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[ 本格 ]
キングとジョーカー
ピーター・ディキンスン 出版月: 1981年03月 平均: 5.80点 書評数: 5件

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サンリオ
1981年03月

扶桑社
2006年11月

No.5 5点 レッドキング 2024/01/14 00:18
「王」と「道化」、「史実」と「虚構」、「外づら」と「うちわ」、「犯罪」と「悪戯」・・・トランプ画と不思議の国アリスと王朝悲喜劇を裁断シャッフル振りかけた、ミステリアスにしてファンタスティックなコンパクト版「百年の孤独」。

No.4 7点 2020/11/05 02:35
 現実とは異なる家系をたどった英国王室。王女ルイーズは、いつもと同じ朝食の席で、父王の秘密に突然気づいてしまう。しかしその朝、とんでもない騒動が持ちあがった。食事の皿に、がま蛙が隠されていたのだ!
 こうして、謎のいたずら者=ジョーカーの暗躍がはじまった。罪のないいたずらは、ついに殺人に発展。王女は、ジョーカーの謎ばかりか、王室の重大な秘密に直面する……CWAゴールド・ダガー賞2年連続受賞の鬼才が、奇抜な設定と巧緻な謎解きを融合させた傑作、復活!
 1976年発表。ディキンスンはジュブナイルと大人向け作品をほぼ交互に発表している作家でその境界も曖昧、ゆえにこれがミステリとして何作目かはなかなか判断し辛いのですが、どうやら"The Lively Dead"に続く九番目の長編にあたるようです。同年にはガーディアン賞受賞の『青い鷹』も刊行。同賞はイギリスの優れた児童文学作品に与えられるもので、過去の著名な受賞作は、アラン・ガーナー『ふくろう模様の皿』(1968)、リチャード・アダムス『ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち』(1973)など。ちなみに翌1977年にはダイアナ・ウィン・ジョーンズの "Charmed Life"シリーズ(『魔女集会通り26番地』『魔女と暮らせば』)が選出されています。
 本書も十三歳と四分の一になる英国王女ルルを主人公にした擬似ルリタニア・テーマで文章も流麗。細部に渡って王室一家(ファミリー)の日用品及び生活様式が描写され、その豪華さとは真逆に自らを客観的かつ皮肉に眺めている人々と、彼らの間で起こったスキャンダルと殺人を描いています。筆力があるだけにキャラクターに魅力があると俄然輝きを増すのがディキンスンですが、本書はその典型と言えるでしょう。邦訳済の中でもとっつきやすさは一番で、個人的には「泥んこも素敵なドレスになってしまう」王妃の秘書、ナニーことアナナ・フェローズの描写がやや少なめなのが残念。
 ミステリとしてはたまねぎの皮を剥くように現れる王室スキャンダルの後、より過激にというか殺伐さを増したジョーカーがバッキンガム宮殿に不吉な影を投げかけ、それに王女ルルが巻き込まれるといった構成。苦さを含んだ結末ですが、少女の成長物語と考えれば活劇部分の顛末も含めてアリかな。初期作品であるピブル警視シリーズほどの捻りはありませんが、総合力ではかなりのもの。現時点では第四長編『眠りと死は兄弟』の方が上ですが、再読したら案外逆転するかもしれないので、とりあえず7.5点は付けておきたいです。

No.3 7点 クリスティ再読 2018/08/14 12:39
架空歴史という口実のもとに、「王家のミステリ」をやって見せている本作、菊タブーのある日本とは比較にならないくらいにサバけている。主人公は13歳と1/4の王女ルイーズ。多感なお年頃で、このヒロイン・ルイーズの青春ミステリという味があることが、本作の面白みを高めている。考えてみりゃ、おとぎ話の舞台は王様と女王様の世界であって、そういう普遍的で神話的な「親」からの自立の物語として読むと、趣き深いものがある。ピブル警視ものよりもずっと読みやすくて一般的なので、ディキンスンを最初に読むなら本作が一番のおすすめだ。
イギリス現王家(1977年時点)は、国王ヴィクター2世、イザベラ女王の間に皇太子アルバート(20歳)と王女ルイーズがいる。このロイヤルファミリーの生活に中に、とんでもないイタズラが起きるようになった。当初は他愛もないイタズラだったのだが、どんどんと王家と周辺の人々を傷つけ危害を加えるものになっていった....ついには殺人さえも。老衰の果に死を待つばかりの、王家の11人の子供を育てた乳母が知る秘密とは?
...はっきりキャッチーである。自らの意思で公立学校に通う王女ルイーズの、しっかりした内面が陰影深く描かれるのが印象的。親で国王・女王といってもおとぎ話の王様・王妃様ではなくて、情けない秘密も併せ持った人間らしい人間であることが、子供もだんだんとわかるようになってくる...そういう惑いのなかで、ジョーカーの事件を媒介に、それこそ犯人に拳銃で脅されながらも、自分を確立していくさまが「青春ミステリ、だなあ」という感を受ける。
けどね日本で天皇家でこれやったら、大変なことになるだろうよ。いかにイギリス人が創作の自由をちゃんと守れる、洒落のわかった「粋な」気概の国民性であるかを示していると思う。

No.2 6点 nukkam 2009/05/14 15:40
(ネタバレなしです) 1976年発表のルイーズ王女シリーズ第1作である本書ですが確か日本で最初に紹介されたのがサンリオSF文庫版だったので認知しなかったミステリーファンも多かったと思います。SFらしさは全くなく、通常の本格派推理小説といってよいと思います(これがSFミステリーならエラリー・クイーンの「第八の日」(1964年)もSFミステリーの範疇に入るでしょう)。13歳の王女を主人公にしていますが、同じように少女を主人公にしたクレイグ・ライスの「スイート・ホーム殺人事件」(1944年)のような元気溌剌といった雰囲気はなく(といってもそれなりには活動的です)、家族愛は描かれているけどシリアスでほろ苦い内容です(ルイーズの兄アルバートが癒し役としていい味出しているが登場が少ないのが残念)。前半は犯人当て(ジョーカー探し)よりも王家の秘密に関する物語が中心でミステリーとしてはあまり面白くなく、唐突に挿入されたミス・ダーディーの回想シーンなどは結構読みづらいです。しかし後半になると一見ばらばらに思えた王家の謎解きと犯罪の謎解きがうまく絡み合う展開になりサスペンスも盛り上がります。もう少し明るく楽しい要素があってもいいのではと思いますがよく出来た作品です。

No.1 4点 mini 2008/11/12 11:34
現在非常に高く評価されている作家たちの中で、私にはなんとなく合わない作家の一人がディキンスンである
昔サンリオSF文庫で出たが、長らく絶版で復刊要望が多かった幻の名作として知られていた作品である
そもそもサンリオSF文庫などで出た事自体が間違いで、もう一つの英国王室を舞台にしたパラレルワールドものなのでSF小説と誤解されてしまったのだが、内容は完全に本格ミステリーである
復刊されて早速読んでみた第一印象は、読み難いし微妙
たしかに架空世界を構築する能力は凄いものがあると思うし、それは緻密な描写を見ても感じられる
こんな奇想の中でガチガチの本格を書ける作家はディキンスンくらいだろう
ただディキンスンの弱点は架空世界と物語との融合が上手くいってないところで、それが魅力と感じる人もいるかも知れないが、正直言って本格としても奇想小説としても中途半端な印象である
「ガラス箱の蟻」とか他のピブル警視ものが未読なので推測だが、これだけの筆力があるなら謎解きよりももっと奇想系に比重を移した方が才能が生かせる人なんじゃないかと感じた


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