人並由真さん |
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平均点: 6.34点 | 書評数: 2190件 |
No.2190 | 6点 | 闇に消えた男 フリーライター・新城誠の事件簿- 深木章子 | 2025/03/31 07:39 |
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(ネタバレなし)
37歳のフリーライター・新城誠は、行方不明の自分の弟が絡むらしい怪異な「消人屋敷」事件を、アマチュア探偵として解決。同時に年上の編集者・中島好美と交際を始めた。そんな新城のもとに、彼のアマチュア探偵としての噂を聞いた知人から、相談がある。それは新城の大学の先輩でもあるノンフィクション作家・稲見駿一の失踪にからむ案件だった。 『消人屋敷の殺人』の主役コンビの再登場。 同作は、評者が久々に年間百冊以上のミステリをふたたび読み始めた2010年代半ばの時期に、当時のリアルタイムの新刊として出会った作品だったので、ちょっとある種の馴染み深さを感じたりもする。 そーいう意味で、すこし懐かしい探偵コンビに再会するつもりで、手に取った。 最後に明かされる大ネタは、まあそうでしょう、そうでしょう、作者が読者を驚かそうってスナオにするのなら、その手しかないよな、という感じ。 正直、もうちょっと面白くなりそうなのに、悪い意味で地味に手堅くまとまってしまった感が強い。 そもそも、くだんの箇所のみならず、大方の部分は大抵のヒトが分かってしまうんでないの? 欧米の某大家のアレとかアレとかも思い出す。 一方でこの作品の真犯人は、探偵コンビの動きに、よく付き合ってくれたよな、とも思った。 いかにも21世紀らしい、(中略)に関する技術ネタは、ちょっと面白かったが。 |
No.2189 | 6点 | 死は熱いのがお好き- エドガー・ボックス | 2025/03/30 06:38 |
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(ネタバレなし)
その年の8月。「僕」こと、ニューヨーク在住の31歳の広告エージェントで以前は「グローブ」紙の記者でもあったピーター・カトラ・サージェントは、知人である金持ちの未亡人ロウズ・クレイトン・ヴィアリング夫人に招かれて、彼女の別荘「北砂丘荘」を訪れていた。別荘の周辺にはサージェントのガールフレンドである25歳の雑誌記者で離婚女性リズ・ベシマも滞在しており、彼女とのアバンチュールもお楽しみだ。だが北砂丘荘の海岸で、滞在者の一人が海の底流に呑まれて溺死。事故に思えたその死は、やがて死者が生前に不自然な量の薬物を服用していたことから、他殺? の疑惑が持ち上がって来た。 1954年のアメリカ作品。広告エージェント、サージェントを探偵役にしたシリーズの3冊目だが、邦訳はこれしかない。 作者の別名ゴア・ヴィダルに関しては、往年の文化人だった位しか知らないが、耳触りのいい響きも含めてそれなりに印象に残る名前である。 洒落た邦題に興味も湧いて、ポケミスの初版は古書で大昔の少年時代に購入。その昔日に買った現物か、あるいはまたいつかなんかの弾みでもう一冊買っちゃったのか忘れたが、とにかく周囲に現物があったので、気が向いて読んでみた。 本格とハードボイルドのハイブリッドとかなんとか、そんな主旨の謳い文句もちょっと楽しそうである。 1950年代なりの当時っぽいセックス・お色気? 描写も楽しみどころだという意のことが巻末の解説(署名「S」というから常盤新平か?)にあるからその辺も相応に期待したが、なるほどサージェントがヒロインのリズを誘って屋外(砂浜)セックスする間接的な描写など、それなりにいやらしい。裸身に砂がついたどーのこーのだの、パンティを直すだの(これは屋内での情事だが)、たぶん当時としてはそれなりにエロかったのだとは思う。まあカーター・ブラウンとどっこいどっこいか、もう一足分踏み込んだかそーでもないか、という感じでもあるけれど。 フーダニットミステリの結構はしっかり持っているし、事件の構造は実は、後年の某(中略)賞を受賞したアノ人気作品の先駆ともいえるものだが、思えばこのネタはもっとずっと早い1930年代にさらに先駆けがあった。忘れたころに欧米の歴代パズラー作家が思いつくネタかもしれんね。 さらにその上で、ちょっとクリスティーの諸作(具体的にどれではない)を想起させるような<人間関係の伏在>みたいな文芸とか、いろいろと面白くなりそうなことは用意してる作品。 一方で、登場人物も適度にキャスティングし、話の流れも悪くないんだけど、それに見合ったストーリーの起伏感が乏しいせいか(うむ、個人の感想だ・笑)、いまひとつハジけなかった面もないではない。決してツマラナイ訳はなく、悪くはないんだけど、もう一声二声欲しいなあ、という手応えである。 そーゆー意味ではシリーズや作品世界にまだまだ伸びしろを感じるので、シリーズの未訳編が万が一にも訳されるのなら読んでみたい、とも思う。今から発掘翻訳される可能性、ないかしらね。 この一作に限れば、まあそれなりに肯定的な意味合いでこの評点。 |
No.2188 | 6点 | 毛皮コートの死体-ストリッパー探偵物語- 梶龍雄 | 2025/03/29 22:01 |
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(ネタバレなし)
梶作品はこれまで長編ばかり読んできたので、短編集(連作短編集)を読むのはこれが初めてかもしれない? 全6編。長編のよく出来た時のようなこってり感はほとんどなく、男女の関係性の機微を軸にした等身大の人間ドラマに、そこそこ60~65点の謎解きミステリ要素を組み合わせた感じ。 どこかで見たような読んだようなトリックやネタもそれなりに。 ただ主人公ヒロインのチエカの日々の推移を追ったペーソスストーリーの連作としては、なかなか読み手の感情移入を誘う面もあり、その辺も作者の狙いなら、ソコは成功。 シリーズはあと最低でも2冊はあるみたいだけど、古書価は高いな……。 安く出会えるのを待つか、図書館で借りて読むか。 |
No.2187 | 7点 | 脅迫者は過去に潜む- コリン・ウィルコックス | 2025/03/28 17:40 |
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(ネタバレなし)
「私」こと、サンフランシスコ市警の警部フランク・ヘイスティングスは、先日の事件で負傷。現在は恋人で小学校教師である40歳の離婚女性アン・ヘイウッドの家で、彼女の2人の息子とともに同居しながら静養していた。そんななか、大統領の右腕といわれるカリフォルニア州の大物政治家で66歳のドナルド・A・ライアン上院議員のもとに匿名の脅迫状が届く。ライアンは表沙汰にしていないが最近、心臓を弱らせており、その件も含めて事態は深刻そうだ。彼の側近やFBI、それにホワイトハウスのシークレットサービスたちが対処にあたり、市警からはヘイスティングスが捜査担当に任じられた。だがヘイスティングスと仲間の刑事たちは次第に、ライアンの周辺を取り巻く人間関係の綾と秘められた真実に分け入っていく。 1982年のアメリカ作品。 作者ウィルコックスの12番目の著作で、フランク・ヘイスティングス警部シリーズの第11弾目の長編(そのうち一本は、プロンジーニとの合作で、名無しの探偵との共演編)。 1980年代には日本でも相応の安定の人気で、当時のSRの会なんかでも自分を含めて何人か常連ファンがいた好評シリーズだったが、往時からほぼ40年も経つ(おー!)と、誰も読まなくなっていた連作シリーズであった。しかし本サイトでもこれまでただの一人もまったくレビューを投稿してない、というのは極端だよな~(涙)。 しばらく前に、そんな現在では完全に忘れられた作家&シリーズになっているのを意識して、じゃあ自分はどこまで読んでんだっけ? と再確認したが、この今回読んだ『脅迫者は~』が、例の合作編を含めて邦訳の11冊目で最後の一冊(順不同に出たけど、とりあえずそこまでは全部出た)。 原書ではシリーズはもうしばらく続き、未訳のものが何冊かあるようだが、自分はどうやらシリーズ9冊目までは大昔にリアルタイムで読んでいたっぽい。あー、なら第10冊目から読めばよかったかな? つーわけで何十年ぶりかで読みだした(再会した)かつてのおなじみシリーズの読み残しの一冊だが、おなじみ宮脇孝雄の翻訳は快調(とにかく各キャラの芝居やセリフ回しの訳し分けがうまい)で、最高潮にサクサク読める。 ストーリーが進むにつれて事件の奥行きが広がっていき、メインの筋立てと並行してヘイスティングスと恋人アンの関係上のトラブル(アン本人とも息子たちとも円満だが、アンの元旦那の精神分析医がイヤな奴で騒ぎの種をもってくる)も語られ、お話全体に適度な立体感があり、退屈しない。 後半、話の具をやや盛り込み過ぎた感はあるが、シリーズも十冊以上も続けて事件の情報や文芸を増やして先行作品と差別化しなければならなかったのであろう事情を一顧するなら、まあ納得。トータルとしてはちょっとメグレものめいた路線にも踏み込み、なかなか面白かった。 で、前述のとおり、日本では当時それなりの人気シリーズだった訳だがそれでも本書で邦訳は打ち切りになった訳だ。残念ではあるが、ヘイスティングスの周辺の状況に関して当人もその周囲の人物も、そしてファンの読者もほっと一息できるクロージングで本作のラストをまとめており、そーゆー意味ではこのタイミングでおしまい、というのも悪くなかったとは思う。 87分署やマルティン・ベックものの流れだけど、もっと外連味を押さえて毎回手堅く楽しませてくれる、良質の警察小説シリーズだったとは改めて思う。最後に残った未読のシリーズ第10作目もそのうちいつか楽しむことにしよう。 評点は0.25点ほどオマケ。 |
No.2186 | 7点 | ささやかな復讐- 笹沢左保 | 2025/03/25 20:21 |
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(ネタバレなし)
光文社文庫オリジナルの一冊。 ①闇からの声……………カラー小説 1969年8月 ②反復……………………別冊週刊朝日 1961年7月 ③死神考…………………小説エース 1968年11月 ④ささやかな復讐………講談倶楽部 1962年5月 ⑤偽名とダイナマイト…推理ストーリー 1961年12月 ⑥娘をそこで見た………週刊現代 1964年8月20日 ⑦炎の女…………………別冊サンデー毎日 1968年8月 ⑧青い地上………………小説推理 1976年8月 ……の8本を収録。 解説の山前さんによると <書籍化はされているが、この時点でまだ文庫化されていなかった、比較的レアな作品を集成した短編集(主旨)>だそうである。たぶん(&当然)、山前さんご本人のセレクトだろう。 60年代作品が大半だが、諸編に妙な純朴さを感じる一方、各作品がバラエティ感に富み、とても楽しい一冊だった。作者の作風の広さを改めて感じる。 以下、備忘録メモを兼ねた寸評&感想。 ①……妊娠した不倫相手の部下を殺してしまった中間管理職。だが死体を無事に始末までしたはずの、殺害した相手から、連絡が!? まんまヒッチコック劇場路線の短編。 ②反復……妻と死別し、娘の成長だけを楽しみに生きてきた平凡な小役人。だが娘の華燭の宴で……。 個人的にはこれが一番、強烈だった。人によっては大したことないと思うかもしれないが、へー、笹沢ってこういうの書くん……いや、たしかに作者らしいかもな……と思わされた一本。 ③「死神」と綽名の友人と久々に再会した主人公。その友人は奇妙な話を語る。 事件の異様さと犯人像の不気味さ(地味な怖さ?)で、印象に残る。ラストは奇妙なほどにぞ~とした。 ④旅先で知り合った美貌の人妻とその場限りの不倫を楽しもうとするジャーナリスト。彼にはある苦い記憶があった。 割と凡庸な話。粒ぞろいの本書のなかではこの表題作が一番オチるか? ⑤偽名を使って山奥の観光地に潜伏したらしい、爆弾を持った殺人犯。容疑者の爆弾を警戒しながら慎重に包囲網を狭める捜査陣は「偽名」から当人を割り出そうとするが。 昭和ミステリの諸作にたまに見られる地名トリヴィアネタの一編。これはこれで楽しい。 ⑥公園でひそかな覗き趣味に走る中年は、そこで娘と美青年の若い同僚の情交を目撃した。 刺激的な倒錯エロネタだが、ショート・ミステリに器用に転換するあたりはいかにも作者らしい。 ⑦人妻となった昔の彼女に再会した主人公。かつて「炎の女」と呼ばれたほど情熱的だった現在の人妻は、3年前に失踪した夫の死体が見つかったというが。 男女の劣情の機微を軸に、うまく(中略)派のミステリにまとめた話。事件の構造は先読みできるだろうが、ある種のサプライズを用意。クロージングの妙味が心に残る。 ⑧プレイボーイの主人公が関わった女たち。だがそのなかの一人が変死して。 ダイイングメッセージもの。他愛ない話で殺人の実現性もあれだが、あれこれその辺の隙をリカバリーしてある。作者の語り口の芸で楽しめた。 以上8本、おおむね作風の振り幅もあって面白かった。この辺の笹沢の旧作だと、いい意味で期待値が低い面もあって、その辺りも踏まえて楽しめる。 しかしレビューを書く前はトータルで7点あげたいと思っていたのだが、実際に感想をまとめてみると6点クラスかな。 でも「反復」のなんとも言えない読後感に免じて、やっぱり所期通りの評点をあげよう(笑)。 |
No.2185 | 8点 | グレイヴディッガー- 高野和明 | 2025/03/25 07:17 |
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(ネタバレなし)
心やさしき前科5犯の小悪党で32歳の八神俊彦は脊髄ドナー登録を行ない、かなり低い確率で高い適合率を出した重病患者のもとに向かう。自分が救うことになる「大郷総合病院」の入院患者が若いのか年配なのか、あるいは男女のどちらかなのかも医療上の規約で教えられていなかった八神は、どうせなら子供の命を助けたいと願っていた。だが病院に向かう途中の八神の周囲に、怪異な殺人が発生。同時に謎の仮面の殺人鬼「グレイヴディッガー」が出没するが、事件を追う捜査陣の前で事態は意外な真実の顔を見せ始めていた。 講談社文庫版で読了。高野作品はまったくの初読み。これはブックオフの100円棚できれいな美本の古書を、裏表紙のあらすじを読んで面白そうなので手に取った。 主人公がやさぐれた悪党で、でも訳あり。そして根は徹底的に善人。そんな気恥ずかしくなる文芸設定にまったく物おじしていないらしいキャラクター造形に、なんか好感をもったからなのだった。 二部構成の物語がちょうどいい具合に真ん中で章変わりするので、そこで途中でいったんストップ。二日に分けて、それぞれのパートは双方ともイッキ読みした。 ミッシングリンク連続殺人の謎はなるほどちょっとよく考えれば解法に向かうかもしれんが、話の勢いにかまけて読み進むうちに気が付いたら意外かつナルホド! という真相を教えられていた(笑)。 一方で謎の殺人鬼グレイヴディッガーの正体の方は特に伏線も何もないので(だよな?)、推理は不能だが、明かされた正体はなかなかのインパクト。 連続殺人はよろしくないが<そーゆー人間>には実はどっかしらちょっと、心の傾斜も覚えてしまう評者ではあった。 見せ場を演出しすぎて、面白いんだけど雑になってる、という印象のところはいくつかあった。でもその辺を踏まえた上で、勢いと魅力のある作品だとは思う。最高の名シーンは、中盤の外務省役人との絡みのくだり。この作者、岡本喜八の弟子筋ですって? なんかああ、なるほど、という感じである。評点は0.25点くらいオマケ。 |
No.2184 | 6点 | 古都の殺人- 高柳芳夫 | 2025/03/23 16:41 |
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(ネタバレなし)
とある人物が入手した、「わたし」こと八王子の小規模な病院院長で40歳の医師・戸川隆也の日記。そこにはその年の3月10日、戸川が彼の友人の大学教授・糺の宮文人と飲んだその夜、怪しい占い師から「あなたには死相が見える」と告げられたことが書かれていた。その災厄を回避するには、本業の医療活動以外で、生命に関わる人助けをしなければならない? やがて戸川は相模湖の周辺で、自殺しかけたらしい絶世の美女を救うが、彼女は記憶を失っていた。その出会いを契機に、やがて戸川の意識はある人物への殺意に向かう。 祥伝社文庫版『古都の殺人』で読了(元版からは、特記するような改修はないようである)。 主要人物の日記(当然、一人称視点)の掲示から物語がスタートし、途中で通常の描写に切り替わる。ブレイクの『野獣死すべし』みたい? と思ったら、すでに本サイトでnukkamさんがご指摘であった。さすがである。 事件が一旦決着しかけるが ①残りページがそれなりにまだある ②登場人物は多め(雑魚キャラまで入れるとネームドキャラのみで50人以上?)だが、本筋にからむメインキャラはぐっと少ない ……なので、あー、こりゃまだ何かあるな、でもって何かあるならこれまでの描写の積み重ねからあのキャラが臭いな、とどうしたって気づかされてしまう。ただし作者もその辺は心得てると見えて、クライマックスは向こうなりにふいをついてきた感じ。もちろんあんまり言えないけど。 ただし、その最後のサプライズがさほど効果的とも思えず、特に真相の開陳の部分はどうにも言い訳がましいように聞こえるのはどんなもんか。 (最後の真実の開陳が、あーいう形になるのは、いかにも作者が面倒な作劇や手続きを避けた印象だ。) とはいえ、小中規模のイベントが間断なく生じ、好テンポで話が転がっていく一方、あちこちに散りばめられてるっぽい伏線を拾っていきたくなる感じはなかなか楽しかった。 そーゆー意味で、いささか強引な部分は感じたものの、それなりに謎解きミステリを読むゆかしさはあった一冊だった。 純粋な評価だけだと佳作の下~中くらいなんだけど、評価以上に楽しめた作品ではある。 |
No.2183 | 8点 | 最悪のとき- ウィリアム・P・マッギヴァーン | 2025/03/22 06:48 |
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(ネタバレなし)
アメリカのどこかの港町。シンシン刑務所に5年間服役した男が、かつての古巣に戻って来た。男は33歳の元刑事スチーヴ・レトニック。彼は5年前に争いになったヤクザを故殺した罪で収監されていたが、それは濡れ衣だった。レトニック当人は、冤罪は波止場の労務者たちを仕切る裏社会の顔役ニック・アマート、その一派の仕業だと確信していた。アマート一派が現在もまた犠牲者を出していると認めたレトニックは、一市民の立場で調査を開始するが。 1955年のアメリカ作品。別名義を含めて、マッギヴァーンの第10長編。 この作者の完全に脂が乗り切った時期の一作で、そりゃ面白いに決まっているだろ、と予見しながら読みだしたが、実際に最大級に楽しめた。 ちなみに今回は「現代推理小説全集」(月報付きの古書)版で読了。 内容は1億パーセント(©石神千空)往年の日活アクションの、赤木圭一郎か裕次郎の主演路線の世界。 やさぐれて失うものの少ない、半ば「無敵の男」状態の主人公が顔役側の組織をかき回していく。その流れで生じるイベントのほとんどには既視感があり(特に中盤まではそう)、正に王道ここに極まれり、という感じだが、しかしてそのほとんどの筋立てが実に面白い! ある意味ではどこかで見たようなものの積み重ねだが、筆力のある作者なのでひとつひとつのシーンをグイグイ読ませるし、細部のシーンごとの印象付けもすごくいい。 たとえば主人公レトニックが間借りしている中古アパートに帰って、大家のおかみさんから深酒をすぎした入居者の元郵便局員の世話を頼まれ、その老人の孤独な心情にそっと触れる描写なんか、正にソレだ。 プロットにはまったく関係ない叙述だが、そこでほんのわずか語られるレトニックの挙動がどれだけ小説の厚みになっていることか。この作品には随所でそういう種類の豊かな味わいがある。 とはいえストーリーが王道であっても、悪い意味でパターンというわけではなく、後半になって話が進むなか、ある意味で主人公さえも容赦なく<堕ちていく>加速感など非常に素晴らしい。 それでいて最後には、きっちりとエンターテインメントとしてまとめる、見事な職人作家の筆の冴え。あー、リアルタイムでこれを読んでいた50年代のアメリカ人はまちがいなく幸福だったろうなあ、と実感する。 いや、いま読んでも十二分に楽しめるが。 いまのところマッギヴァーンの私的・上位ベスト3は『ビッグ・ヒート』『緊急深夜版』そしてこれ。でも実は同じくらい別腹で『金髪女は若死にする』もスキ(実は大昔に読んだ『悪徳警官』も、記憶のなかでの印象はすこぶるいいのだが、これはいずれいつかまた今の目で読み返してみたいとも思うので、評価は保留)。 まあまだまだマッギヴァーンは評判のいい作品が未読でいくつも残っているので、いろいろ観測は変るだろう。それはたぶん間違いない。 |
No.2182 | 6点 | 高山殺人行1/2の女- 島田荘司 | 2025/03/20 05:30 |
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(ネタバレなし)
元版のカッパ・ノベルス版で読了。 トラベル・ミステリというよりは、和製&作者版のフランス・ミステリだな、という実感。一時期の泡坂あたりもこんなの書きそうな気がする。 真相は、ああ、そういうことね、というオチだったが、物語の構造、事件の構築、どれも納得がいかないというか。 要は作中のリアルとして、こんな状況の登場人物が<そんなこと>考えるか? と思うのだ。 いやまあ確かに世の中には色んな人がいるけど、これをエンターテインメントにするんなら、もうちょっと説得力のあるイクスキューズもしくはテクニカルなウソが欲しかったと思う。 まあそれでも気軽に楽しめた。こういうミステリがあること自体は、結構なことだとは思います。 |
No.2181 | 6点 | 妖山鬼- 菊地秀行 | 2025/03/18 15:05 |
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(ネタバレなし)
銀座の宝石店「美宝堂」を襲撃し、三人の人間を殺して約10億円の宝石を奪った三人組。主犯の半蔵、その情婦で26歳のかおり、そして人殺しが好きでひそかにかおりとも男女の関係である武吉。彼ら三人は警察の目を逃れ、三時間以上も歩いて深い山村の「四貴村」に逃げ込む。だがかおりが不敬な禁忌を冒したことを契機に、山は異界としての姿を見せ始めた。 菊地秀行作品はデビュー長編『魔界都市ー新宿』の元版・ソノラマ版の初版を発売直後に購読して以来、たぶん二百冊以上は読み、一方で21世紀になってからはツンドク本が増えていく一方である(汗)。だが本サイトでは「新宿」ものも、同じくらいに大好きな「エイリアン」シリーズも、まあ、その辺のおなじみヒーローを主役にした連作アクションホラー路線を扱ったら(語り出したら)キリがない……という思いで、レビューは遠慮していた(まあ広義のSF、ファンタジー、ホラー、青春ミステリ、のどっかにはひっかかる作品ばかりだとは思ってはいるのだが)。 だがま、この作品はノンシリーズのホラー編らしい? さらにもうひとつの理由から「読んで感想を書いてもいいかな」と思い、大分前にブックオフの100円棚で購入した徳間文庫版を手にしてみた。登場人物表を作る必要もない。スラスラ読める。 そしたらこれも結局はシリーズものであり、タイトル『妖山鬼』の一冊の中に「山童子」「剣鬼山」の二中編を収録。あらすじに書いたのは先に収録の「山童子」の方で、この二編に、共通のヒーローとして10~15歳くらいの外見の魔少年<山童子>が登場する。 ヒーローの設定としては、各地の<山>という場は人里離れた場として人間が非日常的な行為(犯罪だの戦闘だの、自然破壊だの)をしがちなので、負の情念を生じやすい。そこに魔性の物が集まるので、山の自然の側が一種のバランサーとして生み出した少年の姿のトラブル調停役。人間を守ることもあるが、単純な正義の味方ではない。大体はそんな大枠。ただし菊地秀行は、反響が薄い(ウケない、商売にならない)とわかると、新設定したヒーローを実に冷静に放り出すタイプの作家なので、これもそんな一例のひとつ。だからそれなりの菊地ファンのつもりの評者も、これがシリーズものだと意識しなかったのだ、と言い訳。 で、作品の中身だが、一作目がエロ度の高い中間小説誌「問題小説」に掲載され、そこでシリーズ(2本だけだが)が開始されただけあって、なんつーか<あの時期>の西村寿行作品の読者をそっくり戴いてやるぜ、と言わんばかりのエロ&バイオレンス、そこに菊地作品らしいビジュアル感を意識したホラー(で、最終的にはアクションホラー)の要素が融合。星の数ほどある菊地作品のなかでも、たぶん上位クラスで、いやらし度の高い一冊ではないかと。 これを評者のように楽しめるなら(たぶん嫌悪感を示す人も多いとも思うが……)、面白いことはオモシロイ。その一方でいつもの菊地作品、という大枠での感想ではあるが。 で、なんでこの文庫本をブックオフで手にして購入してきたかというもうひとつの理由だが、文庫版の巻末に再録された元版のあとがき(文庫版はさらに新規のもうひとつの作者あとがきと、さらに別人による解説も掲載)の中で、作者が話の流れでコーネル・ウールリッチへの思い入れ、中でも特に『喪服のランデヴー』が最愛の作品だと言う、実に実に実に「わかっている」思いのたけを語っており、それにグッときたから(笑)。 ……いや、実はこのあとがきは、だいぶ前に、作者のあとがきばかりを集成したエッセイ本(なんじゃそりゃ、という感じだが、この作者なのでそーゆー本もある)『魔獣境図書館』の中で先に読んでしまっているが、久々にこの文章を見かけて、ああ、この作品のあとがきだったんだっけな、とココロを打たれ、購入してきた、そんな流れであった。 この十年、小説系の読書の傾向はフツーのミステリと一部のフツーのSFばっかりに向いてしまい、菊地作品に関しては未読のツンドク本が溜まっていくばかりの評者だが、そのうちどっかで少しずつ消化したいなあ……とも思うだけは思ったり、している。いや、まあ。 |
No.2180 | 6点 | ジャマイカの墓場- ジョン・ラング | 2025/03/17 08:16 |
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(ネタバレなし)
ジャマイカのキングストン。現地に来てから14年目になる39歳のプロ潜水夫ジェイムズ・マグレガーは、海上保険調査員アーサー・ウェインと名乗る男から依頼を受け、つい昨日沈んだばかりのヨット「墓穴入り号」の海中探査を頼まれた。鮫が出る海域ということで高めの料金を請求したマグレガーは、ウェインの指示で、墓穴入り号から沈没前に脱出した船員や乗員の証言を聞き、先に情報を得る。だが、昨日沈んだ事故船の案件に、あまりにも早く保険会社が動き出したことに違和感を抱いた。不審を抱くマグレガーは、そのままある事件の渦中に、巻き込まれていく。 1970年のアメリカ作品。 ラング名義の第7長編。 Amazonの書誌データが例によってヘンだけど、当方の目の前にある本は昭和47年8月刊行の初版。 ポケミスで150ページちょっとというごく薄めの作品で、まるで往年の「別冊宝石」か日本語版マンハントの中盤以降に掲載された中編作品みたいな読み応え。つまり紙幅の少ない割には、意外に歯応えがあった。 もちろん、小説の厚みをじっくり味わうボリューム感などはないけど、ピリリと来る描写、その手の作劇・演出の仕込みが存外なほどに用意されている。 小味な作品なんだけど、もっと若い頃に読んでいたら、ごく軽度のトラウマになったかもしれないというか。 翻訳を担当した浅倉久志の訳文は当時から好評だったみたいだけど、たしかにスムーズかつ、それぞれの登場人物の芝居をベストの形で引き出したような叙述が最後まで心地よい。ラストは(中略)だねえ。 薄いけど、短いけど、ラング名義の作品の中じゃ、かなり練度の高い仕上がりだろう。いや、いい意味で佳作~秀作のスリラー。 評点はこの数字での上の方。 |
No.2179 | 6点 | おんな対F.B.I.- ピーター・チェイニイ | 2025/03/16 10:49 |
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(ネタバレなし)
1941年7月。太平洋戦争の真っただ中。「おれ」ことFBIの捜査官レミー(レミュエル・H)・コウションは、英国に来ていた。実は、NYの測量技師ジークフリート・ラールセンからの訴えで、彼の婚約者ジューリア・ウェイルズがアメリカの暗黒街の関係者に誘拐され、英国に連れ去られたらしい。その彼女の捜索だ。コウションは、アメリカギャングで大戦のさなかに英国に拠点を移したナンバー賭博の胴元マクシー(マックス)・スクリプナーを探し出し、今回の事件の手掛かりを追おうとするが。 1942年の英国作品。 全11冊ある、FBI捜査官(実質的な立場は、諜報員に近い面もある?)レミー・コーションものの第8弾(あらすじに書いたように、本書ではコウション表記だが)。 同じシリーズでポケミスに収録の『女は魔物』がなかなか手頃な値段で入手できないなか、先に手に入ったこっちの方から、一足早く、読んでしまった。 まあホントなら論創から、比較的、近年(?)に出た、シリーズ第1作目から読めばいいんだけど(笑)。 いいか悪いかはともかく、田中小実昌の翻訳が非常にクセがある(ポケミスの方も担当してるらしいが)。 さらに軽快なストーリーのように思わせて、予想外にミステリ&サプライズの仕込みも多く、存外なほどに歯応えがあった。 大戦中の時局のなか、アメリカ暗黒街の状況を英国に渡ったコーションの視点から語る場面があったが、戦時中に通常の闇商売での金儲けなんかやりにくく、さらにギャングでも愛国心のある者は出征したりしてるので裏の世界も活気がない、という主旨で読者に伝えられる。その辺の事情も含めて、作者の母国である英国が本作の舞台になるのだが、この辺のリクツづけは面白い。 ミステリとしての大きな謎は、そんなややこしい現状(暗黒街にも影響を与える戦況)のなか、なんでアメリカギャングが女性ひとり誘拐して、さらに身代金を要求するわけなく(そもそも当該のゲストヒロインの家は特に資産家というわけでもないようだ?)、わざわざ英国まで連れて逃げてきたのか? (そもそも、本当に被害者は英国にいるのか?)というホワイダニットの興味が浮かび上がり、その辺が終盤まで物語の奥に伏在してる。 この趣向は、なかなか。 ただ話の二転三転ぶりが多すぎ、読み手の自分としては楽しむポイントが相対的に薄まってしまった面もある(汗)。 この辺は痛しかゆしだが、それでもまあ、それなりによく出来た佳作~秀作の下だとは思う。(実は途中で、もしかしたら……とあらぬことを考えたりしたが、それはハズれた。) QTブックスの解説は、その先行するポケミスがらみか、ツヅキこと都筑道夫が書いている。かなり本作を持ちあげてホメていて、それはいいが、作者チェイニイのシリーズ作品としては、ほかにロンドンの私立探偵スリム・キャラハンがいて、そっちの方がいまは母国英国での人気は高い、とトッポく語っているのがなんとも。だったらそっちも翻訳してよ、という思いである。(まあツヅキ的には、久保書店にさりげなく翻訳企画の売り込みを掛けたのかもしれんけど。) とりあえず、古参ミステリファンの一部にはウワサ(?)のコーションシリーズ、まずは一冊読んでみて、ああ、こんな感じか、という思いであった。 |
No.2178 | 5点 | 死者はまだ眠れない- 西村京太郎 | 2025/03/15 18:21 |
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(ネタバレなし)
その年の11月5日の夜。調布市内の45歳の電気店主人・佐々木努が、多摩川の土手の周辺で偶然に死体を見つけた。だが佐々木が慌てて警官を呼びに行くと、死体は痕跡もなく消えていた。佐々木の通報は何かの勘違いとして処理される。その一週間後、今度は板橋区の周辺でスーパー勤務の仕入れ主任・伊藤賢二が、自宅のアパートで弾みで25歳の妻かおるを殺してしまったと自首してきた。だが警官がアパートに赴くとどこにも死体はなく、その後のかおるの行方も不明だった。伊藤はテレビの人探し番組に出て、無事に生きており? 失踪した? 妻の行方を捜し求める。その番組を観た十津川警部の新妻・直子は、それを契機に不可解な連続死体消失事件に関心を深めていく。 元版のフタバノベルス版で読了。 <ミッシングリンク的な流れで続発する、連続死体消失事件>という、謎解きミステリとしてはなかなか攻めた趣向。これは面白そうだと、久々に十津川ものを読んでみた。 だが導入部というか発端の謎こそ惹かれるものの、内容の方は途中から悪い意味で「ああ、そっちの方に行くのか」という流れになだれ込み、だんだんと気が抜けて来る。 でもって最後に作者が、<またもあの手>を使ったため、全体の事件の構造もいまひとつ明かされず、送り手に振り回されてキツネにつままれたような気分で終わる。 後半、部分的にちょっとしたトリックの創意(みたいなもの)があり、その辺はまた印象に残ったが。 (備忘用のキーワードは、ア〇〇〇〇〇〇だな。) 十津川夫人の直子さんにしっかり付き合うのは、もしかしたら今回が初めて? かもしれん。 ネットで調べたら初登場作品は『夜間飛行殺人事件』らしいが、たぶんその辺になるともうリアルタイムでは読んでないや。すでにシリーズ内の人気キャラみたいで、テレビドラマでも浅野ゆう子、池上季実子、萬田久子、坂口良子……と世代人には錚々たる女優たちが歴代で演じてるのを初めて知った。またそのうち、お会いすることもあるだろう。 |
No.2177 | 8点 | ヘレン・ヴァードンの告白- R・オースティン・フリーマン | 2025/03/14 23:45 |
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(ネタバレなし)
1908年4月の英国。「わたし」こと細工工芸師の卵で23歳の美人ヘレン・ヴァードンは、その夜、事務弁護士の父ウィリアム・ヘンリー・ヴァードンと初老の金貸業者ルイス・オトウェイの会談をたまたま耳にした。どうやら父ウィリアムは公的に信託された高額の金を自分の判断で勝手に友人に融資し、その事実をオトウェイに責められているらしい。公職の事務弁護士の横領は最大7年の懲役もありうると脅したオトウェイはウィリアムに、今回の件に目をつぶる代わりにヘレンとの婚姻を希望した。オトウェイの申し出を断り、逮捕もやむなしと思うウィリアムだが、ヘレンは父を救うためにオトウェイの希望を受ける覚悟を決めた。だがそれがヘレンをさらに予想外の事態へと追い込んでいく。 1922年の英国作品。ソーンダイクものの長編第5弾。 今さら新規に発掘されるくらいだから翻訳されずに残っていた後期作品のひとつかと思ったら、実際にはかなり初期の一本だった。ちょっと意外。 物語の全編が「わたし」ヘレンの一人称で綴られるが、父親の咎から始まるその動乱の青春ドラマの積み重ねが、全くもって、日本アニメーションの「世界名作劇場」路線の一年間にわたって放映された連続テレビアニメ番組みたい。 しかしソレが本当に、めっぽう面白かった(笑)。 いやソコにあるのは謎解きミステリの興趣というより、シリアル連続ドラマ的なオモシロさっていうのは百も承知しているが、剛速球の娯楽新聞小説みたいな求心力で、読者の鼻面を掴んで振り回すフリーマンの職人作家ぶり、それがスゴクいい。 なおロンドンに舞台を移してヘレンの世話を焼く下宿のおかみさんが、ソーンダイクのおなじみの助手ポルトンの実の姉さん。この辺のキャスティングの妙もちゃんとソーンダイクもののファンの視線も意識してるよん、という感じでよろしい。 で、最後の4~5分の1でようやっとミステリっぽくなり、いやソコからも作者は無器用にマジメに、20世紀序盤当時の未成熟なパズラーっぽいものにもってこうとしてるのは重々わかるのだが、しかしなんか一方で、あー、本当はもっともっと、そこまでのヘレンと周囲の登場人物たちの通常の日々のドラマの方を書きたかったんだけどな……まあ、編集部も読者もソーンダイクもののミステリ期待してるんだから、しゃーねーな……と言いたげなホンネが何となく覗くようで、そういった作風の揺らぎようも、またゆかしいことしきり(笑)。 いや実際、最後まで読むと終盤のくだりは必要十分な描写はこなしてる一方、どーにもパワー不足な感が強いんだよね。すんごくバランス悪いぞ、この作品はその辺が。 とはいえ全体の4分の3くらいまでは、前述のように、当時の読み物エンターテインメントとしてすんごく面白かった。たぶんこれまで読んだソーンダイクものの長編の中では『ポッターマック氏』に次いで楽しめたと思う。 ちなみにこれが今年のSRの会のマイ・ベスト投票用に読んだ新刊の最後の一冊である。オーラスになかなか手応えのある一冊をしっかり楽しめて良かった(笑)。 (ま、これくらい「他の人の評価? 知らん。少なくともオレは存分に面白かった」というタイプの作品も、そーはそうそうないかもしれないのだけど。) |
No.2176 | 5点 | 読者への挑戦 -12の推理パズル-- 山村正夫 | 2025/03/13 07:24 |
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(ネタバレなし)
東京都中野区で、母親とアパート暮らしの小学6年生・片野史郎。彼は、警視庁の名刑事として名を馳せながら殉職した片野行男部長刑事の遺児だった。史郎は、父の部下だった捜査一課の永井義郎刑事の後見のもと、いくつもの殺人事件にアマチュア少年探偵として関わってゆく。 殺人事件を主題にした、ジュニア向けの12編の連作謎解きミステリを収録。それぞれ途中までは普通の小説形式だが、手掛かりが出そろったところで読者への謎解き(犯人は誰か? その殺人方法は? など)が提示され、最後は作者=神の視点での説明文で終わる、のパターン。 現職刑事がいくら恩義ある先輩の忘れ形見とはいえ、ホイホイ捜査現場でコドモに融通をはかるのはどーかとも思うが、その辺はもちろんジュブナイルだからアリということで。 実質、児童向けの推理クイズがスタンダードで、トリックなどもどこかで見たようなのが大半。ただし中には、ちょっと語り口などの面で興味深いものもあり(第12話など)、就寝前にもうちょっとだけミステリを読みたい気分の際や、病院の待合室での時間潰しなどには重宝した。 たぶんどっかの学習雑誌に一年間連載された連作の集成だとは思うが、昭和の子供には結構、人気があったんじゃないかと思う。 |
No.2175 | 7点 | ソングライターの秘密- フランク・グルーバー | 2025/03/13 06:38 |
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(ネタバレなし)
競馬のノミ屋経由で賭けた馬が大穴となったジョニーとサム。二人は、彼らの常宿である「四十五丁目ホテル」の住人でもある胴元モーリス(モーリー)・ハミルトンのもとに支払いを求めに行った。だがこすいハミルトンにうまく丸め込まれ、サムはその場で新たにクラップス(室内賭博の一種)に興じることになる。そしてサムはそこに居合わせたソングライターの青年ウィリアム(ウィリー)・ウォラーに頼まれて、彼の新作の楽譜の版権一切合切と引き換えに40ドルを建て替えた。だがそれが、またしてもジョニーとサムを巻き込む殺人事件の発端だった。 1964年のアメリカ作品。ジョニー&サムシリーズの最終作。 まずは、今は亡き仁賀先生を始め、シリーズ翻訳完走プロジェクトに関わった関係者の皆様、お疲れさまでした。そして、ありがとうございました。 シリーズの中でも上位クラスに、実にハイテンポに心地よく話が進む。その一方、謎解きミステリとしては大きな得点もないが、ところどころに印象的なシーンはあり、そしてフランク・キャプラの人情ヒューマニズム映画みたいな味わいのクロージングで終わる。 ラストのジョニー、粋でカッコイイ。いい男。 前作から10年も間が開いたそうだけど、当時のグルーバーにとって米国ミステリ界での最大の商売敵は、確実に、あのカーター・ブラウンだったんだろうなあ。そりゃまあ、いろいろ影響を受けるよなあ、と今さらながらに思ったりした(といっても本作にはお色気ネタなどはほとんどないので、念のため)。 別に長年のシリーズとしての本格的な決着が用意されてるわけじゃないけれど、それでも本当に気持ちよく最後のページを閉じられる幕切れでこのシリーズが終わったことに感謝。どこまで自覚的だったのかは知らないけれど、グルーバーはやはり超一流のこの手のミステリ分野での職人作家だったとは思う。 で、個人的希望としましては、もっと他のグルーバーの未訳作品、いくらでも読みたいんですけんど。 特に、オリヴァー・クェイドものを是非! |
No.2174 | 6点 | 誰が勇者を殺したか- 駄犬 | 2025/03/12 05:35 |
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ラノベ枠内ミステリの2024年最大の話題作? これは読んでおかねばと思って、脇のツンドクの本の山の中から捜そうとしたら、例によって雪崩が起きた。で、苦闘一時間、見つからないので諦めかけたら、最後の最後で発見できた(嬉)。 それで読了後に気づいたけど(汗)、この作品、2023年の発売……だったのだな!? 昨年2024年の刊行物かと、なんか勘違いしてた(大汗)。 (つーことは、数日後に募集締め切りの、昨年のSRのベスト投票にはカンケーないね。ベスト対象外じゃ・笑&涙)。 で、作品の感想ですが、なんかね、思っていたより、ずっと他愛ない話でありました。 でも、そんな物語そのものは、嫌いにはなれない。 いや、正直、スキです。 ここまで登場人物のほぼ全員が(中略)な作品には、そうそう出会えない。 ジャンルは、青春ミステリでいいや。 |
No.2173 | 6点 | ゴア大佐第二の事件- リン・ブロック | 2025/03/11 10:03 |
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(ネタバレなし)
故郷リンウッドでの事件の終焉後、ワイカム・ゴア大佐(中佐)は、マーシュフォント地方にあるゴルフクラブの事務局長をしている戦友のスコット=キース大佐と再会した。キースから彼の後任になってほしいと請われたゴア大佐はその話に乗り、実質的に、土地の大地主で63歳のユースティス・ポートレット卿に仕える身となった。だがポートレット一族の周辺に不可解な死の影が迫り、次々と予想外の事件や事故が生じる。その発端は2年前のユースティス卿の実弟ライオネルの死にあるのか? さらに一族の周辺には、そのライオネルを殺害したとおぼしき男の影が浮かんできた。 1925年の英国作品。 訳者あとがきのとおり、前作よりお話の求心力は増したし、「!?」となる大トリックも使われている。 ただしマトモなパズラーとは言い難い、フーダニットの謎解きの基準からいえばおよそ破天荒なもの。 登場人物メモをとりながら読んだので、一応は話には最後までついていけたとは思うが、終盤の展開は良くも悪くも紙芝居みたいな印象であった。パズラーの皮をかぶった(?)英国風スリラー。 まあ一級半作品っぽい、妙なダイナミズムを感じないでもないのだが。 誠にワタクシ事ながら、SRの会の昨年度のベスト投票の締め切りが迫っているのだが、今年はあんまり積極的に冊数を稼ぐ気にならない。だからこのところずっと旧刊ミステリばっか読んでたが、それでもさすがにすでに買っちゃった本のうちの何冊かは、もうちょっと消化しておこうと思って手に取った一冊であった。 しかし年に二冊も新刊でリン・ブロックが出るって、数年前の自分に教えたら、バカバカしい冗談だって、大笑いされたろうな。 訳者さんは現状、あと2冊はゴア大佐ものの翻訳を予定してるようなので、楽しみ(?)に待ちましょう。 【2025年3月15日追記】 急いで読んだけど、この本、実売は2024年の末ながら、奥付が2025年1月なので、SRの会の中では、2025年度の新刊扱いになるらしい。ギャフン。 |
No.2172 | 5点 | 大聖堂は大騒ぎ- エドマンド・クリスピン | 2025/03/10 18:51 |
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(ネタバレなし)
すでに世界大戦で多くの被害が出た、1940年代半ばの英国。40代で独身の作曲家ジェフリイ・ヴィントナーは、地方のトルーンブリッジの村に向かう。そこでは大聖堂のオルガン奏者が何者かに襲撃されて重傷を負い、代わりの奏者を求める話があった。一方で同じ村にはジェフリイの大学時代の学友ジャーヴァス・フェン教授が滞在しており、彼からの呼び出しもあった。二つの案件がらみで村に赴いたジェフリイは、そこで奇妙な密室空間での怪事、そして新たな殺人事件に遭遇する。 1545年の英国作品。『金蠅』に続くジャーヴァス・フェンものの長編第二弾。 ディクスン・カーの『眠れるスフィンクス』の<密閉された地下霊廟の中で動かされた棺の謎>を想起させる、巨大な石の墓碑が密室的な空間のなかで倒される? 事態。謎の提示としてはすこぶる王道で、面白そうである。 ただ先に読んだ『金蠅』が<地味そうだけど、意外にそこそこユーモアもあって面白かった>のに比べ、こちらは外連味や好テンポで開幕する導入部で作品への期待値が当初からそれなりに上がってしまう分、全体のストーリーの実際の盛り上がりのなさに、いささかガッカリした(中盤の新たな殺人など、イベント性はあるのだが)。 あと犯人は意外といえば意外ではあったが、個人的には思う所も多く、あまり素直にミステリとしてサプライズやロジックの妙を楽しめない。 (その事情を書いてしまうとネタバレになるかもしれない~ならないかもしれない~なので、控えるが。) 個人的には戦時色が物語に相応に影響したのは、良し悪し。こないだ読んだ、ようやく発掘された未訳編『列をなす棺』よりは、トータルでちょっと上かな。まあそんな感じでした。評点は実質、5.5点。 |
No.2171 | 7点 | 廃墟の東- ジャック・ヒギンズ | 2025/03/08 08:22 |
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(ネタバレなし)
1960年代半ばのグリーンランド。「わたし」こと、かつてアル中になりかけながら克己した30代半ばのパイロット、ジョウ・マーティンは、自分の所有するオッター水陸両用機で、個人営業の輸送業を営んでいた。そんな彼と若いパイロット仲間のアーニイ・ファスバーグのもとに、ロンドンの保険会社の者と称する調査員から依頼がある。それは一年以上も前にグリーンランドの氷原に不時着した輸送機の調査だった。輸送機の内部には二人の男の死体があったが、さる学術調査隊が彼らを発見。埋葬したのち、その情報をロンドンに持ち帰ったことから、その死体が行方不明のとある人物のものではないかと思われたらしい。マーティンは仕事としてこの案件に関わるが、やがて事態は意外な真実を見せていく。 1968年の英国作品。 すでに「ハリー・パタースン」「マーティン・ファロン」「ヒュー・マーロウ」の三つの名義で20冊以上の著作があった作者ヒギンズが、初めてその「ジャック・ヒギンズ」名義にて上梓した長編。 (『獅子の怒り』と『闇の航路』の方が先だと思っていたが、そっちは原書では別名義だったみたいね!? 『鋼の虎』はどーなんだろうか?) 評者は今回、元版のハヤカワ・ノヴェルズ(HN)版で読了。 二段組で活字みっしりの字組ながら、総ページ数は170ページ弱とやや短めの長編。だがグリーンランドの北海や氷原の叙述には、英国冒険小説界の先輩ハモンド・イネス御大に通じる重厚な自然描写の厚みがあり、当時ここでまた新規のペンネームで新作を綴る作者の意気込みを感じさせる。 脇役として、百本以上の映画に出ながら今は一線からやや身を引きかけた老俳優ジャック・デスフォージが強烈な存在感を発揮。一応は主人公マーティン側だが、やがて物語が進むにつれて微妙に変遷してゆくその立ち位置と、最後の決着ぶりも読者の読みどころとなる。 さすがこの時点で実質的に20数冊の著作があるベテラン作家、総じてお話の転がし方も登場人物の配置もうまいが、後半、とあるターニングポイントの場面で「え!?」と驚かされた(もちろんここでは、どーゆー方向や成分のサプライズなのかは言わない)。 なんかこの辺も、すでに書き慣れた感じの作者が、新規の筆名の著作のなかでいかに読み手を沸かせるか、ニヤニヤしながら仕掛けてきた感じで面白かった。 クロージングのある種の抒情性は、のちのヒギンズの某作品でリフレインされる種類のものだが、そっち(そののちの作品)で割と印象的に語られた文芸テーマの萌芽がすでにこの段階であったと認め、長年のヒギンズファンの末席には、ちょっと感慨深くもあった。 いずれにしろ、短めながらコンデンス感の高い、イネスばかりかどことなくライアルっぽいティストもある、佳作~秀作。 作者のファンなら、いつか一度は目を通しておいて欲しいとは思う。 |