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ミステリの祭典

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名探偵に薔薇を

作家 城平京
出版日1998年07月
平均点6.55点
書評数22人

No.22 7点
(2022/12/21 17:42登録)
瀬川みゆきを素人探偵とした2編の連作中編集。といっても、2編目で完結する1長編といってもいいでしょう。
いずれも、「小人地獄」という毒薬が絡みますが、全く趣向は異なり、本格要素がたっぷりで、かなり楽しめました。さすが鮎川賞最終候補作。

2編目の「毒杯パズル」はホワイダニット物でかなり凝っています。そこまでしなくても、といった感もありますが、だからこそ評価されたのだともいえます。1編目の「メルヘン小人地獄」も決して悪くはなく、謎解きおまけ付きの、2編目真相の伏線部、と捉えてもいいでしょう。
1編目の視点が三橋荘一郎(2編通してのもう一人の主人公か)であるのに対し、2編目の視点を瀬川に変えているところは謎解きに役に立つかも。いやぁ、読者が完全に謎解きするのは無理でしょう。

イヤミスっぽさがあるのと、瀬川のキャラが嫌われそうなタイプであることとが、万人には受け入れがたいところかもしれません。
瀬川のキャラが最終的に変わってしまったような気もしますが、その点は意に介しません。

No.21 3点 モグラの対義語はモゲラ
(2021/04/13 15:44登録)
文章といい話の展開といい、どうにも受け入れ難いタイプの作品だった。私の性格が悪いと言えばそれまでなのだが、作者の陶酔を感じるというか、狙いが頭にチラついてダメだった。作品に結末へ前のめりに突き進みすぎていて作品に入り込めず、物語に対し穿った姿勢でしか臨むことができなかった。第一部の毒の設定なども好かない。キャラクターもなんかクサいんだよなあ。

リアリティの無いキャラクターや設定はむしろ好みなはずなのだが、恐らく私の中にある基準に届いていない、振り切れていないものだったのだろう。また、バッドエンド作品は設定はともかくセリフや振る舞いにはリアリティがあった方が、私は面白がれるのだろう。この作品は台詞が妙に芝居がかっている、わざとらしいものが多かったと思う。ドラマとか好きな人はこういうの好きなのかな?

ボロクソ書いてしまったが、人によっては驚かされまた胸を打つ作品だと思う。胸を打ちに行ってる感じがする作品がダメな人は多分楽しめないだろう。

No.20 6点 ミステリ初心者
(2021/03/27 22:19登録)
ネタバレをしています。

 中編ぐらい長い二部構成の小説です。

 第一部は三橋を主観とした、連続殺人です。メルヘン小人地獄の童話みたいな話の見立て殺人と、完全犯罪が容易にできる毒薬の話が出ます。この毒薬の製法がやたらグロい(笑)。私は全く真相に気づきませんでしたが、鶴田が国見と手を組むのは相当信頼関係がないといけないから考えられないとなっているのに、国見が鶴田と手を組む(脅迫まがいですが)のはありなのか(そして裏切られる(笑))という展開はちょっと気になりました。

 第二部は、前半に登場した毒薬が使用された毒殺事件。しかし、楽に完全犯罪を起こせるはずが、なぜかわざと不要なぐらい多量の毒が使われていて不可解です。そして、被害者はあまり恨まれない人物…。状況が不思議で引き込まれます。実は私は、論理的なことは一切わからなかったですが、真相は察してしまいました。というのも、これに近い発想の小説を事前に見てしまったからです。おもに動機面が似ていました。

 名探偵の瀬川は、何者も寄せ付けないクールな人物ですが、その実過去の自分の推理によってつらい経験をしており、それによってずっと苦悩をしています。なかなか魅力的でした。しかし、警察にため口をきくのだけは気になりました(笑)。

 個人的には、犯人が協力者もなく、殺意を持って、何のミスもなく殺しを完遂し、それを読者が看破できる作品が好みです。しかし、そういう枠にとらわれず、広義のミステリとして読んだ場合、本作品は満足度が高かったです。途中、カイジ(?)のような文章が挟まれたり、気になる点もありますが、楽しめました。

No.19 8点 パメル
(2021/01/07 14:27登録)
第一部「メルヘン小人地獄」と第二部「毒杯パズル」に分かれている構成。ある男が猟奇的な手法で作り出した毒薬「小人地獄」。少量で死に至り解剖しても検出されない。ただし大量だと検出されやすく、苦くて飲み下せないため死に至らない特性を持つ。
第一部では、新聞社などに「メルヘン小人地獄」という謎の短編小説が送り付けられ、その童話に見立てた連続殺人事件が起こる。乱歩風な猟奇的な雰囲気と作者の個性的な言葉選びと毒薬にまつわる怪奇的な話が魅力的な事件が発生する(かなりグロテスク)。第二部では、その事件から2年後の新たな事件を名探偵が解き明かす。
ストーリーの核となる「小人地獄」は完全犯罪が可能な毒薬だが、これを使った殺人がメインではないところがキモ。トリックよりもキャラクター造形、ストーリーテーリングで読ませる作品。ぶっきらぼうな口調で独特な存在感がある名探偵、瀬川みゆきのキャラクターも魅力的だったし、二転三転する驚きの展開も大いに楽しめた。
ハウダニット、ホワイダニットもののミステリとしても魅力的だったし、その事件を軸に描いた名探偵であるが故の苦悩と葛藤、その狂気に彩られた悲劇もまた読み応えがあった。
「トリックに前例がある」という理由で新人賞を逃した作者も悲劇であった。

No.18 8点 初老人
(2018/12/15 15:52登録)
途中までは探偵の推理について行けましたが最後で振り落とされました。
勘の良い方は、題名から色々と想像出来るのでは。
名探偵の在り方について考えさせられますが、読んでいる間はただひたすらエンターテインメントとして楽しむのが良いと思います。

No.17 7点 パンやん
(2018/09/02 11:27登録)
何とも鮮やかな二部構成の本格ミステリにて、終盤の逆転に次ぐ逆転の畳み掛けに、第一部の辛味がピリッと効いてくるあたりは、なかなかの快作。意図された語り口の『メルヘン小人地獄』の世界観に、名探偵の苦悩が微妙に絡むあたり、類をみない異色作となった。まずはご賞味あれ。

No.16 5点 蟷螂の斧
(2016/07/06 17:39登録)
ATB本格ミステリベスト100の24位(2015.4ツイッター上でファン150名が投票、一人10作品で1位10点~10位1点での集計)結構評価が高いですね。真相へのどんでん返し(推理の過程)が高評価なのか??。推理は根拠があるわけでなく仮定の話(多重解決)で、どうも好きになれません(苦笑)。どちらかというと告白など後出しの感が強い。一番気になったのは名探偵の悩みです。その結果、暗い探偵像になってしまって感情移入できませんでした。なお、動機のついての前例有無については全く問題ははないと思います。

No.15 7点 ロマン
(2015/10/20 22:57登録)
完全な毒薬『小人地獄』にまつわる二部構成の物語。創作童話による見立て連続殺人の第一部では、真実が次々と明らかになるにもかかわらず真相に近づけない構成の巧さに唸る。そして解決した事件が二部へ繋がり再び起こる毒殺。猟奇的な毒薬と探偵の苦悩という二つの面を描いて、血の気の引くような真相に後味の悪さを感じながらも探偵の魅力に惹きつけられる面白さだった。著者のことは、まんが原作者としての印象が強かったけれど、表現豊かですらすらと読めた。『小人地獄』には作中でルールが明記されているので特殊設定下での事件として楽しめた。

No.14 6点 アイス・コーヒー
(2014/12/20 12:53登録)
ヴァン・ダインを思わせる経歴を持つ著者が書いた名探偵の苦悩の物語。第一部の「メルヘン小人地獄」ではグロテスクな猟奇見立て殺人と「完璧な毒薬」を巡る難事件が描かれるものの名探偵・瀬川みゆきが解決する。一方、第二部「毒杯パズル」では更なる悲劇が発生するのだ。
目立ったトリックはないが、美しく精緻に組み立てられた推理が披露される力作。特に第一部においては意図的に採用されたという擬古的な文体も相まって、黄金期の本格を思わせる圧巻の内容になっている。人によっては読みづらいという欠点も感じるだろうが、それは慣れるほかない。
しかし、本作のメインは第一部ではなく第二部の方。こちらもロジカルな推理で完璧な毒薬「小人地獄」にまつわる怪事件の謎を暴くのだが、その裏には名探偵の瀬川が抱える苦悩があるのだ。根源にあるのは、名探偵が意識的にも無意識的にも事件に関与してしまうことで、その真相や結末に影響を与えてしまうという問題。
感情を押し殺し、単なる推理機械として事件を解決しようとする彼女の信念が揺らぐ様子が「毒杯パズル」事件の真相と重ねられている。そのシナリオの巧妙さは評価したい。しかし個人的に本作を好きになれないのは名探偵役に魅力を感じられないからだ。
過去にも苦悩する探偵は数多くいたが、瀬川のように超人的な推理力で難事件を絶対に解決してしまうタイプの探偵で苦悩が描かれることは珍しいだろう。(パッと思いつくのはエラリー・クイーン、ファイロ・ヴァンス、極端な例だとメルカトル鮎あたり。「レーン最後の事件」が超人探偵の苦悩というテーマに掠っている。)
ただ、自らの人間性を喪失させていく瀬川のキャラに親近感も得られず、感情移入もできなかった自分には本作を面白いと感じることはできなかった。主題に比べると単純な内容ではあったが第一部の悲劇の方が面白く感じられた。

No.13 7点 名探偵ジャパン
(2014/07/18 10:37登録)
突然書店に平積みされており、帯の文句に釣られてレジへ持って行った次第。
作者は元々ミステリにあまり興味がなく、本作執筆の際に多くのミステリを読破し、内容までまとめて執筆に当たったということだが、確かにそんな感じがする。特に二部に顕著だが、あまりに隙がなさ過ぎ、機械か数式のような印象を受ける。
本作の探偵、瀬川も、ミステリをあまり知らない人が思い描く名探偵(とっつきにくく変人、他人とのコミュニケーションが取れない、横柄な言葉使い)といった風で、好きにはなれなかった。「お前、自分に酔ってるだけだろ」と。瀬川が美人だから許されているが、もし、金田一耕助がこんなキャラだったら、どうだろうか。決してハンサムではない小男が、終始しかめっ面をして、周囲の人間を拒絶し、警察に対してタメ口をきく。かなりイラっとさせられるはずだ。

しかしながら、猟奇的に生み出された毒薬、犯行を予告する怪人、残酷な話に沿った見立て殺人など、本格ミステリ要素をたっぷり含み、楽しめることは確か。もっと別の探偵がこの事件を担当していたら、印象はかなり変わっただろう。あ、でも、もしも金田一耕助がこの事件を担当したら、第二部の事件は起こらなかったね、きっと。

No.12 9点 mohicant
(2013/08/05 23:54登録)
 第一部の小人地獄が面白かったので、第二部はおまけ程度のものだろうと思っていたが、第二部はさらに面白く、こちらがメインだった。この作者は侮れない。

No.11 5点 E-BANKER
(2012/02/01 21:58登録)
第8回鮎川哲也賞最終候補作であり作者の長編処女小説。
2部構成で独特の味わいを持ったミステリー。

~始まりは各種メディアに届いた『メルヘン小人地獄』だった。それは途方もない毒薬を作った博士と毒薬の材料にされた小人たちの因果を綴る童話であったが、やがて童話をなぞるような惨事が発生し、世間の耳目を集めることに。第一の被害者は廃工場の天井から逆さに吊るされ、床には血文字、そして更なる犠牲者・・・。膠着する捜査を尻目に、招請に応じた名探偵の推理はいかに?~

正直、評価が難しいなぁ。
ただ、思ったより世間的な評価が高いのは驚いた。
2部構成のミステリーで、第1部では『メルヘン小人地獄』という童話の見立て殺人をめぐる謎。
それは、名探偵・瀬川みゆきの卓越した推理力であっけなく解決される。そして、第2部では更なる殺人と、名探偵たる瀬川の苦悩が書かれる・・・

うーん。あまり興味ないんですよねぇ・・・、名探偵の「苦悩」などというテーマには。
第2部は、途中から真相が二転三転しますが、第1部であれだけ快刀乱麻の活躍をした名探偵としては、何だかお粗末な気がしてしまう。
それがまぁ「苦悩」なんだということかもしれないが、「ふーん」という感想しか湧いてこない。
こういう作品を「後期クイーン問題」などというお題目で評価するのもどうかなぁという感じ。

何だが全否定のような書評になりましたが、作者の「読ませる力」というのは十分に感じることはできた。
(やっぱり鮎川哲也賞のレベルは高いね)

No.10 7点 メルカトル
(2011/11/26 23:59登録)
第一部はクセのある文体でやや読みづらかったが、第二部ではそれも解消されて集中できた。
これは「小人地獄」という毒薬を巡る物語で、なんと言っても主役はこの毒薬ではないだろうか。
解説によると第一部は後付けらしいが、それにしてはよく練られていると思う。
そして本題の第二部では、二転三転する展開に久しぶりに頭がクラクラした。
それにしても、これほど探偵が心情を吐露するシーンが多いミステリは初めて読む。
それだけに、探偵役の瀬川みゆきの、名探偵であろうとするがゆえの苦悩と孤独が浮き彫りにされていて、身に詰まされ、深く考えさせられる。

No.9 6点 kanamori
(2011/10/25 18:56登録)
童話の見立て殺人を仕掛けに使った第一部「メルヘン小人地獄」も悪くありませんが、これはあくまでも第二部「毒杯パズル」への前振りです。
「毒杯パズル」における、真相が二転三転した末に明らかになる名探偵の存在意義というテーマは、”後期クイーン問題”に通じるものがあります。あの人物の特異な犯行動機については、確かにアイデアに前例があるものの、上述のテーマと絡めたところに新しさがあると思うので、この作品の瑕疵とは言えないと思う。

No.8 6点 nukkam
(2010/02/01 16:18登録)
(ネタバレなしです) 1998年発表の本書は、城平京(しろだいらきょう)(1976年生まれ)の長編デビュー作となる本格派推理小説ですが強力な個性を感じさせます。新種の毒薬というSF的設定は本来は私の好むところではないのですが、本書の場合は全く弱点に感じません。独立した2つの物語で構成されており、第一部は見立て殺人を扱っていますが謎解きよりも事件に巻き込まれた人々の苦悩描写が印象的です。登場人物の大半を第一部と共通にした第二部は名探偵の苦悩を描いており非常に個性的で、どういう解決になっても誰かが傷つきそうな悲劇的設定が強烈です。デビュー作でこんなに悲劇性を漂わせた名探偵ものはちょっと記憶にありませんが、こんな深い作品を発表した作者の今後はどうなるんだろうと余計な心配したくなります。

No.7 7点 テレキャス
(2009/11/24 13:58登録)
絶対に痕跡を残さずに殺せる毒薬「小人地獄」を巡る物語。
こんな毒薬、ミステリでは反則だけど、この設定こそが作品の鍵であり全てである。
二部構成で視点も変わり、工夫が随所に施されていて楽しめた。
読み終えた後にタイトルの意味が理解出来た。

ただこの名探偵凄すぎではないか?
そうなる経緯は全く触れられてないので多少違和感を感じてしまうのが残念だった。

No.6 8点 T.shimizu
(2009/10/03 04:01登録)
そういうことか、と。
二部構成を通読して。
ありえる、かもねって思ってしまった。

No.5 7点 makomako
(2009/08/09 09:11登録)
 人によって評価が分かれているようですが、私は好きなほうです。
 まず登場人物が少なくてよい。しかもあまり変な人が出てこないのも好感が持てる。本格物として一応のラインを保っていると思います。こんな展開は確かに過去に読んだことのある物を流用したような気もするが、この程度なら良いのでは。
 気になるのは探偵の言葉使いで、もちろん作者は意図的にこんなしゃべり方をさせているのだが、警察と探偵の会話なんかは何様の態度であるかと思ってしまう。悲しい経歴を抱えているため名探偵でしかいられないなら、丁寧なしゃべりのほうがより悲しいと思うのだが。

No.4 6点 江守森江
(2009/07/10 16:00登録)
二部構成で第一部はあくまでも第二部の導入になっている。
本格ミステリとしても第一部を囮にした第二部の2つ目のダミー推理なんかは良く出来ている。
しかし、この作品の主題は「名探偵に薔薇を」との秀逸なタイトルが示す名探偵の存在意義と真相探求への苦悩だと思う。
そこで、この小説の探偵役って本当に"名探偵"と言えるのか?との根本的疑問が生じた。
更に、名探偵についてあれこれ考え込み疲れた。

名探偵には、ずば抜けた推理力と平行して揺るぎない信念と行動が求められるし、それが描かれれば良い、との結論に至った。
ふぅ~(ため息)名探偵が悩むと読者は疲れる。
※追記(ネタバレ懸念有:‘10・4/13)
名探偵を悩ませる真相の先例作品に出くわした(某美文作家の短編で「八百屋お七」のアレンジだと知った)

No.3 10点 星屑の仔
(2009/04/07 06:59登録)
コアなファンの間では話題となった『スパイラル~推理の絆~』の作者が送るミステリ小説。

舞台はとある住宅地。
作品は二部に分かれている。
「小人地獄」と呼ばれる新種の毒物の存在をほのめかす脅迫文から起こる前半部と、それが解決してから数ヵ月後の後半部。

この作者の作風から言うと、まず読みやすい。
回りくどい情景描写などがなく、文章も読みやすい。
しかもそれでいてストーリーは起伏に富んでいる。
この作品の売りは、密室トリックやアリバイ工作ではありません。
たった1つあげるなら、『名探偵の生き様』でしょうか。
表では華やかなスポットライトを浴びる名探偵の、その才能故の苦悩に満ちた世界。
それがこの作品の全てだと思います。
トリックうんぬんよりも、人間の心理描写の書き方が非常にうまいと思う作品です。

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