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ミステリの祭典

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あびびびさんの登録情報
平均点:6.33点 書評数:669件

プロフィール| 書評

No.469 7点 聖女の救済
東野圭吾
(2015/05/23 23:31登録)
「虚数解」か…。そう表現されれば、そうなんだろうが…。ずっとそのトリックを守っていた聖女。初めからそんな場面が来ることを想定しての仕込み…。

久しぶりに東野さんの本を読んだが、相変わらずうまい。淀みなく最終章まで引っ張る作者の知識容量と発想の転換。こんなことを言うと、誰かに怒られそうだが、とても大阪の生野区出身だとは思わない。泥臭さがまったくない。

自分もそこに住んでいるから良く分かる(すみません)。


No.468 5点 蒼ざめた馬
アガサ・クリスティー
(2015/05/16 11:59登録)
クリスティーの晩年ものらしい雰囲気をもった作品。事件は個人的な悪意ではなく、社会の闇に潜む悪意を浮き彫りにしている。思えば、ポアロ最後の作品、「カーテン」もそうだった。

全体的には標準作だと思うが、よく考えると、事件そのものは現代でもありそうで怖い。


No.467 9点 検察側の罪人
雫井脩介
(2015/05/10 23:16登録)
この作家の本を見つければ無条件で手に取る…自分自身の呼吸に合っているからだ。「犯人に告ぐ」、「ビターブラッド」、「犯罪小説家」、いろいろ読んできたが、この作品が一番考えさせられた。

どうしても許されない犯罪者がいる。それも、時効を成立させた犯罪者。まして、その被害者が、身近な人間で、あどけない子供なら…。

将来を約束された検事が、他の事件で逮捕された犯罪者(時効事件の本星)を獄中に送るため、いや、死刑囚にするために、自ら罪人になる…そんな物語だが、最初は、「そんなバカな!」と、呆れていたものの、最後はその検事の深い思いに同調せざるを得なかった。

その検事の弟子である男が最後に発する咆哮は、この本を読んでいる自分自身の叫びであるかのような錯覚に陥った。力作だと思う。


No.466 6点 風の証言
鮎川哲也
(2015/05/09 15:46登録)
鬼貫警部シリーズの定番中の定番。相棒の丹那刑事が足で稼いで、情報を一つずつつぶしていく様は、昭和のミステリの醍醐味であり、懐かしく感じた。

最後の最後で、「風の証言」が有力な証拠となるのだが、写真を見ていない読者にはそれが分からない。そんなもどかしさもあったが、双子のアリバイ作りには、苦笑するしかなかった。


No.465 6点 悪女パズル
パトリック・クェンティン
(2015/05/05 22:52登録)
うーん、本格を読んでいるなあ…と感じた。ただ、途中で犯人を知っている人間がいて、なおかつ殺人事件発生である。殺す方も見逃す方も、いくら事情があったとしても、それはないでしょう!と思ってしまうが…。

これがミステリの世界である。現実ではそれ以上の殺人が起きているのだから!しかし、大富豪にはなりたくない。もちろん、貧乏はもっと嫌だけど…。


No.464 8点 刺青殺人事件
高木彬光
(2015/05/02 17:57登録)
30年前に読んだが、まったく内容を忘れていて再読。アガサ・クリスティはほとんど犯人を当てたことはないが、この作者とは相性が良く、「人形はなぜ殺される」もすぐにトリックと犯人は分かった。

この作品もだいたいの構図がすぐに浮かんできた。さすがに密室トリックと、アリバイトリックは分からなかったが、犯人は『○○しかない!』と、思った。しかし、再読して良かった。稀代の名作であることは間違いない。


No.463 8点 ジャンピング・ジェニイ
アントニイ・バークリー
(2015/04/28 23:34登録)
探偵役のシェリンガム…。これだけ迷走する探偵も珍しい。しかし、この作品は最後の最後で救われた、そんな感じの流れ。

いつも自分本位で、場を乱す。100人いれば100人が嫌いになる女が殺された。それをいかに正当化?するか…が、焦点。言わば、誰が犯人でもいい。警察が「自殺」と判断してくれるのなら!

しかし、いかんだろう、殺人者を見逃しては!というもやもや感をさっと取り除いてくれた「真の犯人」。そこまで相手が言えば、当然、『エエーイ!』となってしまうだろう。

ある意味、爽快。最後にプラス1点。


No.462 5点 ベンスン殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2015/04/26 18:28登録)
30年ぐらい前にグリーン家を読み、2.3年前に僧正を読んだ。その時は探偵役のファィロ・ヴァンスのことはあまり意識しなかったが、物語の事情がそうであれ、こんな嫌な男だったんだ…と思った。自分が検事なら、とても我慢はできないと思う。

それにしても、詩人、作家、哲学者などの引用文が多すぎる。ドロシー・セイヤーズでも辟易しているのに、これほど多いと自然に読み飛ばすことになる。その引用文のせいで、単純な事件がややこしくなり、ページ数も多くなったような気がする。


No.461 7点 荊の城
サラ・ウォーターズ
(2015/04/23 21:18登録)
今、読書はミステリに限定している。(カラマーゾフの兄弟は挫折し、3度目に読了、十数年を要した)、この物語も骨太と言うか、簡単な物語ではない。あまりの重厚さに、ページが進まず、放棄したくなることもあった。

ただ、読み終えた時は、長い試験勉強を終えた時の満足感に似た喜びと苦笑があった。大作である。


No.460 5点 死びとの座
鮎川哲也
(2015/04/13 18:12登録)
この作者らしい流れで、十分楽しめるが、アリバイトリックは無理があるような気がした。この世には自分とそっくりの人間があと二人いる…とは言っても、そこまで期待できるものだろうか?

ただ、犯人の行動は大胆で、ち密に計算されていた。これは実践できそうな気がした。


No.459 8点 女郎ぐも
パトリック・クェンティン
(2015/04/09 16:02登録)
辣腕プロデューサーに名女優のおしどり夫婦にかかる災難。男なら誰にでもありそうな心の隙間に、女郎蜘蛛が忍び寄ってくる…。

妻が母の療養のため旅立った。高級アパートの上の階に住む、親友の大女優とその夫がパーティーを開き、「さみしいんでしょう。私は大親友としてあなたの面倒を見る義務がある…」と言って強引にプロデューサーを誘った。彼は仕方なく、顔を出したが、案の定気が乗らず、帰ろうとしたときに若い女性から声を掛けられる…。

その女性が、絶妙な駆け引きでプロデューサーを虜にしようとするが、彼は自分の立場をわきまえていた。しかし、意外な事件が起き、彼は殺人の容疑者となる…。

若い女性がそのままプロデューサーに対し、悪意を放ち続ける物語かと思ったが、思わぬ展開にページをめくる手が止まらず、一気に読んでしまった。


No.458 6点 昔日
ロバート・B・パーカー
(2015/04/02 00:04登録)
ディック・フランシスや、ロス・マクドナルドの翻訳でお馴染みの菊池光さんは、この作者の本もほとんどを手掛けておられたが、お亡くなりになり、加賀山卓朗さんの翻訳だった。ディクスン・カーの火刑法廷や、三つの棺も翻訳されている。

正直、自分は翻訳家の方たちの名前はほとんど見ない。解説をされている翻訳家は少し覚えている。たとえば、ジェフリー・ディヴァーの池田真紀子さんはそうである。

それがなぜ、今回興味を持ったかと言えば、いつものスペンサー・シリーズの会話と違う印象を持ったからである。菊池さんの軽快なタッチを、より軽快にしているような…。ハードボイルドの会話をすごく意識したような…。お蔭で?380ページをサラッと読めた。

本の中身は、事件を通してスペンサーとスーザンの恋物語を原点から掘り起こし、さらに二人は親密になって行くーある意味、集大成のような流れになっている。、黒人の相棒ホークとの友情、さらにヴイニー、チョヨなど、お馴染みのガンマンも総出演して、二人を守り、花を添えている。


No.457 7点 三本の緑の小壜
D・M・ディヴァイン
(2015/03/29 15:09登録)
3人で語られる一人称。それぞれの人物がよく書かれていて、シーラなどは、「このクソ餓鬼が!」と、思ってしまうほど。

自分としての犯人は、第3位にランクされる人物だった。これまで何百冊もミステリを読んで来て、どれだけ鈍いのやろ…と思ってしまう(苦笑)。しかし、この作家は、ストーリーも展開も、本当にクリスティによく似ている。これは自分が感じただけかも知れないが…。


No.456 5点 償いの報酬
ローレンス・ブロック
(2015/03/24 22:23登録)
あのミック・パルーがかなり年下の女性と結婚し、アイリッシュウィスキーを控えるシーンは、思わず笑ってしまった。ライオンが、どら猫になった瞬間だった。マットとの夜の会話も少なくなったが、この夜は久しぶりにマットの回想録を聞く。

悪行三昧だった犯罪者のジャック・エラリーが、アルコール中毒を治癒する機会に、過去に迷惑をかけた人々に謝罪して回る。そのなかには強烈な怒りを含むものが多く、迷惑や拒絶が生まれたが、もっと悪い「過去の秘密」を暴露する種類のものがあった。そこに殺人事件が起こるのは必須だった…。

今回は少し長すぎた。結末もすっきりしなかった。


No.455 8点 ウォリス家の殺人
D・M・ディヴァイン
(2015/03/15 12:06登録)
こういうタイプの、イギリス的本格モノは好み。アガサ・クリスティを思わせる仕掛けと意外性は、読んでいて飽きがこない。疲れ気味の時に読めばちょうどいい感じである。

しかし、「勘違いした。ちがう方」というミスリードは、微笑ましくもあり、勘違いでは済まされない切実さもあった。


No.454 6点 ブラック・マネー
ロス・マクドナルド
(2015/03/12 15:28登録)
テニスクラブを背景に、次から次へと出てくる複雑な人間関係。リュウ・アーチャーは例によって、地道な調査から奥に潜む真相に近づくが、結局は金と女に絡む悪しき陰謀だった。ただ、少し回りくどい結末で、切れ味と言うか、さっぱりするエンディングではなかった。


No.453 4点 王を探せ
鮎川哲也
(2015/03/10 01:01登録)
テレビにも出るマルチ評論家を殺した犯人の名は亀取二郎。その名前は評論家が本日午後に会うと予定表に書き入れていた。その「亀取二郎」は、東京近辺に40名ぐらいいて、そのうちアリバイや動機などで4名に絞られた。その後、もうひとり、恐喝者らしい男も殺され、担当刑事はその4名のアリバイ崩しに奔走するが…。

現在では無理だろうが、当時の社会を反映するアリバイトリックは凄く良かったと思う。ただ、なんとなく犯人の亀取二郎があの男と分かったから、他の3人のページが凄く無駄に感じた。いや、読み飛ばしてしまった。いくら読んでも犯人ではないのだから…。

そこがこの作品の難点と言えば、身も蓋もないのだろうか?


No.452 7点 五番目のコード
D・M・ディヴァイン
(2015/03/04 13:41登録)
楽しく読めたが、自分としては「兄の殺人者」の方がかなり上のような印象を持った。アガサ・クリスティのような本格モノだが、スピード感、切れ味は少し見劣るかも知れない。終盤のミス・リードは思わず笑ってしまったが、最初の事件が発端だった、という流れはなるほど…と思った。


No.451 7点 針の誘い
土屋隆夫
(2015/02/26 20:11登録)
犯罪は一か八かの要素が大部分だけど、計画的殺人にしては運任せの部分が多くなかったか?。犯人は動機から途中で気づき、自分なりにトリックを考えたが、あっと驚く鮮やかさはなくて、ひとつひとつの積み重ねだった。しかし、それが現実味を帯びていて、リアルな気がした。

自分としては、「危険な童話」の方が、代表作ではないかと思う。


No.450 7点 死のある風景
鮎川哲也
(2015/02/26 19:59登録)
短編を膨らませて長編にしたせいか、削ぎ落すべき箇所があるような気がしたが、解決編になると、それまでの謎がいとも簡単に崩れていく。ただ、アリバイトリックだから、読者の方もかなり頭の中を整理しなければならないが。

惜しいと思うのは、最後の語り手が傍観者ではなく、初めから鬼貫警部が関わっていて、執念の調査、追跡のパターンだともっと盛り上がったのではないか。それならプラス1点、いや、プラス2点にもなる作品ではなかったか?

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