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[ ハードボイルド ]
雨の殺人者
創元版チャンドラー短編全集4/旧書名『チャンドラー傑作集4』 マーロウもの ほか
レイモンド・チャンドラー 出版月: 1970年09月 平均: 6.60点 書評数: 5件

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東京創元社
1970年09月

東京創元新社
1970年09月

No.5 8点 斎藤警部 2026/06/28 15:05
今日の俺は疲れているんだ。 とっとと済まそうぜ。

雨の殺人者 … 雨の夜には打って付けの短篇だ。 事件と心の起伏。 快い痛みと震動。 抉り出される腐敗。 カーメン .. 俺の好きじゃない方だ .. そのカーメンが、ヤヴァい猥褻写真家 ‘兼’ 裏出版業者に心身を絡め取られ、その写真家の屍骸が、時宜悪く “私(≒ マーロウ)” に発見された。 複雑に熟したミステリ臓腑をじんわり追い巡って、放り出された先はたまらないエンディング。 好きだ・・・・    「滓(かす)みたいな人間どもには用はなかったし、いまだって同じことです」

カーテン … 腐れ縁の悪党との再会から、財界の大物老人との出会いへ。 老人の愛する “娘婿” の捜索を任されたマーロウ。 “気の合ったふたりの男が、世智がらい、敵意に満ちた世の中を仲よくやっていっている感じだった。” おお、意外な犯人と、おなじみの愛すべき真相、という意外な取り合わせだ。 ハヤカワの書評でもチッと書いたが、この真犯人意外性をミステリ(殊に長めの短篇)の中で文句無く成立させるために、ハードボイルドなる堅牢な枠組みが誕生せしめられたのだと、ガース・ハドソンかニール・ヤングあたりに言われたら、信じてしまいそうだ。 にしても、その意外な犯人に向けての伏線もバカ正直なほどに晒されていたんだよなあ。。 素晴らしき終わりの二文、たまらねえです。

流石に 『大いなる眠り』 を再読してみたくなる。 バナナとカフィミルクでちょっと元気になった。

ヌーン街で拾ったもの … 「指紋は痛がらねえからな」  明らかにマーロウではない探偵(と言っても警察所属)がハリウッド界隈で活躍。 汚れた空気がたまらなくイイ。 俳優人気は陰りつつも婦女子殺傷力はマーダマダの二枚目がヤバい脅迫を受けた。 クソヤバい巨漢ファッキンニガーも場を熱く乱す。 磁力抜群の紛糾ストーリーに、またしても最高のエンディング。 俺達は男だ。。  「拳銃にも休養が必要だからな」

やっとビールが飲めた。 人生は上々だ。

青銅の扉 … 「いや、どうも。 朝っぱらからもう三杯もいただきました ・・・・・・ お言葉に甘えて、もう一杯だけちょうだいしますかな」  異色作に破綻無し。 ファンタジーに呆れる程のスムーズネス。 古道具屋にて、ある意味最強のガジェットと邂逅。 オットこれ以上、あらすじテンダネス的なものはやめておきましょう。 素晴らしき惑わしの一篇です。 「ご婦人方ぬきで、はじめてふたりきりになれたじゃないか」 ← なんですか、これは  

そろそろスコッチソーダの時間だ。

女で試せ … なんも言えねえ..  “声もなかなか捨てがたい響があった。 いまだにときどき想い出すほどだ。“ そうなのか.. 今夜の君(マーロウ)はまだら人間臭いぜ。 いいじゃないか。 出所したばかりの巨漢白ん坊が、昔馴染みの酒場と女を懐かしんで再訪し、絶望し、新たな罪を犯す。 「女に手をだすな。 この女もあいつが好きだったんだろう」 ← この台詞で、あいつの男がぐっと上がった、チキショウめ。。 ラストシーン、音を殺した残響、、 沁みるじゃねえか。  

やぱぁ、アノ長篇を再読したくなるのである。 参ったな。

スコッチソーダおかわりで、お願いします。

No.4 7点 クリスティ再読 2019/06/15 18:46
創元のこの巻は「大いなる眠り」のネタ2つ「雨の殺人者」「カーテン」、「さらば~」の元ネタ1つ「女で試せ」、三人称ハードボイルド単発「ヌーン街で拾ったもの」、ファンタジー「青銅の扉」という5本立て。
「雨の殺人者」は妹娘側の話、「カーテン」は姉娘側、とそれぞれ別な女性の話を「大いなる眠り」では姉妹として合体させたのが面白い。短編で読んでみると、こっちのが話の辻褄が合いやすくてイイようにも思うんだが...長編版でオミットされたドラヴェックの結末が評者好きだなあ。ちなみに「オレだって知るものか!」とチャンドラー本人も開き直った、運転手殺しの真相は元ネタの「雨の殺人者」でもはっきりしないのがご愛嬌。
「ヌーン街」は三人称でマーロウ物よりも派手にバイオレンス寄り。映画的でスピーディな話で、ありきたりとはいえ、マーロウ物が避けがちで評者とかとても不思議だったハリウッド内幕のネタなのも、映画風味。クールでドライな語り口がナイス。
「青銅の扉」はチャンドラーの英国趣味全開な不思議犯罪小説。ハードボイルドな味はまったくないが、やたらと達者なのが逆に新鮮。今更言うのもなんだが、小説上手だ。
で、「女で試せ」は大鹿マロイを巡る話のちゃんとしたバージョン、という感じのもので、「さらば」だと実のところ枠組みくらいでしかなくて、中途半端な扱いなマロイに、きっちりドラマを作ってみせている。なので後半はほぼ別物で、「さらば」はマロイのキャラを借りただけ、という気がしないでもない。
というかね、日本の読者はチャンドラーをまず長編で読んで、それからファンが短編を読む、という流れになるのは当然なんだけど、作品の成立ももちろん逆だし、「ハードボイルド書き下ろし長編」という出版形態の意味を考えたときに、実のところ「ブラック・マスク」に掲載された短編の方を軸に考えた方のがチャンドラーという作家をちゃんと理解できんじゃないのかな? 執筆時ではパルプ雑誌での「書捨て・読み捨て」だった、小説家としては最底辺レベルの仕事の中で、アメリカ文学の最良の部分が育ってきた...という歴史的な皮肉があって、それが一躍クノップ社ハードカバーの「長編ハードボイルド」に仕立て直されて、表舞台のビジネスに乗って「ハメット・チャンドラー・マクドナルド・スクール」とか呼ばれちゃう流れを通じて、チャンドラーを理解する必要があるんじゃないかとも思うのだよ。
本作の短編は、長編の試作でも、元ネタでもなくて、それ自身で独立した生命を備えた作品、と読んで行きたいと思うんだ。どうだろう?

No.3 6点 2015/06/16 22:26
最初の『雨の殺人者』の一人称探偵役には、当然ハメットからの影響でしょうが、名前がありません。マーロウでも問題ないと思いますが。いかにもな雰囲気ですが、ちょっとごちゃごちゃした感じがします。
『カーテン』は内容的には『大いなる眠り』を思わせますが、冒頭の1文「はじめて私がラリー・パッツェルを見かけたのは、『サーデイ』の店の前で…」は言わずと知れたあの作品そっくり。
『ヌーン街で拾ったもの』の探偵役は麻薬課の潜行刑事で、これはさすがにそのままマーロウものにするわけにはいきません。本集中でもかなり気に入っている作品です。
『青銅の扉』は異次元への(?)扉を手に入れた男の話で、完全にファンタジー。第3集収録『ビンゴ教授の嗅ぎ薬』以上の異色作です。
そして最後の『女で試せ』ですが、昔の恋人を探す大男という設定は『さらば愛しき女よ』の元ネタながら、結末には大きく異なる点があります。どっちの結末がいいか、うーん…

No.2 5点 E-BANKER 2014/01/18 23:54
東京創元社が編んだチャンドラー短編集の第四弾がコレ。
(なぜ第四弾から手を出したのかというと・・・単なる買い間違いだったりする・・・)
F.マーロウものを含む全五編。

①「雨の殺人者」=ロサンゼルスという街の雰囲気がよく出てる、いかにも的な作品。台詞まわしや静謐な筆致など、チャンドラーの魅力の要素はつまってるよなぁ・・・
②「カーテン」=F.マーロウ登場作。でも早川の清水俊三訳版に慣れている身にはどことなくマーロウの造形に違和感を感じてしまう。プロット自体は単調。
③「ヌーン街で拾ったもの」=これもまた“いかにもチャンドラー”らしい一篇。登場人物たちの会話がとにかく何とも言えない雰囲気を醸し出す。このリズムと空気は真似できない。
④「青銅の扉」=ちょっとよく分からない・・・
⑤「女で試せ」=これは「さらば愛しきひとよ」の原型なんだろうなぁ・・・。②につづきマーロウが登場し、やはり美女との絡みが用意されている。これが最も読ませる作品かな。

以上、全5作。
さらに巻末には稲葉明雄氏により、チャンドラーが作家デビューするまでの半生、経緯が紹介されている。
(これはなかなか興味深い・・・)

短篇になっても、チャンドラーはチャンドラーだし、マーロウはマーロウという読後感。
この独特の世界観や静謐な文章は他の追随を許さない。
ただし、ハードボイルドはやはり長編でこそという思いは強くなった。
やっとその作品の世界観に浸ってきた・・・という辺りで作品が終局を迎えてしまうのが、「どうもねえ」ということになってしまう。

というわけで、長編作品より上の評価は無理かな。
(個人的ベストは断然⑤。次点が①。後は横一線というところ)

No.1 7点 Tetchy 2010/03/23 21:24
収録作は表題作、「カーテン」、「ヌーン街で拾ったもの」、「青銅の扉」、「女で試せ」の短編5編。

本作では『大いなる眠り』と『さらば愛しき女よ』というチャンドラーの2大傑作の原型となった作品が読める。長編と読み比べてどう変わったのか確認してみるのもまた面白いだろう。
従ってベストは「女を試せ」。次点は変り種「青銅の扉」か。

この東京創元社が編んだ短編集には抜けている作品もあり、これらを全て補完したのが後年早川書房から出た文庫版短編集である。ただあちらはこちらと区別するためか題名が原題のカタカナ表記であり、なんとも味気ない感じがする。チャンドラーの持つ叙情性は日本語の美しさと通じるものがあると私は思っているのだが、それが見事に損なわれている。
表紙も含め、チャンドラーのイメージに合うのはこちらの短編集なのだがチャンドラーの作品を網羅しようと思うと物足りない。チャンドラリアンにとって日本の出版事情とはなんとも具合の悪いことだろうか。


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