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[ 本格/新本格 ]
麻倉玲一は信頼できない語り手
太田忠司 出版月: 2021年04月 平均: 6.67点 書評数: 3件

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徳間書店
2021年04月

No.3 8点 人並由真 2025/06/28 08:26
(ネタバレなし)
 36歳の独身フリーライターだが、いまだまとまった実績もなく、実業家の父とも距離のある青年・熊沢克也は、さる企画を受けて外洋の島に渡る。そこは28年前に死刑が廃止されたこの日本で、刑期の短縮は絶対にありえない終身懲役囚が収監されている島だった。克也はその島で「最後の死刑囚」麻倉玲一への取材を始める。

 先日のミステリ初心者さんのレビューが目にとまり(その時点では、ネタバレあり、ということで評の中身は拝見していませんが)インパクトのある題名から関心が湧いてネットで作品の情報を探ると、なかなか面白そうである。で、ネット経由で古書を安く入手。さっき思いついて読み始め、2~3時間で読了した。

 太田先生の作品はほとんど縁がなく、2014年のノンシリーズ長編『死の天使はドミノを倒す』を刊行の少し後くらいに読んだきりだと思う。ちょうどその頃からまたミステリを積極的に読み始めたが、同作の大ネタはいまだに覚えており、結構面白かった。だがシリーズものが多いため、どうにも気構えがついていかず、本作までほとんど手付かずであった。

 で、本作だが近未来SF(あるいは現実と若干の相違の並行世界もの)の設定をもとに、トリッキィなストーリーが展開。
 最後まで読み終えて「ああ、これは(中略)だな」と、作品の範疇ジャンルを認定したくなるが、その一言を言うとネタバレにまではならないにせよ、ある種の予断を未読の人に与えてしまいそうなのでソレは控える。

 ただ、作品の中身は、かなり面白かった。
 実は「(中略)」という作品の形質は前例のないものではないが、その先にあるホワイダニットというか作中人物の動機の真相に感心。
 終盤は残りページがどんどん少なくなる中で、ぎりぎりまで底を割らないお話の組み立てにも感銘。最後のクロージングの余韻もいい。

 現時点の大雑把な感覚で言うなら、次にどういうものが来るかわからないと思いながらも、毎回の新刊をリアルタイムでワクワクしながら手に取っていた1980年代前半の泡坂の長編、あの辺みたいな感じ。
(具体的にミステリのギミックとして、既存の泡坂作品と類似性があるとか、そーゆー意味ではまったくない。その時期の泡坂の各作品の、次々と異なるオモチャ箱を開けるようなドキドキの楽しさを、本作は読み終わったあとに想起させてくれたという、非常に観念的な話である。)

 このレベルの作品がまだまだゴロゴロしてるなら、太田作品、ほとんどこちらの視野になかった鉱脈ということになりそう。
 また評判の良さそうな作品を、近くそのうち読んでみよう。

No.2 6点 ミステリ初心者 2025/06/05 23:39
ネタバレをしています。

 非常にインパクトのある題名に惹かれましたw また、一つの島という閉鎖空間での小説なので、テンポの良さにも期待して購入。
 死刑囚が収容される島という、とても特異な状況で、終盤には閉鎖空間を活かしたサスペンスホラー的な展開もありました。ただ、本の大部分が麻倉による小説形式での罪の告白であり、それには活かされてませんでした(看守の話は島が舞台でしたが)
 とはいえ、非常に読みやすい文で、自分にしてはとても早く読了できました。

 推理小説部分について。
 ドンデン返しが用意されている、ミステリ性のある映画やドラマのような趣向でした。私は真相を見抜けず、またその真相に思わずなるほどと膝を打ちました!
 死刑囚との対話、島、主人公の境遇や知識などから、ミステリファンならばこの刑務所自体が嘘という伏線がプンプン感じられると思いますw 私は早々にそう決めつけて読んでおりましたが、結末の予想ができませんでした。

 難癖ポイント。
 長々と己の犯した罪を語る麻倉ですが、そこにはあまり読者を欺くようなトリックも結末に関連するような伏線もなく、ただの作中作のような感じになってます(自分が見逃してなければ)。良くも悪くも、結末の意外性で勝負するタイプの小説でした。

No.1 6点 makomako 2021/04/28 22:42
この書評は多少のネタバレ気味です。すみません。


死刑が廃止され死刑囚で処刑されなかった最後の人物麻倉が孤島の私立拘置所に収監されている。主人公は麻倉の告白本を書くように依頼されて孤島に訪れる。
そこで麻倉本人から彼が犯した殺人の数々を聞くこととなる。どれもこれも悪逆非道で救いようがないのだが、麻倉本人は反省どころか当然のことと思っている。次第に監視している側の人物も実は麻倉に恨み骨髄の人物であることがわかってくる。結局麻倉は絞首刑となるのだが、その後に監視員たちがこれされ麻倉が犯人であることがわかる。
こんなお話なんですが、これって絶対無理ですよねえ。
はじめから怪しげなお話なんですが、それにしても絶対無理だなあと思って読んでいると、それなりに納得できる結論となりました。
作者は同郷の作家さんで応援しているのですが、時にとんでもないどんでん返し(本格推理のように見せておいてほんとはファンタジーだったといったような)を書かれるのでこれもその内かと心配したのですが、それほどでもなくまあほっとしました。


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太田忠司
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