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ミステリの祭典

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林の中の家
仁木兄妹の事件簿

作家 仁木悦子
出版日1959年01月
平均点5.20点
書評数10人

No.10 5点 文生
(2021/08/25 21:09登録)
デビュー作である『猫は知っていた』よりこなれた感じで読みやすく、伏線の張り方にも進歩の跡がみられるものの、それ以上のプラスアルファの面白さが感じられず、全体としては凡作の域を出ていません。

No.9 5点
(2020/12/19 07:26登録)
登場人物が多くてごちゃごちゃした印象があるとか、偶然が多いとかいう意見はもっともだと思われる作品でした。
最初に起こる殺人事件に、細かいものまで入れるといったいいくつの偶然が重なっているのか、ざっと数えただけでも7つあります。これら偶然がすべて広い意味では登場人物の行動に関係するもので、天候など人知の及ばない偶然はなしというのですから、いくらなんでもという気はします。さらに幼児誘拐まで起こり、それで話を面白くしてはいるのですが、メインの事件とは基本的には無関係です。そしてその誘拐事件の真相解明部分で明かされるある人物の意外な正体には、同じ町にいるなんてあり得ないだろうと思ってしまいました。
伏線がいろいろ張ってあったことは最後に説明されるのですが、直接真犯人を示す手がかりは、少々弱いと思います。全体としてみれば、そんなに悪くないのですが…

No.8 6点 人並由真
(2020/12/03 05:48登録)
(ネタバレなし)
 アマチュア探偵の兄妹、仁木雄太郎と悦子は、ヨーロッパに長期旅行中の水原夫妻の屋敷に、住み込み留守番のアルバイトをしていた。ある夜、同家にかかってきた電話。それは林の中にある、放送作家、近越常夫の邸宅で人が殺されたという知らせだった。早速、同家に向かう兄妹は、そこで女性の死体を発見するが……。

 マイ・ミステリ・ライフにおいて<大昔に読んだかな、まだ未読だったかな? 自分でもわからない>シリーズの一冊(笑)。
 評者の場合、こういうものは大抵、読んでいない。
 ……うん、やっぱり、完全に未読であった(汗)。

 そっちの現物が見つかれば、挿し絵が豊富で人物一覧もついている(おまけに関連の書誌記事や評論も読める)「別冊幻影城」版で楽しもうと思ったが、しばらく家の中を探しても出てこないので、大昔に古書で買った1959年の元版で一読。
 ハイセンスな真鍋博の装丁(箱)はステキだが、本文には人物一覧も挿し絵もないのでちょっと不満。とはいえ、読んでいくうちに、元版での読書ならではのある種の風情は味わえたので、これはこれでよしとしよう。

 しかし登場人物が結構多め(名前がある人物だけで30人強、名前なしの者を加算すればさらに十人以上増える)なくせに、キャラの書き分けが全体的に平板。特に物語の前半は微妙に面倒くさい人物の配置もあいまって、読みにくさはかなりのものだった。キャラの印象が根付く前に次から次に登場人物を作中に放り込んでくる感じで、仁木悦子ってこんなに小説がヘタだったか? といささかゲンナリする。
 あと、くだんの前半はちっとも「林の中の家」のストーリーではなく「(中略)の家」の話じゃないかって。

 それでも後半、全33章のうち、ちょうど真ん中の第16章あたりから話に弾みがついて面白くなってくる。
 終盤の展開も部分的に読めてしまう箇所はいくつかあるが、全体の仕掛けの手数の多さ、そして何より(中略)な事件の構造が形成された経緯には、相応にシビれた。
『猫は知っていた』はあまり評価していないんだけど、こっちは最終的にはそれよりは好み。

 それでもってtider-tigerさんのおっしゃるように偶然が多い……というか、作品世界の広がりがせせこましいのは弱点だと思う。けれど、一方でこの作品の妙味はその辺の人間関係の狭さで成立した部分もあるような気もするので、ちょっとフクザツ(まあこの辺りは、あまり細かく言えないね)。

 こなれの悪いところ、力がこもったところ、それらこもごも合わせていかにも作者の初期作品といった印象。とにかく前半はちょっとキツイけれど、トータルでは、まあまあキライではない。

No.7 6点 tider-tiger
(2015/12/10 21:39登録)
長期不在のシャボテン愛好家宅にシャボテンの世話をするという条件で住み込むことになった仁木兄妹だったが、とある夜、悦子が奇妙な電話を受ける。悲鳴のような声、そして、電話の主は悦子の兄にすぐに来て欲しいと告げた。
かくして仁木兄弟はまたしても殺人事件に巻き込まれるのだった。

ポプラ文庫版で読んだのですが、この表紙絵でもさほど違和感なく読める文章を五十年も前に書いているのは驚きです。
肝腎の内容ですが、私のように作者の意図に逆らわず、素直に読んで素直に驚きたい読者には辛い構造だと思います。
通常のミステリは漫然と読んでいても徐々に容疑者が絞られてきて、犯人はこいつかなとイヤでも推測できます(でも、実はこっちだったとわかって驚くわけなんですが)。言うまでもなく作者がそのように誘導するからです。ところが、本作はそういう誘導があまり見られない。故に犯人を探しながら、細部を常に気にしながら読まないといつまで経っても容疑者の数が減らない。どいつもこいつも犯人に見える状態がいつまでも続いて疲れてしまいます。
ただ、これは良いところでもあると思います。誘導はせずとも細部に仕掛けはたくさん仕込んであるので、犯人を探しながら読む人には非常に骨のある、楽しめる作品でしょう。ある意味、これが正々堂々のミステリなのかも。
●●が犬を飼い始めた→それは夫との別居を決意したからだ、こういう細かくも納得のいくロジックの積み重ねで真相に迫っていくのは非常に良い。
読者を選ぶ作品だと思います。

気になった点
偶然と唐突が多い印象。
複雑な家庭、複雑な人間関係について書いているのだから駒になってしまっている人物が多数いるのはよろしくない。
途中とある事件が発生した際に当事者の意向で警察にさえそのことを隠したのに、仁木兄が独断で関係者に喋ってしまったのはどうかと思った。

No.6 2点 斎藤警部
(2015/11/12 23:17登録)
好きな筈の仁木さん代表作なんですけどね、これはダメでした。 薄い本なのに、やたら詰まった登場人物一覧表。ところがその人物の一人も我が感性に訴えて来なくてね。物語のピースらしきものは一杯詰め込まれてるんだけど、面白味というか、甘みが無い。組み合わせの妙を感じない。 ま彼女の作品は他にも一杯あるからドンマイ上等っすよ。

No.5 7点 nukkam
(2015/08/12 17:36登録)
(ネタバレなしです) 1959年発表の仁木兄妹シリーズ第2長編です。「猫は知っていた」(1957年)と比べると地味な作品で、登場人物も多いです(第17章で雄太郎が作成した捜査リストには16人の容疑者が!)。しかし謎解きは大変充実しており、決定力不足気味ながらもあちこちに伏線が張ってあって推理を堪能することができました。クレイグ・ライスの某作品を髣髴させるような家族ドラマ描写も素晴らしく、謎解き一辺倒にしていないのは同時代の本格派推理小説の中で明確な個性を確立していると思います。

No.4 5点
(2013/08/19 13:09登録)
本格ファンを唸らせる作品なのではと思います。
とにかく仕掛けがたっぷり。それら仕掛けをもとに最後に種々の事象が理由付けされ、収束していき、一件落着するという、本格ミステリーとしては絵に描いたような理想的なスタイルで描かれた作品です。
作品はひとことで云えば一族モノですが、どろどろ感をほとんど出さずに描かれていて、本格物らしからぬ、さっぱりとした印象を受けます。体型的にもユーモア溢れる仁木兄妹・探偵コンビのキャラクタによるものなのでしょう。

欠点は、容疑者の対象となる登場人物が多すぎること、(複数の事件が発生するとはいえ)地味なこと、そして謎解きが難問すぎること、でしょうか。ストーリーは面白くてたまらないということは決してありませんし、これほど地味で難解であれば、読者は謎解きには参加できないばかりか、小説としての面白さも見出せないかもしれません。
とはいえ、難解すぎる作品ほど血湧き肉踊るという本格ファンであれば、特段の問題もないでしょう。

No.3 4点 蟷螂の斧
(2012/03/13 17:59登録)
登場人物が多く、関係も複雑なので図を作らないと理解できませんでした。伏線は、かなりちりばめられているのですが、その内容は偶然が多く、ちょっと拍子抜けがしてしまいました。動機がイマイチなので読者にとっては意外な犯人となり、予想することはできないのでは?

No.2 6点 E-BANKER
(2011/12/31 16:06登録)
乱歩賞を受賞した「猫は知っていた」に続く作者の第2長編。
ポプラ社から出ている復刻版で読了。

~サボテンマニアの豪邸で留守を預かることになった仁木兄妹。ある日、深夜の電話で呼び出された2人は、有名劇作家の自宅で起きた殺人事件に巻き込まれてしまう。緻密に張り巡らされた伏線と鮮やかな推理、マイペースな植物学者の兄と、好奇心旺盛な妹の凸凹コンビが醸し出すユーモラスな雰囲気が、絶妙にブレンドされた本格ミステリー作品~

作者らしい実に丁寧なプロット&筆致。
まだまだ戦後の香りが残る「東京」の雰囲気が出ており、読んでて何となくほのぼのしてしまう・・・
ラストには関係者一堂を集めて、お決まりの「真犯人指摘」までやってくれるし、全体的には堂々たる本格ミステリーたる要件を備えている。
真犯人はちょっと予想外だったなぁ・・・

でもって、ここからはちょっとした苦言なのだが・・・
一言でいうと「詰め込み過ぎ」。
登場人物がかなり多いし、3つの異なる家族が入り乱れて登場し、それぞれに複雑な交友関係があるため、メモを丁寧に取っていかないと途中で混乱してくること必至。
主にはアリバイトリックなのだが、「偶然の要素」も複数登場しているので、これを読者がロジックのみで解き明かすのはちょっと難しいのではないか?
そのため、ラストの謎解き自体も相当に「力技」のように思えた。
ということで、前作(「猫は知っていた」)よりは落ちるという評価になる。
(昭和34年発表ということで、当時の何となくのんびりした時代の雰囲気が伝わってくる・・・)

No.1 6点 kanamori
(2010/06/14 18:50登録)
沈着冷静な安楽椅子型の兄・仁木雄太郎とあわて者で行動型の妹・悦子が探偵役を務めるシリーズ第2弾。
電話で呼び出された兄妹が、ある家で死体を発見するという発端で、オーソドックスなフーダニットですが、今作も何気ない描写に隠された伏線が最後にきれいに回収されます。
現在、乱歩賞のデビュー作以外は比較的手に入り難いシリーズ作ですが、いずれも端正な本格編で読みやすいのがいい。

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