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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] 封印の島 ジェイムズ・ピブル |
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ピーター・ディキンスン | 出版月: 2006年06月 | 平均: 4.67点 | 書評数: 3件 |
論創社 2006年06月 |
No.3 | 6点 | クリスティ再読 | 2019/03/09 22:27 |
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ポケミスでは紹介が本作をすっ飛ばしたために、「眠りと死は兄弟」でいきなりピブルが失職していて「えっ」となるのだが、本作で失職理由がちゃんと描かれるか、というとそうでもない(苦笑)。それでも人を二人死なせて詰め腹、ということなのだろう。
本作はスコットランドの西の海に浮かぶ島にある、証印神授教団という終末論的キリスト教系新興宗教団体のコミューンが舞台。この教団の客分として滞在するノーベル賞科学者に呼ばれて、ピブルはこの島を訪れる。この科学者はピブルの父の元雇い主で、若くして父を亡くしたピブルは、父とこの学者との間にあった確執の真相に、個人的に強いこだわりがあった....教団とこの科学者との関係も今ひとつうまくいっていないようで、科学者の回想録出版を巡ってピブルに一役買わせたい狙いがあるようでもある。ピブルは信者の中に、元犯罪者が混じっているのに気がつく。 こういう話なので、ある程度キリスト教の知識があったほうが楽しめよう。聖書の言い回しをパロったりパラフレーズしたり、とイギリス教養派っぽい饒舌さを面白がるべきだ。この老科学者というのが、何とも身勝手だが妙に憎めないキャラで、一方的にまくしたてる思い出話の中に隠された、科学者の自己弁護と何食わぬ隠蔽とを、ピブルは探りながら父に思いを寄せる、という屈折が何ともディッキンスンらしい。 一応ピブルシリーズは「本格」枠と捉えられているようだけど、実のところ「英雄の誇り」でも「盃の中のトカゲ」でもスリラー要素はかなり多い。本作はパズラー要素がほとんどなくて、最後は海洋冒険小説みたいになる。ホーンブロワーに言及するのがご愛嬌。それでもピブルが幽閉された石造りの独房から抜け出すプロセスや、007ばりにヘリを撃墜する策略とか描くのに、ハードボイルドな客観描写ではなくて主観的で内面的な描写が丁寧なあたりが、極めてイギリス的な冒険小説テイストがある。まあ日本のマニアがパズラーとスリラーを分けたがるだけのことで、イギリスはここらがごっちゃな事自体が「イギリス流儀」と思うべきなんだろう。 |
No.2 | 4点 | レッドキング | 2018/10/28 16:19 |
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麻耶雄嵩に「紹介」されて知った作家だから読んでみた 麻耶の「あの部分」に影響を与えたのは分かったが 「新本格第二世代」的な捻りに捻った「トリック」「ロジック」というんではなかったな 作品のチョイス失敗だったのかも |
No.1 | 4点 | nukkam | 2014/09/08 15:38 |
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(ネタバレなしです) 1970年発表のピブルシリーズ第3作ですが、これまでとがらりと趣向を変えて冒険スリラーになっているのに驚かされます。いや、変幻自在の作者ということをよく知っている読者なら不思議でも何でもないのかもしれませんが、いずれにしろ推理の要素は皆無に近い作品です。なぜフランシス卿がピブルを呼んだかの説明が不十分なまま話がどんどん進むのが読んでて辛かったです。後半からは冒険小説らしく起伏に富む展開となりますが、ピブルも決して頼もしい主人公ではないところに彼の周囲にはさらに心もとない人間ばかりが集まってしまい、どうやって危機を脱するのかで読者の興味を引っ張ります。サスペンスの中にもどこかとぼけたような味わいがあり、骨折り損のくたびれもうけに終わったようなピブルもそれほど悲壮感はありません。 |