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[ ハードボイルド ]
プレイバック
フィリップ・マーロウ
レイモンド・チャンドラー 出版月: 1972年01月 平均: 6.17点 書評数: 6件

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早川書房
1972年01月

早川書房
1977年08月

早川書房
2017年09月

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2018年09月

小鳥遊書房
2024年03月

東京創元社
2024年04月

No.6 2点 レッドキング 2021/06/26 22:17
フィリップ・マーロウ第七弾(にして最終弾)。理由を明かされず女を追跡する仕事の依頼を受けたマーロウ。恐喝屋ジゴロの死体消失事件に出くわして・・。「ハードでなければ生き残れなかったよ。でも、時に優しくなければ生きるに値しないさ」て言ってもさあ、いくら映画シナリオ元ネタと言え、マーロウが女二人とできちゃう展開てのは・・チト大衆(ヘテロ)迎合しすぎではないかと。

 てことで、村上春樹訳レイモンド・チャンドラー7長編の採点修了したので
 (ミステリとしての)春樹チャンドラーベスト3
   第一位:「水底の女」
   第二位:「ロング・グッドバイ」
   第三位:「さよなら、愛しい人」

No.5 8点 クリスティ再読 2017/02/23 22:14
皆さんは「長いお別れ」みたいなものを...で期待して本作を読んで、「マーロウかっこよくないじゃん」とがっかりするのが定番の流れなのだが、評者実は本作が好きなのだ。
というのは、ハードボイルドって客観描写、というのが通り相場なんだが、本作の描写って表には出ないが、マーロウの主観で強く染め上げられているように感じるのだ(まあチャンドラー特有のロマンティシズム、って言われるのもその表れではあるが)。バルコニーの死体はあったのか、なかったのか。マーロウは弁護士に雇われてベティを監視しているのか?ベティはマーロウを雇ったのか?関係者の女性とお約束のように寝るマーロウは女に強いのかダラシがないのか?などなど、ハードボイルドないろいろな要素がどれもこれも宙ぶらりんのかたちで保留されている...という異常なハードボイルド小説なのである。評者なんぞ本作を「幻想のハードボイルド」と呼びたいくらいである。
とはいえ、本作はたぶん、「長いお別れ」でもウェイド夫妻の話あたりからつながっている話である(リンダのラストシーンがどうこうではなくて)。マーロウは「私立探偵」というよりも、「有料トモダチ」とでもいったところの立場をとらざるを得なくなっている。tider-tiger さんが引用しているジャヴォーネンとの会話の別な部分だが、ホテルの探偵ジャヴォーネンが「私はホテルを守ろうとしている。君はだれを守ろうとしているんだ」に対するマーロウの答えは

いまだにわからない。どきどき、はっきりわかるときもあるが、どうして守っていいかわからない。ただ、うろつきまわって、他人に迷惑をかけている。ときどき、ぼくはこんな仕事をする人間じゃないと思うことがある

という具合。これはマーロウの警句、といったものでは決してなくて、何をしているのかよくわからなくなって立ちすくむ男の正直な述懐というものであろう。そのようなアイデンティティへの懐疑と不安が本作の通奏低音に流れている...だからこそ、

部屋のなかには音楽がみちみちていた

で終わるこの小説の「音楽」とはマーロウの「意識」そのものなのだ。

No.4 7点 tider-tiger 2016/09/19 12:51
マーロウは同じところを行ったり来たりで話がちっとも進展しない。前半はグダグダ。チャンドラーの筆力があるから楽しく読めるけど、内容がストーリーしかないタイプの作家の作品だったら投げてます。ようやく面白くなってきたなあと思ったら(P140あたりから)駆け足でラストへ。なんか不完全燃焼です。
はっきり言わせて貰えば失敗作だと思います。
前半のグダグダは一人称マーロウ視点に固執したせいです(本サイト内にある『過去ある女 プレイバック』の拙書評も参照してみて下さい)。マーロウのいないところで起こることを書くために回りくどくなったり聴診器を使ったりする羽目に陥ったんです(聴診器を持ち出して隣室の会話を盗み聞きとか、個人的にはマーロウにそんなことをして欲しくない)。三人称多視点であればもっとコンパクトにわかりやすく書くことが可能だったはずです。
ただ、小説としては失敗作だとしても、それが好き嫌いと直結しないのがチャンドラーの不思議なところです。私はこの作品もけっこう好きなんです。
特に以下の二点が好きなところ。
一点目はラストでマーロウが寂しい人ではなくなるかもしれないと期待できた点。よかったな、マーロウと素直に嬉しかったわけです。そんなわけでプードルは怖くて未読です。
※Tetchyさんの書評を拝読して、今はちょっと読んでみようかなという気持ちになっております。
もう一点は大好きな場面(会話)があるからです。
れいのセリフも好きですが、私の一押しは本作の主たる舞台となったホテルの副支配人ジャヴォーネンとの会話です。
マーロウを胡散臭く思い、調査に協力的ではなかったジャヴォーネンでしたが、最後に「私のことを嫌な奴だと思っているだろう?」とマーロウにこぼします。意外と可愛い奴です。マーロウはこう答えます。
「思わない。あんたには職務がある。ぼくには仕事がある。あんたはぼくの仕事が気に食わない。ぼくを信用しなかった。それだからといって、あんたはいやな人間と思うのはまちがってる」
このあと二言三言言葉を交わしますが、マーロウの以下のセリフが最高でした。 
「あんたは諜報機関の少佐だった。収賄の機会がいくらでもあったろう。なのに、まだ働いている」 
調査に協力してくれなかったことを恨むどころか、「立場の違いのせいで反目することにはなったが、私は高潔で実直なあなたの人柄に敬意を表している」と、とてもスマートな言い回しで相手に伝えたわけです。かっこよすぎ。
このやり取りを読めただけで私は満足でした。
※どうでもいいけど、本作のラストは……マーロウは『長いお別れ』のラストでウソを吐いてませんか?

以下 ネタバレというか、元ネタの映画シナリオ(過去ある女 プレイバック)と比較して内容について少し突っ込んだことを書きつつ、プレイバックというタイトルが「意味不明」となってしまった原因を明らかにしたいと思います。
※タイトルの意味、巷で流布している説の方がロマンチックだったり面白かったりするかもしれません。夢を毀してしまったら申し訳ありません。


シナリオ『過去ある女 プレイバック』(以下、シナリオとします)では主人公のベティは夫殺しの嫌疑をかけられ、僥倖としかいいようのない幸運で無罪を勝ち取ります(真相はシナリオ内で明記されていないが、おそらくベティは白)。ところが、新たな人生を送ろうとやって来たカナダで再び殺人の嫌疑をかけられることになります。殺人の嫌疑がかかる、このとんでもない体験が繰り返される、すなわちプレイバックです。
次に小説『プレイバック』(以下小説とします)です。
※私もシナリオを読む前は最終章がタイトルの謎を解くカギだと考えていました。そのような解釈をする人は多いと思います。
シナリオではベティの過去の秘密は早めに明かされます。
ベティの部屋で射殺体が発見され、ベティは容疑者筆頭です。
「またですか……」苦悩するベティの心情がプロットの中心に居座り、プレイバックの意味は歴然です。
これが小説では以下のように改変されます。
『マーロウの尾行相手(ベティ)の秘密はなにか、消えた死体は本当にあったのか(本当に殺人事件はあったのか)』
小説はこの二点を主たる謎として読者を引っ張る構造になっています。そう。この二点を謎として読者に隠してしまったことがプレイバックというタイトルの意味をぼやかしてしまったのです。
過去の秘密は不明、殺人もあったのかなかったのかわからない。読者にとってはなにも繰り返されていないわけです。
かなり後半になってから謎は明らかになるのですが、肝腎な部分が駆け足で流されてしまい、繰り返し(プレイバック)に注意がいかないんです。ベティの苦悩についても読者はよくわからない(三人称多視点にしておけばなあ……)。
これはチャンドラーの書き方に問題ありだと思います。
シナリオではベティの夫殺しに関する法廷シーンがあって、臨場感、緊迫感ありました。しかし、小説では法廷シーンは書けません(三人称多視点にしておけばなあ……)。出来のいい法廷シーンの代わりにベティの義父がマーロウにやっつけ仕事的な説明をします。ところが、セリフがいかにも説明的で真に迫るものがない。しかも、マーロウらがこの義父を適当にあしらってしまうので(これはこれで場面としては面白いのですが)、読者には夫殺し疑いの件は大したことではないように思えてしまうのです。チャンドラーがシナリオをマーロウの一人称小説に変更するにあたって、探偵小説らしい謎を設定したことが裏目に出たわけです。小説として面白くしようと努力した結果、内容がタイトルから遠のいていってしまったわけです。
チャンドラーに言いたいことは二つ。
死体を消したりせずに普通にフーダニットを謎とすればよかったのではないでしょうか。
ベティの過去をもう少し早く明らかにしてもよかったのではないでしょうか。
こうすれば、小説版もプレイバックの意味がもっと明瞭になったと思われます。
ただ、タイトルのために作品があるわけではありませんからねえ。チャンドラーが内容を優先して、タイトルと内容との関連についてはあまり注意を払わなかったとしても仕方のないことかもしれません。
最後に一つ。本作執筆時、チャンドラーは己の死を意識していたと思います。
では、小説とシナリオの読み比べ、他にもいろいろ発見がありますのでチャンドラーファンの方は是非!

No.3 6点 E-BANKER 2011/07/30 01:01
作者最後の作品。
名作「長いお別れ」から4年半の沈黙を経て、久々にマーロウ登場です。
~女の尾行を依頼されたマーロウは、ロサンゼルス駅に着いた列車の中にその女の姿を見つけた。だが、駅構内で派手な服装の男と言葉を交わすや、女の態度は一変した。明らかに女は男に脅迫されているらしい。男は影のようにその女について回った。そして2人を追うマーロウを待つ1つの死とは?~

チャンドラー最後の作品ということを考えれば、何となく感慨深い作品のように思ってしまう。
事件そのものは、マーロウが突然事件に巻き込まれ、関係者の美人とすぐに深い仲になったりしながら、事件全体の構図&謎を解き明かす・・・
ということで、まぁいつもの調子のように思える。
ただ、巻末解説で触れられているとおり、これまでとはやや異なったテイストがあるのも事実のようです。
今回、ベッドシーンが多いという指摘もありますが、やっぱりマーロウはカッコいいですよ。
本作の舞台となるサンディエゴもチャンドラーやマーロウの世界観によくマッチしてます。
レベル的にはそれほど高い評価にはなりませんが、古き良きハードボイルドを味わいたい方にはお勧め!
(有名な台詞『・・・やさしくなかったら、生きている価値がない』・・・シビれるねぇ)

No.2 7点 2011/06/01 22:08
あとがきで訳者の清水俊二氏も書いているように、チャンドラーとしては珍しいところの多い作品です。
マーロウの人物像や舞台も変わっていますが、ストーリー的には、これまでの作品よりも事件に謎的な要素が多いと言えます。尾行相手の秘密は何か、消えた死体は本当にあったのか、等。そしてその解決も意外にトリッキーです。そのせいでしょうか、再読してみて、なんとなく記憶に残っていた部分がいくつかありました。しかし一発発射された拳銃については、全然説明がついていません。
タイトルについては、個人的には最終章と関係があるのではないかと思っています。通常の意味では録音などの再生ですからね、再登場、再燃的な意味ではないでしょうか。本筋とは全く関係ありませんが、泣かせます。
某角川映画でもパクられていた例の言葉(原文の"hard"は、生島治郎の「タフ」という訳がぴったりくるような気もします)は最後の方で出てきますが、単独ではなく、その言葉を引き出す質問とセットにして語られるべきだと思うのですがね。

No.1 7点 Tetchy 2009/03/08 14:28
チャンドラー最後の長編。今やフィリップ・マーロウの代名詞ともなっているあのセリフ

「しっかりしていなかったら、生きていられない。やさしくなれなかったら、生きている価値がない」

は本作で登場する。

とはいえ、本作のマーロウは今までとはちょっと異質。特に簡単に女性と寝てしまうところが。今までマーロウを読んできた者、特に心酔している者達にしてみれば、裏切りにも似た感情を持つのではないだろうか。

とはいえ、長編の中でも一番短い本書はあまり事件も入り組んでいなくて理解しやすい。登場するキャラクターも立っているので十分満足できる。
ただシリーズの最後を飾る作品としては物足りなさ過ぎる。
逆に本作がマーロウシリーズの入門書としてもいいかもしれない。

題名の意味不明なところや舞台がロスでないなど、マーロウにこだわる読者の中では色々と不満があるようだが、個人的には十分満足できた。


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