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[ ハードボイルド ]
待っている
創元版チャンドラー短編全集3/旧書名『チャンドラー傑作集3』
レイモンド・チャンドラー 出版月: 1968年01月 平均: 8.33点 書評数: 3件

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東京創元新社
1968年01月

東京創元社
1968年08月

No.3 7点 クリスティ再読 2019/04/30 23:29
評者の書評も増えてきて、今まで作家別上位に並んでいたチャンドラーも、長編全7作だとランク外に沈みそうだ。それも悲しいのでテコ入れに短編もやることにしよう。ハメットと違いチャンドラーだと短編も問題なく全作カバーできるのだけども、全作揃うハヤカワでやるか、稲葉明雄がすべて訳して統一のある創元でやるか?が選択肢になるわけだが、まあここはチャンドラーを愛した名訳者の一人だけど、このところ清水&村上の影に隠れて目立たない立場にある稲葉明雄を、やはりプッシュしたいところである。で「待っている」が最近では表題化している全集3で、5作収録。
「ベイ・シティ・ブルース」だけマーロウ登場、だけど評者の見るところこの短編集で一番長くて出来が一番劣る。目まぐるしく事件が起きるだけのように感じる。
「真珠は困りもの」はガールフレンドの依頼で盗まれた真珠を取り返そうとする主人公と、容疑をかけられたが主人公と意気投合して一緒に行動する大男との話。この大男アイケルバーガーが憎めないキャラでいいな。ユーモア感もあって楽しい一編になっている。
「犬が好きだった男」は「さらば愛しき女よ」の後半の原型。医者に麻薬を打たれて監禁~脱出、賭博船への潜入と「さらば」でも一番美味しい部分だ。「さらば」だと逆に不徹底になる警察ぐるみの腐敗の話が、原型の本作だと一貫した話なので、「さらば」よりも辻褄の合った内容になる。まあチャンドラーにテーマ性を求めても仕方がない。
「ビンゴ教授の嗅ぎ薬」は、密室もののパロディみたいな話。「簡単な殺人芸術」のテーゼを具体化しようとしたのかな。これはこれでバカバカしい面白さがある。
「待っている」は、これ結構な人気作なんだが...チャンドラー本人は「通俗雑誌におもねろうと書いた作品」なんて自己嫌悪をあらわにしているのが面白い。「ハードボイルド文」の文体が自己目的になっているような気が評者はしてならないんだがなぁ。文章を極端に節約した文体で書かれていていて、翻訳がかなり難しいもののようだ。「50年めの解題『待っている』」というタイトルで、本作の5つの翻訳を比較しているHPがあるのだが、主人公トニーの態度や、銃撃戦の結果など、基本部分での解釈が訳によって分かれているのを示している。さすがにそれはまずかろう。一種の文体練習くらいに思って読んだ方が無難なのかもしれない。
ちなみに「最後の哄笑」ってタイトルで触れられている映画は、F.W.ムルナウの無声映画の大傑作「最後の人」の米題。これもホテルのポーターの話だから、何か訳が取り違えをしているのかな?
バラエティありすぎの一巻である。

No.2 8点 2011/10/12 21:21
5編中、マーロウの出てくるのは最初に収められた一番長い『ベイ・シティ・ブルース』だけですが、続く2編も一人称形式の、いかにもハードボイルドらしい作品。『真珠は困りもの』の「私」は私立探偵ではありませんが、恋人に頼まれて探偵仕事をすることになります。この作品は、特に語り口にユーモアが感じられます。『犬が好きだった男』の探偵はカーマディという名前になっていますが、内容は『さらば愛しき人よ』の病院から賭博船にかけたあたりの部分の元ネタです。本作の方が、ストーリーとしては首尾一貫していて、おもしろく仕上がっています。ちなみに大鹿マロイに相当する人物は出てきません。
『ビンゴ教授の嗅ぎ薬』は気楽な作品ですが、こんなに長かったっけ(80ページぐらい)、と思いました。ブリテンの『ジョン・ディクスン・カーを読んだ男』ほどのおとぼけではありませんが、似たような発想がありますね。最後の短い『待っている』は、この中短編集の中でも特に雰囲気のいい作品で、最も気に入っています。チャンドラー自身はこの作品に否定的らしいのですが。

No.1 10点 Tetchy 2010/03/22 21:01
収録作は「ベイ・シティ・ブルース」、「真珠は困りもの」、「犬が大好きだった男」、「ビンゴ教授の嗅ぎ薬」、表題作の短編5編。
実にヴァラエティに富んでおり、収録作には外れがない。通常のプライヴェート・アイ物もそれぞれの探偵に特色があり、面白い(特に「真珠は困りもの」のウォルター・ゲイジが秀逸)。チャンドラーらしくない「ビンゴ教授~」もアクセントになっていて、全4冊の短編集の中でこれがベスト。チャンドラーも意外と手札を持っているのが解る作品集だ。


レイモンド・チャンドラー
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