皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ サスペンス ] 殺人狂想曲 |
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ハドリー・チェイス | 出版月: 1957年01月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
早川書房 1957年01月 |
早川書房 1983年09月 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | 2021/09/03 18:04 |
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(ネタバレなし)
1950年代のカリフォルニアのフリント市。当地の「イースタン・ナショナル銀行」の出納主任で、30歳前後のケンウッド(ケン)・ハランドは、愛妻アンが実母の看病のために実家に5週間も帰っているので、若い体を持て余していた。そんなケンに、銀行の同僚で45歳のパーカーが、市の一角「レッシングトン・アヴニュー」に可愛い夜の女がいると名前と電話番号を教える。ケンは迷った末にその女「フェイ・カールソン」に電話して彼女のもとを訪ねて、映画と食事にのみ誘った。フェイは真面目で妻を大事にするケンに好感を持ち、ケンもフェイの明るくしかし気遣いのできる人柄を好ましく思う。フェイがかつてダンサーをしていたナイトクラブ「ブルー・ローズ」で軽く楽しんだ二人は、一度はフェイの自宅に戻るが、ほんのわずかケンが目を離したすきに何者かがフェイを刺殺した! 1954年の英国作品。 翻訳は、345番と早い通しナンバーのポケミスで刊行。 大昔に古書で買った初版で読んだので、裏表紙に「江戸川乱歩監修 世界探偵小説全集」と書かれており、しかも奥付が表3(裏表紙の裏)にある珍しい? 時期のもの。 実際に叢書に入れたのは解説を担当の都筑道夫かほかの若いスタッフだろうが、乱歩とチェイスの名前の組み合わせにちょっと笑う(まあ、晩年まで柔軟に、海外ミステリの最新情報を追いかけていた乱歩だから、チェイスの存在も視野にあったかも知れないが)。 本作の内容は、平凡な小市民で身に覚えのない殺人容疑をかけられる青年ケンを主人公にした典型的な<巻き込まれ型サスペンススリラー>。 が、探偵役である市警の警部ハリイ・アダムスが有能な捜査官の一方で嫌われ者の食わせ者として語られ、最終的にケンに味方してくれる法の番人になるか、あれこれ自分の野心を優先する悪役になるか見えないところなど、いかにもチェイスらしい。 さらに被害者フェイの住居レッシングトン・アヴニューは、いわゆる小規模な娼婦街であり「地元フリント市は健全で公序良俗に反しない町です」とタテマエを謳っていた公安委員会の、なるべく事件を表沙汰にしたくない方針や、さる事情から荒事で事態を鎮めたい市井の黒幕セアン・オブライアンの思惑などもからんでくる。 これにケンの周囲の一般人の言動や、大小の悪党の欲目や暴力沙汰なども絡み合い、まさに邦題『殺人狂想曲』にふさわしい内容になる。 終盤の二転三転の展開と意外な真犯人は、かなりのサプライズ。エンターテインメント作家としてのチェイスの第一弾としてコレを選んだ当時の早川書房スタッフの選球眼はなかなか確かだったといえる(映画化もされていたので、その関係かもしれないが)。でもチェイスの邦訳が波に乗るのは、もう少しあとに創元文庫でバンバン出るようになってからなんだよな。 いずれにしろ、先発で一作だけポケミスで翻訳されていたチェイス、さてどんなものだったのだろ、と思って今更ながらに手にとってみて、予想以上に楽しめた。 サスペンス要素の比重ぶりが、のちの創元文庫での諸作とよかれあしかれ少し異なるような感触もあるが、チェイスの邦訳作品全般をあらためて読んで&読み直してみれば、そんなに違和感はないかも知れない。 |