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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] 覚悟 新・競馬シリーズ/シッド・ハレー |
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フェリックス・フランシス | 出版月: 2025年05月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
![]() 文藝春秋 2025年05月 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | 2025/07/08 07:28 |
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(ネタバレなし)
競馬界の辣腕調査員として名を馳せたシッド・ハレーは二度目の結婚をし、今は愛妻と6歳のおませな愛らしい娘と、幸福な家庭を築いていた。だが現在46歳のハレーは、悪人からの報復で家族や元・義理の父チャールズ・ロランド提督(すでに83歳)が身の危険に晒されることを警戒し、調査員稼業を引退。現在は日々の好調な金融取引で、順当に生活費を得ていた。そんな時、英国競馬統括機構(BHA)の会長リチャード・スチュアートがハレーを訪ね、スチュアート自身が不審に思ったある案件を持ち込んでくる。同件はBHA保安部でも審議されたが特に問題なしとされたもので、だが尚も疑念が残るスチュアートはハレーに状況の洗い直しを願いたいようだ。ハレーは調査職からは引退したと答えつつも、この話に関心が生じていく。だがその直後、局面は新たな展開を見せた。 2013年の英国作品。「競馬シリーズ」の創始者・父ディック(小説執筆の実働は奧さんメアリだったと21世紀になってからウワサされるが)の逝去後、今は息子フランシスが執筆する、親子二代にわたるシッド・ハレーものの通算・第5弾(フェリックスの担当作としてはこれがシリーズ内での1冊目)。 当方はシッド・ハレーシリーズは、『大穴』『利腕』は順当に消化。3作目『敵手』も読んでいるハズだが、ほとんど記憶にない(実は、あのシーンが『敵手』のものだったのかな? と、思い浮かぶような場面もあるのだが、本当にそれが正解かは心もとない)。で、あまり評判のよろしくない第4弾『再起』は確実に未読で、そんな前提のなかで、今回の、日本語で読める久々の新訳作品に付き合う。 それで正直、途中までは面白いことは面白いんだけど、主人公ハレーが半ば巻き込まれるように事件に関わり、調査を続けていくうちに競売界のならず者から脅しを受け、自分と家族に迫る脅威に恐怖&警戒~でも克己、の完全なおなじみパターン。いくらなんでもこれはね、とも感じたりもした。 が、中盤辺りからの悪党のやり口がどんどんエゲツなくなり、そっからはなかなか、加速度的に盛り上がってくる。うん、やっぱり結構、楽しめる(笑)。なんのかんの言っても4時間弱で、イッキ読みではあったし。 とはいえレギュラーキャラのハレーだと、あんまり羽目を外した大技での対抗・決着はできないだろ、反則技やダーティプレイでの反撃もしにくいだろと予想してしまい、その辺は良い面もあれば良くない面もあったり。 父親ディックの後期正編・競馬シリーズの中では、単発で一回こっきり、悪く言えば使い捨てで、後先を考えないからこそ<そーゆー種類の決着>もできた、という感じの主人公もタマにいたんだけど、今後も続投するであろうハレーはそういう自由度はないだろうしな、と観測しちゃったりする。 (でもそういう風に考えてみるなら、それなりにちょっとギリギリぽい面がないでもないクライマックスかな、今回は。) あとサイドストーリーとしてハレーの隻腕設定についてかなり大きな進展があり、その辺の流れがどうなるかは読んでのお楽しみ。もちろんここではあまり詳しくは書かない。 かたや一方、ある案件についての説明がちょっと不足してんじゃないの? と思わせるところも見受けられ、その辺は息子が筆の勢いのノリのなかで、ついうっかりしちゃったんかいな? という感じもするが、まあ、読み手側の解釈で補える範疇かな。 いずれにしろ、10年ぶりの息子版「競馬シリーズ」の新訳、ありがとうございました。 とりあえずあと2冊は続いての翻訳が内定してるみたいだけど、できるなら未訳分全冊の邦訳を、ぜひともお願いいたします。 |