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ミステリの祭典

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災厄の町
エラリイ・クイーン、ライツヴィルシリーズ 別題『ライツビルの殺人事件』

作家 エラリイ・クイーン
出版日1950年01月
平均点7.33点
書評数30人

No.30 8点 ◇・・
(2023/11/12 21:21登録)
ニューイングランドの典型的な田舎町であるライツヴィルで彼を待っていたものは、ある悲劇的な事件だった。町の創立者ジェズリール・ライトの血を引くライト家の次女ノーラが、何者かによって砒素を盛られたのだ。しかも、その容疑者として彼女の夫が注目を浴びることになり、ライツヴィルの町は騒然となる。
クイーンの作風転換のきっかけとなった中期の代表作。謎解きよりも、架空都市ライツヴィルの風俗や、そこに住む人々の生活に筆を費やし、家庭悲劇を鮮やかに浮かび上がらせている。

No.29 8点 じきる
(2023/01/05 00:03登録)
記念すべきライツヴィル1作目。真相が解き明かされることで物語がより魅力を増しており、一つの推理小説として完成度が高いと思います。

No.28 8点 バード
(2022/01/31 21:10登録)
(軽くネタバレあり)

事件の顛末はほぼ予想通りだった。ジムが犯人でないのなら論理的に真犯人はあの人しかありえないので。また、真犯人の見当さえつけば、Why?の部分もある程度推理できる。本作は自分的にはちょうど良い難易度だったが、高難易度な謎を所望する読者には物足りないかもしれない。

ただ犯人当てだけでなく、ライツヴィルの人々のキャラクター性も本作の見所と思う。クイーンの作品にしては登場人物達が全体的に人間臭く、ストーリーを装飾している。
ちなみに悲劇のヒロイン臭が鼻についたためノーラさんはあまり好きでなかった。最後まで読むとその理由も明らかなのだが。一方パットは探偵の助手としては落第だが良いキャラだったね。裁判中にやりたい放題なのは笑った。

No.27 5点 HORNET
(2020/03/21 21:49登録)
 クイーン自身も自らの最高傑作と称し、国名シリーズ以降の後期代表作とされる本作。各所での評価も高いが・・・

 私としては平均作の域を超えなかったというのが正直な感想。法廷を舞台としたエラリイの活躍は確かに新鮮味はあるが、正直、クイーン作品にはやはり純粋なパズラーとしてのロジカルな仕掛けを期待しているところがどこかにある。そういう意味では今のところ、やっぱり国名シリーズの方が好みかな・・・。
 もちろん謎解きにも工夫は凝らされているのだが、これって構造的には「Yの悲劇」に似てない?犯人が意図的に「利用した」本作と、純粋無邪気な真似事という違いはあるけど・・・
 もうすこしライツヴィルシリーズを読んでみたい。ただ、廃版ばかりで手に入りにくい。

No.26 7点 いいちこ
(2020/02/09 16:49登録)
真相判明時におけるプロットの反転の鮮やかさは高く評価する。
評価するのだが、3通の手紙の存在とか、妻の訪問と滞在とか、とにかくご都合主義的な舞台設定が鼻に付くのは如何ともしがたい。
作品全体に中弛みの印象が強く、これだけのボリュームが必要であったかどうかも疑問。
世評の高い作品だが、これ以上の評価は難しい

No.25 3点 虫暮部
(2020/01/05 12:36登録)
 何か変だ。“3通の手紙”が、どうにも納得出来ないのである。
 殺人計画を立てる。そして、実行したわけでもないのに、その状況を知らせる(つまり架空の内容の)手紙を書く――何の為に? そんな準備が必要? リハーサル(笑)?
 “妻を殺す”ごっこ遊びで、敢えて実際に書くことで心の奥の鬱屈を昇華させようと試みた、なんて解釈の方がまだ判るけどなぁ。“手紙=殺人計画の証拠”と言うことを誰も疑っていない。この奇妙な世界設定、目をつぶるには大き過ぎる。
 出番少ないけど長女ローラのキャラクターは好き。

No.24 5点 レッドキング
(2019/05/04 12:31登録)
クイーン版「カラマーゾフの兄弟」(大げさ)かな。陪審員(わが国では裁判員)に選ばれてしまったら、誰しもが有罪を選ばざるを得ない様な、「AはBであり得て」「A以外はBではあり得ない」という「絶対的」な状況証拠の中での裁判。しかし、もし、「Bそれ自体」が「B」ではなく、「C」であったならば・・・
作者自ら(半分だけだが)も、クイーンの専門家も「最高作レベル」と評価したという作品・・その評価については「半分」だけ賛成。

No.23 9点 Akeru
(2018/09/24 12:20登録)
ややネタバレ。


作品の根幹を成す「日付の話」は、読んだ瞬間から見当がついていた。
しかし本当の傑作というのはさまざまな伏線、登場人物の心情や信念が絡み合って縺れ合い出来るものであって、本作はまさしくそれに恥じない内容になっている。
このタイプの好例が「アクロイド殺し」で、あの作品も「大ネタ」ばかり話題に挙げられるのだが、「アクロイド殺し」は「大ネタ」以外の伏線の回収の仕方が本当に見事であり、それこそが世代を超えて我々が作品の名を聞く主要因に成り得ていると思う。

本作、災厄の町もさまざまな作中人物の思惑、行動、信念が積もるようにして出来上がった作品であり、最後の最後にクイーンがそれを一刀両断して全てを解いてみせるところまでが完璧だ。後書きにも「作者のクイーン自身、この作品が最高傑作だと言っている」とあるが、その言葉に疑いを差し挟む余地はない。

この作品を読まずしてクイーンを語ることなかれ。

No.22 8点 斎藤警部
(2017/10/07 12:16登録)
切ない話だ。。。。その切なさの理由は本作のパズラー核心部分が握っている。素敵じゃないか。それは a touch of “アガサへの対抗案”めいたもの,, 最高にナチュラルな微笑みをもたらすオープニングシーンから、哀しくも明るさに取り縋る最後の台詞まで、私ァ好きだ。

事象は毒殺未遂と毒殺。後者は目標外しとも推測され、更にはもう二人があの世行き。。 終盤に近づくにつれ,行く先の見えなさが心地良過ぎて多幸感にさえ包まれる。 大きく拡がった香りを備えた切実な予感だ。。。。

明かされた真相(物語の様相一変でガツンと来ます)によれば、、 或る夫婦の現在の●●が実は意外な●●●●で、と「しこり」を刻印する部分がある。だからこそ一層切ないんでしょう。そこをスッキリさせちゃったら同じ反転劇でも途端にお涙頂戴なものになってしまいそう。

ところで、「登場人物表」に載せる人、もっとふんだんでいいのに(いにしへのポケミスはもっと少なかったから新訳版はこれでもましだ)。 アルバータとか、不動産屋ペティグルー、保険屋ケチャム、カーラッティにオールセン、老詩人(?)アンダーソンだって重要だよ。純ミステリ的には違うけど、ドラマの演出として最高に記憶に残る人でしょう?

No.21 8点 クリスティ再読
(2017/07/30 21:50登録)
クイーンの国名シリーズは小説的にはヴァン・ダインの模倣から始まっているのは言うまでもないことだが、本作あたりでクリスティ流、とでも言うべきパズラー書法をうまく手中に収めた感がある。クイーンの自己評価もそういうあたりだろうから、要するに本作、クイーンの「ナイルに死す」のわけだ。
なので、パズルとしての「意外さ」よりも、人間関係にうまく埋め込まれた罠を楽しむべきであって、そういう意味ではもちろん、成功している。犯人が分かって、「意外だった!」とびっくりするよりも、真犯人によって事件のフォーカスが当たりなおした真相が、小説としてより深まるというものの方が評者は好きだしね(まあそこらがクリスティ流)。というか、後期クイーンでも、ここまで真相によって「小説が深まる」成功をした作品ってないようにも思う。

このままにしておこう。(真相なんて)どうだっていいじゃないか。

エラリイがこれを言うんだよ...評者もいっぺん言ってみたいくらい。ヒッチコックが言ったという「たかが映画じゃないか」に匹敵する、自己否定的名セリフだと思うよ。このセリフをエラリイから引き出したカーターくん、いい奴だな。
本作だとクイーンはライツヴィルの魔女狩り風土に否定的な反応をしているけど、結末から愛着を覚えちゃったらしいのが見て取れる...だから魔女狩りに正面から取り組んだ「ガラスの村」は本作の仕切り直しみたいに読むのがよろしかろう。

No.20 7点 青い車
(2016/07/24 22:08登録)
 飯城勇三氏によれば、『災厄の町』は「二度読んで面白さがわかる」そうです。個人的に本作は初読時あまりピンと来なかったのですが、今日パラパラと読み返してみました。
 僕があまり楽しめなかった原因には、推理の醍醐味が薄いこと、そして人間ドラマに今ひとつ乗れなかったことがあります。特にエラリーがあまりに精彩を欠いているのが気になりました。『エジプト十字架』事件を解決した彼が終盤まで手も足も出ないままだったのには違和感が拭えません。ドラマの方も刺激的な展開が起きる訳でもなく、割と地味に、淡々と進んでいる印象です。
 ただ、ラスト一行「今日は母の日だぜ」のセリフにはどうしようもない切なさ、哀しさがあり、最上の締めだと思います。推理もあの手紙の手がかりは非常に秀逸。そこらへんはさすがクイーンといえます。

No.19 9点 makomako
(2016/01/30 19:50登録)
 今まで読んだエラリークイーンの作品の中で最高でした。作品の出来としてはYの悲劇などが良いと思うのですが、テレビで見た後で読んだため衝撃がちょっと少なかったのです。
 それにしても文学と推理小説の合体を目指した本作品は本当に素晴らしい。当然ながら殺人はおき(ただしお話がだいぶん進んでから事件が起きる)、強烈などんでん返しもあるのですが、クイーン独特のパズル型小説ではなく論理は精緻でありつつ文学的作品に仕上がっているのです。
 登場人物も共感するところが大きく、読後感も実によい。
 1点減点なのは翻訳小説なのでやむを得ないとは思うのですが、今まで読んだクイーンものはすべて登場するエラリークイーンのことをクイーンとかエラリーとかの表現であったと思うのですが、今回はクイーン氏という表現であったため、これは偽エラリーに違いないといらん推理をして読んでいたため、あれ?と思ったところです。

No.18 9点 ロマン
(2015/10/20 20:33登録)
狂気と沈黙が生むすれ違いの悲劇。事件そのものよりも、事件によって昨日の友が今日の敵となるムラ社会の閉鎖性と、犯人が犯人となるに至った心理に焦点がある。この事件においては、クイーン氏はほとんど傍観者に過ぎず、真相の解明に至っても、残酷な運命のいたずらと自らの無力にうちひしがれるのみだ。長い長い裁判の描写も、いくら策を尽くそうが、変わることのない運命を前にして無駄な抵抗を繰り返すライト家の人々の努力のむなしさばかりがにじむ。

No.17 10点 nukkam
(2015/10/17 10:01登録)
(ネタバレなしです) 「ドラゴンの歯」(1939年)から久しぶりの1942年に発表されたエラリー・クイーンシリーズ第15作です。国名シリーズともハリウッドシリーズとも違う作風となっています。様々な伏線や手掛かりを論理的に考証して犯人を指摘するクイーン得意の本格派推理小説ではありますが、登場人物の人間性を丁寧に描写して物語としての深みを増しています。その効果は見事なもので、全体としては地味なのですが全く退屈しません。地味と言っても中盤の法廷シーンは十分に劇的で、これまた出色の出来栄えです。エラリー自身も単なる謎解き探偵でなく、ごく限られた人物にだけ真相を説明するなど人情を感じさせます。文句なく中期の傑作でしょう。

No.16 7点 名探偵ジャパン
(2015/09/24 16:58登録)
「国名シリーズのようなパスラーはもう古い。これからは文学的ミステリだ」
と、クイーンが言ったかどうかは定かではないが、自身が本作を自作ナンバーワンに挙げているということから、そういう考えは持っていたのだろう。
他の方がおっしゃっているように、本作単体で取り出してみれば、まるで二時間ドラマのような印象を受ける。
「人間が描けていない」とは本格ミステリ糾弾の常套句だが、私は人間を描くよりも、優れたトリックを編み出すほうが凄いことだと思っている。しかし、当の作家にしてみれば、「小説」を書いている以上、そういった批判に無視を決め込むことはできないのだろう。
クイーンもそういった批判を受けたことがあるのだろうか。それに対する回答が本作なのか。
確かに本作の登場人物は、今までの国名シリーズに比較して、はるかに生き生きと描かれている。事件もなかなか起こらず、ミステリを読んでいるということを忘れてしまいそうになる。(「読者への挑戦」も姿を消した)
生き生きとした人間を描くことよりも、「あんたが『アメリカ銃』や『エジプト十字架』で作り出したトリックのほうがすげーよ」と、私はクイーンに言いたいのだ。

No.15 6点 了然和尚
(2015/02/18 14:17登録)
まあだいたい犯人とか妹の正体とか想像できてしまうし、最近の国産ミステリや2時間ドラマと同じ流れで、陳腐。かと思ったら、こっちが70年前の作品なので、皆さんこの辺りを読んで勉強されたんですね。本格好きには物足りませんが、3通の手紙を中心にうまく全体を組み立ててますよね。

No.14 7点 mini
(2014/12/17 09:58登録)
先日5日に早川文庫からクイーン「災厄の町」の新訳版が刊行された、特に中古市場でもタマ不足ではないので新訳の意義が有るのか?とも思ったが、創元では国名シリーズを着々と新訳切り替え中なので、早川も定期的な切り替えなのかも知れん
でもポケミスも含め早川の場合は、マニアが新訳復刊を要望しているものが目白押しなので、もっと他に有るだろ的な意見が噴出しそうだな

私が初心者の頃にクイーンを読んだ印象は、”ロジック”ではなかった
クイーンと言うと何かとロジック、ロジックと言われがちだが、アメリカの社会風俗的な面に着目する人が少ないのは残念である
クイーンは冒頭で、その年のブロードウェイの演劇シーズンはこれこれこうだったとか、何々のイベントが行なわれたとかの記述で開幕するものが多い
私にとってのクイーンはアメリカ社会風俗作家であり、季節感を描く作家である
『犯罪カレンダー』という短編集も有るくらいで、クイーンの”季節感”へのこだわりはもう少し見直されてもいい気がする

後期の有名作の1つ「災厄の町」は、まさに”季節感”を最もよく表現した話だ
当サイトでの空さんの御書評で的確に言い表わされておられるように、ハロウィーン、クリスマス、元旦、春分の日の後の復活祭、など季節の節目が物語の節目とリンクしてくる
クリスマスだって元々はキリスト生誕とかじゃなくて、昼が最短となる冬至の後に家族が集うイベントだという説も有るし
クイーンはこれ意図的に狙っているよな、きっと

謎解き的に見たら、トリックは大体は看破してしまった、冷静に考えればこういう手順で行なえば成立するよなって感じで、見抜いた方も多いと思う
また謎解きだけじゃない総合的見地でも、私は読んだ後期作の中では「フォックス家」が1番好きだ
しかし従来は地方都市が舞台というローカル色ばかりが言われがちな「災厄の町」だが、”季節感”の演出という面ではクイーン作品の中で最も成功していると思う

No.13 5点 ボナンザ
(2014/10/14 22:51登録)
エラリー・クイーンに下半身が出来たなどといわれる後期作の代表作。
ミステリとしても及第点。
ただ、個人的にはここまで立ち入っているのに傍観者を気取るクイーンはどうかと思った。

No.12 7点 E-BANKER
(2014/05/11 20:51登録)
1942年発表。ライツヴィル三部作の一作目に当たるのが本作。
ロジック全開の国名シリーズから橋渡しのような数作品を経て、探偵として人間として成長したエラリーを味わえる作品。

~結婚式の前日に姿を消して三年、突然ジムは戻ってきた。ひたすら彼の帰りを待ち続けた許嫁のノーラは、何も訊かず、やがて二人は結婚して幸福な夫婦となった。そんなある日、ノーラは夫の読み止しの本の間から世にも奇怪な手紙を発見した。そこには夫の筆跡で、病状の悪化した妻の死を報せる文面が・・・。これは殺人計画なのか? こんなに愛している夫に私は殺される・・・? 美しく個性的な三人の娘を持つ旧家に起こった不思議な毒殺事件。架空の町・ライツヴィルを舞台に錯綜する謎と巧妙な奸計に挑戦するクイーンの名推理!~

さすがに読み応えあり。
ひとことで言うなら、そういう感想になる。
クイーンの作品群における本作の位置付けや意義については、今さらクドクド書くまでもないと思うが、パズラーとしてひたすら事件の謎そのものにスポットライトを当てた国名シリーズと比較すると、人間の「行動」或いは「心」の謎にスポットライトを当てているという印象が強く残った。

愛する夫との待ちわびた結婚生活、その幸福を打ち破る三通の手紙が本作のプロットの「肝」となる。
まるで未来の凶行を予言するかのような手紙を発見したノーラ、エラリー・・・。その手紙をなぞるかのように起こる奸計、そしてついに起こってしまう殺人事件。しかしながら、被害者はノーラではなかった!?
事件の謎そのものに複雑なロジックなどは仕掛けられていないのだが、その代わりに、ひとつひとつの事件を軸とした登場人物たちの動きが実に人間臭く、読者の興味を引き付けることになる・・・
ロジック&トリックのミステリーに限界を感じた作者の羅針盤は、本作という波止場を見つけた・・・という感じなのだろうか。
ミステリーでも人間の心の機微を描くことができる、という実感を得たに違いない。

初期の作品群とどちらが好きかと問われると、正直なところ「初期」と答えるのだが、本作の評価は揺るぎないものだと思う。
ということで、これ以下の評価は付けられない。
(エラリー・スミスって・・・普通気付きそうなものだが・・・)

No.11 8点 itokin
(2014/03/10 19:33登録)
中盤までは状況説明で退屈したが、事件が起きた以降はスピード、盛り上がりも出て、特に裁判の場面は秀逸。また、クイーンの出現で謎だった箇所がうまく解き明かされ構成の素晴らしさに引き付けられました。

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