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人並由真さん
平均点: 6.36点 書評数: 2341件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2341 5点 ネッシー殺人事件- 友成純一 2026/06/19 17:05
(ネタバレなし)
 東京都の一角。老舗の米屋の長男で一浪してW大の理学部に入学した19歳の戸田雷太は、 両親が多角経営するアパートの一室で高校の友人、田中良と鈴木高雄と酒盛りしていた。雷太は同じ大学の学友で、スコットランドのネス湖にともに出かけた総勢5人のメンバーのひとりでもある女子・麻生ちえ子を宴の場に招いている。だが気が付くと田中が血まみれの惨死体となっており、雷太はネス湖の周辺から持ち帰って来た<あるもの>が無くなっているのに気が付く。

 エログロ&変態猟奇趣味で有名で、広義のSF&ホラーの著作もかなり多い作者だが、その作風の凄まじさのせいか本サイトにもいまだ登録がない。作者ご本人は破天荒な作家人生を送った末に数年前に他界されたようですが。
 評者はだいぶ前に角川ホラー文庫の書き下ろし長編『幽霊屋敷』を読んで、そのあまりのグロさと後味の悪さにげんなりした記憶がある。ああ、思い出してしまった、あの作品。

 そんな作者が80年代の終盤から90年代の初めにかけて講談社ノベルスで出したのが、広義の怪獣をテーマにした「怪獣シリーズ」三部作。本作は『放射能獣ーX』『インカからの古代獣Ⅴ』に続くそのシリーズ三作目で最終編。一本一本はノンシリーズで世界観も繋がってないはず(初代ゴジラのほぼ80年代版バリエーションみたいな『X』は出てすぐ読んだけれど、伝奇オカルト要素がはいるみたいな『V』はいまだ未読だが~まあそのうち読んでみたくなってきた)。
 で、本作『ネッシー』の方は、巨大怪獣が猛威をふるう二作と差別化し、エイリアンの幼獣みたいなネッシー(最終的に数メートル程度)が都内で殺戮を繰り広げる内容。

 怪獣に食い殺される被害者のグロ描写はあるが、そのバイオレンスぶりにしてもこの作者にしてはまだおとなしい方のはずで、さらにエロ要素は皆無。著者のイカれた作品ばかりの著作群のなかでは、比較的地味な方であろう。

 というか、あっという間に怪獣騒ぎの事態は終着(ラストがどうなるのかはナイショだが)しちゃう筋立てで、むしろ中盤で時系列を戻して語られるスコットランドでのネス湖の現地探求のくだりの方が臨場感(さらに昭和のUMA学術研究的なロマン)があってオモシロイ。

 トータルとしてはよくも悪くも他愛ない、日常社会に等身大+αサイズの怪獣が出現したら、というシミュレーションSF。
 人死に続出の凄惨な事件ながら、主要人物たちの描写の方にうっすら泥臭いユーモア味はあるので、まあ口当たりはよい。評点はこんなもんでしょう。
 いくらでも伸びしろはあったのに、作者のやる気があまり感じられなかった作品といえるかも。
 他国の怪獣を国内に持ち込んでしまった主人公たちの責任意識の所在という隠れテーマは『ガメラ対バルゴン』をちょっと想起させないでもなかった。

No.2340 6点 昭和御前試合- 清水義範 2026/06/14 18:23
(ネタバレなし)
 光文社文庫版で読了。
①『昭和御前試合 』
②『怪盗光小僧 』
③『逆らうな』
④『振らずの辰』
⑤『識者の意見』
⑥『人材発見システム』
⑦『快楽インフェルノ』
……の7編を収録したSF中短編集。

 現状のAmazonの登録データにはない元版(収録内容は同一。CBS・ソニー出版/1981年5月)は作者の初めての本格的な著書(書き下ろしの短編集)だったらしい。もっともそれ以前から作者は、会社員の傍らでゴーストライターなどの文筆業の経験はあったようである。

①……のちの近未来(?)から、昭和文化を観測。各種競技勝負の複数のドキュメントを現実の史実とは異なるハチャメチャな情報で、しかしそれが真実であるという思い込みのもとに語った疑似現代史ものふうの歴史小説(的なギャグSF)。

②……あー、ネタは『ガス人間第一号』だね。ヒロインとの悲恋部分は割愛だけれど。偶発的に超人になった主人公が劇場犯罪にのめりこんでいくあたりとか、まんまの流れ。ラストは妙にシリアスでシビア。

③ある種の選民に支配される人類文明を描いた、ブラックユーモア的なディストピアもの。『デス・ノート』のキラが大手を振って歩いたら、こういう風になるのだろう。

④マージャン作品。テーマは妖怪「サトリ」への対抗もの。

⑤未来世界(20世紀以降の現代)から音声のみのアクセスで、仇討ちコメンテーターとして常時意見を求められるようになった大石内蔵助の話。ショートショート。

⑥人事テーマの短編SF。社会風刺ものと言えないこともない。

⑦セックスや出産が超合理化された未来での社会派ドラマ。お話にちょっとした構成上のギミック。

 就寝前&病院の待合室でのお供本。個人的には原典への思い入れ込みで②が良かったが、③のぶん投げたような作劇、⑤のナンセンスぶりもなかなか。①も部分的には対抗相手のマッチングネタで面白い。
 それなりに楽しかった。

No.2339 6点 緑のマント- ジョン・バカン 2026/06/11 21:29
(ネタバレなし)
 1915年11月。のちに第一次世界大戦と呼ばれる大戦の前線で負傷し、英国に戻っていた「私」ことリチャード(ディック)・ハネー少佐は、知己である外務省の要職ウォルター卿に呼び出される。用件は、少し前にウォルター卿のもとに、一人の諜報員が何やら中東情勢に関連する情報をもたらして死亡した。遺された紙片には「カスレディン」「キャンサー」「V・I」と3つのキーワードが記されている。実はその諜報員とはウォルター卿の実子ハリイ・プリヴァントであり、息子のもたらした情報が重要な意味があると信じる父の思いをハネーは認めた。ウォルター卿の依頼はトルコを含むドイツ陣営に潜入し、キーワードの意味を探り、その奥に潜む謀略を断つこと。ハネーは、戦友である「サンディ」ことスコットランド人のルドウイック・アーバスノット、そしてウォルター卿に紹介された歴戦のスパイ、アメリカ人の巨漢「ジョン・S」ことジョン・スキャントルベリイ・プレキロンとともにチームを組み、それぞれ偽名とニセの立場を詐称して敵陣営に潜入するが、彼らの前には長い長い冒険と危険の旅路が待っていた。

 1916年の英国作品。
『三十九(39)階段』(1915年)に続く、リチャード・ハネーシリーズの第二弾。
 第一作は何しろ創元文庫でも筆頭の薄さなので割と読まれるが、こっちはいつまで経っても本サイトの誰もレビューを書かない。
 という自分も、大昔に購入したはずの創元文庫が例によって家の中のどっかに行ってしまい、1~2年前に改めて筑摩の「世界ロマン文庫」版(訳者は同じ菊地光)を買い直した。それでこの数日、時間をかけて読む。
 
 で、内容だが、何しろ現実に毎日前線で戦死者が出ている大戦下での物語なので、あまり砕けた話にはならず、前作のようなどこかすっとぼけた英国調ドライユーモアは控えめ(まったく無いわけじゃなく、最後に明かされるタイトルロール「緑のマント」の含意なんか、完全にある種のサタイアだろうが)。
 というわけで<『三十九階段』パート2>的なお気楽さ? で読むことはまったく推奨できない一冊だが、まあこれはこれで、欧州諸国を基本は単独行動、のちに仲間と合流……のハネーのロードムービー的冒険譚としては決して悪い作品ではない。
 まあ第一次大戦時の連合国と同盟国の所属国家と陣営の関係性など最低限の近代史的な知識は最低限あった方がイイネ(西洋史に弱い自分は、その辺の予習を抜きに読み進めたので、いささかシンドく、そのために読了に数日かかった)。
 
 とはいえ前半からハネーのピンチ、敵役に追われながらの逃亡行のサスペンスとスリルなど十分だし、一難去ってまた一難……の物語の起伏感も、一世紀以上前の新古典ながら、こちらにページをめくらせる求心力はなかなかのもの。一部、助かり方が甘い場面もないではないが、まあその辺はクラシックスパイ冒険小説とすれば、こんなもんでしょ、とひいき目で許せる範疇だ。
 後半3分の1、くだんのキーワードにからむキーパーソンが登場するが、これがまたなかなかキャラが立った人物で、ああ、バカン、このキャラを描きたかったんだね、という感じも強い。その当該人物の周辺で、前述の「緑のマント」にちなむ意外な用法(……というべきだな?)があるのには、小説の貫録みたいなものを実感させられる。
 ハネーが任務中に再会した某キャラクターの山場での活躍~逆転に至る流れもサスペンス横溢で、先に「これはのちに、その彼から聞いた話であるが……」の形式でクライマックスを語り、とにかくこの物語は(ほぼ? 完全に?)ハッピーエンドに終わるんだよと予期させながら、最終パートを盛り上げていく作劇も安定感がある。
 某悪役キャラの凄絶な最期は、リアルでまだ大戦が続くなか、作者が英国の同胞の読者たちに読ませたかった一幕だろうねえ。
 
 つーわけで、それなりに歯応え(ある種のシンドさ)はあるものの、やはりオールタイムの英国冒険小説、スパイ小説に関心のあるミステリファンなら一度は読んでおいた方がいい歴史的な作品だとは思う。
 さて、ハネーものの次は大冊『三人の人質』か。こっちは読むのはいつになるのやら?

No.2338 6点 - 岩下俊作 2026/05/29 06:35
(ネタバレなし)
 サンマータイム制度(昭和27年4月に廃止)がまだ採用されていた昭和20年代。その年の9月10日から11日にかわる深夜。九州の小倉の海岸で、とある中年男の死体が見つかった。死体の頭部に縄が巻き付けられていたことから当初は絞殺かと思われたが、ほどなくして検死で死因は青酸カリによる毒死だと判明する。だが死体の身元は杳として判らなかった。所轄の磯部次郎太警部と唐原警部補は、他殺と、自殺後の別人による死体遺棄、その二つの可能性で捜査を進める。一方で検死に関わった私立病院の内科系の若手医学士・菊池とその同僚の精神病理学の医学士・山田はともに素人探偵の立場から事件を考察。医学士コンビは死体の周辺にあった文書の「金魚」のキーワード、そしてイニシャルらしき「A・B」の文字から推理を始めるが。

『富島松五郎伝』……といってもわかりにくいね。つまり映画『無法松の一生』の原作小説、その作者である岩下俊作が書いた(たぶん)唯一の長編推理小説。
 いや、私だって『富島松五郎伝』は読んでない。大昔の少年時代にテレビの映画劇場で、三船だか阪東妻三郎だかの映画版(ともに稲垣浩監督)のどっちか(たぶん前者だと思う)を観て、未亡人のヒロインに無器用な思慕を捧げる主人公の純情を、コドモ心ながらになんとなく理解してジーンとなった程度である。

 それでネットとかでも、ほとんどレビューがない本書。おそらくは作家・岩下俊作の著作のなかでは余技に属する作品なのではあろうが、誰も読まないでいつまでも放っておいていいの? という気分で昨夜からページをめくり始め、紙幅のほぼ半分ずつ、二日かけて読了した。今回は、1958年の五月書房の箱入りハードカバー(たぶん元版)で読んだ。そーいや、この本、死んだ父の蔵書にあったな。どっか行ってしまったから、ネットで古書を安く買ったが。

 物語の大筋はプロの警察勢の捜査と、素人探偵コンビの調査を織り交ぜながらよくいえば丁寧に、悪く? 言えば地味に渋く進め、読み手としてはその与えられる情報の軌跡に黙って付き合っていくタイプの読書。当然、事件容疑者や関係者らしき対象も際限なく拡張し、読者側が謎解きの推理を楽しむ性格の作品とはあまり言えない。
 それでも戦後からまだ時間の経たない昭和20年代の九州の叙述にはそれなりに独特な興趣と風格があり、ローカル描写だけでもソコソコ楽しめる。CSで話術のうまい白黒の旧作邦画を観ているような面白さというか。
(個人的には、小学生時代に社会科の教科書で読んだ八幡製鉄所の臨場感ある描写~戦前の4万人近い住人を抱えた工業都市~が素で興味深かった。)

 一方で作者も、さすがにミステリ作法の勘所をツメきってはいないため、かなり紙幅を費やした割に読者はあまり意味のある情報をもらえない、という面もある。それでも中盤で、ああ、これがキーパーソンだな、という人物が物語の表に出てきてからは、作者のプランニングが動き出す感じで、筋運びに一応の勢いはかかるが。
 あと当然ながら、登場人物は多いよ。名前があるキャラクターだけで60~70人に及ぶ。
  
 とはいえ作者もミステリ的なトリックは中小、いくつか用意してあり、それぞれ別個の国産ミステリの名作を連想させるものではあるが、それらからさらに少しひねってあるのは評価できるだろう。まあそこを目当てに読むようなトリッキィなパズラーでは決してないが。

 最終的には謎解きミステリ、というよりは事件の奧にある人間ドラマの叙述に重きが置かれてしまった傾向の作品だが、これはまぁ、作者の素性(あくまでこっちもネットのデータで知ってるだけだが)からしてそうなるだろうな、という手応え。それ自体をそういうものだろう、と了解するなら、まぁ決して悪い出来ではない。たぶん。
 
 読んで面白かったか、良かったか、といえば、イヤミやあおりでなく、まあ肯定的にソコソコ。しかしそれ以上に、昭和ミステリファンとして、読んだだけでちょっと自慢したくなるような、そんな、一見、敷居の高そうな? 作品で一冊であった。

No.2337 6点 奇妙な殺し屋- ハンプトン・ストーン 2026/05/27 12:42
(ネタバレなし)
「わたし」ことニューヨークの地方検事補のマックは、同僚(ただし別チーム)の地方検事補ジェレミア・ザビエル・ギブソン(ギビー)から、彼の懐中に怪文書が投げ込まれていたことを聞かされた。その内容は、骨折技で殺人を行なう犯罪者が試験的に他者を傷つけてみたい、といった思いを述懐する主旨の文面だった。当惑するギビーとマックだが、やがてギビーが常用するタクシー運転手で25歳の若者ハーブ・バクスター(ハーバート・クインシー・バクスター)が仕事中に襲われ、殴打されて失神中に手首の骨を折られるという事件が生じた。ハーブの証言から、襲撃者が特徴的なヒゲのある男だと認めたギビーとマックは、先の怪文書との関連を考えて捜査に乗り出す。やがて彼らは某所で不審な人物を見つけた。

 1967年のアメリカ作品。
 シリーズ探偵である地方検事補ジェレミア・X・ギブソンものの長編第15弾。
 シリーズは1948年から開幕のようで、1972年に本書が邦訳されるまで、すでにそれなりに本国では人気と評価を集めていたと思われるが、結局、本シリーズの日本への紹介はこの作品一冊に留まった(ちなみに本書は、ペーパーバックでシリーズ全体がまとめて本国でリプリントされた際に看板作品になった一編だったようだ)。

 作者ハンプトン・ストーンは、旧クライム・クラブでも『警官殺し』の邦訳がある警察小説シリーズ「シュミット警視シリーズ」の著者ジョージ・バグビイの別名。バグビイには密室殺人ものの未訳のパズラー『リング・アラウンド・ザ・マーダー』(1936年)という作品もあり、鮎川哲也の短編『矛盾する足跡』の中で話題にされている。いずれにしろ、日本ではマイナーで不遇な作家だ。

 本作の邦題は「殺し屋」を謳うが、怪文書の内容は殺人の常習性は感じさせるものの、職業的殺人者というニュアンスは薄く、ちょっと邦訳出版のタイトリングにしくじった感もある。
 いずれにしろレギュラー探偵のポケットに怪文書が巻き込まれて開幕する物語の掴みはそれなりの外連味があって、ちょっと面白い。
 殺人らしい殺人はなかなか起きず、前半~中盤の現実的な犯罪は青年タクシードライバーで美人の奧さんサリーがいるハーブの傷害事件のみ。渋いといえば渋い地味な展開だが、怪しい? ヒゲ男のキャラクターがなかなか立っていて、主人公コンビとの関りで結構飽きさせない。

 終盤で明らかになる事件の構造は意外といえば意外で、なるほどとも思う一方、外から犯人の行動の軌跡を考えるとかけた労力のコストが悪かったんじゃないかな、という気分も生じないでもない。まあギリギリか。マンハッタンの中流家庭や、事件の捜査の上で関わってくる図書館のロケーションやタクシー業界、それらもろもろの風俗描写は臨場感があってそれなりに楽しめた。佳作の中くらいか。

No.2336 5点 デビルズ・アイランド- 西村寿行 2026/05/26 05:55
(ネタバレなし)
 瀬戸内海にある、高齢者ばかり約40人が暮らす小島「黒島」で、ある夜、85歳の老婆・米倉カズミが変死を遂げる。老女は周辺に何の高所も無い場所で、50メートル前後の高さから墜落して惨死していた。ついで88歳の老婆・小脇ノブ代が、6メートルの高さの巨木での早贄のような姿の惨死体として発見された。香川県警と県知事、さらには中央からの調査隊と司法機関が動く中、島では30年前の怪事件に関連するらしい巨大な牡牛が、発光体の変幻として出現。人類はこの島を「デビルズ・アイランド」と呼び、何らかの未知のエネルギーが意志を持っている可能性を視野に入れるが。

 角川書店創立50周年特別作品。雑誌「小説王」1994年9月号から翌年1月号に連載ののち、「野性時代」95年4~7月号に後半が掲載された。

 新本格によくある序盤の謎<不可思議な墜落死>から開幕するが、別段トリッキィなパズラー作品という訳ではない。
(たぶん一部の謎というか怪死の事情&真相は、最後まで読んでもよくわからんよ。)

 おそらく作者はガイア理論あたりに基づくホラー風SFを想定しながら本作を書いたんだろうが、超自然現象に対して人類側が本腰を入れて解明? にかかってるかと思えば、中盤でこりゃ手に負えない、と舞台の島を事実上の放置。さらに上陸禁止の規制を緩やかにして、勝手に入ってきた人間を犠牲にいろんな臨床例の科学データをとっていこうと、中央政府がとんでもないことを考えはじめる。
 で、そこからはいつものエロでバイオレンスの寿行作品……にまとまるかと思いきや、結局は、割とぶっとんだ方向に雪崩れ込んでいく。
 
 面白いか面白くないか、と言われても正直困る内容で、とにかく妙なものを最後まで読まされた、としか返答のしようがない。まあこの奇妙な味わいでどっかトリップした感覚もあるので、そういう意味では一応はオモシロかったのかも!?
 後期~晩年の寿行作品なら、まだまだこの手のものに出会いそうである。

No.2335 7点 扉の影に誰かいる- ジャック・ロベール 2026/05/25 19:07
(ネタバレなし)
 1967年のフランスの港町ディエップ。そこに住む「私」こと42歳の小説家ルイス(ルイ)・ジョフロワは、パリの兄に会いに行くという31歳の美貌の妻ビュスを見送る。だがルイは、ビュスが実はパリにいる愛人に会いに行くことをひそかに確信していた。妻が去った直後、自宅の前に、30歳代の記憶を失ったと称する青年が来訪。彼を自宅内に迎え入れたルイは、青年を「ユリス」(ユリシーズに由来)と呼び、ある計画を講じる。

 1967年のフランス作品。
 物語の舞台を英国に、主人公の職業を作家から精神科医に変更してアンソニー・パーキンスとチャールズ・ブロンソンの主演でフランスで製作された劇場映画(71年)の原作。小説は映画の日本公開に合わせて同71年に翻訳された。

 怪しく危なげなタイトルが昔から気になっていた作品だが、いまだ映画は観ていない。
 じゃあ先に原作を読もうと思って、古書で帯付きの状態のいい一冊を手頃な値段で購入。昨夜読んだ。

 本文一段組で級数も大きめの活字で200ページ。標準的な、あるいは気持ち長めのフランスミステリだが、意外に仕掛けの手数が多い、トリッキィな作品。

 腹に一物抱えながら浮気妻(?)を送り出した中年作家の主人公が、怪しげな記憶喪失の青年を自宅に迎え入れる前半の時点から物語の掴みは確かだが、さらに中盤以降も、一人称の話術の巧みさで読者を乗せていく、そんなドライブ感にも並々ならぬものがある(なお、読者視点で不審を覚える箇所がたぶんあると思うが、そこは……ムニャムニャ)。
 で、そんな物語の流れに付き合っていくと……! ! ? ? !

 いわゆる「二度読み必至」な内容で、けっこうキワドイ(アンフェア気味? な)叙述もあるとも感じたけれど、本作はそこが楽しみどころなので、文句を言うのもヤボではあろう。
 あとはそれぞれの読者がどこまでオッケーで、どこからダメか、だね。
 自分はトータルで、なかなかいいんじゃないの、と思った方。
 まあ(中略)という、話の構造的な弱点はあるかもしれないが。

 古書店とかで安く見かけ、あらすじを読んで面白そうかな? と思ったら、試しに一度読んでみてください。

No.2334 6点 悪人志願- 大下宇陀児 2026/05/24 07:24
(ネタバレなし)
 入試の難関率で名高い「蛍雪学院」の学院長・大原省造は、自宅の呼び鈴を押す子供たちの連日の悪戯に悩まされ、転居を考えていた。それと前後して大原は、市内の人工温泉施設で不良少年の一派と出会い、その挙動にひとこと注意を入れる。だが……。

 作者の戦後10番目の長編で、昭和34年12月に桃源社から企画ものの叢書「書下ろし推理小説全集」の一冊(第2巻)として刊行された作品。

 前書きや化粧箱の作者のことばで<テーマは非行少年><謎やトリックはほとんどない>と明言しており、本書の2年前に初訳が出たグレアム・グリーンの『ブライトン・ロック(別題『不良少年』)』あたりに影響を受けたんじゃないの? と邪推する。
 同時に作者は<倒叙型に入るかもしれないが、むしろ犯罪小説>と言った方がいいとも述べており、まさにそのまんま。
 
 社会派ミステリ的に<こんなワルな子供になったのも、みんな大人や世の中が悪いのよ>的なメッセージも読み取れなくもないが、まああまり本腰を入れているとは思えず、さらに前述『ブライトン・ロック』のような神学にからめた格調の高さめいたものもないが、それでも登場人物の配置や細かい機微、微妙な物語の起伏の妙……などなどで、ソコソコ面白く読ませてしまうのは、さすがの職人芸。まあブンガクっぽい通俗小説、だとは思うけれど。
 
 元版(これしか無いか?)を古書市で330円で購入して、巻末に短編『醜聞』が併録されていた。そっちは動機の理屈付けに妙な食感があり、乱歩のセレクトする海外短編「奇妙な味」系のテリトリーにちょっと近いかもしれない。

 評点は0.3点ほどオマケしてこの数字で。

No.2333 6点 乾いた季節- 三好徹 2026/05/22 05:31
(ネタバレなし)
「東洋新聞」社会部の遊軍記者で33歳の門田は、近づく選挙戦を前に各々の政治運動をする立候補者たちの間を記事ネタ探しに飛び回る。そんななか、彼は60歳の不動産業者で民友党の立候補者・堀越栄造の周辺にただならぬ気配を認めた。やがて堀越の若い妻・29歳の美也子が何者かに誘拐されたらしいと知った門田は、さらなる調査を進めるが、警察側は報道の自粛を求めた。そんななか、事態はさらに次の局面にと。

 事情通のミステリファンには有名だと思うが、劇中のアイデアのひとつが同時代の別作品と類似性があったため物言いがついた長編。暗合の事実は本当に偶然だったらしいが。その辺の事情もあって、作者は元版(昭和37年12月 河出書房新社)だけで封印した作品のようである。その後、文庫などでの再刊もされていない。

 で、十年くらい前にヤフオクで購入した本が乱丁(同じ折が重複して製本されていた)だったため、出品者から返金してもらい、さらに返送不要と言われたので、そのキズ本が手元にあった。そのうちその欠損していた頁の正規の分だけ、国会図書館経由などのサービスでデジタルコピーでもしてこようか? とずっと思いながら放っておいてあった(汗)。
 そしたら、今から一年ほど前の古書市でマトモなのが550円で見つかったので、そっちを再購入。で、今夜ようやく読んだ。

 一段組、大き目の活字で全部で250ページ弱。しかも三好徹の簡素な文体だからサクサク読める。
 で、中味の方は、終盤までなかなか事件の実態が見えず、どーなるんだ、これ? と思っていたら、かなり強引な手際を2つ3つ使ってまとめに入った。トリッキィといえばトリッキィな作品ではあるが、正直あまりこなれはよくなく、しかもつまりソレとソレの同時多発? って偶然、あるいはそこから始まった? も明らかにならないまま主要人物が(中略)してしまったり、やや、う~ん……、な出来。
 アイデアそのものにはもっと使い方次第で伸びしろがあったのに、作者の練り込みが不十分で秀作になりそこねた作品、という感じ。
 逆に言えば得点要素だけ拾えば、なんとなく良作のように思えなくもないのだが。

 評点はそれなりにオマケしてこの数字で。
 5点と割り切るにはちょっとキツイのは確か、ではある。 

No.2332 7点 薄氷の沼- 笹沢左保 2026/05/21 04:06
(ネタバレなし)
 その年の8月。32歳の美貌の人妻・大花麻奈加は3月からひそかな不倫をしていたが、その事実を37歳のコンピューターエンジニアである夫・公二郎に気取られ、浮気妻として折檻を受けた。公二郎への怒りに燃える真奈加は、愛人である野球選手で29歳の三井田光司の前で、夫への殺意を口にする。やがて夫からの二度目の加虐を受けて憎悪をたぎらせる真奈加だが、そんな彼女の前にひとりの男がある提案を持ちかける。

 光文社文庫版で読了。主題は(中略)もので、それは裏表紙にも書かれているが、ここではナイショ。

 例によってのレディスコミック調・笹沢エロロマンミステリで、2時間弱で一気読みできる内容なのだが、なんだろう……シンプルなプロット、たぶん大ネタを途中で察する人も多いんじゃないか? とも思うものの、妙に面白かった(笑)。
 たぶんこの手の趣向ものなら、こういうヒネリのある作品が読みたい、と思っていた以前からのこちらのミステリファン的な想念にある程度応えてくれていたから。しかもその上で、一応は<さらにまた別のサプライズ>の箇所に着地したから、だと思う。
 
 解説(文芸評論家の清原康正という人~すみません、今回初めて、お名前を知った)にもちょっと書かれているが、作劇の構造上、少しだけ違和感があるポイントがあり、終盤でそれがちゃんと意味を持って来るあたりもいい。ラストの余韻もなかなか。

 甘い、とは自分でも思いながら、0.5点オマケして、この評点で。
(まあ、なんで自分がこの作品に好意的なのかは、なんとなく自己分析できる? ような気もする。あえて他人には言わないけれど。)

No.2331 6点 地獄の椅子- ヘンリイ・ケイン 2026/05/20 09:51
(ネタバレなし)
 その年の10月のその夜。「私」こと36歳の私立探偵で、元敏腕刑事のフィリップ・スコフォールとの共同経営でNYに事務所を構えるピート・チェンバースは、顔なじみの賭博業界の大物ヴィッギィ・オシエア(ジョン・J・オシェア)に呼び出された。チェンバースが赴くとそこには男性2人、女性一人の死体があり、オシェアは無実を主張。彼はチェンバースに、今回の件の発端となっ貴重品の話題を切り出した。それはナチスの秘密財産だった、そして欧州を介してNYに搬入された、さる高価な壁掛けの存在だった。

 1948年のアメリカ作品。『マーティニと殺人を(ドライ・ジンと殺人を)』に続くチェンバースものの長編第二弾。日本ではこちらの方が先に翻訳された(ポケミスの初版は昭和30年12月)。

 少年時代に古書で購入して何十年も眠らせておいた一冊だが、気が向いて引っ張り出して読む(あーあ、裏表紙が取れてしまった……涙)。

 大都会を舞台にした宝探しテーマの私立探偵小説ということで、当然『マルタの鷹』やらジョン・エヴァンズの『悪魔の栄光』あたりが連想されるが、たぶんその辺りとはちょっと~相応に毛色が違うだろう(なんで無責任な言い方をするかというと、後者はやはり少年時代から思い入れのある一作ながら、いまだにまともに読んでないから・汗……ただし大筋は、小鷹信光のあまりにあまりに詳細なダイジェスト紹介&評論で知ってはいる)。

 だいたいマクガフィンの壁掛けの扱いからしてちょっと変化球で、この辺は一応黙っておくが、話の焦点はむしろお宝の搬入にからんだ暗黒街の顔役やその周辺の面々とチェンバースの丁々発止のやりとりの方にあり、一方でさらに事件が拡大。終盤は序盤から持ち越された殺人事件のフーダニット的な解決がヤマ場(のひとつ)となる。

 中田耕治の訳は『マーティニ』とは別の意味で読みにくく(まあ70年前の翻訳だからね)、話を追うのに難儀するが、中盤でチェンバースが危機にあってから以降はなかなか面白い。

 で、そのチェンバースが、顔役の用心棒に反撃する際の内面での物言い
「私立探偵は、まず、二倍のお返しができない限り殴ったりしてはいけないのだ。これがわれわれの無惨なゲームの規則になっている。もし、そうでないと、商売があがったりになる。咽喉をやられて血を出すようなことは沽券にかかわることだし、一旦評判がガタ落ちになるともう恢復できないのだ。男はそういうことを言い触らすのだ。女どもが井戸端会議でゴシップを言い触らすように。こうなったらおしまいだ。」
 ……いや、まんまサム・スペードの行動原理だね。ちょっとグッとくる。
(日本の渡世人やらヤクザに通じるものだろうが。)

 しかしNYの当時の風俗商売(バーやナイトクラブほか)や裏社会の叙述が実に潤沢で、それだけで全体の紙幅の数割を使ってるんじゃないか、と思うほど。小説のなかのそういう方面で、異国の臨場感を探りたいような向きには、かなり興味深い作家で作風だろう。
 とはいえチェンバースものの翻訳が二冊で止まっちゃったのも、ちょっとわからないでもない。なにしろ、この辺のロケーション描写、日本人読者には(私も含めて)敷居が高い面もあるだろうしなあ。反面、そこが海外ミステリ、翻訳小説としての妙味のひとつ、というのもまた正論なんだけれど。

 で、ラストのフーダニットに繋がるホワイダニットは、ちょっと屈折した文芸味……みたいなものが用意されており、その辺にある種の作品の格調の高さを見やらないでもない。その辺りで評価を稼いだんだろうな、ということも、まあ分る。佳作以上~秀作未満、かな(古くなった翻訳で減点してしまうが)。

 ちなみにタイトルの意味はよくわからない。
 普通に考えれば殺人犯を処刑する電気椅子の意なんだろうけれど、特に劇中に登場しないし、読み落としているんでなければ暗喩、でも出てこなかった。読む前はライスの『幸運な死体』みたいな設定か、あるいはそれを思わせる展開が途中か終盤にでもあるのかな、とか考えていたのだけれど。

No.2330 5点 花実のない森- 松本清張 2026/05/17 07:13
(ネタバレなし)
 たまには清張でも……と思い、古書市で300円で買った、元版のカッパ・ノベルス(昭和49年4月で106版……すげぇな)を手に取る。だが挿し絵(作画・堀文子)はあるものの、ほぼ全部、昔のポケミスの抽象画みたいであまり楽しくない。いっしょに買った別の清張の同じ叢書の方は、普通のペン画の挿し絵なんだが。

 本サイトでは悪評プンプンなので、ほほう、と思いながら半ば怖いもの見たさで読みだした。なるほど主人公は感情移入なんかしにくいキャラクターだが、作戦に利用した恋人に時たま「心から感謝」したりする。人間臭いというより小物っぽいが。
 
 主人公の追跡行のファナティックぶりは、なんかレンデルのニューロティック・サスペンス(サイコ)スリラーに一脈通じるところがある。たぶん清張はその辺は無自覚だったとは思うが(もしそうなら前述のような中途半端な人物造形はしないよね?)、作者自身が意識的にこの辺を最初から押していたら、もっと違った方向で結晶度が高まったのではないか。

 それでもキーパーソンであるメインヒロインの秘密は? そもそも事件? の構造は? という意味ではそれなりの求心力を感じた。で、ラストは意外といえば意外ともいえる決着だが、冷静にアタマを冷やして考えるなら、いわゆる大山鳴動して鼠一匹というヤツかもしれない。
 最後のエピローグもやや曖昧だね。こっちの思ってる通りでいいのかしらん。
 それでも全体としてはソコソコ楽しめたかな。この点数で。

 しかし主人公が歩き回れば、出会う人物人物がみんなベラベラよく喋って、情報をくれるのには笑った。うん、不適切な昭和のミステリ(笑)。

No.2329 6点 七歳の告白- 土屋隆夫 2026/05/16 21:20
(ネタバレなし)
 ブックオフの120円棚(値上げの時代だね……)で、少し前に入手。
 電車の車内や病院や銀行の待合室、就寝前とかのスキマ時間に読むのはもってこいのバラエティに富んだ短編集。

『白樺タクシーの男』は、昔、日本版EQMMで読んだ某・国産作家の一編を思い出す味わいで、作者はこういうものも書いていたの? と軽く驚いた。
 ベスト編は、コピー機の脇で長時間作業をしながら読んだ『奇妙な招待状』。これは完全にスキを突かれて背負い投げを決められた。秀作。
『暗い部屋』は乱歩の『芋虫』を思わせる身障者ネタ譚。向こうほどの奇妙な詩情はないが、それでも独特の味わいがある。
 あと皮肉なオチ系の作品は一編一編は良いのだが、何作か散在するので作劇のベクトルをやや意識してしまうのはちょっと……であった。まあ贅沢な悩みか。
 あと『狂った季節』は狙いはわかるような気がするが、もうちょっとシャープにわかりやすくしても良かったような?

 トータルしての評点は、7点に近いこの点数で。

No.2328 6点 やとわれインターン- ローレンス・オリオール 2026/05/15 01:38
(ネタバレなし)
 パリの大病院の外科医で同病院の実力者である「大ボスB」こと40歳代末のギョーム・ブラサール。その別荘でその夜、ひとりの人間が変死を遂げた。話は数ケ月前、ギュームが、32歳の赤毛美人の愛人ダニエル・フェレグリーニとある計画を共謀したことから始まった。その計画の内容は、美青年だが貧しいインターン生ヴァンサン・ドゥボスを、ギョームの38歳の美貌の妻ルイーズが住むギョームの自宅に招き入れる企てだった……!?

 1966年のフランス作品。同年度のフランス推理小説大賞受賞作品。
 冒頭で変死体の登場が語られるが、誰が死んだ(殺された?)かは後半~終盤までわからない、というニコラス・ブレイクの『雪だるまの殺人』みたいな趣向。4人の主要人物のなかの誰かなのは察しがつくが。

 とはいえブレイクのようにパズラーではなく、良くも悪くもうっすらとしたサスペンス感が全編に漂うフランスミステリで、味わいは画面に吸引力があるヌーヴェル・ヴァーグ映画を眺めつづけるような感触に近い。
 ラストのひねりの向こうにある文芸味と作劇の結晶感は存外にまとまりがよく、秀作未満~佳作よりちょっと上、といった感じ。

 ちなみに本書は著者の第三作目の長編だったそうだが、日本ではこれ一冊しか邦訳されなかったので、作者のトータルの力量はなんとも言えない。
 今なら、ミュッソとかミシェル・ビュッシあたりのランクまたは系譜の作家と認識されそうかな?

No.2327 6点 暗殺をしてみますか?- 生島治郎 2026/05/07 05:39
(ネタバレなし) 
 在日米兵と売春婦の間に生を受け、孤児院で成長したハーフの厚木丈二は28歳になった現在、ハワイの一角で女を食い物にする美青年の「ガール・ハンター」として生きていた。そんな彼に、太った小柄な老人・城所とその娘と称する美人・由紀子が接近。二人は十万ドルの報酬と引き換えに、ある人物の暗殺計画への協力を厚木に申し出る。大金と同時に由紀子に魅入られた厚木は彼らの仲間になるが、城所はさらに二人の仲間の計画への参加を構想していた。

 古書市で200円で購入した、集英社文庫版で読了。元版は1981年12月だそうだが、たぶんどこかの雑誌か新聞の連載作品だろう? すでにある種の職人感を帯びた時期の生島の一作で、それだけにリーダビリティは高く文庫で400数十ページを二時間半で読める。大づかみな感想は、先の虫暮部さんのものにおおむね同感。
 ただし読んでいる間は、ヤマ場にもならない? うちに残り頁が加速度的に減じて来る感覚がちょっと独特な味わいであった。ああ、西村寿行の初期作品の一部とかに似てるな。『娘よ、涯無き地に我を誘え』とか。

 そもそもこの男性メインキャラのトリオでチームを組まされる必然、どれくらいあったの? という気もするが、その辺はまあ、作劇シフト的に先にそういうものを作者が書きたかったんだろうね。
 その辺を含めて、昭和晩期の生島ハードボイルド(クライム)なら、こんなもんでしょう、という感じでもある。ただ随所にちょっと心に引っかかる場面はあり、トータルとしてはそんなに悪くは思えない。佳作。

No.2326 6点 三つの顔- カトリーヌ・アルレー 2026/05/06 19:50
(ネタバレなし)
 大成した実業家で大富豪である57歳のトマ・モンラヴェル。だがその息子で24歳のアンリ・ピエールは少女をレイプの上、惨殺した。息子の死刑確定が免れないなか、モンラヴェルはアンリの恋人を自宅に迎え入れ、さらにはアンリの知己の同性の友人を訪ね、不透明な息子の心象を探ろうとする。

 1976年のフランス作品。ミステリ要素は事実上ほとんどない長編で、重大な犯罪事件を主題にしただけの作品。

 ただ、どうしようもない不可抗力の事態(そこまで道義的にも重大な犯罪を起こしたから処刑確定のロジック)を前にジタバタあがく、自分が動けばなんかちょっとでも状況が好転するんじゃないかと錯覚してしまう主人公モンラヴェルの心情は、実によくわかる。結局、大したことは何もできないし、何ともならないんだけれどね。
(もちろん、ストーリー上の起承転結は相応にあるが、そこまで言うとネタバレだと思うので。それは言わない。)

 二百数十ページとそんなに厚くない紙幅だが、活字の級数が小さ目で章によっては会話も少ないので、小説的な満腹感はある。広義のホワイダニット? まあそうですが、どっちかというとモンラヴェルがどこで現実を前に、心の折り合いをつけるのか、がテーマの作品。
 アルレーがミステリから片足踏み外しちゃった内容ではあるが、まあこれはこれで。
 なおタイトルの意味は、小説作中では終盤で語られる。

 評点は、この点数の中での上の方で。

No.2325 6点 虚空- ロバート・B・パーカー 2026/04/30 06:37
(ネタバレなし)
「私」ことボストンの私立探偵スペンサーの友人である中年警察官フランク・ベルソンの再婚相手である、年下の美しい妻リーサが姿を消した。さらにその直後、妻を捜索しようとしたベルソンは何者かに撃たれて重傷を負う。相棒ホークも海外に出向いているなか、スペンサーは単身、入院したベルソンに代ってリーサの行方を追うが、やがて予期せぬ事実が明らかに。

 1995年のアメリカ作品。スペンサーシリーズの長編・第22弾。
 ブックオフの200円棚で出会った状態のいい本(ハードカバー版)を、シリーズとしてはつまみ食いで読了。

 87分署シリーズでクリングの若妻(花嫁)が誘拐される『命ある限り』を想起させる内容だが、犯人のキチガイぶりは向こうの方がキャラが立っていた。
 購入した古書のハヤカワ・ノヴェルズ版の帯には「スペンサーVS性倒錯者」と仰々しい惹句があるが、本作の犯人は若妻の元カレ。これはもう序盤でいきなりわかり、作者もそれ自体はサプライズにもする気はまったくない(ということで、ここでも書かせてもらう)。まあイカれた男には間違いないが、一抹の事情や切なさもあり、その行動はもちろん肯定できないが、犯人の狂気性は薄い。その分、ゲストメインヒロインのリーサのキャラクターの方にある種の文芸性があり、そこが本作の得点要素にはなっている。

 スペンサーは真面目に仕事はしているが、基本は足で歩いて情報を得る作業の積み重ねなので、やや退屈。その反面、後半、勇気を出してそのスペンサーのもとに情報を持って来る某ゲストキャラの描写がちょっとだけ光っている。

 ほかにも話の決着のつけ方、その犯人のキャラクター設定(姑息で卑劣な防御壁を用意しているが、一方でその辺が妙に人間臭い)などそこそこ良い面はあるが、同時にいつものシンプル・プロットのスペンサーもの。それでもたぶんシリーズのなかでは悪くない方だろう。ホークの代理で呼ばれるスペンサーの助っ人でメキシコ人の暗黒街の若者チョヨがちょっとかっこいい(先に『スターダスト』に顔出していた? 同作はたまたま3年前に読んで本サイトでも感想を書いているが、まったく記憶にないな)。

 評点としてはこのくらいの数字で。実質5.8点のような。はたまた6.2点? のような。

No.2324 5点 悪魔の系図- 島田一男 2026/04/24 22:03
(ネタバレなし)
 弁護士・南郷次郎はその夜、バーで引っ掛けた若い女性と、相手のアパートで情事に及ぼうとする。南郷は酔いつぶれた女のバッグの手帖から当人の住所と氏名を知り、さあ始めようとするが、相手の腕に常習らしい麻薬注射の痕があるのに気づき、深入りを避けて退去した。その翌日、なじみの板津部長刑事が南郷の事務所を来訪。昨夜の女・若月二美が麻薬の過剰注射で死亡し、現場に南郷の名刺があったことから事情を尋ねにきたのだという。二美の死の状況に相応の違和感を抱く南郷は独自の調査を始めるが、まもなく彼は二美の三つ子の姉妹である一美と三美そしてその母親が大地主となる若月家と、その周辺での石油採掘権をめぐる騒動に巻き込まれていった。そしてそんな彼の前には、死体の山が築かれていく。

 wiki(必ずしも当てにならんが)によると、南郷次郎ものの第5長編。3年前に読んだ『冥土の顔役』の次の事件で、1958年に「面白倶楽部」に連載し、同年に光文社から刊行らしい。
 古書市のワゴンで220円で買った桃源社版(1979年)で読んだが、挿し絵が入っていてなんか得した気分になる。

 内容は、南郷、何回オンナとヤルんだ、何人、人が死ぬんだ、という感じの通俗ハードボイルドミステリで、南郷を主役にカーター・ブラウン化するとこーなるのだ、という感じ。
 悪役も「おれって男は、女を裸にするのが大好きなのさ……」「女は、裸にすりゃ、たいていの泥を吐くものさ」などの名セリフ・珍セリフの続出で、ケタケタ笑う。

 肝心のミステリ要素は、とにかく作者が人死にのイベントを起こして物語の弛緩を防ぐような作劇で、ある意味では読者サービスを忘れていないともいえるが……まあ。
 真犯人は意外ではあるが、一方でこのひと、本当に前半の方の事件に関わってるの? というか作者、前半の伏線や出来事を忘れてない? と思える話の結構で、うん。まあそういう作品。
 ちなみにシリーズ内では影の薄かった南郷の奥さんだが、読者の知らないうちに本作の3年前に死別しているらしい。また本作ではヤリまくる南郷だが、おなじみ金丸京子女史には<本命はキミだ>風にジャブを打ち込んで(からかいのニュアンスもあるかも知れないが)、金丸京子の方もそれに冷静に応じながらも、まんざらではない対応なのが可愛い。
 まあミステリとしての評点はこんなもんですが、昭和の時代臭をふくめて妙な楽しみどころはないでもない一冊。

No.2323 6点 二度殺せるなら- リンダ・ハワード 2026/04/20 12:10
(ネタバレなし)
 その年の8月。ニューオーリンズの路地で、かつてベトナムで一流スナイパーだった50歳代の男性デクスター・ウィットロウが殺害される。デクスターに13年前に母もろとも半ば捨てられたような娘カレン・ウィットロウは現在オハイオ州で29歳の看護婦となり、つい3週間前に最愛の唯一の家族だった母ジャネットを失ったばかりだった。生き別れの父が殺害された知らせをニューオーリンズの30代の刑事マーク・チャスティンから受けたカレンは現地に向かうが、そこで成り行きからマークと惹かれ合うようになる。だがそんなカレンの周辺に、亡き父の生前の秘密にからんで怪しい事件が続発し始めた。

 1998年のアメリカ作品。だいぶ以前から気になり、本も何冊か古書で購入していたリンダ・ハワードだが、実作は本作が初読みのハズである。
 父が娘に遺した? らしいマクガフィン(終盤までその実態は未詳)をめぐってある謀略が進行。一方でその状況が主人公のカレンとマーク以外の別の主要人物にも影響を与えていく。
 カメラの切り替わりはやや多いが、文章が平明で読みやすい上に登場人物の交通整理はしっかりされている(かな……)なので、さしたる混乱はない。
 おおざっぱにまとめるなら女性主人公カレンと彼女と恋仲になる青年刑事マークとの濃厚なセックス描写も含めたロマンス・サスペンスで、良い意味でまあ、これはこれで……という一冊。
 大半の人には半ばミエミエ中尾ミエではあろうが、いったい、その父デクスターが秘匿し、悪人連中が追う秘密とは何なのか? という謎のフックと真相が判明した際のサプライズもある。評点は実質5.8くらいだけれど、まあいろんな思いを込めてこの数字。

 なおサイドストーリー的に、あれ、このキャラ、こんなにも設定を作っておいてこれだけ? という印象の某・登場人物が出て来るが、本作の物語世界はその当該キャラを男性主人公にして、別作品『青い瞳の狼』に続くらしい。そっちもいつか縁があったら、読んでみよう。

No.2322 6点 溺れる女- 笹沢左保 2026/04/19 12:09
(ネタバレなし)
 昭和40年代前半に雑誌掲載(それも小説専門誌ではなく、女性誌や若者向け雑誌が大半)された11本の短編を集成した光文社文庫オリジナルの短編集。なかにはミステリとは言い難いものも入っているが、全編が男と女の関係を主題とする作品群である。総ページ数が260ページちょっと。それを11篇で割ると平均して一本の長さが20ページ強と楽に読めて、作品によってはそこそこの手ごたえもある(まあ、そこまでの評価に見合う作品は、あんまり数は多くないのだけれど)。
 広義でいえば『六本木心中』の系譜の作品ばかりではあり、その意味では作者の持ち味のひとつは確かに感じられる。
 スレッサー風の仕上がりの「霧の夜」が割とミステリっぽいが、切なさで読み手の心にフックをかけようとする「望郷の夜」「夕映えは死んだ」「夜は明けない」などが良い意味で本書のスタンダード。「別れのテクニック」は実践論的なエンターテインメントとでもいうべきか。
 これはこれで価値のある一冊であった。

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以前は別のミステリ書評サイト「ミステリタウン」さんに参加させていただいておりました。(旧ペンネームは古畑弘三です。)改めまして本サイトでは、どうぞよろしくお願いいたします。基本的にはリアルタイムで読んだ...
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