皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
[ クライム/倒叙 ] 一攫千金のウォリングフォード |
|||
---|---|---|---|
ジョージ・ランドルフ・チェスター | 出版月: 不明 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
No.1 | 7点 | 弾十六 | 2024/12/08 01:21 |
---|---|---|---|
1908年出版。Saturday Evening Postに断続的に掲載した短篇を連作長篇化したもの。なお本書表紙になってるJ.C.Leyendeckerの美麗イラストは土曜夕方ポスト誌1907-10-5の表紙絵。ポスト誌の表紙がカヴァー・ストーリーなのは結構珍しいのでは。この時代のポスト誌は無料公開(白黒だが)されているので、イラストも見ることが出来る。
本書の訳者解説には書誌情報が一切無いので補足。 第一話Getting Rich Quick(初出1907-10-5〜10-12、挿画F.R.Gruger)はp75下段中ごろ「一度もないんだぞ」まで。 第二話Profitable Benevolence(初出1907-12-7、挿絵Gustavus C.Widney)はp76上段最後「ちぇっ」から(間の1ページほどは連作をスムーズに繋ぐための付加。以下同様に幕間の詰め物をして短篇を長篇化している)。 第三話Selling a Patent(初出1908-1-18〜1-25、挿画F.R.Gruger)はp117下段最後、ドイツ人の小男登場から。 第四話A Traction Transaction(初出1908-2-8、挿絵Henry Raleigh)はp175下段中ごろ「バトルスバーグにとって、個人専用列車に」から。 第五話A Corner in Farmers(初出1908-2-29、挿絵Henry Raleigh)はp219上段後半「『ファウスト』の中の「兵士の合唱」を鳴らしながら」から。 第六話A Fortune in Smoke(初出1908-3-14、挿絵Henry Raleigh)はp256上段はじめ「政府は腐っている」から。 詐欺師の話は大好き。O・ヘンリーのジェフ・ピーターズものもここら辺の話ですね。第一話がちょっと面白い結末で、これはイケてる、と思いました。中で語られてる経済活動は、よくわからないのですが、主人公が言うように「合法的」かもしれないけどモラルは踏み外してますよね。まあ人々の欲につけ込んでるので、被害者たちもまっさらの白ではないんでしょうけど… 私は全然詳しくないんですけど、多分現代ではここで語られてる手法には規制がかかっていて、ウォリングフォードのやり口は非合法になってるのでは?そこら辺の解説があるともっと面白いでしょうね。 翻訳はいつもの平山先生。ところどころにポカあり物件だけど読んでるとすぐに気づくので英語がちょっと読める程度の人なら手元にGutenbergの原文を置いて参照すればストレスないかなあ。いつも言ってるように平山訳は概ね正確なので「欠陥翻訳」ではないですよ。良い編集者がいればなあ。翻訳なんて実の少ない時代にもかかわらず、こういう作品が日本語で読めるのは非常に貴重です。 以下トリビア。とは言え翻訳上の問題点への言及が多め。 作中現在は不詳。発表時の1907年〜1908年としておこう。 現在価値は米国消費者物価指数基準1908/2024(34.31倍)で$1=5165円。 p6 泥◆20世紀初頭なので舗装は不十分。そういうイメージ。 p6 ロッジの話に夢中になって(Absorbed in "lodge" talk)◆ここのロッジは後にも数回出てくるがフリーメイソン? p6 タクシー(Cab)◆時代的には馬車か。 p6 大柄な紳士、上品な紳士、(中略)見栄えがする紳士だが...(a large gentleman, a suave gentleman, a gentleman whose clothes not merely fit him but ...)◆ 翻訳は「紳士」の連打で落ち着かないが、原文もそうなっている p7 彼の目はいくつかはな高価な一流品ばかりだった(His eyes, however, had noted a few things: traveling suit, scarf pin, watch guard, ring, hatbox, suit case, bag, all expensive and of the finest grade)◆ 訳文に脱落あり p7 彼のポケットの中には百ドル以上は入っているだろうと予想した(entire capitalized worth was represented by the less than one hundred dollars he carried in his pocket)◆試訳「貨幣価値にしてせいぜい百ドルしか持っていなかったのだ」次の文もちょっとヘンテコ。「その上、ウォリングフォードには金を得られるアテも全く無かった」という感じ。 p8 やあ、J・プファス!(Hello, J. Rufus!)◆Pufusと見えたのか?その後も何故か「プファス」となっている。 p8 「ボストンから根こそぎ搾り取ったのか」(Boston squeezed dry?) 「化けの皮がはがれちまった」(Just threw the rind away)◆「ボストンでカラカラに絞られたのか?」「皮を剥かれただけだよ」という意味だろう p9 サクラみたいに見えるかい?(look like a come-on?)◆「いいカモ」だろう p9 マジックのサクラをやらせてやるよ(I'd try to make you bet on the location of the little pea)◆翻訳は前のサクラに引っ張られている。「初歩のペテンにもひっかかりそうだなあ」という意味では? the location of the little pea は三つのカップの下の豆の位置を当てるThree Shell Gameというポピュラーな街角イカサマ賭博 p12 色黒の相手(the dark one)◆「黒髪の」 p12 特にたちが悪いのがロックフォートというやつだ(The particular piece of Roquefort)◆ロックフォール・チーズへの言及だろう。cheese(嫌なやつ)のなかでも特上なやつ、という感じだろうか p13 ただの簿記係(a piker bookkeeper)◆「けちな経理係」としたい p13 ジョニー・ワイズ(Johnny Wise)◆単純に「小賢しい野郎」という意味かも p14 この紳士は自己紹介をするだろうか?(Would the gentleman give his name?)◆ニュアンスが掴めないが「お名前をいただけますか?」という感じか。ウォリングフォードというのは偽名らしい(訳者解説参照)。勘違い、ニュアンス違いは特に冒頭に多いのだが、キリがないので、ここら辺で打ち止め。 p28 アメリカの殉教者の名前… 『リ◯カ◯ン』マルの中に入る文字は何?(the name of this great American martyr, who was also a President and freed the slaves? L-NC-LN)◆訳文に脱落あり p119 オランダ人(a Dutchman)◆初登場時に地の文でドイツ人(German)と紹介されているので、ここは「ドイツ人」で良いだろう。Dutch=Deutsch、辞書では《古》となっている p120 カール・クルッグ(Carl Klug)◆Klugはドイツ語で「賢い」、発音は「クルーク」、英語発音なら「クラッグ」だろうか。ところでドイツ人という設定ならKarlのような気がするが… p121 「連中に一杯食わされましたかな?」"Did they sting you?" (...) [クルッグ氏は]相手が今の俗語に通じているということをうかがい知った(the other made quick note of the fact that the man was familiar with current slang)◆試訳「相手(ウォリングフォード)はこの男が流行語に通じていると気づいた」 stingはこの頃のスラングだったのですね p122 「暇つぶし」("being made fun of")◆「バカにしている」 p123 クルッグ氏は正しく評価をして答えた(agreed the other in a tone which conveyed a thoroughly proper appreciation of Mr. Klug's standing)◆試訳「相手はクルッグ氏の立場を十分に理解した口調で答えた」 p127 ブツを持って帰ってくるんだ(bring the goods back with you)◆試訳「結果を出せ」 p135 あいつは詐欺師だ(He is a swell)◆p132で同じジェンスが二回言っている「詐欺師(skinner)」とは違う語。p135すぐ前にジェンスが言っている「フェルドマイヤー博士… いい奴(swell)」と同じ語。なんでここでは「詐欺師」と訳してるのか p141 彼ら全員は生まれてこの方、利子といったら三、四パーセントで、五パーセントを超えることは滅多になかった(The savings of all these men throughout their lives had been increased at three, four and scarcely to exceed five per cent. rates)◆古き良き時代の利子… 今となっては羨ましいねえ… (まだ途中です…) |