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[ クライム/倒叙 ]
五人対賭博場
旧題『5人対賭博場』
ジャック・フィニイ 出版月: 1966年01月 平均: 7.67点 書評数: 3件

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早川書房
1966年01月

早川書房
1977年01月

No.3 8点 クリスティ再読 2022/04/06 22:54
大好きな作品。青春、だなあ。
評者でもね、学生時代って「悪いこと」をしたことがないわけじゃない。やはりヨノナカに対してスネる妙な意地みたいなものも出てくるから、ちょっとばかりはヨノナカにも噛みついてみたくなるものだ。今考えたらオトナになりきれなくて、ジタバタしているようなものなんだが、そういう青臭いテイスト満開の「ケイパー小説」である。

とくに、思い付きで始めた現金輸送車襲撃計画がすぐに通報されて叱られ...以上に「ガキどもに何ができる!」と嘲われたのにムカついて、リノのカジノの襲撃計画にのめり込む主人公グループに、感情移入しないでいられましょうや(苦笑)
遊びといえば遊びな部分が最後までついて回るから、良い意味で「地に足のついてない」ファンタジックな色合いが出ることで「救われる」。いやそういうホロ苦なアイロニーと、主人公アルの恋がなかなかの読みどころ。

ティナが体重を片足にかけて、フォークに手をのばす。薄いすきとおるストッキングの下でふくらはぎが、かたく、強く、緊張し、その繊細な足首がくっきりと見える。やがて、彼女があとずさりすると、ふくらはぎはまた柔らかくなり、腱は再びストッキングの下で分からなくなる。

カメラアイ描写でそれを見ている男の恋心を語る描写の魔力! 文章は全然気取ったところがないのにもかかわらず、ポエジーが漂うのが、いい。これは天性。

青春ミステリ、って本作のためにあるようなジャンルだと思う。

No.2 8点 人並由真 2020/03/30 21:23
(ネタバレなし)
「ぼく」こと19歳のアル・マーサーは、ネバダ州在住の大学二年生。アルは19~22歳の学友ガイ・クルイクシャンク、ブリック・ボジラー、ジェローム(ジェリー)・ワイナーの3人とグループ「フラターニティ(兄弟愛)」を結成。金はないが夢想する時間だけは豊富な学生生活を送っていた。ある日、犯罪実話マニアのジェリーが、仲間の4人で行う机上の現金強奪計画を立案。冗談半分で試みに行った現金輸送車の襲撃は失敗に終わるが、これで本気になった一同はネバダの大賭博場「ハロルド・クラブ」からの強盗プランを組み立て始めた。着々と進行する犯罪計画は要所でツメを要求するが、そこで妙案を出したのは、成り行きからこの作戦に参加したアルの恋人のティナ・グレイレッグだった。ティナを正式に仲間に迎えた男子たちは、ついにカジノ襲撃計画を実行に移すが。

 1954年のアメリカ作品。古参ミステリファン(評者などよりさらに二つくらい前の世代)には、まだ翻訳されてないうちに、日本語版EQMMの初期号で都筑道夫が絶賛しながら紹介~そんな経緯を踏まえたのちに邦訳刊行されたということでも印象に残っているはずの、フィニイの処女長編である。
 分類するならクライムストーリーで、青春ミステリか。

『レベル3』『ゲイルズバーグ』の二大短編集をもって至高と為す、糞面白くもない評者のフィニイ観(ほかにも『マリオン』とか『夜の冒険者』とか何冊か読んでるけど)からすれば、初期のストレートなミステリなんてどうなんだろ……という気持ちが心のどっかにあったのかもしれない。だから本作もポケミス版を購入以来、例によってウン十年、家の中に眠っていたのだが、このたび、お約束の思いつきで読んでみる。

 ……そうしたら、いや、これは予想以上にイケるではないの。
「主人公アルのことは好きだけど、今までさんざビンボ暮らししてきたので、結婚するなら、もっと年上の稼ぎのある人よ(大意)」とほざく美少女ヒロインでウェイトレスのティナ。そんなティナに「強盗上等、いいじゃないの、やっちゃいなさいよ(大意)」と背中を押されたアルがどんどん犯罪計画に邁進していく勢いのある物語の流れ。それがある事由から転調する中盤のサスペンス……と短い紙幅のなかでの密度感は高い(まあ正直、前半はちょっとだけ冗長だが)。

 とはいえ本作の本当のキモは、終盤のとある章(第×章)だな。
 正に21世紀のネット用語でいう「エモった」とは、こーゆーのを指すのであろう。
 フツーに素面で読んでいたけれど、万が一深酒で酔いながらページをめくっていたとしても、確実に正気に戻されるようなストーリーの流れであった。
 フィニイ、現実世界の作家としての顔は実のところこれまであまり意識しなかったけれど、この作品を書くまでどういう半生を送っていたのだろう、とすんごく気になった。あとで調べてみよう。
 1950年代という時代背景のなかでこそ成立した物語なのは間違いないけれど、ある種の普遍性を伴って、山場から余韻のあるクロージングまで息つかせずに読ませる秀作。
 個人的に「海外青春ミステリ」のオールタイムベスト10候補の一本に推したいわ。

No.1 7点 kanamori 2012/04/20 18:39
鬱屈した大学生活をおくる「ぼく」こと、アルを含む男女5人の若者たちが、ネバダ州の豪勢なカジノから売上金を強奪する計画をたて実行するが・・・という粗筋のジャック・フィニイの第1長編。

大胆でユニークな奪取手法も面白いが、実行までの綿密で用意周到な計画も読みどころです。終盤の皮肉なアクシデントから5人の立場を二転三転させる展開もサスペンシフルで良。
仲間の一人に対する扱いにやや不満がありますが、コンゲーム風の襲撃小説(=”ケイパー小説”と言うらしい)の古典傑作と言われるのも納得できます。(青春小説風の余韻が残るエンディングが、いかにもフィニイらしくて印象的)


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ジャック・フィニイ
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