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[ 本格/新本格 ]
扼殺のロンド
海老原浩一シリーズ
小島正樹 出版月: 2010年01月 平均: 5.70点 書評数: 10件

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原書房
2010年01月

双葉社
2014年04月

No.10 6点 ミステリ初心者 2022/06/09 19:47
 ネタバレをしております。

 文章が非常に読みやすく、あまり話が脱線しないため、すいすい読むことができました。また、キャラクターがややコピペ感が否めないものの、あまり癖もなく、読書をじゃましないいい塩梅でした。

 推理小説的要素といえば、サービス精神旺盛な密室3連発です。また、随所にミスリードがちりばめられており、全力で読者を欺いてきます。プロローグからしてそうですね。ある程度推理小説を読んだ読者なら、推理小説のプロローグが全く信用のならない紛らわしいものというのは周知のことでしょうが(笑)。
 密室はというと、これはやや偶然の要素や、共犯による工作、犯人の失敗などでできたものであり、読者が論理的に真相へたどり着くのは難しいものでした。しかし、腹が割かれた死体と高山病の死体の二重密室はインパクトが強く惹きつけられます。
 手を切る→手を縫合するといった、狂気的なアリバイ作りもよかったですね。

 総じて、叙述トリックなどがあまり用いていない、正道?のドンデン返しが楽しめる作品です。
 文庫版あとがきに島田荘司の名前が挙がっていましたが、読者が論理的に当てられない作品というのが共通しておりますね。島田作品のほうがもっとインパクト重視なのに対し、本作のほうがやや本格チックな分、インパクトの面では劣っているかもしれません。しかし、馬鹿ミス度は島田作品のほうが上でしょうかね(笑)

No.9 6点 名探偵ジャパン 2019/05/13 23:37
非常に困ります。
ミステリに何を求めているかで、本作、ひいては作者に対する評価というのは大きく変わるのだろうと思います。
「これぞミステリ!」と大胆にして豪快なトリックの数々を、あくまで虚構の世界での遊戯として楽しむか、「ないわ!」とリアリティを置き去りにした荒唐無稽なトリックの数々に覚めるか、小島正樹ミステリを読んだ感想はどちらかに偏ると思います。
ただ、トリックの豪快さだけが語られがちですが、本作などは犯人の動機面や読者へのミスリードなど、物理面以外の部分も上手く構成されており、決して「バカトリック」だけが売りの作家ではありません。

あと、この作風から、師匠(?)の島田荘司とどうしても比べられてしまいますが、島荘にあってコージーにないもの、それはキャラクターの魅力です。これに関しては、まったく師匠の足下にも及んでいません。キャラクターを魅力的に描く力がないのに、探偵の海老原を御手洗のような、いわゆる「愛され変人探偵」に仕立て上げようとしてしまっているので、スベりまくっています。似てないモノマネを延々と披露されているような、読んでいて切なさを味わうほどです。そういったソフト面はもう割り切って、トリックや構成といったハード面にパラメーター全振りで書いてしまったほうがいいと思います。

No.8 5点 レッドキング 2019/05/12 18:48
何で死体から腸が丸ごと抜き取られたのか。「猟奇的」「耽美的」「宗教的」・・・一言で言えば「非合理的」ホワイダニットへの連想から「合理的」意味付けへの解決。ここらあたり師匠島荘の「切り裂きジャック百年の・・」を思い出す。

No.7 6点 いいちこ 2015/03/26 20:41
本格ミステリのガジェット尽くめにしたうえで、謎の不可解性を連打しての力押しなのだが、個々のトリックのクオリティはチープで、粗製乱造の印象が拭えない。
見せ方や活かし方もおざなりな印象。
こうしたトリック小説では、強引さやご都合主義をカバーするだけのプロットや舞台設定の妙が求められるが、その点でも今一つ。
ストーリーテリングは堅実で論理性を感じる反面、スピード感やサスペンスに欠け、探偵役はじめ登場人物の造形も弱い。
以上、欠点ばかりをあげつらったカタチだが、個性的な作風で嫌いではない。
ただブレイクスルーにはもう一歩

No.6 6点 E-BANKER 2014/11/22 17:12
「十三回忌」に続き、素人名(?)探偵・海老原浩一が登場する本格長編作品。
師匠・島田荘司を彷彿させる謎と不可能趣味溢れる奇想ミステリー。

~女は裂かれた腹から胃腸を抜き取られ、男は冒されるはずのない高山病で死んでいた。鍵のかかった工場内、かつ窓やドアの開かない事故車で見つかった二つの死体。刑事たちの捜査は混迷を深める。その後も男女の親族はひとりまたひとりと「密室内」で不可解な死を遂げていく・・・。読み手を圧倒する謎の連打と想像を絶するトリックに瞠目必至の長編ミステリー~

これは・・・読み手を選ぶ作品。
小島正樹といえば、島田荘司-二階堂黎人とつながる不可能趣味と大型トリックの後継者という評価が確立された昨今(?)。
特に二階堂氏が妙な方向へ進んでいる感がある現状では、この手の作品を所望する本格ファンの期待を一心に背負う存在。
本作もその期待に応えるべく、本格ミステリーといえばコレ!というべきガジェットがてんこ盛り。
特に三つの事件はいずれも密室という拘りよう。

問題はそのクオリティということになるのだが・・・そこがたいへん微妙。
第一の殺人は紹介文のとおりなのだが、これは果たして医学的、科学的に正しいのだろうか? 目撃者の見た様々な現象を伏線としているのだが、これは相当のご都合主義と言われても致し方ない。
第二、第三の殺人もそれぞれ問題を孕んでいるのだけど、何より密室トリックというより、「なぜ密室に?」というホワイダニットが納得できないのが辛い。
(結局、○○ということなのだろうか? 正直よく分からなかった・・・)

まぁ細かな瑕疵を挙げていくとキリがないのだけど、つまるところ、読者をそういう気にさせてしまうのは師匠・島荘のような「豪腕」の域に達してないということなのだろう。
島荘だって相当強引でご都合主義のオンパレードという作品も多いのだが、舞台設定や登場人物など作品世界の魅力やプロットでそれを十分カバーしてしまう力量がある。
そういう意味では、素材こそ島荘と同じものだけど、料理人の差でここまで評価が違ってくるということだ。

ということでどうしても評価は辛めになってしまうのだが、決して折れずに「王道」を歩んで欲しい。
そう思うミステリーファンも少なくないはず・・・(少ないか?)
(この一族に纏わる背景や動機なんかは二階堂の「悪霊の館」のインスパイアだろうか?)

No.5 5点 nukkam 2014/06/25 08:25
(ネタバレなしです) 2010年発表の海老原浩一シリーズ第2作の本格派推理小説です(島田荘司との共著「天に還る舟」(2005年)はカウントせず)。私は海外本格派を中心に読んでいて、国内本格派を読む時にはぜひ海外にも紹介できるような作品であって欲しいなと常々思っているのですが本書に関しては残念ながら海外の読者にはまずぴんと来ないような箇所がありました。次から次に不思議な謎が提供されるプロットは魅力十分で、詰め込みすぎという意見もあるとは思いますがやたら大作主義に走るよりはよいかと思います。

No.4 4点 makomako 2014/06/08 10:28
 途中まではなかなか良い。「お、小島正樹氏もだんだん小説が上手になったなあ」などど思っていた。
 氏の小説には多くの謎やトリックが詰め込まれており、途中まではこれで本当に謎が解けるのだろうかと思うほどなのだが、登場人物の魅力がいまいちなのと最後の謎解きでたいていはがっくりしてしまう。謎が不思議すぎるのでどうしても解決に無理を生じてしまう。
 この小説では犯人は意外だし、殺害方法も一見納得される方も多いと思うのですが、実は医学的に言えばこの方法はほとんどありえない。この分野を専門としてきた者の悲しさで、現実にはできないことがわかってしまうと解決部分は実にばかばかしくなってしまう。ありえない医学的方法の殺人は密室は超能力を使いましたと説明されると同様なのです。
 残念です。もう少しきちんと調べてから書いてほしかったなあ。

No.3 7点 メルカトル 2014/05/08 22:28
これはなかなかの力作ではないだろうか。各章ごとに配された謎は何とも言えない非現実感を伴っており、かなり魅力的ではあるのだが、堅実な文章のせいか、あまり派手な印象は受けない。ストーリー展開もスピード感に溢れているとは言い難く、ゆったりめなので、ドキドキするような迫力も感じない。しかしながら、着実に段階を踏む推理には納得せざるを得ない部分も多々ある。
フーダニットとハウダニットが謎の中心だが、上手くミスリードを挟みながら展開する謎解きは惹きつけられる。また、その陰に隠れて目立たないが、動機もなるほどと頷けるものがある。その動機から誰が真犯人なのかを推測することも可能だ。
全体的には小島氏が尊敬する島田荘司氏を彷彿とさせる作風だと思うが、一見平和そうな家庭の裏側にドロドロとした怨念のようなものが渦巻いているというやや複雑な人間関係は、横溝正史を思わせる。
やや気になるのは、登場人物にあまり魅力が感じられないことだろうか。探偵の海老原も派手さが足りない気がするし、二人の刑事もあまり人間味を感じない。その辺りをもう少しうまく表現できればさらなる傑作が生まれたに違いない。

No.2 6点 3880403 2011/04/23 04:07
トリックは面白かった。
キャラがたってないのか、なんとなく印象に残らないのが残念。

No.1 6点 江守森江 2010/03/10 15:33
自称名探偵・海老原シリーズ第二弾(海老原登場自体は三作目)
謎また謎の連打に結末の捻りを組み込む怒涛の展開な作風から、今回はやや落ち着いた。
各章毎で計3つの大きな謎が提示され、ゆったりと検討される過程はオーソドックス。
最初に提示された「内臓抜き取り」&「高山病」の謎は、現実味が薄くバカミスだが破壊力はある。
二番目の密室&幽霊トリックは、フーダニットの手掛かりの為の付け足しな感じは否めない。
三番目の密室トリックの気付きは、倉知・某作品の焼き直しだが悪くない。
総じて謎とハウダニットに関しては合わせ技一本と言ったところか。
※ここからネタバレ注意!!
しかし、捻ったフーダニットは、「十三回忌」同様にプロローグからミスリードを仕込む小賢しさ故、逆に犯人が透けてしまい驚きが薄まり残念(小泉喜美子の某作品が思い浮かび一気に犯人到達してしまった)
それでも、エピローグからプロローグに戻る構成は(新鮮味を欠くが)上手い。
あと一歩突き抜ければ傑作をものに出来そうなだけに、作者には「プロローグにミスリードを仕込む誘惑」の呪縛から解放されてほしい。


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