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ミステリの祭典

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アルキメデスは手を汚さない

作家 小峰元
出版日1973年01月
平均点4.25点
書評数16人

No.16 6点 ʖˋ ၊၂ ਡ
(2023/12/22 13:03登録)
妊娠中絶のミスで女子高生の娘を亡くした父親が「アルキメデス」というダイイング・メッセージを手掛かりに相手の男を探り出そうとすると、娘のいたクラスで毒殺未遂事件が起きる。さらにクラスメイトの姉が自殺し、その愛人が殺されるという事件が続き、謎はますます深まっていく。
ダイイング・メッセージ、アリバイ崩し、日本間の密室など盛り沢山の趣向に加えて、反体制的でしかも保守的な当代の高校生の生態描写が新鮮で、時代と年齢を超えて楽しめる青春ミステリに仕上がっている。

No.15 6点 人並由真
(2020/10/24 15:06登録)
(ネタバレなし)
 1972年10月3日。大阪の豊中市で、豊能高校の2年生だった女子、柴本美雪の葬儀が開かれる。世間には病気による急死と公表されたが、実は子宮外妊娠で堕胎を行った中での頓死だった。その美雪は最後に「アルキメデス」という、謎の言葉を遺した。美雪を溺愛していた父親、大手工務店の社長・健次郎は、娘を妊娠させながら頬被りしているものが娘の学友のなかにいるのでは? と推察。ゴロツキ男・芳野宏六に金を渡して調査に当たらせる。だがそれと前後して、美雪が在籍していた豊能高校2年2組の周辺では、不可思議な砒素中毒事件が発生。やがて事態は、予想もしなかった殺人事件へと連鎖してゆく。

 第19回(昭和48年度)乱歩賞受賞作品。
 当時、結構話題になり、ベストセラーにもなった作品だが、たしかミステリマガジンの新刊書評でもSRの会の会誌「SRマンスリー」での合同評でも、ともに評価はさんざん。
 ミステリファンになりたてのコドモ時代の評者は、こういったマニア視点の批評? のインフルエンスをもろに蒙り、肝心の実作を自分の目で読みもしないまま、尻馬に乗って周囲に聞いた風な悪評をまき散らしていた記憶がある。今から思うとサイテーだわな(汗)。猛省の極み。
 
 それで数日前に仕事関連で駅二つ分くらい離れた場所に久々に行く機会があり、その少し先のしばらく覗いていなかったブックオフで、一番はじめの旧・講談社文庫版(1976年発売の第9刷目。状態だけはかなり良い)を100円均一の棚から買ってきた。

 前述のような過去の経歴というか屈託があったものだから、ほとんど買ってすぐ読み始めたが、ああ、なるほど、文章は平明でリーダビリティはかなり高い。当時よく読まれたというのは、分かるような気がする。
 メインキャラのひとりで半ば悪徳不動産屋の健次郎ほかの大人たちの何人か、さらに肝心の高校生たちのキャラクターは露悪的に書かれてもいるが、たぶんそれは作者の狙いとして読んでいくうちになれてゆく(一方で捜査陣の野村巡査部長ののほほんとしたキャラクターは、いい中和役になっている)。
 全体としては(スナオな)青春ミステリとはとても呼びたくないが、刊行当時に貼られた作品のレッテル「青春悪漢小説」ならそれは了解できる、という感じであった。
(ただし今の視点で見ると、高校生全般って、もうちょっと目上の者に対して敬遠的な言動をするだろうなあ、という印象もあるが。)

 ミステリとしては、冒頭の美雪の死は殺人でもなんでもなく、妊娠させた相手探しという謎の興味が小さいが、それが物語の段階的に中毒事件、そして殺人事件へと深化していく。このあたりの流れはうまいといえばうまい、かもしれない。ただし最後にはギリギリのところでまとめたものの、それぞれの大小の謎の提示が散発的で、(中略)事件の動機もちょっと……。
(……って、思い起こせば、のちのちの別の後年の乱歩賞受賞作品にもこのバリエーションがあるような?)
 アリバイトリック&~崩しの流れの方はそんなに手の込んだものじゃないが、その素朴さが嫌いではない。
 総体的な評としては昭和のこの時代に書かれたことを納得する一方、当方の抱く国産の昭和ミステリの主流のなかからはちょっと外れたところにある一作、という印象。ある面では昭和の後半~末期に向かう過渡期的な空気を感じさせる作品でもあった。

 ちなみにまだ読んでないけれど、望月あきらが本作をたしかコミカライズしていたと思う。ほかの望月あきら作品で知悉している絵柄だけいうと、意外に似合っているのではないか、という感じがする(メインヒロインのひとり、延命美由紀などどんなキャラクターデザインなのか、興味を覚える)。実物の方も、いつか読む機会があればいいとは思うが。  

 最後に、メインヒロインの名前が「ミユキ」でダブっているので、何かトリッキィな仕掛け? かと思ったが、特に意味もなかった。漢字表記の違いで同じ発音の名前が友人同士で並ぶというのもリアルといえばリアルかもしれないが、フィクションでは特に必要ない設定だろうし、むだにややこしいだけなのでは? と細かいところが気にかかった。

No.14 6点 バード
(2018/11/06 11:37登録)
まあまあ楽しめた。
良かった点といまいちと感じた点を挙げると、

良かった点
・流れるようなテンポ。非常に読みやすい。
・タイトル回収をきちんとした。
いまいち点
・柳生を中心に起こる三つの事件の関連性が薄い。加えて重さも一つだけ殺人で、後は大した事無いというバランスの悪さが気になった。
・タイトルが分かりやすすぎるかな?このタイトルで普通に読んでりゃ結末が予想できるので、その点はマイナスとも感じる。
・謎のレベルが小粒。
・姉の自殺のくだりとか、要所で雑な展開も気になった。

このように列挙するとマイナス点が多いな(笑)。特に二つ目のタイトルによるネタバレはミステリとしては致命的かも。でもつまらないとは思わなかったよ。あとキャラはいけ好かない奴が多かったね。自分がそう思っただけでマイナス点ではないですが。
あと小説の感想ではないけども、ここの書評では、思ったより皆さん辛口評価なのね(笑)。

No.13 6点 斎藤警部
(2017/11/11 19:00登録)
義父より借りパク積読しておった一冊。読前の浅はかな憶測を裏切る、分厚く丁寧なミステリ内容の序盤~中盤にどっぷり魅了された。人間ドラマとしてもなかなかシビレる。最終章の独白羅列による構成が素敵。だけどね、その最終章の役割が、既に看破ないし推理されたトリックやら犯人やら事件全体像のおさらいにほぼ過ぎないものになっちゃっててね、わざわざページ数喰ってんだから更にもう一押し二捻りの真相深掘り、或いはロジック構築のミッシングリンク発表でもいいですよ、何らかの付加価値展開で驚かせて欲しかったねえ。でも読中とにかく愉しかったからね。7に迫る6点で余裕の合格。思わせぶりな表題の意味する所が、あまり有機的に真相の中核を貫いていないのは少し残念。 高安(たかやす)関と同じ読みと思われる名前の重要登場人物が出て来るので、その人が登場するたびに高安関のテッポウ姿をいちいち連想せずに読み進める事も重要です。「俺の若い頃と歌謡曲は一向に進歩しておらん」なる当時の中年刑事のつぶやきには笑いました(波止場とか女の涙とかそんなんばっか、ってことらしい)。 ところで田中はなかなか面白い奴だ。演じるなら若造りで山田孝之だな。主役喰うべな。

No.12 4点 アイス・コーヒー
(2014/03/27 15:12登録)
江戸川乱歩賞受賞作。トリック云々以前に、70年代の青春ミステリだけあって、やはり時代背景が古いと感じた。

密室やアリバイ崩し、犯人捜しなどの本格要素が数多く登場する本作だが、トリックも推論も特筆するほどではなく、そもそも殺人の必要性が感じられない。いや、女子高生の美雪が中絶手術に失敗して死亡する、冒頭の事件すら必要なかったのではないだろうか。青春小説を無理矢理ミステリにして失敗したように思う。(あの気合の入った見取り図は何だったのか。)
肝心な高校生たちの描写にも疑問が残る。真相や彼らの人物関係は置いておくにしても、様々な要素を詰め込みすぎで、結局作者が何を云いたのかがよくわからなくなっている。「アルキメデスは手を汚さない」という題名の意味についても、最後の最後で唐突に登場しただけで、ストーリー自体に関わりがあるとは思えない。
少なくとも、後世に読み継がれていく名作にはならないだろう。

No.11 4点 ∠渉
(2013/12/22 00:35登録)
ミステリ好きはどうしてもトリックの弱さがこの作品における一つのネックになっているようで。例にもれず僕もそういう印象を受けました。乱歩賞という看板もあればなおのこと。しかし、解説を見ると選考の時点でそういう話が出てたそうなので、ではここでこの作品がただの凡作か乱歩賞かを分けたのは、青春小説として確立された作品であるということだと思うのですが皆さんの感想を見るとそれも賛否の分かれるところ。
あまりに血色の良い若者がいなさすぎて気持ち悪い感じは否めませんが、僕はここ(青春小説の部分)に好印象を持ちました。若者達が社会や家族、そして犯罪やセックスに独特な価値観を持っていてそれが大人たちとの断絶を生む様はなかなか面白い。その若者達の描写が小気味わるく描かれていて引き込まれました。
それにラストも中々好きです。青春にピリオドを打って終わるところが何とも言えず。
あとはなんといってもタイトルがやっぱり良いですね。手に取って読みたくなる。どういうふうにタイトルと物語がリンクするのだろうかと思っていましたが、それもとりあえず納得。
ただ、やはりこの作品は登場人物の感情や心情の部分しか読ませるところがないわけでもないのですが、非常に弱いのが難点。でもそれを現在に引き継いで深化させたのがやはり東野圭吾だと思います。「放課後」に限らず「卒業」や「悪意」、そして「白夜行」などに本作のエッセンスが含有されたと思います。
柳生隆保の姿に確かに僕は桐原亮司の影を見ました。ふふ。とかいって。

No.10 3点 ナノ
(2013/06/11 17:01登録)
タイトルに惹かれたのもあって読んでみました。
初出版は40年前ということですが、その隔たりが原因でしょうか。ミステリ的には物足りず、キャラの描き方にも疑問しか残りません。
名作は時が経っても比較的語り続けられる訳で、その点を鑑みればこの作品は時代の波に呑まれてしまった、もう一歩足りない作品だったのかなと感じました。
あと、章ごとのタイトルが適当すぎます。本そのもののタイトルは結構好きなのに。

No.9 3点 mic
(2013/05/01 19:48登録)
いくらなんでも高校生が親が作ったお弁当を学内でせりに出すなど
昔も今も現実には有り得ないだろ。自分の高校でもいなかったよ。
この時点で読む気力が萎えてしまった。悪漢高校生の描き方が失敗
だと感じた。推理的な魅力も薄いし。

No.8 7点 まさむね
(2013/04/30 22:21登録)
 第19回江戸川乱歩賞(昭和48年度)受賞作品。
 「自分が生まれた頃のベストセラーを読んでみたい」という想いがありながらも,長らく我が家で積読状態になっていました。「東野圭吾氏が小説を志すきっかけとなった作品」という情報も後押しして,この度ようやく読了した次第です。
 純粋にミステリとして見れば,皆様の書評のとおり,驚くべきトリックが仕込まれている訳ではなく,そもそも謎解きを楽しむ構成でもないため,決して高い評価にはならないものと思われます。
 しかし,スピーディーな展開に(当時としての)イマドキの若者像が相まって,結構楽しい読書時間を与えていただきました。個人的には,どうしても近年の「青春モノ」と比較してしまうのですが,そのこと自体がなかなかに興味深い。出版から約40年を経てるのかぁ,その当時の主人公たちは,間もなく還暦ってことか…という視点で読むのもまた一興。
 様々な面に敬意を表して,この採点といたします。

No.7 5点 nukkam
(2012/07/11 14:19登録)
(ネタバレなしです) 小峰元(こみねはじめ)(1921-1994)は鮎川哲也や高木彬光に近い世代で、1940年代後半から活動しているのですが短編作品が中心だったためか長らく知る人ぞ知る存在でした。有名になったのは長編第1作である本書を1973年に発表してからで、某出版業界サイト情報によると1974年のベストセラートップ10にランクイン(ミステリー作品としては珍しい)したほどの成功作です。この成功に自信を得た作者は青春ミステリーの書き手として東野圭吾に影響を与えるほどの存在になりました。本書は本格派推理小説ではありますが本格派としての評価は難しく、色々と謎はあるのですがメインの謎が何かについてはやや焦点が定まっていないこと、読者が推理に参加する余地があまりないこともあって謎解きとしてはそれほど楽しめませんでした。やはり青春小説要素の方がこの作品の価値を高めているのでしょう。某サイトの感想で「ふてぶてしい」と表現していましたがまさにその通りで、本書の高校生は「大人になろうと背伸び」しているのでも「大人を拒絶」しているのでもなく、今の自分が人生のピークであるかのように堂々としています。こういう高校生にリアリティを感じるかは意見が分かれるでしょうし、読者にあれこれ考えさせているところに人気の秘密があったのではと思います。

No.6 3点 江守森江
(2010/03/11 00:18登録)
リアルタイムに、描かれた世代と同世代なので、学校の図書室にもあり、クラス内でも評判になった。
当時の私は本格ミステリとして鮎川哲也・天藤真・高木彬光、大人の世界は梶山季之にドップリだったので何ら楽しめなかった。
ミステリーとしては薄い内容で、学生風俗としても時代に飲み込まれ、今では凡作に成り下がった。

No.5 3点 E-BANKER
(2009/10/17 15:57登録)
第19回の乱歩賞受賞作。
今一つ掴みどころのない作品ですね。確かに殺人事件は起こるし、密室は出てくるし(簡単に謎は解けますが)、アリバイ崩しも出てくる(偶然に謎は解けますが)のですけど・・・
本作はそんなことよりも、当時の高校生のニヒリズムやセックス観というものの方が印象に残ります。
最終章での田中君(登場人物です)の実利主義に徹した言葉もなんか虚無的で、発刊当時はそんな時代背景だったのかなぁと考えさせられます。

No.4 7点
(2009/05/09 08:32登録)
このサイトではかなりきびしい評価ですね。びっくりしました。
高い点数をつけるのに勇気がいりますが、気を取り直して評価してみます。

「アルキメデス」という不可解な言葉を残して死んだ少女。この冒頭の謎は読者を惹きつけてくれるのですが、全体的にはフーダニット、ハウダニットのいずれの要素も不十分で、小粒な感じがします。それにトリックは皆無といってよく、とうてい本格ミステリを構成していません。
また、4つの事件を結び付ける真相、動機は、ある高校生グループの思想にもとづくものですが、これについてもすぐに納得できるものではありません。
しかし、動機の内容はともかくとして、その真相で4つの事件を結び付けていく後半のストーリー展開には唸らされます。このようにスムーズに結び付けてくれれば、希薄であったはずの動機にも、高校生ならこの程度かと納得してしまいます。
それに、プロット、ストーリーがいいので、テンポよくさっと読ませてくれます。
ただ、4つ目の事件については、事件自体は必要なのですが密室にする必要はなかったのでは、と思います。乱歩賞を狙うには密室が必須だったのでしょうか。とにかくこれはアクセント程度です。

このように問題もあるのですが、十分に楽しめたし、記憶に残る良作品でした。なんといっても私の場合、横溝、清張についで、ミステリの世界に引き込んでくれた作家、作品ですから、思い入れもありますね。
なお、本作は当時、ある深夜ラジオで、「ピカレスク青春推理」と紹介されていました。世間に斜に構えて生きる高校生を主人公としたこの小説には、こんな呼び方がぴったりです。

No.3 1点 ロビン
(2008/12/30 11:23登録)
こんなのは青春ミステリーじゃない。「青春」としてもいまいちで、「ミステリー」としてもいまいち。特別な仕掛けがあるわけでもなく、どろどろで自分勝手な世界がただ描かれているだけ。冒頭から中盤までは、自分の年齢的に彼らに偏った見かたをしていたが、真相が明らかにされていくにつれて理解不能に。
現代よりも昔の高校生のほうがよっぽど恐ろしいぞ。

No.2 1点 あびびび
(2008/10/18 17:24登録)
読書に興味のないころ話題になった本であり、あの東野圭吾が本作で読書に目覚めたというふれこみで読んだが、こんなもんだったのか…とむしろ驚いた。

印象に残ったシーンがほとんどなく、読み切るのに苦労した。

No.1 3点 いけお
(2008/10/16 22:00登録)
キャラクターもトリックも動機もプロットもいまいち。
意外性もない。

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