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ミステリの祭典

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モトキングさんの登録情報
平均点:6.06点 書評数:78件

プロフィール| 書評

No.38 7点 御手洗潔の挨拶
島田荘司
(2001/12/27 17:09登録)
御手洗短編モノ全てに共通することだが、これらはやはり、御手洗ファンのためにある作品であると感じる。御手洗ファンでなければ納得いかない作品が多々あるが、しかし、それはそれで需要が多い故に、許される供給であると思う。かくいう私は御手洗も含めて島田先生の大ファンなので、はっきりって面白く読めた。
ただ、島田作品は最近の長編作品の殆どが、やたらに分厚く、謎そのものより、舞台背景とかサイドストーリーのために費やす分量が多い中で、短編は簡潔にまとまっており、ミステリを構成する必要最低限な要素だけが濃縮して詰め込まれていると感じる。もちろん個人的には、無条件で短編が長編に劣るとは思っていない。
前述の内輪ウケという面も確かにあるが、基本的に島田作品の短編は、どれも内容の濃縮という意味で、非常に良作なミステリが多いと感じる。本作も例に漏れず「数字錠」等の純粋な物理トリックモノが素晴らしい。また、「疾走する死者」は、あの「嘘でも〜」シリーズの巧クンが御手洗シリーズに登場している点が、ファンなら楽しめるだろう。


No.37 3点 聖アウスラ修道院の惨劇
二階堂黎人
(2001/12/27 16:14登録)
この作品は、雰囲気倒れな感を否めません。
ひたすらダークで神秘的な、ミステリとしては非常に理想型の舞台を用意しながら、解決がパッとしません。やたらミステリとして謎をばらまきながらも、秘密の洞窟やらキリストの秘宝だかが出てくるラスト近くは、まるでインディージョーンズです。
ミステリというより、ハリウッド的な冒険小説とでも銘打った方がよいのではないでしょうか。ただ、純粋にエンターテイメント性でも大して面白いとは思えませんが。


No.36 7点 幻想運河
有栖川有栖
(2001/12/27 13:39登録)
面白いと思う。しかし、他の有栖川作品と比べ、伏線やサイドストーリー等の構成などが作り込まれていない感じがする。これも雑誌連載の成せる業だろうか。作中作の話は、はっきりいって本筋とリンクしていないし、意味ありげな登場人物の正体も謎のまま終わってしまう。
また、犯人や動機や主人公の最後(冒頭?)の行動など、論理的なしっかりとした解決が成されていないのも、有栖川作品としては珍しい。このような、余韻を残して判断を読者に任せる雰囲気が良しとする人もいるだろう。ただ個人的には、難しいかも知れないが、この雰囲気にプラスして、いつもの論理性を加えて欲しかった。私は有栖川作品の解決編での論理の切れ味が大好きなので。
しかし解決はともかく、それに至るまでの謎の提示や主人公の葛藤など作品の雰囲気は非常に良い。よって総合的にこの点数。


No.35 7点 時計館の殺人
綾辻行人
(2001/12/26 17:34登録)
インパクトは、もう既にこの世に「十角館」を出してしまった後なので、あまり無いが、館シリーズの中では最も作品全体の締まりがある整合のキチンと取れた作品といえる。
「時計館」という館の必要性も、シリーズ中、唯一納得できる。
ただ、相変わらず作中人物に対するトリックが頂けない。読者を対象に叙述を展開する、その切れ味は、館シリーズ全体に際立っているが、登場人物には全く無害なため、あんなにあっさり犯人の意図が通るとは思えない。
でもまあ、面白いので、他の館等と比べてこの点数。


No.34 2点 海のある奈良に死す
有栖川有栖
(2001/12/26 17:13登録)
有栖川が有栖川であることを捨てた作品とでも言おうか。
これは一体何なのでしょう。有栖川作品における唯一だが絶対的に評価できる「論理性」をほっぽりだして、終いには内○康夫紛いのトラベルミステリーですか。
先生の作品中、これと「ダリの繭」だけはどうしても許せないほど出来が悪い。キャラで売れるほど火村はメジャーじゃないし、彼だって良き謎と共にそのキャリアを伸ばしていくべきでしょう。
まだまだ売り出し中なのに、こんな作品書くなんて・・・。非常にガッカリです。


No.33 5点 卒業−雪月花殺人ゲーム
東野圭吾
(2001/12/26 16:13登録)
「雪月花殺人ゲーム」は、ちょっとないですね。
ゲーム性も無ければ、はっきり言って、「茶道」という馴染みの薄いジャンルでトリックをこねても、あまりピンとこない。
将来の加賀刑事の若かりし頃を知るという点では、面白いが、作品としては凡作ミステリ。
東野圭吾はこんなもんじゃない。今となっては、東野先生も、ここでこの作品の評価が高くても困惑するだけでしょう。


No.32 8点 回廊亭の殺人
東野圭吾
(2001/12/26 16:07登録)
↓の方の感想に同感。
序盤から中盤にかけては、本格系にありがちな遺産相続を巡ったミステリだったが、最後に至る数ページの展開は最高。
展開の鋭さ、炎をバックに急展開する舞台、そしてあの一言。
トリックは叙述、物理問わずかなり読み耽っていたつもりだが、何故かこの叙述トリックにはコロッと騙された。体調だろうか(笑)。
とりあえず、その1点の印象が非常に高いので、この点数。いい作品です。


No.31 4点 魔術はささやく
宮部みゆき
(2001/12/26 15:54登録)
宮部作品全体に言えることだが、ミステリやサスペンス風な作品でも、読後のイメージとして、何だか柔らかな、「絵本」を読んだ優しさが残る。この作品はひときわその印象が強い。
これはもちろん貶してるわけじゃなくて、稀有な雰囲気を持つ作家として評価すべき点であると考える。
しかしながら、ミステリとしては明らかに足りない点が多々あり、「本格」好きには読み応えがないと感じる場合もあるだろう。
かくいう私も「本格」マニアだが、やはりミステリとしては採点は低くならざるを得ない。よってこの点数だが、物語としては決して評価が低いわけではなく、むしろ社会派ミステリを題材に取った現代メルヘンの名作とも言えるのだろう。


No.30 4点 詩的私的ジャック
森博嗣
(2001/12/26 15:06登録)
森作品の割には、あまり理系ミステリしておらず、結構ありふれた佳作なミステリだと感じた。
主人公同士の間柄は相変わらずだから、その手のファンには問題なく面白いだろうけど、個人的には森作品の唯一無二の魅力は、他人の追随を許さない理系を生かしたトリックだと思うので、他の作品に比べるとどうしても評価は低い。
あと、これは好みだが、物語全体の雰囲気があまり好きじゃない。ロック歌手だか何だか知らないが、作中の歌には何の哀愁も、作品構成おける必要性も感じない。森先生にはひたすら理系で押して欲しい。


No.29 7点 暗闇坂の人喰いの木
島田荘司
(2001/12/26 14:54登録)
過大評価するわけではないが、いわゆる「幻影城」時代を彷彿とさせる、乱歩調のおどろおどろしい雰囲気が抜群だと思う。
「黒死館」や「虚無」などに共通する日本に流入してきた外国文化を舞台背景に、御手洗ならではの論理性がガチンコで絡みついていく。
トリックについては、「また無茶な〜」と思う反面、あの偶然性には、論理で踏破できる「偶然である必要性」を感じたので、ある意味OKだと、個人的には感じた。「水晶」や「アトポス」よりははるかに地味だし。
後期の長編群の一発目として、また御手洗潔の今後の世界照準へのプロローグ的な作品としても、この作品は島田作品の中でも重要な位置を占めると思う。
感想としては、「雰囲気」+「御手洗大活躍」−「無茶しすぎ」で。


No.28 8点 孤島パズル
有栖川有栖
(2001/12/20 13:15登録)
有栖川先生が誇る江神シリーズは、論理性をとことんまで突き詰める有栖川作品の中でも、その論理展開の出来に特筆すべきモノを感じる。
初期の江神3部作のうち、構成、雰囲気、スケール等も含めた最高の作品は、個人的には「双頭〜」であるが、解決への論理展開の見事さだけに限るので在れば、この作品が一番だろう。
島の形状。自転車の数。通行可能ルートの設定。細かく鏤められた伏線の数々。正にロジックを突き詰めた小説は、良くできたクイズ若しくは数学や物理の問題などと同レベルの知的好奇心を読者に与えてくれる。
しかし小説は、単なるクイズ、問題では感じることの出来ない読後感がある。この作品は、一抹の清涼感すら漂うパズルクイズの傑作であり、それ故にロジカルなミステリの傑作であるといえる。


No.27 6点 46番目の密室
有栖川有栖
(2001/12/19 11:33登録)
この頃は何となく、未だ論理一辺倒じゃないって感じがしますね。
密室ネタを持ち出したのもそうだし、一つの館を舞台に持ち出したのもそう。何かトリックに対してもある程度の必要性というか、取り組み方に関する意気込みを感じる。
肝心の密室トリックについては、まあ基本中の基本のような穴ですけど、ネタそのものとしては、恐らく新しいのではないかと思います。
もの凄い興奮や感動はないけど、良くできた佳作じゃないでしょうか。旧本格の香りが、私は好きです。


No.26 5点 龍臥亭事件
島田荘司
(2001/12/17 16:37登録)
御手洗ものとして淡い期待を抱いた私が馬鹿でした。
「社会派」ではなく、多少トリックに凝った「やや本格派」だから、探偵役を「吉敷」ではなく「石岡」にしたのならば、それは個人的には大きな間違いだと言わざるを得ません。
物理トリックは、はっきりいって陳腐の一語に尽きます。論理もクソもありません。もちろん、手紙だけで登場する論理の化身・御手洗も、あの跳弾の謎を解いていたとは到底思えません。
作品を読める喜びはありますが、これを吉敷シリーズとして、単純に社会派として書けば、これほどの期待感は湧かず、当然裏切られた感も薄れていたことでしょう。
うーん。当時としては、島田先生の久々の長編だっただけに残念。ただ、人間ドラマ、社会派としては良作なので、物理トリックのマイナスを引いてこの点数。


No.25 8点 アトポス
島田荘司
(2001/12/17 16:26登録)
御手洗の登場シーンの浮世離れさと登場時間の短さが凄まじい。馬に乗って砂漠を駆けるあのシーン。そして、登場したと思ったら「あっ」という間に全ての謎を解いてしまうあの恐るべき(本当に欠片すら理解できない)推理力。御手洗ファンには、これでもかというくらい御手洗の活躍を堪能できる一冊でしょう。
物理トリックにおいては、秀逸なモノが1つありました。巨大な石の回転なんかは、人間である限り解けそうもない謎だけど、あの湖上の塔の先端に突き刺さった死体の謎は素晴らしい。さすが島田先生である。
全体的には、まったく無くても作品に支障が生じない超壮大な挿話が、例の如くあちこちに、それも複数盛り込まれていますが、これ自体の出来は抜群。かなり移入してしまいます。また、これは大きな意味でのミスディレクションとしても機能しているといえます。とにかく、この辺りの島田先生は、全く持って桁違いだ。
採点は、物語の壮大さと御手洗の超絶さ、さらにはある意味、既存の社会派ミステリが主眼に置く社会問題なぞクソ食らえというくらいの壮大な社会問題を盛り込んでいる、その社会派+超本格派の融合の見事さにこの点数。


No.24 5点 水晶のピラミッド
島田荘司
(2001/12/17 16:06登録)
アンチ? アンチなのか、この作品は? 何だあの最後のオチは。
島田先生ならではのバランスの巧さが、最後の最後で、あの「塔の溺死」をこう結論付けさせたのだろうか。
しかし・・・。
ピラミッドの構造を生かした(生かせる構造を作った?)見事な大大大物理トリックが泣くぞ!
私はもの凄い御手洗ファンだが、とりあえず、ここは涙をのんで厳しく採点します。島田先生のミステリ論もわかるが、個人的には解決編で見事に(呆気にとられても「見事」じゃなきゃ駄目!)騙されたい。


No.23 9点 眩暈
島田荘司
(2001/12/17 15:54登録)
ページを捲れば「アルジャーノン〜」のような大活字。手法的にはどちらも同じだが、その向かう方向が違う。サリンジャーは文書主の精神が後退していく物語を描き、本編では覚醒していく物語が紡がれる。
本作品は、現実世界に起こる殺人という崩壊劇を解くものではなく、初っぱなから登場する継ぎ接ぎだらけの不可思議世界を、あの御手洗の超絶頭脳が、皆の知っている現実世界へと再構築していく流れのミステリである。
このプロットは面白い。っていうかこのプロットこそが謎の主眼なので、これはネタバレも同然か? いや、失礼。
後期の御手洗大長編連作群の中でも一際異彩を放つ本編は、ある意味「新・占星術」の名に落ちぬ壮大なミステリである。
個人的には、技の「占星術」、スケールの「眩暈」ってとこかな。総合点では、純粋にミステリの至宝である「占星術」を抜くことは出来ないが、迫る勢いでこの点数。


No.22 8点 異邦の騎士
島田荘司
(2001/12/06 15:02登録)
面白い!
私は根っからの御手洗ファンなので、そうじゃない人の気持ちは分からないが、単純にスリル&サスペンス&恋愛モノとして、確かな良作だと思う。
確かに、ラスト近くで、主人公の正体が明らかになっていく過程があるが、これはシリーズを読んでいなければ大した感動はないだろう。また、逆にシリーズを読んでいる人は、この人の正体に既に気づいていることだろう。
ミステリ要素はあるにはあるが、それは御手洗が少しかじる程度で、全くメインではないので、ミステリ作品としては評価が難しい。自分探しという設定も、ミステリというよりサスペンスだろう。
しかし、これは物語として非常に面白い。それだけは譲れない。好みの問題でも何でもいい。主人公の混乱や情熱に、私は確かに胸を熱く打たれた。
もちろん、これは純文学ではない。欠片ですらない。そんなことは作者も狙ってないし、読者がそれを勝手に望んだとすれば、それは大きな見当違いだだ。一方で、確かに「本格」でもあり得ない。
しかしながら、広義なミステリとして、日本ミステリ界に確かな足跡を残している「御手洗潔」シリーズを語る上で、この作品は絶対に外せない一作だ。で、この点数。


No.21 6点 朱色の研究
有栖川有栖
(2001/12/06 14:38登録)
作者の成長の跡がかいま見える。
今までの論理一辺倒から、徐々に動機や人間関係に焦点を当てていってる。
もちろん解決に至るまでの、事実の綻びを細かく追求していきながら論理的推理を展開していく流れは健在である。
しかしながら、ドイルの名作に対するオマージュとしては、いささか独りよがりの面はあるが。
全体としては及第点の佳作。ドラマとミステリが高い次元ではないが、結構バランスしている。ミステリ好きなら、もの凄い興奮や感動はないが、じわりじわりと面白く読めるだろう。


No.20 9点 北の夕鶴2/3の殺人
島田荘司
(2001/12/06 14:25登録)
これを御手洗モノとして読みたかったのは、深く同感。
しかしながら恐らく、「占星術」「斜め屋敷」を持ってマニアの間で華々しく名を挙げた島田先生ではあったが、本格がどん底状態のあの時代では、社会派やトラベルミステリー等の当時において「世に受ける作品」を書く必要に迫られたのではないかと想像される。
それでも、ただのトラベル、ただの社会派で終わらないのが島田先生の凄いところ。吉敷シリーズを打ち出し、作品名こそ、その当時はやりの「トラベル物」のように「寝台はやぶさ〜」「出雲伝説〜」「北の夕鶴〜」と銘打ってはいるが、中身はいわゆる本格要素プンプン。
島田先生以外が、「北の夕鶴2/3の殺人」なんて名前のミステリを書いても、私は恐らく手に取らなかっただろう。
もちろん、これは完全に個人の好みです。私は絶対的に「本格モノ」が好きというだけのことですので、「本格」以外が悪いということは全くないのですが、「何々でなければミステリじゃない」とか売れ線が決まっていて、それしか世に出てこない社会ってのは非常に寂しいですね。
だから、自分としては、本格が復興して「新本格」と銘打たれている今の流れが素直に嬉しいです。
そんなこんなで、「作品の出来」プラス「本格不毛の時代にこの作品」という島田先生の心意気にこの点数です。


No.19 9点 漱石と倫敦ミイラ殺人事件
島田荘司
(2001/12/06 13:55登録)
これは面白い!
日本のミステリ、それも、「新」も「旧」も含めた本格モノの全てを引っくるめた中でも、恐らく傑作の部類にはいると思う。
作品の構成は、言わずと知れた「ワトソン博士」とあの「夏目漱石」氏が交互に文を綴っていく形式であるが、これが絶妙に面白い。
まず、かの有名なシャーロック=ホームズ氏の例の超人ぶりが、ワトソン氏の目より語られるのだが、それと前後して、ホームズ氏の知られざる真実(?)が、氏への愛情に包まれた鬼のような新解釈により、漱石の目より語られる。これがもう大爆笑。
はっきりいってエンターテイメント性でもかなりの高評価である。しかしながら、これはホームズ冒険譚をある程度以上読んだ人の方が、より楽しめるでしょう。
もちろん、ミステリとしても一級品で、トリックは流石に島田荘司先生!
あの手の、絶対不可能状況という謎掛けは、読者の心をくすぐりますね。と、まあ、評価は言わずもがなですけど、それ以上の作品は、私の中で確かに存在するので10点は避けました。

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