海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

[ ハードボイルド ]
レイディ・イン・ザ・レイク
早川版チャンドラー短編全集3
レイモンド・チャンドラー 出版月: 2007年11月 平均: 7.00点 書評数: 1件

書評を見る | 採点するジャンル投票


早川書房
2007年11月

No.1 7点 Tetchy 2009/03/11 14:07
さすがにチャンドラーといえどもこれだけ似たような話を読まされると、疲れてきた。
曰く、事の発端→トラブル発生→死体と遭遇→関係者の間を渡り歩く→真相解明→乱闘シーンで死者が出る、とほとんどこのパターン。
細部の演出は異なるが、話の流れは全てこの流れで進められるため、読後の今振り返ってもどれがどんな話だったのか、ちょっと混在してしまう。

ここにいたって思うにチャンドラーはストーリーテラーとしてはあまりヴァリエーションを持っていなかったようだ。ストーリーの流れは常に定型を守り、そこに女や無頼漢、タフガイを絡め、物語に味付けを施すといった感じだ。そしてそれらキャラクターが途轍もない光彩を放つ時、傑作が生まれるのだろう。『さらば愛しき女よ』然り、『長いお別れ』然り、『大いなる眠り』然り。
最初の頃に見られた卑しき街をしたたかに生きる者どもの姿がここにいたって定型に落ち着いてきているのが、非常に辛いところ。
今回の作品群には今までの短編に見られた叙情が薄まっているようだ。技巧で書いているような気がした。調べてみると本作までの短編が第1長編『大いなる眠り』以前に書かれた物らしい。このころおそらく短編に限界を感じたのかもしれない。次々と浮かぶプロットは複雑さを増すが枚数の限られた短編ではある程度妥協点を見出さなければならない。だからこそ長編へと創作姿勢が移行していったのではないだろうか。

そんな中、本集最後に収められていた「真珠は困りもの」が異彩を放ってて面白かった。
恐らく親の遺産で悠々自適に暮らしているウォルター・ゲイジが婚約者の依頼で探偵を務める話。
このウォルターが坊ちゃんで、自意識過剰、自信家なところが他のチャンドラーの主人公と大いに違い、逆に他の短編に比べて特色が出た。特にウォルターがいきなり盗難の犯人と目したヘンリーに真珠が模造である事を話すところなど素人丸出しで、チャンドラーが他の探偵とウォルターをきちんと書き分けていることがよく解る。
最後の清々しい幕切れといい、本作でのベスト。

しかし連続して読んだがために飽きが来たというのもあるだろう。
「ベイシティ・ブルース」は完成度が高いし、「赤い風」もイバーラというサブキャラクターが印象に残る。
素通りするには勿体無いと一言付け加えておこう。


キーワードから探す
レイモンド・チャンドラー
2007年12月
トラブル・イズ・マイ・ビジネス
平均:7.00 / 書評数:1
2007年11月
レイディ・イン・ザ・レイク
平均:7.00 / 書評数:1
2007年10月
トライ・ザ・ガール
平均:8.00 / 書評数:2
2007年09月
キラー・イン・ザ・レイン
平均:6.00 / 書評数:2
1988年11月
ブルー・ダリア
平均:7.00 / 書評数:1
1986年06月
過去ある女 プレイバック
平均:7.00 / 書評数:1
1984年12月
ベイ・シティ・ブルース
平均:6.00 / 書評数:1
1977年02月
チャンドラー傑作集
平均:7.00 / 書評数:1
1975年01月
マーロウ最後の事件
平均:6.00 / 書評数:1
1972年01月
プレイバック
平均:6.17 / 書評数:6
1970年09月
雨の殺人者
平均:6.25 / 書評数:4
1968年01月
待っている
平均:8.33 / 書評数:3
1967年01月
レイモンド・チャンドラー語る
平均:6.00 / 書評数:1
1965年01月
事件屋稼業
平均:8.25 / 書評数:4
1963年01月
赤い風
平均:6.25 / 書評数:4
1959年01月
湖中の女
平均:6.67 / 書評数:6
高い窓
平均:7.00 / 書評数:9
1958年10月
長いお別れ
平均:7.69 / 書評数:26
1957年01月
かわいい女
平均:4.83 / 書評数:6
1956年03月
さらば愛しき女よ
平均:6.15 / 書評数:20
1956年01月
大いなる眠り
平均:5.82 / 書評数:17