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[ 本格/新本格 ]
透明人間は密室に潜む
大野糺&山口美々香もの ほか
阿津川辰海 出版月: 2020年04月 平均: 6.33点 書評数: 12件

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光文社
2020年04月

光文社
2022年09月

No.12 7点 猫サーカス 2024/03/15 18:54
いずれも能力や立場の面で有利さを持った人が、物語の中心になっている。だが、彼らは有利なだけでなく不利も抱えている。透明人間の体は透き通っているが、表面に汚れが付けば浮いて見えるし、武器を持てば存在を知られてしまう。裁判員は他の一般人とは異なり、事件関係者の今後を左右しうる立場にあるが、結論以外の議論の過程を公開してはならないという制約を負う。探偵事務所に勤める耳が異常に良い探偵は、残念ながら頭の回転まで良いわけではなかった。このため、彼女が聴覚から得た手掛かりを元に、所長が推理力を発揮するという段取りを必要とする。船上で進む脱出ゲームでは次々に問題が出され、主人公の招待プレイヤーはそれらを解く能力を持っているはず。だが、彼は子供とともに船内の一室に閉じ込められ、そこからの脱出に力を注がなければならない。各作品のキモは、それらの有利と不利のバランスが、どのように移り変わっていくかにある。物語の進行によって有利だったことが不利になり、不利が有利になるといった皮肉な逆転も生まれるのが面白い。一作ごとに設定に工夫を凝らして描いていることは評価されるべきでしょう。

No.11 7点 よん 2023/08/21 14:32
表題作の「透明人間は密室に潜む」は、透明人間が殺人計画をするが、犯行現場の密室から逃げ出すことが出来なくなる。「六人の熱狂する日本人」は、とあるアイドルのファン同士の殺人事件の裁判で、裁判員にもそのアイドルのファンがいて話が意外な方向に。「盗聴された殺人」は、超人的に耳のいい探偵事務所事務員が、探偵とともに盗聴器に録音された音から殺人犯を推理する。「第13号船室からの脱出」は、リアル脱出ゲームが題材。
アイドルもそうだが、現代らしいモチーフを扱っているのが新鮮。どれも登場人物がストーリーを進めるための駒ではなく、人間味を感じさせるのが魅力的。特に表題作は、想定外の動機が明かされ驚いた。

No.10 6点 mozart 2023/07/28 08:25
表題作、透明人間「病」という奇抜な特殊設定ですがトリックにうまくはまっていて感心しました。「六人の熱狂する日本人」はオタクの心理を余すところなく描いていてややオタク気味な友人がいる自分としては結構楽しめました(自分はオタクではないつもり)。後半の二作はしっかりした本格モノで読み応えがあり全体として満足できる一冊でした。

No.9 6点 ひとこと 2023/05/28 16:50
バラエティ豊富な短編集

No.8 6点 いいちこ 2022/09/22 12:35
表題作がズバ抜けたデキ。
透明人間が他の人物には見えないことを考慮し、透明人間自身を視点とした倒叙ミステリとして構成する等、非常によく考えられているのが印象的。
メインの謎に設定されている隠れ場所も秀逸であるが、それ以上に、そこから明らかになる真犯人の実像、そして動機等、透明人間という特殊な設定を最大限に活かしきった傑作と言ってよい。
それ以外の作品の評価も含めると、短編集としてはこの評価

No.7 7点 虫暮部 2021/11/30 12:42
 表題作に関する揚げ足取り。
 探偵:被害者は明らかに死んでいる、ならベストな対処は“部屋に入らず封印して警察に通報”では。ガラス片は、犯人に転ばされたら自分達が大怪我をする。身の危険を顧みず何が何でも捕まえる義務は、まぁ無い。
 犯人:あの隠れ方だと、隙が生じても咄嗟に動けない。“透明”のアドヴァンテージは大きいのだから、各個撃破を目指した方が逃走出来そう(事前に探偵側の人数を確認出来ないのがネックか)。
 総合して考えると、事態が肉弾戦ではなく高度な知恵比べになる前提で両者とも行動している。そこに至る設定をもう少し詰めるべきだった。
 更に。“現場にもう1人の透明人間=真犯人が潜んでいて、1人が捕まった隙を突いて逃げた”可能性を、客観的には否定出来ない(よね?)。裁判で有罪判決は出るか?

No.6 6点 パメル 2021/03/17 08:40
表題作は、細胞の変異により全身が透明になる「透明人間病」が蔓延した社会が舞台。主人公はこの病気を研究している学者を、自分が透明人間であることを利用して殺害しようとするが、完全犯罪計画は予想外の事態の続発によって狂っていくという特殊設定ミステリを得意とする作者ならではの仕上がり。
「六人の熱狂する日本人」は、裁判官と裁判員たちによる評議が舞台のワンシチュエーション・コメディ。無作為に選ばれたはずの裁判員たちに共通点があったせいで、評議はとんでもない方向に暴走していく。「十二人の怒れる男」、「12人の優しい日本人」系の裁判員もの。
「盗聴された殺人」は超人的な聴覚を持つ探偵が登場するフーダニットの秀作。
「第13号船室からの脱出」はミステリをモチーフにしたリアル脱出ゲームの場で監禁されてしまった少年が主人公の船上ミステリで、監禁からの脱出とゲームの謎解きが複雑に絡み合い、最後の最後まで油断ならない展開に翻弄される。
どの作品も奇抜なシチュエーションと緻密なロジックを特色としている。
2021 「このミス」2位「本ミス」1位「文春ミス」2位

No.5 6点 HORNET 2021/01/24 22:13
 世に「透明人間病」が発現して100年余りが経った。発症した人間はまさしく無色透明になってしまうという奇病だ。しかし長年の研究を経て、ついに透明人間をもとの体に戻す新薬が開発されることになった。そのニュースを聞き、透明人間病の一人・内藤彩子は、開発者である大学教授を殺害しようと計画する。いったいなぜ―(表題作)
 表題作のほかに3作を収めた作品集。SF的な特殊設定のものは表題作だけ(超人的な聴覚を持つ探偵助手が活躍する「盗聴された殺人」もかな?)だが、まぁ作者らしく他作品も現実性より楽しみを重視。ミステリとしての出来はあまりかもしれないが、「六人の熱狂する日本人」は面白かった。
 2020年末の各ランキングで非常に評価が高いが、私としては平均水準の楽しさだった。

No.4 7点 まさむね 2021/01/16 10:03
 4篇から成る、ノンシリーズの短編集。昨年末のミステリランキングで上位に選出されたことも頷ける出来映え。短編ごとにテーマやシチュエーションが異なるので、短編ごとに新たな心持ちで入っていけるのも嬉しい。①と④が特に好印象。
①透明人間は密室に潜む
 透明人間のリアルな?設定を行ったうえでの倒叙もの。反転も含めて面白かったですね。でも、犯人のある行為については、ソコまでやらずとも、同様の効果が生じる方法があったのではないか・・・という気もします。
②六人の熱狂する日本人
 登場人物たちの議論の過程は楽しかったのですが、ここまで揃ったということは・・・で、オチは想定できるかも。
③盗聴された殺人
 最もオーソドックスな短編。原則に忠実な?本格短編とも言えます。これはこれで好感。
④第13号船室からの脱出
 読みどころが詰まった好作品。スリリングな展開で、グイグイ読まされました。反転には、ちょっと無理があるような気もしますが。

No.3 6点 名探偵ジャパン 2021/01/08 21:37
特殊設定あり、法廷もの(?)ありと、バラエティに富んだ短編集なのですが、私は一貫性がなく「とりあえず書いたものをまとめただけ」という印象を持ってしまいました。作者はまだ若いのですから、それぞれのテーマごとの短編をもっと書かせて、一貫性のある短編集として出したらよかったのではないかと思います。表題作が明らかに浮いています。

この作者、「紅蓮館」がライトノベルレーベルの文庫で出て、本作はハードカバーですね。どういう扱いを出版社からされているのか、いまいち掴み切れません(個人的には逆がよかったと感じます)が、次世代の本格の旗手になる可能性は十分秘めていると思います。

No.2 7点 葉月 2020/12/16 00:33
全体として本格ミステリに振り切れた作品は面白く、そうでない作品は微妙といった印象でした。ただ表題作は間違いなく傑作であると思っているので、これを読むためだけでも買う価値はあると思います。「紅蓮館の殺人」より格段に文章が上手くなっていた点にも驚きました。
「透明人間は密室に潜む」
倒叙ゆえの緊張感がある上に本格ミステリとしても見事。ラストまでサプライズがあったのは嬉しかった!
「六人の熱狂する日本人」
裁判が混乱する最初の方は楽しく読めたのですが、さすがにこのネタだけで一話持たすのは厳しかったのではないでしょうか。
「盗聴された殺人」
犯人特定のロジックは鮮やかで、意外な犯人ものにありがちな無理がありません。設定も魅力的。
「第13号船室からの脱出」
真相には色々と無理がある上に、読んでいて楽しくなかった。脱出ゲームの楽しさを小説で伝えるのは無理があったのではないでしょうか

No.1 5点 sophia 2020/08/29 15:12
ネタバレあり

●透明人間は密室に潜む 6点
マンションの伏線は良かったと思いますが、やはりこれは無理があるでしょう。顔かたちや声は何とか誤魔化せても、会話を乗り切れない。そして探偵が許せない。殺人を阻止することもできたのに泳がせたことは倫理にもとる。そんな人物に最後犯人を説教する資格はありません。
●六人の熱狂する日本人 4点
これはつまらない。「虹の色」と言うなら全メンバーの色をちゃんと提示してほしい。アイドルオタクたちがなぜ当のアイドルを犯人に仕立てようとして盛り上がるのかが分からない。証言台に立つところを間近で見たいから?そんな馬鹿な。悪乗りが過ぎて、読むのがきつかった。
●盗聴された殺人 5点
何の音なのかという謎にあまり興味が持てない。調査対象者が調査員と、という設定は都合よすぎないですか?過去を振り返る構成にする必要もあまりない気がします。
●第13号船室からの脱出 5点
ライアーゲーム?ひねりすぎでよく分からない。再読して理解しようという気にもなれない。

総評
「紅蓮館の殺人」の高評価も考え直したくなるぐらいの出来。短編は向いていないのでしょうか。若くして頭角を現した作家さんですが、正直言ってまだ粗さが目立ちます。不自然なところを不自然ではなく感じさせる技術が欲しい。


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阿津川辰海
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