皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ 本格/新本格 ] 天に還る舟 海老原浩一シリーズ/島田荘司・共著(中村吉造・共演/吉敷竹史・助演) |
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小島正樹 | 出版月: 2005年07月 | 平均: 5.80点 | 書評数: 5件 |
南雲堂 2005年07月 |
No.5 | 7点 | 人並由真 | 2023/10/13 17:07 |
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(ネタバレなし)
昭和58年12月。秩父鉄道の線路をわたす鉄橋の下で、怪異な状態の老人の首吊り死体が見つかった。だが同件は自殺と判断された。一方、新宿で昭和57年12月に起きた放火殺人事件に端を発した連続怪事件を一年近くかけて解決に導いた警視庁一課の中村吉造刑事は休暇をとり、妻の実家のある秩父に来ていた。中村はたまたま先日の老人=土地の名士といえる藤堂菊一郎の死の状況に不審を抱き、土地の警察の一応の協力を得ながら非公式な捜査を始めるが、そこで彼は一人の青年・海老原浩一に出会う。 海老原浩一シリーズの第一弾。 少し前にブックオフの100円棚でシリーズ二冊目『十三回忌』の文庫版の美本を入手。だったらどうせならシリーズ第一弾から読もうと、最寄りの図書館にあった本作を借りて読み出す。 作者の片割れ・小島正樹の作品は今でこそちょっとは嗜んでいるが、この人が師匠筋の島田荘司の後見のもと、共著という形の本書でデビューした2005年当時は、本当にミステリの読書なんかと縁遠い時期だった。 すでに海老原シリーズの近作は何冊か読んでいるが、改めてシリーズの開幕に向き合ってみる。 しかしシリーズ探偵のデビュー編が、別の作者の手持ち探偵との共演編という形をとるというのも、かなり強烈な趣向である。当時は相当に話題になったんだろうな。今からじゃまったく、その辺の空気はわからないが。 文庫版『十三回忌』の島田の解説を先に読むと、本作で中村刑事を相棒に迎える趣向も、あっと驚く(島田作品の一部? に通じる)大技メイントリック(特に第三の殺人)も、みな小島側の構想だったらしいが、なるほど、のちのちのトリックメイカー小島の源流がすでにここにあったことは十分に納得できる。 (なお真犯人の設定は、20世紀終盤に書かれた某国内の大家の作品から、着想を得ている気もするが?) 終盤でいきなり? 明かされる激しい動機には素で読んでその背景・大元の事情にいろいろ考えさせられる一方、いささかその勢いに鼻白んだ。 とはいえこれだけの事情があったからこそ、犯人はあれだけとんでもない殺人劇を展開し、大トリックを実行する労力を費やしたのだ、というイクスキューズにもなっているのだから、リクツには合っている。 それでも細部に「えー」とか「う~ん」とかツッコミめいた疑問符が浮かぶのは、正に島田=小島スクールの作品という気もする(とはいえ公平に繰り返すが、自分はまだそんなに島田作品を~初期と近作を除いて~読んでないが……)。 いずれにしろ、フツーに面白かった。 ただし、楽しめた、かというと、微妙なニュアンスでちょっと首肯しにくい一面もある作品だが(何よりいろいろと強引さを感じるので)。 で、なるべくネタバレにならないように配慮しながら、本作での海老原の描写についてひとつふたつ。 ・中村は、主要かつ公式な土地の捜査官ふたり(ひとりは表向き温和、もうひとりはやや冷淡)に向かい、相棒のアマチュア探偵となった海老原を(嘘をつかないように巧みに言葉を選んで)警視庁関連の人員のように錯覚させるのだが、これが最後まで通ったというのに無理を感じた。どっちかの捜査官が「ところで海老原さんの階級は?」くらい尋ねるだろ? ・のちのシリーズの軸となる<さる宿命を負った探偵>という海老原の大設定の文芸が、この作品ではまだ出てきていないのにも軽く、いや結構、驚いた。次作『十三回忌』以降が改めて楽しみである。 で、全体の評点は……甘いかな。でもこのトリックのビジュアルイメージはすこぶる豪快で、それだけで笑ってしまうほどインパクトあるので。 |
No.4 | 6点 | yoneppi | 2014/07/26 08:48 |
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小島正樹は読んだことがないけれどトリック・内容は島田作品そのもの。とりあえず今度長瀞に行ってくる。 |
No.3 | 6点 | E-BANKER | 2013/12/15 11:49 |
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2005年に発表された本格長編ミステリー。
大御所・島田荘司と“島田チルドレン”小島正樹の共著という斬新なスタイルが話題となった本作。 ~昭和58年12月。『火刑都市』事件の捜査を終えた警視庁捜査一課の中村刑事は休暇をとり、妻の実家のある埼玉県秩父市に帰省していた。そこで中村はひとつの事件に遭遇する。地元警察は自殺と判断した死体。これに不審を抱いた中村は独自に捜査を開始する。その直後に発生する第二の殺人! そして事件は連続殺人事件へと発展していく・・・。多くの遺留品、意味的な殺害方法。多くの謎の裏に隠された驚愕の真相に中村が挑む!~ 読み終わった感想を一言で表現するなら、“もうひとつの『奇想、天を動かす』”とでもなるだろうか。 ふたりの共著ということになってはいるが、大掛かりな物理トリックや遠大な殺害動機など、ミステリーとしての作風はまさに「島田荘司」そのもの。 島荘ファンとしては、御手洗や吉敷ではなく(吉敷はちょっとだけ登場するが)、中村刑事を探偵役としてチョイスしてくれたのがうれしい限り。 (同じく中村が主役級として事件を解明する『火刑都市』が個人的にもスゴイ好きな作品でもあるので・・・) また、その後の小島作品に探偵役として登場する海老原も準主役として、中村とコンビを組み、鋭い推理力を披露するのもファンサービスに溢れた仕掛け。 さて、本筋の連続殺人事件だが、相変わらずの豪腕振り。 あらゆる道具を駆使した物理トリックもスゴイのだが、それよりもフーダニットに凝らされた仕掛けの方が読みどころか。 まぁ悪く言えば、ご都合主義的な偶然の連続と無理筋のオンパレードということになるのかもしれないが、こういうことを主張する方にはそもそも島荘ワールドを楽しむことは無理なのだろうと思う。 正直、「ここまでするか?」とは思うのだが、これを支えるのが「遠大かつ歴史的な動機」ということになる。 これについてはあまり語りたくないのだが、日本人として生まれながらに背負っている“業”または“十字架”ということになるのだろうと思う。 ここまで褒めてはきたが、「奇想・・・」や「北の夕鶴」で感じたほどの衝撃やサプライズには程遠いというのが本音。 それが島荘の経年劣化に起因しているのか、小島の未熟さに起因しているのかは不明だが、過去の秀作とはやはり差のついた評点になるのは致し方ないかな。 (作品としての熱量はスゴイのだが・・・) |
No.2 | 6点 | メルカトル | 2013/05/22 22:32 |
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再読です。
『火刑都市』で主役を務め、また吉敷竹史シリーズで脇を固めたりもしている中村刑事が探偵役の本格ミステリ。 物語の最後の辺りでは、吉敷もちょっとだけ友情出演?している。 ストーリーは、妻を伴って来た旅行先で、奇妙な自殺の話を耳にした中村刑事がその自殺に興味を抱き、調査に乗り出す。 その後、日中戦争から帰還した元軍人たちが次々と残忍な方法で殺されていき、その謎をたまたま知り合い助手となった海老原と共に捜査していくというもの。 不可能犯罪や、密室、アリバイなどのトリックは、おそらく小島氏が考案したものだと思われるが、どうも物理的トリックばかり並べられて、やや食傷気味になってしまう。 一方、残忍な殺害方法による殺人の動機は、島荘が考えたのではないだろうか。お得意の、社会派的見地からの動機であり、十分納得のいくものではあったが、やや押しつけがましさも感じた。 がしかし、本格ミステリとしてまずまずの出来だと思う。 |
No.1 | 4点 | 江守森江 | 2010/02/04 07:27 |
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共著作品だが、弟子に師匠が手本を示す様に島荘色が強く、探偵役も島荘の持ちキャラの中村刑事で吉敷刑事もゲストで登場する。
見立て殺人擬き・三つの物理的大技トリック・密室トリック・偽装トリックと盛り沢山に詰め込んでいるが犯人指摘の論理が多分にご都合主義に感じる。 私的に、島荘らしい強引な物理的ハウダニットは好みからズレている。 戦争の問題・冤罪の問題と本格ミステリに社会派要素が盛り込まれ、ミステリーにかこつけた島荘の主張を読まされる感じでゲンナリしてしまい、さほど楽しめなかった。 |