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[ 本格/新本格 ]
ブラッド・ブレイン 闇探偵の降臨
「闇の探偵」月澤凌士シリーズ
小島正樹 出版月: 2016年09月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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講談社
2016年09月

講談社
2019年06月

No.1 6点 人並由真 2017/01/16 19:56
(ネタバレなし)
 隅田川周辺の団地に一人住まいの初老の未亡人・新見久子のもとに繰り返し、別居中の娘・奈南から、不穏な内容の短い電話が掛かってくる。だが奈南当人には該当の電話の覚えがなく、やがて奈南の声色の「悪魔の声」は団地の室内でも響くようになった。怪異は奈南が自宅に戻って母との同居を再開するのと前後して鎮静化したが…。そんな頃、警視庁捜査一課の若手刑事・百成完は、ある場所に赴き、一人の男と出会う。彼の名は月澤凌士。警察上層部がひそかに協力を仰ぐ「闇の探偵」だった。

 小島正樹の新シリーズ。短いプロローグで語られた通り魔風の暴行事件、序盤で母娘をおびやかす「悪魔の声」の怪異、百成刑事が遭遇した警官殺し…と三つのエピソードがそれぞれ長短の紙幅で叙述されていき、やがて思わぬ接点を……(ムニャムニャ……)。

 新たな探偵ヒーロー・月澤の素性は一応ここでは伏せておくが、ありがちな感じの文芸設定に、作者が<独自のひと筆>を加えた印象。アーチ―・グッドウィン型のワトスン役となる百成との関係の深化もふくめて、続巻を何冊か要求するような今後の展開を予期させるものだ。

 ミステリ的な興味では、この作者らしい中規模のトリックの合わせ技が全開。特にアリバイトリックの大きなもののひとつは、良くも悪くも昭和ミステリ風の王道めいた歯応えを感じた。乱歩の類別トリック集成の一例に、しれっと混ざっていそうな感じだ。(個人的にはもうひとつの、一種の不可能トリックの方に惹かれるが。)

 長編ミステリとしては好テンポな叙述でリーダビリティも高く、集中して数時間で読了した。ただし後半で真相めいた謎解きが順次行われても残りの紙幅がまだあるために、それがフェイクであることも察せられてしまう。この辺は、名探偵ジャパンさんの『空想探偵と密室メイカー』の書評などにも通じる、一種の構造上の欠陥だ。
 とはいえ謎解きミステリとしての真相の露見と同時に、作者は物語のベクトルを、本書の枠組みならではの主題へと転換する。その舵取りはなかなか鮮烈で「ああ今後のシリーズは、そういう方向に行くのか……!?」とも思わせる。そこまでを評価の対象とするのなら、これはそんなに悪くない仕上がりではあろう。
 
 ほかにあえての弱点といえば、犯人側の一部の工作がえら面倒くさく、どう考えても目的の割に手間がかかりすぎだろ、と思わせる部分か。まあ私的には、ややこしいまでのエネルギーの使い方が愉快でもあったが。
 全体としては佳作~秀作。


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