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[ SF/ファンタジー ]
盗まれた街
ジャック・フィニイ 出版月: 1957年01月 平均: 6.75点 書評数: 4件

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早川書房
1957年01月

早川書房
1979年03月

早川書房
2007年09月

No.4 6点 ミステリ初心者 2022/12/05 00:22
ネタバレをしております。

 書評を書いたと勘違いしておりました(笑)。ちょっと前に読んだため、少々忘れてしまいました…。
 サスペンス・ホラー・SFの要素が入っておりますが、どれもしつこくなく、最小限の説明でテンポが良く、本題に入るのも早かったです。非常に読みやすくスイスイページが進みました。
 初めて成り代わる前の莢人間?を見つける→ベッキィのほぼコピーを見つける→マニーが論理的な解決?を主人公に提示する…主人公や街の住民などの集団的な妄想や暗示…?→莢人間の指紋がないことの説明ができない、という流れが非常に面白かったです。一度、超常現象など化学で説明できるバカバカしい!みたいな展開ってありがちですよね(笑)
 主人公たちが街に帰ってきたとき、思ったよりもずっと状況が悪く、街の人間すべてが敵になったかのような状態ですね。バットロングやマニーもすでに敵だったときの絶望感ったらないですね(涙)。

 知人が入れ替わったように思うという妄想が実際にあるのですね! 勉強になりました。

No.3 7点 クリスティ再読 2022/09/27 18:01
さてフィニイの2作目は有名なSF古典。ハヤカワSFシリーズのNo.1(3001)である。本作をトップに持ってくるあたり、ハヤカワのカラーを感じる(訳者の福島正実が絶賛で推したのか?)

フィニイの1作目は評者も大好き「五人対賭博場」でこれぞ青春ミステリ!という味わいのある作品だったわけだけど、本作の主人公はそれぞれバツイチのカップルで、本作の冒険を経て結ばれる...のが実はちょっとした伏線みたいなもの。恋とSFホラーがさりげなくうまく結びついているのがフィニイらしいというか、評者が思わずニッコリするあたり。いやあまりさあ、「侵略SFの大古典」とか「スモールタウンのホラー」とか、そういう読み方をしたくないんだ。

実は本作の導入である「身近な家族が瓜二つの替え玉にすり替わっていて...」というのは「カプグラ症候群」という名前で呼ばれる妄想として有名なんだよね。だから、本作も「カプグラ症候群にインスパイアされた小説」とか呼ばれることもある。けどこの解釈もつまらない。

今日、生まれ故郷の町にそのまま住んでいる人がどれくらいいるものか、わたしはよく知らない。だが、わたしがそうであるせいか知らないが、そうした町や市がしだいに衰退していく姿は、いうにいわれぬ悲しみを人の心に感じさせるものだ。

と侵略によって崩壊しつつある街に戻った主人公がこんなふうに省察する。故郷の町に戻ると、昔からの知り合いが年老いて、懐かしいけどもローカルな話題の繰言ばかりいうようになる。親の老いを感じるのも悲しい。この空き地に建っていた建物は何だったっけ? 忘れてしまう自分が悲しい....そんな感受性が、実はフィニイらしいものだと評者は思うのだ。
これを「ノスタルジア」と呼ぶのならばそうなんだけども、その中には確実に故郷を見捨てた悔恨の痛みと、成長した自分が過去を眺めたときの幻滅の苦味が入り混じっている。だからこそ、本作はSF古典やホラー古典を超えて「フィニイらしい作品」なのだろう。

No.2 7点 小原庄助 2020/07/20 10:41
ある田舎町で、自分の親や知人を「本人ではない」と言い出す住民が増え始める。主人公の医者とその愛人は、人間に成長しかけている豆のようなものを発見し、これが人間にとって代わっているのだと判断する。
恐ろしいのは、住んでいる田舎町の良く見知った人たちの、誰が脳侵略されているのかわからないことだ。窓から覗いた親戚の食卓での会話は、主人公たちの交わした会話をグロテスクに模倣したお芝居であり、彼らは演じながら笑っている。
ラスト、町から逃げ出そうとして、隣町へ向かう主人公たち二人のあとから、見慣れた町の知人たちが大勢で追跡してくるところは圧巻だ。この作品、いささか冗長ではあるが、田舎町の描写のリアルさなどで今でも古びてはいず、後にノスタルジイSFを多く書くことになるフィニイの才能が発揮されている。今では脳侵略ものの古典と言われ、これ以後、脳侵略というのはSFの一ジャンルとなっている。

No.1 7点 人並由真 2020/07/15 15:30
(ネタバレなし)
 1953年8月13日の木曜日。カリフォルニア州の田舎町サンタ・マイラで開業医を営む「私」こと、28歳のマイルズ(マイク)・ベンネルは、高校時代からのガールフレンドだったベッキイ・ドリスコルの訪問を受ける。ベッキイの用件とは、マイルズも知っている彼女の従姉妹ウィルマ・レンツが、何か奇妙な医療上の? 問題を抱えているらしいということだった。ベッキイとともにウィルマのもとに赴くマイルズだが、ウィルマは自分の伯父で養父でもあるアイラ老人が、外見も記憶のありようも全く同一ながら、別人としか思えないというのだった。マイルズは常識ではありえないこととして、ウィルマに知人の精神病理学者を紹介する。だがサンタ・マイラの町では、マイルズの同業者に受診を求めた者をふくめて、似たような「家族や知人が同じ顔の別人になっている」と訴える症例が続発。この町では、何かが起こりつつあった。

 1955年のアメリカ作品。ジャック・フィニイの第二長編で、初のSF長編。
 この時代(1950年代)の未読の新古典SFを楽しむのは大好きな評者だが、これはどちらかといえば作者フィニイの初期長編、という興味で読んだ。

 物語の大筋というかサンタ・マイラの町に迫り来る脅威の正体は、少年時代から大伴昌司の特撮怪獣ムックなどで知悉している(映画はリメイク版の『ボディ・スナッチャー』の方のみ観ている。かなり原作とは変わっている)が、原作小説に触れるのはこれが初めて。確か大幅に題名を変えた翻訳ジュブナイル版もあるはずだけれど、そっちも読んでいない。

 それでフィニイ作品といえば、あの甘美なまでのノスタルジア志向だし独特の情緒なんだけれど、本作ではまだ初期作のせいか、あるいはサスペンススリラー仕立てのSFという方向性のためか、その辺の興趣は抑えめ。とはいえ、主人公マイルズが恋人ベッキイに寄せる想いの一端から、変わりゆく日常世界、果ては天体規模の宇宙観まで、物語の大小の局面にちらりとのちのちのフィニイらしさは感じられ、その辺はまあファンには嬉しい(処女長編『五人対賭博場』も似たような食感であったのだが。)

 展開はおそろしく早く、リーダビリティも最高。主人公の行動にスキを感じかけたあたりで、ちゃんと読者が期待する動きを見せるとか、サスペンスものの手法もきちんとしている。小さな田舎町を舞台にしながら、後半、日常を超えた世界にまで視野が広がっていく感覚も50年代SFの剛球・直球という感じで快い。中盤のスリルの連続も申し分なく、さてラストは……と思っていたら、ああ、そう来るか、という感覚でまとめた。
 もちろんここでは絶望エンドかハッピーエンド(いろんな意味で)か、は書かないが、とにかく作中ではかなり印象的なビジュアルと観念で締めくくられる。クロージングににじむ余韻もいい。

 フツー以上、予期したとおりに面白かったので、8点をつけてもいいけれど、フィニイの本分がまだ熟成していないよね、という意味合いであえてこの評点で。いや十分に、当時からの名作といってもいいと思いますが。

追記:物語の中盤、街で続発する異常な事態に際し、主人公マイルズたちがなんとかギリギリ日常の枠に収まる、非・スーパーナチュラルかつ合理的な説明をつけようと躍起になるシーンがある。ここは、オカルトがらみの不可能犯罪ミステリ(人外の能力を持つ妖怪の犯行と思わせて実は普通に人間が作為的にした悪事)の合理的説明を行うあまたの名探偵たちの実働を裏から見るような感覚で面白かった。
 もしかしたらマクロイの短編ミステリ『歌うダイアモンド』とか、本作のようなものを踏まえて、当時、書かれりしたんだろうか?(そっちの正確な初出の年とかは知らないけれど)。


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ジャック・フィニイ
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