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ミステリの祭典

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殺人交叉点
別邦題『殺人交差点』/文庫版は長編『連鎖反応』を併録

作家 フレッド・カサック
出版日1959年01月
平均点7.16点
書評数19人

No.19 7点 メルカトル
(2021/05/05 22:51登録)
十年前に起きた二重殺人事件は、きわめて単純な事件だったと誰もが信じていました。殺人犯となったボブをあれほど愛していたユール夫人でさえ疑うことがなかったのです。しかし、真犯人は私なのです。時効寸前に明らかになる驚愕の真相。’72年の本改稿版でフランス・ミステリ批評家賞を受賞した表題作にブラックで奇妙な味わいの「連鎖反応」を併録。ミステリ・ファン必読の書。
『BOOK』データベースより。

表題作は巧妙なプロットの裏に、そっと仕込まれた仕掛け。見事にやられました。最後の最後までそれが非常に上手く隠蔽されていて、全く気付かずに読んでいましたので、久しぶりにかなりの衝撃を受けました。訳者の平岡敦も結構気を遣いながら苦労の翻訳だったのではないかと思います。これまた見事な仕事ぶりでしたね。ややこしくなりそうな人間関係を端的且つ解りやすく説明されており、混乱することなく読み進める事が出来ました。その辺りにも作者の力量が伺えます。

一方併録の『連鎖反応』は数段落ちる印象でした。途中ダレてしまってちょっと頓挫しそうになりました。あまりお目に掛かったことのない動機が目新しかった以外は、これと言って面白みがあるとは思えませんでした。ユーモアミステリらしいですが、そうでもない気がします。こちらはなかった事にして7点を献上。

No.18 7点
(2020/10/07 12:44登録)
『殺人交叉点』
どのような最後の一撃なのか、と待ちかまえながら読んだが、待ちかまえること自体が受ける衝撃を小さくしてしまったようで、ちょっと損をした。
それに、いまでは叙述トリックの数ある態様のうちの1つだから、どこかで読んだスタイルだなと思ってしまう。
とはいえ名作であることにはちがいなしだろう。

『連鎖反応』
フランス流・会社派サスペンス。
個人的には新しいスタイルのミステリーだった。
会社が舞台で身近に感じられたのもいいし、本当は恐ろしいことなのに、ユーモアたっぷりに明るく描いてあるのもいい。
それでいてサスペンスも十分にある。
アランドロンの映画作品も観てみたい。

No.17 8点 HORNET
(2019/07/07 20:48登録)
 表題作と、「連鎖反応」という中編との2編が収録されている。

 表題作については…やられましたね。読み進める中で自分の内に、作品の年代から「ちょっと形を工夫した、通り一遍の倒叙モノかな」と高を括っていたところがあった。見事にやられた。
 読者へのミスリードが非常に巧み。そっち方面の仕掛けとは露ほども疑わず読み進めていたから、衝撃はなおさらだった。それほど自然に仕掛けに引き込んでいるのは、作者の腕だと思う。

 2作目の「連鎖反応」は、計画する殺人計画が行ったり来たりして、だんだん読むのに倦んできていたが、ラストで目が覚めた。
 海外古典は名作の宝庫だな…と思ってしまった。

No.16 6点 レッドキング
(2018/06/18 21:41登録)
十代の頃からミステリの中に こういった表現があるのに気づいてはいたが 「殺戮にいたる病」でそれが「叙述トリック」っていう特別なジャンルであることを知った その元祖がどのへんなのかは知らんが これはその優等生的な模範作のように思われる

No.15 5点 クリスティ再読
(2017/12/24 23:19登録)
「殺人交叉点」は3回翻訳されていて、最初の2回の「殺人交差点」(訳題が微妙に違うのに注意。岡田真吉/荒川浩充訳)は57年の版を、最新の「殺人交叉点」(平岡敦訳)は72年の版を底本にしているのだが、評者は荒川訳の「殺人交差点」と平岡訳の「殺人交叉点」の両方が手に入ったので、読み比べることにしよう。
少なくとも、1点の問題を除いて、日本語で読む限りあまり違いはない。犯行年月日を5年ずらして風俗的な描写をアップトゥデイトしたに過ぎない感じだ。ただ、旧訳は第Ⅱ部の初めで、本作のどんでん返しのネタバレをしてしまっている...訳者が「訳しづらい」と考えて意図的にしたのだろうか?それにしてはツマラないことをしたものだ。そうでなくても日本語の翻訳は、いわゆる「役割語」が重要なので、第Ⅰ部を読んでいても敏感なら違和感を感じるのではなかろうか..まあ、旧訳を読むのは、当たり前だがオススメできない。新訳だけを読むべきだ。だから新版の改良点というのは風俗面のアップトゥデイトと、ほぼフランス語としての完成度を高めただけのことだろう。
ただ、評者は1点非常に気になる点がある。それは「ルユール夫人はどうやって真犯人の名前を知ったのか?」という問題である。恐喝者は真犯人の名前をルユール夫人に教える義理はまったくないし、どっちか言えば、教えることが恐喝者の利害と矛盾するわけだ。心理的にも機会的にもまったく納得がいかない。本作は、犯人が犯行を晦ますためにトリックを弄しているのではなくて、作者が読者をひっかけるためにトリックを弄している小説である。だから、本作の眼目は「読者をひっかけるトリックが、結果的に登場人物をひっかけることになる」というあたりなんだろうけども、ここで「犯人の名をどうやって知ったか?」を曖昧にするのは、作者の都合によるズルのような印象を受ける。まあそもそも、最大のひっかけ材料は、構成的な枠組み的な部分であって、ストーリー的な内容部分ではない付加的な部分なのだから、そもそも「仕掛けていることが世知辛い」印象を受けるようなものだしね。
...まあだから、ストーリー的な部分はわりと面白いのだけども、何かこましゃくれたような賢しらを感じて評者はイヤな気分になったな。というわけで、ちょいと減点します。「連鎖反応」はそういう傷はないけども、極めてフランス的な幾何学精神が、どうも作り物めいていて不思議。わからなくもないが、ファンタジーみたいな感覚。
(あと面白いことに、旧訳は小道具の8ミリを、9ミリと訳している。要するにカメラはもともとパテ・ベビーだったわけだ。新版で作者が時代遅れだと思って変更したのだろうか?それとも訳者の親切心か?)

No.14 9点 斎藤警部
(2016/12/08 00:59登録)
ラスト、性質の違う二つの叙述トリックが凄まじい音圧でぶつかり合う、圧死は免れ得ない覚悟の突撃作です。衝撃のあまりページの間から土煙の匂いさえ立ち昇りました。こりゃ『肉体派叙述トリック』って呼びたいサ。物語そのものがスリル&サスペンス充満だし、そいつと表裏一体の叙述のナニだし、とにかく読んで最高ヤラれて最高、肚の座った充実の逸品だ!

No.13 8点 あびびび
(2016/04/03 12:16登録)
表題作の「殺人交叉点」は、最後の一撃がなくとも面白い作品だったが、やはりその一撃にやられた。すぐに読み返してみると、なるほど、会話のほとんどがそうであった。このトリックは、いくつかの作品でおなじみ?だが、創案者なら凄い。

もう一遍の「連鎖反応」もアラン・ドロンなどで映画化されたほどだから十分に楽しめた。独特の語り口を持つ作家で、自分には水が合っていた。フランスミステリも興味深い。

No.12 6点 ボナンザ
(2014/04/08 17:12登録)
どんでん返しが実にうまい。
おまけのつもりの連鎖反応も意外に秀逸で、カサックという作家を見逃していたことを反省した。

No.11 7点 アイス・コーヒー
(2014/01/23 19:23登録)
中編「殺人交叉点」と「連鎖反応」を収録。

表題作は「最後の一撃」が見事に決まる名作だった。原書ではフランス語の形容なども含めてさらに緻密な伏線が仕組まれているらしいが、日本語でも十分楽しめる。何より心理作戦がうまい。フェアな本格ではないがサスペンスとして大満足。壮絶なラストは一見の価値あり。ところでタイトルの真意は何だろう。あと、作中の大学生のグループは動機の温床すぎる気がした。
「連鎖反応」も皮肉なブラックジョークが利いていて、伏線回収がうまい。まさに「連鎖」。謎の語り手が友人の殺人計画について読者にかたりかけてくる異色さが何とも言えない。あえて疑問を言うとするならば、観光協会の組織像だろう。縦のつながりが強すぎて、横のつながりが弱いように思う。どっちにしろ現代の複雑化した会社組織では起こりえないはずだ。

ところで、両編ともソメ警部なる人物が登場したが、いったい彼は何者だろうか。イマイチ人物がつかめなかった。

No.10 9点 蟷螂の斧
(2013/05/28 17:23登録)
①殺人交叉点は、1957年の発表(1972年改訂)で、まさに「最後の一撃」に値する作品でした。現在では、同様のモチーフの作品は数多く、かなり高評価を得ているのでは?と思います。従って、本作は、先駆的な価値が非常にあると思います。(このような先駆的作品に出会うことも読書の楽しみの一つですね。日本では、小泉喜美子氏の作品あたりか?・・・)②連鎖反応も、ブラックユーモアにあふれた良作です。特に語り部の雰囲気がなんとも飄々としていて楽しめました。

No.9 7点 E-BANKER
(2011/11/05 21:39登録)
フランスミステリ批評家賞受賞作。
創元文庫版では「連鎖反応」を併録。
①「殺人交叉点」=文庫版あとがきで触れられてるとおり、「最後の一撃」が読者にガツンとくる作品。
~10年前に起きた二重殺人事件は、きわめて単純な事件だったと誰もが信じていた。殺人犯となったボブをあれほど愛していたルユール夫人でさえ疑うことがなかった。しかし、真犯人は別にいた。時効寸前に明らかになる驚愕の真実とは・・・~

この結末は十分予想できたはずなのに、見事ヤラレてしまった・・・という感じ。
他の方の書評どおり、「叙述トリック」としては初歩的ですが、それだけにスッキリとした後味になります。
(シンプル・イズ・ベストっていうことかな)
確かにねぇ、後から読み返すと、母親との会話(お金の無心に行く場面ね)なんて、違和感プンプンで、うまく騙してる。
最近では、本作をベースにしたかのような作品が溢れてますので、その元祖的作品を味わうのも一興でしょう。

②「連鎖反応」=愛する女性との結婚を間近に控えた主人公に告げられた、愛人からの妊娠の事実。そこから主人公の苦悩が始まる。主人公が選択したのは、上司の殺害による自身の昇進&昇給。(これで、子供の養育費を捻出しようということ)
そして、主人公が望んだ以上の結果が得られ、幸せな未来が見えてきた矢先に・・・訪れる悲劇!

これは、皮肉な結末だねぇ。まぁ「勧善懲悪」ということなのでしょうが・・・
普通なら、○○で終わるところ、本作では、視点人物の「解説(?)」を最後に付け加えてるのが特徴的で面白い。そして、そこにまでラストにサプライズが仕掛けられてる。
なかなか小気味いいし、よくまとまってます。
(①②ともお勧めできる良作というレベル)

No.8 9点 take5
(2011/08/10 23:01登録)
他の方も書いていられますが、
短・中篇物として、フランスらしい(翻訳の力量なのでしょうが)素敵な作品です。
今読んでもエンディングでなるほどと思いますから、これが50年残る作品ということです。

No.7 9点 abc1
(2011/01/09 16:18登録)
「最後の一撃」に目を奪われがちだが、リーダビリティの高さも含め、構成が実に上手い。個人的には『連鎖反応』の方がもっと面白かった。満足。

No.6 6点 kanamori
(2010/08/29 12:31登録)
この種の叙述トリックは今では珍しくもないが、50年前の作品ということで貴重な逸品といえるのではないでしょうか。これを読んだ頃は、まだ”叙述トリック”という言葉自体なかったですからね。
再読時には、フランス語の文法上、原書ではあの叙述はどう処理されているのかとか、物語と別のところに興味がいきました。
併録の「連鎖反応」も、いかにもフランス・ミステリという趣で、最近復刊されたシニアックの某作を彷彿させる皮肉が効いた作品でした。

No.5 3点 清涼水
(2009/11/03 22:51登録)
残念だが、今だと全然驚けない。

No.4 5点 りんちゃみ先輩
(2009/05/30 20:30登録)
トリックは国内物で何度か出会っており、さらに「最後の一撃」があることを承知で呼んでしまったので、いま一つでした。夫人とか警部が真犯人であれば、それこそびっくりですが・・・。作品としては短くまとまっており読みやすく楽しめた。もっと昔に読んでおくべきでした、後悔です。

No.3 8点 ロビン
(2008/10/11 23:49登録)
くは~。そういうことか。脱力。そして爽快。
この手のトリックは国内物ばかりかと思っていたら、だいぶ昔から海外でも存在していたみたい。なんとなく『弁護側の証人』を髣髴とさせられるところがあるが、あれは読者を騙すためだけの物に対して、こちらは読者も作中の人物たちも皆騙されてしまいます。まあ、アンフェアだとか野暮なことは言いっこなしで笑。

No.2 7点 レイ・ブラッドベリへ
(2008/07/06 02:14登録)
 「サプライズ・エンディングものの傑作」との紹介があったので読んでみた。
「でもこれって、フランス人の書いたミステリだよな。このまえ読んだ『シンデレラの罠』みたいな“フランス風のエスプリの効いたシャレた物語”だと良くわからないし…。オレでも、ちゃんと驚けるのかな。」と思いながら、おそるおそる読んだのだが、最後の種明かしでビックリ出来てホントに良かった(笑)。

 典型的な〇〇モノだった。いや、それどころか、(僕はこの種のミステリは余り読んでいないので詳しくは知らないのだが)この本って、この種のトリック(?)としては「草分け的」な存在じゃないのか?
解説を読むとこの作品は1957年の刊行とある。国内のアレやソレなんかよりズッと早いんだよな。やっぱりそうなのかな?

 この種のモノは(結局は)ワン・アイディアの勝負となってしまうので、作者はつい余分な世界観や薀蓄を織り交ぜて、小説として厚みをつけようとしがちだが、この作品はトリックだけを際立たせる書き方をしていて潔い。中篇として簡潔に纏まっている印象を受けた。

 それから…。あとはもう全く個人的な感想となるのだが、全般的にこの種のトリックのものを読むと…。
作者が、自身の持っている作文技術を駆使して、読者に一生懸命「あのように」思わせておきながら、最後になって「いや、あれは実はこんなんだったんですよ」と得意げに言われると、何か文芸上の詐欺に遭ったような気がして…(笑)。
 いまだに本格モノを信奉する、保守的で生真面目な一読者としては、「なんで今頃そんなこと言い出すんだよ、オレは元のままでいいよ。大体どっちでも、物語としてはちゃんと成立するんだろ?」と作者にカラミたくなる時もあるのだ。(むろんジョークである。笑)。

 それはそうと、この本に併載されている「連鎖反応」や、「シンデレラの罠」もそう思ったのだが、フランス人の奔放な男女間のおつきあいの有様にはビックリしてしまい、いまだに古くさい儒教的倫理観を引きずっている東洋のキマジメな一読者としては、「オマエら、そんなコトばかりやっててイイのか!」とツッコミのひとつも入れてみたくなるのである(笑)(…少しホンキである)。

No.1 10点 こう
(2008/05/12 00:35登録)
短くて読みやすいです。同じようなアイデアを使った新本格の作品もありますが先にこれが読めてラッキーでした。一緒に載っている連鎖反応も面白いです。
 昔はこれとバリンジャーの歯と爪くらいしかサプライズエンディング系は簡単に手に入りませんでしたのでそれを評して10点です。歯と爪よりは現代でも受け入れやすいかなと思います。

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