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[ ハードボイルド ]
赤い風
創元版チャンドラー短編全集1/旧書名『チャンドラー傑作集1』
レイモンド・チャンドラー 出版月: 1963年01月 平均: 6.25点 書評数: 4件

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東京創元新社
1963年01月

東京創元社
1963年05月

No.4 7点 クリスティ再読 2019/07/11 08:20
創元のチャンドラー短編全集四巻も、評者は本書で最後になるが、稲葉明雄のチャンドラー、ということになると実はもう一冊訳書があるので、コンプ扱いはそっちを読んでからとしたいな。
本書は処女作「脅迫者は射たない」、短編最盛期の「赤い風」「金魚」、第二次大戦下で書かれた「山に犯罪なし」の四作に、1953年の「序文」で知られる文章を収録。どれもそう直接的に長編ネタになっている印象のない中編である。だからある意味一番の読み応え感があるようにも思う。
チャンドラーというと「シーンが素晴らしいが、プロットはごちゃごちゃ」という印象評がまあ、適切な作家なのだけども、処女作の冒頭、イイんだなあ。ロンダ・ファーの描写と主人公とのやりとりなんて、臨場感があってなかなかのものだと思うんだよ....まあけど、どうも事件は誘拐も絡んで派手な展開をするが、展開に今一つの納得感はない。完全三人称で主人公の内面描写もないから、場面と場面の関連性がよくわからない。
「赤い風」では一人称になるけども、関連性がよくわからないのはそう変わらない。でも本作、入ってきた男がバーの片隅でウィスキーを舐めていた男にいきなり撃ち殺される冒頭の場面、きわめて素晴らしい。チャンドラーらしい「粋」が結晶している。最後のややセンチメンタルな場面はないほうがいいようにも思うんだけどねえ。バランス悪し。
「金魚」は傑作だと思う。事件を持ちかけた気のいいキャシー・ホーン、真珠を隠し続けたサイプ、小心な悪徳弁護士マダー、荒くれ姐さんキャロル、とキャストがナイス。本作はラストにかけて秀逸な場面が続く。サイプ夫人とのやりとりなど、ハードボイルドらしいなあ。
「山に犯罪なし」は書き馴れ感が出てるけど、テンション低下は覆うべくもない。この頃は長編作家になっていて、短編作家廃業に近い状態なのに書いた本作は、時局小説まがいのものだから、何で書いたのかモチベーションの理解に苦しむような作品。バロン保安官がキャラとして精彩があるのが救いなくらい。
という感想。「金魚」が突出して、いい。

(というか、何でもそうだが、完全にわかりやすく説明しちゃうと「粋」ってモノはなくなるんだよね。チャンドラーの「粋」には「余白美」みたいなものが不可欠じゃないのかな)

No.3 6点 2016/05/11 22:37
デビュー作である『脅迫者は射たない』は複雑と言うより、とにかくいろんな出来事が次々に起こっていく作品で、関係者のほとんどが死んでしまうというかなり強引な展開でした。
『金魚』でも死者は多いですが、最後の撃ち合いになる原因は、ご都合主義だなと思えました。この作品の探偵役はこの翻訳ではポケット・ブック版に合わせてマーロウにしていますが、訳者あとがきによれば、最初に発表された時はカーマディという名前だったそうです。この名前の探偵は第3巻の『犬が好きだった男』にも登場していますが、マーロウに置き換えても違和感はありません。
一方表題作の初出時探偵名はダルマスだったそうで、こっちは多少マーロウっぽくないところがあるかなという気もします。
『山には犯罪なし』では特に真相を隠そうともしない展開ですが、ラストは、確かに理解できないというか、あっけにとられました。

No.2 7点 Tetchy 2010/03/19 22:54
収録作は「脅迫者は撃たない」、「赤い風」、「金魚」、「山には犯罪なし」の4編が収められている。ベストは「金魚」、次点で「赤い風」となる。

正直、1作目の「脅迫者は撃たない」は十分に理解できていないほどの複雑さ、というよりもチャンドラー自身も流れに任せて書いているようで、プロット的には破綻しているように思われた。

「赤い風」もプロットは複雑な様相で物語が流れる。物語の終盤、マーロウの口から語られる事件の顛末は実にシンプルな物であることが解り、チャンドラーのストーリーテリングの妙味がはっきりとわかる。

「金魚」はこれぞハードボイルドだといわんばかりの作品。大人しい題名に舐めてかかると、かなりショックを与えられるハードな好編だ。

「山には犯罪なし」はもう典型的なチャンドラー・ハードボイルド・ストーリー。最後の結末はなんなのだろうか?ちょっと理解できない。

しかし短編でこれだけこねくり回したプロットを使うとは思わなかった。ただ中には果たして最初からこんな複雑な構想だったのかと疑問を感じるものがあるが。

No.1 5点 2010/03/11 10:34
中短編4編が収められている。さらに、巻頭にはチャンドラー自身による序文もある。なお、私の読んだのはちょっと古めの積読本で、カバーのイラストがロバート・ミッチャム(ハンフリー・ボガードではない)のマーロウだった。

写実的で心理描写がほとんどないハードボイルド文体は、やはり読解困難だなと改めて実感した。ヘミングウェイが作り出したハードボイルド文体を、ハメットやチャンドラーがミステリーに適用させて、ミステリーを深みのある文学にし、かつ謎解きをより高度にした功績にはいまさらながら頭が下がる。しかし、行間の読みにくい文章を複雑なプロットに絡ませると、私のような凡人は頭がパンクしてしまう。とはいってもじっくりゆっくり読めば、自身で謎を解けないまでもストーリーにはなんとかついてゆけ、真相に納得したり感心したりできる。そしてうまくいけば、じっくり読んだ分、余韻がこころに刻まれる。

本書についてもこのように臨み、じっくり読んだ結果、フィリップ・マーロウ物である表題作と『金魚』にはそれなりに満足した。処女中編である『脅迫者は射たない』については、著者が渾身の力を込めて書いたという印象は受けたがプロットが複雑すぎて、ついてゆけなかった。また最後の『山には犯罪なし』は不完全燃焼に終わった。結果的にマーロウ物2編が非マーロウ物より好く感じたが、主人公のキャラクタ的には大差はない。

経験にもとづけば、チャンドラー作品に対する読み手の問題として、隙間時間で読むと絶対に失敗するということがよくわかった。一方、製作時期が離れた4作を集めたわりに構成が似ている印象を受けたのは書き手の問題なのか(負け惜しみかも)。
いままで数少ないが内外のハードボイルド長編を読んできて、ハードボイルドに対する苦手意識はある程度克服したつもりだったが、短編に当たると、まだ不十分だと感じる。なお、元祖ヘミングウェイのほうが謎解きが絡まない分、読解容易な気がする。

(余談)
チャンドラー作品などにはユニークで大げさな比喩がよく出てくる。海外物なのでまだ許せるが、国内物で長ったらしくて嫌らしい比喩を連発されると辟易し、途中で投げだしたくなる。ある芥川賞作家の作品には1ページに1回は独特の比喩が登場し、そんな作品を2,3作続けて読むと、本当に嫌気がさして、もう二度と読むものかと思ってしまう。日本には日本独特の小説文化があるのに、欧米型の比喩表現を真似ることはないと思う。


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