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弾十六さん
平均点: 6.14点 書評数: 528件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.468 7点 夜の恐怖- ゴーグ 2025/02/18 22:53
1922年出版。The Terror by Night by George W(oolley) Gough 原文は入手出来ませんでした。邦訳は『世界探偵小説全集15 夜の恐怖・泰西大盗物語』大佛次郎 訳(平凡社 1930)に収録。「泰西大盗物語」は大佛クレジットですが、実際は野尻抱影訳でしょうね。私は国会図書館デジタルコレクションで読んでいます。文章は非常に読みやすいです。本字旧かな遣いが気にならない人はぜひ。

自称「夜の恐怖」という強盗が出てくる連作短篇集。ウォルポールが首相を辞めるかも、と文中にあるので、1740年ごろの英国が舞台なんでしょうね(一箇所、1909年に出版された本、というのが出てくるけど、なんかの間違いだと思う)。原本には14作?が収録されているようですが、翻訳は以下の5作を収めています。(訂正: 誤解してこう書きましたが、多分全訳だと思います)
(1) 金扇
(2) 黄ろい胴着
(3) 緋色の女車
(4) 琥珀の象
(5) 実のある花

ちょっと意外な展開が工夫されていて非常に面白い。原文入手したいなあ。
二作目は尾行をしてる相手が消える一種の不可能状況。Adeyのリストには載っていませんでした。結末は不可能状況とは全く程遠いものでした。
三作目は、三角関係とダイアモンドの話。展開が面白い。
四作目は、失われた遺産の話。でも琥珀の象の価値は1ギニーの安物だという。

「ちょつと、十分ばかりお邪魔をする」
私は傍に寄って、彼のがっしりした手を握って云った。
「十分?十五分にしたまひ!」
『夜の恐体』は、険しい空に目を投げてから答へた。
「よし、特別に五分だけお負けをしよう。その間に短銃の用意をして頂きたい」
来たな!と、私は思った。行く先も用件も云はず突然に呼び出しに来るのが彼の筆法である。短銃の用意をしろと云ふからには、また何か血湧き肉踊るやうな活劇の渦に飛込んで行く為に誘ひに来たのに違ひない。

かふ云ふ調子です。(←出鱈目な旧仮名遣いです…)
クリスティ再読さまがお好きだと思う、世界大ロマン全集にピッタリの話。「夜の恐怖」を中心に因果はめぐる糸車。筋の起伏が良くて、文章の調子も良い。古い日本語が好きな人はぜひどうぞ。おすすめです!

(追記)
抜粋訳、と書きましたが、私はGoogle Playに目次だけあるのを見て、誤解していたようです。どうやら短篇を連作長篇に仕立てた感じの構成で、目次の一章=短篇一作という関係ではなさそう。目次と話の内容との関連や、全体のページ数から考えても、全訳のように思います(原本は229ページとのこと)。
(追追記)
作者の素性がちょっとわかった。George Woolley Gough (1869-1943), historian and economist
歴史家の余技の歴史小説、という感じだろう。
(追追追記)
具体的な金額がところどころに出てくるので、1740年当時の価値換算をしておきます。
いつもの英国消費者物価指数が1750年以前には遡れないので、英国cpi基準1750/2025で283.35倍、金基準1740/1750は1.055倍、従って混合基準1740/2025(298.93倍)で当時の£1=56349円

No.467 7点 殺意- フランシス・アイルズ 2025/02/09 22:15
1931年出版。初出Daily Express紙1931-08-10〜09-15、挿絵Lance Cattermole。私はグーテンベルク21、宮西 豊逸 訳で読了。元本は東都書房 世界推理小説大系18(1962)と思われる。英国生活を熟知されている感じの非常に良い翻訳。
以下、バークリーの私生活はWEBサイトSheDunnItの"The Psychology of Anthony Berkeley"とWEBサイトA Crime Is Afootの"Berkeley, Anthony (1893 – 1971) [updated 26/02/2022]"を参考にしました。
当サイトでは意外に評価が低い。私もしばらく途中でぶん投げていたんですが、Daily Expressの挿絵(我がブログの「アイルズは苦手」参照)をオカズに再チャレンジしたら結構面白く読めました。
最大の問題は、主人公に感情移入できないことだろう。同情される者を主人公にした方が良いのはわかりきってるのに何故?と思ったが、女たらしの主人公に自分を反映し過ぎて読者の反発が分からなかったのかも、と途中で思った。バークリー名義の作品では悪い女たらしは大抵被害者役だ。
後はラストがね。残念ながらあんまり面白くない。
本作は意外とバークリーの本音が出ちゃっているように感じる。バークリーはSherborne SchoolからUniversity College, Oxfordをでているが、弟はケンブリッジ大学を出て、妹も優秀。一家の中でバークリーは劣等生だったのだ。母がオックスフォード大学の女性卒業生の第一世代という才女で教育熱心だったが、バークリーは母の希望にそえず、コンプレックスとなったらしい。本作の妻ジュリアは、なんとなくこの母親のイメージを投影してるのでは?と思った。また、執筆当時のバークリーは不倫と離婚(1931)で揺れていたはず。バークリーの人妻好き、という性癖もコンプレックスのなせる技か。本作中にも人妻に興奮する場面が出てきて思わずニヤリとした。
以下、トリビア。電子本なのでページ数はパーセント表示。
作中現在はp(1%)冒頭で1927年6月25日。
価値換算は英国消費者物価指数基準1927/2025(80.28倍)で£1=15064円、1s.=753円、1d.=63円
p(なし) 献辞 To Margaret◆ バークリー最初の妻Margaret Farar、結婚1917年12月(ロンドンでの戦時休暇中)、離婚1931年。マーガレットさんもすぐ再婚したようだが、離婚してもバークリー側に悪感情はなかったようで、バークリーはマーガレットに£1000を遺贈している。アイルズ名義第二作はバークリー二度目の妻Helen Peters(旧姓MacGregor)に捧げられている。
p(1%) 六月の末… ある土曜日(Saturday afternoon towards the end of June)◆ この冒頭場面はp(88%)から1927年6月、月末に向かう土曜日なので25日と思われる。
p(1%) テニス・パーティ(tennis party)◆ 流行
p(1%) びんからビールをグラスにつぎ(poured himself out a glass of beer from the bottle)◆ 冷蔵庫は普及してないので常温保管
p(1%) 自分で呼鈴を鳴らしたりするのは、中流階級の作法(middle-class manners to ring a bell herself)◆ ロウワー・ミドルの呪縛
p(2%) ツイードの上着、フランネルのズボン… 田舎医者(Country practitioners .... in old tweed coats and shapeless flannel trousers)◆ いかにも田舎の保険医というイメージなのだろう
p(2%) トリルビ帽(trilby hat)
p(4%) 「屋敷(The Hall)」◆ かなり大がかりな邸宅のイメージ。この小説中では常に大文字でThe Hallと呼ばれている。
p(4%) イートン校のブレザーコート(Etonian blazer)
p(7%) 土地の狐狩協会会長(the local MFH)◆ Masters of Foxhounds
p(7%) 上品に眉を上げる秘術(the art of eyebrow-lifting)
p(10%) 小柄(his small body)... 五フィート六インチ(five feet seven inches)◆ バークリーは小柄だったのかな? ここら辺の文章から、なんとなく背は高かったのでは、と想像した。
p(10%) 近ごろでは、コンプレックスとか、抑圧とか、病的執着とかという言葉を… (In these days of glib reference to complexes, repressions, and fixations on every layman’s lips)
p(10%) スコットランドの医学校(a Scottish hospital)◆ 「医学校」というよりインターンで実務を経験して医者になる、という流れか
p(11%) すくなくとも三代にわたる紳士階級の先祖(at least three generations of gentle ancestors)◆ 三代という感覚は江戸っ子と共通だね
p(11%) 古い医師の人名簿(a medical directory of ancient date)◆ 郵便局発行のdirectoryは色々役にたつ
p(12%) 名流婦人(a Personage)
p(12%) 訳者さんはクリケットをちゃんと理解している。以下、ちょっと解説(半可通のひけらかし!)
◉最後の優勝決定戦で活躍する(selected to play for England in the last Test Match to decide the series)◆ 試訳「テスト・マッチ(国際対抗戦)の勝負を決する最終戦に選ばれた」テスト・マッチは五回戦。イングランド対オーストラリア戦はAshesと呼ばれ最高のライバル・シリーズだった。野球ならリアルに世界一を決める日米選抜決戦みたいなもの。イングランド代表チームはプロ、アマ問わず最優秀の選手が選ばれた。なお現実のイングランド主催Ashesの直近は1926年イングランドが1勝0敗4分で勝利。
◉イギリス・チームはやっと四六点(England all out for 46)◆ イングランドの1回裏は10アウト(all out)でたったの… という悲惨な得点。多分11人目の打者ビクリー博士の打順が来る前に10アウトになってしまったという設定。
◉続行第二回戦(The follow-on)◆ 敵が1回表に大量点をとり、味方が1回裏で追いつかない場合、2回表(テスト・マッチは2イニング制)は負けている側が引き続きプレイする。時間短縮の工夫。なおイニングが変わると再び一番打者からスタートする。
◉最後の打者として位置につく(last man in)◆ 既に九アウト、点差は559点。強打者でも100点取れれば素晴らしい出来なので、絶望的な場面。なおテスト・マッチでの一打席200点越えはDon Bradman(豪)が1930年に記録(254点)したのが初。
◉六点打が、ローヅ・クリケット競技場の観覧席をこえて飛ぶ(hit for six right over the pavilion at Lord’s)◆ Lord'sはクリケットの聖地、イングランド主催の場合必ず一試合はLord'sで行われる。六点打は野球のホームラン
◉その日じゅう打ちつづけ、あくる日も半日打ちつづける(the batting all that day and half the next)◆ イニング(10アウト)が終わるまで試合は延々と続く。日没になると次の日に持ち越す
◉ついにもう一人の打者がアウトとなる。「エドマンド・ビクリーは六四五点かせいでアウトにならない」(The other man out at last. ‘Edmund Bickleigh, 645 not out')◆ クリケットの打者は同時に二人がグラウンド上にいて、投手を中心とする直線上に設置された二箇所の打席に相対して一人づつが立つ。オーバー(6球の正規投球)ごとに投手は交代し、今までとは反対側の打席に投げる。また、奇数点打(たいてい1点、稀に3点)の場合、打者は走って反対側の打席に到達しているので打席は相方と交換している。なので打ち続けていても同じ打者がずっと打順を迎えるわけではない。ビクリーは無茶苦茶打ったが、相方の打者もずっとアウトにならず打ち続けたのだ。打っても点数にならない場合もあるので、相方が何点稼いだのかは不明。
◉つぎから次へアウト(clean bowled one after the other)◆ clean bowledは野球の空振り三振
p(13%) ウインブルドン全英庭球選手権大会におけるビクリーのハ短調交響曲(Wimbledon, Bickleigh’s Symphony in C minor)◆ テニスではなく、1910年オープンのNew Wimbledon Theatreのことだろう。特に戦間期に人気があった劇場のようだ。
p(14%) 鳴りわたるティアペーソン(a booming diapason)◆ パイプオルガンの主音栓の1つ。ディアパゾンが普通か。
p(14%) 郵便局は、食料品店でもあり、小間物屋でもあるとともに、また金物屋でもあった
The post office... was the grocer’s too, and the haberdasher’s as well as that, and the ironmonger’s besides.
p(14%) すがすがしい(refreshing)
p(14%) パイプ・オルガンの人声音栓(vox humana)◆ 人の声を思わせる音栓
p(15%) ジョウエット(Jowett)◆ 1920年からのJowett Seven(Short 7、二人乗り)かな?四人乗りサルーン(Long Four)は1923年からで£245だった。安くて軽いのが特徴。
p(15%) 鼻唄をうたった(hummed a little song)
p(16%) 自転車(bicycle)
p(19%) 半どん(early-closing day)◆ The Shops Act 1911 was a United Kingdom piece of legislation which allowed a weekly half holiday for shop staff. This became known in Britain as "early closing day". It formed part of the Liberal welfare reforms of 1906–1914.
p(19%) ロック・ケーキ(rock cakes)
p(19%) 名刺(a card)
p(20%) なにでもいいイかげんに考えてはいけまッせんッ(Itt doesn’tt do to take things casu-ally)
p(21%) はねかえり(precious)
p(21%) 冷(ひえ)症(frigid)
p(22%) マドンナみたいに、まん中で分け(parted in the middle, like a madonna)◆ ここは「聖母マリア」を示す。確かに古いイタリア絵画を見るとみんな真ん中分けだ。
p(25%) 刺繍やクローセ編み(a piece of embroidery or crochet-work)
p(25%) ラジオ(the wireless)… 受信機がなかった(they had no set)
p(29%) 喫茶店でお茶を(had tea at a café)
p(30%) 平底舟(punt)
p(33%) 離婚してくれるといい(might divorce me)
p(33%) あなたがわたしを離婚するのは許せそうもない(I’m afraid my decency doesn’t carry me to the point of letting you divorce me)◆ 落ち度のない相手に対して、離婚できないはずだが… 当時の英国では離婚訴訟の訴因は不倫や重度の虐待に限られる。ただしイカサマ離婚は可能だった。架空の不倫相手をしたてあげ、裁判所が誤認すると離婚出来る。このネタ、我がブログで取り上げたいなあ…(アガサさんの離婚関係の情報を最近知ったので)
p(38%) 膝掛け(the rug round her)◆ 11月、自動車の助手席に乗った女性に対する配慮。古い車なので隙間風も多いのだろう。
p(40%) わななきながら(in a flutter of welcome)◆ ちょっとニュアンスずれ? 試訳「うれしげに出迎えた」
p(41%) ジェイコブ・エプスタイン氏の制作した記念碑(The public monuments of Mr Jacob Epstein)◆ 1925年建立のW. H. Hudson Memorialのことだろう。当初、評判が悪かった。
p(41%) 医者として、もう役にたたなくなった愛玩用の動物たちを(In his duties he had put away plenty of pet animals who had passed their usefulness)◆ 地域の医師は、ペットの始末もしてたんだね
p(41%) 田舎の医者には、国民保険患者はすくなく、私費の患者が多い(In a scattered country practice such as his the panel is not large, and there are plenty of private patients)◆ 地域の医者だと担当区域の国保加入人口が多くないので、私費で契約している患者が頼りなのだろう
p(43%) マダム・タッソー蝋人形館(Madame Tussaud’s)
p(48%) 同意による離婚(a divorce by consent)
p(50%) 結婚許可証を手に入れる(to buy a special licence)◆ 急いで結婚したい場合の手続き。英国国教会の高僧が交付。通常なら結婚予定の公表後、三回の日曜日を経過する必要がある。「特別許可」は19世紀末の平均で£30という情報あり。
p(51%) ダービー磁器の茶道具一式(The Crown Derby tea service)◆ Royal Crown Derbyは1750年創業の老舗。「世界で最も高品質な磁器メーカー」と自社HPに書いてあった
p(51%) エセルは十四歳… 十二歳から(午前中は九時から十一時まで、午後は特に用事のある時だけ)◆ メイドの年齢&稼働時間。当時は普通?これでは学校に行けないだろう
p(51%) ふくらし粉(baking-powder)… 一罐(a tin)… 七ペンス(Sevenpence)◆ バークリーでは珍しく物の値段が書いてある
p(51%) ケーキいろいろ、原文のみ表示(a chocolate cake, iced with chocolate, an orange cake, iced with orange, and a great quantity of rock buns and Eccles cakes, not iced at all)
p(52%) 水道がなかった(there was no piped water)◆ 小さな集落なので引いていない
p(52%) 水洗式便所(a water closet)
p(52%) 膝までもない(to her knees)◆ スカートの長さか
p(52%) 既婚の男と土地の映画館に入っている(seen at a local cinema with a Married Man)◆ ゴシップ
p(53%) 人差し指(The forefinger)… 曲がって(being crooked)◆ 魔女のイメージ?
p(53%) 検死法廷(the inquest)
p(54%) 「過失死」(“accidental death”)◆ 「過失致死」を連想させるので「事故死」のほうが良い、と思う
p(54%) バクー帽(baku hat)◆ 麦わら帽で良いのかな?
p(56%) 流行の食養生(this fashionable dieting)
p(58%) 六月はじめ… 十三か月◆ 事件から約一年後
p(58%) 五シリング六ペンスの赤葡萄酒(five-and-sixpenny port)◆ ここは「ポートワイン」で甘味を感じたい。
p(59%) 毎日、一人の女が村から通っていた(a woman came in from the village now daily)
p(59%) ろくに運転を知らない(hardly knew how to)
p(59%) 深い味が(with the spice of interest)◆ 人妻好きの本音がチラリ
p(61%) 検死法廷(coroner's court)
p(62%) 本物の絹靴下。こりゃ、すっかり本物の絹なんだろうね(And real silk stockings. Real silk all through)◆ all throughで「でへへ、ずっと絹なの?」と手を奥に滑らせる場面だと思いました…
p(62%) 犯罪捜査部の大警部(a chief inspector)
p(63%) 反対尋問(cross-question)
p(64%) 八千ポンドの年収(eight thousand a year)
p(65%) デ・クインシーの「芸術としての殺人」(de Quincey on Murder as a Fine Art)◆ 正しいタイトルは“On Murder, Considered as one of the Fine Arts”(1827, 1839, 1854) 1818年12月にラドクリフ街道で二家族が惨殺された事件を扱っている。デクインシーは事実を随分と間違えているらしい。現行の邦訳は『トマス・ド・クインシー著作集 1』(国書刊行会)だけ?
p(67%) 本物のネズミ取り器(a veritable rat trap)
p(67%) 「フィガロの結婚」の一曲を鼻で歌いながら(humming an air from The Marriage of Figaro)◆ アリアの題名は書いてないが「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」なんてどう?
p(67%) ピアノを弾いた(strummed on the piano)
p(68%) バターをつけないトースト(dry toast)
p(68%) 医者としての儀礼を無視する極悪の行き方(a heinous breach of professional etiquette)
p(70%) 善きことのほか死者について語るなかれ(De mortuis nil nisi bonum)
p(70%) 証拠(evidence)◆ インクエストや裁判では「証言」の方が適切かなあ。
p(70%) サイフォン(syphon)
p(72%) ファウラー氏液(Fowler’s solution)
p(74%) ミルス手榴弾(Mills bomb)
p(77%) すいとり板(blotting pad)
p(78%) [三十]九度三分(a hundred and two point eight)◆ もちろん原文は華氏
p(79%) ダブルベッド… 旧式な男(the big double bed... old-fashioned)◆ 結婚したら使うべき、という考え方のこと?
p(82%) 漁業権(fishing rights)
p(83%) ラベージ会社(Rabbage & Co.)◆ 架空
p(84%) 浮浪者(loiterers)
p(84%) 一九二九年九月十四日(14th September, 1929)
p(86%) 内務大臣(the Home Secretary)◆ そういう決まりなんですね
p(86%) 大陪審(The grand jury)◆ 裁判に値するかを決める
p(88%) 一九二八年四月九日(9th day of April, 1928)
p(88%) 十二人の善良で誠実な人たち(Twelve good men and true)◆ 陪審員の異名。少なくとも17世紀から使用されているようだ。
p(89%) 検事長(Attorney General)◆ 定訳は「法務長官」か。内閣の一員。国王と政府への法的助言を行うのが主務だが、特に重要な事件の場合には自ら法廷で検察側として立つこともあるらしい。当時の現実世界ではThomas Inskip(1876-1947)が勤めていた(保守党、ボールドウィン内閣1928-03-28〜1929-06-04)。この程度の事件に出馬するものかなあ…
p(96%) 場おくれ(Stagefright)
p(97%) 千ポンド以上の経費(the expenditure of a few more thousand pounds)◆ 高いなあ

BBC1979年のTVドラマが某チューブで1時間ものx4本が全部見られる。実に丁寧な作りで1920年代が再現されている。ジョウエット(フォードア)もちゃんと登場する。食事の場面や銅鑼を鳴らすところとか、あの「キャップ」(むしろ頭巾?)って助手がかぶせるんだ!というような映像資料が満載でした。配役のイメージもピッタリで、おすすめです。

No.466 7点 Locked Room Murders Supplement - 事典・ガイド 2025/01/14 05:50
2019年出版。出版社はLocked Room International(すごい社名である)。
Robert Adeyの名著Locked Room Murders, 2nd edition(1991年、2019作登録)の追補。1150作を追加。1991年以前の作品だが漏れていたものも含まれる。
本書は「密室殺人」と言うタイトルだが、ここでリストアップされている作品は「不可能犯罪」全般。なので「密室」を含まないものも登録されている。ただし全員にアリバイがあって「不可能」なものや、解決後に不可能を構成していたとわかるもの(具体例が想像できないなあ)は除いた、と序文に書いてあった。
私はまだAdey 1991を手にしていないが(2月ごろ我が家に到着予定)、本書の形式は以下のようになっている。序文から判断する限りAdeyのフォーマットも同様だろう。
(1)リストは作家名順、作家別に個々の作品を記載(p17-197)。
(a)登録番号, (b)作品名, (c)探偵, (d)不可能状況。なお作品の評価は記されていない。
(例)
Masterman, Walter S.
2745 BACK FROM THE GRAVE novel U.K.: Jarrolds, 1940
Detective: Sir Arthur Sinclair
Problem: Death by poisoning in a locked room with the disappearance and reappearance of a human skeleton.
(2)ネタバレ解決は別にまとめられ(p199-306)、登録番号で参照することができる。
なのでネタバレを気にせず、不可能犯罪を扱った長篇、短篇、ラジオショー、TVドラマやマンガ(名探偵コナン君も数作紹介されていた)などのリストとして使うことができる。
別にアンソロジー、TVドラマ、参考図書の短いリストが付録として付いている。
英訳のある日本人作家も登録されている。詳しくないのでどれくらい網羅されているのかよくわからないが…
英語も平明で不可能犯罪作品の読書案内として最適だと思います!
Adey本が届くのが楽しみ!

No.465 8点 ビッグ・ボウの殺人- イズレイル・ザングウィル 2025/01/05 04:07
1891年出版。初出は大衆向け夕刊新聞スター紙連載(1891-8-22〜9-4)、挿絵があったのかなあ。評判が良く、すぐ書籍化されたようだ。私はハヤカワ文庫で読みました。しばらく倉庫を捜索してたんですが、文庫本が見当たらず、国会図書館デジタルライブラリに旧訳(妹尾アキ夫版及び長谷川修二版)があったので、試してみたら二つとも最初から意味を捕まえきれてないボンヤリ文が続き、だめだこりゃとなって結局ネットでポチりました。

ザングウィルさんは、チャンスがあったらすかさずボケなくては!というボケ芸人タイプで、細かいくすぐりが随所にある。こういう皮肉っぽい文章が大好きなので、ザングウィルさんの別の文章も読んでみたい、と思いました。
ハヤカワ文庫の吉田訳は非常に快調で、英国的ユーモア感を見事に再現してるのですが、鍵関係だけは取りこぼしあり。その他の解釈違いなども含めトリビアで細かく書きます。私は本書でようやくlatchkey、lockとboltの概念がはっきりしました。(このネタは長くなるので我がブログで... <予定は未定!>) 後述するが最大の謎 big lock の事については詳しい人の解釈を聞きたいなあ!
また、この作品の特徴として、警察の無能に対する非難が激しい。ザングウィルは切り裂きジャックの事件(1888)を解決できなかった首都警察が避難を浴びたことを経験している(掲載誌のスター紙も切り裂きジャック事件で部数を伸ばした)。シャーロック登場時(1887)でも、それほど警察の無能をあげつらってはいない。もちろんコリンズ『月長石』の元ネタであるコンスタンス・ケント事件(1860)で警察は不手際を非難されていたのだが、警察=無能が確立したのは切り裂きジャック事件なのではないか。
以下、トリビア。
作中現在はp38から1888年で良いだろう。
価値換算は英国消費者物価指数基準1888/2025(166.10倍)で£1=32437円。1s.=1622円、1d.=270円
序の日付は1895年9月なので、リプリント版に付けられたものだろう。
p4 海竜(the sea-serpent)◆ ネス湖の恐竜のことか?英Wiki "Loch Ness Monster"に以下の記述があった。Sightings in 1856 of a "sea-serpent" (or kelpie) in a freshwater lake near Leurbost in the Outer Hebrides were explained as those of an oversized eel, also believed common in "Highland lakes". ネス湖の恐竜が有名になったのは1933年だがスコットランドの湖水地域には昔から海竜(実は巨大ウナギか)の噂があったようだ。
p9 二度とは語れない(cannot tell a story more than once)◆ 同じ話を別のやり方では語れない、という感じ?
p14 週一シリングの一定料金でガスを(to pay a fixed sum of a shilling a week for gas)◆ なんで定額制にしたんだろう。計算が面倒?
p16 六時四十五分を告げる聖ダンスタン教会の荘厳な鐘(St Dunstan's bells chiming the three-quarters)◆ 教会の鐘は15分ごとに鳴るのが多いのだろう。ビッグベンのアプリがあるよ(Westminster Chimes)。
p16 電車(tram)◆ 当時は馬引きか?
p17 議会に打って出ようという野心… 亭主持ちの女主人(おかみ)… 一票もうかる◆ 女性には投票権は無かった
p17 労働者は、あんなに水をふんだんには使わない(working men were not so lavish in their patronage of water)
p17 型どおりに、わざと目をつぶったりせずに大きく見ひらいていて、それがいささか得意らしい(not first deliberately shutting his eyes according to the formula, the rather pluming himself on keeping them very wide open)◆ 食事の描写のようだが、どういう情景なのか、よくわからない…
p18 紅茶と緑茶との粗悪な混合物(the coarse mixture of black and green)
p19 玄関のドアは差し錠も鎖もはずされていて、鍵であけしめする掛け金が掛かっているだけ(The door was unbolted and unchained, and the only security was the latchkey lock)◆ 最近、探偵小説の翻訳では重要だと思ってるラッチキーがここに出てくる。内部からはボルト(ラッチ)をスライドさせて錠を掛け、外からは鍵で開けられる仕組み。この訳文だと内外とも鍵が必要だと受け取れてしまう。造語だがlatchkey lock=night latch=「夜閂錠(やかんじょう)」を提案したい。latchkeyは「夜閂鍵」とか「閂鍵」が良いかなあ。
p19 大きい錠の舌を押える輪をすべりこませて(slip the loop that held back the bolt of the big lock)◆ この部分が本作最大の謎(私にとって)。どうやってドアの外からドアの内側にある(と思われる)big lockを閉めるのか、全くわからない。前述のように、おかみがちょっと見た時は、big lockのことは見逃して、ラッチキー以外は外れてる、と誤解している。p32に同じ場面の記述があるが、どうやらbig lockは玄関ドア全体をしっかり施錠できるような錠前で、普段はボルトを縛りつけて(tie back)いるのだが、出がけにその結び目?を解いて(slip the loop)ドアを閉めると、重力かバネか何かの作用でしっかり鍵をかけるような仕組みなのではないか、と妄想した。何か似たような写真や絵がないか、ググったが見当たらない。こんなに簡潔に書いてある、という事から、当時の人にはすぐイメージ出来るようなポピュラーな方式なのだろう、と推測するのだが…
p20 いつも奇妙な取り合わせだが(always a strange assortment)
p23 午前十時から午後十時まで家政婦を(a female factotum between ten a.m. and ten p.m.)◆ ここら辺、くどい表現だが、妾じゃないよ、というニュアンスか。
p25 鍵がかかっているだけでなく、掛け金もかかっているらしい(the door seemed bolted as well as locked)◆ ここは部屋のドア。boltはスライド式の簡易錠で、lockはドアをくり抜いて設置した鍵で開ける本格錠という区別なのだろう。boltとlockの概念の違いに注目。
p25 鍵の舌が納まっている木の部分… 掛け金が肘壺からはずれ(the woodwork enclosing the bolt of the lock splintered... the large upper bolt tore off its iron staple)
p32 大きい錠の舌を滑らせて… いつもは押さえてある… だれも入れなかったはず… たとえ鍵を使っても(slipped the bolt of the big lock, which was usually tied back. It was impossible for anyone to get in even with a latchkey)◆ ここも単なる「鍵」ではなく「ラッチキー」と明示されないとわかりにくい。下宿人が外から解錠する仕組みである「ラッチキーを使っても(big lockがかかってるのでドアは開かない)」という事である。この翻訳文だと、鍵さえ持っていればbig lockも開くのでは?と思ってしまうだろう。翻訳の別解はp19で示した。p19で私はbig lockを家の内側からドアを閉める機構だと考えていたが、実は外で閉める仕組みで(だからおかみが内部から一瞥してもわからなかった)ドアの内からでも外からでも鍵で開けられるものかも。big lockの鍵はラッチキーと違って下宿人には提供されていないのだろう。lockはkeyで開け閉めする、という基本概念とも合致するから、これが正解か。
p33 当の陪審員は気づかぬふりをしようとする(the juryman tries to look unconscious)◆ こういうくすぐり、好き!
p35 部屋の窓は二つともしっかり差し金が掛かっている(both the windows were firmly bolted)
p35 自分の寝室のドアに鍵をかけるのが習慣(in the habit of locking his door when he went to bed)◆ 屋敷の中でも用心のため部屋に鍵をかける。人口が急に増えた大都市ならではの習慣が密室を作り出すのだ。
p36 差し錠は上に滑る式のやつで、ドアの上端についていた(The bolt slid upward, and was at the top of the door)… 外から鍵がかけられないと文句を言った(could not fasten his door behind him)… 金をかけて錠を取り付け(put to the expense of having a lock made)◆ ドアの上のボルトが垂直方向に動く仕組み。内部からしか鍵を掛けられない。ここでも原文ではbolt(keyで開け閉めしない)とlock(keyで開け閉めする)という錠前概念を区別して翻訳しないと、訳がわからなくなる。
p36 神経質(nervous)… とてもよいかた(a very nice gentleman)
p36 三シリング二ペンスはいった財布(a purse with 3s. 2d.)
p38 十二月四日火曜日(Tuesday, 4th December)◆ 該当は1888年。その年、グラッドストンは自由党党首だったが首相ではない。
p38 窓は二つあって、その一つには掛け金が掛かっていた(There were two windows, one bolted)◆ ここは二つとも鍵がかかっていたはず(p35,p51など)。p199に説明がある。結構細かいところまで考えられているなあ。
p40 問題の家と故人の寝室を実地検証した(view the house and the bedroom of the deceased)◆ インクエストでは犯行現場の実地検証(view)が行われる場合がある。
p44 ぺちゃんこな胸をした女工(a flat-chested factory girl)◆ ヴィクトリア時代はコルセットで胸を強調した時代。その後、1920年代に至るまで英国ではだんだん胸平になっていった。 WebサイトTuppence Ha'penny "Abreast of Developments: The Changing Shape of Décolletage in Fashion"参照
p46 十ギニーの小切手◆ 寄附なのでギニーなのだろう。ヴァージニア・ウルフ『三ギニー』など。そして支払い方法は古いギニー金貨ではなく小切手だ。
p51 窓が二つあり、両方ともしっかり掛け金が掛かっていた(with two windows... both securely bolted)
p51 表側のドアは錠がおりているだけではなく、差し錠までかけてある(The front door... is guarded by the latchkey lock and the big lock)◆ 翻訳だと錠前の区別が全く不明瞭になっている。"big lock"も無視。試訳「表口のドアはラッチキー錠で締まっているだけでなく、大錠前もかけてある」
p53 ”天の配剤による死”なる評決(a verdict of ‘Death from visitation by the act of God’.)◆ 突然死(前日まで異常が全くなかったのに朝死んでいた、など)の場合に、多分何かの発作によるものだろうが、当時の医学では原因が突き止められなかった場合、「神の訪れ(Visitation、たいてい大文字で始める)が現実にあったら生身の人間は耐えきれず死ぬ」という趣旨で、時々こういう言い回しの評決が実際に採用されることがあった(20世紀になると廃れた。赤ちゃんの突然死での適用例などあり。inquest verdict visitation of godで検索)。この登場人物は、今回、奇跡じみたことが起きたので、宗教がかったこの言い回しを採用しようと主張しているのだろう。
p54 犯罪ありと決定しようとするXXXの熱意(XXX's burning solicitude to fix the crime)◆ Visitationの評決が採用されても「犯罪あり」とはならず、むしろ逆(奇跡的な自然死)である。ここのfixは「犯罪を(神の)せいにする」という意味だろう。試訳「犯罪を神の思し召しに帰そうというXXXの熱意」
p54 存疑評決(open verdict)◆ 翻訳語としては非常に良い。正確な意味は「今回のインクエストでは、証言や証拠を検討しても死の要因が(殺人とも自殺とも)決めかねる」という事である。インクエストの最終目標は、死の要因が事故か自殺か殺人か自然死かを評決することである。
p55 演歌師(vocalists)
p55 モルグ街の殺人(The Murder in the Rue Morgue)
p56 《ランセット》紙(Lancet)◆ 著名な医学雑誌ランセットは医師で検死官でもあったThomas Wakelyが創刊。医学の進展や死因の複雑化(特に毒物)により、検死官の資格をめぐって従来の法曹系ではなく医学系を重視せよ、という主張がなされるようになった。Wakelyは「検死」には当然に豊富な医学知識が必須、という立場から多くのインクエスト批評記事をランセットに掲載している。
p56 医師でないものが検死官をつとめている(having coroners who are not medical men)◆ 検死官の資格要件に医学的知識は含まれていなかった。
p57 "かかる傷なれば、刃物はそのなかに没す"というシェリーの詩句の引用(the quotation of Shelley’s line, ‘Makes such a wound, the knife is lost in it')◆ 元ネタはHis fine wit Makes such a wound, the knife is lost in it.('Letter to Maria Gisborne' (1820) l. 240 on Thomas Love Peacock)のようだ。シェリーの文の意味は「彼の優れたウィットにはナイフが隠れており、たいそう人を傷つける」という感じ。引用元の詳細未調査。試訳「ひどい傷が出来る、ナイフはそこに隠れているのだ」
p58 マスケラインとクックのコンビ(訳註 英国の奇術師)(Messrs Maskelyne and Cook)◆ 正しくはMaskelyne and Cooke、Cook表記はフィル・マク『迷路』でも。
p64 ケンジントンやベイズウォーターの金持ち連中(so fashionable as those in Kensington and Bayswater)◆ ベイズウォーターも高級住宅街なんだ…
p65 警視庁の元刑事(a former servant of the Department)◆ ここは「公僕」という語を入れた方が良い。
p66 巻きタバコ(a cigarette)
p67 凡人、だから知りたい(I am only a plain man and I want to know)
p67 ヴィクトリア公園(Victoria Park)
p67 エレミア第二章、コリント第一章(The second chapter of Jeremiah... the first chapter of Corinthians)◆ 矛盾があるらしい。未調査。
p70 滑稽詩(comic verse)
p70 二ペンスの散髪代(for lack of twopence)
p73 パンは四ポンドで四ペンス三ファージング(bread at fourpence threefarden a quartern)◆ 1283円。ほんの一例だが2023年英国のスーパーで800gの最安スライスは36pという情報があった。これを4ポンド換算すると648円。当時は結構高価だったか激安スライスが安すぎるのか
p73 授業料… 週に七ぺンス(sevenpence a week for schoolin’)◆ 子供七人分らしいので一人当たり1ペニー。
p74 かあちゃん、妻◆ 下層階級は奥さんをmy motherと呼ぶが、上流だとthe wifeと呼ぶらしい。なかなか貴重な情報。
p82 一ポンド金貨(a sovereign)
p85 プロット売ります(PLOTS FOR SALE)◆ この「売り物」実際にあった商売なのか?
p86 チンフォード教会(Chingford Church)◆ St Peter and St Paul, Chingford (Church of England parish Church) 1844年建設。
p87 アン女王("... is dead"... “So is Queen Anne”)◆ アン女王はis deadと強く結びついている。(以前どこかに書きました)
p89 ダーウィンとファラデー(a Darwin or a Faraday)◆ 当時の有名な学者の例
p92 婦人服の仕立てをしていた(She was a dressmaker)
p92 週給36シリング(earning 36s. a week)◆ 植字工の給金、月給にして25万円ほど。
p94 フローラ・マクドナルド(Flora Macdonald、訳註 1722-90 スコットランドの女傑)
p97 本当のレディー(real ladies)... XXXだけがいわば素人(XXX was only an amateur)
p98 おきゃん(the minx)
p99 サラゴーサの乙女(the Maid of Saragossa)◆ Agustina of Aragón(Agustina Raimunda María Saragossa i Domènech) (1786-1857) the Spanish Joan of Arcとして知られている。
p102 九柱戯(skittles)◆ 英Wiki "Skittles (sports)"
p104 クリスマスのプラム・プディング(Christmas plum-pudding)
p104 迷信(prejudice)◆ 翻訳では間違って訳しているのだが、この前段はグロドマンに対して「クリスマスは一人ぼっちより大勢の方が良いよ」とウィンプが誘っている(Wimp said that he thought it would be nicer for him to keep Christmas in company than in solitary state)
p109 クリスマスの鐘の音(Christmas Bells)◆ 教会の鐘。特別な鳴らし方なのだろう。
p110 休日(Bank Holiday)◆ p123の「休日」も同じ。この人は特別な休日にしか出かけないのだろう。
p114 グレイス・ダーリング(Grace Darling 訳註 難破した船の水夫九人の命を、灯台守のちちと一緒に救った女性)◆ 英国中の話題となった。生没年1815-1842、海難事故1838年
p119 上流の人々(the fine folks)
p123 ゴクツブシ… 低級な詐欺師(a sponger and a low swindler)
p125 うちのいちばん上等なグラス… 三ペンス(one of my best glasses... threepence)◆ 一番上等でもやっと三ペンス
p127 女優の写真(portraits of actresses)
p129 晴着(サンデー・クロウズSunday clothes)
p130 二人乗りの馬車(a hansom)
p131 ニューヨーク・ヘラルド(New York Herald)
p132 この電気時代(these electric times)
p132 ドルリー・レーン劇場(Drury Lane)◆ 有名な劇場といえば、ここ
p133 オランダ麻(brown holland)
p133 まるで政治集会のように、だれかが《彼はすてきにいい男》を歌いはじめた(someone starting ‘For He’s a Jolly Good Fellow’ as if it were a political meeting)◆ こういう場面で歌うのね
p141 ドニブルック市(いち)に(at Donnybrook Fair 訳註 飲み騒ぎやけんかなどで有名)
p141 ドヴォルザークの不気味な悪魔的な楽章(one of Dvorák’s weird diabolical movements)◆ どの曲のことだろうか
p142 元栓… ガス(the gas at the meter)◆ 当時の照明はガス灯
p143 アルニカ・チンキ(arnica)
p145 治安判事(a magistrate)◆ 専門職ではない。英国では地方の名士がそのポジションに就く。現在でも「ボランティア」と表記されている(ということはほぼ無給なのか)。「判事」は誤解を招く訳語だと思う。
p147 自分の鍵を用いて、掛け金だけかけておいた表口のドアから中に入り(got in with his latchkey through the street-door, which he had left on the latch)◆ この翻訳の「鍵」、掛け金」は「ラッチキー」、「ラッチ錠」と明示しないとわからないだろう。on the latchはWikitionaryに(of a door) Closed but not locked, so that it can be opened by operating the latchとあった。試訳「自分のラッチキーで、ラッチ錠だけかけておいた表口のドアを開け中に入った」
p147 ドアに鍵をかけ、掛け金がかかって(locked the door…being bolted)◆ lockはkeyで開閉、boltは部屋の内側で操作、という含意を明示したいのだが、日本語では難しいかも。試訳「鍵でドアをロックし… ボルトがかかって」
p147 錠前の掛け金をはずし、外に出てドアを閉め(unslipped the bolt of the big lock, closed the door behind him)◆ 翻訳ではbig lockを省いているので非常にわかりにくい。この原文の順番ならp32の私の想像は誤りで、やはりドアの内側でbig lockを操作して、ドアを閉めるとスプリングか何かで自動的にロックされる方式のように感じる。だがどんな錠前なんだろう。Webでいろいろ探したが「コレだ!というのは見つからなかった… 試訳「大錠前のボルトをロック位置に動かし、外に出てドアを閉め」(前半はゴマカし訳文です…)
p148 お茶をいただく… 濃く淹れて、砂糖なしで(I like my cup o’ tea. I take it strong, without sugar)◆ 夜の飲茶
p151 りっぱな紳士… [彼は]たかが植字工(a thorough gentleman… only a comp)◆ 植字工はgentlemanではありえないのだろう。
p154 死亡時刻推定(the approximate hour of death)
p156 『全英鉄道案内』(“Bradshaw”)◆ 固有名詞好きなのでブラッドショーは残して欲しい。
p158 差し金の入る壺釘(the staple containing the bolt)◆ p25では同じ語が「肘壺」と訳されている。
p158 掛け金は上下に動く式(The bolt... worked perpendicularly) ◆ p36では「差し錠」と訳されている。錠前の翻訳語の統一又は区別がちゃんとしていない。
p160 演芸場に(at the music-halls)
p161 金貨で(in gold)
p162 宣誓を拒み(refused to take the oath)◆ ああ、当時から法廷であっても聖書に誓わなくて良いんだ…
p163 東洋古代の伝説(the old Oriental legend)
p167 辻馬車(二一三八号)(the cabman(2138))◆ 馬車にはナンバーが明示されている。
p172 黒帽(black cap)
p177 大々陪審(訳註 "民衆の声" "世論"のこと)(The Greater Jury)
p177 密教(Esoteric Buddhism)
p186 ベイコンやミル(Bacon and Mill)◆ 帰納論理学の理論家として挙げられている
p194 暗号文の中から"e"の文字を見つけ出す(detect the letter ‘e’ in a simple cryptogram)◆ ポー『黄金虫』(1843)でポピュラーだったのだろう。ドイル『踊る人形』(1903)はモリスン(マーチン・ヒューイット)の暗号短篇(1896)よりも後。
p199 一方の窓しか掛け金がかかっていなかった(only one window fastened)◆ なるほどね。ここでわざわざこの説明がある、というのは「食い違い」について新聞連載中に投書か何かがあったのか。なお、fastenedという語はもっぱら窓に使っている印象あり(本作品で調べると一箇所だけドアで使用(p36)、後の九箇所は全て窓だった。日本語なら「ドアを閉める」と「窓を締める」の違いか)。

ドン・シーゲル監督のデビュー作The Verdict(1946)[邦題『ビッグ・ボウの殺人』] シドニー・グリーンストリート、ピーター・ローレ出演を日本語版が入手できなかったので怪しいロシア・サイトで観ましたよ。英語で字幕無しなのでセリフの大半は聞き取れなかったのですが、概ね原作に忠実な感じだったので理解に支障なしでした。ヴィクトリア朝ロンドンの再現性は非常に満足。残念ながらインクエストのシーン無し、注目のbig lockやnight latchも全く登場せず。陪審員に部屋のドアの模型が提示されていたのが面白かった。囚人服のbroad arrowにも注目!(変なデザイン…)

No.464 7点 真田啓介ミステリ論集 古典探偵小説の愉しみⅡ〔増補版〕悪人たちの肖像- 評論・エッセイ 2025/01/03 04:52
元版2020年6月荒蝦夷(初版500部)を増補して再刊。最初の同人誌?を買いそびれた私はヤフオクなどを探す毎日でした。
こういう書籍はネタバレが怖くて読めないのですが、著者は★★★や☆☆☆マークで文中で事前に注意するという工夫をこうじていて安心ですね!
ネタにされてるのが結構ここにも感想文を書いたのとかぶっていて、読むのが楽しみです!

以下、目次。版元も全貌を公開してないので一覧を作りました。
冒頭の★はこの増補版で追加されたもの。タイトル後の[ ]内は初出です。
<1>イングランド・スコットランド・アイルランドの作家たちの章
●ゴシック・ロマンを読みすぎた少女[ROM2015-01]
●魔神アスモデの裔[本棚の中の骸骨2011-08]
●『月長石』の褪せぬ輝き[ROM2011-12]
●シャーロック・ホームズという人生[ROM1995-01]
●クロフツ『樽』を論ず[ROM1996-10]
★『樽』のミスを論ず[ReClaM2020-04]
★クロフツ『ポンスン事件』を論ず[ROM2002-07]
●クリスティ『スタイルズの怪事件』を論ず[ROM1998-06]
●セイヤーズ短篇集『顔のない男』解説[創元推理文庫2001-04]
●ヘンリー・ウェイド入門の記 『The Missing Partners』読後感[ROM2000-12]
★紳士が警察官を志すとき(ウェイド『ヨーク公階段の謎』解説)[論創社2022-09]【「ウェイド既訳長篇ガイド」と差替え】
●フィルポッツ問答(ヘクスト『テンプラー家の惨劇』解説)[国書刊行会2003-05]
●フィルポッツ『灰色の部屋』を論ず[ROM2000-03]
●なぜに「駒鳥」名付けたか?[ROM1984-12]
●わたし とキューピットがいいました(ヘクスト『だれがダイアナ殺したの?』解説)[論創社2015-07]
●あるエゴイストの犯罪(フィルポッツ『極悪人の肖像』解説)[論創社2016-02]
●また一人、<悪人>の創造(フィルポッツ『守銭奴の遺産』解説)[論創社2016-06]
★エドガー・ラストガーデンの『ここにも不幸なものがいる』 レディに薦める殺人物語⭐︎その第三冊[謎謎通信1986-05]
●<鬼>を呼び起こす密室物の傑作(デレック・スミス『悪魔を呼び起こせ』解説)[国書刊行会1999-11]
●時計が巻き戻されるとき(ディヴァイン『ロイストン事件』解説)[現代教養文庫1995-05]
●いま一人の女王、再登場(メアリー・スチュアート『霧の島のかがり火』解説)[論創社2017-08]
●ファンタジーの巨匠が残した唯一のミステリ作品集(ダンセイニ『二壜の調味料』解説)[ハヤカワ文庫2016-11]
●探偵小説とウッドハウス(『エムズワース卿の受難録』解説)[文藝春秋2005-12]
●ウッドハウスの二大人気シリーズ[ROM2003-09]
<2>大西洋と太平洋の彼方の作家たちの章
●異彩を放つ超本格派(ストリブリング『カリブ諸島の手がかり』解説)[国書刊行会1997-05]
●文豪、座談家、ときたま探偵(デ・ラ・トーレ『探偵サミュエル・ジョンソン博士』解説)[論創社2013-11]
●動かす力としての愛(マーガレット・ミラー『雪の墓標』解説)[論創社2015-10]
●バンコランの変貌(カー『四つの凶器』解説)[創元推理文庫2019-12]
★レーン四部作を論ず[ROM2015-10]
●探偵小説が若かった頃[SRマンスリー1990-05]
●江戸川乱歩の「探偵小説の定義」をめぐって 紀田順一郎『乱歩彷徨』の読後に[ROM2012-06]
●犯罪と探偵 --- 「陰獣」論[書斎の死体1985-02]
●夢の終焉 --- 「パノラマ島奇談」論[書斎の死体1985-02]
●明智小五郎の部屋[書斎の死体1985-02]
●乱歩に対峙する気魄の目録[世界探偵小説全集 月報18(第22巻)国書刊行会1997-08]
●三読して『本陣』の美質を知る[創元推理倶楽部秋田文科会1998-12]
●金田一耕助はなぜ留置場へ入れられたか[創元推理倶楽部秋田文科会2003-12]
★よくわかる『ドグラ・マグラ』 創元推理文庫版・日本探偵小説全集4『夢野久作集』読書会報告[謎謎通信1986-02]
★パズルを超えて[地下室1984-12]
●第四の奇書『生ける屍の死』[SRマンスリー1990-01]
●欲望と論理のアラベスク(「狩久全集」第五巻解説)[皆進社2013-02]
●六十年前のアンソロジイから[ROM1989-07]
●Revisit Old Memories 「ROM」百号に寄せて[ROM1997-08]
●加藤さんの最後のご厚意 「ROM」主催者・加藤義雄氏追悼[ROM2013-12]
★集める・読む・生かす[日本近代文学館2020-11]
★古典探偵小説の魅力[河北新報2021-05-12]

(以下2025-01-03 13:52追記)
p125 『灰色の部屋』で
"ヘンリー・ジェイムズが「二流の作家」と言われている…"
とありますが、ここは前に私の感想文に書いたとおり、誤訳です。
【以下再録】
創元文庫 p254 アンドレア・デル・サルト… ヘンリー・ジェームズは二流の画家だといってるけど、ジェームズ自身が二流の作家だからでは(Andrea del Sarto… but Henry James says he's second-rate, because his mind was second-rate, so I suppose he is)◆ここの代名詞(he, his)は常にデル・サルトを指す… 試訳「ヘンリー・ジェームズは二流の画家だと言う、了見が二流だからと。そうかもしれない」【再録ここまで】
話者はヘンリー・ジェイムズに同調してるのです。
今回、Henry Jamesの元々の発言を探してみました。
Andrea del Sarto, that most touching of painters who is not one of the first... ["Italian Hours"(1909) Italy Revisited, part VI]
これが見つかりましたが、 mindについてどっかで言ってるのかなあ… この文章を見るとヘンリーさん、かなりサルトが好きそう。今日はこんなところで。

No.463 7点 真田啓介ミステリ論集 古典探偵小説の愉しみⅠ〔増補版〕 フェアプレイの文学- 評論・エッセイ 2025/01/02 19:58
元版2020年6月荒蝦夷(初版500部)を増補して再刊。最初の同人誌?を買いそびれた私としては垂涎の一冊でした。
こういう書籍はネタバレが怖くて読めないのですが、著者は★★★や☆☆☆マークで文中で事前に注意するという工夫をこうじていて安心ですね!バークリーについてはほぼ読了済なので私は大丈夫ですし。

以下、目次。版元も全貌を公開してないので一覧を作りました。
冒頭の★はこの増補版で追加されたもの。タイトル後の[ ]内は初出です。
<1>アントニイ・バークリーの章
★バークリー以前 --- ユーモア作家A・B・コックス(『黒猫になった教授』解説)[論創社2023-09]
●A・B・コックス『Jugged Journalism』ご紹介[ROM1992-01]
●A・B・コックス『Mr. Priestley's Problem』ご紹介[ROM1992-01]
●アントニイ・バークリー『Roger Sheringham and the Vane Mystery』ご紹介[ROM1992-01]
●探偵と推理のナチュラリズム(『ロジャー・シェリンガムとヴェインの謎』解説)[晶文社2003-04]
●『毒入りチョコレート事件』論 あるいはミステリの読み方について[本棚の中の骸骨2002-09]
●『毒入りチョコレート事件』第八の解決[ROM2018-07]
●「The Avenging Chance」の謎[ROM2012-11]【2024-04-15版、弾十六も小さな活字で登場】
●『ピカデリーの殺人』覚書[ROM1992-01]
●プロットと心理の間に(バークリー『第二の銃弾』解説)[国書刊行会1994-11]
●ロジャー・シェリンガム、想像力の華麗な勝利(バークリー『地下室の殺人』解説)[国書刊行会1998-07]
●空をゆく想像力(バークリー『最上階の殺人』解説)[新樹社2001-08]
●バークリーvs.ヴァン・ダイン 『最上階の殺人』の成立をめぐって[ROM2018-11、改稿:創元推理文庫2024-02]
●ロジャー・シェリンガムとbulbの謎[Re-ClaM2019-05]
★レディに薦める殺人物語[謎謎通信1986-02]
●トライアングル・トリロジー(アイルズ『被告の女性に関しては』解説)[晶文社2002-06]
●書評家百態 --- バークリー周辺篇[アントニイ・バークリー書評集第6巻2017-05]
★バークリー豆知識[ROM1992-01、一部新稿]
<2>英国余裕派の作家たちの章
(★)ベントリー『トレント最後の事件』を論ず[ROM1993-04]【各論部分を追加】
●A・A・ミルン『Four Days' Wonder』ご紹介[ROM2003-09]
●神経の鎮めとしてのパズル(ノックス『サイロの死体』解説)[国書刊行会2000-07]
●フェアプレイの文学(ノックス『閘門の足跡』解説)[新樹社2004-09]
●ノックス流本格探偵小説の第一作(ノックス『三つの栓』解説)[論創社2017-11]
●ミルワード・ケネディのプロフィール[世界探偵小説全集 月報7(第10巻)国書刊行会1995-06]
●探偵の研究(ケネディ『救いの死』解説)[国書刊行会2000-10]
●霧に包まれたパズル(ケネディ『霧に包まれた骸』解説)[論創社2014-10]
●レオ・ブルースとの出会い[Aunt Aurora1987-12]
●意外な犯人テーマの新機軸(レオ・ブルース『ロープとリングの事件』解説)[国書刊行会1995-03]
●名探偵パロディと多重解決のはなれわざ(レオ・ブルース『三人の名探偵のための事件』解説)[新樹社1998-12]
★『死体のない事件』を読んで[ROM1989-03]
●謎と笑いの被害者捜し(レオ・ブルース『死体のない事件』解説)[新樹社2000-03]
★レオ・ブルース『Case with No Conclusion』ご紹介[ROM1988-04]
●メイキング・オブ・探偵小説(レオ・ブルース『結末のない事件』解説)[新樹社2000-09]
●『ミンコット・ハウスの死』読後感[Aunt Aurora1990-12]
●キャロラス・ディーン、試練の時(レオ・ブルース『ハイキャッスル屋敷の死』解説)[扶桑社ミステリー2016-09]
★『死者の靴』読後感[Aunt Aurora1990-07]
★『怒れる老婦人』読後感[Aunt Aurora1997-08]
●天地創造のうちに開示される秘密(イネス『盗まれたフェルメール』解説)[論創社2018-02]
★エドマンド・クリスピンの『お楽しみの埋葬』 レディに薦める殺人物語⭐︎第二章[謎謎通信1986-04]
●クリスピン問答(クリスピン『大聖堂は大騒ぎ』解説)[国書刊行会2004-05]
●クリスピン『Frequent Hearses』ご紹介[ROM2003-09]
●クリスピン『The Glimpses of the Moon』ご紹介[ROM2003-09]
★[付録]探偵小説に魅せられた50(マイナス5)年 --- 真田啓介インタビュー[Re-ClaM2022-11]

No.462 6点 首つり判事- ブルース・ハミルトン 2024/12/31 22:44
1948年出版。国会図書館デジタルコレクションで読了。翻訳は井上一夫さん。いつものように素晴らしい翻訳。
これはねえ… プリウスミサイル暴走事故!加害者は死ね!というような作品なんですよ。誰も救われないのね。悪いことしてるところが十分に描かれてないので、なんだかなあ、と思いました。そのせいで最終パートがああなってるんでしょうけど全く逆効果。人並由真さんが書いてるような追記があるなら、読んでみたい。(私が入手したペイパーバッグHillman, New Yorkにはついてませんでした…)
途中までは、この先どうなるの?とすごく面白い。作者の説明を省略して謎を含んだ文章がとても良かった。
全体的にはややノスタルジック、1940年代後半に第二次大戦前を振り返るという感じなんです。
トリビアは来年まわしです。
(以上2024-12-31記載)
そういえば、本作は舞台化(1952)され、テレビ番組(1956 Climax!シリーズ)にもなった。いずれも主演はRaymond Massey、見たいなあ。このClimax!というTVシリーズ、ラインナップが面白そう。どうにかして観られませんかねえ。
以下トリビア。
作中年代はp7から1933〜1935あたりか?
p7 第二次大戦のはじまる数年前(some years before the outbreak of the Second World War)
p7 ブリッジ(bridge)… ゲームは、近ごろ流行りのコントラクト・ブリッジではなく、オークション・ブリッジを一人不足の三人でやっている(a three-handed variety of auction, not contract)◆ ニューヨークやロンドンのクラブでは1930年にコントラクト・ブリッジに切り替わった、という。
p7 ホイスト(whist)
p8 リットル・スラムの追加点で五十点(Fifty for little slam)
p8 下層中流階級のロンドン子なまり(a Cockney of the lower middle class)
p8 百点で五ポンド(at a fiver a hundred)◆ 賭け率
p8 賭博禁止条例(Gaming Act)◆ 1845年の英国法。賭けは法的契約としての強制力はない、とした。
p8 切り札ハートで七勝と宣言(one heart)◆13回の勝負なので7勝が最低でも必要。
p13 バス・オリヴァのビスケット(Bath Oliver biscuit)◆ バースで開業していたWilliam Oliver医師のレシピ。患者の消化を助けローカロリーで太らない食品として考案した。ここでは朝食前に食べている。
p13 ヴィテリウスやエラガバルス(a Vitelius or an Elagabalus)◆ こういう記述があると顔をイメージしやすい
p14 十六段の階段(sixteen steps)
p14 腎臓とベーコンの朝食(kidneys and bacon)
p16 アメリカも近ごろは不景気(Times are hard in the States now)
p16 ルンペン(bum)… 浮浪者(hobo)◆ 違いを詳しく説明
p17 一時間前に到着予定指定器が示していたように四十分遅れて(forty minutes late, as foreshadowed on the indicator an hour ago)◆ 鉄道駅の「発車標」のこと。正式名称を知りませんでした… 今では「電光掲示板」という語が普通。
p17 茶のステットソン帽の断ち方がここらでは珍しい型(the unusual cut of the brown Stetson hat)◆なので外国から来たのだろうと推測
p18 朝食付四シリング六ペンス(4/6 BED AND BREAKFAST)◆ ホテル代。全部大文字なのは看板の表示なのだろう。4/6はfour and six。
p19 半クラウン銀貨とフロリン銀貨(half-crown and florin)
p19 夕食(some supper)… ベーコン・エッグスとパンとチーズにお茶(eggs and bacon and bread and cheese, and a cup of tea)… 一シリング六ペンス(One and six)◆ ホテルのオプション。夕食をつけると1/6上乗せ
p19 紙幣の巻いたの(a roll of treasury notes)… 十七ポンド十シリング(seventeen pounds, ten shillings)◆ 英国小説では巻いて持ち運ぶ人が多い感じ。1ポンド札17枚と10シリング札1枚か。10シリング札がもっと多いかも。当時は£1 Series A (1st issue)サイズ151 x 84mmと10 Shilling Series A (1st issue)サイズ138 x 78mm。Bank of England 券は高額でサイズも大きく使うのが不便。
p20 三ペンスのチップ(with threepence)◆ ホテルの使用人へ
p22 ささやかながらも遅めの昼食をライオンズで(After a light and protracted lunch in a Lyons)
p22 映画館で大衆席の切符を(a cheap seat for the picture theatre)… 二回のてっぺんの席(high gallery)
p22 公衆電話のボックス(a telephone booth)◆駅構内の電話ブース
p22 AからKまでの電話帳(the Directory A to K)
p23 一月の第二週まで(the second week in January)◆ 裁判カレンダーのヒラリー期が始まるまで、ということ。
p23 表示板(the indicator)… 最後の集配は八時三十分◆ 郵便ポスト(pillar box)の表示
p24 半クラウンはおまけだ(here's a half a crown to go on with)◆ 「手付だ」という感じだろう。
p24 「…無理もないけどあの親父、無器用なガキだ(a clumsy little devil)とどなっていた。手紙は一つだけで、大きいやつだった」「そうか、それで宛名は?」◆ この謎めいた省略いっぱいの会話が後でちゃんと繋がる
(以上2025-01-01記載)
p24 ノーフォーク州の最北部… かなり平たい村で、高潮標識(high-water mark)より十二フィート以上高いものは一軒もない… 見捨てられた風車(a disused windmill)
p25 クリスマスを数日後に控えた(a few days before Christmas)
p25 ケスティヴン卿(Lord Kesteven)◆ 最近気になってる「卿」問題。LordとSirでは身分にかなりの差があるのに同じ「卿」を使うのはどうなん?という指摘。(日本の貴族体系にあてはめるとSirは士大夫クラスという) とりあえず「サー」はカタカナが良いのだろう。沢山翻訳小説を読んでたのに最近まで全然知らんかったのよ。(そういう上流層に興味が全くなかったのです…)
p26 ジョージ卿(Sir George)
p26 この州の警察長官(チーフ・コンスタブル) Chief Constable of the county◆ この名称だと「巡査長」だと思っちゃうよ。灰原が警察役職を間違えてガッツリ怒られてた事例(fromナニワ金融道)を思い出しました。
p28 ダイムラーから降りた運転手… 大型自動車(a chauffeur was waiting outside a Daimler limousine)◆ 色々種類あり。ピーター卿(こっちはLord)の愛車Double Sixの可能性もあるかな。
p31 一ポンド紙幣(a pound note)◆駅の荷物の預かり賃として。お釣りがあると思うが書かれていない。
p31 一週間三十シリング(thirty a week)… ちゃんとした朝食に、昼には温かい昼食を、四時には軽い夕食としてお茶、それに冷たい夕食(Full breakfast, hot dinner at midday, sup of tea at four, and cold supper)◆ cold supperとは火を使わない料理
p32 ジンジャー・エール(ginger ale)
p33 八時には家に帰して(she leaves at eight o'clock)◆『ビッグ・ボウ』でも(独身男なら)通いの家政婦は午後十時に家に帰すべし、とあった。不品行を疑われる、ということなのだろう。午後十時は結構遅いと思うけど…
p34 六ペンス(sixpence)◆ 簡単な頼みごとへのお礼
p35 時代もののフォードとしゃれたモリスの二人乗り(an aged Ford, a natty Morris two-seater)
p36 幽的(the ghost)◆ 会話に出てくるのでちょっと崩している、落語っぽい翻訳語。実にいいねえ
p37 オスボーン・ビスケット(Osborne biscuit)
p37 幽霊さん("the ghost")
p39 紳士に対するいささかの敬意として、エプロンをとって帽子をかぶった(paid tribute to Mr. XXX's gentry by removing her apron and putting on hat)◆ メイドの嗜み
p40 営業許可は、日曜日には午後二時に店を閉めるという条件(licensing regulation... should close at two on Sunday afternoon)
p40 サバス・ビール(Sabbath pint)
p43 パジャマが枕の下にきちんとたたんである(the pajamas were folded neatly under the pillow)◆ 宿のベッドメイク
p43 ぼたん刷毛(a shaving stick)◆ 髭剃り時に顔に石鹸を塗る刷毛と思ったのかなあ。試訳「剃刀の柄」
p43 アメリカ風の上下のつづいた下着(an American "union suit")◆ 英Wikiに項目あり。英国語ではcombinations。古臭くて田舎っぽくてコミカルな印象があるようだ。バークリー『毒チョコ』でも、僕はそんなの着たことがないよ!という発言があった。
p43 ゼネストのときに臨時警官をやったことがある(during the general strike he had enrolled himself as a special constable)
(以上2025-01-02追記)
p45 上流人士(gentry)
p45 クリスマス・イヴの月曜日(Monday morning, Christmas Eve)◆ 1934年が該当
p48 三ペンス半の切手代(a three-halfpenny stamp)◆ 井上先生でも間違えてる。halfpenny x 3で合計1ぺニー半。この額の切手が郵便用に売っていた。郵便料金1ペニー半は1924-1940の期間だと封書の最低額(重さ2オンスまで)
p50 名刺(card)
p52 食後の葡萄酒などというものには馴れていないので(Unaccustomed to after-dinner port)◆ 上流階級ではないので
p62 月に二ポンド六シリング(a sum of two and six a month)◆ ゴミ掃除の仕事の手当
p64 スティヴンソンの小説に出てくるような髪型とひげをたくわえて(with Stevensonian hair and mustache)
p65 印鑑つきの、血玉髄の石の入ったあっさりした金指輪(a signet ring, a plain affair of rolled gold with a bloodstone)◆ Wiki「ブラッドストーン」参照
p69 一シリングで庭の落葉掃きの仕事を(a shilling for the job of sweeping the garden free of leaves)◆ アルバイト的なもの
p69 バスの割引き切符に一シリング三ペンス(one and threepence on a cheap ticket)◆ cheap ticketの仕組みは不明だが面白いロンドン公共機関のチケットのサイトがあった(https://www.ltmuseum.co.uk/collections/stories/transport/fares-please-ticketing-londons-public-transport-1860)
(以上2025-01-03追記)
p79 ロンドンで一番派手な、広い読者層を持つ新聞の夕刊の遅版(the later edition of the most sensational and widely read of the London evening papers)◆ 「夕刊新聞の」 が正解。夕刊紙は朝刊紙と比べると下世話な印象。ソーンダイク博士も出鱈目ばかりと嫌っていた。
p84 一等車で来たくせに、チップはたったの三ペンス(Traveled first class and tipped thruppence)◆赤帽の文句
p87 存疑判決(訳註 犯罪が行われたと決定してしまわぬ評決) open virdict ◆ 「存疑評決」としたいところ。この訳註は不正確だが、意味は通じる。自殺、事故、他殺のいずれかとも決めかねる評決。
p92 審問廷にあてられた小さな教会の公会堂には、席が五十足らずしかない(room was found in the little church House for rather less than fifty)◆ 「審問廷」という訳語が良い。
p93 陪審員の一人が(a juryman)… 執拗な態度で、この証人に二、三質問させてもらいたいと検視官に申し出(in a nervous but insistent manner requested from the Coroner, permission to ask the witness a few questions)…検屍官はちょっと渋って(The Coroner, not without obvious reluctance)… うなずいた(gesture of assent)◆ 陪審員の質問権を認めるか否かは主催する検屍官の権限。この場面でも、後段で不適切な質問を諌めている。
p93 危っかしい鼻眼鏡をかけ(with insecure pince-nez)
p96 十二月二十一日の土曜日(Saturday, December 21st)◆ 該当は1935年、p45と異なるが、こちらは発言の一部で、p45は地の文なので、話者の記憶違いや言い間違いとも考えられる。
p100 全員一致ではなく、多数決でよいのですか?(can we return a majority verdict?)◆ 1926年の法令改正で審問廷の評決は全員一致でなくても良くなった。少数意見がnot more than twoという条件付き。Coroners (Amendment) Act 1926, section 16
(以上2025-01-09追記。続きます)

No.461 6点 ゴア大佐第二の事件- リン・ブロック 2024/12/31 05:22
1925年出版。白石さん翻訳のゴア大佐第二弾。翻訳は良い出来だとおもいます。セリフの演じ分けが良いですね。後日、細かい点で気になったところを書くかもですが、浅黒警察としてはdarkを「色黒」とするのはやめて欲しいなあ。「黒髪」で全て解決するわけではないですが(正確には髪の毛と目の色が黒っぽい人、fair(金髪)の対義語)darkが肌色を指してるのはかなり稀、tall, dark manとくれば背の高い黒髪の男、という慣用句ですよ…
小説としては、英国の当時の習俗が細かく描かれていて、固有名詞もたっぷり、私の好きなインクエストも出てきます。警察がかなり間抜けで不満ですが…
探偵小説としてみれば、本格ものではありません!クロフツ流(私はほぼ読んでいませんがガーブ流?)の英国冒険小説の流れに乗った謎を追いかける男もの、という感じでしょうか。
まあでも途中まではとっても楽しい読書でした。単純な私の脳だと、2/3過ぎるあたりでついていけなくなりました。まあそこが残念。
作者も探偵小説サークルに入るつもりは一ミリも無さそうな書きっぷりです。若い時に戯曲でプチ成功してるんだから、探偵作家なんて、と思っていたでしょう。デテクションクラブに入会してたっけ?
来年はもっと翻訳に精を出したいなあ、と考えています。いつもの言うだけ番長ですんません。
(以上2024-12-31 05:22)
以下、トリビア。
作中現在は1924だと思い込んでましたが、1925年もありそう。ただしゴア大佐最初の事件は明白に1922年11月なので、あんまり間を空けるのもなあ...と感じました。まだ全部詳細に検討していないので一旦保留。(2025-01-08追記: p63, 209, 296から冒頭は1925年8月。第一作から間空きすぎ、と思ったら作者は第一作の作中現在を1924年に変更しているようだ…p63参照)
価値換算は当面1924年として英国消費者物価指数基準1924/2024(75.72倍)で£1=14888円, 1s.=744円, 1d.=62円(2025-01-08追記: 英国消費者物価指数基準1924/1925で£1=£1.00だった)
p7 八月
p7 マーシュフォント荘(Marshfont Manor)
p7 豪勢なプロショップ(professional’s lavishly equipped shop)
p7 三十六人もいて騒々しかった若者集団の最後の六人が(half-a-dozen forlorn boys, sole survivors of a whilom noisy band of thirty-six)◆キャディは全員男の子だったようだ
p8 華氏八三度(83°)
p9 ジン・ジンジャー(gin-and-ginger)
p10 休戦の翌週に、トランペットのファンファーレも高らかにオープンしたよ -- 一九一九年の春のことだ(They started in on it with a great flourish of trumpets the week after the Armistice—opened it in the Spring of 1919)◆Armitsticeは1918-11-11なので、その翌週に計画をぶち上げ、オープンは1919年春、ということ
p10 一九二◯年のおわり… ピーク… (At the end of 1920 ... high-water mark)
p10 昨今は猫も杓子もテニス… (everyone’s playing tennis now)… ゴルフ… すたれた(Golf’s struck a slump)◆ こういう実感は当時の小説ならでは。テニスもゴルフも黄金時代の英国探偵小説に良く出てくるが、そういうことだったのか。
p11 そういうのがお望みならね(if you like that sort of trouble)◆ ゴルフ上級者ならトラブル多めのコースがお好きでしょ?という感じ。
p12 邪悪な事件のヒロイン(the heroine of the sinister episode)◆ 人の気も知らないで!という感じがよく出ている。
p12 二百五十(two-fifty)◆ 年収だろう。372万円。
p13 紫色のリムジン(purple limousine)◆ 後段でロールスロイスの新車だとわかる。ということはSilver Ghostなのだろう。US1921の記述だがシャーシのみで$11750(=£2656,1921年基準)、英国消費者物価指数基準1921/2024(60.97倍)なので現在の日本円に換算すると3184万円。
p13 タイヤは一本いくらだ… ラヴロ(Ravelots)… 七ポンドくらい(About seven quid)◆ 架空ブランドと思われる。当時のタイヤメーカーは広告から判断するとDunlop Michelin Royal Pirelli Mohawk Firestone Goodyearなどがひっかかった
p15 レスウェイ銀行にすべてを捧げた男… 住む世界が違うよ(His father married Lessways’ Bank, or the best part of it)◆そんなに仕事する奴か?と思ってたら、p168(表記は正しく「レスウェイズ」銀行)に書かれている詳細から判断して、ここは「レスウェイズ銀行、というか一番良い部分と結婚した」だろう
p16 背が高くて… オリーヴ色の肌、艶やかな黒髪(a tall, finely-built man of thirty-five or so, olive-skinned, sleekly black-haired)
p16 こちらも背の高い色黒な若者(another tall and darkly-sleek young man)◆ sleekはつややかな毛髪のようす。ならば確実に髪の毛だろう。
p18 昔が最高に良かった(sat chatting desultorily of old times which seemed extraordinarily better)◆ 四十男たちの感想
p21 シルバーキング〔訳注 ゴルフボールの銘柄〕 Silver King◆ ググると可愛いマスコットが見られるよ
p22 尾根自体には石がない(No stone in it)◆ ここの意味がよくわからない。
p26 ブラックアロー〔訳注 ゴルフボールの銘柄〕 Black Arrow◆ こっちはググっても出てこない。
p28 塩の粒(Ruschen salts)◆ Kruschen Saltsが正しい表記。商品名は出して欲しいなあ。消化器系の売薬のようだ。
p28 赤い自転車(red bicycle)◆ メッセンジャーボーイの自転車は赤かった?
p29 電報配達の少年(telegraph boy)◆メッセンジャーボーイと同じ。英Wikiに項目あり。英国ではGPO傘下の公的サービス。米国では私企業が運営。
(2024-12-31 21:40追記)
p41 五時のお茶(tea ordered for five o'clock)
p43 事前事後従犯(accessory before and after the fact)
p44 背の高い色黒の男(a tall black figure)◆ ここはblackだったんだ... 牧師服で「黒服姿」というイメージだろう。
p45 交代で新しい牧師が来ると… とりわけ告解室が悪かったらしい(when a new Vicar replaces an old one... Especially the confessional boxes)◆ 田舎ではよくあるんだろうね。ところで告解はカトリックの専門ではないの?未調査
p47 一流どころを(look out for Number One)
p49 食事のあいだは話さん主義… 空気が腹に入る(Don't believe in talking while I'm eating... Makes me swallow too much air with my food)◆ こういう人はあんまりいないんだろうね。
p50 アスピリン(aspirins)
p50 ディナーで正装することは滅多にない(seldom dressed for the evening, and very frequently dined in a dressing-gown)◆ これもまともな上流階級には珍しい
p53 ウソとホラばかりの無能者(All gaiters and gas and gush)
p56 色黒で --- かなりの大男(Dark--rather burly)◆ ここも「黒髪」だろう
p58 書斎に移り、ウィスキーソーダと葉巻(to the library... a whisky and soda and a cigar)◆ 葉巻ってもてなしなんだろうね。
p58 ずっと赤字つづきでした(Chiefly, exceeding my income)
p63 一九二三年の六月(June of 1923)◆ p76でここから二年間が経過していることがわかるので作中現在は1925年ということなのだろう
p63 [ゴアは]一九二三年にはアフリカにいた(he had benn in Africa in 1923)◆ 第一作の設定を変更しているようだ。
p64 コルトの自動拳銃(a Colt automatic pistol)◆ 後段で大戦時の記念品だとわかる。ということはM1911なのだろう。
p66 紙幣数枚をふくむひとつかみの金(a handful of money with some loose notes amongst it)
p70 私立探偵社(a firm of private inquiry agents)◆やはり英国ではinquiryという語が優勢なのだろう。「興信所」と訳したい。
p70 四月二二日(April 22nd)
p70 カフェ・ロイヤルで夕食を(dined... at the Café Royal)◆ロンドン、リージェント街のカフェ・ロイヤル(創業1865年のレストラン、現在はホテルになっている)のことだろう。
p72 ブリッジ大会(bridge-tournament)◆ 当時ならオークション・ブリッジだろうか
p72 一年分の家賃六十七ポンド(one year's rent, £67)◆ 月額83000円ほど。結構良い値段だと思う。
p74 マクミラン・プライベートホテル(MacMillan's Private Hotel)◆Collins English Dictionaryに英国英語として(1) a residential hotel or boarding house in which the proprietor has the right to refuse to accept a person as a guest, esp a person arriving by chance (2)Australian and New Zealand: a hotel not having a licence to sell alcoholic liquorとあった。予約なしの客などをオーナーが断れるホテル、という意味らしい。酒のライセンスが無い、というのはオージー英語だったようだ。
p76 二年間(two years)
(以上2025-01-01 05:50追記)
p82 ロムジー修道院(Romsey Abbey)
p83 背の高い黒衣の男(a tall black figure)◆ p44と同じ
p84 青いスポーツカー(a blue two-seater)◆ この翻訳では一貫して「スポーツカー」と訳している。(2025-01-08追記)
p84 家にある真空掃除機(my vacuum cleaner)◆ Hoover Upright Vacuum Cleanerは1908年販売開始。まだまだ高価だったはず。安くなったのは1930年代以降。
p87 『チョークシャー・クラリオン』紙の朝刊(the morning Chalkshire Clarion)◆ 日本と違って朝刊と夕刊を同時発行している新聞社は無いはず。新聞紙名にMorning Post, Evening Standardなどのような朝・夕を示す文字が入っておらず、知らない人には朝刊紙か夕刊紙かわからないので、「朝刊紙」の『チョークシャー・クラリオン』、という説明語だろう。この新聞名はここが初出。原文morningがイタリック。
p88 一等喫煙個室(a first class smoker)
p88 検死審問はXXX氏の参加できることを考慮して、その日の午後に開催される(An inquest was to be held that afternoon, when it was hoped Mr. XXX would be able to attend)
p90 従者のスティーヴンス(his man Stephens)◆ 訳者あとがきでは第一作に登場するStevensと同一人物だというが、そんな記述は本作中に全くなかった。
p90 水風呂(a cold bath)
p90 度を過ぎた快楽主義だと思われるのを心配したのか(Lest this combination of pleasures should appear to his visitor excessive for one man)◆ 意味はなんとなくわかるけど。試訳「一度に多くの楽しみに耽りすぎてると思われたくないらしく」
p91 検死官はもちろんXXXの息がかかった男だ(The Coroner, of courses is in XXX’s pocket)◆ 地方の名士には逆らえない
p91 きっとけさの朝刊で(this morning)
p92 年千五百ポンド(£1,500 a year)
p92 背の高い色黒の男(a tall, dark man)
p92 小柄な色白男(a little pale man)◆ paleは「青白い(病的な感じ)」というイメージ。pale horseなら「蒼ざめた馬」ですよね?
p95 色白の(white-faced)
p95 白い顔(white face)
p95 色白の小顔(little white face)◆ 同じページでなぜまぜこぜ?p92から全て同一人物の形容。
p102 春先にかかったインフルエンザ(an attack of influenza in the spring)
p105 心配になって(uneasy)◆ uneasyってどういうことだ?と鋭く相手に突っ込まれているのだから、違和感を感じるような、ちょっと大袈裟な語が良い。Longman辞書ではworried or slightly afraid because you think that something bad might happenとのこと。試訳「胸騒ぎを覚えて」
p114 ワシ鼻で色黒な顔(his dark, aquiline face)◆ このdarkは影になって暗い感じか。もちろん陰鬱な内面も表現している。試訳「暗い、ワシ鼻の顔」
p116 このパルタガスを一本(one of these Partagas)◆ キューバ葉巻のブランド。1845年から販売。
p120 この手の謎解きには目がない(I have always had a weakness for puzzles of all sorts)◆ パズル全般
p124 『ミスター・ウー』のマシスン・ラング(Matheson Lang’s in Mr. Wu)◆ 1913年の英国演劇(Harold Owen & Harry M. Vernon作、主演Matheson Lang)、米国でもヒット。映画化は1918年ドイツが先。1919年英国映画制作(主演Matheson Lang)、1927年には米国でリメイク(ロン・チェイニー主演)。内容は主人公の中国人が殺人や脅迫など色々悪いことをするもの。舞台はかなりのセンセーション巻き起こしたらしい。フーマンチュー(初出1912)と同時期。詳細未読だがWendy Gan 2012, Mr. Wu and the Rearticulation of "The Yellow Peril"という論文が公開されている。
(以上2025-01-02追記)
p125 自転車… 中古で三ポンド十シリング(second-hand for three pound ten)… ダンロップタイヤを履いたプレストウィック(A Prestwick it is, with Dunlop tyres)◆ Prestwickはググっても見つからず。
p130 無言劇で(in the pantomime)◆ 英国流パントマイムはクリスマスに上演される馬鹿げたドタバタ劇(主役は男装の女優、女装の男優も登場する。間抜け警官もつきもの)のこと。無言で演じられるわけではない。Wiki「パントマイム (イギリス)」参照。
p132 安タバコ(gaspers)◆ 英Wikiに英国スラングでhigh-tar cigaretteのこと、WoodbineとかGauloiseのようなやつ、とあった。高タールでフィルター無しなので、初心者だと吸い込んだらgasp(ゲホゲホ)する、ということらしい。ウッドバインは安くて人気のブランドで、フェラーズ『細工は流々』にも登場してました。
p135 ジンをダブルで、それとストーンジンジャーを(a double gin and stone ginger)◆ stone-gingerとはginger beerのことらしい。結局ジン&ジンジャー(p136)を作ってもらって飲んでるので、ここは「ジンのダブル、ストーンジンジャー割り」という注文だろう。
p137 フォード(Ford)◆ 宿の主人の車のようだ。モデルAは1927年12月販売なので、ここはモデルT。
p137 ゴア大佐の従者(Colonel Gore’s man)
p149 電話室… もとはポーター控室であったものを改装(the telephone-room,—a porter’s lodge converted to its present use)◆ 邸宅の電話室。なお当時の電話は表紙絵の通りダイアル無し。必ず交換手を通す仕組み。
p151 {* * * 以降}◆ ここの工夫は良いアイディア。
p153 七時半ごろ… ちょうど銅鑼を鳴らしていた最中(About half-past seven... just as I was sounding the gong for dinner)◆ 食事の合図は銅羅… 屋敷内外の客にも聞こえるように。なので邸宅には銅羅がつきもの。
p156 ゲートル(leggings)… 大戦時代の残りもの(a survival of the great war)
(以上2025-01-03追記)
p159 ポンコツ自動車(a most refractory motor car)
p159 湿度計をコツコツと叩く(tapping the weather-glass)◆ 晴雨計と同じ。『ロムニー・プリングル』でも晴雨計を叩く場面があった。指示針が引っかかってないか、確かめる動作なのかも。
p161 最新科学装備… 時速五十マイルで走行しながら自由自在に無線通話できる自動車(the scientific wonders... of which motor-cars receiving and emitting wireless messages while travelling at fifty miles an hour)◆ CIDの最新装備
p163 古典骨牌(カルタ) playing-cards
p163 ロバート・ウォートン(Robert Walton)... レベッカ・グン(Rebecca Gunn)◆ 調べてないが多分実在。古いトランプの発行者と絵師。
p172 郵便列車(mail train)◆ この語はここで初めて出てくる。郵便も運ぶ列車なのだろう。
p181 ごあいさつだな(So far as I can discover)◆ 試訳「ぼくが見つけたものから判断すると」疑問に対する律儀な返事。
p181 ブリティッシュウォーム(an old British Warm)◆ Wiki「ブリティッシュウォーマー」士官のコートらしいので、これも大戦の遺物か。
p182 「気持ち悪かったんですね?(Been sick, ain’t you)」… [彼は]大いに気を良くして(he felt a good deal better)◆ ここら辺、一読して通じなかったので、前後の原文をじっくり読んでsickの誤解だろうと判断した。なお原文に直接的な嘔吐の場面はない。試訳:「吐いたんですね?」… [吐いたので]気分が良くなり
p185 上りの郵便列車(up mail)
p189 The picture-papers◆ 対応する訳語なし。新聞に写真が載っていた、という文の主語。写真印刷技術が向上してイラストから写真に変わりつつある時代。
p189 高等批評学(the Higher Criticism)◆ 18世紀ごろから起こった聖書の科学的研究、とのこと。定訳は「高等批評」のようだ。
p190 検死審問は散会となった(The inquest was adjourned)◆ 「散会」だと終わったように感じられるので、「次回に続くこととなった」が適切。警察としても犯人が名指しされる評決はこの時点では望まないはず。
p193 かなりの数の人々(by some score of people)◆ ここら辺、実にありそう。
p197 十シリング(the sum of ten shillings)◆ 情報料
p200 トルコタバコ(Turkish cigarettes)
p209 八月二十日の木曜の午後(the afternoon of Thursday, August 20th)◆ 該当は1925年
p210 クラリオンの夕刊(an afternoon edition of the Clarion)◆ p87での私の記述とは矛盾するようだが、重大事件の場合、追加情報を追記した複数の版が続々発行されることがある。試訳「クラリオンの午後版」
p211ここら辺のインクエストの情景が興味深い
p213 体温三七・五度(Temperature 99.5)◆ 原文はもちろん華氏。p8の気温は華氏のままだった。どちらかに統一した方が良いだろう。
p219 額面を訂正したときはその箇所にイニシャルを(and requesting that in future any alterations made on the face of cheques should be initialled)◆ 小切手。額面変更はイニシャルで良いんだ…
p220 飛行機('plane)◆ airが略されている。ありえないこととして考慮すらされていない。ロンドン=パリの旅客定期便は1919年から。
p222 すぐに、べつのことをやることになる(I’d sooner do something else)◆ 試訳「別のことをやりたくなったのです」would sooner のsoonerは「すぐに(soon)」の意味ではない
p224 ボーリュー(Beaulieu)◆ ググるといろいろ出てきた。未調査
p226 戦前のもの(Look like pre-war stuff to me)◆ ジョーク?
p227 節回しは、どうやらハリー・ローダーの人気曲らしい(The tune was probably a well-known ballad of Harry Lauder’s)◆ ミュージックホールの人気芸人(1870-1950)、スコットランド系。曲名は何?この状況で当時の英国人ならピンと来るのか?
p229 通俗ドラマ(melodrama)
(以上2025-01-04追記)
p240 しゃれた使用人の男(smart man-servant)◆ a male servant with responsibility for the personal needs of his employer, such as preparing his food and clothes (Cambridge dictionary)
p247 いかしたスポーツカー(a real, lovely little two-seater)… 中古で(second-hand)… 二百九十ポンド(£290)… いかがです?(all on?)
p249 探偵(a detective)
p250 五ポンド紙幣(five-pound notes)
p253 ものは言いよう(façon de parler)
p254 窓際で紙幣を空にかざして丹念に調べて(examined them carefully against the light of her window)◆ 英国銀行券は裏は印刷なしだが透かしが入っている
p256 ポーレットさま(Mr. Powlett)◆ ここで急に気づいたのだが、ここの「ミスター」は一族の最年長者を意味する称号で、これで数人いるポーレット家の男性から一人を特定できるはず(ここの場合はユーステス卿(Sir Eustace)は除外され、昔を思い出しているので当時生きていた最年長者であるライオネルをさしている)。ここまでも、そういう表現があったはず。冒頭からは遠縁(別系統)のロバート・ポーレットが出てくるので、この人がMr. Powlettと呼ばれているが、ユーステス卿の兄弟の話題であれば、作中現在では冒頭時点でもライオネルは故人、すぐ上のロリマーは聖職の称号持ちなので、単にMr. Powlettと言われればハーバートのことを指すのだろう。全文検索するとMr. Powlett呼びを、上記のような考え方で注意深く使っていることがわかった。
p256 カエルさん(Froggy)◆ フランス人の乳母的な存在に対する子供が付けた愛称
p256 分数サイズのチェロ(a young violoncello)◆ 「小さい」で良いと思った。
p264 <荒くれ者>“wild”
p268 私立探偵社(the private Enquiry Agents)◆ やはりenquiry=inquiry、興信所が良いなあ。
p277 <ピカイチの人気娘>“hottest little lots of the bunch”
p277 背の高い黒髪の紳士(A tall, dark gentleman)◆ ここでは普通に「黒髪」と訳している
p287 半クラウンを費やして… 長距離電話をかける(expending half-a-crown on a trunk call)◆ロンドンからサリーまで。結構高い。
p293 評判の私立探偵(a well-known private detective agency)◆ 「社」が抜けている。ここだけdetectiveにしているのは意図があるのか。
p294 日よけ(a sunshade)… スポーツカー(the two-seater)
p296 八月十九日水曜日(Wednesday, August 19th)◆ 該当は1925年。
p298 医療名鑑(Medical Directory)◆ こっちは職業別住所録(電話帳)のイメージだろう。Kelly's Directoryの一部。試訳「医療者電話帳」 p308参照 (2025-01-08追記)
p298 ズボン釦に十ポンド賭けてもいい(I’ll lay you a tenner to a trousers’ button)◆ ズボン釦vs十ポンドの賭け
p299 傘(umbrella)◆ 小道具
p300 フィフィ・マークIII (Fifi III.)◆ FifiはFIAT 500(初代1936-1950)のよくある愛称だという。時代は違うが、ここではFiat Tipo 3(1910-1921)を指しているのかも。もちろん別の車種の可能性も大いにある。
(以上2025-01-06追記)
p303 週十五ギニー(Fifteen guineas a week)◆ 療護ホーム(Nursing-home)の料金
p308 医療年鑑(Medical Register)◆ 言葉のイメージだけで判断すると、こちらはp298と違って公式な登録名簿か。試訳「医療登録名簿」
p309 半ポンド(half a quid)◆ 駄賃
p310 アリー(’Arry)
p311 映画だったら(for the pictures)◆ まだサイレントの時代
p311 組合につかまってもお咎めなしだろうな。チャーリー・チャップリンみたいだ(You’ll be for it, my lad, if the Union cops you, I don’t think. Doin’ a Charlie Chaplin stunt?)◆ 意味がずれてるように思ったので原文を見た。試訳「組合にめっかったら、おめえ、怒られるぜ、全く。チャップリンの軽技か?」 be for it, I don't thinkは成句
p326 お茶◆ ここでも飲む。英国人だなあ
p328 荼毘に付し(cremated)◆ 火葬についてはフリーマンの2長篇で触れた。『ダーブレイ秘密』『ものいわぬ証人』
p328 遺灰(ashes)◆ 現実にこんなふうにできたのかなあ?未調査。
p329 スティーヴン・マッケナ(Stephen McKenna)◆ 1888-1967
p335 ドビュッシーのアラベスク(Debussy’s Arabesque)◆ 1888年作曲。第一番は作曲者の傑作と言われている。
p336 ラッチ錠(latch-key)
p345 ココア(cocoa)
p345 ラッチ錠に鍵を(the latchkey)◆ 室内のドアだがラッチ錠がついている
p348 《著名犯罪事件》シリーズ(“Celebrated Criminal Case” series)◆ 架空のシリーズのようだ。 実在の"Notable British Trials"をもじったものか。
p349 探偵社(a firm of private inquiry agents)
p351 短寸弾(a snub-nosed bullet)◆ この用語は銃関係では見たことがない。先端を平らにカットしたような形状のHollow-point bulletsのことか?(体内で広がるので殺傷力が強い) それともSnub-nosed handgunで撃った弾、ということか。前者の方がありそう。
p356 登記事務所(a Registry Office)◆ 英Wiki "Register office (United Kingdom)"に詳しい説明がある
p360 各六シリング(five shillings a day)◆ マーシュフォント荘ゴルフ場のプレイ代金のようだ。ケアレスミス。
p362 フラットに飾ってあった女性の写真(the one feminine photograph which adorned my flat)◆ 執着が強いなあ…
翻訳者さんが見てくださってるようなので、ついつい長くなりました。繰り返しますが、翻訳は上等です。長い文章を翻訳してると、そこかしこにエラーが発生するのは当然。欠陥翻訳とは1ページに1箇所以上の誤訳があるもの(別宮先生の定義)に私も100%同感です。些細なアラがあるからと言って鬼の首を取るようなことはやめてくださいね。
(以上2025-01-01追記。完了です!)

No.460 7点 一攫千金のウォリングフォード- ジョージ・ランドルフ・チェスター 2024/12/08 01:21
1908年出版。Saturday Evening Postに断続的に掲載した短篇を連作長篇化したもの。なお本書表紙になってるJ.C.Leyendeckerの美麗イラストは土曜夕方ポスト誌1907-10-5の表紙絵。ポスト誌の表紙がカヴァー・ストーリーなのは結構珍しいのでは。この時代のポスト誌は無料公開(白黒だが)されているので、イラストも見ることが出来る。
本書の訳者解説には書誌情報が一切無いので補足。
第一話Getting Rich Quick(初出1907-10-5〜10-12、挿画F.R.Gruger)はp75下段中ごろ「一度もないんだぞ」まで。
第二話Profitable Benevolence(初出1907-12-7、挿絵Gustavus C.Widney)はp76上段最後「ちぇっ」から(間の1ページほどは連作をスムーズに繋ぐための付加。以下同様に幕間の詰め物をして短篇を長篇化している)。
第三話Selling a Patent(初出1908-1-18〜1-25、挿画F.R.Gruger)はp117下段最後、ドイツ人の小男登場から。
第四話A Traction Transaction(初出1908-2-8、挿絵Henry Raleigh)はp175下段中ごろ「バトルスバーグにとって、個人専用列車に」から。
第五話A Corner in Farmers(初出1908-2-29、挿絵Henry Raleigh)はp219上段後半「『ファウスト』の中の「兵士の合唱」を鳴らしながら」から。
第六話A Fortune in Smoke(初出1908-3-14、挿絵Henry Raleigh)はp256上段はじめ「政府は腐っている」から。
詐欺師の話は大好き。O・ヘンリーのジェフ・ピーターズものもここら辺の話ですね。第一話がちょっと面白い結末で、これはイケてる、と思いました。中で語られてる経済活動は、よくわからないのですが、主人公が言うように「合法的」かもしれないけどモラルは踏み外してますよね。まあ人々の欲につけ込んでるので、被害者たちもまっさらの白ではないんでしょうけど… 私は全然詳しくないんですけど、多分現代ではここで語られてる手法には規制がかかっていて、ウォリングフォードのやり口は非合法になってるのでは?そこら辺の解説があるともっと面白いでしょうね。
翻訳はいつもの平山先生。ところどころにポカあり物件だけど読んでるとすぐに気づくので英語がちょっと読める程度の人なら手元にGutenbergの原文を置いて参照すればストレスないかなあ。いつも言ってるように平山訳は概ね正確なので「欠陥翻訳」ではないですよ。良い編集者がいればなあ。翻訳なんて実の少ない時代にもかかわらず、こういう作品が日本語で読めるのは非常に貴重です。
以下トリビア。とは言え翻訳上の問題点への言及が多め。
作中現在は不詳。発表時の1907年〜1908年としておこう。
現在価値は米国消費者物価指数基準1908/2024(34.31倍)で$1=5165円。
p6 泥◆20世紀初頭なので舗装は不十分。そういうイメージ。
p6 ロッジの話に夢中になって(Absorbed in "lodge" talk)◆ここのロッジは後にも数回出てくるがフリーメイソン?
p6 タクシー(Cab)◆時代的には馬車か。
p6 大柄な紳士、上品な紳士、(中略)見栄えがする紳士だが...(a large gentleman, a suave gentleman, a gentleman whose clothes not merely fit him but ...)◆ 翻訳は「紳士」の連打で落ち着かないが、原文もそうなっている
p7 彼の目はいくつかはな高価な一流品ばかりだった(His eyes, however, had noted a few things: traveling suit, scarf pin, watch guard, ring, hatbox, suit case, bag, all expensive and of the finest grade)◆ 訳文に脱落あり
p7 彼のポケットの中には百ドル以上は入っているだろうと予想した(entire capitalized worth was represented by the less than one hundred dollars he carried in his pocket)◆試訳「貨幣価値にしてせいぜい百ドルしか持っていなかったのだ」次の文もちょっとヘンテコ。「その上、ウォリングフォードには金を得られるアテも全く無かった」という感じ。
p8 やあ、J・プファス!(Hello, J. Rufus!)◆Pufusと見えたのか?その後も何故か「プファス」となっている。
p8 「ボストンから根こそぎ搾り取ったのか」(Boston squeezed dry?) 「化けの皮がはがれちまった」(Just threw the rind away)◆「ボストンでカラカラに絞られたのか?」「皮を剥かれただけだよ」という意味だろう
p9 サクラみたいに見えるかい?(look like a come-on?)◆「いいカモ」だろう
p9 マジックのサクラをやらせてやるよ(I'd try to make you bet on the location of the little pea)◆翻訳は前のサクラに引っ張られている。「初歩のペテンにもひっかかりそうだなあ」という意味では? the location of the little pea は三つのカップの下の豆の位置を当てるThree Shell Gameというポピュラーな街角イカサマ賭博
p12 色黒の相手(the dark one)◆「黒髪の」
p12 特にたちが悪いのがロックフォートというやつだ(The particular piece of Roquefort)◆ロックフォール・チーズへの言及だろう。cheese(嫌なやつ)のなかでも特上なやつ、という感じだろうか
p13 ただの簿記係(a piker bookkeeper)◆「けちな経理係」としたい
p13 ジョニー・ワイズ(Johnny Wise)◆単純に「小賢しい野郎」という意味かも
p14 この紳士は自己紹介をするだろうか?(Would the gentleman give his name?)◆ニュアンスが掴めないが「お名前をいただけますか?」という感じか。ウォリングフォードというのは偽名らしい(訳者解説参照)。勘違い、ニュアンス違いは特に冒頭に多いのだが、キリがないので、ここら辺で打ち止め。
p28 アメリカの殉教者の名前… 『リ◯カ◯ン』マルの中に入る文字は何?(the name of this great American martyr, who was also a President and freed the slaves? L-NC-LN)◆訳文に脱落あり
p119 オランダ人(a Dutchman)◆初登場時に地の文でドイツ人(German)と紹介されているので、ここは「ドイツ人」で良いだろう。Dutch=Deutsch、辞書では《古》となっている
p120 カール・クルッグ(Carl Klug)◆Klugはドイツ語で「賢い」、発音は「クルーク」、英語発音なら「クラッグ」だろうか。ところでドイツ人という設定ならKarlのような気がするが…
p121 「連中に一杯食わされましたかな?」"Did they sting you?" (...) [クルッグ氏は]相手が今の俗語に通じているということをうかがい知った(the other made quick note of the fact that the man was familiar with current slang)◆試訳「相手(ウォリングフォード)はこの男が流行語に通じていると気づいた」 stingはこの頃のスラングだったのですね
p122 「暇つぶし」("being made fun of")◆「バカにしている」
p123 クルッグ氏は正しく評価をして答えた(agreed the other in a tone which conveyed a thoroughly proper appreciation of Mr. Klug's standing)◆試訳「相手はクルッグ氏の立場を十分に理解した口調で答えた」
p127 ブツを持って帰ってくるんだ(bring the goods back with you)◆試訳「結果を出せ」
p135 あいつは詐欺師だ(He is a swell)◆p132で同じジェンスが二回言っている「詐欺師(skinner)」とは違う語。p135すぐ前にジェンスが言っている「フェルドマイヤー博士… いい奴(swell)」と同じ語。なんでここでは「詐欺師」と訳してるのか
p141 彼ら全員は生まれてこの方、利子といったら三、四パーセントで、五パーセントを超えることは滅多になかった(The savings of all these men throughout their lives had been increased at three, four and scarcely to exceed five per cent. rates)◆古き良き時代の利子… 今となっては羨ましいねえ…
(以上2024-12-08記載)
p174 自家用客車(a private car)
p176 さいころ賭博(shot dice)
p177 黒人青年(young negro)
p180 大佐(Colonel)◆太ってると、この称号なのか?
p181 客室係に電話をして(Ring for a carriage)◆試訳「馬車を呼んで」
p181 ゴムタイヤ(rubber-tired)◆ 田舎では珍しかったのだろう。
p181 「アルバート公」("Prince Albert")
p181 半ドルを(a half dollar)
p182 一ドル硬貨(a dollar)
p186 百ドル札(a hundred-dollar bill)
p190 パリ、ロンドン、ダブリン、ベルリン、ローマ(Paris, London, Dublin, Berlin and Rome)◆あの映画(1984)を思い出しちゃいました
p191 町の鍵(keys of the city)◆この人、市長なので歓迎セレモニーのようだ。
p193 エステル・ライトフット殺人事件(Estelle Lightfoot murder romance)
p195 訳がわからない(inquiringly)◆「ちょっと不安気に」小切手に変な添え書きがあったので「これ大丈夫?」と聞きに行った、という場面
p197 パナマ国債(the Panama bond)◆パナマ運河(1904-1914建設)がらみの債券だろう
p198 T・B・E牽引鉄道のトロリー・カー(the trolley cars of the L., B. & E. traction line)◆試訳「L・B・E鉄道の貨物列車」トロリーなので「牽引」としちゃったんでしょうね。ここだけ「T・B・E」と誤植
p198 メッカ(a Mecca)◆マッカは定着しなかった…
p201 [彼が]通行権を、電話や無料郵便配達【訳註: 当時は田舎で郵便物は郵便局に取りにいくのが普通で、自宅配達サービスが作られる途中だった】とは縁のない信心深い農民たちは、彼の路面鉄道開発者としての華々しい活躍に、忌々しく思うかもしれなかった([he] started out to secure a right of way from the regenerated farmers, who in these days kept themselves posted by telephone and rural free delivery, his triumphant progress would have sickened with envy the promoters of legitimate traction lines)◆ 翻訳文はなんだか文章構成が中途半端。Rural Free DeliveryはWikiに項目あり。当時ようやく全米整備がなされたようだ。試訳「近頃では電話や無料郵便配達で連絡を取り合うようになった農民たちから良い道を確保する[彼の]やり方は、他のまともな鉄道開発業者が羨ましさのあまり寝込むような華々しい成功をおさめた」もっと昔はお互いに通信できる手段が無くて、農民たちは都会モンに騙され放題だった、という趣旨だろう
p202 この土地の風習に従っていた(a distinct acquisition to the polite life of the place)◆試訳「当地の社交生活の新しい目玉商品」興味深い人物なのでぜひ招待したい新参者というような意味だろう。polite societyで「上流社会」なのでpolite lifeも裕福な人々の社交という感じ
p204 一万五千ドル(fifteen hundred dollars)◆$2000-$500なので$1500が正解。ここは魔が刺したポカ。自分でもうっかりやっちゃったことがあるから言うのではないが、こういうのを責めてはイケマセン。
p205 XXX氏から受け取った金は、すでにこれや他の土地の手付けとして支払われていた(With the money he had received from Mr. XXX he had already taken up his option on this and other property)◆試訳「XXX氏からお金を受け取った時に、その土地や他の資産に関する彼の見積りをすでに明らかにしていた」
(以上2025-01-02追記)
p207 あれやこれやの方法やら不動産から転がり込んできた(be offered him for this or that or the other piece of property that he held)◆ 試訳「彼が所有するあれやこれやの不動産などの取引による」
p208 ビッグ・ジョシュ(Big Josh)◆ ニューヨークの鉄道模型王Joshua Lionel Cowen (1877-1965)のことか? 会社(Lionel)は1910年代に急成長したが、1909年から、すでにStandard of the World! というキャッチフレーズを使っていたので、作品発表当時も有名だったかなあ。
p210 金って、まっとうなものなのか(Is a dollar honest)◆ 原文 is がイタリック。なんか深い意味のあるセリフのように思う
p210 ジョージア行進曲(Marching Through Georgia)◆ 南北戦争末期の行進曲。Henry Clay Work作曲(1865)
p210 別れた彼女(The Girl I Left Behind Me)◆ 英国フォークソング。エリザベス朝まで遡るようだ。邦題は「別れたあの娘」(ルロイ・アンダースン「アイルランド組曲」より)が一般的か。
p215 一台の自動車… 軍用に作られた車なのは間違いない(a road-spattered automobile, one of the class built distinctively for service)
p218 宿屋の主人(an innkeeper)◆ ヨーロッパで旨味あり?
p218 十二マイル先から天然ガスを引き(piped natural gas from twelve miles away)
p219 十八ドルもするアザラシ皮のブーツ(an eighteen-dollar pair of seal leather boots)... 二十ドルのツバ広フェルト帽(a twenty-dollar broad-brimmed felt hat)
p219 『ファウスト』の「兵士の合唱」("Soldiers' Chorus" from Faust)◆ Charles Gounod "Faust" Acte IV 'Déposons Les Armes. Gloire Immortelle De Nos Aïeux' ここは蓄音機の演奏。当時のレコードを探すとArthur Pryor & Sousa's BandのVictor盤(1901)があった。
p220 唖然としていたのが(A certain amount of reserve)◆ 試訳「かなり遠慮しているのが」 プライヴェートな話題だけど聞きたかったのね
p220 ピーコック・アレー(Peacock Alley)
p222 青いチップ(blue chips)◆ The simplest sets of poker chips include white, red, and blue chips, with American tradition dictating that the blues are highest in value.
p223 外線電話の子機(an extension ‘phone from the country line)… もう一台電話があり、これは… 内線電話(a private line)◆ 当時は電話の黎明期。an extension ‘phone は普通に「(外線の)電話機」という意味だろう。この頃は必ずまだ交換手を通す時代でダイアルはついていないはず。ただしダイアル式電気自動電話(Strowger 11 digit Potbelly Dial Candlestick)は1905年に発売開始されている。米国の自動交換機は1900年代初頭で70箇所だったという。ロンドンだと1927年ごろが切り替わりの境目だったはず。
p223 農業大学時代はラグビー(the agricultural college… playing center rush)◆ ここはアメフトだろう。ポジションがセンターだったのかも。だとするとかなり大型で太め。
p224 週給十五ドルにまかないを(Fifteen a week and board)… 四季を通じて(The seasons through)… 週給五十ドルにまかない食べ放題… 実際食べ放題は当然だった(fifty a week and board would have been no bar, as, indeed, it would not have been)◆ 原文を読んでも後段の意味がよくわからない。
p226 アナニア(Ananias)◆ 「使徒行伝」第5章1-5
p227 昔ながらのガス灯(gas was kept burning)◆ シカゴの会社ではもう古かったのだ
p228 十セントの手数料(a ten-cent margin)◆ 「儲け」だろう
p229 判事(Judge)◆ 急に出てくる語。説明は無いが、このエピソードではこの称号を使う設定なのだろう。
p229 五千ドル(fifteen thouthand dollars)◆ ケアレスミス
p229 フィロマセアン文学協会(Philomathean Literary Society)◆ philomathは「学問好き」という意味
p230 四色のアメリカ地図(the four-colored map of the United States)◆ 単純に四色で塗り分けられた、という意味か、四色刷りということか。CMYKフルカラー印刷は、1867年発明、1890年代に確立、インクは1906年販売、ということは最新流行だったのかも。
p238 第二級郵便物(second-class postal)… 一ポンドあたり一セント(one cent a pound)の郵便代◆ 米国の第二級郵便物は「新聞、雑誌、定期出版物」に適用される郵送料金(日本の「第三種郵便物」)。普通郵便だと一通あたり1セントだったようだ。
p243 ワーッ(Boo)
p244 ラサール街(La Salle Street)【訳註 シカゴの金融街】◆ ニューヨークのウォール街と並び称されている。知らなかった…
p251 四十四口径(forty-four caliber)
p254 下宿屋(boarding houses)
(以上2025-01-10追記。続きます)

No.459 6点 百万長者の死- G・D・H&M・I・コール 2024/09/13 22:13
1925年出版。国会図書館デジタルコレクションで読みました。元本は東都書房版。翻訳はヘンテコなところが無くて読みやすかったです。
作中現在は労働党が初めて政権をとったものの、すぐ瓦解した1924年を思わせるものがあるので1924年11月18日が冒頭のシーンだろうか。
つまり当時の英国は社会主義政権と、反対する保守勢力の間で大きく揺れていたのだ。そして株式市場も、英国実業家Clarence Hatry(1888-1965)が1921年に巨額の富を築き、1924年に大損失($3.75 million)を出したにもかかわらずさらに大儲けし、1929年9月にインチキがバレて、ハトリー帝国のバブルが弾け、世界大恐慌の引き金にもなった、という具合にかなりの出鱈目が許されていた仕組みだったようだ。
そういう当時の社会情勢が、本作にはかなり反映されている、と感じた。
ミステリ的には割と限定的な謎だが、コツコツタイプのウィルソン警部のやり方はかなり好み。派手さはないけどクロフツ(本書でも刑事が気軽にフランスに出張する)やブッシュの感じが好きならおすすめです。
以下トリビア
価値換算は英国消費者物価指数基準1924/2024(76.19倍)で£1=14080円。ドルは金基準の交換レート1924で$1=£0.226=3182円
p5 寒い十一月の朝方(on this sharp November morning)
p16 指紋を取るには絶好のしろもの(fine stuff for finger prints)◆ やはり当時の指紋採取には限界があったのか
p17 ドイツ製の携帯用タイプライター(a portable typewriter of German manufacture)◆ ざっとググるとAdler, Erika, Sentaというブランドが見つかった
p18 ヴォルガの舟唄(the song of the Volga Boatmen)
p21 連発拳銃(a revolver)
p26 十七日、つまり昨日(on the seventeenth; that is, yesterday)◆ 冒頭は11月18日ということになる
p27 宝石類をなくしてしまっている寡婦(the dowager, not the one who lost her jewels)◆ 誰か有名な宝石をなくした貴族未亡人がいて、そっちじゃないよ、と言っているのか
p27 大きなラッパ形の補聴器
p35 裏口は錠をおろし、さし金をさして、かんぬきがしてあって(The back way was locked, bolted, and barred)
p37 昔の辻馬車の馭者(an old horse-cab driver)
p38 びかびかのバスの上で生れて育った新しがりや仲間の一人でさ。技術者などと手前を呼んで、ひどくハイカラだとうぬぼれてやがる(it was one of these new-fangled chaps what was born and bred, so to speak, on these blinkin' buses. Mechanic, 'ed call 'isself, and think 'isself blasted smart)◆ 元馭者のコックニー、自動車育ちの新世代タクシー・ドライバーに敵意むき出し。馬車が最大の登録数となったのは英国では1910年で、急激に減少したのは1925年である。
p46 大学労働クラブのメンバーで、実業や実業家に対する巨大な軽蔑を公言していた(a member... of the University Labour Club, and had professed vast scorn for busmess and the busmess man)◆ 当時の大学生の雰囲気なのだろう。セイヤーズのソヴィエト・クラブを思い出した。
p48 あの書類には、じつに明確な指紋が一ダースばかりもついていて(those papers contain a good dozen finger prints, mostly excellent impressions)◆ 当時でも紙から明瞭な指紋は検出出来るのだ。
p53 当時は最低賃金というようなものはなかった。労働組合は、その後に生長したのであろう(There was no minimum wage then. The Unions weren’t so strong as I suppose they have grown since)◆ 約40年前のこと
p66 背が高く、浅黒い男で、暗灰色の髪、灰色の口ひげ(a tall, dark man, with graying dark hair and a gray moustache)◆ 浅黒警察としては微妙だなあ… 髪の毛はダークグレーと明記されてるし… でもここはやはり肌の色ではなく、元々は黒髪で目が黒色だが、歳をとって白髪になりつつある、というようなイメージでは?
p74 イギリスを訪れたアメリカ人たちは、過徼分子の組織をせんさくしてまわる癖がある(American visitors to England had a way of poking about among the extremist organisations)
p76 千万ドル
p80 流行中のインフルエンザ
p89 紙幣で三ポンドを同封して、一年間の保管料とし、差引き残額は一年後の料金に当てるように保留しておいてもらいたいと(enclosed £3 in Treasury notes to cover warehousing expenses for a year, and asked that any balance should be retained to cover future charges)
p114 百フラン◆ 情報料
p120 「救命浮標石版(ライフ・ブイ・ソープ)」の広告みたいに(as an advertisement of Lifebuoy soap)◆ lifebuoy soap fishermanで検索すると当時のイメージが見られる
p144 フランスの愛らしい歌(Il était un roi d'Yvetot, /Peu connu dans l'histoire, /Se levant tard, se couchant tôt, /Dormant fort bien sans gloire. /Et couronné par Jeanneton /D'un simple bonnet de coton, /Dit-on. /Oh, oh, oh, oh, ah, ah, ah, ah! /Quel bon petit roi c'etait là /La, la)◆ Le roi d'Yvetot(1813) 作詞作曲Pierre-Jean de Béranger、19世紀の有名なシャンソン。

No.458 8点 殺人読本〜絵で見るミステリ史- 事典・ガイド 2024/09/12 15:01
残念ながら日本語訳は雑誌連載されただけです。完訳して出版して欲しいなあ。
私の持ってる版はThe Murder Book: An Illustrated History of the Detective Story by Tage la Tour & Harald Mogensen (George Allen & Unwin 1971) 元々デンマークで出版されたMordbogen (Lademann, Copenhagen 1969)の翻訳です。
邦訳は「殺人読本〜絵で見るミステリ史」ターゲ・ラ・コーア&ハラルド・モーゲンセン(隅田たけ子訳)のタイトルでハヤカワ・ミステリ・マガジン1972年11月号<199>〜1973年12月号<212>に13回連載されました。珍しい写真やイラストたっぷりで、英訳本も全項イラスト入り。フルカラー、総ページ数192、サイズは26.4x20cmです。
ミステリの歴史を上手にまとめていて、英語も平明な楽しい本ですよ。デンマークという探偵小説の歴史上メインストリームではない国の著者なので、バランスの取れた記述になっているのだと思います。日本のこともちょっぴり触れられています。Edogawa Rampo、Ryunsuke AkutagawaとRuiko Kuriowaの名前があげられ、古い日本の犯罪小説で最も有名なのはSaikaku Ihara's Notes on Case Heard under the Cherry Tree(1685)と書いてありました。全然知りませんでした!(追記: 「本朝桜陰比事」(1689)のことらしいです…)

No.457 5点 死の濃霧 延原謙翻訳セレクション- アンソロジー(国内編集者) 2024/09/09 08:53
中西 裕 編集によるアンソロジー。編者は『ホームズ翻訳への道 ー 延原謙評伝』の著者。
延原謙がホームズ翻訳だけで知られてるのは惜しい、というコンセプトだが、だったら(1)(14)の二篇のホームズ譚は要らなかったのでは?と思ってしまった。延原謙初『新青年』登場の(1)は外せないにしても。
以下、収録作品。初出はFictionMags Indexによる。【】内は延原謙訳の掲載誌。英語タイトル直前の*はEugene Thwing(ed.) The World's Best One Hundred Detective Stories(1929)収録作品(4つある)。中西さんはこのアンソロジーの存在を知らなかったようだ。
(1) The Adventure of the Bruce-Partington Plans by Arthur Conan Doyle (初出The Strand Magazine 1908-12) 「死の濃霧」コナン・ドイル 【新青年1921-10、訳者名無し】
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(2) Three-Fingered Joe by Elinor Maxwell (初出Detective Story Magazine 1921-01-02) 「妙計」イ・マックスウェル 【新青年1923-6】
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(3) Thubway Tham's Inthane Moment by Johnston McCulley (初出Detective Story Magazine 1918+11-19) 「サムの改心」ジョンストン・マッカレエ 【新青年1924-01】
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(4) The Crime of the Rue Rodier by Marcel Berger (The Novel Magazine 1921-08 仏語からEthel Beal訳) 「ロジェ街の殺人」マルセル・ベルジェ 【新青年1930-02】
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(5) The Cavern Spider by L.J. Beeston (初出The Strand Magazine 1923-01) 「めくら蜘蛛」L・J・ビーストン 【新青年1927-01】
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(6) The Secret of the Gemmi by Augustin Filon (The Grand Magazine 1907-09 仏語からの翻訳か?) 「深山(みやま)に咲く花」オウギュスト・フィロン 【女性1928-02】
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(7) *The Greuze Girl by Freeman Wills Crofts (初出Pearson's Magazine 1921-12, as "The Greuze") 「グリヨズの少女」F・W・クロフツ 【文藝春秋1932-07】
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(8) The Three Keys by Henry Wade (短篇集Policeman’s Lot, 1933) 「三つの鍵」ヘンリ・ウェイド 【新青年1937-06】
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(9) *The Sting of the Wasp by Richard Edward Connell (初出The American Magazine 1928-08) 「地蜂が螫(さ)す」リチャード・コネル 【新青年1937-12】 評価6点
マシュー・ケルトン短篇初登場と思われる。長篇Murder at Sea(初出Elks Magazine 1928-06〜10)への販促もあった?本作は『世界探偵小説ベスト100』にも選ばれたのだが…
犯行方法のアイディアを思いついたので書きました、という感じの作品。手がかりから読者が推理するのは無理。発想力、空想力を試される類いの作品だろう。鑑識科学が進展したので、もうこのトリックのままでは成立しない。
p228 あなたはワイシャツの飾りボタンを一つしかつけていませんね?(why do you wear only one stud in your evening shirt?)◆ ここではイヴニングシャツの胸には二つだけのstudだが、昔の写真を見るとシャツボタン全部スタッド(5個?)とか3 studsがあった。飛び飛びに二つつけてる感じのもあり。
p229 この弾丸は少し変わっていますねえ。尖が鋼で、非常に長い。そして二二口径にしては大きすぎるし、三二にしては細すぎる(this bullet is something unusual. Steel nose. Very long. Like a small nail, almost. Two(sic) big for a .22 caliber. Too small for a .32.)... スコマク拳銃(ピストル)(a Skomak pistol)... 独逸(ドイツ)で発明されて、チェコスロヴァキヤで製造されたもの(the invention of a German and are, or rather were, made in Czechoslovakia)... 二五口径の単発で(tiny, single-shot pistols of .25 caliber) チョッキのポケットにも忍ばせ得るほど小型(so small they can easily be carried in a vest pocket)◆ いろいろ調べたがSkomak拳銃は作者の創作のようだ。チェコ製というのがいかにもな感じ。コネルさんはガンマニアっぽい。
p230 普通の五連発で(an ordinary, five-shot automatic of a well-known American make)◆ もう一つの拳銃は「普通の五連発オートマチック、お馴染みの米国製」となっているがオートマチック五連発は存在しない、と言って良いだろう。コネルさんの知識から考えて、ここは話者がよくわかっていないことを暗示したマニアならではの記述、と見た。六連発オート拳銃ならColt M1908 Vest Pocketなど小型拳銃がほとんど、中型以上は七連発が多い。
p231 安全装置をはずして弾倉を調べてみた(snapped the safety catch off the automatic, and looked into the magazine)◆ ここの描写もマニアっぽい。安全装置を外さないとスライドが動かないのだ。拳銃の安全確保のため、まず最初にスライドを引いてchamber(薬室)に弾丸が入っていないか、を目視することが身についている。
(2024-09-09記載)
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(10) Number Fifty-Six by Stephen Leacock (初出不明) 「五十六番恋物語」スティヴン・リイコック 【新青年1937-08】
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(11) *The Thief by Anna Katharine Green (初出The Story-teller 1911-01) 「古代金貨」A・K・グリーン 【新青年1933-08】
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(12) The Affair at the Semiramis Hotel by A. E. W. Mason (初出Cassell’s Magazine of Fiction 1916-12 挿絵Albert Morrow) 「仮面」A・E・W・メースン 【新青年1935-10】
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(13) *The Eleventh Juror by Vincent Starrett (初出Real Detective Tales and Mystery Stories 1927-08) 「十一対一」ヴィンセント・スターレット 【新青年1938-02】
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(14) The Adventures of Sherlock Holmes: Adventure II. The Red-Headed League by Arthur Conan Doyle (初出The Strand Magazine 1891-08) 「赤髪組合」コナン・ドイル 【探偵クラブ1952-11】

No.456 9点 ドリアン・グレイの肖像- オスカー・ワイルド 2024/09/06 15:10
初出1890年7月米リピンコット・マガジン、発表後すぐに不道徳な作品だと非難されたが、増補改訂し、1891年4月に英ワード・ロックから出版。
1889年8月のストダート夕食会で、ドイルとワイルドが米リピンコット誌のために約束した作品、としてシャーロッキアンには有名。 ドイルの方はシャーロック再登場の『四つの署名』となった。ストダートは良い仕事をしたわけだ。なおこの会食の席上でワイルドはドイルの出版されて間もない自信作『マイカ・クラーク』(1889)を褒めている。
今回は河合祥一郎さんの新訳で読了。当時の英国社会の常識が訳注に反映されてて、今までモヤモヤしてたことがスッキリすることが多かった。解説も充実。もちろん翻訳も素晴らしい出来。
実はこの有名作は読むのが初めて。ワイルドとくれば男色ネタは外せない。その点は訳者の解説で詳しく触れられており、解毒していただいた。もっと詳しい書籍も買っているので、それを読む意欲もわいてきました…
さて肝心の本作だ。
冒頭が素晴らしい。無垢なものが汚されるかも?というスリル。次に女性が登場してちょっと「うーん」となるがそれも無事にクリア。実は女性には非常に優しい眼差しのワイルド。口では辛辣っぽいセリフでも結構穏やか。だからサロンで人気者だったのだろう。
物語は美学的自己弁護と豊富な軽口にややウンザリだけど、素晴らしく起伏に富んでいる。解説にある、ワイルドが登場人物のモデルを明かしたセリフにすごく納得した。
あらすじではもっと寓話的ファンタジーな設定に思えるかも、だが、なかなか上手な取り扱い。締めも良い。
トリビアは詳しい訳注で充分だろうが、二三特記したいのがある。(二三のつもりが沢山になりました)
p56/416 オールバニ館◆ ラッフルズもオールバニに住んでいた。やはりラッフルズは当時の英国人が読めばワイルドをネタにしていたのが明白なのだろう。
p60/416 最近では、アメリカ人と結婚するのが流行っている◆ 英国貴族と米国婦人の組み合わせ
p68/416 逆説というのは、真実を言い当てる方法です
p90/416 ミート・ティー◆ ハイ・ティーとの違いの解説あり
p96/416 五十ポンドは大金◆ 2024年現在で約150万円、との訳注。実に素晴らしい。英国消費者物価指数基準1890/2024(161.04倍)で£1=30348円。
p144/416 社交シーズン◆ 行き届いた訳注あり
p157/416 宗教の神秘には、恋愛遊戯の魅力があると、ある女性が教えてくれた◆ ああ、なるほどね、と思ってしまった
p188/416 地区検視官(District Coroner)
p190/416 モーニング・ルーム◆ 訳注参照。こういう部屋の名称も用語集が欲しい
p224/416 メントーネ◆ マントンのイタリア読み。結核療養の地だったのか。なのでマクロイ『死の舞踏』では「マントンは死ぬところ」と書かれてたんだ…
p263/416 英国民の伝統的愚かしさ◆ 逆説的に称揚されている。ヴァンダインも安心だ。
p269/416 通話用開口部(トラップドア)◆ 二輪馬車(ハンサム)の。詳しい訳注が嬉しい。Hansom馬車の模型が欲しいけど、プラモが売っていない。
p303/416 六連発銃(a six-shooter)◆ 型式は不明。
p324/416 掛け金(their bolts)◆ 「掛け金」は万能翻訳語なので避ける方が無難だろうか
p403/416 電報配達の少年たちが夜クリーヴランド街十九番地(ロンドン)で男娼していたのが検挙された◆ 1899年のこと。関係していた貴族が数人国外逃亡した大事件だったようだ

No.455 7点 Anthony Boucher Chronicles: Reviews & Commentary 1942-1947- 事典・ガイド 2024/09/05 00:01
Edited by Francis M. Nevins(Ramble House 2001)
サンフランシスコ・クロニクル紙に発表されたバウチャーの書評の集成。
第一部 月間ミステリ書評
第二部 週間ミステリ書評
第三部 その他の書評
という構成。
第一部で1943年2月の話題として「A・A・フェア(1939年デビュー)はガードナーなのか?」というのがあった。この時点ではまだ公表されていなかったようだ。
バウチャーの書評はかなり信頼できると思う。私が読了済みのをざっと読んだだけだが、マクロイ『牧神の午後』を物語が暗号パートで台無し、と書いててかなり共感。フィルポッツも議論ばかりでウンザリ、という感想。
さてサンプル的に第二部から最初の六か月の週間書評本リスト(102タイトル)をご紹介。★は全文を抜粋。[ ]内は編者Nevinsの補足。後半ではペースが落ちてるので五年間だとだいたい500タイトルくらいあるかも(件数は未チェック)。平易な英文だし、kindleだと結構お安いのでいかがでしょう?
※October 11, 1942
H.F. Heard, MURDER BY REFLECTION (Vanguard, $2).
Kelley Roos, THE FRIGHTENED STIFF (Dodd Mead, $2).
G.D.H. & Margaret Cole, TOPER’S END (Macmillan, $2).
Clifford Knight, THE AFFAIR OF THE SPLINTERED HEART (Dodd Mead, $2).
※October 18, 1942
★Helen McCloy, CUE FOR MURDER (Morrow, $2). Psychiatrist Basil Willing cracks the murder of a stage corpse in a [19th-century French playwright Victorien] Sardou revival. Admirable writing and meticulously intricate plotting―but what less would you expect from McCloy?
Jerome Barry, LEOPARD CAT’S CRADLE (Doubleday Crime Club, $2).
A.R. Hilliard, OUTLAW ISLAND (Farrar & Rinehart, $2).
George Harmon Coxe, THE CHARRED WITNESS (Knopf, $2).
Richard Hull, AND DEATH CAME TOO (Messner, $2)
※October 25, 1942
Virginia Rath, POSTED FOR MURDER (Doubleday Crime Club, $2).
★A.A. Fair [Erle Stanley Gardner], BATS FLY AT DUSK (Morrow, $2). Remember Donald Lam joined the Navy? So now Bertha Cool flounders alone through an intricate mess of blind beggars, music boxes and pet bats, with Donald offstage as armchair detective―if armchairs are G.I. at Vallejo. Just about the best Fair yet; and the best Fair is the best fare.
Judson P. Philips [Hugh Pentecost], THE FOURTEENTH TRUMP (Dodd Mead, $2).
Frederick C. Davis, DEEP LAY THE DEAD (Doubleday Crime Club, $2)
★Agatha Christie, THE MOVING FINGER (Dodd Mead, $2). Miss Marple, the omniscient spinster, finds a new reason for poison-pen letters. Passable second string Christie.
※November 1, 1942
Jeffery Farnol, VALLEY OF NIGHT (Doubleday Doran, $2.50).
Phoebe Atwood Taylor, THREE PLOTS FOR ASEY MAYO (Norton, $2).
Philip Mechem, AND NOT FOR LOVE (Duell, Sloan & Pearce, $2)
Robert Portner Koehler, HERE COME THE DEAD (Phoenix, $2).
M.V. Heberden, MURDER MAKES A RACKET (Doubleday Crime Club, $2).
W.T. Ballard, SAY YES TO MURDER (Putnam, $2).
※November 8, 1942
Dorothy Cameron Disney & George Sessions Perry, THIRTY DAYS HATH SEPTEMBER (Random House, $2).
John Spain [Cleve F. Adams], DIG ME A GRAVE (Dutton, $2).
★John Dickson Carr, THE EMPEROR’S SNUFF-BOX (Harper, $2). Dr. Dermot Kinross, criminal psychologist, clears a beautiful and suggestible woman of murder charges in pre-war France. Admirable characterization, precise plotting and a flawless surprise solution to bring you out of your chair.
Walbridge McCully, DEATH RIDES TANDEM (Doubleday Crime Club, $2).
Vivian Connell, THE CHINESE ROOM (Dial Press, $2.50).
※November 15, 1942
No column was published this week.
※November 22, 1942
Craig Rice, THE SUNDAY PIGEON MURDERS (Simon & Schuster, $2).
Kathleen Moore Knight, BELLS FOR THE DEAD (Doubleday Crime Club, $2).
Mignon G. Eberhart, WOLF IN MAN’S CLOTHING (Random House, $2).
Charlotte Murray Russell, MURDER STEPS IN (Doubleday Crime Club, $2).
Frank Gruber, THE GIFT HORSE (Farrar & Rinehart, $2).
※November 29, 1942
Harriet Rutland, BLUE MURDER (Smith & Durrell, $2).
H. Donald Spatz, DEATH ON THE NOSE (Phoenix, $2).
Margaret Tayler Yates, DEATH BY THE YARD (Macmillan, $2).
※December 6, 1942
Ruth Fenisong, MURDER NEEDS A FACE (Doubleday Crime Club, $2).
Elisabeth Sanxay Holding, KILL JOY (Duell, Sloan & Pearce, $2).
Katherine Wolffe, THE ATTIC ROOM (Morrow, $2).
M. Scott Michel, THE X-RAY MURDERS (Coward-McCann, $2).
Edith Howie, MURDER’S SO PERMANENT (Farrar & Rinehart, $2).
Miles Burton [John Rhode], DEATH AT ASH HOUSE (Doubleday Crime Club, $2).
※December 13, 1942
Whitman Chambers, BRING ME ANOTHER MURDER (Dutton, $2).
Ione Sandberg Schriber, A BODY FOR BILL (Farrar & Rinehart, $2).
※December 20, 1942
H.C. Branson, THE PRICKING THUMB (Simon & Schuster, $2).
Charles L. Leonard [M.V. Heberden], THE STOLEN SQUADRON (Doubleday Crime Club, $2).
H.F.S. Moore, MURDER GOES ROLLING ALONG (Doubleday Crime Club, $2).
Willetta Ann Barber & R.F. Schabelitz, MURDER ENTERS THE PICTURE (Doubleday Crime Club, $2).
Kerry O’Neil, DEATH AT DAKAR (Doubleday Crime Club, $2).
※December 27, 1942
No column was published this week.
※January 3, 1943
Jeune Inconnu [French for “an unknown young man”], THE MURDER OF ADMIRAL DARLAN (San Francisco Chronicle, $0.05 daily).
Frances Crane, THE YELLOW VIOLET (Lippincott, $2).
※January 10, 1943
Lawrence Goldman, FALL GUY FOR MURDER (Dutton, $2).
Richard Powell, DON’T CATCH ME (Simon & Schuster, $2).
★Erle Stanley Gardner, THE CASE OF THE SMOKING CHIMNEY (Morrow, $2). Frank Duryea, staid, sensible D.A. of Santa Delbarra, again finds his domestic and professional life disrupted by his wife’s incorrigible grandfather. Gramps Wiggins (remember THE CASE OF THE TURNING TIDE?) is as racily refreshing as ever, especially on the joys of plain cooking and fancy drinking, but the dull and simple case which he solves is worthy neither of him nor of his creator.
※January 17, 1943
Arthur W. Upfield, MURDER DOWN UNDER (Doubleday Crime Club, $2).
Charlotte Armstrong, THE CASE OF THE WEIRD SISTERS (CowardMcCann, $2).
Garland Lord, MURDER PLAIN AND FANCY (Doubleday Crime Club, $2).
Louis Trimble, DATE FOR MURDER (Phoenix, $2).
※January 24, 1943
Elizabeth Daly, NOTHING CAN RESCUE ME (Farrar & Rinehart, $2).
Baynard Kendrick, BLIND MAN’S BLUFF (Little Brown, $2).
Anthony Abbot [Fulton Oursler], THE SHUDDERS (Farrar & Rinehart, $2).
※January 31, 1943
George Harmon Coxe, ALIAS THE DEAD (Knopf, $2).
Van Siller, ECHO OF A BOMB (Doubleday Crime Club, $2).
Peter Cheyney, DARK DUET (Dodd Mead, $2).
Melba Marlett, ANOTHER DAY TOWARD DYING (Doubleday Crime Club, $2).
Bernard Dougall, THE SINGING CORPSE (Dodd Mead, $2).
Amelia Reynolds Long, MURDER TO TYPE (Phoenix, $2).
※February 7, 1943
★Carter Dickson [John Dickson Carr], SHE DIED A LADY (Morrow, $2). Suicide pact in 1940 England proves to be murder―if the murderer could have stood on thin air; the great H.M. [Sir Henry Merrivale] investigates, in a wheel chair and a Roman toga. Movingly human story woven around as pyrotechnically dazzling a plot as even Mr. Dickson has ever conceived. Collector’s item.
Norbert Davis, THE MOUSE IN THE MOUNTAIN (Morrow, $2).
Stewart Sterling, DOWN AMONG THE DEAD MEN (Putnam, $2).
A.B. Cunningham, THE AFFAIR AT THE BOAT LANDING (Dutton, $2).
Susannah Shane [Harriette Ashbrook], LADY IN A WEDDING DRESS (Dodd Mead, $2).
Arthur M. Chase, PERIL AT THE SPY NEST (Dodd Mead, $2).
※February 14, 1943
Matthew Head, THE SMELL OF MONEY (Simon & Schuster, $2).
Michael Venning [Craig Rice], MURDER THROUGH THE LOOKING GLASS (Coward-McCann, $2).
William Francis, BURY ME NOT (Morrow, $2).
※February 21, 1943
David Keith [Francis Steegmuller], A MATTER OF ACCENT (Dodd Mead, $2).
Cornell Woolrich [William Irish/George Hopley], THE BLACK ANGEL (Doubleday Crime Club, $2).
William Brandon, THE DANGEROUS DEAD (Dodd Mead, $2).
Leslie Ford, SIREN IN THE NIGHT (Scribner, $2).
Vera Kelsey, SATAN HAS SIX FINGERS (Doubleday Crime Club, $2).
Stanley Hopkins, Jr., MURDER BY INCHES (Harcourt Brace, $2).
※February 28, 1943
Mark Saxton, THE YEAR OF AUGUST (Farrar & Rinehart, $2.50).
Chris Massie, THE GREEN CIRCLE (Random House, $2.50).
Alice Tilton [Phoebe Atwood Taylor], FILE FOR RECORD (Norton, $2).
Herman Petersen, THE D.A.’S DAUGHTER (Duell, Sloan & Pearce, $2).
※March 7, 1943
★Vera Caspary, LAURA (Houghton Mifflin, $2.50). Murdered woman comes to life as seen through [Alexander] Woollcott-like friend and the detective who finds himself falling in love with her image. Publishers call this a “psychothriller,” vile word, but meaning in this case a connoisseur’s item, for those who rejoice in [Raymond] Postgate, [Oscar] Wilde, or [Kenneth] Fearing. Subtle, sinister and swell.
Hannah Lees & Lawrence Bachmann, DEATH IN THE DOLL’S HOUSE (Random House, $2).
Dale Clark, FOCUS ON MURDER (Lippincott, $2).
Lange Lewis, JULIET DIES TWICE (Bobbs-Merrill, $2).
Jeanette Covert Nolan, FINAL APPEARANCE (Duell, Sloan & Pearce, $2).
Lawrence Lariar, DEATH PAINTS THE PICTURE (Phoenix, $2).
※March 14, 1943
Hugh Addis, NIGHT OVER THE WOOD (Dodd Mead, $2).
E.X. Ferrars, NECK IN A NOOSE (Doubleday Crime Club, $2).
Aaron Marc Stein, THE CASE OF THE ABSENT-MINDED PROFESSOR (Doubleday Crime Club, $2).
Philip Wylie, CORPSES AT INDIAN STONES (Farrar & Rinehart, $2).
Hulbert Footner, DEATH OF A SABOTEUR (Harper, $2).
※March 21, 1943
Timothy Fuller, THIS IS MURDER, MR. JONES (Atlantic-Little Brown, $2).
Anthony Gilbert, DEATH IN THE BLACKOUT (Smith & Durrell, $2).
Christopher Hale, MURDER IN TOW (Doubleday Crime Club, $2).
Mabel Seeley, ELEVEN CAME BACK (Doubleday Crime Club, $2).
Jefferson Farjeon, MURDER AT A POLICE STATION (Bobbs-Merrill, $2).
※March 28, 1943
Robert Terrall, THEY DEAL IN DEATH (Simon & Schuster, $2).
Giles Jackson [Dana Chambers], COURT OF SHADOWS (Dial Press, $2).
R.A.J. Walling, A CORPSE BY ANY OTHER NAME (Morrow, $2).
Ethel Lina White, PUT OUT THE LIGHT (Harper, $2).
Ida Shurman, DEATH BEATS THE BAND (Phoenix, $2).

No.454 9点 オイディプス王- ソポクレス 2024/09/04 18:14
初上演紀元前427年ごろ。光文社古典新訳の河合祥一郎訳(ギリシャ語の英訳を底本にしたもの)で読みました。ギリシャ語に不案内だが英語の注釈を頼りに原文のリズムを考慮して頑張りました!という意欲作。ある意味ギリシャ語古典プロパーへの挑戦状だけど上出来だと思います。翻訳文を声に出して吟味した、という姿勢はあらゆる翻訳家が実践して欲しいですね。
驚いたことに当時のギリシャでは演劇コンテストで一位になれなかった(多分二位だったろう)、という。
この伝説は初演当時もギリシャ人にはお馴染みなものだったらしく、そういうことなら、登場人物が知らないことをすでに観客は知っていて、いつ本人が気づくか、というドラマチック・アイロニーを楽しんでいたわけだ。
冒頭に殺人事件を解明する!と宣言があって、事実が判明するやり方は結構近代的、いや現代でも証拠として必要充分だ。
非常に楽しめました。

ところでオイディプス王とイオカステ妃の間に子供4人!妃頑張りすぎじゃない?

No.453 7点 二輪馬車の秘密- ファーガス・ヒューム 2024/09/01 11:40
1886年メルボルンで自費出版。1887年ロンドンで出版。原題The Mystery of the Hansom Cab。新潮文庫(1964年 江藤 淳・足立 康 共訳、江藤先生の「あとがき」を読むとどうやら足立さんがメインっぽい)で読み、さらに新訳の扶桑社版も手に入れたので、じっくり再読した。扶桑社が「完訳版」と謳ってるので今まで完訳はなかったように受け取ってしまったが、新潮文庫版も立派な完訳である。いずれの翻訳も読みやすい。新潮文庫版はちょっと古めだが端正な日本語。さすが江藤先生である。
新訳(ページ数は電子本なので"pXXX/全体のページ数"で表示)の底本は“The Mystery of a Hansom Cab”(Rand, McNally & Company 1889)のようだ。全文がWikisourceにある。ヒューム自身の改訂版(Jarrold and Sons, London 1896. “377th Thousand“と表紙に記載)があり、こちらがGutenbergの元本なのだろう(底本は明記されていない)。新潮文庫(ページ数は"★pXX"で表示)は著者改訂1896年版に基づくものと思われる。
トリビアをざっとチェックしていて見つけたのだが、1889年版では第17章冒頭の広告のくだりが
in conjunction with Lewis's Egg Powder and someone else's Pale Ale(ルイス社のエッグパウダーやどこかのメーカーのペールエール・ビールと並んで p195/414)
となっているが、1896年版では
in conjunction with "Liquid Sunshine" Rum and "D.W.D." Whisky(リラウッド・サンシャイン・ラムやDWDウィスキーと並んで ★p171)
のように商品名が差し替えられていたのだ。オーストラリアのローカル物品はやめて、英国でも有名なブランドに変更したのかな? Hogarth Press 1985(著者改訂以前の版の英国最初のリプリントだという)の序文でStephen Knightが"For Jarrold's 1896 edition he cleaned up the language, cut some of the seamier and more Australian references"と言っている。
もちろん両方とも「完訳」なんだけど、扶桑社は「初版オリジナル」完訳版(厳密には初版じゃないだろうが)と宣伝した方がよかったのでは?(ここら辺の版の違いは解説等に記載が全く無い)
さてその著者改訂版Jarrold1896年に付された前書きが非常に面白い。Gutenberg版にもついてるので大抵の電子本にも付属しているはずだ。途中でネタバレがあるのでこの前書きは本篇読後に読んだ方が良い。ここではネタバレ部分は極力カットして以下ざっと抄訳。
「この本は英国ではすでに37万5千部が売れ、米国でも数種類の版が出ているが、この改訂版では徹底的に誤りなどを直した… そもそも私は劇作家志望だったがパッとせず… 近頃評判になっていると聞いてガボリオー(11冊を全部)を読み、面白かったので探偵小説を書いて注目を集めようと思った… 当時、二、三の短篇小説を発表していたが長篇を書くのは初めて… 初稿では××をyyにしていたが変更… Guttersnipe婆さんの描写はもっと下品だったが和らげた… Caltonと下宿のおばさんたち二人はよく知ってる人物がモデル… Little Bourke Streetにはかなり通って観察した… 原稿が完成したもののメルボルンのあらゆる出版社は植民地生まれの作品に見向きもしない… なので5000部を自費出版したら評判が良く、増刷してもあっと言う間に売れた… 機を見るに敏な者たちが「二輪馬車出版組合」を結成し、ロンドンで出版したら驚異的な成功をおさめた… 有名評論家Clement Scott氏の温かい評価がきっかけだろう… でも私は出版権を組合に売ってしまっており、利益とは無縁だった… ブームの一年後に私自身が英国に引っ越した… すでに色々な誤った噂が蔓延していた… この作品は事実に基づいたもの、とか(実際は純然たるフィクションである)… さらに英国では偽ファーガス・ヒュームが多数出没していて、ある偽者は名刺を作って続篇を売り込み、他の偽者は私が本物のヒュームだと言い張るなら撃ち殺す、とまで言い切った(幸いにもまだ実行されていないが)… 最後に、私はオーストラリア出身ではなくニュージーランド出身であり、引退した刑事ではなく法廷弁護士(barrister)であり、五十代ではなくまだ三十代であり、ファーガス・ヒュームはペンネームではなく本名であり、この改訂版を発行する前に受け取った利益は50ポンドだけだったことを言明しておく。」

初稿ではyyが違った!というのが実に面白い。(気になる人は本書を読んだ後でGutenbergを参照してくださいね)

さて内容は、前半(1-20章)と後半(そのあと)に大きく分かれていて、前半は実にスリリングに進む。でも後半でちょっとたるむ。なんか納得いかないモヤモヤが残る。そういう話ならそれまでの振る舞いがヘンテコじゃないの?という感じ。
まあでも当時のベストセラーになったのも良くわかる。そしてこれはザングウィル『ビッグ・ボウ』(1891)と比べると警察の評判がちょっと違っている。まあこれは『ビッグ・ボウ』の感想文に詳しく書きますよ…
トリビアはたくさんありすぎて疲れるので、もし暇があったらやるかもです…
たくさんの引用が散りばめられてるけど、当時の英国のメインストリームの小説家ならダサいと感じてここまで詰め込まないのでは?と思った。ローカル作家ならではの、背伸び感が微笑ましい。
メルボルンの通りは詳しくチェックしてないが全部実在っぽい。「郵便局の時計」というのはGeneral Post Office, Melbourneの立派な時計塔のことだろう。ルートが詳細なので聖地巡礼が楽しそう。
作中現在は冒頭の「一八──年七月二十八日、土曜日(p9/414)」から1883年で良いだろう。
価値換算は英国消費者物価指数基準1883/2024(152.38倍)で£1=29249円
当時の人口は1881年の数字でメルボルン268,000人(推計)、ロンドン4,711,456人。(なお東京都は1880年957,000人)
<以下は探偵小説関連のみ抜粋。全然未調査>
p9/414 ガボリオの小説を地で行くかのよう… かの名高い探偵ルコックにしても◆ ★p9「ガボロー」
p14/414 デュ・ボアゴベイの小説に、この奇怪な事件とよく似た殺人事件を描いた『乗合馬車の謎』という作品がある
p65/414 『リーヴェンワース事件』とか、まあ、そんな類の小説を思い出しますね◆ ★p60 レヴンワース事件か何かを思い出してごらん
p66/414 “ラトクリフ街道殺人事件”についてド・クインシーが書いたもの◆ ★p61 ド・クインシイのロンドン・マール殺人事件の解釈
p77/414 ミス・ブラッドンの小説
p87/414 ポー顔負けの遺体安置所の怪談
p111/414 オペラ・ハウスの〝グリア銃撃事件〟
p131/414 ガボリオの小説を読んでいますから
p131/414 ネッド・ケリーのような凶悪な犯罪者
p224/414 二枚目の人間が罪を犯すことはよくあることで、その証拠にイスカリオテのユダも皇帝ネロも美男子だったと力説◆ ★p195 イスカリオテのユダやネロは美男子
p233/414 開廷を告げる銀の鈴の音が法廷に鳴り響いて
p233/414 裁判長は黒い帽子をポケットに
p237/414 ジョン・ウィリアムズ◆ The Ratcliff Highway murders(1811)の犯人(1784-1811)
p279/414 片手間に探偵の仕事をしているイギリスの友人(a friend of mine, who is a bit of an amateur detective)◆ ★p241 「僕の友達で素人探偵みたいな男」これがシャーロックだった、という説は誰かとなえていないのかなあ。
p295/414 ディケンズの『ピクウィック・ペーパーズ』の中の恐ろしい話… 自分が狂っていることに気づいているにもかかわらず、それを長いあいだうまく隠しおおせた男の話
p342/414 ドア釘みたいに(アズ・ア・ドアネイル)◆ 「死」と結びついている?
p347/414 ネメシス◆ 長い解説だが面白い。本当の伝説か?
p363/414 あなたのパンを水の上に投げよ
p376/414 毒物取締法によると、買うときには立会人が必要なはず
p391/414 小切手の支払いはできなくなった
p394/414 古代ローマのコロッセウムで行なわれた… そこでは舞台が終わるとオルフェウスを演じた役者がクマに八つ裂きにされたのだよ

No.452 7点 リーヴェンワース事件- A・K・グリーン 2024/08/30 18:22
1878年出版。ザングウィル『ビッグ・ボウ』(1891)をやろうと準備していて、ふとヒューム『二輪馬車』(1886)の感想をまだ書いてないことに気づき、新訳をあらためて読んでいたら、この本への言及があって、そうそう国会図書館オンライン(NDLdc)で読めるかも?と探したら東都書房の世界推理小説大系は全巻オンラインで読めるようになっていた。若者にも手に入れやすい状況は実に良い!じゃあまず、ここから再スタート、と読み進めたら非常に面白い。翻訳も素晴らしく、実に読みやすい。
発端の発見からインクエストになだれ込み、紳士のプライドと探偵興味のせめぎ合いが可笑しくてスリリング。当時の人情が細やかな筆致で悠々と描かれる。歌舞伎の世界ですね。現代では時間がたっぷりある暇人の楽しみになっちゃうけど、昔のエンタメってゆっくりした時間の流れなんですよ。
読んでいてメースン『矢の家』(1924)のシチュエーションと似てると感じた。二人の美女に挟まれた駆け出し弁護士のドキドキハラハラ。英国人が資産家の娘さんを… というのも『二輪馬車』に出てきて(他にも当時のオルツィの短篇にはたくさん出てくる)当時の流行である。まあ趣旨はだいぶ違うのだけれど、英国貴族は没落しつつあったのだ。
強烈なボランティア・キャラが出てきて、ここに出てくるのはやりすぎだと思うけど(強引に好意につけ込んで上がり込むやり方!)実際にこんな施し好きの人もいたのかも。
ミステリ的にはまだ科学捜査が不十分と思われる時期にも関わらず、銃器の取り扱いがしっかりしていたり、インクエストが実にそれっぽくて満足。新聞が大人しすぎるのがちょっと不服(ここは『ビッグ・ボウ』との比較)。実際にこんな事件が発生してたら、もっとセンセーショナルに騒ぐんじゃないかなあ。
トリビアは後で気が向いたら。原文はGutenbergにもあります。
銃器関係だけは書いておきたい。
登場する銃器は「これは32号の弾でして通常スミス・アンド・ウェッソンの小型ピストルと共に売却されます(It is a No. 32 ball, usually sold with the small pistol made by Smith & Wesson)」で32口径かな?と思ったのですが、後段で「輪胴(チェンバー)は七つ」とあるので七連発の22口径S&WモデルNo.1ですね。当時の弾丸の箱を見てもNo.32とは書いてないので作者の勘違いなのかなあ。

No.451 6点 シャーロキアン殺人事件- アントニー・バウチャー 2024/08/27 06:00
1940年出版。グーテンベルク21が拾ってくれるなんて想像もしなかった。教養文庫は持ってるはずだがずっと書庫を探して見つからず、だったので非常にありがたい。翻訳は非常に良い。(仁賀さんクオリティへの心配と駒月さんの名前で安心… というのが人並由真さんと全く同じだったので苦笑…) まあただ数少ないが意味不明のヘンテコ訳はトリビアでご紹介しちゃいました。
初版のダストカバーを見るとオブリーンものとしての出版ではないが、現行のペンズラー監修Mysterious Press版(Kindleで入手可能)ではFergus O'Breenシリーズ第二弾となっている。本作にはFO'BシリーズのレギュラーであるA・ジャクソンとモーリーンが登場し、第一作The Case of the Crumpled Knave(1939)への言及が数箇所あるので当然の扱いだろう。
シャーロキアン(ただし原文には一度もこの語は登場しない)なら本作は楽しめるだろうけど、読み込んでない人には「ふうん」レベル。バウチャーの悪い癖であるお遊びの強い浮世離れ感が出過ぎ。得意の言葉遊びも(いつものように)胃にもたれる。まあでも全体的に気に入りました。
バウチャーさんって、なんか人に興味が無さそう。キャラが薄いのはそのせいかな、と思う。
さて、以下トリビア。参照した原文はCarroll & Graf 1986。翻訳は大胆に訳注をほぼカット。潔ぎ良い姿勢だが、ならば三箇所ほどの割注も無しで良かったのでは?
電子本なのでページ数はpXXX/全ページ数で表記しています。
作中現在は本文に記されている通り1939年6月から始まる。最初の場面が何日かは不明だが6/26(手紙の日付)の数日前と思われる。第二次世界大戦の開始はナチスのポーランド侵攻1939-09-01である。
価値換算は米国消費者物価指数基準1939/2024(22.63倍)で$1=3270円
原文には献辞あり。“All characters portrayed or referred to in this novel are fictitious, with the exception of Sherlock Holmes, to whom this book is dedicated”
p6/378 蛇則(Buy Laws)◆ 普通はby laws(附則)。ワザとbuyにしてるが何かにかかってるのかなあ。
p7/378 おもしろいことになってきたぞ!(The game is afoot!)
p8 ハードボイルドなどという… ミステリ小説(mystery novels of the type known as hard-boiled)
p11 ショートカットの黒髪(her short black hair)◆ アイルランド娘という事でMaureen O’Hara(赤毛)のイメージかな?と思ったけど、メジャー・デビューは『ノートルダムの傴僂男(RKO 1939-12)』だった。
p11 ハーマン・ビングやマイク・カーティズ(Hermann Bing maybe, or Mike Curtiz)◆ いずれも欧州からハリウッドに逃れてきた映画監督。ビングはドイツ出身、カーティズはハンガリー出身だがドイツに亡命していた。
p11 『ホートン』を高速度撮影で(direct Horton in slow motion)◆ ここは映画の題名ではなく、映画俳優のEdward Everett Hortonのことか? 気取った感じが笑いを誘う。
p30 『楽しみにする』という動詞の用法が初歩的なミスを犯している(the disgraceful misuse of “anticipate.”)◆ 手紙文の原文は“Hoping that I shall soon receive a favorable reply from you” 私は文法が苦手だが、いろいろ探ったところでは、hopeは未来が当然なので、that以下でshallとかwillであえて未来形にすると反対のことを含意してしまう(「良い返事をいただけないかもですが… 」というニュアンス)らしいので正解は現在形だと思う。でも口語ではつい未来形にしちゃうことがあるようだ。
p40 誰が手紙を書いてたんだい?… 『誰に』でしょう(“Who were you writing to?”… “Whom”)◆ 『ゴルゴタの七』でもwhomは絶滅危惧種とあった。
p45 かつては隆盛を極めたあのUFAが強制追放されてゆく様を描いた宣伝映画『大混乱』(the propagandistic Mischmasch which our once great UFA has been forced to turn out)◆ 試訳「かつては偉大であった我らのUFAが無理矢理製作を強いられた宣伝映画『大混乱』」 この題名のUFA映画は該当がない。当時の有名なプロパガンダ・ドキュメンタリー映画といえばTriumph des Willens(1935)だが…
p47 ベルリンのカフェで我々が接触した三人の同志の話(the story of the three friends who met in a Berlin café)◆ 試訳「ベルリンのカフェで出会った友だち三人の話」
p50 グルーチョ・マルクスの特別室(Groucho Marx’s stateroom)◆ 『オペラは踊る』(1935)でグルーチョの小さな船室にサービス要員がどんどん入ってくる場面はstateroom sceneと呼ばれているようだ。某Tubeに抜粋あり。
p55 エイミー・ロブザート… フローラ・マクドナルド(Amy Robsart … Flora MacDonald)◆ Amy, Lady Dudley(1532-1560)、Flora MacDonald(1722-1790) ここはCharles Edward Stuartを追っ手から匿ったFloraが正解。
p65 今はオスカーの時代じゃない(a line that nobody’s got away with since Oscar)◆ 調べつかず。アイルランド神話にオスカーというのがいるらしいが…
p66 ケニー・ワシントン選手(Kenny Washington)◆ 黒人で初めてNFLと契約したレジェンド選手。大学ではジャッキー・ロビンソンのチームメイトだった(二人とも野球とアメフトをやっていた)。
p67 『シェイクスピアの霊の黙示録』 (Revelations by Shakespeare’s Spirit)◆ Sarah Taylor Shatfordが1919年に出版した自動筆記によるというふれ込みの本。
p69 A・ジャクスンのAが何の略字かという謎(What that A. stood for was a deep mystery)
p69 今年一月の特異な事件(an extraordinary case last January)◆ 原文には注あり。The Case of the Crumpled Knaveのこと。
p72 男たちはそれぞれ見習いだったつらい修業時代を思い出していた(the men began to remember the rougher days of their apprenticeship)◆ 試訳「男たちは若かりし時代の荒っぽい日々を思い出していた」
p74 ダイズ委員会(Dies Committee)◆ House Un-American Activities Committee 下院非米活動委員会の1938年ヴァージョン。
p86 おちょくる(rib)
p99 アスルリー・ ジョーンズ(Athelney Jones)◆ 勘違いか誤植だろう
p101 なんたるたわごと!(Horse feathers)
p102 身長制限をほんの一、二センチ上回るほどの(half an inch over the police minimum height)◆ 試訳「警官の最低身長基準を半インチ超えているだけ」
p109 中国人みたいに(like the Chinaman)◆ 話の流れで若い女性が口にすべきでない下ネタ・ジョークだろうと見当をつけ調べるとジャック・ニコルソンが『チャイナタウン』(1974)で床屋から聞いて下品に披露するヤツが見つかった。この映画は1930年代後半のL.A.が舞台なので時代も場所もぴったり。某Tubeでlike a chinaman jokeを検索すると出てくる。
p111 マルヴェイニーの小説(the Mulvaney stories)◆ キプリングの作品群。アイルランド人マルヴェイニー(Mulvaney)、コックニーのオーセリス (Ortheris)、ヨークシャ人のリアロイド(Learoyd)の三人が登場するシリーズ。インドの言葉がたくさん出てくるようだ。
p118 独断的なワトスン(a confidant, a Watson)◆ 試訳「腹心の友、ワトスン」 confidentと間違えたのね
p118 東の丘に朝露結び、歩道に朽葉色の衣ふむ夜明け(the dawn in russet mantle clad walks o’er the dew of yon high eastern hill)◆ Hamlet, Act 1, Scene 1 (Horatioのセリフ)
p122 韻を踏んでみたが最後のがちょっと弱いかな(Last line’s weak, but I like the third)◆ ここに登場する詩文はキプリング "West meet East"(1889)のもじり。原文は“For there is neither East nor West, /Border nor breed nor birth, /When one strong man’s been done to death, /And of suspects there’s no dearth”キプリングとは三・四行目が異なる。原詩は“When two strong men stand face to face, /tho’ they come from the ends of the earth”
p131 女性だったら真二つに切断されかねないような怪力で(one who knows that the woman wasn’t really sawed in two)◆ 試訳「女性が本当はノコギリで真っ二つにされてないことを知ってる人のように」 マジック実演が実に不思議だなあ、とポリポリ頭を掻いている情景。
p131 握りの部分に極めて美しい真珠の装飾がほどこされた小さなオートマチック(small and exceedingly pretty pearl-handled automatic)◆ 試訳「小さくてとても美しいパール・グリップのオートマチック」拳銃の握りでよくあるパール状の模様は白蝶貝などが原材料。真珠を埋め込んでるわけではない。
p138 スプリング錠(a spring lock)◆ ばね仕掛けでドアを閉じると自動的にロックする仕組みのように読める。このドアの場合は、鍵を使えば外からも開けられると記されている。
p148 偉大な狩猟家バーラーム(Bahram, that great hunter)◆ ササーン朝の君主(在位420-438)のバハラーム五世のことらしい。無駄に知識があるバウチャーさん
p149 合法的殺人(justifiable homicide)◆ 法律用語。正当防衛の結果や、法執行中のやむを得ない殺しのこと。
p155 小麦の山(a stack o’ wheats)
p160 あったのは絶対確かです(That there was a door was an obvious fact)◆ 「ドアが」が抜けている。
p164 オールド・ペッドかブラインド・スポット(old Ped… the Blind Spot)◆ Old PedはOzark FolksongのThe Old Peddlerのことか?Oh, Old Ped got out and out him a gad,/ Back to the wagon Old Ped did pad... He got in and he gave him a lick,/ He struck so hard that he broke his stickという歌詞あり。Blind Spotは1932年の英国犯罪映画が見つかったが内容不明。
p168 『トリスタン』を暗誦しました。「可愛いアイルランド娘、いったいおまえはどこにいる?」(whistled the phrase from “Tristan” which accompanies the words: “Mein Irisch Kind, wo weilest du?”)◆ このままの文句がワーグナー『トリスタンとイゾルデ』Act 1, Scene 1 冒頭、若い船乗りの朗唱にでてくる。この文句はT.S.Eliot “The Waste Land”にも引用されており、有名な一節のようだ。
p169 その自由連想の結果生じたすばらしい主題について、今ここでゆっくりお話しできないのが重ね重ね残念です(But this paper is no place in which to indulge in the fascinating subject of the results of free association)◆ 試訳「ここでは自由連想がもたらす結果という魅力的なテーマにふれている余裕はない」
p178 一応、念には念を入れて……か (...)お偉いさんがその言葉を文字通りの意味で使うことはまずないからな(Merely corroborative detail (...) though hardly, I trust, in the sense in which Pooh Bah used the phrase)◆ ここはギルバート&サリヴァン『ミカド』第二幕から。試訳「『ただの裏付けとなる細部』… というところかな。『ミカド』でプー・バーが言った時の意味とは全く違うがね」
p183 あなたは片足をもう片方の足より遠くへ投げ出してらっしゃいますね?(you’ll notice that one of your legs Is quite a stretch longer than the other)◆ 「あなたの片方の足はもう一方よりほんのちょっとだけ長いと気づくでしょう」と読める。でもこの場面ではピンと来ない。隠された意味があるのかなあ。もしかして「あなたは観察力が鋭いから、そういうどうでも良いくらいの長さの違いも気づいちゃうかもね」というジョークか?
p184 オックスフォード・グループ(Oxford Group)◆ 英Wiki参照。ここら辺、カトリック教徒のバウチャーがカトリックを控えめに称賛している。
p198 カリフォルニア出身のローズヴェルト二世好みとカンサス出身のローズヴェルト一世好み(a curious mixture of Roosevelt II Californian and Roosevelt I Kansan)◆ 翻訳は合ってるが、有名なローズヴェルトはテディとフランクリン(FDR)の両大統領しか思い浮かばない。いずれもニューヨーク出身で特にカリフォルニアやカンサスと関係なさそうなのだが…
p206 大いなる賞賛を受けた嫌われ者、いわば〈よき平凡な料理人〉(being that most highly praised abomination, a “good plain cook”)◆ 話者は皮肉屋なのでgood plain cook という表現は大嫌い、という趣旨か。
p206 スタイケンやウェストンにとってのUP社の報道カメラマン、ガストゥルのようなもの(somewhat the same relation to my Gustl as a U.P. news cameraman bears to Steichen or Weston)◆ SteichenとWestonは当時の有名写真家。ニュース・カメラマンと有名写真家の関係が、このgood plain cook と「我がGustl」の関係と相似形だという。ということはGustlは馴染みの最高級料理人なのだろう。
p210 エリザベス・ホーズ(Elizabeth Hawes)◆ 米国の有名ファッションデザイナー
p210 ダニロワ◆ Alexandra Danilova、ロシア生まれのバレリーナ
p215 ヘブロック・エリスのような禁欲の固まりのような権威者(a less austere authority than Havelock Ellis)◆ 試訳「ハブロック・エリスよりいささか劣る専門家」
p223 犯罪人類学のフートン(Hooton)◆ Earnest Hooton、著書Crime and the man. (1939 Harvard Univ. Press)など
p225 検視陪審(coroner’s jury)
p233 へロデルマ・サスペクトゥム(Heloderma suspectum)◆ なかなか可愛い
p234 私の姓を取って『ジョン・オウダブ』名義で(under ‘John O’Dab’ from my own name Jonadab)◆ 試訳「私の名前ジョナダブから『ジョン・オウダブ』名義として」
p242 ジェイムズ・サーバーの『さあ、ヤマウラへ行ってスズメッチになりましょう』という有名なくだり(the immortal line of James Thurber… “Now we go up to the garrick and become warbs”)◆ The Black Magic of Barney Haller By James Thurber、初出The New Yorker August 19, 1932
p253 悪質遺伝の典型のジューク家やカリカック家(the Jukeses and the Kallikaks)◆ 懐かしいなあ。このキ印家系の名前を初めて知ったのはEQだったような気がする。もちろん両家とも仮の名字。
p255 ソウニー・ビーン(Sawney Bean)◆ Wiki "ソニー・ビーン"で項目あり。
p255 ジーン・ファウラー(Gene Fowler)◆ 1890-1960、米国のジャーナリスト、作家。映画シナリオでも有名。ここで言及されているのはTimber Line(1933)と思われる。
p264 ハバナ産高級葉巻の〈コロナ・コロナ・コロナ〉(Corona Corona Corona)
p264 パパ(sugar-daddy)◆パパ活の方の「パパ」
p266 ルクセンブルク伯爵のワルツ(Count of Luxemburg waltz)◆ レハールのオペレッタDer Graf von Luxemburg(1909)を英語で改作したロンドン版(The Count of Luxembourg 1911)の時に新たに追加したもの。有名曲なので聴いたことあるでしょう。
p268 「ダブル、ダブル、ドイル。そしてトラブル」(Double, double, Doyle, and trouble)◆ 『マクベス』 (第四幕 第一場)魔女たちの歌のもじり。オリジナルはToil
p270 掛け金を外さずにドアを開けた(kept the door on the latch as he opened it)◆ ドアのメイン・ロックを外して「開く」にしたが、ボルト(latch)はかけたまま(ドアは開けていない)という状況だろう。次の文で、まだ外の姿は見えず声だけが聞こえている。
p272 『適正に処理した』と称するサラミ(kosher salami)◆ ユダヤ教の肉の扱いは難しいよね(イスラム教ならハラールという)
p276 死体があった(there was a body)◆ 正確には「身体があった」この時点では生き死にを明確にしたくない。ミステリ界では時々訳語にこまる言葉。
p288 男が夜に髭を剃る意味(why men shave at night)◆ だいたい想像がつくが、私の見聞では初耳情報。欧米人はヒゲが濃いからか?
p290 フォンデュ(fondue)◆ バウチャーのレシピ公開。美味しそう!
p291 高名なコック…アレクシス・ソイア(the eminent Alexis Soyer)◆ フランス人シェフ(1810-1858)
p303 ブラームス第二交響曲の最新版(the newest recording of the Brahms Second)◆ Brahms:Symphony No.2 in D major Op.73、当時のレコード(LPはまだなので五枚組になる)ならEugene Ormandy(1938?)だろうか。
p303 〈ラリー・ワグナーとリズマスター〉の演奏による...(Two Dukes on a Pier, fox trot, by Larry Wagner and his Rhythmasters)◆ このレコードは実在する(Victor 1937-11-24発売)。A面はAutopsy on Schubert。Internet Archiveで聴けますよ。
p305 八枚とももらうよ。ええと七五セントの、一ドル五〇セント、三……全部で六ドルだね(Eight records at seventy-five—one fifty—three—That would be six dollars)◆ 試訳「75セントが八枚… 1ドル50… 3ドル… 全部で6ドルだ」
p307 STEIN GO (以下略)◆ 誤植あり。 単語数が多すぎる。冒頭のSTEINは不要。 GOから始まるのが正解。
p307 六ドルにかかる売上税(The sales tax on six dollars)◆ よそ者だからこの種の税金に馴染みがなかったのだろう。 米国は全国一律の売上税を制定したことがない。1930年代には23州が売上税を採用していた。
p312 ベッド代二五セント部屋代五〇セントより(Beds 25¢, Rooms 50¢ And Up)◆ Bedsは一泊(夜だけ)、Roomsはまる一日という意味かなあ… 安宿代がレコード一枚より安かったとは。それでも一日約1600円だから激安。
p312 危険も二倍(Double Jeopardy)◆ 法律用語。一事不再理(同一の罪について二度裁かれない)原則のこと。試訳「二度裁かれないはずなのに」
p312 ガーネット事件… あの札つきの悪党(Garnett case. That crumpled knave)◆ いずれも The Case of the Crumpled Knaveへの言及。翻訳者は気づいていないらしい。後段は「あのくしゃくしゃになったジャック」
p329 するとエヴァンズさんが生んだ男の代名詞は、単に因習を引きずってるだけかな(Particularly if we consider Mr. Evans’ masculine pronoun as a mere convention)◆ 試訳「あえて言うがエヴァンズさんが「彼」という代名詞を使ったのは便宜的なものだろう」前段でエヴァンズが犯人を「he」と称したのでこのセリフ(翻訳では「彼」を使っていないため余計に分かりにくくなっている)。それに対するエヴァンズの返事は“It was intended as such”(そのつもりでした)
p353 マックス・ファリントンのような頭の切れる弁護士(a good lawyer, like Max Farrington)◆ The Case of the Crumpled Knaveに登場する弁護士。
p364 「あれはなかったことなの?」 「そのとおり」◆ この誤訳は最悪。ただでさえ弱弱な男が最低の返事をしてることになる。原文は“Did you mean it—what you didn’t quite say?” “You know I did.” 試訳「本気じゃなかったの?ちゃんと言葉にしなかったことだけど」「本気に決まってる」
p369 「会の罰則により」(Our Buy Laws)◆ ここはp6に合わせるべきところ。

No.450 8点 殺人保険- ジェームス・ケイン 2024/07/29 12:46
1936年出版。初出Liberty1936-02-15〜04-04。国会図書館デジタルコレクションで読みました(新潮文庫)。
翻訳は実にしっかりしてるけど、いささか古め?これしかないのが意外だった。郵便屋さんは何回も翻訳されてるのに。早川では『倍額保険』というタイトルすらA・A・フェアに取られちゃってる(Double or Quits 1941)。
延原謙さんの評伝を読んでて「映画に感心、原作も良し」とあったので、気になって、まずワイルダー映画『深夜の告白』を観てから、原作本を読みました。私は基本「本→映画」の順番なんですけどね。でもこの作品は映画を先に観た方がずっと良いと思う。
ケインさんは若い頃、保険のセールスをチョコっとやったことがあり(ただし契約は一本も取れなかったらしい。英Wiki情報)、また保険業界と関わりのあった父親から内情を聞いてたようだ。現実の「倍額保険」殺人事件(Albert Snyder殺し, 1927-03-20)をヒントにしている(英Wiki "Ruth Snyder" 愛人はコルセットのセールスマン)。
実は飛び級の秀才だったケインさん。パッションが重要要素な作品なのにクール、というのはそのせいか?インテリが野卑な暴力性に惹かれるってありがちかもね。
本作品にも唐突感があり、それは映画でも小説でも解消されなかった。情動があんまり伝わってこない。だから郵便屋さんでラフェルソンはああいうシーンをわざわざ撮ったのかなあ。でもまあエロは売れるからね。
まず映画(1944年9月6日米公開)からいくと、ディクタフォンが嬉しい。ロール型に注目。原作では「レコード(p133)」となっている。【14:32追記: ここら辺、全く勘違いだったので修正した。1920年代から蝋管が主流。1950年代ごろディスク型に移行した。原文は"record"、「記録(装置)」という意味で「ディスク型」を指しているわけではない。】
スタンウィック姐さんなので色々と強そう。男が守りたくなるタイプじゃないのがやや不満だけど観てると気にならなくなる。ロビンソンが非常に良い。煙草シーンが実に効果的なんだが、今の世界なら…と考えてしまった。映画はとても楽しめました。ボガートの映画が好きなら気にいるはずですよ。
さて原作だ。映画とどう違うのかな?と読み進めて、かなり面白い違いがある。書きっぷりは行間に意味を込めるタイプ。明示されないと分からない人には向かないかなあ。
本作にもフィリピン人が出てくる。戦間期ハードボイルドにはつきものなのか(『大いなる眠り』p185、ハメット1924年の短篇など)。作中年代は1933年の大晦日の洪水(Crescenta Valley floodで英Wikiに項目あり)が言及されており、今年もあるかなあ、という感じなので1934年か。ああ、意外と面白いインクエスト関係のネタが拾えた。へえ、なるほどね、と思いました。
トリビアは後で。原文で再読中。シンプルで力強い文体なので、難しい。
映画シナリオも翻訳されてるんだ… なら、そっちも読みたいなあ。

実際の犯罪ネタを調べるのにいつも便利なWebサイト『殺人博物館』に「ルース・スナイダー、ジャッド・グレイ」の項目があり、非常にわかりやすいです。なおケインは郵便屋さん(1934)の着想もこの事件から得たらしい(英Wikiの「郵便屋さん」に詳細あり)。

No.449 5点 ヴェルフラージュ殺人事件- ロイ・ヴィカーズ 2024/07/12 21:10
1950年出版。
ブッシュさんの作品を「ヴィカーズ迷宮課の長篇化」と言ってる手前、ご本尊の長篇はどんなだろうか、と思っていたら国会図書館デジタルコレクション(NDLdc)でオンラインで読めることがわかって、さっそく読んでみました。
残念ながら全然、迷宮課っぽくなかったのですが、冒頭のシチュエーションが良い。でもずっとぼんやりしていてキレがない。なんだかズルズル話が進みます。主人公も頭で勝負するタイプじゃないし。
軽スリラー、という感じで巻き込まれ型の物語。中盤、終盤の工夫は結構あるけど、盛り上がりに欠ける。まあでもなかなか面白く読めた。
原文無しなので、トリビアは省略。文中「審問」とか「査問」とか「検死」とあるのはインクエストのことだろうけど、用語が統一されてなくて気になった。

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弾十六さん
ひとこと
気になるトリヴィア中心です。ネタバレ大嫌いなので粗筋すらなるべく書かないようにしています。
採点基準は「趣好が似てる人に薦めるとしたら」で
10 殿堂入り(好きすぎて採点不能)
9 読まずに死ぬ...
好きな作家
ディクスン カー(カーター ディクスン)、E.S. ガードナー、アンソニー バーク...
採点傾向
平均点: 6.14点   採点数: 528件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(96)
A・A・フェア(29)
ジョン・ディクスン・カー(29)
カーター・ディクスン(19)
雑誌、年間ベスト、定期刊行物(19)
アガサ・クリスティー(18)
アントニイ・バークリー(13)
R・オースティン・フリーマン(12)
ダシール・ハメット(12)
ドロシー・L・セイヤーズ(12)