰ってきたスパイ』の次に書かれたル・カレの4作目には、引き続きスマイリーが脇役として登場します。ただし、前作ではスマイリーは事件の黒幕だったのに対し、本作ではほとんど傍観者的な立場です。それが最後には、主役たちが集まっているところに首を突っ込んできて、彼等に容赦のない現実をつきつける役割。この人、本作で「職を辞しては、また復帰するといった行動をくりかえしておる」と言われています。なるほど、デビュー作『使者にかかってきた』の後、彼はやはり一度辞任していたのですね。
で、その本筋に関わるのは、スマイリーの所属する外務省諜報部とは、いわばライバル関係にある陸軍情報局の連中です。最初の方に彼等の建物について「甘美な時代錯誤」という言葉が出てきますが、そのような感情を引きずっているがための悲惨な結末のブラック・コメディとも呼べそうな作品になっています。


No.1216 5点 ストレンジ・シティ
ローラ・リップマン
(2020/10/06 23:10登録)
テス・モナハンのシリーズ第6作で、彼女もだいぶ私立探偵らしくなってきています。といっても、以前には第2作を読んだだけなので、その間の推移はわからないのですが。それでも同業者から、「我流のアマチュア探偵さん」と言われたりもして、どことなく頼りないところは残っています。
最初の殺人事件は、シリーズの舞台ボルチモアで死去したE・A・ポーの墓所で、ポーの誕生日1月19日に起こります。ポーの遺品らしき品も出てきたりしますが、書き方の問題でしょうか、それほど楽しくありません。
でもまあ、犯人は意外です。しかしその人物が犯人だったことで、すべてすっきり説明がつくという感じがあまりしません。テスが真相に気づく理由も、あいまいです。ストーリーも文章も、なんとなくごちゃごちゃした印象があって、原則的には切れの良さを身上とするハードボイルドとは相いれないところがあると思います。


No.1215 5点 幽鬼の塔
江戸川乱歩
(2020/10/03 14:28登録)
前に読んだ鯨統一郎の『マグレと都市伝説』がメグレ警視とは全く無関係だったので、今度は間違いなくシムノン関連の作品をということで、本作を選んでみました。原作の『サン・フォリアン寺院の首吊人』はメグレものの中でも特に好きな作品です。自作解説には、「翻案というほど原作に近い筋ではないので、シムノンに断ることはしなかった」と書かれていますが、確かに微妙なところで、著作権にうるさくなった現代ならともかく、1940年頃には原作者の許諾を得ずに発表されてもおかしくなかったでしょう。
原作と共通するのは冒頭と最後、つまり提出される謎とその解決だけで、そこにもかなり変更が加えられています。本作では最初の自殺から「首吊り」モチーフが現れますし(原作は拳銃自殺)、過去の事件の動機も全く違います。中間部分の乱歩らしい扇情的な展開は原作とはまるで別物で、ちょっとバランスが悪いように思えました。


No.1214 7点 ヌヌ 完璧なベビーシッター
レイラ・スリマニ
(2020/09/27 14:46登録)
ゴンクール賞はフランスで最も権威があるとされる文学賞で、マルローやボーヴォワール等の有名作家も受賞していますが、その賞を2016年に受賞したのが本作です。
と言うわけですから、サスペンスフルなフレンチ・ミステリを期待してはいけません。「ヌヌ」とはフランス語でベビーシッターを意味する子ども言葉であることは、巻頭の訳者注にも書かれています。nounou って、日本語だと「ババ」とかみないな感覚でしょう。
この主役ヌヌの名前はルイーズ。彼女が子守りしていた二人の子供を殺し、自殺しようとした事件の簡潔な説明で、小説は始まり、後はそこに至る過程です。ルイーズの動機は、今ひとつあいまいなところがかえっていい味わいです。ただ最初の方で、ヌヌと弁護士の仕事を始める雇い主の奥さんとは、ほぼ同額の給料をかせぐことになる、という部分があり、ルイーズはその給料をどう使っていたのか、それだけは疑問でした。


No.1213 6点 ハムレット殺人事件
芦原すなお
(2020/09/24 23:20登録)
この作家は『青春デンデケデケデケ』さえ読んだことがなかったのですが、気になって手に取ってみました。
『ハムレット』の最終リハーサルで主要俳優たちが全員、実質演出も担当した大女優の邸宅で、このシェイクスピアの戯曲と同じような状態で死んでいるのが発見されるという事件で、さらに各章見出しも『ハムレット』からの引用という、ハムレット尽くしの作品です。事件担当の遠藤警部への説明という形で、『ハムレット』をはっきり知らない人にも、粗筋がわかるように説明されています。実際のところ、芦原すなおのハムレット論とでも呼びたいような一面も持っているのです。
遠藤警部の性格設定やセリフなど、ユーモアミステリ的ですが、真相は元ネタと同じく悲劇的ではあります。その真相解明は推理ではなく戯曲形式による状況説明で、遠藤警部の言うように、「たしかにひとつの解釈ではある」点、やはり釈然とはしないのですが。


No.1212 7点 誤殺
リンダ・フェアスタイン
(2020/09/21 17:14登録)
自身がマンハッタンの検察官でもある作者による、性犯罪担当の女性検察官アレックス(アレクサンドラ)・クーパーのシリーズ第1作です。アレックスの一人称形式で語られるのは、コーンウェルのスカーペッタ検屍官シリーズの手法を意識して取り入れたのでしょう。しかし、作品構成はこの第1作から完全なモジュラー型で、殺人事件の他に、連続強姦事件の捜査や別の強姦事件の裁判など、検察庁が扱う様々な事件も並行して語られます。
それでも第1作ということで、メインになるのはアレックス個人に関わるもので、友人の有名女優が、アレックスの別荘近くで銃殺される事件です。しかも頭が吹き飛ばされていたため、最初は被害者はアレックスだと誤解され、新聞にもそう報道されてしまうのです。邦題の意味はそのことで、誤殺なのか、女優を狙ったものなのかが問題になります。結末は普通に意外な犯人が明らかになるものになっていました。


No.1211 6点 約束の地
ロバート・B・パーカー
(2020/09/18 22:41登録)
エドガー賞を受賞したホークが初登場する本作は、これまで読んできた初期パーカー4作の中でも最も説教くさい作品でした。スペンサーは元来おしゃべりなわけですが、依頼人やその妻(失踪していたのを、スペンサーが簡単に見つけ出します)に対して、あれこれアドバイスしていく。まあ適切な助言とは言えるのですが、それにしても小うるさい。
「あなたは手荒い人のように見えるけど、手荒いことはしない人だと思うわ」と言われて、「タフながら、いとも優しい」と返しているのは苦笑ものですが、明らかなパクリ(引用?)を平然と書いちゃうのがパーカーなんでしょう。そういった口調がさほど気にならなければ、ストーリーは最も面白くできていると思いました。
それでも、同世代の他のハードボイルド系作家に比べるとプロットはごくシンプルで、スペンサーの計略は、失敗するのではという危機感もなく、すんなり成功してしまいます。


No.1210 3点 危険な水系
斎藤栄
(2020/09/14 00:24登録)
斎藤栄の中でもかなり初期の作品で、同じ1971年には代表作の一つと言っていい『香港殺人旅行』も書かれています。しかし本作は、そのような厳格な謎解きものではありませんでした。事件の骨格だけ取り出してみれば、公害をまき散らす企業とそれに対する反対運動を中心に据えて、最後に意外な犯人を明かしてみせる作品です。ということで一応社会派に分類はしたのですが。
普通なら社会派テーマをどこまで掘り下げ、また犯人の意外性をいかに効果的に演出するかに工夫をこらすところでしょうが、本作はそこに自衛隊と企業との癒着も取り込むことによって、妙にリアリティを欠いたものになっているのです。無理やりな偶然によって構成されてしまった密室は、原理的にはすぐ指摘されるダミー解決も粗雑ですし、実際の方法はもっとあほらしいというか、現実的な構造が全く理解できません。また最後の停電も全く意味不明です。


No.1209 8点 ナイン・テイラーズ
ドロシー・L・セイヤーズ
(2020/09/09 23:13登録)
名作との誉れ高い本作を、やっと読みました。これほど名の知れた作品にもかかわらず、創元社から1998年に新訳が出るまでは、かなり長い期間手に入りにくい状態が続いていたことには、驚かされます。創元社もセイヤーズは1990年台になって律義に第1作『誰の死体?』から順番に翻訳していっているので、とりあえず有名作だけは読んでおきたいという人はそれだけ待たされたことになります。
で、その内容ですが、個人的には死体が発見される前の「巻の一」の部分が、何と言っても楽しめた作品でした。その間にも、過去のエメラルド盗難事件については語られているのですが。その後「巻の二」で死体が墓地で発見されてからは、多少退屈になってきます。「巻の四」の最終的解決まで、冒頭シーンからだと約1年かかるのもその理由でしょう。
ところで、殺したのは誰かという点については、クリスティーのほぼ同時期の作品と重なると思うんですけど。


No.1208 6点 ポジオリ教授の事件簿
T・S・ストリブリング
(2020/09/05 08:08登録)
巻末解説によると、エラリイ・クイーンの求めに応じて、1945年に再開されたポジオリ教授シリーズの第3期短編群は23編を数え、その内15編を選んだ "Best Dr. Poggioli Detective Stories" があり、本書はさらにそこから11編を選んだものだそうです。4編をカットする必要もなかったように思えますが。
山口雅也氏は「《向こう側》への希求」と題してこのシリーズを論じていますし、カバー作品紹介には「ミステリーのもう一つの可能性を追求した」と書かれていますが、本作を読んだ限りではそれほどのものかなと思いました。ホームズ由来のスタイルを採っているにもかかわらず異色な感じがすることは確かですが、いわゆる「奇妙な味」の短編やシュールレアリズム系小説にそれなりに親しんでいると、特に驚くほどでもありません。それでも独特な妙な味わいがあることは確かで、ポジオリ教授の説得力のない推理も楽しめます。


No.1207 6点 アリバイ特急+-の交叉
深谷忠記
(2020/09/02 20:01登録)
タイトルの「+-」は「じゅういち」ではなく「プラス・マイナス」です。荘と美緒シリーズの中でも初期、このタイプのタイトル最初の作品。
講談社NOVELSカバーには「書下ろし大トリック・アリバイ崩し」なんて謳ってありますが、容疑者がすぐに特定されて、後はアリバイをいかに崩していくかに集中した作品ではありません。むしろ動機がはっきりせず、前半は宮崎県日向市と札幌で起こった二つの殺人事件の関連性を探っていく展開です。読者には、プロローグで関連性を明かしているのですが、それでもさらに一ひねり加えています。
第3の殺人が東京で起こり、全体の2/3を過ぎたあたりで主張されるのが、この第3の殺人のアリバイ。実は以前に読んだ梓林太郎の某作に同じアイディアを利用したものがあるのですが、発表は本作の方が数年早く、しかもアリバイにはそれ以外の工夫も取り込み、はるかに複雑にできています。


No.1206 6点 汚れなき女
フランセス・ファイフィールド
(2020/08/27 23:25登録)
公訴官弁護士ヘレン・ウェスト・シリーズの第5作。 原題は "A Clear Conscience" 、最後のページに「心にやましさがない者」という言葉が出てきます。邦題もそれっぽいイメージの言葉に、シリーズ邦題のみ共通の「女」をつけたのでしょうが、内容にはそぐわないように思います。
この作家は実際に読んでみると感心させられるのですが、他の作品も読んでみたいという気にはなかなかなれません。不快感を伴う重さ、暗さ(ユーモアもないわけではないのですが)がその原因なのかなとは思うのですが、要するに好みの問題でしょう。
前作『逃げられない女』でもそうでしたが、家庭内暴力という、人に不快感を与えやすいテーマを扱った今回も、ヘレンは探偵役ではありません。まあ最後の最後に殺人事件の真相に気づくことにはなるのですが、それは捜査や推理によるものではありません。それに読者にはその直前、犯人の視点から真相を明かしています。また終わり方がなんとも微妙なのです。

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