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[ クライム/倒叙 ] 完全脱獄 |
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ジャック・フィニイ | 出版月: 1961年01月 | 平均: 6.50点 | 書評数: 2件 |
早川書房 1961年01月 |
早川書房 1980年02月 |
早川書房 2007年09月 |
No.2 | 7点 | クリスティ再読 | 2022/09/08 16:19 |
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フィニイのミステリ系列の作品って、犯罪と冒険の間の細い道をうねうねと辿っていくようなもののように感じる。そりゃ「爽快な冒険」であっても、迷惑被る側としては犯罪以外の何者でもないわけで、犯罪と冒険のアヤの部分で、主人公が「ワルモノ」でなく犯罪を冒険できるセッティングの妙にかけられているように思うのだ。
本作の「冒険」は脱獄。カリフォルニア州立の刑務所で、チャールズ・マンソンも収監されていたサン・クェンティン刑務所から、兄のアーニーを脱獄させようと奮闘する弟ベンと、アーニーの婚約者ルース。アーニーはちょっとした小切手詐欺の罪で収監されたのだが、刑務所内での暴力沙汰が祟って、次は死刑という段階で自分を抑えられなくて刑務官に暴行。その証人が土曜日に証言をしにくる…タイムリミットは一週間。この間に脱獄しないことには、死刑になってしまう。弟ベンと婚約者ルースは綿密なプランでアーニーの脱獄をサポートする という話。小切手詐欺で死刑、とは無茶な話だが、「5年から無期」なんて不定期刑を課されると、上限の無期刑扱いになって、ちょっとした反抗でも死刑になる法律上のバグがあるそうだ。だから脱獄は否応もないし、読者の罪悪感は薄いように設定されている。でも脱獄手段はリアルで、いろいろ時間差攻撃の工夫はされているが、突飛なものではない。精緻に組み立てられてはいるが、実現可能、と少なくとも読んでいる間には思わせる。当然監獄内の描写や囚人たちの様子のデテールも、弟のベンがアーニーに入れ替わって監獄で過ごすシーンでしっかりと描かれて「塀の中」のリアルが窺われる。囚人たちの心理を落ち着かせるために、監獄内はパステルカラーで塗装されているんだそうだ(苦笑) そして兄弟の思惑通りに脱獄は成功するのだが、それでもいろいろとプロットの綾があって、最後は苦い結末となる。この「苦さ」にフィニイの目指す冒険と現実の犯罪とのアイロニーが実感される。「5人対賭博場」の青春小説の味わいには及ばないが、「クイーン・メリー号襲撃」「夜の冒険者たち」より、ずっと好き。 |
No.1 | 6点 | kanamori | 2012/05/30 18:15 |
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厳重な警備で知られるサン・クエンティン刑務所に収監され処刑がまじかに迫ったアーニイは、弟ベンと元婚約者のルースの手助けを得て脱獄計画を企てる。
脱獄方法自体は、タイトルからイメージするようなスマートなものではありませんが、ベンの隣家に住み顔見知りである看守が脱獄計画に絡んで、ベンが刑務所に侵入してからの展開が緊張感があって読ませます。 ただ、”事後”のドンデン返しは、「五人対賭博場」と比べると後味がいいとは言えず、フィニイらしくないように思う。 |