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クリスティ再読さん
平均点: 6.40点 書評数: 1379件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.919 8点 細い赤い糸- 飛鳥高 2022/01/18 20:23
協会賞受賞作だが、ライバルは「危険な童話」「仲のいい死体」「異郷の帆」「人造美人」と名作ぞろいなのに、それらを抑えての受賞。それも当然、と評者は思ってるくらいの名作である。

4人の被害者にもそれぞれのドラマがあり、それぞれが短編小説のように読ませる。本人にしてみれば皆「自分が主役」なドラマを演じているわけなのだが、「端役」にしか見えない人にも、実は哀切なドラマが潜んでいる。しかし「自分が主役なドラマ」を演じるのに夢中は被害者たちは、その「端役のドラマ」にはまったく無関心で気づくこともなく、それを踏みつけにする...

ミッシングリンク、というのは外部から見ての話に過ぎない。時系列を操作することで、「細い赤い糸」のように関係が見え隠れしながらつながっていく。そして「端役」が「主役」に逆転するドラマが浮かび上がる作劇が秀逸。

ある意味ありふれた事件を、絶妙な語り口で「市井の悲劇」として昇華した、とても60年代っぽい名作。評者は大好きだ。

No.918 6点 ラヴクラフト全集 (7)- H・P・ラヴクラフト 2022/01/17 19:45
落穂ひろいに近い資料的な巻だから、あまり期待してなかったんだが、面白く読める。4巻5巻にある読者に迎合したような安っぽい作品なんかよりも、ずっといいんじゃないかなあ。突出していい作品はないけども、書きっぷりが安定している。
これも意外だけど、ダンセイニ風、とされるファンタジー傾向の作品の「サルナスの滅亡」でも、ホラー傾向が結構強いこと。どっちか言えば第6巻のファンタジー系作品の方が意図的に書いている印象が強い。HPLって根っからのホラー体質みたいだ。だからこの7巻はしっかりホラーしている。

やはり長めの「忌み嫌われる家」とか「霊廟」とか、「チャールズ・ウォード」のエスキスみたいなものだけど、ああいったパラノイアックなくらいに子細に及ぶ歴史記述のスタイルが読みどころ。
魔術王ハリー・フーディニのゴーストライターをした「ファラオとともに幽閉されて」は、フーディニ自身がエジプト旅行の際に、ギザで罠にハメられてピラミッドの内部に縛られて閉じ込められる...という設定の話。フーディニらしい脱出とその際に目撃した地底の秘儀の話で、これを一人称で記述していて面白いけど、書きっぷりはHPLの粘着質で妥協ゼロ。だからオシゴトというよりもコラボ感が出ていて、HPLがフーディニに憑依したかのような体験談になっている。

あと自分が見た夢をそのまま手紙に書いた「夢書簡」は、どこまで夢か!って言いたくなるくらいにHPLの小説そのまま。「ランドルフ・カーターの陳述」やら「ナイアルラトホテップ」まんまな夢を見ている....ちょっと絶句するような「夢見人」だ。スペイン駐留のローマ軍団の文官を主人公にする夢は小説にはなっていないみたいだけど、HPLというよりR.E.ハワードみたいな夢だ(苦笑)。
いやいや、「資料的」とか言って軽く見ちゃいけなかった。なかなかの読み応え。

No.917 7点 蠟人形館の殺人- ジョン・ディクスン・カー 2022/01/15 10:42
いや「面白いスリラー」を読んだ、という感想。バンコランといえば頽廃感、なんだから、蝋人形館に秘密乱交クラブに加え「狂乱の20年代」のパリのナイトクラブ全盛期。イケナイ夜遊びのワクワク感がある作品なのが重畳。
作品中にもムーラン・ルージュでショーを見るとか、ミスタンゲットも名前だけだけど出るし、パリ遊学のカー本人も随分遊んだことだろうね(苦笑)。だからナイトクラブが得意な、たとえばチャンドラーとの同時代性みたいなものも、結構感じるんだよ。要するにジョセフィン・ベーカーとかモーリス・シュヴァリエとか活躍した時代だし、シャンソンだって花盛り。この華やかさがバンコラン物の一番のお愉しみ、と評者は感じている。

でまあ、ミステリとしては状況の解明が推理じゃなくて、当事者の告白で明らかになりすぎるとか、真犯人がやや隠しすぎてて意外だけど面白味は感じない....それよりも蝋人形館オーナーの娘マリーがなかなか楽しいキャラで、いいな~~でも「このおいぼれ父さんを頼りにしておくれよ」とトンチンカンな父親の愛情が、沁みるぜ。

まあバンコラン、策略が過ぎる方でもあるから、真犯人の指摘でも評者実は「それ自体バンコランの罠なのでは?」なんて深読みしすぎたのは(苦笑)。でも皆さん違和感を感じる運命のカードの件は、あれ「自殺クラブ」へのオマージュじゃないかしら。

頽廃的なバンコラン大好きな評者は少数派だけど、うん、構わないさ。

No.916 6点 サムスン島の謎- アンドリュウ・ガーヴ 2022/01/14 06:47
ガーヴの枕詞って「悪女」が通り相場だ。だから本作のキモの部分はヒロインの「オリヴィアが悪女かそうでないか?」を巡って主人公レイヴァリーの心が揺れ動く話なんだと思う。だから、実は本作、恋愛小説だ、と評者は読んでしまう。どうだろうか?

まあだから、ミステリ的にはやや肩透かしな真相も、「恋愛小説+(これもガーヴお得意の)アウトドア冒険小説」と読んだら、それはそれで納得のいくエンタメになっていると思うんだ。本当に楽しんでつるつる読めるページターナーっぷりは本作でも遺憾なく発揮されていて、全盛期のガーヴの達者さを楽しめる。一人称の主人公設定、少ないキャラ、舞台設定の凝り方、仮説を立てて対話的にツッコミあうことで「ミステリらしさ」が出て....なんだけども、昨今のミステリマニアにとって「ノリきれない」部分があるのは、要するにこの人、「ジャンル的忠誠心」みたいなものが希薄なことが原因のように感じるんだ。

評者とかその手の「忠誠心」に欠けている方(すまぬ)なせいか、「こういう作品もありか...」と感じるし、「ミステリ感度」が低めな福島正実がガーヴに入れ込んだのも、そういう面があるようにも感じる。

いやだから言いたいのは、舞台になるコーンウォール沖の離島の観光地、シリイ諸島もうまく生きた、楽しい冒険小説だってこと。ガーヴの余裕みたいなものを感じる。

No.915 4点 盲目の理髪師- ジョン・ディクスン・カー 2022/01/12 08:33
時代柄から言えば、マルクス兄弟風の陽気なドタバタを狙ったんだろうけどもね...カーのユーモアって今一つ洒落たところがなくて、どうも泥臭い。

汚らわしい酔っ払いのけだもの!

ってことか。風刺性がないからね。フェル博士の安楽椅子っぷりは悪かないんだが、でも推理自体にあまり面白味がないのが難。結局海に放り込まれたのはどっちなんだっけ?

船長の部屋で殺虫剤が...のギャグが、臭いかなんかで手がかりになるのかな~なんて予想したんだけども、これは外れ。殺虫剤セールスマンは、ギャグというよりもイヤな奴度が高すぎて笑えない。
陽気なお笑いのためにはちょっとした「人の良さ」みたいなものが必要なんだけど、カーはあまり「人が良くない」のかな。

1934年のカーは「黒死荘」「白い僧院」「剣の八」に本作とロジャー・フェアベーン名義での歴史小説と5作出版した超絶の忙しい年。カーター・ディクスン側で忙しすぎた反動なのかしら。1930年代のカーは両名義で年4作の新作を書いている。凄いっていえば凄いけど、濫作ってものだろう。

No.914 7点 死体消滅 戦慄ミステリー傑作選- アンソロジー(国内編集者) 2022/01/10 08:15
先日楠田匡介やったから、ついつい「人肉の詩集」が読みたくて図書館で探すとこのアンソロがあった。大昔読んだ記憶あり。1976年ベストブック社だけど、アマゾンに登録がないみたいだ。
収録作品:「人間腸詰」夢野久作、「王とのつきあい」日影丈吉、「人肉の詩集」楠田匡介、「二瓶のソース」ダンセイニ、「死を弄ぶ男」山村正夫、「人間解体」森村誠一、「失楽園」北洋、「屍臭の女」斎藤栄、「おーそれーみお」水谷準。
死体処理に特化したアンソロ。グロ耐性がない読者は避けた方がいいかもね。要するに死体処理は即物的だから、アイデアだけだと小説にしたときに面白くない。だからそれに語り口なりロマンなりをうまく融合させる腕の見せ所、のように思える。そういう意味で夢Qはさすがなもの。腕一本の大工のべらんめえな語り口のうまさにしてやられる。
同様に語り口のうまさで読ませるのが日影丈吉とダンセイニ。技巧の極みみたいなものがある。山村正夫のは「自殺したけどもゾンビになるだけで死ねない男」を主人公にして、自殺の原因になった女に嫌がらせとして復讐をする話。どんどん腐っていくしブラックユーモアが落語みたい。これが意外に面白い話。
逆に「リアルで陰惨」になると、どうも面白くない。森村誠一と斎藤栄のはリアルで陰惨系だから嫌い。実は楠田匡介のは筋立てだけなら本当に安っぽいスリラーなんだ。しかしこれは、リアルで陰惨な話が、血をインクに、肉体をパルプに溶かし、皮を装丁に...として詩人とその想い人を「亡き人を追悼する詩集」化けさせるというイメージが、話の具体の内容を超越して訴求する力がある。ある意味究極の「肉体の詩集」なんだから、マラルメ的な「書物」にこだわるビブリオマニアな詩人の理念みたなものでもある。
つまり、観念的な「ロマンの味」が死体処理話の決め手のスパイスなのだ。まさにこの「ロマン」で押し切って成功したのが水谷準の伝説的な名作「おーそれーみお」で、やや押しきれていないのが北洋。「おーそれーみお」は昭和二年の新青年が初出だそうだからほぼ百年前! ポオをやや甘口にしたロマンチックな名作。

読みごたえありの名アンソロ。


ちなみに「人肉の詩集」をタイトルにする楠田匡介の短編集(1956)は、稀覯度が高くてやたらな値段がついている...で、湘南探偵倶楽部が短編「人肉の詩集」だけを抜き刷りにして2021年に出しているそうだ。たった14ページに2640円だすのも酔狂といえばそうなんだけど、思わず「本」として欲しくなる気持ちは、「人肉の詩集」については、わかる(苦笑)

No.913 7点 脂のしたたり- 黒岩重吾 2022/01/08 22:45
親が買ってきた本で家にあったから、中学生くらいで読んだ記憶がある...超絶大人向けだから無謀にも程がある。その後大阪に住んで、株の一つや二つは持ってる身分になるとは、思ってもみなかった(苦笑)

主人公は北浜の証券会社の社員で、映画会社株の不審な買い注文から株式の買占めの開始に気づく。その買主は人目を惹く美貌の女性だった。主人公の色と欲を絡めつつも、仕手の黒幕と情報屋の不審な事故死の調査を通じ、主人公は闇の世界に深入りしていく...
黒岩重吾だから主人公は単純な善玉ではなくて、客の株券を担保に入れて自分が手張りをするとかね(ヲイ!)。主人公はこの調査を基にターゲットの映画会社とも駆け引きするのだが、半身不随の映画会社の女社主が「女怪」と言われるような食えない老女。黒幕を明かすのを条件に、中堅スターを一晩貸すように要求する主人公も主人公だが、敢て貸しちゃう女社主にも思惑あり...いやいや、世の中のウラの小汚いあたりを活写するのが黒岩重吾の真面目。自分の欲望で動く主人公なのが、やはりハードボイルド風の味わいを醸し出している。

で、二重人格のようなヒロイン雪子が「石の肌の女」と形容される出色のキャラで、金にも女にも強いはずの主人公が手玉に取られてる。でもこのヒロインの捨て身の復讐の行方は? あと元同僚で今は情報屋の片腕になっている、男に負けないよう突っ張る敏子、主人公の客で手張りのネタに使われるけど主人公に恋着して事件を起こす深情けの中年女の文子、巨大キャバレーのホステスで主人公とスポーツ感覚でSEXする美代。脇を固める女性たちも生彩があって、なかなかお盛ん。
千人のホステスを抱えて大規模なショーがある巨大キャバレーもそうだけど、昔って「株券」ってあったな~というのが懐かしいあたり。今じゃ電子データなのが味気ない(苦笑)

「金の話をする人に、お金は入らないわ。入る人は黙って儲けている」

ごもっとも。これ真理。

No.912 8点 ヴァンパイヤー戦争1 吸血神ヴァーオゥの復活- 笠井潔 2022/01/08 21:44
評者昔このシリーズはリアルタイムで追っかけた。あの笠井潔の伝奇SFなんだから...まあ、完結したら売っちゃったけども。

実際、矢吹駆の最初の2作が「転向小説」であることは誰も否定のしようのないことなんだけども、時系列だとその次の小説がコレになる。笠井潔ってどういう作家なのか、を理解するためには絶対に外せない本だと思うから、取り上げます。
つまり、矢吹駆の2作で肩の荷を下ろしたところで、「自分がなりたかった」理想イメージを投入して書いたのが本作だと思ってる。あからさまに作り物の伝奇ヒーローだからこそ、逆に衒わずに思った通り、感じた通りで書けているというのが、この本のいいところ。この人「仮面をかぶった方のが自分が素直に出せる」というタイプなんだね。だから、楽しんで書いているのが如実に伝わる本になっている。
...九鬼鴻三郎が日本に残した都市ゲリラ組織「矮人部隊(リリパット・アーミー)」が使い捨ての捨て駒で、吸血姫のラミアに抱かれて復活する、というあたり図式的といえばその通りで、自己解放がもつある種の「臆面のなさ」が妙に憎めない。なんか晴れやかなんだもん。そういうあたりにちょっと「アテられる」小説だ。このシリーズでも1巻目はやはり別格、ということだよね。

(けどさ、おミソな男ヒーローが頑張るけど、ヒロインが無双して全部持ってく、果てしなくループしまくる物語って....なんか「3×3 EYES」と妙にカブる印象を昔から持っている。2巻目以降はやるかどうか、知らない)

No.911 7点 恋人たちの森- 森茉莉 2022/01/07 09:33
どうせ暗黒系耽美小説ならば、人死にがなければオチがつかない、というものだ(苦笑)。まあだったら広義のミステリに入るんじゃないか、とも思う。強烈に人工的な文章だしね...で、耽美の真打ち、森茉莉の短編集。表題作の他に、同性愛が主題ではない「ボッチチェリの扉」、それにガチな「枯葉の寝床」「日曜日には僕は行かない」の4作を収録。

「恋人たちの森」ならギドウ・ド・ギッシュ(義童)×パウロ(巴羅、神谷敬里)、「枯葉の寝床」ならギラン・ド・ロシェフーコー×レオ(山川京次)、「日曜日」なら杉村達吉と伊藤半朱(ハンス)。こんな恋人たち(苦笑)。日本の話です。

夕陽の残映をうつす、金色のかがやきのある空は上方が特に痛く光り、その中に首をもち上げた駝鳥と横を向いた悪霊、骸骨の小人の形をした雲が黒い兇悪な地図のように群がり襲いかかるように浮かんでいた。

いやタダの状況描写ですって。一番ミステリ風の「枯葉の寝床」は、文学者のギランに囲われている美少年レオは、ふとした機会に、サディストでヤク中のオリヴィオに誘惑されて、さらに危険な快楽に目覚めてしまう。ギランはレオの中に目覚めた快楽に嫉妬しつつ、さらにレオとの愛欲に溺れていくのだが、レオの肌に残された鞭の痕に強く執着するようになる。オリヴィオが逮捕されたことを報道でギランは知るが、もはやギランはレオを「生贄」に捧げることでしか愛を実証することができなくなる...

まあこんな話。強く内面化されたかたちでのサディズムが読みどころ。まあ確かに具体的な行為としてはツマラないものだからね、あれは。「恋人に決定的な心理的傷を負わせたい」という心理の変転は、宿命的な事件を引き起こすことでしか落着しない。ホワイダニットといえばそうかもね。

精神的なサディズムが実質のテーマの小説だから、ミステリの裡だと思う。ホントの人工楽園だからね....そこらも乱歩パノラマ風味の変形といえばそうかな。強烈にクセが強くて悪文に近いけど、ノリ方が分かればそうツラい文章ではない。

No.910 8点 嵐が丘- エミリー・ブロンテ 2022/01/03 13:55
大昔読んだきりだけど、改めて読んでノンストップで面白い小説。凄いな。

ゴシック・ロマンスの大古典だから、本サイトでもアリな作品なのは間違いなし。本当に読んでいて、ポオとの血縁を強く感じる。一応ビザールな墓暴きとかある(描写は節度あり)し、ラストは幽霊。「世界十大小説」とかビビる必要のないエンタメだよ(いやネタ元のモームも純文かというと怪しいし)。

貰われっ子なヒースクリフが虐待を受けてヒネて、合法的な復讐計画を練って着実に実行し、それを果たすんだけども、とある事実に復讐され返す話、といえばそう。そういう話の綾と登場するキャラの濃い面々(エドガーみたいにキャラが薄いのも逆な「濃さ」)の卍巴だけでもずいぶんのお愉しみ。で巧妙な叙述の仕掛けもあって、こりゃ、読んでて止まらん。

個人的には、もやしっ子リントンのヒネクレ具合に、よーこんなキャラ作るな、という面白味を感じる。キャサリン母娘の女王様気質、策士な語り手ネリー、お宗旨狂いの変人ジョウゼフやらやら、荒々しい風土にはこんな荒々しいキャラが似合う、とばかりに暴れまくり、でも最後には何となくハッピーエンドになる(苦笑)。

昔の映画は美男のローレンス・オリヴィエだったけど、どっちかいえばゴッホの自画像みたいな顔をヒースクリフを評者は想像しちゃう。

正月みたいな機会に読むには最適な本じゃないかしら。それこそ暖炉に足を向けながら(暖炉なんぞないが、苦笑)

No.909 7点 狼花 新宿鮫IX- 大沢在昌 2022/01/02 14:40
本線の鮫島ストーリー。宿敵の仙田の意外な正体もあり。
要するにこの作品、2つの三角関係が読みどころなんだと思うんだ。
1つは、香田・鮫島・仙田
2つは、仙田・呉明蘭・石崎
この2つの三角関係が、仙田によって繋がっていることで、物語の軸ができてきているわけだ。2つめのダーティ・ヒロイン明蘭を巡る男ふたりの張り合いとか、「壁の花」を嫌うヒロインの像など、萌える要素はあるから、これを突っ込むと面白いと思う。再登場をお願いしたいなあ。
だから最後の殴り込みには仙田の自爆的な愛情が漂うあたりに佳い点があるのだが、それが仙田にとって第一の三角関係側でも「鮫島、俺と香田とどっちを選ぶ!」と二者択一を迫ることが重なるのが話の妙。

まあだから、ラストの殴り込みがすべての小説。
事実上、本作でおおまかには新宿鮫、決着ついたようなもののようにも感じるんだ。でもごめん、評者昔読んだのここまで。「絆回廊」どういう話になるのか、まだ知らない。楽しみにしよう。

いやでも新宿鮫が明白に下敷きにしているマルティン・ベックも9作目の「警官殺し」が事実上の「結末」で、最終作「テロリスト」はカーテンコールみたいな側面があるからね....どうなんだろうか

No.908 7点 立春大吉 大坪砂男全集1- 大坪砂男 2022/01/01 18:13
あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。
...にふさわしい作品って、ことミステリについては難しい。けど今年はコレ。「立春大吉」なら、新年にふさわしいってもんでしょう(苦笑)

創元の大坪砂男全集でも一番パズラー寄りのセレクトの巻。大体読んでる作品なんだけども、改めて読むと一種の「不器用さ」を感じるのが面白い。いや小説は実に達者なんだけども、その達者さをうまく生かし切れていない歯がゆさがとくにこの巻はつきまとう。当初自身の鑑識課員の経歴を生かした名探偵緒方三郎を作ってはみたのだけども、何か動かしづらいキャラになっている。「科学探偵」は大坪の鑑識知識が生きていていいんだが、「赤痣の女」はそれがうまく小説になっていない...困る。要するにこの人、フォーマットに従って書くとダメなんだ。
「三月十三日午前二時」は物理トリック以上に、女性心理を狙ったあたりが面白いから、因果話が因果話でオチる、というのがいいのか悪いのか?「大師誕生」はヘンな小説だけど、取っ散らかり具合がどっちかいえば魅力。ヘンにオチがついて中途半端になっているのでは。メタ小説を狙った「黒子」は論外。こういうの、書いちゃいけない。
としてみると、この短編集でも「成功しているよね」と思うのはやはり「立春大吉」と「涅槃雪」ということになりそう。両方とも「語り口」の工夫がいいあたりで、「立春大吉」の主人公の愚痴っぽさとか、「涅槃雪」の連歌で友情を示すあたりとか、そういうのが印象に残る。語り口の中にトリックがさりげなく埋め込まれている、という風情がこの人らしさなんだろう。

としてみると、一番大坪が「書きやすかった」のは、第3巻の風俗ミステリのあたりだったような印象がある。「私刑」とか「花売娘」とかがのびのび書いている「大坪らしさ」じゃないのかな。「天狗」は例外中の例外、だよ。

No.907 7点 楠田匡介名作選- 楠田匡介 2021/12/31 15:06
評者とか楠田匡介というと「人肉の詩集」というイメージが強いんだけど、あれは最近のアンソロでは収録されてないようだ。「パルムの僧院」が脱獄ネタだったこともあって、やろうじゃないの、楠田匡介脱獄大全集。

でこの河出文庫のアンソロは、すべて脱獄ネタ。一応「本格ミステリコレクション」のシリーズなんだけども、そのつもりで読んだ人は怒るんじゃないかな(苦笑)。楠田匡介というと司法保護司をしていたこともあって、塀の中の事情に精通している作家である。それで知った「リアル」を存分に生かした「宝石」の名物シリーズである。
しかし、文章は見るからに荒っぽい。実話読み物風なんだけども、塀の中の受刑者の「リアル」という面では、逆に効果的になっていることを否定できない。だからこその「ハードボイルド」な味さえ感じてしまうのは、読みすぎかな。でも、脱獄手段は手を変え品を変え、そして脱獄した後の復讐やらなんやらドラマ盛りだくさん。意外な逆転が仕込んであったり、女囚やら少年刑務所やら、少女受刑者やら...と、たとえば「女囚701号さそり」を彷彿とさせる「愛と憎しみと」、スベ公グループの確執が絡んで「野良猫ロック」みたいな「不良娘たち」、「練鑑ブルース」を作中で歌う「不良番長」ならぬ「不良少女」...いやまさにヤサグレた60~70年代映画の情念が立ち上る。「網走番外地」だって第1作は脱獄モノだしね...ちゃんと酒を「キス」って隠語で呼んでます。
で、14作収録があっという間。短編集「脱獄囚」を完全収録する目的もあって収録された「朱色」だけが「脱獄」カラーが薄い(それでもちょっとだけかかわりが?)パズラー風味の悪漢小説だけど、最後の「完全脱獄」は、「獄中にある」のをアリバイトリックに使うという奇想。でもリアル。

なかなか盛りだくさんの内容で、結構楽しめます。
(ちなみに保護司って、無給で事実上ボランティア。大変...)

No.906 6点 パルムの僧院- スタンダール 2021/12/30 16:52
今年のシメの書評になると思う。ちょっと変化球を狙って大古典。いや本作、「脱獄」がメインの小説だからね。イタリア北部に小さな宮廷が乱立していた時代に、そういう宮廷に仕える大貴族たちが主人公。だから現代人の眼から見たら、鷹揚なんだけども、市民的な道徳心皆無というか、独白大好きでも内面性を欠いていて、自分の政治的立場の計算と衝動的な情熱との間で突発的に動いちゃうキャラばっかり。

一言で言えば「悪漢小説」なんだよ。主人公のファブリスって血の気が多い若様で、侯爵家の次男なんだけどナポレオンに憧れてワーテルローの戦いに押しかけ参戦しちゃうのが、幕開き。命からがらイタリアに戻るんだが、父と兄に嫌われて事実上亡命を強いられ....でも叔母のサンセヴェリーナ公爵夫人とその愛人のモスカ伯爵の手引きで、モスカが首相を務めるパルム公国に、大貴族の身分から司教候補としてデビューしちゃう。別に信仰心があるわけじゃないけど、うまく現司教に取り入ってパルムでの地位を固まってくる。けど血の気が多いから旅芸人一座との女出入りで恨まれて襲われて、自衛とはいえ人殺し。本来身分違いでまともな罪にならないはずが、モスカの政敵に事件が利用されて、ファブリスは逮捕、城塞の塔に監禁される。モスカと公爵夫人が策謀し、城塞司令官の娘とのロマンスもあって脱獄...という話。

長いわりに登場人物の少ない話だから、ファブリスにしてもモスカ伯爵にしても公爵夫人にしても、キャラは一筋縄ではいかない。一応「自由思想」というのが話題になるし、モスカも一方の党首なんだけども、誰もマトモに思想なんて信じちゃいない。敵も味方も王侯と大貴族ばっかり。権門らしい鷹揚さで買収を試みるとか、多重に陰謀を企む懐の深さで勝負。小さな宮廷の狭い人間関係の中での、腹芸みたいな世界で、その中でシビアな人間観察が光るあたりが古典らしさ。
牢獄に囚われたファブリスが、毒殺を警戒しつつ、外部との連絡を取って次第に脱獄計画が練り上げられていくのに全体の1/4くらいの分量があるから、ここらへんのダイナミックな興味が一番の読みどころ。実際にあった脱獄事件に取材しているようで、プロセスがリアル。

まあだから、ロマネスクな味があるとはいえ、自分以外何も信用しないようなシニカルな話だから、若い人が読むような小説でもないと思う。自由思想って実のところ「思想からの自由」みたいなもんだ、という悟りが必要なんじゃないかな?

No.905 6点 風化水脈 新宿鮫VIII- 大沢在昌 2021/12/25 20:46
新聞連載で読んでいたから、本で読むのは初。こんなことも、ある。
自動車窃盗グループの摘発話だから、一番地味な話、といえばそう。だけどこの本の主人公は「新宿」という街自体なんだよね。だから、本書はあまり鮫島ストーリーらしさはなくて、晶もちょっとしか登場しない。鮫の旦那も狂言回しっぽい。
まあ真壁、出来すぎのキャラ。刑務所から出てきて、元の所属組も迎えてくれるのではあるけども、今の組に違和感を抱えつつ、そうそう簡単にはケツをまくれない...そういう屈折があるから、どうだろう、鶴田浩二? そんな風に言いたくなるくらいに、古き良き様式美ヤクザ映画っぽいカラーがある。
60年代末くらいの映画で、一面の荒れ果てた草原が出てきて...が淀橋浄水場の跡地ロケだったりしたものだ。その時代の前は池。東京という街の表層のすぐ下に、人工的な水道や川といった「水の風景」が埋もれている。そういう地誌というか「街の本性」を、戦後混乱期の殺人を絡めて描いているあたり、うまいものだとは思う。
オーソドックスといえば、真正面の話。評者は変化球好きが本性。

(でも仙田くん、いい奴じゃん。仙田にやや惚れる...)

No.904 6点 妖花燦爛 赤江瀑アラベスク 3- 赤江瀑 2021/12/20 17:03
さて、創元の三巻のアンソロもこれで完結。編者の東雅夫氏の好みが前面に出ていて、知名作中心の光文社での三巻のアンソロとは収録作がカブらないという、クセのつよいアンソロになった。まあでも学研M文庫の「幻妖の匣」の拡大強化版みたいなアンソロであるのは間違いない。
で、アンソロタイトルからして「妖花」。「平家の桜」「櫻瀧」「春の寵児」と桜を主題にした作品3連発で始まり、若者主体で若い頃に書いた「平家の桜」と老いてから書いた「櫻瀧」と、対比できるように仕掛けて、そのオチとして思春期の入り口に立った少年の性の目覚めを描いた名編「春の寵児」になる。そして「春の寵児」の元ネタのような若書きの詩を収録したエッセイ「花の虐刃」で〆るという用意周到な編集。

赤江瀑名作選、というと70年代あたりの凝りに凝った名文の名作の印象が強いのだけど、老いてからは京言葉の独特の語り口が楽しい作品が増える。まあだから読みやすくなるんだけどもね。若さで何もかも放擲するような「いさぎよさ」から、老いて命に恋々としがみつくさまを見つめるように、変わって行くのもまた作家の人生。若くてギラギラした作者の「体臭」に評者は強く惹かれていたのだけども、能面にすべてをなげうつ面師の「阿修羅花伝」が、そんな露悪的なまでに作りすぎな「若さ」を感じさせる反面、若き恋、しかも許されぬ恋を秘めながら平凡な人生に埋没した大部屋役者の人生が浮かび上がる「恋川恋草恋衣」。同じ芸道一途、とはいえ多面的なきらめきに広がりが出るのが、また別な読みどころでもあるのだろう。

というわけで、アンソロなので、好き嫌いはあるが、それなりにレベルの高い作品集にはなっている。「春の寵児」「恋川恋草恋衣」「伽羅の燻り」「しびれ姫」あたりが評者は面白く感じた。

大南北在世中の江戸芝居を舞台にして、血染めの小袖の謎を追う「しびれ姫」にミステリ色が強く出ている。長編大時代ミステリ書いたらよかったのにね、とも実は、思う。晩年は殺人とか自殺とか比重が減って、「生きながらえる」方に結末が傾くけども、殺人の真相ではない「人生の謎の解明」にやはり主眼がある、とは読めるだろう。そういう意味でミステリ手法はちゃんとあるし、「広義のミステリ」であることは、間違いない。

No.903 5点 ウサギは野を駆ける- セバスチアン・ジャプリゾ 2021/12/13 08:32
ハヤカワの「世界ミステリ全集」って過激なまでにモダンな編集方針で、古参マニアに嫌われた全集なんだけども、この「ウサギは野を駆ける」、モンテイエ「かまきり」、エクスブライヤ「死体をどうぞ」の巻(フランス篇2)が、一番「外してる」感が強い巻に、なるんだろうなぁ。
巻末の座談会によると、本来はジャプリゾの新作「野蛮人年代記」が目玉になるはずだったのだけど、これが出なくて、代わりに自作シナリオをノベライゼーションした本作を収録(のちポケミス)。

というか、ジャプリゾ、「シンデレラの罠」が有名すぎて本サイトだと「ミステリ作家」のイメージが強いんだろうけども、実のところ、映画人としてのキャリアも同等くらいに、ある人だ。Wikipedia みたら、デビュー作の非ミステリが「続・個人教授」の原作、かつ本人が監督・脚本だそう。フレンチ・ノワールを語る上で外せないライターだしね。

というわけで、本作はグーディスの「狼は天使の匂い」を原作にして、ジャプリゾがシナリオを書いて、ルネ・クレマンが監督した映画がある。そのシナリオの本人によるノベライズ。もちろんノワールで、アウトローの「男の友情」が見どころ。映画だとトランティニャンとロバート・ライアン。ごめん未見。そのうち見て追記します。グーディスの原作の方もポケミスで訳があるから、こっちもそのうちして比較するのがいいだろう。

主人公のフランス人トニーは逃亡先のモントリオールで、行きがかりでギャングの一味とかかわりを持つ。結果的にその一人を事故死させることになるのだが、リーダーのチャーリーに見込まれて、一味の計画に加わることになる...はぐれ鳥のトニーと、チャーリーの間で育まれる微妙な友情。ついに計画が決行されるが、想定外の出来事が重なり、一味は....

フレンチノワールらしい小洒落たデテールが満載で、脚本家としての才気は感じるし、いろいろな綾が積み重なって、同行二人になるあたり、義理と人情で泣かせたりする。雰囲気がいいが、まあ映画を見た方が面白いよね、というのが一番の感想。子供時代カットバック、映画もやってるのかなあ...あざとくないといいんだが。

っていうかさあ、このフランス篇2で、マンシェットが収録できてたら、本当に凄いと思うんだ。そういうあたりでも、ちょっと惜しいよね、という気がする。

No.902 6点 刑事くずれ/蝋のりんご- タッカー・コウ 2021/12/10 19:15
なぜか本作だけやりそびれていたから、評者にとってミッチ・トビンはこれでコンプ。ウェストレイク全部はさすがにツライのでやらないつもり。

「刑事くずれ」シリーズは、ハードボイルドのリアリティの中に、パズラー要素を再構成するコンセプトで一貫しているのだけど、本作は

この室内に真犯人がいます

と見得を切って名探偵が犯人を指摘する、というのを「お約束」ではないかたちで実現。しかもそれが、精神病院から退院して社会に馴らせるためのグループホームでの、集団療法の場面、というなかなか皮肉なもの。でもアリバイ再検討と心理的な動機と盲点があって、「ガチのパズラー」を期待するとあれ?かもしれないけども、「パズラー的要素をこれまでにないやり方でアレンジ」というオリジナリティがある。
早い話このシリーズ自体、「こういう作り方も、あるのか...」を味わうためのシリーズだから、ミステリの裏も表も分かっている!と自負するマニア向け。

でもね、地味だからね...意外に「眠りと死は兄弟」のアメリカ版みたいな気もする。(あ、あと秘密の部屋とかもあるよ)

No.901 6点 天狗 大坪砂男全集2- 大坪砂男 2021/12/06 21:33
とにもかくにも「天狗」。何はなくても「天狗」。戦後の大名作短編の一つ。ミステリと幻想小説のマニアなら、これを知らないと恥ずかしい級の名作。文庫でわずか15ページ。でも一生心に突き刺さるナイフのような作品。
今でいえば理不尽なストーカー殺人なんだけども、そういう狂気というのが実は極めて明晰な論理性だ、というの描き切って、ギリギリと締め付けるような論理の果てに、鮮やかな花が咲くように「詩としての殺人」が顕現する。実に見事。
リスペクトを示すために、冒頭を引用しておく。

黄昏の町はずれで生き逢う女は喬子に違いない。喬子でなくてどうしてあんな素知らぬ顔をして通り過ぎることができるものか。

「声に出して読みたいミステリ」の筆頭格の名調子である。

あとの作品は、蛇足。そこそこ、といった程度。だけど、本当に「天狗」風のテイストの作品って、まったく書いていない、というのが面白いところ。「生涯の1作」に処女作で当たってしまう作家って、幸福なんだろうか、不幸なんだろうか?
「天狗」だけなら10点。

No.900 7点 ソドムの百二十日- マルキ・ド・サド 2021/12/01 20:08
評者900点記念は「ソドムの百二十日」。奇書もそろそろ種切れ感はあるから、満を持してこれ。1000点記念は....「ヤプー」やるのかなあ。苦手で読み通せない....でも、こっちは大丈夫。なぜか、ってあたりが面白いかな。

要するにSMってプロレスなんだよね。脳内補完しないと、どうにもダメなものなのだ。だからこの本でも4か月目になるとガチに残虐な拷問や殺人の話になってくるけども、それでも考えたら奇矯すぎて笑えちゃうようなものも多いわけだ。奇妙なくらいに「暴力」を欠いた残虐絵巻、という印象なんだよね。そして極めて観念的。乱歩の残虐絵巻と同様に、妙に幼児的な残虐さを感じさせる。

或る男は、近親相姦と姦通と鶏姦と涜聖の四つの罪を同時に犯すために、結婚している自分の娘の口に聖パンをくわえさせて、その裏門を犯したのです

アクロバティック、というものだろうね(苦笑)

或る悪党は、小さな女の子を大鍋の中に入れて煮てしまったのです

となると、何か民話の残酷さみたいなものを感じるわけだ。いや、梗概だけの第2部~第4部って、こんな「語り女」の語る次第にエスカレートしていく残虐譚に、四人の仲間が刺激を受けて残虐を実践する...というものなんだが、やはりやり過ぎて嘘っぽいのは、要するに「想像の世界」の話で、完璧な機械仕掛けで動いているようなところを、許さないといけない、ということなのだ。
いやね、評者「ヤプー」苦手なのは、SF設定が妙に安くて、読んでいて恥ずかしくなるところがあるんだよ。観念だからこそ都合が良すぎちゃう...それにシラけちゃうんだなあ...

「ソドム」は「あらゆる異常性欲をカタログ化する」ような目的で書かれたわけだけども、実のところ似たような話も多くて、スカトロと鞭打ち・肛門フェチな話が続く。感覚がマヒして意外に飽きる。それでも、人物紹介の「序文」には、妙に幾何学的な面白さがあるし、完成している第1部は、語り女のデュクロの一代記、娼家の女将として悪行三昧で世の中を渡ってきて、その中で出会ったヘンな奴らの性癖と、自身の犯罪と危機一髪なあたりもあって、なかなか面白く読める。それを聴く四人の仲間が妙に達観した哲学を述べて見せるあたり、サドの面目躍如なところと言えるだろう。

どんな悪徳でも構わないのだよ。私が快楽を得られる限りではね。悪徳は自然界の一つの行動様式であって、自然界が人間を動かす一つの仕方なのだ。自然界は美徳も悪徳も必要としているのだから、私が悪徳を犯しているときには美徳も行っていることになるのさ。

無情な自然主義、といったものが、サドの根底に、あるわけである。

評者が読んだのは、青土社の完訳版。澁澤龍彦訳で手に入りやすい「ソドム百二十日」は、序文だけの訳。序文だけだと、序文の幾何学的完成感の印象が強く出て誤解してしまうから、やはり完訳を読むべきだろう(おお、なぜか 2021/12/01 に読了! 面白い巡り合わせ)。

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クリスティ再読さん
ひとこと
大人になってからは、母に「あんたの買ってくる本は難しくて..」となかなか一緒に楽しめる本がなかったのですが、クリスティだけは例外でした。その母も先年亡くなりました。

母の記憶のために...

...
好きな作家
クリスティ、チャンドラー、J=P.マンシェット、ライオネル・デヴィッドスン、小栗虫...
採点傾向
平均点: 6.40点   採点数: 1379件
採点の多い作家(TOP10)
ジョルジュ・シムノン(102)
アガサ・クリスティー(97)
エラリイ・クイーン(47)
ジョン・ディクスン・カー(32)
ロス・マクドナルド(26)
ボアロー&ナルスジャック(26)
アンドリュウ・ガーヴ(21)
ウィリアム・P・マッギヴァーン(17)
エリック・アンブラー(17)
アーサー・コナン・ドイル(16)