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[ サスペンス ] 悪女イブ 別題『イブ』『悪女イヴ』 |
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ハドリー・チェイス | 出版月: 1963年01月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 2件 |
東京創元新社 1963年01月 |
東京創元社 1963年01月 |
東京創元社 2018年06月 |
No.2 | 6点 | 人並由真 | 2024/02/23 05:56 |
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(ネタバレなし)
「わたし」こと現在40代初めの作家クライブ・サーストンは若い頃に、同じアパートで結核で死んだ同世代の劇作家の卵ジョン・コールスンの遺稿を盗み、自作として世に出した。その戯曲『レイン・チェック』は大評判となり、クライブはその後、自分自身の真の創作として数編の小説を著述。それらはそれなりのヒット作となるが、決して『レイン・チェック』を上回る作品ではなかった。クライブは恋人の女優キャロル・レイ、献身的な執事ラッセル、そして敏腕女性文芸エージェント、マール・ベンシンジャーたちの応援のなかで次作にとりかかろうとするが、自身の才能の限界を覗いた彼の筆は大して進まなかった。そんな焦燥の念と前後して、クライブは読書家の娼婦イブ・マーロウと出会う。 1945年の英国作品。 近所のブックオフが閉店したので、およそ一週間前の全品50円セールの際に購入した文庫本(旧訳・93年の20版)である。これも絶対に、すでに買ってあるのが家のなかにあると思うが、すぐに出てこないので、まあいいや。 大設定となる故人の原稿の盗作の件を除けば、事件性や犯罪要素などはとことん希薄な話で、そういう意味ではこれまで読んだチェイス作品のなかで最も普通小説に近い。味わいは、アルレーでシムノンで、ハイスミス、それら全部の作風のミキシングで、ミステリ要素の少な目な感じだ。 タイトルロールにしてキーパーソンのイブは悪女というより、まんま主人公クライブの運命を変えていくファムファタル。kanamoriさんも指摘しているように、実はさほど悪いことはしていない。 イブの魔性でクライブが蟻地獄に落ちていくというよりは、単にイブを触媒にしてクライブという物書き&男性としてのダメダメが浮き彫りにされていく流れ。 正直、クライブはここ数年で出会ったなかで、最大級に読んでいてイライラを募らせられる、そんな男性主人公であった。 うむ。チェイスの狙いがそこにあるのなら、まさにこの作品は見事に成功している。 最後のエンディングはややナナメ上にまとまり、はーん、という感じ。まあある種の余韻はなくもないが、これこそオフビートな感覚のクロージングであった。 1945年の刊行というが、第二次大戦の影はあまり感じられない。明確な時代設定の年数とかは出てこなかったと思うけど、もしかしたら戦前の設定のストーリーだったのだろうか。P155にまだボガートが健在で、最近作を観に行く描写があり、ちょっとしんみりさせられた。読みごたえとしては7点でもいいけど、あまりに主人公が××なので、一点減点。 いや、だから前述のとおり、ソコこそが、この作品のミソなのかもしれんけど。 |
No.1 | 6点 | kanamori | 2011/06/17 18:52 |
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英国人作家にもかかわらずアメリカン・ハードボイルド風の過激な暴力描写の作品を書いて流行作家となったハドリー・チェイスですが、そういったギャング小説とは別に”悪女もの”のサスペンスもいくつか書いていて作風は意外と幅広い。創元推理文庫のジャンル分類でいうと、拳銃マークと黒猫マークに分かれて出ていて、黒猫マークの代表作が本書のようです。
物語は、ハリウッドの新進作家「わたし」ことクライブが娼婦イブと出会ったことによって破滅へ向かうさまを描いた心理サスペンス。「蘭」シリーズなどとは全くテイストが異り、暴力描写がないどころか犯罪小説ともいえない内容だが、主人公が一歩一歩破滅への道を歩むさまは生々しく引き込まれる。 しかし、イブは悪女といえるのだろうか。元凶はクライブの盗作であって、イブの行為は娼婦として当然のことだと思えるのだが。 |