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[ 短編集(分類不能) ]
匂う肌(講談社文庫版)
佐野洋 推理傑作選
佐野洋 出版月: 1977年08月 平均: 7.00点 書評数: 2件

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講談社
1977年08月

講談社
1977年08月

No.2 7点 人並由真 2025/07/31 18:58
(ネタバレなし)
 斎藤警部さんのレビューの通り、講談社文庫版には9本のノンシリーズ編を収録(この作者のタマにある、一冊単位での連作短編集とかでもない)。なのに初版の目次では、最後の2編「内部の敵」「手記代筆者」の作品名が表記されていない。なんだろね、これ。こーゆーミスも意外にあまり見ない?

 以下、簡単に寸評&備忘用のメモ。

①『ピンク・チーフ』
中小企業の庶務課長・木暮は、会社宛に送付されたバー「スタッグ」からの案内状にあった文言「ピンク・チーフ」が妙に気になった。
……中小企業とバー、二つの集団のなかでの群像劇。小味な佳作。 

②『虚飾の仮面』
カテリーナ化粧品は、美人の所にのみ訪問販売するという戦略を打ち出した。団地住まいの人妻で美貌に自信のある愛子は、同社のセールスマンの訪問を待つが。
……導入部からちょっとぶっとんだ設定で、女性の虚栄心を掘り下げていく一本。佳作。

③『匂いの状況』
「私」こと人妻・井口純子は、不倫相手の脚本家・高津雄介が、裸で電話機を握ってマリリン・モンローの後追い自殺をしたというニュースに驚くが。
……本作中では長めの一本。ネタがいかにもその時代のものだなあ、と思いつつも、軽妙なストーリーテリングで読ませる。秀作の下。

④『賭け』
妻の英子に自殺された多田。英子には双生児の妹・明子がいた。その明子が妙なことを言いだす。
……これも話の転がし方のうまさで読ませる一編。ミステリとしてはシンプルな構造なのだが、紙幅の割にコストパフォーマンスの高い錯綜感を抱かせる佳作~秀作。

⑤『匂う肌』
1961年8月。海外旅行に行く友人を空港で見送った私は高級娼婦らしい女に声を掛けられ、応じるが。
……え、こんな話!? まあ作者の守備範囲から言えばそういうものがあってもおかしくはないが、まさか表題作が、と軽く虚を突かれた。作中作の形で語られる(中略)の文芸の着想も、ちょっと面白い。

⑥『反対給付』
高級官吏の多賀は、先日急死した年上の部下・黒川詮造の娘・由美子から連絡を受ける。多賀と黒川には、ある大きな秘密があった。
……過去の秘めた経緯の開陳を端緒に、人間関係の綾を解いていく話。着地点の余韻も含めて佳作~秀作。

⑦『死者からの葉書』
先妻が死亡した夫のもとに嫁いだ私は、夫が焼却しようとした紙屑の中からとある封筒を見つけた。
……浮かび上がる隠された秘密。オーソドックスな技巧派(メタ的な意味でなく、ストーリーテリングの方で)の短編ミステリという印象の一編。終盤の決着も含めて、佳作~秀作。

⑧『内部の敵』
地方新聞の社会部記者・梅本正三は念願の政経部に転属になったが、一方で地方新聞の取材力と影響力の限界も感じていた。そんななか、市役所の職員が競輪で大金を儲けたという情報が聞こえてくる。
……スレッサーの短編(話術とオチで勝負系)を思わせる小味な佳作。だが紙幅は割と長めで、ちょっとした読みごたえはある。

⑨『手記代筆者』
水野製薬会社の閑職「社史編纂室」に転属になった柴田春吉は、創業者の未亡人で巨漢の女丈夫、そして現在の会社の代表である水野久美子の回想を聞き書きする。会社経営のために銀行や提携企業相手の寝技も使ったと赤裸々な告白を聞く柴田の心に芽生えたものは?
……これもスレッサー風の一本。オチはまあそうなるだろうな、という感じだが、やはり語り口の妙で読ませる。序盤の掴みも王道ながらうまい。佳作の上。

 気が付いたら、サクサク次の作品へと読み進めていた、系の好短編集。基本的には平凡な人間の群像劇&人間模様を語りながら(一本だけ例外あり)、同時に心地よいバラエティ感を抱かせる一冊。
 なんか多忙&ペース不調で長編ミステリの消化がよくない現在、なかなかお腹によいミステリ中短編集であった。

No.1 7点 斎藤警部 2016/06/01 22:13
ピンク・チーフ/虚飾の仮面/匂いの状況/賭け/匂う肌/反対給付/死者からの葉書/内部の敵/手記代筆者
(講談社文庫)

割と「いい内容」の短篇選集。ひとまずファン以外にも軽く薦められるレベルか。
最後尾の「手記代筆者」なる題名が清張っぽくて唆る。


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