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[ クライム/倒叙 ]
殺意
フランシス・アイルズ 出版月: 1953年01月 平均: 6.27点 書評数: 11件

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日本出版協同
1953年01月

中央公論社
1960年01月

東京創元社
1961年01月

中央公論社
1962年01月

東都書房
1962年01月

東京創元社
1971年10月

グーテンベルク21
2015年03月

No.11 7点 shimizu31 2020/03/08 16:24
名作とは思うが作り過ぎの不自然さも否めない

若い頃読んだ時はあまり印象に残らなかったが作者がアントニイ・バークリーと同一人物であるとは知らなかった。推理小説という形式自体へ疑問を持つバークリーが倒叙形式として本作をどういう意図で書いたのかという興味を持ちながら再読してみたが結果はあまり高い評価にはならなかった。

序盤は田舎町での男女のゴシップ話が中心で緊迫感が今一つであるが主人公の医者エドマンド・ビクリー博士が妻ジュリアへの殺意を抱くあたりからはサスペンスが増して第二の事件から裁判まで一気に読めた。ただしやはり主人公の女性に対するあまりに不実な性格は読んでいて不愉快であり全く感情移入ができなかった。最初はジュリアが悪役風であるが途中からは超然としながらも夫を信じ続ける姿に感銘を受けた。このあたりの仕掛けは上手いと思ったが知的で謎めいたマドレイン・クランミア、一途でいじらしいアイヴィ・リッジウェイを含め現実にこのような女性がいるであろうかという点ではやはり不自然である。主人公の揺れ動く心理を描くための脇役としては効果を挙げているが人物描写としてはわざとらしい感じは禁じえない。特にマドレインは前半と後半で違い過ぎて興ざめであった。

倒叙形式としては犯人側の動機や犯行計画は克明に描かれており主人公の恋情、憎悪、自信、不安といった感情の揺れ動きが十分に実感できて読み応えがあった。ただ全体的にとぼけた感じもあり深刻な悲劇という雰囲気はない。このへんは推理小説という形式への皮肉の表れなのかもしれない。

論理性については終盤で細菌に関する新事実が判明するまでは問題ないが、このあたりから詳細な説明が省略されており第二の事件の真相は結局どういうことだったのかよくわからなかった。額面通りに解釈すれば十分に立証されていると思うのだが「細菌学における彼の大失敗が、思いがけなく役に立った」(p352)とあり意味不明である。さらにこれが伏線となって最終頁のエピローグにつながるわけであるが、これはアリバイを考えるとあり得ない話であり蛇足としか思えなかった。

全体的には倒叙形式の名作として迫力に満ちておりその完成度も十分高いが面白くしようとしてやや作り過ぎている点がマイナスであろうか。

No.10 6点 測量ボ-イ 2018/01/08 13:52
今年初めての書評は久々の海外作品から。
御存知の方多いと思いますが、「クロイドン・・」と「伯母殺し」
と並ぶ海外三大倒叙ものと言われています。
ただ個人的には、倒叙ものというより心理サスペンスものとして
評価したい作品。
主人公のビクリ-博士は、今風にいえばゲス?あとビクリ-博士
にかかわる女性達も。魔性の女系の人がいますねえ(汗)。
不満点は最後に皮肉な結末が待っていますが、これがあまりに
唐突過ぎて、説明がなかったところでしょうか。

採点は、基礎点5点+三大倒叙作品に敬意表してプラス1点。

No.9 8点 クリスティ再読 2017/08/15 23:11
英語版のWikipedia とか見ると、倒叙は「Inverted Detective Story」で項目があって、フリーマンが創始者で「殺意」と「クロイドン」がサブジャンルとして確立した、という風に書いてあるが「伯母」は記述がない。「迷宮課」とかコロンボがあってもだよ...(manga の例として「デスノート」が載ってるのはちょっと困惑するが)
まあだから、いわゆる「三大倒叙」っていうのは乱歩周辺でできたローカルなランキングと思ってもう忘れた方がいいような気もするよ。それよりも、倒叙と犯罪心理小説は違うのか?という問いの方が重要だと思う。評者に言わせれば、倒叙はパズラーのサブジャンルであって、より広いミステリのサブジャンルではないんだな。本作バークリーだから、一筋縄ではいかない小説で、パズラーとは言い難い(法廷場面が若干攻防感があるが短い)が、犯罪心理小説か、というとそういうものでもないような気がする。
そりゃ主人公ビグリー博士が妻を殺し、それを告発しようとする愛人の夫+自分を振った女を、殺害しようとする...というプロットだから、犯人の心理を描いてない、とは言えないが、読んだ雰囲気はずっと皮肉で陽気なマンガ的な悪漢小説みたいなものだ。クリスティだと「動く指」とか「殺人は容易だ」に近い閉じたムラの中上流の「おつきあい」の世界だが、クリスティが描かない裏側の下半身事情を暴露しちゃってる。ホント呆れるほどの尻軽と俗物の世界である。小男で冴えない開業医で、恐妻の尻に敷かれたビグリー博士は、どうやらフェロモン男のようで愛人をとっかえひっかえしているわけだし、本作でヒロイン格のマドレインは二股をかけて男を操る自己愛の強い嘘つきで...と登場するキャラはどいつもこいつも碌でもない奴らである。逆にビグリー博士を虐める恐妻ジュリアはそれなりに一本筋が通った歪み方をしていて、いっそ気持ちがいいくらいのものだ。
というわけで、こういう碌でもない俗物どもの右往左往を皮肉な目で眺める小説としては、実に面白い。独自の心理、というよりも漫画になるような「典型」をうまく描いた小説のように感じる。そもそもバークリーだから、既存の枠にはまった作品なんて書く気がそもそもなかったんだろうね。

No.8 4点 斎藤警部 2015/06/24 06:08
バカ主人公にアホプロット。 読んでる間はそれなりだったが、これを名作と呼んで良いものか。 中途半端に白っぽいブラックユーモアのオブラートに包まれてるのが良くないのか? うむ、締まらんな! でも読んでる間は確かにそれなりだったんだ。 だから4点さ。

No.7 8点 ボナンザ 2014/04/08 16:15
私は好きです。この手のブラックユーモア。

No.6 5点 蟷螂の斧 2013/09/30 09:09
倒叙物の有名作ということで手に取りましたが、倒叙というより、犯罪心理小説(女性に翻弄される男のコメディタッチの物語)との感を持ちました。そういう意味では楽しめましたが、各登場人物に共感する点(感情移入)がなかったことが残念です。完全犯罪を狙うにしては、裁判で指摘されたように杜撰過ぎていましたね。そういう犯人像が作者の狙いかもしれませんが・・・。ただ、エピローグでの出来事については、何の根拠も提示されておらず、単に奇をてらったものとしか思えませんでしたので、その点マイナスとなりました。

No.5 5点 あびびび 2012/01/23 15:14
ビクリー博士という医者が、自分の女性関係を隠蔽、もしくは継続させるために行う殺人を綴った物語。それも医者という立場を利用して薬、細菌を利用する。

小柄で劣等感をパワーにする心理的葛藤部分が全体を占めているが、少しくどい気もした。ただ、完璧に見えた殺人計画も、最後は偶然に起こった事故で終結。悪は栄えず…か?

No.4 6点 mini 2011/09/23 10:01
明日24日発売予定の早川ミステリマガジン11月号の特集は”刑事コロンボに別れの挨拶を”
今年の夏前に逝去した俳優ピーター・フォークの追悼かな
私はミステリードラマ鑑賞には全く興味が無く、ドラマを鑑賞する時間が有ったら読書時間に充てたいし、したがって刑事コロンボにも興味が無い
しかし刑事コロンボと言うと出てくるのがジャンルとしての”倒叙”という語句だ
ようし私的に倒叙祭り週間だぁ!

私的倒叙祭り週間第1弾はこいつだ、3大倒叙作品の中で「殺意」は最も早く書かれている
さてところで”3大倒叙”という言葉はよく聞くが、実は調べても誰が選定したんだか由来がはっきりしねえんだよ
乱歩由来説とか、創元が自社文庫の宣伝文句に使ったとか、案外と定かじゃない
そこで疑問なのが、3大倒叙以外に語られるべき倒叙作品は存在しないのか?、もう一つは果たして「殺意」は倒叙なのか?
前者の疑問については近日中に私が答えを出す予定、ちょっと待っててね、今回は後者の疑問について
例の森事典で森英俊氏は、3大倒叙の内厳密な意味で倒叙と言えるのはクロフツ「クロイドン」のみで、他の2作は犯罪心理小説の一種に近いと主張していた
そう言えば倒叙の定義は、前半で犯行側が描かれ、後半で捜査側がそれを崩していくというパターンなわけだ
つまり後半に犯罪の隠蔽が覆されるシーンが描かれていても、それが終始犯人側からの視点な場合は狭い意味での倒叙とは言えないという事だな
たしかにそういう意味では「殺意」もR・ハル「伯母」も捜査側の視点に乏しい、狭い意味での倒叙という観点だけで見るなら「殺意」を評価は出来ない
しかし先入観に捕らわれず犯罪サスペンスの一種と割り切って読むと、正直言って「クロイドン」などより「殺意」の方が面白い、「クロイドン」は倒叙という観点で見てもつまらん
アイルズはバークリーの別名義だが、流石はバークリー、こうした犯罪心理小説を書いても捻くれた独特の感性は健在なのである

No.3 6点 りゅう 2011/04/19 21:11
 倒叙物の名作ですが、実際に犯行が行われるまでが長く、主人公ビクリー博士と彼をとりまく女性との色恋沙汰が延々と続くので、やや冗長に感じられました。ビクリー博士は完全犯罪が行えるような沈着冷静な人物ではなく、卑小な劣等感に悩み、その反動で女性を追い掛け回さずにはおられず、精神的な振れ幅の大きい、身勝手で倫理観に欠けた小人物です。本人は犯行の完全さに自信を持っていますが、私から見ても杜撰な犯行です。マドレインが法廷で証言した事項など、その過失にもっと早く気付くべきでしょう。最後のひねりがこの作品の評価されているところだと思いますが、読後すぐにはその意味が理解できませんでした。結局、「crime doesn't pay. 犯罪は割に合わない」と言うことでしょうか。作品の終わり方が、我孫子武丸氏の「殺伐にいたる病」に似ていると思いました(もちろん、この作品の方が先に書かれているのですが)。

 倒叙形式で、主人公の心理描写に重点を置いた作品ということから、ドストエフスキーの「罪と罰」を思い出しましたが、両作品の主人公の犯行後の様子は全く異なっています。「罪と罰」の主人公ラスコーリニコフは踏み越え理論に基づいて殺人を行うのですが、犯行後は踏み越えることが出来ずに苦悩します。一方、ビクリー博士は、利己的な理由で殺人を行うのですが、犯罪を実行することで自信と力を感じるようになり、良心の呵責に苦しむことはなく、裁判でも無罪判決を勝ち取ることだけを考えています。ビクリー博士には、殺人という行為に文学的な問題は存在していないのです。 

No.2 8点 E-BANKER 2010/07/15 22:58
「クロイドン発12時30分」、「伯母殺人事件」と並ぶ世界三大倒叙作品の1つ。
作者はアントニー・バークリーの変名です。
まずは、さすが「冠」に違わぬ名作という感想です。主人公の殺人に至る心理、心の動きがこちらに痛いほど伝わってきます。
前半は、殺人までの経緯が結構な長さで語られるため、ちょっと冗長な感じを受けますが、主人公が殺人を決意してからは一転、頁をめくる手が止まらなくなりました。
しかし、主人公ビクリー博士のキャラはよくできてますねぇ・・・とてもひと昔前の異国の人物とは思えません。ズルズルと犯罪に手を染めてしまう弱い性格が心に深くしみ込みました。
ラストの1頁も捻りが効いてます。

No.1 6点 ロビン 2008/11/01 17:12
三大倒叙物の一つ。
フランシス・アイルズ名義の作品。主人公が実際に殺人を行うまでが長く、下手な恋愛ものを読んでいるような感じで、ちょっと辛い。しかし、それも後の主人公のコンプレックスや妄想的な狂気をかきたてていくために必要なものだったなと納得。倒叙ものの醍醐味である心理描写に関しては、丁寧に綴られていて徐々に感情移入を誘われていった。しかし、もう一つの醍醐味であるサプライズには、読後すぐには意味がわからず混乱。


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