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ミステリの祭典

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蒼ざめた馬

作家 アガサ・クリスティー
出版日1962年01月
平均点5.27点
書評数11人

No.11 8点 虫暮部
(2023/09/30 12:52登録)
 件の “商売” のシステムを良く見ると、契約担当・調査担当・実行担当、がいれば基本は成立してしまう。死者はさまざまな病気だと診断されているのだから、オカルティズムによる対外的な隠蔽は実は不要だ。
 降霊儀式の主な役割は、依頼人の心理的抵抗の軽減である。事実を隠蔽して “殺しではなく呪いだ” と思い込ませたい相手は、世間の人々ではなく、あくまで依頼人なのである。解決編でそのへんの位置付けが若干曖昧だと思う。読者を勘違いさせる書き方になってない?
 出しゃばり首謀者の行動原理は判るような判らないような。但し、病死である筈の一連の死者が一つのリストにまとめられて関連付けられることは非常にまずいから、慌てて神父を撲殺と言う雑な行動に出たのは理解出来る。

 おまえ誰が本命だと突っ込みつつ、中弛みも感じず、面白く読み通せた。もっともそれは、私が新しい書き方のオカルトものをあまり読んでいないからかもしれないけれど。

No.10 4点 ALFA
(2023/01/20 09:25登録)
霧のロンドン、臨終の信者の告白を聞き取った神父が殺される。残されたメモには9人の名前が・・・
申し分ない導入部だ。
しかし謎の犯罪組織がちらつきはじめて何やら悪い予感が・・・
ポアロもミス・マープルも「犯罪組織」が出てくる作品は駄作凡作揃い。そして残念なことに予感は大当たり。
突っ込みどころはたくさんあるがなんと言ってもラスボスがショボイ。あの人物の器で精緻な犯罪組織を統括できるわけがない。クリスティの傑作には欠かせない「名犯人」の対極にある。
おそらく、捜査小説形式にして嘱託殺人システムの暴露を最後に持ってきたらマシになったのかも知れないが、それはクリスティの得意とするところではないのだろう。

あえての読みどころは若い探偵役二人の活躍ぶり。トミーとタペンスばりで楽しいが、これもダークな主題と妙にチグハグ。冒頭のバナナ・ベーコンサンドイッチみたい(食べたくない!)

まあクリスティ研究でもしないかぎりスルーしていい作品だと思います。

No.9 3点 レッドキング
(2020/08/25 21:45登録)
歴史学者が偶然に耳にした「殺し屋プロ集団」の噂話。にわか素人探偵コンビが挑むのは、怪しげな三人の「魔女」、怪しげな富豪、怪しげな元弁護士・・そこにクレイジーな薬剤師やクリスティ自身のパロディのようなミステリ作家が絡み、最後にフーダニット一捻りのオマケが付いて決着。

No.8 5点 人並由真
(2017/05/13 16:39登録)
(ネタバレなし)
 クリスティー1961年の作品。今回は仕舞いこんであったポケミス版の重版を引っ張り出してきて読んだ。
 それにしても、うーん、登場人物が多い……。まともに付き合って、被害者のゴーマン神父が握ってたメモの名前までふくめて片っ端からリスト化していったら、最終的に60~70もの人名が並んでしまった。たぶんこの作者のなかでも筆頭格の多さじゃないかしらん。(そのくせ、ポケミス版の登場人物一覧に、主人公マークのガールフレンドのハーミアの名が無いのは解せない。)

 でもってこの作品でのクリスティーの狙いとしては、戦後すぐアメリカに行ってしまった盟友のカーとかが海の向こうで歴史ミステリ枠のなかでSFやらスーパーナチュラルな要素をぶっ込んでるのを遠目に、当時のミステリの女王が<一見オカルトものに終わりそうな異色作>をもくろんでみたような感じかと。その意味では全能感の強い名探偵であるポアロもマープルも出さなかったのは正解である。
(とはいえほかの方も指摘されているように、オリヴァ夫人とキャルスロップ(カルスロップ)夫妻の共演という趣向が、ポアロものとマープルものの世界観をさりげなく繋げていてファンには楽しい。)
 
 真犯人に関してはクリスティーの作劇の手癖で早々と察しがついちゃうのがアレだし、事件や物語の細部でいまひとつ未詳な箇所も残る気もする。
 でもちょっとラブコメ風味のサスペンス編としては、中盤で真打のメインヒロインが登場~活躍してからはそれなりに面白い。ジンジャは良い感じでクリスティーらしいエッセンスの詰め込まれた、当時の現代っ子ヒロインだったんじゃないかなと。
 まあ事件の真相については、とにもかくにも20世紀半ばの法医学だから成立した種類の作品だろうとも思うけど。

No.7 6点 りゅうぐうのつかい
(2016/12/06 13:53登録)
本格物ではなく、冒険的要素を兼ね備えたサスペンス小説という感じだ。カトリック神父殺人の背後にある大きな謎を、主人公の学者と友人女性が調査して暴く物語。クリスティーの作品でおなじみのオリヴァ夫人が登場するが、ポアロは登場しない。ポアロが登場しないのは、推理よりも調査過程がメインの話であり、素人探偵の視点で物語を描きたかったためであろうか。
殺された神父が残したメモの謎、3人の魔女による呪法の儀式と遠隔殺人の謎、「車椅子の男」が歩いて牧師を尾行していたという目撃者の証言の謎、主人公たちによる偽装潜伏調査など、ミステリーとしての読みどころは十分。事件の背景にある謎は、ドイルの「赤毛組合」を彷彿させる。
オリヴァ夫人は、主人公に対して、「青ざめた馬」という事件につながる符号を与えたり、真相につながる重要な手掛かりを示すなど、脇役として、存在感を示している。
最後にひねりがあるのだが、このひねりはあまり効果的ではないと感じた。その人物が黒幕である必然性に乏しいし、面白味がない。私は、別の人物を黒幕だと思っていた。

No.6 5点 nukkam
(2016/05/26 14:37登録)
(ネタバレなしです) 殺された神父が死の直前に書き記したメモには9人の名前が残されており、警察がその身元を調べていくと既に亡くなった人物が次々と浮かび上がって来るがいずれも病死としか思えなかったいうプロットの1961年発表の本格派推理小説です。シリーズ探偵は登場しませんがポアロシリーズ後期作に登場するアリアドニ・オリヴァ夫人が顔を見せているのが読者サービスになっています(但し本書では探偵活動はしません)。また「ひらいたトランプ」(1936年)や「動く指」(1943年)の登場人物も再登場しています。オカルト本格派のように紹介されることもあり、確かにそういう一面もあるのですがそれほど不気味な雰囲気はなく、案外淡々と物語は進みます。謎解きプロットはクリスティーとしては粗い出来で、かなりご都合主義的に解決へと進んでいくような感もあります。もっとも第7章で主人公のマークが「どうしてリストと蒼ざめた馬を結びつけたのだろう」と述懐しているように作者自身もそれは先刻ご承知のようですが。余談ですが冒頭に登場するバナナ・ベーコン・サンドイッチって食べてみたいような、みたくないような...。さすがサンドイッチの発祥地イギリスですね(笑)。

No.5 6点 蟷螂の斧
(2015/08/10 20:50登録)
裏表紙より~『霧の夜、神父が撲殺され、その靴の中に九人の名が記された紙片が隠されていた。そのうち数人が死んでいる事実を知った学者マークは調査を始め、奇妙な情報を得る。古い館にすむ三人の女が魔法で人を呪い殺すというのだ。神父の死との関係を探るべくマークは館へ赴くが…』~
本格色は薄いが、ミスリード・伏線はさすがですね。ポアロ・マープルが登場しないかわりに、主人公の恋物語が花を添えている感じです。

No.4 5点 あびびび
(2015/05/16 11:59登録)
クリスティーの晩年ものらしい雰囲気をもった作品。事件は個人的な悪意ではなく、社会の闇に潜む悪意を浮き彫りにしている。思えば、ポアロ最後の作品、「カーテン」もそうだった。

全体的には標準作だと思うが、よく考えると、事件そのものは現代でもありそうで怖い。

No.3 7点 クリスティ再読
(2014/11/30 21:37登録)
昔読み倒したクリスティを改めて再読している。

クリスティの後期って初期とは比較にならないくらい人物造形がいい。この作品はおなじみ名探偵は出ないにもかかわらず、脇の印象的な人物が再登場するのが大きな趣向になっている。

クリスティ準レギュラーのオリヴァ夫人が、要のところでいい仕事をしているし、この作品だと特に「悪の卑小さ」みたいなことがテーマになってくるわけだが、それを際立たせる凛とした雰囲気を漂わせるカルスロップ夫人がいいし、デスパード夫妻も再登場である。

ヒロインはさすがに新規キャラだが、ジンジャーもクリスティらしい勇敢なヒロインで、ありがちな嫌味を出さずに書けるのがクリスティの本当にイイところのように思う。

で、この作品はクリスティ後期に目立つノンシリーズ物。「実年齢が追いついて自然体で書けるマープル物」と「時勢の流れの中でリアルに動かしづらくなってきているポアロ物」に対して、いろいろと実験的な試みをしているのがノンシリーズ物なのかもしれない。キャラ小説としては不利なせいか、どうも人気薄に感じるが、この作品とか「終りなき夜に生れつく」とか「ねじれた家」とか、独特のドゥーミーな雰囲気が好きだなぁ。

この作品の本当の狙いは、これらのおなじみ人物たちが、クリスティには珍しい組織犯罪に対して、相互に支えあうささやかな十字軍めいた関係にあるのではないのだろうか。再登場した人々は名探偵ではないが、それぞれに「義の人」であり、それゆえにゆったりと連帯しあう。ここらへんにどうやら評者は感動したようである...

No.2 5点 江守森江
(2010/10/06 03:45登録)
スカパー!の契約ch変更で先月から観たかったドラマが視聴可能になり睡眠時間を削ってドラマを録画視聴している(毎日8時間平均)ので読書に割ける時間がない(このサイトを読む頻度も激減)
海外ミステリー・ドラマに追い立てられ、精神が破綻寸前(灰色の脳細胞がトロけた)でもある。
ほぼ一緒に観ている嫁(基本的に読書せず)は更に地上波の韓国ドラマまで網羅するタフさで口あんぐり!
そんな精神状態ながらクリスティー特集で本作のドラマを観たついでに図書館でおさらいした(現状では、おさらいの読書すらシンドイと思える)
魔術や呪いによる遠隔殺人トリックの典型的パターンで、昔はどの作家も使用したかったのだろう。
驚くべきは、この手の雰囲気のミステリードラマでは未だに高頻度で使用される事だろう!
ミステリードラマ漬けな毎日なので、出会う度に嫁と顔を見合わせ「又か!」と笑ってしまう。
ミステリーとしては4点だが、夫婦円満アイテムとして1点加点しておこう!

No.1 4点
(2010/08/31 12:33登録)
「蒼ざめた馬」(聖書に出てくる言葉です。)という名の館に住む魔法使い(?)たちが重要な役割として登場し、クリスティーにはめずらしくオカルティックな雰囲気を持ったミステリー作品となっています。オカルト風味をけっこう好むほうなので、期待しながら読み始めましたが、魔女、呪術など楽しげなワードが飛び出してくるわりには不気味さもサスペンスもなく、展開に起伏もなく、会話がだらだらと続くなど淡々としすぎているように感じられました。本格ミステリーとしても合格レベルには達せず、どちらかといえば期待はずれな作品でした。

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