皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
[ 本格 ] リーヴェンワース事件 エベネッツィア・グライス刑事巡査 |
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A・K・グリーン | 出版月: 1963年01月 | 平均: 6.40点 | 書評数: 5件 |
東都書房 1963年01月 |
No.5 | 7点 | 弾十六 | 2024/08/30 18:22 |
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1878年出版。ザングウィル『ビッグ・ボウ』(1891)をやろうと準備していて、ふとヒューム『二輪馬車』(1886)の感想をまだ書いてないことに気づき、新訳をあらためて読んでいたら、この本への言及があって、そうそう国会図書館オンライン(NDLdc)で読めるかも?と探したら東都書房の世界推理小説大系は全巻オンラインで読めるようになっていた。若者にも手に入れやすい状況は実に良い!じゃあまず、ここから再スタート、と読み進めたら非常に面白い。翻訳も素晴らしく、実に読みやすい。
発端の発見からインクエストになだれ込み、紳士のプライドと探偵興味のせめぎ合いが可笑しくてスリリング。当時の人情が細やかな筆致で悠々と描かれる。歌舞伎の世界ですね。現代では時間がたっぷりある暇人の楽しみになっちゃうけど、昔のエンタメってゆっくりした時間の流れなんですよ。 読んでいてメースン『矢の家』(1924)のシチュエーションと似てると感じた。二人の美女に挟まれた駆け出し弁護士のドキドキハラハラ。英国人が資産家の娘さんを… というのも『二輪馬車』に出てきて(他にも当時のオルツィの短篇にはたくさん出てくる)当時の流行である。まあ趣旨はだいぶ違うのだけれど、英国貴族は没落しつつあったのだ。 強烈なボランティア・キャラが出てきて、ここに出てくるのはやりすぎだと思うけど(強引に好意につけ込んで上がり込むやり方!)実際にこんな施し好きの人もいたのかも。 ミステリ的にはまだ科学捜査が不十分と思われる時期にも関わらず、銃器の取り扱いがしっかりしていたり、インクエストが実にそれっぽくて満足。新聞が大人しすぎるのがちょっと不服(ここは『ビッグ・ボウ』との比較)。実際にこんな事件が発生してたら、もっとセンセーショナルに騒ぐんじゃないかなあ。 トリビアは後で気が向いたら。原文はGutenbergにもあります。 銃器関係だけは書いておきたい。 登場する銃器は「これは32号の弾でして通常スミス・アンド・ウェッソンの小型ピストルと共に売却されます(It is a No. 32 ball, usually sold with the small pistol made by Smith & Wesson)」で32口径かな?と思ったのですが、後段で「輪胴(チェンバー)は七つ」とあるので七連発の22口径S&WモデルNo.1ですね。当時の弾丸の箱を見てもNo.32とは書いてないので作者の勘違いなのかなあ。 |
No.4 | 6点 | 蟷螂の斧 | 2021/04/05 16:43 |
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1878年のアメリカ作品なので、トリックやロジックを期待するのは酷!?(笑)。「探偵小説」の基本形のような小説としてして読むのがベターですね。「動機」が肝となっている点を評価したいと思います。当時のベストセラーとなったとのこと。クリスティー女史の作品の中にも登場しているようです。 |
No.3 | 7点 | 人並由真 | 2020/06/13 19:22 |
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(ネタバレなし)
1876年3月4日。アメリカの大富豪でシナとの貿易で財を為した老人ホレイショ・リーヴェンワースが、自宅の豪邸で射殺される。「私」こと、富豪の顧問弁護士のひとりであるエヴァレット・レイモンド青年は、富豪の若き秘書ジェイムズ・トルーマン・ハーウェルの急報を受けて現場に赴き、そこで旧知である市警の捜査官エベネッツィア・グライス刑事巡査と対面した。子供のいない富豪リーヴェンワースは、互いに従姉妹同士の関係になる二人の姪で、ともに両親と死別したメェリイとエリナーを後見しながら同居。双方とも20代前半の大変な美人で、レイモンドはそのエリナーの方にほとんど一目惚れしてしまう。やがて事件の直前、屋敷に謎の? 訪問者があったこと、そして美人の小間使いハンナ・チェスターが行方をくらましていることが、明らかになってくるが……。 1878年のアメリカ作品。作品と作者の詳しい素性は本サイトの先のお二人のレビューを参照願うとして、唯一の完訳である「世界推理小説大系」版の中島河太郎の解説によると邦訳して原稿用紙1000枚前後の大作だそうである。 あと本作のメイン探偵エベネッツィア・グライスは、作者のレギュラー探偵。有名な邦訳短編では創元のアンソロジー『世界短編傑作集1』にも入っている(新版『世界推理短編傑作集1』にも収録の)『医師とその妻と時計』にも登場。 ここでは以上の二項を補足。 前述のとおり大部の長編クラシックミステリだが、古めの文調ながら丁寧な翻訳はけっこう平易で、二日間に分けて読み切ってしまった。特に前半、富豪が殺害されたあとのリーヴェンワース邸内での人間関係のシーソーゲームのありようは、良い意味で当時の大衆小説(はこんなもんだったんだろうな、という感じ)のテイスト全開でおもしろい。 また前述の中島河太郎も指摘しているが、本作はアマチュア(もしくはプロでも若手の)探偵の主人公が率先して先に動き、最終的にプロ(またはよりベテランの)探偵がトリを取る作劇パターン(『赤毛のレドメイン』とか『学校の殺人』とかもろもろ)の嚆矢(のひとつ?)でもあるようで、その辺の観点から見た際の物語の組み立て方なども、なかなか興味深かった。 さらに中盤から表に出てくる某キーパーソンの、お話が進むにつれての立ち位置の揺らぎ具合とか、まあとにかく読者を飽きさせないようにとの作者の筆遣いは強く感じられて、少なくともそういう意味では21世紀の今でも十分に楽しめた。 客観的に一歩引いてみるならは、行方不明になった女子ハンナの捜索具合とか、公僕の捜査陣の動きが中途半端に思えたりするところもあるのだが、その辺はまあまあギリギリ。多様な登場人物たちを操って各章の見せ場を設ける作者の筆先に、乗せられてしまう面もある。 それでも謎解きパズラーとしては定法の固まる前の時代の作品なのでかなり雑ではあり、ロジカルな推理の煌めきなどは希薄だが、個人的には真犯人の動機にかなり驚かされた。おっさんさんは横溝の諸作を想起されたそうで、それはそれでなんとなく分かるが、個人的にはシムノンのかの作品をズバリ思い出した。(こう書いても、どういう形でもまずネタバレにはならないと思うが。本作を読み、さらに当該作を実際に既読の人なら、なんとなく通じてもらえるかも?) そういう意味では、19世紀末にすでにこういう文芸がやはりミステリのなかにあったんだな、とスナオに感銘。真犯人の最後の叫びが心に残る。 この数年のなかで何冊か読んだ、19世紀以前のミステリ史を刻むクラシック系長編のなかでは、個人的には得点評価の方を減点評価よりも優先したくなるような一編。 スノビズムなのも自覚しつつ、こーゆーのはミステリファンの末席として嗜んでおきたい一作ではあります(笑)。 |
No.2 | 6点 | nukkam | 2016/02/28 01:53 |
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(ネタバレなしです) ミステリーの母とも評価される米国の女性作家アンナ・キャサリン・グリーン(1846-1935)の1878年発表の長編第1作で、当時のベストセラー作品だったそうです(映画化もされました)。時代の古さを感じさせるのが登場人物の芝居がかったような話し方で、大げさで回りくどい表現が鼻につき現代読者の鑑賞に堪えられるかは微妙です。しかし謎解きプロットは意外としっかりしていてミスリーディング手法もそれなりに効果的ですし、手掛かりは十分ではありませんがグライス刑事の推理に(強引ではありますが)心理分析が含まれていたのには驚きです。驚きといえば事件が起きてすぐに検死官や陪審員が現場に集まって審理が始まる展開にもびっくりです。当時の犯罪捜査の常道だったのでしょうか。 |
No.1 | 6点 | おっさん | 2011/12/17 19:46 |
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ポオ以降、ドイル以前の長編ミステリを読もうシリーズw
古典中の古典、ガボリオ『ルルージュ事件』(仏)とコリンズ『月長石』(英)を取り上げてきましたが、となると次はこれかな、と。“探偵小説の母”アンナ・カサリン(キャサリン)・グリーンのデビュー作『リーヴェンワース事件』(米)です。 使用テクストは、唯一の完訳(原百代訳)を収めた、東都書房の『世界推理小説大系』第6巻――蔵の中から引っ張り出してきました。 最初に読んだのは・・・いつだっけ? 正直、記憶に無いぞ。つまんなかったこと以外、忘れてるw ま、気を取り直して。 1878年――ドイルの『緋色の研究』に先立つこと10年――に刊行され、アメリカでベストセラーを記録した本作の内容は―― 富豪のリーヴェンワースが、自宅の書斎で、頭に銃弾を受け死亡。状況から、容疑者は、ほぼ屋内の人間にしぼられる。 被害者は、二人の若い姪、派手好きなメェリイと生真面目なエリナーを同居させており、遺産相続に関して伯父から排斥されていたエリナーに、不利な証拠が集中するが、いっぽう邸から一人のメイドが不可解な失踪をとげ、事件は複雑な様相を呈してくる。 逆境のエリナーに心惹かれた、青年弁護士レイモンド(被害者の顧問法律事務所に勤める、本篇の語り手)が、捜査担当のエベネッツア・グライス警部に協力して事件の調査に乗り出すと、新たに疑わしい、外部の人間が浮かんできて・・・ というのが、四部構成をなす本作の、第二部までの荒筋ですが、とりあえず面白いのは、プロットにひねりが利いている、ここまでかなあ。 最後まで犯人の正体を伏せ、現代的な本格長編に近付いている点が評価されもする本作ですが、逆にそのぶん、“本格”としての技術的な未熟さが目につくわけで。前述の“プロットのひねり”にしても、ミスリードが強引すぎる嫌いはあります(『ルルージュ事件』の、無理のないどんでん返しとの対比)。 このあとの、失踪したメイドの行方をめぐる第三部は、あからさまな引き延ばし。第四部の、真犯人のあぶり出しかたに、推理の要素は皆無。 あまりに独りよがりな犯行動機(これを、共感できるものにアレンジして必勝パターンとしたのが、本作を好んでいた横溝正史ならん)は、ある意味、現代のほうがピンとくるものがありますが、伏線が張られていないので説得力には欠けます。 一見、古風な『月長石』は、しかし再読すると、必要なことがきちんと書かれていたことに感心させられるのですが、本作の場合、無駄(しかも大仰)な文章が山ほどあるわりに、肝心なこと(推理のためのデータ等)が書かれていない事実を、読み返しでは再認識させられます。 印象的なのは―― 女性作者にしては、メロドラマの核となる女性キャラが木偶人形でしかないのに対して、探偵役のグライス警部が、妙に(?)キャラ立ちしています。『月長石』のカッフ部長刑事を参考にしたのかな? これでもう少し、ちゃんと推理してくれたらw あと、風俗的な興味では、あれですね、被害者の家で開かれる検死裁判(インクエスト)! 思わず目を疑いましたが、グリーン女史は刑事弁護士の娘で、法律関係の知識がバックグラウンドにあるようなので、そのへんに嘘はないでしょう。19世紀後半アメリカの、オールドファッションな法廷場面は、資料的に貴重かと思います。 採点は、歴史的価値を加味しても、ギリギリの6点。 これは復刊してもねえ・・・。 ミステリの発展史に関心がある向きは、古本を探して読むべし。 |