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ミステリの祭典

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検察側の罪人

作家 雫井脩介
出版日2013年09月
平均点7.71点
書評数7人

No.7 7点 パメル
(2022/08/01 08:21登録)
主人公はベテラン検事の最上と、若手検事の沖野。ある殺人事件の調書を読む最上は、かつて知り合いの少女を殺し最重要容疑者でありながら、証拠不十分で釈放され時効となった男が容疑者の一人であることを知る。最上の支持のもと事件を担当していた沖野は、捜査の偏りに違和感を覚え、尊敬する最上と対立することになる。
「時効」がテーマのひとつで、2010年に改正刑事訴訟法が執行されて、死刑に相当する殺人罪の公訴時効が廃止されたが、執行前に時効を迎えていた事件は、改正前の期間が適用されるため、犯行を行った時期によっては罪科に処されずに済んでしまう。そのような現実や、検事一人の裁量で事件の流れを決めることが出来てしまう司法制度の問題点が描かれている。
冤罪かそうでないかという謎だけでも引き込まれるが、それについては、途中で明らかになる。沖野検事の取り調べ場面には、綿密な取材を裏打ちされた圧倒的なリアリティがあり、冤罪はこうして作り上げられるのだと納得させるだけの臨場感と説得力がある。そして罪の償いとは何かという問いに突入する。法律には穴がある。その穴によって正しく裁かれなかった場合、それを人間の手で正してはいけないのか。
これは本来あり得ない話。あってはならない物語である。しかし、二人の検事が正義の信念や自身の現状に対する葛藤がぶつかり合うことで、迫力ある人間ドラマとして読ませる。また時効、冤罪など考えさせられる社会的な問題を二人の検事の関係の絶対性として共感を誘う熱い小説でもある。

No.6 7点 sophia
(2021/01/31 23:59登録)
最上が私情と職責の狭間で苦悩する姿が描かれるものと思っていたところが私情一直線の大暴走で、ちょっぴり安いクライムノベルになってしまった気がします。罪の露見もあっさりとしたもので、こうなるだろうなあという予定調和で終わってしまいました。テーマは深いものがありますし熱い作品なのですが、惜しい仕上がりでした。とにかくもう少し最上に共感させてほしかったです。

No.5 6点 蟷螂の斧
(2019/12/16 19:56登録)
裏表紙より~『蒲田の老夫婦刺殺事件の容疑者の中に時効事件の重要参考人・松倉の名前を見つけた最上検事は、今度こそ法の裁きを受けさせるべく松倉を追い込んでいく。最上に心酔する若手検事の沖野は厳しい尋問で松倉を締め上げるが、最上の強引なやり方に疑問を抱くようになる。正義のあり方を根本から問う』~

(ネタバレあり)
物語はエンタメ系警察小説によくあるパターンのものです。私はエンタメ系での「私刑」は容認しますが、本作のような社会派的ミステリーでシリアスなものでは許容できない。という立場で・・・。人物像造形や心理面で難ありというのが第一印象です。
最上検事~検事でありながら、出来心的に証拠隠滅してしまう。えっ?!と思うわけです。べつにこれが計画的なものであればいいんですけれどね。そして最悪なのはアリバイ工作もせず犯罪を犯す。こんな検事像ってありっ?!。
沖野検事~最初はいいんですね。しかしラストがいけない。なんで最上検事を弁護するなんて言い出すんでしょう?。あなたが最上検事の犯罪を断罪しなければならない立場なんですよ(苦笑)。
橘沙穂~沖野検事をよくサポートしていたのですが、真相が明らかになりそうなとき手を引くようアドバイス。意味不明です。
白川弁護士~人権派でやり手。パホーマンスで無罪を主張するのかと思いきや、死刑が無期懲役になれば・・・何をかいわんや。
諏訪野~最上検事にピストルを売った裏社会の人物。この人は立派(笑)。「物は売っても人は売らない」信念があります。
なお、ラストに何かを期待したのですが・・・。やはり感情移入の度合いによってラストの沖野検事の慟哭の意味合い(理解)が違ってくるのでしょうか。よくわかりませんでした。

No.4 7点 名探偵ジャパン
(2018/11/13 09:27登録)
納得がいきません。
最初こそ取っつきにくくて読むのを億劫に感じていたのですが、事件が動き出してからはほぼ一気読みさせられました。
それだけ没頭し、二人の主人公どちらにも感情移入して読んでいただけに、ラストはどうしても許容しがたいものでした。
こういう形のエンタテインメントもあるということは十分理解しているつもりですが、私自身の肌に合わないというか、乱暴で頭の悪い言い方を許してもらえるなら「生理的に無理」です。こういう作品をうまく自分自身の中に落とし込み、楽しめるのが大人の読書家というものなのかと思います。私はやっぱり、「絶海の孤島に建つ怪しい洋館で密室殺人が起こり、偶然居合わせた素人探偵が謎を解く」みたいな荒唐無稽なミステリのほうが性に合っていると感じました。
とはいえ個人的な感情はともかく、低い点数を付けるべきではない、力のある作品であることくらいは私にも分かりますので、ギリギリ譲歩して7点とさせていただきました。

No.3 9点 VOLKS
(2018/08/09 18:22登録)
重い。
ものすごく重たくて、切なくて、考えさせられる作品だった。
なぜこの本を手にしたのか、読み始めた頃はすっかり忘れていたのたのだが、このほど木村拓哉と二宮和也のW主演映画、ということで話題になっている原作。
読んで納得、すごい作品。
これはW主演も有り得るなー。

最上と沖野、どちらの正義もそれぞれに理由があり、その意義も解る。
最後になって沖野に見せた松倉の態度。
驚きもしたが、逆にあれがあって何だかほっとした。
あれがあって最上の行動が許せるような、理性と感情の狭間の切なさが理解出来るような気がした。
また、沖野が最後に思う「本当に救いたかったのは…」の一節と咆哮、その気持ちもまた本当だと感じた。

最上の家族がまた結束出来たこと、前川という親友がいたことが唯一の救いかな。

No.2 9点 haruka
(2017/02/26 21:13登録)
文庫上下巻に渡る長編だったが、一気に読んでしまった。最上と沖野という対照的な主人公を据えながら、両方に肩入れしてしまう。読み終わった後、正義とは何かを考えさせられた作品だった。

No.1 9点 あびびび
(2015/05/10 23:16登録)
この作家の本を見つければ無条件で手に取る…自分自身の呼吸に合っているからだ。「犯人に告ぐ」、「ビターブラッド」、「犯罪小説家」、いろいろ読んできたが、この作品が一番考えさせられた。

どうしても許されない犯罪者がいる。それも、時効を成立させた犯罪者。まして、その被害者が、身近な人間で、あどけない子供なら…。

将来を約束された検事が、他の事件で逮捕された犯罪者(時効事件の本星)を獄中に送るため、いや、死刑囚にするために、自ら罪人になる…そんな物語だが、最初は、「そんなバカな!」と、呆れていたものの、最後はその検事の深い思いに同調せざるを得なかった。

その検事の弟子である男が最後に発する咆哮は、この本を読んでいる自分自身の叫びであるかのような錯覚に陥った。力作だと思う。

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