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[ クライム/倒叙 ]
ミス・ブランディッシの蘭
私立探偵デイヴ・フェナー
ハドリー・チェイス 出版月: 1959年01月 平均: 6.33点 書評数: 3件

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東京創元社
1959年01月

東京創元社
1959年01月

東京創元社
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No.3 6点 クリスティ再読 2017/07/02 22:25
一大センセーションを巻き起こしたことで有名な作品なんだけどね....今読んでみると、アッサリした感覚が強い。誘拐と人質の横取り、さらに本線の探偵とは別口の、人質を奪って名を上げようとするチンピラ、と派手な殺し合いが続いてエグいバイオレンスの連続のはずなんだけど、どっちか言うと山田風太郎風のゲーム的な感覚が強く出ている。クールすぎてノワール、って感じじゃないな。大体、ヒロインのミス・ブランディッシからして、ストーリーの駒みたいなもので、名前すらちゃんと教えてくれてないよ...一切の感情移入を排した小説で「描かないのを察しろよ」といったハードボイルドの気取りの部分さえ抹消した「零度のスリラー」という雰囲気。
まあ、センセーションは本当は、初版にあった殺し屋スリムの残虐性描写とか、ライリーのマゾ、ミス・ブランディッシへのスリムの暴行とか、エグイ描写にあったようで、ここらが現行版ではキレイに消されていることにも上記印象の原因かもしれないがね。
アルドリッチが「傷だらけの挽歌」という邦題で本作を映画化しているが、評者は残念ながら未見。ただし、映画のラストでミス・ブランディッシは自殺してそれを探偵は見殺しにするというのを聞いている。映画は初版テイストを維持している感じだね、見たい。映画だと、ミス・ブランディッシの名前はバーバラだそうだ。
(追記:本作元ネタであるフォークナーの「サンクチュアリ」についても書いたので、そちらもどうぞ。この評の補足みたいなものかも)

No.2 6点 人並由真 2017/05/16 07:51
(ネタバレなし)
 フランク・ライリー(37歳位)は、相棒のジョン・ベイリー(34歳)そして運転手役のサム・マッケイ(60歳位)と結託。荒事商売で糧を稼ぐギャングのトリオ。3人は、食品業界で「牛肉王」として知られる億万長者ジョン・ブランディッシの美貌の令嬢ミス・ブランディッシが身に着ける、五万ドル相当の価値の首飾りを狙う。だがライリーたちの悪事は成り行きで、首飾りの強奪から令嬢の誘拐へと発展した。4カ月後、ジョン・ブランディッシはいまだ落着しない愛娘の誘拐事件の調査のため、斯界で有名な私立探偵デイヴ・フェナーを雇うが……。

 1939年に書かれ、当時の異色の英国ハードボイルドとして大反響を呼んだチェイスの処女作(創元文庫版のあとがきで訳者の井上一夫は1938年の作品と書いてるが、現在のwebでの各種の情報を参照すると1939年の著作らしい)。ところが内容がバイオレンスに過激すぎてかのジョージ・オーウェルとかの批判を食らい、やや内容をマイルドにした改定版が1942年に刊行。創元文庫の翻訳はこちらをベースにしている。

 それで感想だが、すでに何冊か後年のチェイス作品を読み、自分のなかで最高傑作と信じる『射撃の報酬5万ドル』を頂点に、ほろ苦い文芸性が多かれ少なかれにじむ独特なノワール系の作風に楽しまされてきた身としては、ああ、本当に良くも悪くもこの手の方向としての直球勝負だな、という感じの一冊。
 後年の諸作がそれぞれひしひし感じさせる、筋運びの達者さを見せつける職人作家ぶりはいまひとつ希薄だが(それでも前半3分の1の展開など、これがほぼ80年前の英国でそれなり以上に衝撃的だったのは想像がつく)、その分、全体的に当時の作者の<この一冊で英国のミステリ界をひっかきまわしてやる>的な熱気は感じられ、そのエネルギッシュな感触は悪くない。
 ただまあ、さすがに過激さの点でも、小説技法の点でも、あまたのほかのノワール系の後続作家に抜かれてしまった感じもいくらかは覚えたが、それは仕方ない。この手の作品の新古典と思って読む心構えは必要だとは思う。

 なお本書の続編『蘭の肉体』はまだ未読だが、内容は改定版の結末を受けたこの物語の次世代編のようで、早くも本書の改定版から十年経たないうちに書かれている。設定を覗くと作中では最低でも二十年近くの時間は経っているはずで、その意味では本書を基軸とするなら一種の近未来編だね。いつかそっちも読んでみよう。
 また、中盤からもう一人の主人公的な立場となる私立探偵フェナーは、ほかにも活躍する未訳の長編があるらしい。興味があるので、いつか、本書の原型版とあわせて邦訳される日は来ないものか。切に希望。

No.1 7点 2010/09/02 20:57
富豪の娘誘拐事件を最初ギャングの側から書き進め、半分近いあたりで私立探偵の視点中心に切り替わるところ、クロフツ型倒叙もののハードボイルド版とも言えそうな構成です。またこのタフな私立探偵、マーロウなどと違いホームズ並に警察と仲がいいのです。そういった意味では、舞台はアメリカですが、イギリス作家らしい小説なのかもしれません。
多彩な悪役の中でも、殺し屋スリムの人物像がなかなか印象的です。ただ、彼の最期はもう少し派手にしてもらいたかった気もします。
原書初版は発表当時には過激すぎて発禁になり、翻訳はおとなしく書き換えられた版を元にしているそうです。その初版の最後がどうなるかは解説にも書いてあって、読み終えてみると初版の結末も納得できます。改稿版ラストのあいまいな感じも味があるとは思いますが。


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