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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1535件

プロフィール| 書評

No.1535 7点 永遠の闇に眠れ
メアリ・H・クラーク
(2026/02/15 13:34登録)
ミネソタ州田舎の冬、零下11度、平均風速40メートルという厳しい状況での探索、さらに小屋の中で上げられる「鋭い悲鳴」という強烈なインパクトのあるプロローグの後、ニューヨークの穏やかな画廊のシーンから始まる、サスペンスのツボを心得たメアリー・H・クラークらしい小説です。全編主人公ジェニーの視点から描かれた作品で、特に緊迫感があるわけでもない部分でも、彼女の心理の揺れに臨場感が溢れていて、本当にうまい作家だなと思わせられます。結局謎解き的には、犯人の正体も、その隠された秘密もありふれた真相なのですが、そのことが不満に思えない過程のつむぎ方が見事なのです。
プロローグはその真相が判明するシーンで、その後50ページほどを使って、判明した犯人との戦い、人質の救出が描かれることになるのですが、人質の部分に関しては、謎解き的な意味において今一つかなと感じました。


No.1534 7点 夜の海に瞑れ
香納諒一
(2026/02/11 17:59登録)
1992年発表当時「時よ夜の海に瞑れ」のタイトルだったものを、5年後に「時よ」を削った形にした作品です。瞑る主体が「時」だったものを、あいまいにしているわけです。その「時」とは、本作の裏主役とも言える人物の過去の日々と考えられるのですが、その裏主人公自身とも解釈できるように改変したということでしょうか。クライマックスの銃撃等の後、その人物が過去を語る背景は、「(庭の)先に広がる夜の海」なのですが、タイトルとしてはどっちがよかったかなあと思えます。物語はその後、最後の伏線を論理的に回収するエピローグ的な第46節で幕を閉じます。
いかにもハードボイルド的な雰囲気で始まった話が、ど派手なアクションを経て、第二次世界大戦中の出来事が語られることになる、スケールの大きな作品です。
ところで、普通「眠れ」とするところを「瞑」の字を当てているのは、どういうこだわりなんでしょうか。


No.1533 6点 穢れなき殺人者
ブリス・ペルマン
(2026/02/08 11:08登録)
ぺルマンは邦訳は少ないですが、かなりの多作家で、パズラータイプもあるものの、サスペンス系が得意なようです。本作にも謎解き的要素はありません。1982年フランスのミステリ批評家大賞受賞作だそうですが、「奇妙な味」タイプのサスペンスと言っていいと思います。
邦題の「穢れなき」の言葉は、主役が子どもたちだからということなのでしょうが、内容に合っているとは思えません。一方原題 "Attention les fauves" は「野獣たちよ、気をつけろ」とも「気をつけろ、野獣たちだ」とも訳せそうで、どちらでもかまわないような内容です。「野獣たち」とは主役の11歳の双子(男女)のこととしか考えられませんが、彼等の視点と、彼等の母親を強姦の勢いで殺してしまった男の視点を切り替えていく構成です。母親を殺された双子が母の死を隠そうとする動機が突飛で、それが最後にどう収束するのかという点も、おもしろくできています。


No.1532 5点 La main froide
フォルチュネ・デュ・ボアゴベ
(2026/02/04 17:32登録)
1880年、作者後期の作品で、タイトルの意味は「冷たい手」。
河出書房新社の乱歩翻案版『死美人』の巻末解説の中で、小森健太朗が本作と『切られた手』とを「同じ作品の別々の英訳」と断言していますが(p.420)、実際には別の作品です。
金庫に仕掛けられた罠に残されていた切られた女盗賊の手首という残酷シーンで幕を開ける『切られた手』に対し、本作は、意外な展開はあるものの、主人公の学生ポールが、公園の野外ライブで一目惚れした貴婦人の正体は? というところから始まる地味な話です。ポールはたまたま貴婦人の夫と勘違いされたことから様々な事件に巻き込まれますが、最後はいかにも古典的なハッピーエンドになります。ボアゴベのミステリ系作品中でも、起こる事件そのものが地味なのです。
意外な展開とは言えど、なるほどそう来るかという程度で驚きはなく、決して悪くないのですが、これまで読んできたボアゴベの作品中では平凡な出来でした。


No.1531 5点 楽園の殺人
越尾圭
(2026/02/01 16:25登録)
2019年に『クサリヘビ殺人事件―蛇のしっぽがつかめない』でデビューした作家が2021年に発表した作品です。少なくとも当時は長たらしいタイトルのものが多かったようですが、その中で本作は例外です。
内容的には、外界との連絡ができない孤島での連続殺人という、まさにクローズド・サークルのフーダニットになっています。その島も本土からはるかに離れた小笠原諸島の東硫黄島(「本物語の架空の島です」と注釈されています)で、「楽園」とはその自然のままの島のことです。島に外来種生物を持ち込まず生態系を守ろうという東京科学博物館の調査団メンバーと、その島への無人島ツアーを企画するリゾート会社の社員たちが訪れ、殺人の幕が切って落とされるわけですが。
構成は悪くないのですが、犯人の動機について、どうも説得力が弱く、また最も疑問に思ったところが「案の定」の一言で済まされるなど、不満な所も散見されました。


No.1530 6点 ヴァイキング、ヴァイキング
シャーロット・マクラウド
(2025/06/08 13:48登録)
ピーター・シャンディ教授シリーズ第3作の原題は邦題とは全く違い "Wrack and Rune"。 Runeとは、北欧古代のルーン文字、神秘的記号の意味ですが、"go to wrack and ruin"(破滅する)に掛けています。
このルーン文字は、知り合いの農場から近い林の中にある石碑に刻まれていたもので、それがヴァイキングに関係する歴史的な遺産かどうかということも、謎の一つになっています。まあ、この点に関しては、予想していた通りでした。
水と反応して急激に高温になる生石灰で、農場の作男が顔が焼け爛れて死ぬ事件に始まり、事件は次々に起こります。それがファラオの呪いみたいなヴァイキングの呪いだと煽り立てる者がいたりして、てんやわんやの事態になっていくのを、シャンディ教授は解決しようと奮闘します。真相はたいして意外ではないものの、伏線はきれいにまとめていて、謎解きとしては小味ながらよくできていました。


No.1529 6点 黒い犬の秘密
エラリイ・クイーン
(2025/05/28 20:53登録)
国名シリーズでクイーン家の給仕として登場した少年と同じ名前のジュナを主人公としたジュブナイル・シリーズの第1作。ただし彼は小さな村に、おばのアニー・エラリイと一緒に住んでいるという設定です。このシリーズはリー監修の下、他作家が代作したもので、クイーン外典と同じパターンと言えます。1941年発表の本作を執筆したのは、英語版wikiによればサミュエル・ダフ・マッコイとフランク・ベルナップ・ロングだそうです。
タイトルの黒い犬とは、ジュナが飼っているスコッチ・テリアのチャンプのことで、事件解決にはチャンプも活躍します。さすがクイーン監修だけあり、子ども向けとは言っても荒唐無稽な話ではなく、それなりの意外性もあり、論理的にもなかなかよくできています。ただ最後の犯人追跡の前、チャンプがどこにいたのかだけは不明なままで、ちょっと言い訳はしているものの説得力がありません。


No.1528 6点 聖者が殺しにやってくる
後藤リウ
(2025/05/24 13:33登録)
「機動戦士ガンダムSEED」シリーズのノベライズやライトノベルが多い作家だそうですが、本作は田舎の名家で起こる陰惨な見立て連続殺人という、横溝正史風のフーダニットです。プロローグからして、横正というより残酷ホラーっぽい殺人シーンで、これは14年前に起こった事件です。
その過去の事件と現代の殺人とがどうつながってくるのかということなのですが、その過去の事件の顛末が明かされ、また見立ての元になった古い隠れキリシタンの書物が発見されるのは、半ばを過ぎてからです。
ラノベの作家らしい、誇張された設定、表現にはうんざりさせられるところもあったのですが、ストーリー展開はおもしろく、事件全体の構成もしっかりできていました。最後に明らかになるある重要登場人物の本心にも納得させられます。最後の殺人における密室の扱いは、まあ…


No.1527 6点 深夜の囁き
スティーヴン・グリーンリーフ
(2025/05/20 20:10登録)
ジョン・タナー第6作の原題 "Toll Call" は長距離電話の意味ですが、実際には市外からかかってくるわけではありません。その電話をかけてくるのは謎の男で、かけられるのはタナーの秘書ペギー、彼女に脅迫的に猥褻な話を強要する電話です。かかってくる時間帯は毎日深夜なので、邦題はなるほどと納得できます。
「ペギーとの関係は、少なくとも私にとってはユニークなものだった」のが、この深夜の電話事件で、二人の関係に気まずさが生じてくるという展開で、ラブ・ストーリー的な作品になっています。その話をもう一つの事件と組み合わせているのですが、別の事件があるということさえ、終盤近くにならないとわからない構成になっています。このつなぎ合わせ方には、あまり感心しませんでした。
訳者あとがきによると「脱線」という否定的な評価もあったそうですが、確かにハードボイルドとは言えません。


No.1526 7点 ルルージュ事件
エミール・ガボリオ
(2025/05/15 21:03登録)
ガボリオは『河畔の悲劇』『ルコック探偵』の子ども向けリライト版を読んだことがあるだけで、本作も同じような、ドイルにも影響を与えた二部構成だろうと思っていたので、全然そうではなかったことに驚きました。登場人物たちの過去は、あちこちで思い出という形で入ってきます。そのように過去を長ったらしく語る構成は古臭いと言えば言えるのですが、実際に古い作品ですから、文句はありません。
さらに意外だったのが、タバレがさほど天才的な名探偵ではなかったことです。登場直後こそ、後のホームズみたいに殺人者の特長を列挙してくれますが、それもホームズに比べると、ほとんどが観察結果から直接的にわかることです。しかし、天才でないからこその試行錯誤的おもしろさがあります。
なお、p.39「指紋を検出」、1860年台にそれはあり得ないと思ったら、さすが弾十六さん、ちゃんと解説してくれていました。


No.1525 5点 信濃梓川清流の殺意
梓林太郎
(2025/05/10 00:03登録)
30冊以上ある、旅行作家茶屋次郎を主役とするシリーズの大半には「川」がタイトルについていますが、これはその第1作。長野県出身作者のペン・ネームと同じ漢字の、松本市西方の梓川あたりを舞台にした作品で、最初のうち場所を紹介するのに参考資料からの引用が多いのは多少気になりますが、トラベルミステリらしい作品です。
第1作ということで、茶屋は殺人事件に巻き込まれ、容疑者扱いされたことで怒って、自分で真相を探り出そうとするのです。本作だけ見ると、刑事や私立探偵を主役にしたものと違い、たくさんの続編が書かれるようになるとは思えません。しかし茶屋と、その助手兼秘書のサヨコ、ハルマキに、週刊紙編集長山倉の掛け合い漫才は、確かに1作だけでは惜しい気もします。そのユーモアを特徴としたシリーズなのでしょうか。
過去を追っていく展開と、最後の落としどころはなかなかよくできていました。


No.1524 6点 シャンゼリゼは死体がいっぱい
レオ・マレ
(2025/05/06 10:20登録)
私立探偵ネストール・ビュルマ・シリーズの中でも「新編パリの秘密」サイクルでは『殺意の運河サンマルタン』に続く第7作。
本作では、前作で活躍したビュルマの秘書エレーヌ・シャトランは田舎の実家に帰っていて登場しません。その前作に登場する老俳優は映画なんて「くだらないものですよ」と言っていましたが、今作ではビュルマはアメリカ映画女優のボディガード役を終えた後、その仕事で宿泊していたシャンゼリゼ大通のホテルに、先払い期限まで滞在しながら、今度はフランス映画界で起こる事件に関わっていくことになります。
15年ぶりにカムバックした女優がアヘンの摂りすぎで死亡するところから始まり、次々に人が殺されていく(シャンゼリゼでというわけではありませんが)という事件です。ハードボイルドらしい麻薬密輸組織を暴いていくストーリーは、起伏に富んでいて、なかなか楽しませてくれます。


No.1523 6点 耳をすます壁
マーガレット・ミラー
(2025/05/03 00:04登録)
読み始めてすぐ、これ本当にミラーの作品? と驚かされました。この作者に期待していたのとあまりに違っていて、特に冒頭メキシコでホテルのメイドがボーイフレンドの賭博癖について思いをめぐらせるところなど、彼女の浅薄さになんだこれ、と思ったのです。その後の部分もかなり軽いノリで、行方不明(?)になったエイミーの夫ルパートが犯罪者なのかどうかというサスペンスはありますが、基本的にはルパートを、私立探偵ドッド(リュウ・アーチャー並みに渋い奴)の視点、つまり外側から捉えているので、怖いような不安感はありません。
特定の作中人物に感情移入して引き込まれるということがなかったからでしょうか、パズラー的にかなり冷静に読み進めることになったため、真相の大枠はかなり早い段階で見当がついてしまいました。もちろんそれでも面白いことは確かなのですが。最後1行については、何なんでしょうね…


No.1522 7点 まんまこと
畠中恵
(2025/04/28 20:17登録)
表題作で始まる6編を収めた連作短編集です。主人公は神田の町名主の「お気楽な」跡取り息子麻之助で、彼が名探偵ぶりを発揮して様々な謎、持ち込まれる町の揉め事を解決していくわけで、最後の誘拐事件を扱った『静心なく』を除くと、日常の謎系と言っていいでしょう。5編目『こけ未練』では、それまで勤勉だった彼が16歳の時にお気楽になってしまったきっかけも、回想の中で明かされます。時代背景は、2編目『柿の実を半分』の中で寛政元年が10年と少し前とされているので、1800年頃。
ユーモラスで人情味のあるいい話の中に、そんなにアクロバチックでこそありませんが論理的な謎解きをうまく溶け込ませ、麻之助とその仲間たちも魅力的に描いていて、なかなか気に入りました。
なお、「まんまこと」とは真真事・ほんとうのこと、と『江戸語辞典』抜粋の注釈が付いています。


No.1521 6点 月射病
ジョルジュ・シムノン
(2025/04/25 19:35登録)
1933年、メグレ以外のRoman dur最初期作品です。舞台はアフリカ中西部のガボン、主役のジョゼフ・ティマールが伯父の口利きで、首都リーブルヴィルに赴任してくるところから始まります。監修・解説の瀬名秀明氏によれば、パリの霧も雨も出て来ず、「読者の目には異色作と映る」かもしれないが、「旅の作家」であるシムノンにとっては「人生の方向を決めるほど重要な一篇」だということです。
第1章最後でホテルの黒人ボーイが殺され、その犯人は途中で判明、エピローグ的な最終章の前の章はその殺人事件の裁判、という構成であるにもかかわらず、あまりミステリっぽくない話の作りになっています。いくらフランス植民地時代のアフリカでも、こんなでたらめな裁判があり得るのかと思えますし、なんとも居心地の悪くなるような結末です。
なお、単に「月明り」とも訳せるタイトルの言葉は最終章で出てきます。


No.1520 6点 サンドラー迷路
ノエル・ハインド
(2025/04/22 20:47登録)
1977年に発表された作品。若い弁護士トマスの事務所で放火事件があり、調べてみると、最近死去したヴィクトリア・サンドラー関係の書類が紛失していたところから始まり、第二次世界大戦中のナチスの経済的陰謀に端を発するスパイ事件に発展していく、ひっくり返しの意外性が連続する作品です。しかしこの意外性というのが、同じ趣向を何度も繰り返していて、最後の方はまたその手かと思わせられました。クライマックスの海上でのスリリングな出来事も、その趣向の(部分的)一種と言っていいでしょう。
トマスが、既にスパイ関係の事件だと知っているのに身辺に気をつけないなんて、ちょっと間抜けすぎるのではないかと思えるところがある一方、最後には探し求める相手の正体について名探偵的な推理を見せるなど、少々バランスが悪い気もします。最後まで刺激的なおもしろさが持続する点では文句なしなのですが。


No.1519 5点 横溝正史探偵小説選Ⅱ
横溝正史
(2025/04/17 17:50登録)
すべてジュブナイルの13編の中短編と金田一耕助が登場する推理クイズ2編、それにごく短い随筆3編を収録。なお推理クイズ解答は巻末解題の中に入っています。
三津木俊助・御子柴進の事件簿として戦後の作品が5編ありますが、最後の『怪盗X・Y・Z おりの中の男』を除くとどれも短すぎて、あっけない感じがしました。名探偵が登場する荒唐無稽なミステリは、ある程度の長さがないとおもしろさを出しにくいのかもしれません。
その後の戦前作品中でも長めの『怪人魔人』『渦巻く濃霧』『曲馬団に咲く花』『変幻幽霊盗賊』『笑ふ紳士』は、いずれも特筆すべきところこそありませんが、ご都合主義な展開が楽しい波乱万丈、荒唐無稽な子供向け作品として楽しめます。ただ『渦巻く濃霧』のラストは解題でも触れられているようにさすがに説明不足。『爆発手紙』は意外にも短い中に単純な事件をすっきりまとめていました。


No.1518 7点 Le voyageur de la Toussaint
ジョルジュ・シムノン
(2025/04/14 23:17登録)
タイトルの意味は『万聖節の旅人』。19歳のジルは、北欧で両親を事故で失い、親戚を頼ってラ・ロシェル(『ドナデュの遺書』第Ⅰ部の舞台でもある港町)に、万聖節前夜ほとんど密航者のようにやって来る。成り上がり者の伯父は数か月前に死んで、莫大な財産はすべてジルに遺されていた。伯父と対立していた町の有力者たちからの接触を受けた彼は…
1941年に書かれた、文庫本に翻訳すればたぶん350ページ以上ある、シムノンにしては長い作品です。上記冒頭部分だけでもミステリっぽい感じがしますが、さらに金庫を開けるパスワードは何かとか、妻の殺人容疑で逮捕された医者を救うことはできるかとか、伯父が実は毒殺されていたことがわかり、その犯人は誰かとか、ミステリ要素たっぷりで、おもしろく読んでいけます。ただ事件全部が解決した後のエピローグは、まあわからないことはないのですが、といったところです。


No.1517 6点 マーチ博士の四人の息子
ブリジット・オベール
(2025/04/09 18:22登録)
様々なジャンルを試みながら、独自のスタイルを保持しているオベールの第1作は、やはりこの作者らしいひねりの効いた作品になっています。国内現代の「本格派」が好きな人は、オベールは本作しか読んでいないことが多いでしょう。しかし本作が新本格派ファンに受けるのは、たぶんエピローグの意外性のためだけであり、それまでは手記・書簡形式の、目次からもわかるとおりスポーツ・ゲームを意識したサスペンスものです。
何人かの方も指摘されているとおり、この手記がしつこくてうんざりしてくるところがあります。中心になる発想はいいのですが…マーチ家の4人姉妹の話『若草物語』を念頭に置いたのだろうと訳者は書いていますが、そんなことに拘らず思い切って息子を2人に減らして、どっちが犯人かという謎で押し切っていれば、兄弟の個性を描き分けることができてよかったのではないかとも思えます。


No.1516 6点 カード・ウォッチャー
石持浅海
(2025/04/06 11:08登録)
タイトルのカードとは、勤退時刻をつけるタイムカードのことです。製造業本社工場から離れた場所にある研究所で、研究員が椅子が壊れて転んで手首を痛めたという軽い事故が、労災に該当するようだということで、労働基準監督官が臨検にやって来ることになります。この事故自体は、労災になるとは思わなかっただけなので、大した問題ではないのですが、研究所では毎日長時間のサービス残業が続いていたということで…
それだけだと、どこがミステリなんだという感じですが、臨検直前にある研究員の死体が発見される展開で、最後はその死の原因が論理的に解明されて幕を閉じる、パズラー系の作品です。序章と終章を除くと、ほとんどが若い総務職員小野勝典の視点から描かれます。「特別司法警察職員」であると説明される監督官の対応にあたふたする研究所職員たちの姿を軽いタッチで描きながら、謎解き要素もきっちりできた楽しい作品です。

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