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ミステリの祭典

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死の命題
蜘蛛手啓司シリーズ/別題『屍の命題』

作家 門前典之
出版日1997年09月
平均点6.22点
書評数18人

No.18 8点 パメル
(2023/08/11 06:39登録)
焔水湖のほとりに建てられた別荘・美島館に招かれた6人の男女。数年前に遭難して行方不明となった美島総一郎教授の遺志を受け継ぎ、夫人の手で落成されたその館で、一人また一人と殺されて誰もいなくなった。
吹雪によって山荘に閉じ込められた6人。まるでクリスティーの「そして誰もいなくなった」のように次々と殺されていく大虐殺。本書の素晴らしいところは、用意された凄まじいバカトリックもさることながら、大技を支える細かいところにも大技が組み込まれているところにある、特に密室と奇怪で禍々しい巨大なカブトムシの亡霊の謎とその解決は、恐ろしいまでの意外さを内包しており、強烈な印象を残すとともに笑いが込み上げてくる。
どうしてもバカトリックに目がいきがちだが、異形のロジックも健在であり、このロジックが大胆不敵なトリックを支えているのは明らか。さらに読者への挑戦状、被害者をつなぐ豪快なミッシングリンクに、最後の最後で明らかになる悪魔的真相と本格ミステリ好きにはたまらない奇想趣向が詰まっている。あまりにも奇天烈なので人を選ぶ作品であるが、インパクト抜群なエンターテインメント大作であることは間違いないだろう。

No.17 7点 E-BANKER
(2022/09/11 14:29登録)
原書房のミステリーリークでの配本の一作。当初は「死の命題」として刊行されたものを、改稿のうえ改題までして再度発表したもの。(それだけ本作への愛着が分かろうというもの・・・)
蜘蛛手啓司を探偵役とするシリーズの一作目でもある。
改題前のものは1997年の発表。今回は改題後の「屍の命題」にて読了。

~信州の山奥のとある湖畔の別荘。そこに集められた6人は、やがて全員が死体となって発見された。なぜか死亡時刻も死因もバラバラだった・・・。「犯人」はなにを意図していたのか。究極の「雪の山荘」ミステリー、ついに刊行!~

前々から気になっていた作者、作品を今回無事読了。
本作の「メイン・プロット」って、本格作家なら誰もが書きたい、読者なら誰もが読みたい、って思うものではないかと推察する。
ただ、如何せん困難。この「メイン・プロット」を破綻なく表現することは、恐らく非常にハードルが高いんだと思う。
(CCでなければ、我孫子武丸氏のあの作品が思い出されるのだが・・・)
で、本作なのだが、確かに破綻はしてない。してないけど、他の方もご指摘のとおり、大変無理のある箇所が目立つつくりになってしまっている。
「偶然の連続」というのは、恐らくそう来るんだろうな、というのが冒頭からある程度分かってしまったのでそうは気にならなかった。
だから、「京華」殺しのあの解法も、恐らくそういう筋なんだろうなぁーという予想が薄っすら付いていた。
ただ、いくらなんでも。あの「断頭台」はなぁー
これ、作者がどうしても入れたかったのかなぁ? 直後の死を予想した人間が、いくら恨みがあるからとはいえ、断頭台に向かって一直線とは、あまりにもえげつなさすぎる。(その後の死体の動きもスゴイが・・・)
それと最後の死となる「篠原」殺し(?)。これも相当なプロバビリティではないか?
「メイン・プロット」を成立させるうえで、この当りの齟齬がどうしても目に付いた。

そして、大方の謎の解明が終わった後の、「影の黒幕」指摘。これは、非常に分かりやすいものになってしまった。(ただ、これはそもそも無理があるでしょ!)
まぁ、「メイン・プロット」成立の条件だとは思うので、こういう筋を入れなければならないのだろうけど、あまりにも特殊性が強調されすぎたため、大方の読者が察してしまうことになったのかな。

「ある特異な建物に閉じ込められたグループ」→「順番に殺害されていく」→「手記が残されていて、警察や探偵が手記を元に過去の事件を捜査」→「密室をはじめとするトリックの解明」→「真犯人とともに影の黒幕を指摘」
この流れって、個人的にどうしても二階堂氏の「人狼城の恐怖」を思い出してしまう。もちろんメイン・プロットは違ってるけど、この形式って、本格ミステリーの王道なんだということが改めて分かる。(確かに「手記」は仕掛けが施しやすいからね)
いずれにしても、本格ファンなら一度は読むべき、ということだけは言えると思う。もちろん、評価はそれぞれでしょうけど・・・
私は・・・やっぱり好きだな。

No.16 8点 sophia
(2022/04/19 22:39登録)
改題・改稿作品「屍の命題」を読みました。序盤で面白そうという感触を得たものの、中盤から矢継ぎ早に起こる事件があまりに常軌を逸しているため、これは納得できるような解決編は期待できないのかなと思って読み進めたのですが、鮎川哲也賞選考会で当の鮎川哲也氏が推したのも頷ける仕上がりで凄まじい作品でした。個々の事件は割と荒唐無稽でしょうもないのですが、それらは恐らくはこっちを実現するための手段にすぎないのだろうという一連の事件の全体像に感服しました。伏線であることを示す点々をそんなに打たなくてもいいと思わなくはないのですが、ある人物が「驚いた顔でコーヒーカップを握りしめて立っていた」という伏線は大変よかったです。
余談ですが「うほっ、うほっ」という擬声語はやめてもらえませんかね。もしかしてこいつゴリラなのか?とかいらぬ推理をしてしまったので(笑)

No.15 5点 Kingscorss
(2020/08/23 20:55登録)
屍の命題(2010年新装版)の方を拝読。

バカミスに分類されがちな本作、そのとおりの結末なんですが、自分の中ではバカミスと言うよりは出来の悪い本格ミステリーという感じ。

確かに謎は興味を引くものでしたが、その結末や真相がちょっとありえないもの。うーん、なんというか偶然を2つ以上使うと最早ミステリーとして一気に白けてしまう気がするんです。

その他、気になったのは、最初の殺人までがかなり長くて冗長なのと、探偵がこんな偶然の重なりまくった真相をたったアレだけの材料で完璧に推理するのがありえなかったです。あと全体的にミステリーが薄味に感じました。

プロットは特に文句もないんですが、各人物の行動がプロットを成立させるために強引な行動をさせてしまうのにちょっと興醒めしました。
例)毒盛られたとすぐ気づいたのに、毒を吐こうとか治療しようとか思わずに超重労働の〇〇しちゃうとか。毒で苦しいのにそんな事できないと思うんです…

最初に読者への挑戦があり、まともに推理しようとするとバカを見るので真面目に読まずにバカミスとして読めばそれなりに面白いんじゃないでしょうか。割とぶっ飛んだ結末、ミステリー・リーグの叢書なので、そういうのが好きな人にもおすすめです。

ただ、自分はバカミスが好きな方ですが、これは合わなかったです。

No.14 7点 レッドキング
(2018/05/20 19:16登録)
こういうの好きだ。昔から「AがBに殺され、BがCに殺され、CがAに殺され」ってエッシャー騙し絵みたいのを探してた。きっといくらでもあったんだろな。麻耶雄嵩の短編で理想的なの見つけたけれども、これも面白い。あの「雪上の天女への突進」と「巨大カブトムシ」の「トリック」もええなあ。
※再々読の結果、当初の8点評価はいくらなんでも甘すぎと7点に訂正。

No.13 2点 ねここねこ男爵
(2018/05/13 11:51登録)
バカミスにもなってない作品。前半で登場人物の口を借りて語られる推理小説観があまりにも薄っぺらいので嫌な予感はしたのだが。

オリンピック金メダル級の超人的身体能力をもった少なくとも3人以上の人間達が、死が近づいたときに助かろうとするのではなく状況を不可解にするためだけに超人的な力を発揮し、さらに万馬券級の運に恵まれてようやく…という。
「確率がゼロでない限り、偶然的であってもそれは偶然ではなく必然」(←この台詞、日本語を生業としてるのに正気か?と思う)「私は偶然というものを信じない」と言いつつこれでは…(これは狙って書いている節もあるけど)。そんなこと言ったら、隕石が降ってきていい感じに当たって死んだ、という確率もゼロじゃないぞ?誰もが知ってる超有名作家の作品に前例がある。
読者への挑戦が本来の意味ではなく仕掛けの一つということは分かるが、超重要証拠が解決編でどんどん後出しされるので衝撃もへったくれもない。
目に余る点は他の方が評価で書かれている通り。『とにかく読者の予想を外してやろう』『何が何でも前例のないものを書いてやろう』『この犯人と被害者の関係の美しさに読者は感動するに違いない』という歪んだ自己顕示欲のためにどんどん明後日の方向に向いていったのではなかろうか。
特に『被害者達と加害者達が何らかの対称性を持っている』というネタ(全員が被害者であり加害者とか、被害者加害者が一つずつずれてるとか)は本作以外にもたまに見かけるが、ほとんどが作者の「うーん美しい!」という自己満足であって話が面白くなるわけでは微塵もない。と言うか、対称性優先で話がおかしくなったり強引になったりで手段が目的化している典型。皆一度は考えるのでオリジナリティ皆無だし。黎明期ならともかくこの時代でいまだにこんなことをしてるとか…

バカミスは「細かい整合性を気にしてたら書けないとんでもなく壮大なアイデア」があって初めてバカミス足り得るのに、本作は苦しい言い訳を連発し、作者は苦しいと思っていないように読める。ひょっとしたら何か秘められた狙いがあったのかもしれないが、自分には分からなかった。ただ、確かに必読ではある。

***********
不勉強で知らなかったのだが、原書房のミステリー・リーグというのはこういうミステリを出版するところらしい。知らずここの本を何冊も読んで違和感を覚え、調べて知った。
論理性よりびっくり仰天重視なら楽しめるのかも知れない。

No.12 4点 響の字改
(2017/05/29 22:43登録)
「雪の山荘」「連続殺人」「異形の影」「そして誰もいなくなった」「読者への挑戦」と
題材はソレっぽいんだけど煮詰め方が薄いと言うか
割と早い段階から『素材を王道には調理してませんよ』というサインがあちらこちらから感じられて物語に入って行けない感じですな。

この手のプロットはやっぱり一人また一人と幕間に消えて行く過程で極限さや焦燥、微かな手掛かりや違和感を丁寧に描写して読者をもっと没入させて欲しい、と思うんですよ。

世間でバカミスと評されてはおるんですがバカにもなり切れてなく
もう少し巧く纏めたら正統派として勝負できたのに、という感想。

・・・終盤で犯人が仮面を捨てて正体を現す例の下り、アレは例えバカミスだろうと度か過ぎると思ったのは私だけでしょうか(;´・ω・`)

No.11 7点 メルカトル
(2016/07/24 21:56登録)
雪で閉ざされた山荘というクローズド・サークルものにありがちな、前半はやや退屈で殺人が起こるまでが長い。探偵の蜘蛛手が登場するあたりから、俄然面白くなるのでそれまでは我慢が必要か。
かなり以前の作品とは言え、携帯電話はすでに普及しているはずだが、6人のうちだれも携帯していないのはやや不自然な気がする。他にも探せば不自然な描写がみられるかもしれないが、極力整合性を保とうとする姿勢などに苦心が感じられる力作だとは思う。
バカミスとの声が多いが、私は意外とそうでもないように感じる。確かに真相はそんな無茶なと思うが、それを言い出したらキリがないので。それにしても巨大カブトムシの亡霊の正体には戦慄を覚える。これほど意外な奇想はそうはお目にかかれない。よって、それだけで高得点を与えられる資格を持つものと、個人的には信じたい。

No.10 5点 ボナンザ
(2016/05/28 18:28登録)
翼ある闇のような馬鹿ミスであるが、全体を覆う真相がそこまででもないのが少し残念。

No.9 7点 nukkam
(2015/06/21 22:52登録)
(ネタバレなしです) デビュー作である蜘蛛手啓司シリーズ第1作の本格派推理小説です。元は「唖吼の輪廻(あこうのりんね)」(1996年)という作品で、それを改訂して「死の命題」として1997年に出版されました。思い入れが強かったのか作者は更に改訂して「屍の命題」(私が読んだのはこれ)というタイトルで2010年に発表していますので類似品にはご注意下さい(笑)。なんと冒頭に「読者への挑戦状」が置かれ、雪の山荘に集まった6人の男女、バラバラな殺人方法、更には「そして誰もいなくなった」が示唆されており、謎解き好き読者の心をくすぐります。第一の殺人発生までがやや冗長ですが、そこから先は一気呵成に読めました。真相は奇想的と言ってよく、一般受けは難しいと思いますが丁寧に考えられており衝撃度は相当のものです。かなり無茶なことをやっているのですが死に物狂いで頑張れば不可能も可能になるということですかね(笑)。

No.8 9点 いいちこ
(2015/02/02 20:16登録)
ネタバレせずに論評するのが非常に厳しいのだが、本作のメインプロットは典型的なクローズド・サークルの中で、通常ミステリで常識とされる事実関係を一貫して完全に倒置させる趣向である。
これ自体が相当な奇想である訳だが、冒頭の「読者への挑戦状」に見られるようにフェアプレイを意識しつつ、犯行手段をはじめ非常に徹底したカタチで実現している。
そのため、極めて実現性の低い事象・トリックを複数使っているのだが、プロット全体における必然性に加えて、特にプロローグを活用した巧みな構成力でカバーし、読者の違和感を最大限抑制。
豪快なトリックの陰で、随所に見られる伏線・見立ての活用や人物造形の巧みさも光る。
登場人物の行動が合理性を欠く箇所も散見されるものの、壮大なる奇想に比べれば許容範囲か。
版元がややマイナーであり、入手困難である点で非常に損をしているが、バカミスを愛する人には必読の傑作。

No.7 6点 ナノ
(2013/09/13 02:21登録)
なかなか周りの古本屋で見つからず、久々に4桁のお金を出して購入しました。
その期待に完璧に応えてくれた訳ではないですが、なるほどこれは楽しめましたね。
兜虫の亡霊に関しては翼ある闇の時に似た衝撃を受けました。個人的には確率が僅かにも存在するトリックならそれはOKかなと思うのですが、我慢できない人には本当に我慢ならない作品でしょうね。

No.6 6点 蟷螂の斧
(2012/10/16 22:12登録)
<ネタばれあり>(屍の命題)最初の頁で読者への挑戦状あり。ここでは「そして誰もいなくなった」とあり、興味をそそられます。プロットについては笹沢左保氏(既読)、泡坂妻夫氏(未読)他に前例があるようですが、挑戦状にある「蘇る死者?」の奇想をプラスしているところは評価できると思います。「確率がゼロでない限り-偶然的であっても-それは偶然ではなく必然なのです。」をどう評価するのかということでしょう。奇想は評価しつつも、やはり偶然が2つも重なると、やはり「バカミス」っぽいか?

No.5 7点 黒い夢
(2012/10/04 08:13登録)
皆さんがおっしゃるように色々とひっかかる点もありますが、真相についてはとても楽しめました。
人に薦めるのが難しい作品ですが、個人的には嫌いではないので+1点としました。

No.4 6点 虫暮部
(2012/03/22 10:22登録)
 “奇想”は買うが肉付けが甘いと感じた。
 ネタバレ気味だが気になる点を幾つか。 
 1.毒を飲まされたことに気付いた人はまず吐き出そうとするだろう。“重労働”している場合か。
 2.証拠隠滅が出来なかったからといって、逃げようとせずに自殺するものだろうか。
 3.“何かの拍子に、過去に女子大生を襲ったことがある、というようなことを口にしてしまったのではないでしょうか”って、そんなことペラペラ喋るかなぁ。チンピラじゃないんだし。

No.3 6点 kanamori
(2010/09/20 15:58登録)
閉された雪の山荘を舞台にした「そして誰もいなくなった」型の本格ミステリ。
トンデモ系の個々のトリック、プロット全体の大仕掛け、カブト虫の亡霊の爆裂真相と、バカミス本格パズラーの王道を行く怪作でした。改稿があったにしても、後の鮎川賞「建築屍材」より数段出来がいいし面白かった。

No.2 6点 テレキャス
(2010/05/29 12:47登録)
加筆·修正され再版した「屍の命題」のほうをやっと読みました。
なるほど、これは問題作ですね。
バカミス好きは必見。
奇想天外なトンデモトリック、趣向にニヤニヤしながら終盤を読み進めました。
バカミスが嫌いな方は確実に壁本です。
ぶっ飛んだ作品を読みたい方にオススメ。

No.1 6点 シーマスター
(2009/08/30 20:20登録)
バカミスの定義はよく知らないし、人によってニュアンスの違いもあるだろうが、限りなく現実性の低い現象や偶然や叙述が利用されるにしても(メタではない)ミステリである以上、構成の整合性と最低限の論理性は必須な筈だし、それらを保ちながら不可思議性や意外性が高いバカミスほど「利口なバカミス」となるのだろう。

それはともかく本作品のバカさ加減は半端ではない。
「雪密室と凶器」の真相には怒りすら湧いてこない。
プロローグの「虫」の正体には唖然を通り越して笑うしかない。
恐らくアンフェアな記述もあるだろうし、似た感じの前例がないわけでもないが、全体の構図も大いなる「バカ」である。

個人的には本作と藤岡真の『六色金神殺人事件』を、現代国内の「一読の価値があるバカミス」の双璧と称したい(一般的には「消失」あたりが最右翼かもしれないが、構成の妙においてはこの2作に敵うべくもない)が、寂しい哉、本サイトではどちらも未だ自分以外の書き込みがない。
入手困難かもしれないがコレ系が嫌いでない方は図書館を利用するなりして是非読んで感想を聞かせていただきたい。

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