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[ トラベル・ミステリ ] 死者からの手紙 4+1の告発 |
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浅黄斑 | 出版月: 1993年06月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
![]() 講談社 1993年06月 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | 2025/07/18 08:20 |
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(ネタバレなし)
1990年代初め。平成の初期。兵庫県三木市でスーパーマーケットの地方チェーン店を営む未亡人の実業家で47歳の柚木里絵(ゆのきさとえ)は、旅先の能登の旅館で、そこに宿泊した、とある昭和の巨匠ミステリ作家の記念コーナーを目にした。そこには作家が投宿した昭和35年9月23日当夜の台帳も展示されていたが、その作家の名と並んで記帳されていた名前はもしかしたら、同年に行方を断った里絵の14歳年上の姉・涼子のものではないか? という疑いを持つ。里絵は家業を手伝う娘・香代とその夫・洋介の若夫婦や、なりゆきで知り合った私立探偵所の所長・大門和浩の協力を得ながら30年前の姉の境遇とその前後の人間関係を調べていくが、やがて歴史の中に雌伏していた殺人事件が浮かび上がってくる。 本サイトではあまり読まれていない浅黄斑。90年代初めから小説家として活躍し、初期のミステリからのちの時代小説までそれなりに幅広く活躍されたようだが、2020年に74歳で他界された。 評者も初読みだが、実はネットを見ていて面白そうな作品が目についたものの、それがシリーズものらしいと知り、じゃあそのシリーズの一冊目から読もうかと思って手に取ったのが、この本作である。 でまあ、何をどう勘違いしたのか、この作品は当該のシリーズ作品でもなんでもなく、どうやらノンシリーズ編らしかった(笑・汗)。チャンチャン。 ただまあ、平成スタートの時期に昭和後半の戦後史を中年女性の主人公の視線で振り返ろうという狙いは明確で、良い意味での昭和文化風俗ミステリとしてはなかなか楽しめた。 正直、読み始めた当初は主人公ヒロインをなんでこんなオバサンにするんだろ、もっと若い娘にした方が……とも考えたが、もしかしたら当時の二時間ドラマ化を期待して、ベテラン熟女女優の登用とかを狙った戦略かもしれない。同世代の女性は結構出て来るし。とにもかくにも主人公は、魅力的な中年女性みたいだし。 裏表紙の内容紹介文の最後のまとめで「感動推理!」と謳っており、なんじゃそれは、ウェストレイクの某短編か、はたまたスレッサーの『花を愛した警官』か、とか一瞬思ったりしたが、実際のこの作品は、もっと泥臭い、醤油味のものだった。 (でもまあ、挫けないめげない女性主人公の頑張りぶりには、結構好感はもてる。) ミステリ的にはあんまり大きなサプライズはなく、基本的には作者が仕込んだ事件の実相をほぐしていくだけのアマチュア捜査小説。でもまあ、話の転がし具合はうまいので、なかなか楽しめる(全体的にスムーズに行き過ぎるのがウソくさいと思われるかもしれないが、個人的にはまあ何とか)。 ま、最後のどんでん返しはミステリとしてみたらチョンボだよね、という気もするが、読み物としてはこれはこれで。よくある話なんだけど、最後のポイントとなる逸話もまあ。 ただ、ちゃんと推敲・校閲してほしかったと思うのは、終盤で某・重要人物のファーストネームがいきなり二カ所、別の名になってしまっていること(!)。 たぶん元々はそっちの名前で第一稿を書いて、何らかの配慮で今のネーミングに変えて、直し漏らしがあったんじゃないかと思うんだけど。 パソコンやワープロに検索機能のない時代、もしくは手書き入稿ゆえのヒューマンエラーだったかもしれん。 マジメに、あれ、そのメインキャラの家族か親族がいきなり出てきて、その新キャラの説明はこのあとでするのかな、と思ってしまった。意外に珍しい種類のミスだが、ミステリを何千冊も読んでればタマにはこーゆーのもあるか。そこで0.5点ほど減点してこの評点で。 |