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[ サスペンス ]
首つり判事
ブルース・ハミルトン 出版月: 1959年07月 平均: 6.50点 書評数: 4件

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早川書店
1959年07月

早川書房
1984年06月

No.4 6点 弾十六 2024/12/31 22:44
1948年出版。国会図書館デジタルコレクションで読了。翻訳は井上一夫さん。いつものように素晴らしい翻訳。
これはねえ… プリウスミサイル暴走事故!加害者は死ね!というような作品なんですよ。誰も救われないのね。悪いことしてるところが十分に描かれてないので、なんだかなあ、と思いました。そのせいで最終パートがああなってるんでしょうけど全く逆効果。人並由真さんが書いてるような追記があるなら、読んでみたい。(私が入手したペイパーバッグHillman, New Yorkにはついてませんでした…)
途中までは、この先どうなるの?とすごく面白い。作者の説明を省略して謎を含んだ文章がとても良かった。
全体的にはややノスタルジック、1940年代後半に第二次大戦前を振り返るという感じなんです。
トリビアは来年まわしです。
(以上2024-12-31記載)
そういえば、本作は舞台化(1952)され、テレビ番組(1956 Climax!シリーズ)にもなった。いずれも主演はRaymond Massey、見たいなあ。このClimax!というTVシリーズ、ラインナップが面白そう。どうにかして観られませんかねえ。
以下トリビア。
作中年代はp7から1933〜1935あたりか?
p7 第二次大戦のはじまる数年前(some years before the outbreak of the Second World War)
p7 ブリッジ(bridge)… ゲームは、近ごろ流行りのコントラクト・ブリッジではなく、オークション・ブリッジを一人不足の三人でやっている(a three-handed variety of auction, not contract)◆ ニューヨークやロンドンのクラブでは1930年にコントラクト・ブリッジに切り替わった、という。
p7 ホイスト(whist)
p8 リットル・スラムの追加点で五十点(Fifty for little slam)
p8 下層中流階級のロンドン子なまり(a Cockney of the lower middle class)
p8 百点で五ポンド(at a fiver a hundred)◆ 賭け率
p8 賭博禁止条例(Gaming Act)◆ 1845年の英国法。賭けは法的契約としての強制力はない、とした。
p8 切り札ハートで七勝と宣言(one heart)◆13回の勝負なので7勝が最低でも必要。
p13 バス・オリヴァのビスケット(Bath Oliver biscuit)◆ バースで開業していたWilliam Oliver医師のレシピ。患者の消化を助けローカロリーで太らない食品として考案した。ここでは朝食前に食べている。
p13 ヴィテリウスやエラガバルス(a Vitelius or an Elagabalus)◆ こういう記述があると顔をイメージしやすい
p14 十六段の階段(sixteen steps)
p14 腎臓とベーコンの朝食(kidneys and bacon)
p16 アメリカも近ごろは不景気(Times are hard in the States now)
p16 ルンペン(bum)… 浮浪者(hobo)◆ 違いを詳しく説明
p17 一時間前に到着予定指定器が示していたように四十分遅れて(forty minutes late, as foreshadowed on the indicator an hour ago)◆ 鉄道駅の「発車標」のこと。正式名称を知りませんでした… 今では「電光掲示板」という語が普通。
p17 茶のステットソン帽の断ち方がここらでは珍しい型(the unusual cut of the brown Stetson hat)◆なので外国から来たのだろうと推測
p18 朝食付四シリング六ペンス(4/6 BED AND BREAKFAST)◆ ホテル代。全部大文字なのは看板の表示なのだろう。4/6はfour and six。
p19 半クラウン銀貨とフロリン銀貨(half-crown and florin)
p19 夕食(some supper)… ベーコン・エッグスとパンとチーズにお茶(eggs and bacon and bread and cheese, and a cup of tea)… 一シリング六ペンス(One and six)◆ ホテルのオプション。夕食をつけると1/6上乗せ
p19 紙幣の巻いたの(a roll of treasury notes)… 十七ポンド十シリング(seventeen pounds, ten shillings)◆ 英国小説では巻いて持ち運ぶ人が多い感じ。1ポンド札17枚と10シリング札1枚か。10シリング札がもっと多いかも。当時は£1 Series A (1st issue)サイズ151 x 84mmと10 Shilling Series A (1st issue)サイズ138 x 78mm。Bank of England 券は高額でサイズも大きく使うのが不便。
p20 三ペンスのチップ(with threepence)◆ ホテルの使用人へ
p22 ささやかながらも遅めの昼食をライオンズで(After a light and protracted lunch in a Lyons)
p22 映画館で大衆席の切符を(a cheap seat for the picture theatre)… 二回のてっぺんの席(high gallery)
p22 公衆電話のボックス(a telephone booth)◆駅構内の電話ブース
p22 AからKまでの電話帳(the Directory A to K)
p23 一月の第二週まで(the second week in January)◆ 裁判カレンダーのヒラリー期が始まるまで、ということ。
p23 表示板(the indicator)… 最後の集配は八時三十分◆ 郵便ポスト(pillar box)の表示
p24 半クラウンはおまけだ(here's a half a crown to go on with)◆ 「手付だ」という感じだろう。
p24 「…無理もないけどあの親父、無器用なガキだ(a clumsy little devil)とどなっていた。手紙は一つだけで、大きいやつだった」「そうか、それで宛名は?」◆ この謎めいた省略いっぱいの会話が後でちゃんと繋がる
(以上2025-01-01記載)
p24 ノーフォーク州の最北部… かなり平たい村で、高潮標識(high-water mark)より十二フィート以上高いものは一軒もない… 見捨てられた風車(a disused windmill)
p25 クリスマスを数日後に控えた(a few days before Christmas)
p25 ケスティヴン卿(Lord Kesteven)◆ 最近気になってる「卿」問題。LordとSirでは身分にかなりの差があるのに同じ「卿」を使うのはどうなん?という指摘。(日本の貴族体系にあてはめるとSirは士大夫クラスという) とりあえず「サー」はカタカナが良いのだろう。沢山翻訳小説を読んでたのに最近まで全然知らんかったのよ。(そういう上流層に興味が全くなかったのです…)
p26 ジョージ卿(Sir George)
p26 この州の警察長官(チーフ・コンスタブル) Chief Constable of the county◆ この名称だと「巡査長」だと思っちゃうよ。灰原が警察役職を間違えてガッツリ怒られてた事例(fromナニワ金融道)を思い出しました。
p28 ダイムラーから降りた運転手… 大型自動車(a chauffeur was waiting outside a Daimler limousine)◆ 色々種類あり。ピーター卿(こっちはLord)の愛車Double Sixの可能性もあるかな。
p31 一ポンド紙幣(a pound note)◆駅の荷物の預かり賃として。お釣りがあると思うが書かれていない。
p31 一週間三十シリング(thirty a week)… ちゃんとした朝食に、昼には温かい昼食を、四時には軽い夕食としてお茶、それに冷たい夕食(Full breakfast, hot dinner at midday, sup of tea at four, and cold supper)◆ cold supperとは火を使わない料理
p32 ジンジャー・エール(ginger ale)
p33 八時には家に帰して(she leaves at eight o'clock)◆『ビッグ・ボウ』でも(独身男なら)通いの家政婦は午後十時に家に帰すべし、とあった。不品行を疑われる、ということなのだろう。午後十時は結構遅いと思うけど…
p34 六ペンス(sixpence)◆ 簡単な頼みごとへのお礼
p35 時代もののフォードとしゃれたモリスの二人乗り(an aged Ford, a natty Morris two-seater)
p36 幽的(the ghost)◆ 会話に出てくるのでちょっと崩している、落語っぽい翻訳語。実にいいねえ
p37 オスボーン・ビスケット(Osborne biscuit)
p37 幽霊さん("the ghost")
p39 紳士に対するいささかの敬意として、エプロンをとって帽子をかぶった(paid tribute to Mr. XXX's gentry by removing her apron and putting on hat)◆ メイドの嗜み
p40 営業許可は、日曜日には午後二時に店を閉めるという条件(licensing regulation... should close at two on Sunday afternoon)
p40 サバス・ビール(Sabbath pint)
p43 パジャマが枕の下にきちんとたたんである(the pajamas were folded neatly under the pillow)◆ 宿のベッドメイク
p43 ぼたん刷毛(a shaving stick)◆ 髭剃り時に顔に石鹸を塗る刷毛と思ったのかなあ。試訳「剃刀の柄」
p43 アメリカ風の上下のつづいた下着(an American "union suit")◆ 英Wikiに項目あり。英国語ではcombinations。古臭くて田舎っぽくてコミカルな印象があるようだ。バークリー『毒チョコ』でも、僕はそんなの着たことがないよ!という発言があった。
p43 ゼネストのときに臨時警官をやったことがある(during the general strike he had enrolled himself as a special constable)
(以上2025-01-02追記)
p45 上流人士(gentry)
p45 クリスマス・イヴの月曜日(Monday morning, Christmas Eve)◆ 1934年が該当
p48 三ペンス半の切手代(a three-halfpenny stamp)◆ 井上先生でも間違えてる。halfpenny x 3で合計1ぺニー半。この額の切手が郵便用に売っていた。郵便料金1ペニー半は1924-1940の期間だと封書の最低額(重さ2オンスまで)
p50 名刺(card)
p52 食後の葡萄酒などというものには馴れていないので(Unaccustomed to after-dinner port)◆ 上流階級ではないので
p62 月に二ポンド六シリング(a sum of two and six a month)◆ ゴミ掃除の仕事の手当
p64 スティヴンソンの小説に出てくるような髪型とひげをたくわえて(with Stevensonian hair and mustache)
p65 印鑑つきの、血玉髄の石の入ったあっさりした金指輪(a signet ring, a plain affair of rolled gold with a bloodstone)◆ Wiki「ブラッドストーン」参照
p69 一シリングで庭の落葉掃きの仕事を(a shilling for the job of sweeping the garden free of leaves)◆ アルバイト的なもの
p69 バスの割引き切符に一シリング三ペンス(one and threepence on a cheap ticket)◆ cheap ticketの仕組みは不明だが面白いロンドン公共機関のチケットのサイトがあった(https://www.ltmuseum.co.uk/collections/stories/transport/fares-please-ticketing-londons-public-transport-1860)
(以上2025-01-03追記)
p79 ロンドンで一番派手な、広い読者層を持つ新聞の夕刊の遅版(the later edition of the most sensational and widely read of the London evening papers)◆ 「夕刊新聞の」 が正解。夕刊紙は朝刊紙と比べると下世話な印象。ソーンダイク博士も出鱈目ばかりと嫌っていた。
p84 一等車で来たくせに、チップはたったの三ペンス(Traveled first class and tipped thruppence)◆赤帽の文句
p87 存疑判決(訳註 犯罪が行われたと決定してしまわぬ評決) open virdict ◆ 「存疑評決」としたいところ。この訳註は不正確だが、意味は通じる。自殺、事故、他殺のいずれかとも決めかねる評決。
p92 審問廷にあてられた小さな教会の公会堂には、席が五十足らずしかない(room was found in the little church House for rather less than fifty)◆ 「審問廷」という訳語が良い。
p93 陪審員の一人が(a juryman)… 執拗な態度で、この証人に二、三質問させてもらいたいと検視官に申し出(in a nervous but insistent manner requested from the Coroner, permission to ask the witness a few questions)…検屍官はちょっと渋って(The Coroner, not without obvious reluctance)… うなずいた(gesture of assent)◆ 陪審員の質問権を認めるか否かは主催する検屍官の権限。この場面でも、後段で不適切な質問を諌めている。
p93 危っかしい鼻眼鏡をかけ(with insecure pince-nez)
p96 十二月二十一日の土曜日(Saturday, December 21st)◆ 該当は1935年、p45と異なるが、こちらは発言の一部で、p45は地の文なので、話者の記憶違いや言い間違いとも考えられる。
p100 全員一致ではなく、多数決でよいのですか?(can we return a majority verdict?)◆ 1926年の法令改正で審問廷の評決は全員一致でなくても良くなった。少数意見がnot more than twoという条件付き。Coroners (Amendment) Act 1926, section 16
(以上2025-01-09追記。続きます)

No.3 6点 ◇・・ 2024/10/08 21:04
痛烈な裁判批判を実にスマートな感覚の娯楽小説に仕立てている。
重苦しい救われない物語だが、社会正義をバックボーンとした筆力に惹きつけられる。巧妙なミスリードとどんでん返しが一層、興趣を盛り上げる。

No.2 6点 人並由真 2020/04/10 15:10
(ネタバレなし)
 第二次大戦が始まる数年前の英国。青年ハリイ・ゴズリングは、最高裁判事フランシス・ブリテンの判決によって、強盗殺人の罪科で死刑に処せられた。それから時が経ち、英国ノーフォーク州の田舎の村モクストンの老紳士ジョン・ウィロビーのもとに、アメリから来た謎の男ティールが訪ねてくる。ウィロビーはしばらく前から時々、村に滞在していたが、日頃から人付き合いを避け、一方で女癖が悪いと噂されていた。退屈な毎日を過ごすモクストンの住人たちは、近日中にウィロビーを訪問するといって村の宿「ソルジャー旅館」に宿泊したティールのことを「幽的(幽霊みたいな男)」と呼んで話の種にするが、いつのまにかそのティールは村から姿を消していた。やがて村では、ある事件が……。

 1948年の英国作品。しばらく前に「ミステリマガジン」でミステリ界の著名人を集めて「私のオールタイムポケミスベスト3」といった趣旨の企画を催した際に、誰かがマイベスト3の一本に選んでいた一冊。
 別の場でよさげな評判も聞いていたような気もするし、これはたぶん創元の旧クライムクラブ路線を思わせる、当時の新感覚作品で多かれ少なかれトリッキィな一編であろうと期待。昨夜、蔵書が見つかったので読んでみた。

 そうしたら、うーん、作品の形質に関してはものの見事にズバリ、旧クライムクラブ的な小粋な作品ではあった。ただしもちろん大ネタというか作品の主題は言えない(現時点でAmazonでひとつだけあるレビューは、本作を絶賛しながらもそのネタに思い切り触れてしまっているので注意だ)。
 あと、下のこうさんのレビューもちょっと危険(汗)。

 それで内容そのものは普通以上に十分面白かったのだが、私的にはかねてよりの期待が高すぎたためか、ぶっとんだものには行かなかったなあ、という贅沢な意味での物足りなさを覚えた。
 あとこの作品は最終的に(中略)ものなんだけど、その興趣を読み手に満喫させるためには少し筆が薄いように思えた。前述のAmazonのレビュー(くりかえすけれど、ネタバレされているので注意)でも別のある同趣向の具体的な作品名が比較例として挙げられているが、うん、正にその比較例の作品にはあった(中略)のような、物語の文芸を支える鮮烈なイメージ、シーンが希薄なのであった(個人的には、さらにこの思いが、某MWA賞の受賞作品にも及ぶ。この言い方ならまずネタバレにはならないだろう。うまくいけば全部読んでいる人には、通じるかもしれない?)。そういう弱点もあって、いまひとつこちらの心に響かない。
 そんな意味で、優秀作~傑作を期待したものの、佳作~秀作ランク。もちろん、悪い作品では決してないけれど。
 
 ちなみにこの作品、やはりどっかの場で読んだけれど、原書にはさらにもうひとつまた新たなエピローグが書き足された? 別バージョンがあるらしい。どうせならそっちがいつか翻訳されてから読もうかと一時期は待ちの構えでもいたが、「奇想天外の本棚」があっさりくたばってしまって、論創の旧作発掘もどうも緩慢な印象の昨今、そんな夢みたいな新訳いつ出るかわからないし、さっさと読了してしまった(笑・涙)。いや、クラシック発掘翻訳の関係者のみなさまのご苦労にはいつも敬意を覚えていますが(汗)。

 最後にこの作品のタイトルロール「首つり判事」とは、もちろん、物語の冒頭でハリイ青年に冷徹に極刑を下した判事フランシス・ブリテンのこと。しかしこの異名がプロローグで語られず、物語の半ばまで出てこない(ミステリの仕掛け的に特に意味があるわけでもない)。この辺は小説の演出がヘタだと思う。

No.1 8点 こう 2008/05/31 00:28
 無実の罪で殺された死刑囚が冒頭に登場し次の章で死刑にした判事の周りに浮浪者風の男が現れて、という構成の復讐物です。この浮浪者が誰か、ということについても事件の真相も当然最後に明かされますが論理的手がかりはなく本格作品ではありませんがスリラーとして楽しめました。
 作風としてバリンジャーの歯と爪やアルレーのわらの女を連想しました。(わらの女はそもそも復讐物ではないので少し違いますが)
 読者が論理的手がかりから真相を当てる読み物ではないですが一気に読ませるスリラーとしては非常に気に入りました。


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ブルース・ハミルトン
1959年07月
首つり判事
平均:6.50 / 書評数:4