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人並由真さん
平均点: 6.36点 書評数: 2349件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2349 4点 南極殺人事件- 竹谷正 2026/08/02 20:17
(ネタバレなし)
 その年の1月中旬。「私」こと観光会社ヤングアース社の若き添乗員・米内きみ子は他の同僚4名とともに、当社が契約した85人の乗客を世話しながら、フランス船籍の旅客船ソレアル号で南極ツァーに向かう。だがきみ子が頭を抱えるのは、彼女と面識のある大阪の老眼科医で、そして迷惑な性格のアマチュア探偵・武原先生がこの旅行に参加していることだった。やがて彼らは、周囲30m四方に何もない氷原で、怪異な密室殺人事件? に遭遇する。

 作者・竹谷正は、昭和8年に大阪出身。若い頃は旧「宝石」「別冊宝石」の新人賞にそれぞれ応募して二年連続入賞。同時入賞に多岐川恭がいて、当人の投稿作品は乱歩や正史の賞賛を得たという。その後は実家の医院を継いで創作を離れたが、後年には「幻影城」の新人賞に応募して再デビュー。泡坂、連城、栗本と年齢こそ違え同輩であり同誌の周辺組織「影の会」にも参加。竹本、田中(李家)たちとも兄貴分的な立場からの交流もしていたというから錚々たる経歴である。
 本作は2022年に80代末で逝去した作者が、本人の晩年の南極旅行の記録を踏まえながら2020年に書き下ろした作品。とはいえ版元が「編集工房ノア」!? 自費出版の同人本会社か? と思ったら、一応は印刷費も紙代も流通費も宣伝代も負担する出版社だそうである。ただし原稿料は一定部数が売れないかぎり著者に払わないようで、その意味では普通の出版社と自費出版の版元との中間的な組織か。

 作者の経歴を一顧し、さらに特殊なロケーションの中での密室殺人!? という大ネタを聞くと、これは最低でもソコソコ面白いだろう! と期待してしまうのだが……本当に、読み進めるのがシンドイ……。

 語り手主人公・きみ子の「ですます調」一人称文体はまあ狙った話法なんだろうだし、作者の分身である探偵役の武原のキャラを立てようとする努力は感じるのだが、その双方がエンターテイメントの読み物として効果を上げているかというとう~ん。特に後者は、探偵役をやる気があるのかないのか、隙あらば、別に聞きたくもない南極旅行中の感慨を延々と向こうのマイペースでくっちゃべる感じで、付き合わされるこちらは倦怠感がこみ上げてくる。

 級数が大き目の本文で300数十ページだから決して長い紙幅ではないが、途中で何回、作品からの求心力を見失い、本を閉じてネットサーフィンで遊んだか。
 
 で、ロジックも伏線も特になし(後者は、あれがそうだったかというのはある……かも)。
 かたや大氷原の密室殺人トリックはバカミス以前のもので、何よりそんなにうまく行くわけ……と思うが、まあしばらく記憶には残り続けるでしょう。

 世の中の人が『楽園』だの『「石球城」殺人事件』だの面白そうな作品を楽しんでるのと同じ時に、ナニを読んでるんだ、オレは、という気になったが、おかげさまでとにもかくにも最後まで完読した達成感だけはある。

 ただね、ミステリとしては全く評価できないんだけれど、良くも悪くもわがまま? で長編一冊仕上げてしまったその気概というか、作者の胆力は決してキライにはならない。ある意味でうらやましい実績であり成果ではあった。
 書き手の自己満足? まあいいじゃないですか(いや、よくないかもしれんけど・笑)。

No.2348 6点 私兵刑事- 佐野洋 2026/07/28 01:59
(ネタバレなし)
「私」こと、北海道警察に奉職する33歳の巡査部長・中島竜次郎。その中島は、同棲中の恋人で30歳の小出智子にひそかに借金の連帯保証人にされ、350万円の債務を押し付けられながら失踪された。そんな時、中島を援助したのは、53歳の実業家で「野宮物産」の社長である野宮市朗だった。野宮は以前に娘の比沙子が非行に走りかけた際に中島に救われた経緯があり、その恩を返すという意味で中島の負債を清算した。以降、中島は警察官の職務ぎりぎり、あるいはそれすらはみ出す形で野宮に細かい便宜をはかっていたが、そんな野宮の周辺で、動物たちの毒殺事件と脅迫らしい出来事が起きる。

 光文社版で読了。主人公の中島の視点で警察機構の組織図を覗きながら、半ば悪徳刑事もの(そこまではいかないが)めいた味わいも感じさせ、ストーリーの適度な錯綜ぶりで読ませる長編。
 主軸の謎となるのは、野宮周辺の不穏な動きにからむ秘密だが、そこにいくつかの脇筋の物語も絡み合ってくる。
 
 作劇の都合論か、ある案件に関して主人公の中島の血のめぐりがいささか緩慢なのはちょっとよろしくないが、多様な登場人物を器用に配置した筋立てには熟練作家らしいリーダビリティがあり、それなりに楽しめる。
 どうでもいいが、不倫した人妻は、事後に夕食などの買い物をして帰るのがよくあることだとか、興味深いトリヴィアも教えてもらった(笑)。
 ラストはミステリとしてそれなりのツイストを見せた上で、人間ドラマ的な趣のクロージングで締めくくられる。
 佐野洋の作品はそれなりに読んでいるつもりなので、今回のシメは……とか少し勝手に予想したが、結果は……ムニャムニャ。まあ、まとまりはいい。

 大人向けのエロさや当時の時代色などの猥雑さもフレーバーにした、ミステリとしての精度もそれなりに感じさせる佳作~秀作の下。

No.2347 7点 迷宮のチェスゲーム- アントニイ・プライス 2026/07/25 17:21
(ネタバレなし)
 第二次世界大戦終戦直後の1945年9月。英空軍大尉ジョン(ジョニー)・アテア・スティアフォース大尉が操縦する輸送機ダコタがイングランド東部のリンカンシャー周辺で行方を断った。同乗していた4人の乗員は機体の失踪寸前にパラシュートで脱出。やがて1970年の現在、朽ちた機体が干ばつした人造湖の湖底から見つかるが、なぜかその機体の周辺でソ連側の調査勢の姿が確認される。ダコタには一体、何が積まれ、その何が四半世紀も経った現在、ソ連側を動かすのか。英国国防省に所属するケンブリッジ出身の歴史学博士デイヴィッド・オードリーは、上司フレドリック卿の指示でこの案件の調査に乗り出すが。

 1970年の英国作品。同年度のCWAシルバー・ダガー賞受賞作品。
 デイヴィッド・オードリーをメインキャラクター、フレドリック卿をその上司とする英国国防省、およびその関係者たちの活動を描く群像劇サーガ(ル・カレのスマイリーものや、クレイグ・トーマスのケネス・オーブリーものとかと一緒だね)の第一弾。
 ネットで検索するとシリーズ作品は広義で20冊近く書かれ、日本でも5作以上が紹介されているはずだが、本サイトでも今まで登録がなく、2020年代の本邦ではほとんど忘れられた作家になっている。
 じゃあ読みましょ、ということでこのシリーズ初編から手に取ってみた。

 その一方で個人的に少し忙しい&興味がちょっとほかのことに移って、いまややミステリが縁遠いなか、なんでこんな渋い英国スリラーなんか読み始めちゃったのかな、オレは……などともはじめは一瞬だけ思ったが……いや、これがなかなか面白い。

 特に30台後半(もう少し上かも)のオードリーが、キーパーソンである故人スティアフォースの遺児である20代半ばの中学教師フェイスと出会い、事件に巻き込まれながら年の差カップルになっていくあたりの良い意味での通俗性は、なんかマイケル・シェーンとフィリス、あるいはナイジェル・ストレンジウェイズとジョージア辺りのなれそめを思わせる感じでとても良い。会話も予想外に多く、人物配置も明快なので全体のリーダビリティはかなり高い。
 ダコタが一体何を積んでいたのか? はお話の大きな興味で、さらにそこから始まるムニャムニャとかも当然ながらここでは言わないが、場面場面の細部を適度に書き込む話術のうまさがシンプルな宝探し話に程よい起伏感を感じさせ、全体的にエンターテイメントとしての出来は良い、と思う。20世紀現代史の知識はあった方がいい作品だが、原書&翻訳にはその辺のアカデミックな事項にも随時親切な注釈が設けられ、そういう意味でもサービス満点。
 Aクラスの下というか、一級作品というには、よくも悪くもやや敷居が低い感じだが、そこら辺もまあ悪い味わいではない。

 ちなみに作中でオードリーと親しい年輩の歴史学者が『指輪物語』読んだか? 面白いぞ! と勧めてきて、オードリー本人よりもヒロインのフェイスの方が先に夢中になる場面があり、興味深い。『指輪』は54~55年の作品だが、欧米でも60年代の末から再評価? の動きがあり、その流れが1972年からの日本での邦訳にも繋がっていった……という観測でいいのかしらね。

 ほかの邦訳作品もそのうちまた読んでみましょう。次はやっぱり、本作の数年後に今度は本命ゴールド・ダガー賞を取った『隠された栄光』あたりかな。そーいやこれも少年時代に買ったまま、家のどっかで眠っているような……(汗)。

No.2346 7点 暗闇からきた恐喝者- ハドリー・チェイス 2026/07/16 16:18
(ネタバレなし)
 1945年半ばのアメリカ。のちに第二次世界大戦の終盤となる時期。「わたし」こと、沖縄の前線で負傷して帰国して予備役となった23歳の青年ジェフ・ハリディは、母型の姓にちなんで「ジェフ・ゴードン」と名乗りながら、とある街のバーでピアニストとして生計を立てていた。そんなジェフはある夜、店内で麻薬中毒の暴漢に襲われる18歳の美少女リマ・マーシャルを成り行きから助ける。偶然にリマが並外れた美声の素人歌手であると知り、ハリウッドで働いた経験もあるジェフは、彼女のマネージメントとなって一山当てることを考えるが、実はリマ自身も麻薬中毒者だった。ジェフはリマを麻薬中毒の生活から回復させ、まともな歌手にしようとするが……。そして11年の時が流れる。

 1960年の英国作品。
 アマゾンの邦訳刊行のデータは不順標示だが、1970年3月6日の初版。評者は77年9月9日の第5版で読了。

 等身大というかいかにも小市民的な野心(ヤマッ気)を抱いた若い主人公が、ファム・ファタールのキーパーソン的な悪女と出会い、運命を狂わせていく。その顛末が歳月を経た二部構成の物語で語られる。
 お話は最大級のリーダビリティかつ、これ以上ないハイテンポで進み、約300ページの紙幅を3時間弱でいっきに読了。翻訳は小鷹信光で、当人は1969~70年にかけてチェイスを3冊訳しているが、これはその最後の長編で、カンを掴んできたのかとにかく読みやすい。悪女リマの啖呵の切り方のセリフ回しなど、ああ、いかにも……という感じでニヤリとさせられる。

 ツイストの多い、正にシーソーゲームの連続のような作品。なのであまり細かいことを言うのはここでは控えるが、大綱としては<誰が最後に笑うか>系の長編で、良い意味で安定した&ソコにちょっとだけ細部の文芸味を感じさせる、プラスアルファの面白さ。
 たぶんおそらく翻案されて、二十世紀のどっかで二時間ドラマになっていそう。確認はしていないが。
 
 職人作家チェイスの面白さのアベレージの高さを考えれば必ずしも傑出した作品ではないが、よく出来た1950~60年代エンターテインメントなのは間違いない。
(まあどっかで引っかかった人が、ソコを突っ込んで引きずり下ろす~低い評価でイイ気になるのもできそうな作品と言う気配もあるが・笑。)

 0.3点ほどオマケしてこの評点。

No.2345 6点 宇宙殺人- デイヴィッド・V・リード 2026/07/14 20:20
(ネタバレなし)
 地球人類が外宇宙に植民地惑星を増殖しつつあった時代。双子の太陽を持つ、鉱山業が主体の惑星ミラベロで、一種の隠者ながら大物の鉱山主スコット・バードムが失踪する事件が起きた。状況から別の鉱脈のオーナーの富豪で、そして前科のある青年バック(ブルース)・ワイリーにバードム殺人の嫌疑がかかる。ワイリーの妹の美人スウは、元は地球のインディアナ州出身でその後ニューヨークで活躍し、4ケ月前にミラベロに来たばかりの若手弁護士ターウィリガー・エイムズに兄の弁事と事件の調査を依頼した。エイムズは事件の周辺に、ミラベルの地元新聞紙「双子の太陽」発行人フランク・マーチスンの影を確認。そして失踪者と被疑者双方のロケットの運行記録などを検証するが、やがて事件は新たな展開を迎える。

 1944年5月号のSFパルプマガジン『Amazing Stories』に一挙掲載ののち、1954年にペーパーバックで書籍化されたアメリカ作品。SFミステリだが、邦訳書QTブックス(久保書店)版の訳者あとがきで翻訳者・川村哲郎が語る通り、科学性よりも未来の外宇宙植民地を舞台にした、西部劇風ミステリのバリエーション的な趣がある。それはそれで、よきかなよきかな。

 ネットやAIで調べると(情報の出典はかなり精査・再確認させたつもり)作者ディヴィッド・Ⅴ(ヴァーン)・リードは何作かのSFやミステリも著したかたわら、DCコミックスでバットマン系のシナリオ原作をかなり手掛けたライター。シーサイド・スクワットの主要メンバー、デッドショットも彼の創造したキャラクターらしい。
 青年弁護士探偵のエイムズは美人の依頼人スウとの淡いロマンス、窮地に陥った状況のなかで一度は酒に逃げかけるがそこから立ち直って事件に向かうあたりなど、良い意味で通俗的な好青年キャラクターでよい。ただし残念ながら本作はシリーズ化されず、これ一本でエイムズの主役編は終焉した模様。

 特殊な設定の一応はスペースSFだから、読者の常識的な推理が介入可能な余地はあまりなく、物語の叙述・作者側から提示されるこの作品世界内の情報をまとめていく流れ(その上でなら若干、読者側があれこれ推理と言うか仮説を立てることは可能)。
 テンポよくストーリーが運び、エイムズの調査の進むなかであれこれの起伏が生じる筋立てはなかなかよく出来ているとは思う。
 終盤は完全に法廷ミステリで、エイムズが調査した情報をもとに最終的に真犯人との対決となる。謎解きミステリとしては事件の構造に相応の特殊性があり、パズル要素は少ないものの、けっこう楽しめる。
(あと、脇役としてはエイムズに対して、法的な立場としては中立ながら、ある意味でもうけ役となるB・P・エイヴァリル老判事がイイね。)

 全体として、割と面白かった。良い意味で1940~1950年台のパルプマガジン系の読み物。邦訳のQTブックス(昭和42年7月1日発行の奥付)は大昔の少年時代に古本屋で偶然に見かけ、タイトルだけに惹かれて250円で買って何十年も寝かしてあったが、思い付きで読んでそれなりに楽しめた。
 まあ、あくまで宇宙を舞台にした西部劇風味のローカルタウンもののB級作品だが、それはそれでよろしい。

 評点は、いい意味でこの数字で。

No.2344 7点 リピート・パフォーマンス- ウィリアム・オファレル 2026/07/01 17:05
(ネタバレなし)
 1942年5月のニューヨーク。「おれ」こと、妻シーラに自殺され、さらに新婚の友人ピート・マコードに不義理を働いて友情を失った32歳の元役者バーニー・ペイジは身を持ち崩し、ホームレスとして安宿生活をしていた。そんなバーニーは、とうとう恋人ファーン・コステロまで、はずみで殺害。警察に追われて地下鉄の周辺で威嚇射撃を受けるが、その直後、彼はほぼ一年前の1941年5月21日の世界に戻っていた!? 未来のできごとを知るバーニーは、やがて迎える悲劇の運命を食い止めようと躍起になるが。

 1942年のアメリカ作品。
 
 おお! ウィリアム・オファレルだ!!
 オールタイム・マイベスト海外短編ミステリのひとつ『そのさきは-闇』のウィリアム・オファレルだ!!
 
 こんなのが1年半前に電子書籍で翻訳されてることを、今年の5月にようやく知った。
 電子書籍? てやんでぇ、こちとら江戸っ子でい、紙の本じゃなきゃ金輪際読まねえよ、バーロー、と言っていた威勢の良さは一瞬で忘れ、すぐに購入した。うん、だからそれしか無いから、電子書籍版を(呆)。
 まあ、実際に読んでみたら、思っていたよりも取り回しがいいな(笑)。スラスラ読める。

 で、内容だが、ずばり運命改変もののタイムワープが主題と言うか大設定で、キャラクターたちの造形のくっきりぶり、明快な人物配置、なども功を奏してスムーズに物語が流れる。主人公の視点から見て<絶対にこれだけは避けなければ>という、幹となる案件の危機感を読者も早々に共有できる。

 そんなメインプロットのかたわらで、主人公バーニーがいくつかの中小の運命改変を気に掛けていく筋立ても、王道ながらわかりやすい(さすがに旧作だけあって、やや物語の組み方が定型な感触もないではないが)。
 キングの大作『11/22/63』と同じテーマを、ニューヨークの演劇界周辺を舞台に、もっとコンデンスに語ったような感触というか。

 かたや、正直なところ、ミステリ味は希薄で、相応のサスペンス感はあるけれど、もちろん狭義のミステリとは別のところにあるお話。とはいえ小説の組み立て方が王道のようなちょっとだけ良い意味で破格なような感じで(詳しくは言えないが)、最後までテンション豊かに惹きつけられながらページをめくらさせる(電子書籍だからマウスで)。
 ラストの着地点はもちろんここでは言わないが。

 翻訳はところどころ、推敲が甘い? ところは見受けられるし、和訳として正確な翻訳かはわからないが、全体的に読みやすい。何よりとにかく、あのウィリアム・オファレルの未訳長編というとんでもないものを掘り出してくれた訳者さんの企画力には大感謝。ぜひともこれからも頑張ってください。


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『そのさきは-闇』邦訳書誌データ

「その向こうは -闇」 Over there ...Darkness (Sleuth Mystery Magazine 1958/10)
translator:島田三蔵(Shimada Sanzō) ミステリマガジン(Hayakawa's Mystery Magazine)1980/10 No.294
translator:島田三蔵(Shimada Sanzō) ハヤカワ・ミステリ文庫(Hayakawa Mystery bunko) editor:ビル・プロンジーニ(Bill Pronzini) 『エドガー賞全集』 The Edgar Winners
「そのさきは -闇」translator:宇野利泰(Uno Toshiyasu) 荒地出版社(Arechi ShuppanSha) editor:デイヴィド・C・クック(David C. Cook) 『戦後推理小説・ベスト15』 Best of the Best Detective Stories
「そのさきは -闇」translator:宇野利泰(Uno Toshiyasu) 荒地出版社(Arechi ShuppanSha) editor:デイヴィド・C・クック(David C. Cook) 『戦後推理小説・ベスト10』 Best Detective Stories of the Year
translator:直良和美(Naora Kazumi) 創元推理文庫(Sogen Mystery bunko) editor:小森収(Komori Osamu) 『短編ミステリの二百年04』
1959 Edgar Awards Best Short Story Winner

No.2343 6点 ゴーストなんかこわくない マックス・カーニイの事件簿- ロン・グーラート 2026/06/25 08:42
(ネタバレなし)
 20世紀後半のアメリカミステリ界に通じる人なら、ハードボイルド私立探偵小説やパルプマガジン、さらにはハメットの研究などでよく知られる作者ロン・グーラート。カーク船長ことウィリアム・シャトナーの著作の(ということになってる)SF長編なんかも、実際にはこの人の代作だったようである。

 そんなグーラートが書き続けた連作オカルト探偵もので、普段は広告代理店の主力スタッフとして働くアマチュアゴーストブレイカー(ゴーストハンターとほぼ同義)である青年マックス・カーニイの事件簿。
 本書では以下の作品が収録されている。原書は同じ構成で1971年に米国で発売。

①「待機ねがいます」(1962)
②「アーリー叔父さん」(62)
③「撮影所は大騒ぎ」(71)
④「人魚と浮気」(63)
⑤「カーニイ最後の事件」(65)
⑥「新築住宅の怪異」 (66)
⑦「あの世からきたガードマン」(68)
⑧「幻のダンス・パビリオン」(68)
⑨「姿なき妨害者」(70)

①は、なぜか祝祭日になると象に変身するカーニイの友人の話(吸血鬼が狼やコウモリになるのと同義で、人間が象に変身する)。なんでそんな珍妙な事態になるのかのホワイダニットが謎の興味の主体で、ソコがなかなか面白い。
②はテレビやラジオのメディアを通じ、<あの娘をお前の嫁にしろ>と延々としつこくアピールする亡霊譚。これも良い意味でばかばかしくって楽しい。
③撮影所で起きる広義のポルターガイスト現象。その背後にある事実は? これも良い。なおこの③は短編集の刊行にあわせて、②と④の事件の時勢の狭間のタイミングという設定で書かれた、新作オリジナル編らしい。
④カーニイの友人夫婦がともに不倫? しかも夫の方は人魚と浮気している? これもなかなか。
⑤身を固めることになったカーニイはオカルト探偵から足を洗おうかと考えるが……? イベント編。
⑥地霊ノームとの駆け引き譚。そのノームの人間臭いキャラクターがいい。
 ……とまあ、この辺までは割と楽しめたが、⑦~⑨が似たような霊界とのアクセスが主題みたいな感じで(厳密には⑨など相応に違うのだが)、ちょっとパワーダウン。読んでるこっちもテンションが下がっていった。
 もともとこういうバラエティ感に富んだオカルト事件簿ものが大好きで、さらに作者が良い意味でのヲタク作家グーラートなのでこれは楽しめると期待値がかなり高まっていたためか、ちょっと減点的に評価。

 いや、素で読めば決してつまらない作品ではない。ただしあんまり一気に読まないで、一作ごとに数日ずつ間を空けて楽しんだ方が良かったかもしれない。そういう傾向の作品だったという手応えも感じるので、その辺は反省(汗)。

No.2342 7点 松本清張編 犯罪機械- アンソロジー(国内編集者) 2026/06/25 07:53
(ネタバレなし)
 松本清張(名義貸し?)とEQ(ダネイ当人か?)の連携による、翻訳短編ミステリアンソロジー「海外推理傑作選」(全6巻)の最終巻。
 今回の収録作は以下の通り。

ミネルバは死なない / アーサー・ポージス
錠をかけろ / ドナルド・E・ウェストレイク
女の感覚 / リチャード・デミング
もうひとりのセールスマンの死 / ドナルド・ホニッグ
ぼくにぴったりの犯罪 / ハル・ドレスナー
金庫破り / ヘンリー・スレーサー
美女にご用心 / マイケル・ブレット
呪われた図書室 / オーガスト・デーレス
犯罪機械 / ジャック・リッチー

 表題作は新訳『クライム・マシン』で21世紀でのリッチー再評価の旗頭になった名作。
 とはいえ自分は少年時代に、たしか日本語版ヒッチコックマガジン(古本屋で入手したバックナンバー)で読んで以来の再読なので久々の再会感覚で楽しめた。ああ、そういうオチ(というか小技の数々)だったっけ。

・ポージス……密室内で評判の悪い金持ちが変死。その周囲には?
・ウェストレイク……夫婦二人の部屋に忍び込む謎の影!?
・デミング……不倫相手の男に、ある重大な環境上の変化が起きた人妻。その二人と、妻の夫との関係は?
・ドレスナー……泥棒家業に精を出す学生。
・ホニッグ(ホーニグ)……出張先のホテルで初老のセールスマンは、隣室に不審な物音を聞きとがめた。
・スレーサー(スレッサー)……広告代理店は絶対安全な金庫をPRするため、凄腕の元金庫破りに挑戦させる。
・ブレット……ホテル探偵は、怪しげな? 女性が接近する初老の富豪に警告の声をかけたが。
・デーレス(ダーレス)……おなじみ、そして本書内では完全に浮いているソーラー・ポンズもの。この世界にもカーナッキはいたんだっけ。
 
 ドレスナー(よく知らない作家)以外はなじみがあるメンツばっかりで、どれも65~78点くらいに楽しめた。粒揃い感は本草書のなかでも高い方なのではないか。
 これで少し前にブックオフでまとめて購入した端本の3冊は読了してしまった。残りの3冊のうち、どれかは書庫に眠っているかもしれない。そのうち、ひっかきまわしてくるか。

No.2341 5点 ネッシー殺人事件- 友成純一 2026/06/19 17:05
(ネタバレなし)
 東京都の一角。老舗の米屋の長男で一浪してW大の理学部に入学した19歳の戸田雷太は、 両親が多角経営するアパートの一室に入居。そこで高校時代の友人、田中良と鈴木高雄と一緒に酒盛りしていた。雷太は同じ大学の学友で、スコットランドのネス湖にともに出かけた総勢5人のメンバーのひとりでもある女子・麻生ちえ子を宴の場に招いている。だが気が付くと田中が血まみれの惨死体となっており、雷太はネス湖の周辺から持ち帰って来た<あるもの>が無くなっているのに気が付く。

 エログロ&変態猟奇趣味で有名で、広義のSF&ホラーの著作もかなり多い作者だが、その作風の凄まじさのせいか本サイトにもいまだ登録がない。作者ご本人は破天荒な作家人生を送った末に数年前に他界されたようですが。
 評者はだいぶ前に角川ホラー文庫の書き下ろし長編『幽霊屋敷』を読んで、そのあまりのグロさと後味の悪さにげんなりした記憶がある。ああ、思い出してしまった、あの作品。

 そんな作者が80年代の終盤から90年代の初めにかけて講談社ノベルスで出したのが、広義の怪獣をテーマにした「怪獣シリーズ」三部作。本作は『放射能獣ーX』『インカからの古代獣Ⅴ』に続くそのシリーズ三作目で最終編。一本一本はノンシリーズで世界観も繋がってないはず(初代ゴジラのほぼ80年代版バリエーションみたいな『X』は出てすぐ読んだけれど、伝奇オカルト要素がはいるみたいな『V』はいまだ未読だが~まあそのうち読んでみたくなってきた)。
 で、本作『ネッシー』の方は、巨大怪獣が猛威をふるう二作と差別化し、エイリアンの幼獣みたいなネッシー(最終的に数メートル程度)が都内で殺戮を繰り広げる内容。

 怪獣に食い殺される被害者のグロ描写はあるが、そのバイオレンスぶりにしてもこの作者にしてはまだおとなしい方のはずで、さらにエロ要素は皆無。著者のイカれた作品ばかりの著作群のなかでは、比較的地味な方であろう。

 というか、あっという間に怪獣騒ぎの事態は終着(ラストがどうなるのかはナイショだが)しちゃう筋立てで、むしろ中盤で時系列を戻して語られるスコットランドでのネス湖の現地探求のくだりの方が臨場感(さらに昭和のUMA学術研究的なロマン)があってオモシロイ。

 トータルとしてはよくも悪くも他愛ない、日常社会に等身大+αサイズの怪獣が出現したら、というシミュレーションSF。
 人死に続出の凄惨な事件ながら、主要人物たちの描写の方にうっすら泥臭いユーモア味はあるので、まあ口当たりはよい。評点はこんなもんでしょう。
 いくらでも伸びしろはあったのに、作者のやる気があまり感じられなかった作品といえるかも。
 他国の怪獣を国内に持ち込んでしまった主人公たちの責任意識の所在という隠れテーマは『ガメラ対バルゴン』をちょっと想起させないでもなかった。

No.2340 6点 昭和御前試合- 清水義範 2026/06/14 18:23
(ネタバレなし)
 光文社文庫版で読了。
①『昭和御前試合 』
②『怪盗光小僧 』
③『逆らうな』
④『振らずの辰』
⑤『識者の意見』
⑥『人材発見システム』
⑦『快楽インフェルノ』
……の7編を収録したSF中短編集。

 現状のAmazonの登録データにはない元版(収録内容は同一。CBS・ソニー出版/1981年5月)は作者の初めての本格的な著書(書き下ろしの短編集)だったらしい。もっともそれ以前から作者は、会社員の傍らでゴーストライターなどの文筆業の経験はあったようである。

①……のちの近未来(?)から、昭和文化を観測。各種競技勝負の複数のドキュメントを現実の史実とは異なるハチャメチャな情報で、しかしそれが真実であるという思い込みのもとに語った疑似現代史ものふうの歴史小説(的なギャグSF)。

②……あー、ネタは『ガス人間第一号』だね。ヒロインとの悲恋部分は割愛だけれど。偶発的に超人になった主人公が劇場犯罪にのめりこんでいくあたりとか、まんまの流れ。ラストは妙にシリアスでシビア。

③ある種の選民に支配される人類文明を描いた、ブラックユーモア的なディストピアもの。『デス・ノート』のキラが大手を振って歩いたら、こういう風になるのだろう。

④マージャン作品。テーマは妖怪「サトリ」への対抗もの。

⑤未来世界(20世紀以降の現代)から音声のみのアクセスで、仇討ちコメンテーターとして常時意見を求められるようになった大石内蔵助の話。ショートショート。

⑥人事テーマの短編SF。社会風刺ものと言えないこともない。

⑦セックスや出産が超合理化された未来での社会派ドラマ。お話にちょっとした構成上のギミック。

 就寝前&病院の待合室でのお供本。個人的には原典への思い入れ込みで②が良かったが、③のぶん投げたような作劇、⑤のナンセンスぶりもなかなか。①も部分的には対抗相手のマッチングネタで面白い。
 それなりに楽しかった。

No.2339 6点 緑のマント- ジョン・バカン 2026/06/11 21:29
(ネタバレなし)
 1915年11月。のちに第一次世界大戦と呼ばれる大戦の前線で負傷し、英国に戻っていた「私」ことリチャード(ディック)・ハネー少佐は、知己である外務省の要職ウォルター卿に呼び出される。用件は、少し前にウォルター卿のもとに、一人の諜報員が何やら中東情勢に関連する情報をもたらして死亡した。遺された紙片には「カスレディン」「キャンサー」「V・I」と3つのキーワードが記されている。実はその諜報員とはウォルター卿の実子ハリイ・プリヴァントであり、息子のもたらした情報が重要な意味があると信じる父の思いをハネーは認めた。ウォルター卿の依頼はトルコを含むドイツ陣営に潜入し、キーワードの意味を探り、その奥に潜む謀略を断つこと。ハネーは、戦友である「サンディ」ことスコットランド人のルドウイック・アーバスノット、そしてウォルター卿に紹介された歴戦のスパイ、アメリカ人の巨漢「ジョン・S」ことジョン・スキャントルベリイ・プレキロンとともにチームを組み、それぞれ偽名とニセの立場を詐称して敵陣営に潜入するが、彼らの前には長い長い冒険と危険の旅路が待っていた。

 1916年の英国作品。
『三十九(39)階段』(1915年)に続く、リチャード・ハネーシリーズの第二弾。
 第一作は何しろ創元文庫でも筆頭の薄さなので割と読まれるが、こっちはいつまで経っても本サイトの誰もレビューを書かない。
 という自分も、大昔に購入したはずの創元文庫が例によって家の中のどっかに行ってしまい、1~2年前に改めて筑摩の「世界ロマン文庫」版(訳者は同じ菊地光)を買い直した。それでこの数日、時間をかけて読む。
 
 で、内容だが、何しろ現実に毎日前線で戦死者が出ている大戦下での物語なので、あまり砕けた話にはならず、前作のようなどこかすっとぼけた英国調ドライユーモアは控えめ(まったく無いわけじゃなく、最後に明かされるタイトルロール「緑のマント」の含意なんか、完全にある種のサタイアだろうが)。
 というわけで<『三十九階段』パート2>的なお気楽さ? で読むことはまったく推奨できない一冊だが、まあこれはこれで、欧州諸国を基本は単独行動、のちに仲間と合流……のハネーのロードムービー的冒険譚としては決して悪い作品ではない。
 まあ第一次大戦時の連合国と同盟国の所属国家と陣営の関係性など最低限の近代史的な知識は最低限あった方がイイネ(西洋史に弱い自分は、その辺の予習を抜きに読み進めたので、いささかシンドく、そのために読了に数日かかった)。
 
 とはいえ前半からハネーのピンチ、敵役に追われながらの逃亡行のサスペンスとスリルなど十分だし、一難去ってまた一難……の物語の起伏感も、一世紀以上前の新古典ながら、こちらにページをめくらせる求心力はなかなかのもの。一部、助かり方が甘い場面もないではないが、まあその辺はクラシックスパイ冒険小説とすれば、こんなもんでしょ、とひいき目で許せる範疇だ。
 後半3分の1、くだんのキーワードにからむキーパーソンが登場するが、これがまたなかなかキャラが立った人物で、ああ、バカン、このキャラを描きたかったんだね、という感じも強い。その当該人物の周辺で、前述の「緑のマント」にちなむ意外な用法(……というべきだな?)があるのには、小説の貫録みたいなものを実感させられる。
 ハネーが任務中に再会した某キャラクターの山場での活躍~逆転に至る流れもサスペンス横溢で、先に「これはのちに、その彼から聞いた話であるが……」の形式でクライマックスを語り、とにかくこの物語は(ほぼ? 完全に?)ハッピーエンドに終わるんだよと予期させながら、最終パートを盛り上げていく作劇も安定感がある。
 某悪役キャラの凄絶な最期は、リアルでまだ大戦が続くなか、作者が英国の同胞の読者たちに読ませたかった一幕だろうねえ。
 
 つーわけで、それなりに歯応え(ある種のシンドさ)はあるものの、やはりオールタイムの英国冒険小説、スパイ小説に関心のあるミステリファンなら一度は読んでおいた方がいい歴史的な作品だとは思う。
 さて、ハネーものの次は大冊『三人の人質』か。こっちは読むのはいつになるのやら?

No.2338 6点 - 岩下俊作 2026/05/29 06:35
(ネタバレなし)
 サンマータイム制度(昭和27年4月に廃止)がまだ採用されていた昭和20年代。その年の9月10日から11日にかわる深夜。九州の小倉の海岸で、とある中年男の死体が見つかった。死体の頭部に縄が巻き付けられていたことから当初は絞殺かと思われたが、ほどなくして検死で死因は青酸カリによる毒死だと判明する。だが死体の身元は杳として判らなかった。所轄の磯部次郎太警部と唐原警部補は、他殺と、自殺後の別人による死体遺棄、その二つの可能性で捜査を進める。一方で検死に関わった私立病院の内科系の若手医学士・菊池とその同僚の精神病理学の医学士・山田はともに素人探偵の立場から事件を考察。医学士コンビは死体の周辺にあった文書の「金魚」のキーワード、そしてイニシャルらしき「A・B」の文字から推理を始めるが。

『富島松五郎伝』……といってもわかりにくいね。つまり映画『無法松の一生』の原作小説、その作者である岩下俊作が書いた(たぶん)唯一の長編推理小説。
 いや、私だって『富島松五郎伝』は読んでない。大昔の少年時代にテレビの映画劇場で、三船だか阪東妻三郎だかの映画版(ともに稲垣浩監督)のどっちか(たぶん前者だと思う)を観て、未亡人のヒロインに無器用な思慕を捧げる主人公の純情を、コドモ心ながらになんとなく理解してジーンとなった程度である。

 それでネットとかでも、ほとんどレビューがない本書。おそらくは作家・岩下俊作の著作のなかでは余技に属する作品なのではあろうが、誰も読まないでいつまでも放っておいていいの? という気分で昨夜からページをめくり始め、紙幅のほぼ半分ずつ、二日かけて読了した。今回は、1958年の五月書房の箱入りハードカバー(たぶん元版)で読んだ。そーいや、この本、死んだ父の蔵書にあったな。どっか行ってしまったから、ネットで古書を安く買ったが。

 物語の大筋はプロの警察勢の捜査と、素人探偵コンビの調査を織り交ぜながらよくいえば丁寧に、悪く? 言えば地味に渋く進め、読み手としてはその与えられる情報の軌跡に黙って付き合っていくタイプの読書。当然、事件容疑者や関係者らしき対象も際限なく拡張し、読者側が謎解きの推理を楽しむ性格の作品とはあまり言えない。
 それでも戦後からまだ時間の経たない昭和20年代の九州の叙述にはそれなりに独特な興趣と風格があり、ローカル描写だけでもソコソコ楽しめる。CSで話術のうまい白黒の旧作邦画を観ているような面白さというか。
(個人的には、小学生時代に社会科の教科書で読んだ八幡製鉄所の臨場感ある描写~戦前の4万人近い住人を抱えた工業都市~が素で興味深かった。)

 一方で作者も、さすがにミステリ作法の勘所をツメきってはいないため、かなり紙幅を費やした割に読者はあまり意味のある情報をもらえない、という面もある。それでも中盤で、ああ、これがキーパーソンだな、という人物が物語の表に出てきてからは、作者のプランニングが動き出す感じで、筋運びに一応の勢いはかかるが。
 あと当然ながら、登場人物は多いよ。名前があるキャラクターだけで60~70人に及ぶ。
  
 とはいえ作者もミステリ的なトリックは中小、いくつか用意してあり、それぞれ別個の国産ミステリの名作を連想させるものではあるが、それらからさらに少しひねってあるのは評価できるだろう。まあそこを目当てに読むようなトリッキィなパズラーでは決してないが。

 最終的には謎解きミステリ、というよりは事件の奧にある人間ドラマの叙述に重きが置かれてしまった傾向の作品だが、これはまぁ、作者の素性(あくまでこっちもネットのデータで知ってるだけだが)からしてそうなるだろうな、という手応え。それ自体をそういうものだろう、と了解するなら、まぁ決して悪い出来ではない。たぶん。
 
 読んで面白かったか、良かったか、といえば、イヤミやあおりでなく、まあ肯定的にソコソコ。しかしそれ以上に、昭和ミステリファンとして、読んだだけでちょっと自慢したくなるような、そんな、一見、敷居の高そうな? 作品で一冊であった。

No.2337 6点 奇妙な殺し屋- ハンプトン・ストーン 2026/05/27 12:42
(ネタバレなし)
「わたし」ことニューヨークの地方検事補のマックは、同僚(ただし別チーム)の地方検事補ジェレミア・ザビエル・ギブソン(ギビー)から、彼の懐中に怪文書が投げ込まれていたことを聞かされた。その内容は、骨折技で殺人を行なう犯罪者が試験的に他者を傷つけてみたい、といった思いを述懐する主旨の文面だった。当惑するギビーとマックだが、やがてギビーが常用するタクシー運転手で25歳の若者ハーブ・バクスター(ハーバート・クインシー・バクスター)が仕事中に襲われ、殴打されて失神中に手首の骨を折られるという事件が生じた。ハーブの証言から、襲撃者が特徴的なヒゲのある男だと認めたギビーとマックは、先の怪文書との関連を考えて捜査に乗り出す。やがて彼らは某所で不審な人物を見つけた。

 1967年のアメリカ作品。
 シリーズ探偵である地方検事補ジェレミア・X・ギブソンものの長編第15弾。
 シリーズは1948年から開幕のようで、1972年に本書が邦訳されるまで、すでにそれなりに本国では人気と評価を集めていたと思われるが、結局、本シリーズの日本への紹介はこの作品一冊に留まった(ちなみに本書は、ペーパーバックでシリーズ全体がまとめて本国でリプリントされた際に看板作品になった一編だったようだ)。

 作者ハンプトン・ストーンは、旧クライム・クラブでも『警官殺し』の邦訳がある警察小説シリーズ「シュミット警視シリーズ」の著者ジョージ・バグビイの別名。バグビイには密室殺人ものの未訳のパズラー『リング・アラウンド・ザ・マーダー』(1936年)という作品もあり、鮎川哲也の短編『矛盾する足跡』の中で話題にされている。いずれにしろ、日本ではマイナーで不遇な作家だ。

 本作の邦題は「殺し屋」を謳うが、怪文書の内容は殺人の常習性は感じさせるものの、職業的殺人者というニュアンスは薄く、ちょっと邦訳出版のタイトリングにしくじった感もある。
 いずれにしろレギュラー探偵のポケットに怪文書が巻き込まれて開幕する物語の掴みはそれなりの外連味があって、ちょっと面白い。
 殺人らしい殺人はなかなか起きず、前半~中盤の現実的な犯罪は青年タクシードライバーで美人の奧さんサリーがいるハーブの傷害事件のみ。渋いといえば渋い地味な展開だが、怪しい? ヒゲ男のキャラクターがなかなか立っていて、主人公コンビとの関りで結構飽きさせない。

 終盤で明らかになる事件の構造は意外といえば意外で、なるほどとも思う一方、外から犯人の行動の軌跡を考えるとかけた労力のコストが悪かったんじゃないかな、という気分も生じないでもない。まあギリギリか。マンハッタンの中流家庭や、事件の捜査の上で関わってくる図書館のロケーションやタクシー業界、それらもろもろの風俗描写は臨場感があってそれなりに楽しめた。佳作の中くらいか。

No.2336 5点 デビルズ・アイランド- 西村寿行 2026/05/26 05:55
(ネタバレなし)
 瀬戸内海にある、高齢者ばかり約40人が暮らす小島「黒島」で、ある夜、85歳の老婆・米倉カズミが変死を遂げる。老女は周辺に何の高所も無い場所で、50メートル前後の高さから墜落して惨死していた。ついで88歳の老婆・小脇ノブ代が、6メートルの高さの巨木での早贄のような姿の惨死体として発見された。香川県警と県知事、さらには中央からの調査隊と司法機関が動く中、島では30年前の怪事件に関連するらしい巨大な牡牛が、発光体の変幻として出現。人類はこの島を「デビルズ・アイランド」と呼び、何らかの未知のエネルギーが意志を持っている可能性を視野に入れるが。

 角川書店創立50周年特別作品。雑誌「小説王」1994年9月号から翌年1月号に連載ののち、「野性時代」95年4~7月号に後半が掲載された。

 新本格によくある序盤の謎<不可思議な墜落死>から開幕するが、別段トリッキィなパズラー作品という訳ではない。
(たぶん一部の謎というか怪死の事情&真相は、最後まで読んでもよくわからんよ。)

 おそらく作者はガイア理論あたりに基づくホラー風SFを想定しながら本作を書いたんだろうが、超自然現象に対して人類側が本腰を入れて解明? にかかってるかと思えば、中盤でこりゃ手に負えない、と舞台の島を事実上の放置。さらに上陸禁止の規制を緩やかにして、勝手に入ってきた人間を犠牲にいろんな臨床例の科学データをとっていこうと、中央政府がとんでもないことを考えはじめる。
 で、そこからはいつものエロでバイオレンスの寿行作品……にまとまるかと思いきや、結局は、割とぶっとんだ方向に雪崩れ込んでいく。
 
 面白いか面白くないか、と言われても正直困る内容で、とにかく妙なものを最後まで読まされた、としか返答のしようがない。まあこの奇妙な味わいでどっかトリップした感覚もあるので、そういう意味では一応はオモシロかったのかも!?
 後期~晩年の寿行作品なら、まだまだこの手のものに出会いそうである。

No.2335 7点 扉の影に誰かいる- ジャック・ロベール 2026/05/25 19:07
(ネタバレなし)
 1967年のフランスの港町ディエップ。そこに住む「私」こと42歳の小説家ルイス(ルイ)・ジョフロワは、パリの兄に会いに行くという31歳の美貌の妻ビュスを見送る。だがルイは、ビュスが実はパリにいる愛人に会いに行くことをひそかに確信していた。妻が去った直後、自宅の前に、30歳代の記憶を失ったと称する青年が来訪。彼を自宅内に迎え入れたルイは、青年を「ユリス」(ユリシーズに由来)と呼び、ある計画を講じる。

 1967年のフランス作品。
 物語の舞台を英国に、主人公の職業を作家から精神科医に変更してアンソニー・パーキンスとチャールズ・ブロンソンの主演でフランスで製作された劇場映画(71年)の原作。小説は映画の日本公開に合わせて同71年に翻訳された。

 怪しく危なげなタイトルが昔から気になっていた作品だが、いまだ映画は観ていない。
 じゃあ先に原作を読もうと思って、古書で帯付きの状態のいい一冊を手頃な値段で購入。昨夜読んだ。

 本文一段組で級数も大きめの活字で200ページ。標準的な、あるいは気持ち長めのフランスミステリだが、意外に仕掛けの手数が多い、トリッキィな作品。

 腹に一物抱えながら浮気妻(?)を送り出した中年作家の主人公が、怪しげな記憶喪失の青年を自宅に迎え入れる前半の時点から物語の掴みは確かだが、さらに中盤以降も、一人称の話術の巧みさで読者を乗せていく、そんなドライブ感にも並々ならぬものがある(なお、読者視点で不審を覚える箇所がたぶんあると思うが、そこは……ムニャムニャ)。
 で、そんな物語の流れに付き合っていくと……! ! ? ? !

 いわゆる「二度読み必至」な内容で、けっこうキワドイ(アンフェア気味? な)叙述もあるとも感じたけれど、本作はそこが楽しみどころなので、文句を言うのもヤボではあろう。
 あとはそれぞれの読者がどこまでオッケーで、どこからダメか、だね。
 自分はトータルで、なかなかいいんじゃないの、と思った方。
 まあ(中略)という、話の構造的な弱点はあるかもしれないが。

 古書店とかで安く見かけ、あらすじを読んで面白そうかな? と思ったら、試しに一度読んでみてください。

No.2334 6点 悪人志願- 大下宇陀児 2026/05/24 07:24
(ネタバレなし)
 入試の難関率で名高い「蛍雪学院」の学院長・大原省造は、自宅の呼び鈴を押す子供たちの連日の悪戯に悩まされ、転居を考えていた。それと前後して大原は、市内の人工温泉施設で不良少年の一派と出会い、その挙動にひとこと注意を入れる。だが……。

 作者の戦後10番目の長編で、昭和34年12月に桃源社から企画ものの叢書「書下ろし推理小説全集」の一冊(第2巻)として刊行された作品。

 前書きや化粧箱の作者のことばで<テーマは非行少年><謎やトリックはほとんどない>と明言しており、本書の2年前に初訳が出たグレアム・グリーンの『ブライトン・ロック(別題『不良少年』)』あたりに影響を受けたんじゃないの? と邪推する。
 同時に作者は<倒叙型に入るかもしれないが、むしろ犯罪小説>と言った方がいいとも述べており、まさにそのまんま。
 
 社会派ミステリ的に<こんなワルな子供になったのも、みんな大人や世の中が悪いのよ>的なメッセージも読み取れなくもないが、まああまり本腰を入れているとは思えず、さらに前述『ブライトン・ロック』のような神学にからめた格調の高さめいたものもないが、それでも登場人物の配置や細かい機微、微妙な物語の起伏の妙……などなどで、ソコソコ面白く読ませてしまうのは、さすがの職人芸。まあブンガクっぽい通俗小説、だとは思うけれど。
 
 元版(これしか無いか?)を古書市で330円で購入して、巻末に短編『醜聞』が併録されていた。そっちは動機の理屈付けに妙な食感があり、乱歩のセレクトする海外短編「奇妙な味」系のテリトリーにちょっと近いかもしれない。

 評点は0.3点ほどオマケしてこの数字で。

No.2333 6点 乾いた季節- 三好徹 2026/05/22 05:31
(ネタバレなし)
「東洋新聞」社会部の遊軍記者で33歳の門田は、近づく選挙戦を前に各々の政治運動をする立候補者たちの間を記事ネタ探しに飛び回る。そんななか、彼は60歳の不動産業者で民友党の立候補者・堀越栄造の周辺にただならぬ気配を認めた。やがて堀越の若い妻・29歳の美也子が何者かに誘拐されたらしいと知った門田は、さらなる調査を進めるが、警察側は報道の自粛を求めた。そんななか、事態はさらに次の局面にと。

 事情通のミステリファンには有名だと思うが、劇中のアイデアのひとつが同時代の別作品と類似性があったため物言いがついた長編。暗合の事実は本当に偶然だったらしいが。その辺の事情もあって、作者は元版(昭和37年12月 河出書房新社)だけで封印した作品のようである。その後、文庫などでの再刊もされていない。

 で、十年くらい前にヤフオクで購入した本が乱丁(同じ折が重複して製本されていた)だったため、出品者から返金してもらい、さらに返送不要と言われたので、そのキズ本が手元にあった。そのうちその欠損していた頁の正規の分だけ、国会図書館経由などのサービスでデジタルコピーでもしてこようか? とずっと思いながら放っておいてあった(汗)。
 そしたら、今から一年ほど前の古書市でマトモなのが550円で見つかったので、そっちを再購入。で、今夜ようやく読んだ。

 一段組、大き目の活字で全部で250ページ弱。しかも三好徹の簡素な文体だからサクサク読める。
 で、中味の方は、終盤までなかなか事件の実態が見えず、どーなるんだ、これ? と思っていたら、かなり強引な手際を2つ3つ使ってまとめに入った。トリッキィといえばトリッキィな作品ではあるが、正直あまりこなれはよくなく、しかもつまりソレとソレの同時多発? って偶然、あるいはそこから始まった? も明らかにならないまま主要人物が(中略)してしまったり、やや、う~ん……、な出来。
 アイデアそのものにはもっと使い方次第で伸びしろがあったのに、作者の練り込みが不十分で秀作になりそこねた作品、という感じ。
 逆に言えば得点要素だけ拾えば、なんとなく良作のように思えなくもないのだが。

 評点はそれなりにオマケしてこの数字で。
 5点と割り切るにはちょっとキツイのは確か、ではある。 

No.2332 7点 薄氷の沼- 笹沢左保 2026/05/21 04:06
(ネタバレなし)
 その年の8月。32歳の美貌の人妻・大花麻奈加は3月からひそかな不倫をしていたが、その事実を37歳のコンピューターエンジニアである夫・公二郎に気取られ、浮気妻として折檻を受けた。公二郎への怒りに燃える真奈加は、愛人である野球選手で29歳の三井田光司の前で、夫への殺意を口にする。やがて夫からの二度目の加虐を受けて憎悪をたぎらせる真奈加だが、そんな彼女の前にひとりの男がある提案を持ちかける。

 光文社文庫版で読了。主題は(中略)もので、それは裏表紙にも書かれているが、ここではナイショ。

 例によってのレディスコミック調・笹沢エロロマンミステリで、2時間弱で一気読みできる内容なのだが、なんだろう……シンプルなプロット、たぶん大ネタを途中で察する人も多いんじゃないか? とも思うものの、妙に面白かった(笑)。
 たぶんこの手の趣向ものなら、こういうヒネリのある作品が読みたい、と思っていた以前からのこちらのミステリファン的な想念にある程度応えてくれていたから。しかもその上で、一応は<さらにまた別のサプライズ>の箇所に着地したから、だと思う。
 
 解説(文芸評論家の清原康正という人~すみません、今回初めて、お名前を知った)にもちょっと書かれているが、作劇の構造上、少しだけ違和感があるポイントがあり、終盤でそれがちゃんと意味を持って来るあたりもいい。ラストの余韻もなかなか。

 甘い、とは自分でも思いながら、0.5点オマケして、この評点で。
(まあ、なんで自分がこの作品に好意的なのかは、なんとなく自己分析できる? ような気もする。あえて他人には言わないけれど。)

No.2331 6点 地獄の椅子- ヘンリイ・ケイン 2026/05/20 09:51
(ネタバレなし)
 その年の10月のその夜。「私」こと36歳の私立探偵で、元敏腕刑事のフィリップ・スコフォールとの共同経営でNYに事務所を構えるピート・チェンバースは、顔なじみの賭博業界の大物ヴィッギィ・オシエア(ジョン・J・オシェア)に呼び出された。チェンバースが赴くとそこには男性2人、女性一人の死体があり、オシェアは無実を主張。彼はチェンバースに、今回の件の発端となっ貴重品の話題を切り出した。それはナチスの秘密財産だった、そして欧州を介してNYに搬入された、さる高価な壁掛けの存在だった。

 1948年のアメリカ作品。『マーティニと殺人を(ドライ・ジンと殺人を)』に続くチェンバースものの長編第二弾。日本ではこちらの方が先に翻訳された(ポケミスの初版は昭和30年12月)。

 少年時代に古書で購入して何十年も眠らせておいた一冊だが、気が向いて引っ張り出して読む(あーあ、裏表紙が取れてしまった……涙)。

 大都会を舞台にした宝探しテーマの私立探偵小説ということで、当然『マルタの鷹』やらジョン・エヴァンズの『悪魔の栄光』あたりが連想されるが、たぶんその辺りとはちょっと~相応に毛色が違うだろう(なんで無責任な言い方をするかというと、後者はやはり少年時代から思い入れのある一作ながら、いまだにまともに読んでないから・汗……ただし大筋は、小鷹信光のあまりにあまりに詳細なダイジェスト紹介&評論で知ってはいる)。

 だいたいマクガフィンの壁掛けの扱いからしてちょっと変化球で、この辺は一応黙っておくが、話の焦点はむしろお宝の搬入にからんだ暗黒街の顔役やその周辺の面々とチェンバースの丁々発止のやりとりの方にあり、一方でさらに事件が拡大。終盤は序盤から持ち越された殺人事件のフーダニット的な解決がヤマ場(のひとつ)となる。

 中田耕治の訳は『マーティニ』とは別の意味で読みにくく(まあ70年前の翻訳だからね)、話を追うのに難儀するが、中盤でチェンバースが危機にあってから以降はなかなか面白い。

 で、そのチェンバースが、顔役の用心棒に反撃する際の内面での物言い
「私立探偵は、まず、二倍のお返しができない限り殴ったりしてはいけないのだ。これがわれわれの無惨なゲームの規則になっている。もし、そうでないと、商売があがったりになる。咽喉をやられて血を出すようなことは沽券にかかわることだし、一旦評判がガタ落ちになるともう恢復できないのだ。男はそういうことを言い触らすのだ。女どもが井戸端会議でゴシップを言い触らすように。こうなったらおしまいだ。」
 ……いや、まんまサム・スペードの行動原理だね。ちょっとグッとくる。
(日本の渡世人やらヤクザに通じるものだろうが。)

 しかしNYの当時の風俗商売(バーやナイトクラブほか)や裏社会の叙述が実に潤沢で、それだけで全体の紙幅の数割を使ってるんじゃないか、と思うほど。小説のなかのそういう方面で、異国の臨場感を探りたいような向きには、かなり興味深い作家で作風だろう。
 とはいえチェンバースものの翻訳が二冊で止まっちゃったのも、ちょっとわからないでもない。なにしろ、この辺のロケーション描写、日本人読者には(私も含めて)敷居が高い面もあるだろうしなあ。反面、そこが海外ミステリ、翻訳小説としての妙味のひとつ、というのもまた正論なんだけれど。

 で、ラストのフーダニットに繋がるホワイダニットは、ちょっと屈折した文芸味……みたいなものが用意されており、その辺にある種の作品の格調の高さを見やらないでもない。その辺りで評価を稼いだんだろうな、ということも、まあ分る。佳作以上~秀作未満、かな(古くなった翻訳で減点してしまうが)。

 ちなみにタイトルの意味はよくわからない。
 普通に考えれば殺人犯を処刑する電気椅子の意なんだろうけれど、特に劇中に登場しないし、読み落としているんでなければ暗喩、でも出てこなかった。読む前はライスの『幸運な死体』みたいな設定か、あるいはそれを思わせる展開が途中か終盤にでもあるのかな、とか考えていたのだけれど。

No.2330 5点 花実のない森- 松本清張 2026/05/17 07:13
(ネタバレなし)
 たまには清張でも……と思い、古書市で300円で買った、元版のカッパ・ノベルス(昭和49年4月で106版……すげぇな)を手に取る。だが挿し絵(作画・堀文子)はあるものの、ほぼ全部、昔のポケミスの抽象画みたいであまり楽しくない。いっしょに買った別の清張の同じ叢書の方は、普通のペン画の挿し絵なんだが。

 本サイトでは悪評プンプンなので、ほほう、と思いながら半ば怖いもの見たさで読みだした。なるほど主人公は感情移入なんかしにくいキャラクターだが、作戦に利用した恋人に時たま「心から感謝」したりする。人間臭いというより小物っぽいが。
 
 主人公の追跡行のファナティックぶりは、なんかレンデルのニューロティック・サスペンス(サイコ)スリラーに一脈通じるところがある。たぶん清張はその辺は無自覚だったとは思うが(もしそうなら前述のような中途半端な人物造形はしないよね?)、作者自身が意識的にこの辺を最初から押していたら、もっと違った方向で結晶度が高まったのではないか。

 それでもキーパーソンであるメインヒロインの秘密は? そもそも事件? の構造は? という意味ではそれなりの求心力を感じた。で、ラストは意外といえば意外ともいえる決着だが、冷静にアタマを冷やして考えるなら、いわゆる大山鳴動して鼠一匹というヤツかもしれない。
 最後のエピローグもやや曖昧だね。こっちの思ってる通りでいいのかしらん。
 それでも全体としてはソコソコ楽しめたかな。この点数で。

 しかし主人公が歩き回れば、出会う人物人物がみんなベラベラよく喋って、情報をくれるのには笑った。うん、不適切な昭和のミステリ(笑)。

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人並由真さん
ひとこと
以前は別のミステリ書評サイト「ミステリタウン」さんに参加させていただいておりました。(旧ペンネームは古畑弘三です。)改めまして本サイトでは、どうぞよろしくお願いいたします。基本的にはリアルタイムで読んだ...
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