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[ 短編集(分類不能) ] 大渦巻への落下・灯台―ポー短編集III SF&ファンタジー編― 新潮文庫 |
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エドガー・アラン・ポー | 出版月: 2015年02月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 2件 |
新潮社 2015年02月 |
No.2 | 7点 | おっさん | 2015/10/25 18:51 |
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2009年に新潮文庫から、アメリカ文学研究者・巽孝之氏の編訳で、2冊のポー短編集が刊行されました。ゴシック編と銘打たれた『黒猫・アッシャー家の崩壊』と、ミステリ編の『モルグ街の殺人・黄金虫』です。全2巻で完結したものとばかり思っていたのですが、売り上げが順調なのか(?)今年2015年になって、突然、3冊目の本書、SF&ファンタジー編『大渦巻への落下・灯台』が追加されました。
前の2冊を、本サイトでレヴューしている関係上(その「編訳」に関しては不満が大きかったものの)、この巻だけ無視するわけにもいくまいと、手に取りました。 収録作は、以下の7作。 「大渦巻への落下」「使い切った男」「タール博士とフェザー教授の療法」「メルツェルのチェス・プレイヤー」「メロンタ・タウタ」「アルンハイムの地所」「灯台」 目次を見ての率直な印象は――なんだこの作品選択は!? でしたね。 SFとファンタジーに境界線を引かない編集方針は、いきおい収録作品のヴァラエティを生むとしても、しかし自動人形のイカサマをあばく「メルツェルのチェス・プレイヤー」や、造園芸術(美)の理想をカタチにした「アルンハイムの地所」などは、どちらの分野から見ても違うのでは? それに、千年後の未来が舞台で、月世界人まで描かれた「メロンタ・タウタ」(1849)が採られているのは当然としても、ポーをSFの先覚者として評価するなら、まず一番に収録すべきは、人類初の月旅行を描いた「ハンス・プファアルの無類の冒険」(1835 未完)ではないの?? というか、“気球”という格好の共通項もあるこのふたつのお話を、なぜ並べてみせない??? 訳者自身の手になる、巻末の「解説」を読むと、そのへんの事情はある程度、推察できます。ポーのSFアンソロジーの先行例として、巽氏は、ハロルド・ビーバー編のThe Science Fiction of Edgar Allan Poe(1976)と、それにもとづく八木敏雄・編訳『ポオのSF』全2巻(講談社文庫 1979~80)をあげ、本書は「(……)そうした先人の業績をふまえつつ、訳者なりのひねりを加えたものである」と述べています。参考まで、その『ポオのSF』の収録作を挙げておきましょう。 〈1〉「ハンス・プファールの無類の冒険」「メロンタ・タウタ」「瓶から出た手記」「大渦への落下」「シェヘラザードの千二夜の物語」「ヴァルドマール氏の症状の真相」「のこぎり山奇談」「ミイラとの論争」「使いきった男」 〈2〉「ユリイカ」「エイロスとチャーミオンの会話」「モノスとユーナの対話」」「催眠術の啓示」「言葉の力」「タール博士とフェザー教授の療法」 じつに堂々たるラインナップです。そして――どうしようもなく完成されてしまっている。後人が同一テーマでアンソロジーを編もうとしたら、まあ、このミニチュア版にならざるを得ません。でも、肝心の『ポオのSF』は版を絶やして久しいのだし、読みやすい新訳を提供し、解説に最新情報を盛り込めば、別にミニチュア版であろうがなかろうが、新規読者のためにはそれで構わないではないか、と筆者などは思います。 しかし巽氏は、そう思えなかったのでしょうね。アンソロジストの矜持か、学者の意地か。作品選択に「訳者なりのひねりを加えた」本書のラインナップを見てくれ、と。その意欲と挑戦は、玄人筋には高く評価されるかもしれません。前掲の「メルツェルのチェス・プレイヤー」や「アルンハイムの地所」を選択した理由も、解説のなかで詳しく述べられており、筆者には牽強付会に思えますが(たとえば後者の、人工楽園の麻薬的幻想にSFの想像力を見てとるのであれば、江戸川乱歩のかの『パノラマ島奇談』までSFの仲間になってしまうのではないか?)、卓見と見る向きもあるでしょう。 ただ、ミステリ・ファンとして言わせてもらえば、作品の解説のなかで、断わりなしに「使い切った男」と「タール博士とフェザー教授の療法」のネタバラシをしているのは、いただけません。解説を先に読む、ポー作品の初心者のことを考えましたか、巽先生? さて。 さんざんケチをつけましたが……いわゆる定番名作といえるのは、巻頭の「大渦巻への落下」くらいであるにもかかわらず、他の収録作のレヴェルもきわめて高いので、「SF&ファンタジー編」とかいうことをあまり深く考えず、ポー短編集の「拾遺集」として読めば、本書は作者の多彩な魅力を堪能できる、贅沢な一冊です。 なにより、創元推理文庫の〈ポオ小説全集〉では読めない、未完の遺作「灯台」を収録しているのはポイントが高い。筆者は昔、ロバート・ブロックが補筆して完成させたヴァージョンを、早川書房の傑作アンソロジー『37の短篇』で読んでいましたが、まったく設定を失念しており、今回、こんなに魅力的なイントロだったのか、と感じ入りました。作中人物の灯台守が綴る日記が、結果として中絶してしまっているわけですが、逆にそれが、彼に何が起こったのかという、得も言われぬ不気味さを残すことになっています。ある意味、ホラーとしては、続きがないほうが怖い。 そして、このお話が「アルンハイムの地所」のあとに置かれていることで、その効果が最大になっていると、筆者には思えました。というのは、「アルンハイムの地所」の幕切れは、ポー作品のなかでも屈指の明るさに満ちているわけです。天上の輝きを思わせる、と言っても過言ではありません。その“明”と、直後の「灯台」の、底知れぬ“暗”のコントラスト。こればかりは、巽氏の配列の妙に脱帽です。 読後に広がる “暗黒の海”のイメージ。それはそのまま「大渦巻への落下」の海へとつながり――瓶詰めの手紙が投げ込まれた「メロンタ・タウタ」の海へもつながります。 って、困ったなあ。書いているうちに、また最初から読み返したくなってきてしまったぞwww |
No.1 | 5点 | E-BANKER | 2015/03/28 17:36 |
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新潮社の編集によるE.A.ポーの短編集第三弾。
今回はSF、ファンタジー系作品を中心とした作品集となっている。 ①「大渦巻への落下」=舞台は北欧・ノルウェー沖。中型の漁船クラスの船が伝説の“大渦巻”に呑み込まれてしまう・・・のか? ラストは江戸川乱歩の某作品を思い出してしまった。 ②「使い切った男」=原住民との戦場で大活躍をした伝説の戦士。彼はいったいどんな男なのか・・・ということで話は進むのだが、ラストにはシニカルな結果が待ち受けている。 ③「タール博士とフェザー博士の療法」=タイトルはこうなっているのだが、話中にタール博士もフェザー博士も登場しない不思議なストーリー。とある精神病院を舞台に「鎮静療法」なる謎の療法が語られるのだが・・・ ④「メルチェルのチェス・プレイヤー」=“自動人形”と呼ばれ、対戦相手とチェスを指すことができる人形。要はからくり人形っていうことなのだろうが、本作はその「からくり=仕掛け」を延々と解説してくれる・・・。巻末解説によると、本作が後世のSF作品に与えた影響は小さくないとのことだが・・・ ⑤「メロンタ・タウタ」=作者の天文学への憧憬や興味が反映された作品。つまりはSF的な作品ではあるのだが、結局タイトルの意味はよく分からなかった。 ⑥「アルンハイムの地所」=これが一番よく分からなかった。主人公である詩人的造園家エリソンが、実はポー自身の投影になっているとのことだが・・・ ⑦「灯台」=実は未完の作品。ただし、舞台は北欧の海辺であり、①につながる作品ではないかという“いわく”があるとのこと。確かに魅力的な書き出しではある。 以上7編。 さすがジャンルを越え、多方面に才能を発揮した作者ならではの作品集。 正直、私のチンケな頭では理解できないものもあるのだが、脂の乗った時期に当たり、筆が乗っていることを思わせる作品が多い。 文庫巻末解説では、後世のSF作品への影響についても触れているので、SF好きの方は一読してみてもいいのでは? 本格しか読まないという方にはややキツイかも・・・ (個人的には、やたら自動人形の仕掛けに拘った④が一番印象に残ったのだが・・・) |