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[ SF/ファンタジー ] 青い鷹 |
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ピーター・ディキンスン | 出版月: 1982年12月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
偕成社 1982年12月 |
No.1 | 7点 | クリスティ再読 | 2020/04/17 21:37 |
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ディキンスンだと本サイトで「どこまでやるか?」が問題なんだけど、さすがに「魔術師マーリンの夢」とか「聖書伝説物語」とか絵本の「時計ネズミの謎」とかは、外れすぎかなあ...なんて思う。とりあえず本作でキリにしておこうか。
古代エジプトっぽい宗教国家で、少年神官として神殿に仕える主人公タロン。王のよみがえりを象徴する儀式は、神の化身である青い鷹が殺されてその血を王が受けることで完成するのだが、儀式の中で何をやってもいい、トリックスターの役割「神の羊」を振られたタロンは、神の声を聴いたと思い、鷹を奪って連れ出してしまう。このため王のよみがえりの儀式が完結せずに、神官たちは王を殺さないわけにはいかなくなる。タロンは自身の力でその青い鷹を馴らすことを命じられて、砂漠の荒廃した神殿に放逐される。その旧神殿でタロンは新しく選ばれた王に出会う。この王との友情をきっかけに、タロンは王と神官たちの争い、騎馬の異民族の侵攻、新しい儀礼と神々の支配からの脱却...といった身体的かつ形而上的な冒険に導かれていく。 「エヴァが目ざめるとき」がSFのかたちを借りた思想小説だったのと同じように、本書もとてもじゃないが児童向けじゃない。古代エジプトに舞台を取っても登場人物の思考や感受性が現代人そのままで、評者なんぞ「コスプレじゃん!」てシラける作品が多いのだが、ディキンスンだからそんなことない。神が自分の肌と隣り合わせにいるような、そういう時代の宗教的思考と感受性を、可能な限り本書は伝えようとする。儀式や儀礼が、単なるかたちでも一方的な祈りでもなくて、世界の意味を捉えなおし、まさに世界を作り変える行為なのだ。だからファンタジー・歴史小説と言うよりも、ほぼハードSFである。しかも歴史上で最初の「魔術からの解放」の瞬間を叙述しようとする小説でもある... 読み応えのある小説になっているのだが、読み込めばそれだけ難解なものになるタイプ。児童向けで描写は平明でも、一切手抜きなしのディキンスン、である。 |