杉の柩 エルキュール・ポアロ |
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作家 | アガサ・クリスティー |
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出版日 | 1957年01月 |
平均点 | 6.80点 |
書評数 | 15人 |
No.15 | 7点 | 斎藤警部 | |
(2024/10/18 00:37登録) ■幼馴染の若い男女が「結婚しよっか」ともじもじ考えてるところに、幼いころ以来の再会となる薔薇のように美しい女(下人の娘)が現れ、静かな嵐を巻き起こし、やがて彼女は屍体となって発見される。 ■その少し前に「幼馴染」の女の富豪の叔母 .. 病身でそう長くはないと思われていた .. が医者の見立てより少し早くに亡くなっている。 ↑ この二つの死の間に、何らかの連関性は在りや無しや。 疑いは「幼馴染」の女へと浴びせられる。 “冷静にとりみださず、できるだけ短く、感情を交えないで答弁をするということは、なんてつらいんだろう……” 構成の妙スピリットで充満した作品と言えましょう。「本格ミステリの退屈な部分」的なものは徹底排除。サスペンス小説のやり口から借りて来たのか? ハーキーも絶妙のタイミングで登場! その出遭いの相手の立ち位置も最高。 妙に開けっぴろげな恋人たちの会話は、まるでそこに人間関係トリックの新しい地平でも開けているかのように見えました。 「書簡」で埋められた章は、焦点を定められないくすぐりで満ちていました。 それでなくとも手紙の機微、企みが光る一篇でした。 思わぬ所で勃発する探偵合戦も愉し。 使用人階級?に重要人物が配置されているのも何気な何かの誘導かな。 他にも細々した手掛かりやらトリックやらナニやら、小味ながらプチケーキの様にカラフルに並んでいます。(落ちていたラベルの切れ端の件・・) 本作のミソというか大ネタは、アガサ自家薬籠中の「人間関係トリック」を、犯人そのものというよりむしろ、犯行動機の側面推しでナニしたようなアレでしょうかね。 私も実は虫暮部さんと同じ方向の真相を考えたんですよ(但し真犯人とその動機・葛藤については、虫暮部さんほど深くは洞察出来ませんでしたが)。「◯◯の秘密」的なアレについては、あからさまなような、ほのめかしのような、何とも微妙なヒントの出し方なもんで、積極的に「その手に乗るか」とまで行かずぼんやりと疑い続けて終盤いいとこまで来ちゃいましたね。 見事にヤラれました。 んで、裁判シーンのスリリングなこと!! まあ、真相というか真犯人の人間性がミステリ的にもうちょっとキラキラしていたら、より良かったかな。。 物語としては充分キラキラしてると思いますけどね。 特に結末は。。 ジェラードとランパードが同じピッチに揃った! と思って、よく見たら「ランバート」さんだったのは惜しかったですね。 |
No.14 | 7点 | 虫暮部 | |
(2021/12/02 11:13登録) 第一部の終わりで、真相は読めた、と思った。 だがそれは全くの間違いだった。 私の迷推理を開陳します。 ――M嬢の父が、アレは自分の娘ではない、と言っていた。実はM嬢とR氏は兄妹で、急激に惹かれたのも無意識のうちにそれに気付いていたせい。本人達も知らなかった事実にE嬢が気付き(“数々の手紙”に手掛かりが隠れており、看護婦からE嬢にそれが伝わった)、近親相姦を犯させない為に殺害。その内容ゆえに、動機については沈黙を守っている……。 あと、薔薇の種類が何であれ、トリックの成否とは関係無いし、推理に必須の手掛かりでもない。アレは作者の余計なサーヴィスだと思うな。 |
No.13 | 5点 | レッドキング | |
(2019/09/05 11:00登録) ハヤカワ文庫の表紙画、なんで薔薇の絵?と思ったが、ちゃんと理由があった。冷静な判断力を保ちながらも、強くひたむきに異性への情念を抱き続けるのは男とは限らないってことね。クイーンはおろかカーでもこんな女は描けない。 |
No.12 | 5点 | nukkam | |
(2016/08/26 08:36登録) (ネタバレなしです) 1940年に発表されたエルキュール・ポアロシリーズ第18作ですがハヤカワ文庫版の「文学的探偵小説」という紹介がまさにぴったりの作品です。特に前半部はロマンス小説の香りが強く漂う展開です。ヒロイン役であるエリノアの内心をわざと表に出さないことによってかえって読者に印象づけることに成功していると思います。専門知識が必要な手掛かりがあるので本格派推理小説としての謎解きはあまり高く評価できませんが前年の「そして誰もいなくなった」(1939年)とはまるで異なる作風になっていて、クリスティーの作家としての懐の深さを実感しました。 |
No.11 | 5点 | mini | |
(2016/06/28 09:52登録) 漢字間違え易いけど「棺」じゃなくて「柩」なんですよね 世の他のネット書評上でも、クリスティー通を気取る評論家に受けが良い代表例みたいは作品である この作を持ち上げると、作者の隠れた名作を発掘、みたいな気分になるのかも知れない 通を気取っちゃいないが例の霜月蒼氏も高評価だったなぁ 一方で、この作を低評価する方に多いのが、ミステリーにパズル要素しか求めないタイプの読者だ たしかにね、当作は謎解き的には難が有って、例えば動機の点で日英の違いを考慮しても法律上の疑問点が有るし、殺害方法やトリックにしても専門知識はまぁ大目に見るとしてもセンスと言う意味であまり面白味が有るわけでもない、それと他の方も指摘されておられるが後出しジャンケン的な説明も有るしね 私はクリスティーは一部の作しか読んでないから通じゃ無いし、そうかと言ってミステリーにパズル要素だけを求めるような読者でもない 私がこの作をあまり評価していないのは別の理由によるのである この作が通な方に評価が高い理由の一つはメロドラマと謎解きとの融合という要素だと思う、前半メロドラマで後半が謎解き しかし私はそう見事に融合していないと思うのである、どちらかと言えば木に竹を接いだ感じ、チグハグ感有るんだよなぁ それと他の方も御指摘の通り、その前半だが案外と直接の心理描写は少ない、だから書きようによっては後半も同じ雰囲気で書こうと思えば書けたんじゃないかと思うのだけれど こうしたメロドラマと謎解きとの融合を狙った3作、「ホロー荘」「満潮に乗って」と比較してこの作が一番出来が悪いと思っている、3作の中で私が一番好きなのは「ホロー荘」である 何故「ホロー荘」が好きかと言うと、終始同じ雰囲気で押し通しているからだ そういう意味でこの作とか「五匹の子豚」なんかは惜しいと思うのだよな、前半は凄く雰囲気良いのに、後半になってパズルっぽくなってくると失速しちゃう、「満潮に乗って」になるとそもそもロマンス要素がそれほど濃厚じゃないし 結局のところ作者の数多い作品の中で、通の間で隠れた名作扱いされる事の多い作品の中では私は言われるほど出来の良い作品だとは思っていないのである |
No.10 | 8点 | makomako | |
(2016/06/28 08:07登録) この作品は他の評でも言われているようになかなか素晴らしいと思います。どこを探してもこの人物以外に犯人は考えられないといった状況から、ポアロが一人ずつインタビューを行いながら謎を解いていくといった設定はまことに興味深いものでした。 ポアロ自身ももうだめかと思ったような発言を繰り返しつつ、次第に真相に迫っていく。面白いねえ。 以下ネタバレ気味 ちょっと問題なのは後出しじゃんけん風の真相の知られ方であることと、この殺人方法が日本では絶対無理、多分当時のイギリスでも無理だったでしょうと思えることです。こんな危ない方法を選ばなくてもよかったでしょ。失敗したら自分も危ないのですから。いくらでもほかの方法でやれるチャンスがあったと思うのです。 |
No.9 | 9点 | 青い車 | |
(2016/02/22 22:57登録) 今回ポアロが登場するのは長い第一章が終わってからで、主役となるのは恋敵を殺した罪がふりかかったエリノア・カーライルです。彼女はやってないに違いないと思う一方で、状況的には彼女がやったとしか思えないことから、読者はハラハラさせられっぱなしで読むことになります。毒殺トリックはアガサ女史の薬物の知識が活きたものではあるものの一般の人にはわからないものですし、動機もわかり辛い上に地味で印象に残りません。しかし、本作は作者一流のストーリー・テリングを堪能すべきでしょう。これほどヒロインに感情移入した作品は他にありません。 |
No.8 | 7点 | クリスティ再読 | |
(2016/01/15 23:02登録) メロドラマとミステリを意図的に融合させた3作(他は「ホロー荘」と「満潮に乗って」)の中でも一番出来が良いと思う。 良い理由は前半のエノリアの物語と、後半の調査と裁判とを描写を改めてメリハリ感があることだろう。前半を読み直してみると、意外なことに心理描写が少ないのだ。エノリアの主観が大きく影を落としているように感じていたが、それは会話にうまく畳み込まれていて、直接的に心理描写しているのはごくわずかである...だから前半は何もかも曖昧なまま読者が自分にエノリアの心情を引き付けて解釈せざるをえず、後半の調査は前半のエノリア視点に感情移入したその読者のイメージを、再度検証していくプロセスになる。本作は「五匹の子豚」を単純化したような構成のわけだ。トリックというわけではないが、叙述の工夫があるのがいい。 メロドラマ視点では、ヒーローがダメ男なこともあって、評者はあまりメロドラマとしての成り行きが気にならなかったのがいい(「満潮に乗って」はそっちのが気になって困った)。ヒロインの屈折を愛でる感覚で読むと楽しいな。 ミステリとしてはあまりフェアではないが、パタパタとカードの家が崩れるような解決へのスピード感が結構快感。バラに棘がない件は後出しだよね... |
No.7 | 6点 | ボナンザ | |
(2014/08/03 20:05登録) クリスティの隠れた良作の一つ。 内容としては検察側の証人の逆。 つっこみどころは有るが、各登場人物の嘘を暴いていく過程は流石に面白い。 |
No.6 | 5点 | 蟷螂の斧 | |
(2012/02/05 19:13登録) 心理描写を中心とした作品で、面白いとは思いましたが、殺害に至る動機が全く理解できませんでした。(動機は一応説明はされてはいますが相続権が全く不明で、果たして動機となりえるのか?) |
No.5 | 8点 | あびびび | |
(2012/01/20 05:52登録) 「そして誰もいなくなった」や「オリエント急行の殺人」のような大胆さや閃きはなく、地味な作品だと思うが、これは良作。 誰がどう見てもその女性が犯人と言われる毒殺事件を中盤から登場したポアロが、関係者の嘘を一枚ずつ剥いで行く。その心理的描写の素晴らしさ!そしてエンディングも爽やかだ。 超有名な作品でなくても楽しませてくれるクリスティ。これはその典型的な作品だと思う。 |
No.4 | 8点 | E-BANKER | |
(2011/05/31 22:25登録) E.ポワロが登場する18番目の作品。 ミステリーとラブストーリーがうまくミックスされた佳作。 ~婚約中のロディとエリノアの前に現れた薔薇のごとき女性メアリー。彼女の出現でロディが心変わりし、婚約は解消された。激しい憎悪がエリノアの心に湧き上がり、やがて彼女の作った食事を食べたメアリーが死んだ。犯人は私ではない、エリノアは否定するが・・・真実は?~ これは、隠れた(?)名作では!? 最近読んだクリスティ作品の中ではダントツに面白かったような気がします。 事件の鍵は、関係者がついた少しづつの「嘘」と不可解な行動・・・その1つ1つがポワロの灰色の脳細胞によって解明されていく・・・ 途中まではエリノア以外に「これは怪しい」という容疑者も浮かばないまま、最終章へ突入。 裁判シーンが描かれる「第3部」で真相が明かされるわけですが、これまで全くノーマークだった1人の事件関係者が真犯人として糾弾されるカタルシス! 読者が解明するのは厳しいですが、2つの「物証」もなかなか効果的です。(相変わらず知らない薬物が出てきますが・・・) ネームバリューでは、他の有名作に劣りますが、高いクオリティーの良作という評価で間違いないでしょう。 (何というか、実に気品のある作品でクリスティらしさが十二分に出ています。ラストのポワロのセリフもなかなか味わい深い・・・) |
No.3 | 6点 | りゅう | |
(2011/04/25 21:40登録) 登場人物が魅力的で、2人の女性の間の心理的葛藤が丁寧に描写されており、第1部は特に引き込まれました。残念なのは謎解きになっていないことです。真相を推理するための決定的な証拠が第3部の法廷場面になって始めて明らかとなる後出しです(使われているトリックや、犯人を特定するにいたった理由などから、後出しになるのは仕方がないともいえますが)。本格推理小説と言うよりは探偵小説、謎解きよりもストーリー性を重視した作品だと思います。 (完全にネタバレをしています。要注意!) ・ 法律関係には疎いのですが、日本の法律に照らして考えると、ローラはメアリイを娘として認知していないので、メアリイが死んでも、犯人はエリノアがメアリイに譲渡した金額しか手に入らないのではないでしょうか。犯行の計画段階では、エリノアがメアリイに金銭を譲渡することすらわかっていなかったので、こんな犯罪を行う事自体意味がないように思います。英国の法律でどうなっているのかわかりませんが。 ・ メアリイはホプキンズにそそのかされて遺言状を書いているのですが、いくら父親にお金を渡したくないといっても、顔も見たことのない叔母に遺産を遺すような内容の遺言状を書くというのは不自然に感じます(そもそもメアリイの若さで遺言状を書くこと自体が不自然です)。 ・ モルヒネの容器のラベルが発見された件に関しては、犯人がこれほどまでの致命的ミスを犯すというのは普通考えられないことです(まるで逮捕してくださいと言わんばかりのミスです)。また、警察が、このラベルをちゃんと調べていないというのも普通はありえないことです。 |
No.2 | 8点 | seiryuu | |
(2010/12/16 14:38登録) 心理描写が読んでいて面白かった。。 トリックも大胆で驚いた。 さわやかなラストもいいと思いました。 |
No.1 | 8点 | 空 | |
(2009/06/05 21:02登録) 本作の最大の見所は何といっても、小説としての構成と人物描写にあります。「文学的」という言葉が文庫の裏表紙の紹介文でも、また様々な批評でも使われていますが、確かにそのとおりだと思います。ただし、文学的であることがミステリとしても読者を惑わすのに一役買っているのがクリスティーらしいところです。 最も重要な手がかりが2つあるのですが、その両方とも気づくためには特殊知識を要する(その一方はポアロは実物を見ているのですが、読者はただそのものの名前を知らされるだけなので、フェアとは言えません)など、「本格派」としては不満があるかもしれません。しかし、裁判のプロローグ、殺人までの第1部、ポアロの捜査が描かれる第2部、そして裁判シーンに戻る第3部と見事な構成で、ヒロインをめぐる人物関係も決してありきたりなパターンに収まらないすぐれた心理ミステリです。 |