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[ クライム/倒叙 ]
蘭の肉体
『ミス・ブランディッシの蘭』次世代編
ハドリー・チェイス 出版月: 1963年03月 平均: 7.00点 書評数: 2件

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東京創元社
1963年03月

東京創元新社
1963年03月

No.2 7点 人並由真 2020/07/18 20:23
(ネタバレなし)
 精神病院に強制収容される22歳の赤毛の美女キャロル・ブランディッシ。彼女はかつて誘拐犯に拉致された、アメリカ有数の大富豪ジョン・ブランディッシの令嬢が、犯人に陵辱されて出産した女性だった。その母親はキャロルを出産直後に自殺。重犯罪者の父親の血を引く彼女は、祖父の一歩距離を置いた後見のもとに成長したが、その心には普段は静かで優しいが、一度枷が外れると凶暴になる闇の部分が巣くっていた。そんな彼女はある夜、病院から脱走するが。

 1942年(1948年?)の英国作品。
(刊行年の異同については、空さんのレビューをご参照ください。)

 世界観は同一ながら、当時の近未来設定で、しかも登場人物は完全に一新。刊行当時としては、結構、斬新な文芸だったのでは、とも思う。
 初老になった(前作で活躍の)私立探偵フェナーくらい、ちらりと出してもよかったとも思うが。
 ……もしかしたら作者的には、前作の初版を外圧で絶版にされたのが悔しくて、旧作の文芸は払底しながらも一方でその世界線を受け継いだ物語を築きたいとか、やや倒錯した心境だったかもしれない?

 しかし悪魔的な殺人淫楽症のヒロインが世間で凶行を重ねるダーク作品かと予期していたら、あにはからんや主人公のキャロルは普段はもの静かで優しい面もある。そんな彼女が、好きな動物が虐待されるとスイッチが入ってリミッターが外れる描写など、かなりイメージは違っていた(どこか、ラノベシリーズ『デート・ア・ライブ』の人気ヒロイン、時崎狂三ちゃんを連想させないでもない)。
 どちらかといえば、先天的な悲惨な出自に悩み苦しむ当人のキャラ描写もあって、読者の感情移入を呼び込む薄幸タイプのヒロインという趣もあるくらいだ(まあそんなキャロルはそうはいいながらも、かなり凶暴なことを色々やってもいるのだが)。

 ストーリーは妙なカメラワークで全編の物語が形作られていく感覚で、ジェットコースタームービー的な疾走感で突き進む反面、随所のキャラ描写にも味があって面白い。
 メインキャラの一角である殺し屋の「兄弟」が地方の宿に宿泊したところ、たまたま現地では明日の公式処刑のための絞首台を組み立てていて、その作業の音をききながらいろんな思いが「兄弟」の胸によぎるシーンなど、作者の鋭利な創作センスを実感させる。
 
 キャラクター配置も妙に「いい人」が意外なほどに続出してくる面もふくめて、過激な物語の反面、どこかに微温的というか、ほのかにのどかな一面もあり、そんなカオスな作風が異彩を放っている。

 ラストは……思うことはあるんだけれど、ネタバレになりそうなので、ここでは書かない。ただまあ、最終的に作者がたぶんヒロインのキャロルに、生みの親としての相応の感情移入をしてしまったのだろうことは推し量れる。

 前作を読んでなくて、単品で接しても、まったく問題ないと思う。チェイス作品の魅力がやや変化球的に(?)よく出た一編だとは思う。
 ただしこれをチェイスの代表作のひとつに入れると、ちょっぴり違うな、という感じがしないでもないのだが。

No.1 7点 2011/12/16 22:29
過激すぎて結局書き直されたという『ミス・ブランディッシの蘭』初版本の続編です。原書でも入手困難とされる初版結末の概要は、前作の創元推理文庫解説に書かれているので、本作を読むのに支障はありません。なお続編(出版は創元推理文庫では第1作の3年後1942年となっていますが、英語版Wikipedia等によると1948年らしい)とは言っても、前作の20年後の設定で、重なる登場人物は一人もいません。
フランスのパトリス・シェロー監督による映画版は確か20年ぐらい前に見たことがあるのですが、二、三こんなシーンがあったかな、ぐらいの記憶しか残っていませんでした。フランス映画界が好みそうなノワール(もちろんフランス語で「黒」の意味)系で、特に殺し屋サリヴァン兄弟の鴉的なイメージなどヨーロッパ映画風と言えます。
文学性などくそくらえとでも言わんばかりのエンタテインメントに徹した急展開の連続で、キャラクタ描写も浅いなりにきっちりできていますし、最後まで楽しめました。


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