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[ SF/ファンタジー ]
ゲイルズバーグの春を愛す
ジャック・フィニイ 出版月: 1972年01月 平均: 9.00点 書評数: 1件

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早川書房
1972年01月

早川書房
1980年11月

No.1 9点 クリスティ再読 2022/05/22 07:19
なぜか初読。「五人対賭博場」は大好きなんだけど読み忘れていた。センチメンタルが恥ずかしかったのかな(意識し過ぎが今は逆に恥ずかしい)。

言うまでもなく「失われた過去へのあこがれ」がテーマの名作短編集。そのテーマをいろいろ10本の短編で変奏していくわけだが、テーマとカラーが共通しながらも、手法が全部違うのが素晴らしい。ジャンルとしてはSFとファンタジーの間を揺れているけども、ミステリぽく仕掛けたり、ホラーっぽく仕掛けたり、あるいは超常現象皆無だったり恋愛小説だったり、切り口の多彩さにヤられる。まさに「過去へのあこがれ」テーマの性格変奏曲の部類で、短編ごとに驚かされる。

本当に胸を締め付けられるような話もいくつか。処刑を待つ死刑囚が独房の壁に描く絵の話の「独房ファンタジア」や、気球に乗って夜の街を既婚者同士で「アヴァンチュール」する「大胆不敵な気球乗り」、時を隔てて相まみえることない「恋愛」の話の「愛の手紙」....いやいや、泣けるよ。本当にね。永遠の青春と恋の話が連続する。

で、ちょっと気になったので、調べたが、フィニイという人は結構遅咲きだ。1911年生まれだから、EQMMに入選してデビューしたのが36歳、処女長編の「五人対賭博場」が42歳、この短編集は1952年~62年に雑誌に載ったものなので、ほぼ40代の作者が書いた作品になる。成熟の腕前を強く感じる一方、若い主人公が過去に執着するテーマにと、もの狂おしい恋心...実のところ、「青春のさなかの戸惑い」というよりも「失われた青春へのレクイエム」という方が評者はピッタリにも感じる。

としてみると、評者がこの短編集を若い時に「読み損ねて」、初老のいま初めて読むのは、本書を味わうのに「よいこと」だったようにも感じるのだ。世に出損ねた小説家のツケを批評家が支払うハメになる幽霊譚の「おい、こっちを向け!」のオチが身に染みる(泣笑)。評者もどうやら「青春の当事者」というよりも「ただの批評家」だったようだ。


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ジャック・フィニイ
1980年09月
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