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ミステリの祭典

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ケンネル殺人事件

作家 S・S・ヴァン・ダイン
出版日1954年05月
平均点7.18点
書評数17人

No.17 6点 レッドキング
(2020/10/15 19:30登録)
「ベンスン殺人事件」新訳を読んで、「現象学的直観」探偵ファイロ・ヴァンスを再発見し、これも再読。面白かった。ただ、ここのファイロ・ヴァンス、現象学を飛び越して「超越論的独断」の超探偵=作者のネタ明かし役 にまで存在が後退しちゃってるけどね。だが、面白いことは面白い。愚直なまでに古色蒼然とした密室トリックの何と香り高い「骨董感」。もしも殺害場所と死体発見場所の移動不可能性に焦点を当てて、もっと作り込んでくれていたら、カーや「翼ある闇」の「バカミストリック」にまで飛翔してたかも。

No.16 7点 クリスティ再読
(2020/10/04 14:52登録)
ヴァン・ダインの中で皆様の評価の平均点が一番高いのが本作になる。面白い....一番アンチがいない作品になるようだ。密室~二度殺された男~別死体発見、と怪奇性で読者をうまく誘っていく流れに、ストーリーテリングのさすがの上達を見せているように感じるよ。ヴァンスが透視的に別な殺人があることを推測して、それを見つけ出すシーンが、何といっても、かっこいい。
ペダントリも二段構えで、中国陶磁器の話と、スコッチテリアの育種。中国陶磁器の話とか手慣れた感じがあって、安心して聞けるし、怪我をした犬の身元を調査するので追いかけるエピソードなど、物珍しくも面白い。ペダントリは装飾なんだけども、それが邪魔になってなくて、小説としてのふくらみになっているように感じる。
で、怪奇な事件に相応した怪奇な真相、うん、ミステリとしても小説としても、うまくまとまったアラのない作品だと思います。

No.15 5点 虫暮部
(2020/09/03 12:56登録)
 偶然が重なったこの驚くべき真相を、鋭過ぎる推理力で看破し見てきたように語るには、ハッタリの利くファイロ・ヴァンスが適任ではある。この手掛かりでそこまで判るかと言う疑問は置いといて、事件の表層も真相もなかなか面白い。ただそれを“面白い小説”に仕立てられなかった。
 犯人にとっても不可解な展開。これ、倒叙スタイルで書いたら良くない?

No.14 7点 弾十六
(2019/05/27 01:25登録)
初出Cosmopolitan 1932年11月〜1933年2月号(4回分載, 挿絵E.M. Jackson) 単行本1933年出版。創元文庫(初版1960年2月)で読みました。
冒頭からの流れが良く、強烈な謎の提示、展開もスムーズで小ネタも充実。本格探偵小説の王道、どっしり構えた横綱相撲です。解決篇も(不満は多いにあるでしょうが)わたし的には充分な出来。皆さんの評価が高いのも納得です。スケール感が小さく、ちょっとまとまりすぎなのが不満ですがヴァンダイン最高傑作ですね。
読む前には、不況に突入したので貴族的なヴァンスに可愛い属性(犬を前にしたらデレる)を読者サービスとして提供したのかな?と想像してました。でも結局、事件とケンネル、ほとんど関係ないじゃん。
初出のコスモポリタン1932年11月号(Cosmopolitan v093 n11)と1933年1月号(v094 n01)は無料で公開(イラストや広告も全部!)されています。映画も『ケンネル』だけは入手しやすいですね。(映画の感想は最後に)
さてトリビアです。
事件は『スカラベ』の三カ月後、1923年10月11日(木)に発生。
銃はrevolver、38口径でアイボリーグリップのようです。引き金に彫り(trigger incised)入り。メーカー等不明。
p33 メフィスト型のスリッパ(Mephisto slippers): 調べつかず。
p50 私の葬式じゃないもんでね(It ain’t my funeral): 私の責任ではない、という意味。
p78 このチャンコロの部屋(this joss-house):「中国寺院」の意味で、蔑称では無いようです。p136以下、ヒース部長が使う「チャンコロ」はChinkで、これは侮蔑語。
p114 黄色新聞はなんといってたっけ—このネタ(this—what do the yellow journals call it?—probe): probeは調査、探索という意味。黄色新聞でよく使われる表現?
p149 賢いというのは、われわれの国民的欠陥です(Cleverness is our national curse): ヴァンスの発言。cleverはwiseと比べると、表面的な頭の良さ,巧妙さを強調する語とのこと。
p149 英国人となると、賢さも深さもありません(England, however, has neither cleverness nor profundity): イタリア人の発言。
p227 ガボリオ、ポーからコナン ドイル、オースチン フリーマンにいたる(from Gaboriau and Poe to A. Conan Doyle and Austin Freeman): 探偵小説の代表
p228 エドガー ウォーレスの≪新しいピンの手がかり≫(‘The Clue of the New Pin,’ by Edgar Wallace): 1923年出版。

さて映画を観ましたが、快調な演出ですが、あんまり驚けない内容。探偵ものは難しいですね。revolver と言ってるのに出てくるのはautomatic拳銃だし。(もしかしてhand gunの意味でrevolverを使うことがあったのか?)

No.13 7点 ボナンザ
(2018/09/15 23:35登録)
一人の作家が書ける傑作は六作が限界という自身の発言を裏付けてしまったヴァンダイン最後の傑作。

No.12 7点 測量ボ-イ
(2018/07/07 12:19登録)
今年2作めの海外作品の書評。しかもこの作者を読むのは超久々です。
(20年以上前?)
さてこの作品、ヴァンスの蘊蓄ぶりは相変わらずですが、この作品は
そんなにうんざりすることもなく、特に犬の品評会の話しは結構面白
かったです。
肝心の謎解きは密室の謎はまあよくある機械的トリックなので、高評
価する人は少ないと思いますが、不可能状況の設定や真相の意外性は
まずまず。ただ犯人の意外性はそうでもないか(この僕が犯人指摘で
きたので)。
不満点はヴァンスが真犯人を推理する過程が説明不足で分かりにくい
ところですかね。

本作品、地味ながらも世評は高く、このサイトでもかなりの高評価で
す。僕も決して低評価ではないのですが、平均点を下げてしまって
います。

No.11 7点 文生
(2017/10/30 16:24登録)
ヴァン・ダインの他の作品と同様にトリックは既存のものを組み合わせただけだが、謎の設定とその解法に工夫が見られ、本格ミステリとしての充実度はシリーズ随一。しかも、物語の進行を阻害するぺダンチックな談義が控え目なので読みやすい。今となってはグリーン家や僧正よりも評価しやすい佳作だと言えるだろう。

No.10 8点 あびびび
(2017/06/27 23:20登録)
真相を知ると、なんでもない事件、犯人。しかし、隙のないパズルに仕上がっている。ケンネルは手掛かりだが、自分的には取ってつけたような手掛かりに思った。

しかし、読後感は非常に良かった。

No.9 8点 りゅうぐうのつかい
(2016/05/31 13:00登録)
派手さはないが、良くできたパズラー小説で、古い作品だが、今読んでも古さを感じない。
矛盾をはらんだ、不可解な状況が次々と示されるが、真相はそれを十分に説明しており、納得できるもの。
犯人特定や、中国人料理人がある事実を知っていたことを指摘するヴァンスの推理も論理的。
密室トリックの方法も、図があって、わかりやすい。
登場人物の数やその行為、ストーリーの進行、ヴァンスの捜査内容等、いずれも無駄がない(スコッチ・テリアや中国陶器のことも、真相解明に関係していた)。
犯行が行われた図書室と、死体が発見された二階の部屋とで距離が離れていた理由は突飛だし、犯人の意図しない、複数の要因が複雑に絡み合っているので、読者には推理困難な作品。

No.8 8点 青い車
(2016/02/28 21:37登録)
 密室の中で死んでいた悪名高い男。その現場をマーカムとともに見に来たヴァンスは、次々と不可解な謎に出くわす。被害者は銃弾で頭を撃ち抜いていたが、背中にも匕首のような刃物で刺された傷があった。また、彼は着替えをし、髪に櫛を入れていながら、靴は外出用のものだった。そして、現場近くにはとばっちりで怪我をしたスコッチ・テリアが……。この奇怪な殺人事件にヴァンスが挑む。
 謎をこれでもかと大放出した作品で、作者の読者を楽しませようという気概を感じます。密室は既存のアイディアを複合させた機械的なトリックで、手堅く理にかなった解決です。しかし、これはあくまで添え物で、メイン・トリックは「なぜ、この状況が成立してしまったのか」です。当時としては誰も考えつかなかったであろう奇想で、後に多くの作家がマネをしたそうです。これはオリジナルのトリック創造が不得意というイメージがあったヴァン・ダインとしては、一番の傑作アイディアと思います。
 他に、劇的な演出による第二の殺人で加速する物語の謎や、犬をロジカルな推理の材料にするところなど見どころが多く、個人的には『僧正』『グリーン家』に次ぐ名作です。

No.7 8点 ロマン
(2015/10/24 23:15登録)
今度の薀蓄は中国美術とスコッチテリア。意外性の連続により、解析不能となった事件が、ほんの小さな亀裂から解決されていく。変数が多いほど、その連立方程式は解きづらくなるが、これほど変数が多いのも珍しい。というより、常人には完全な解決は不可能な物語。少なくとも犯罪に対する知識を多種多様持ち合わせている人間が、下手な鉄砲方式で打ち続けて、やっと解答に到達する、そんな途方も無いミステリだ。ただ、テリアから犯人を特定する方法は(それが殺人犯の特定とは言えないけれども)実に論理的。

No.6 8点 斎藤警部
(2015/06/01 11:05登録)
グリーン家や僧正は勿論カナリヤあたりに比べても小粒感はありますが、出来はすこぶる上等な作品と思います。殺人劇の舞台となる屋敷の如何にも何物か潜んでいそうな薄暗いムードの中で徐々に進行する謎解きが魅力的。 程よく複雑で意外性に富む真相解決を、味わうように読む事が出来ました。

No.5 5点 蟷螂の斧
(2015/05/13 11:52登録)
薀蓄不要派なので、中国陶器と犬の話は邪魔になってしまいました(苦笑)。真相にはかなりの無理があり、さらに複雑化したため、その結果、すべてのトリックが中途半端になってしまったという感じです。題名や薀蓄からしても、犬のかかわり方はいま一つでした。

No.4 8点 toyotama
(2010/12/09 18:26登録)
死者を撃ち殺す男、殺したはずの男をもう一度殺す男、殺したつもりなのに殺された男。
なんか「シンデレラの罠」の紹介文みたいだ。

No.3 7点 E-BANKER
(2009/11/15 17:38登録)
ファイロ・ヴァンス探偵譚の6作目。
作者のヴァン・ダインが、「一人の推理小説家が生涯で書ける優秀なミステリーは6作が限界」という言葉を残したのは有名ですが、本作がちょうどその6作目で、確かに本作以降は明らかに作品の質が落ちていきます。
ただ、本作はなかなかの出来。他の方の書評どおり、「グリーン家」や「僧正」に比肩すると言ってもいいでしょう。
第一の殺人は密室がメインになりますが、本筋の機械仕掛けのトリックよりも、「被害者が、自身の傷がたいしたことはない、と思い込んで自分で部屋に入って鍵を閉めた後に死んだ・・・」という捨て筋の方がなんか印象に残ってます。

No.2 8点
(2009/06/03 21:35登録)
ヴァン・ダインの12作中、最も複雑な謎解きのおもしろさが味わえる作品でしょう。事件の状況自体が単なる密室でなく非常に不可解で、読者を混乱させてくれます。『グリーン家殺人事件』に思い入れのない私としては、『グリーン家』より高く評価しています。
密室トリック(このタイプの中ではひとつの頂点だと思います)も、密室の謎が解明されただけでは事件の全体像が見えてこないという点も、『カナリヤ殺人事件』との共通点を感じさせます。作者自身意識していたのではないかとも思えますが、本作の方がミステリとしての意外性でははるかに上です。

No.1 8点 nukkam
(2009/05/27 09:45登録)
(ネタバレなしです) 1932年発表のファイロ・ヴァンスシリーズ第6作で、解決へのプロセスがもたもたしているように感じられるところもありますが謎解きは素晴らしく、個人的には「グリーン家殺人事件」(1928年)に次いでお気に入りの本格派推理小説です。密室トリックはもはや古典的ですが図解入り解説が明快でトリックに無理がないところは今読んでも十分に納得できるものです。それ以上に印象に残るのは最後に明かされる「恐ろしい真実」で、これは専門知識が求められるので読者が事前に予測するのは大変困難ですが、それさえ不満に思えぬほど衝撃的でした。

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