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ミステリの祭典

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Tetchyさんの登録情報
平均点:6.73点 書評数:1625件

プロフィール| 書評

No.625 1点 荒野の絞首人
ルース・レンデル
(2009/09/19 23:55登録)
これははっきり云って駄作でしょう。金を出して読むまでの無いミステリだった。
この物語のキーとなるリン殺害の真相とリップの正体は予想通りで、全体的に地味なトーンで興趣をそそられなかった。説得力に全く欠けていた。
さらに、翻訳のぎこちなさ。小泉喜美子の訳とは思えないほどの直訳文体だった。日本語になっていなくて理解に苦しむ文が多々あり、非常に不愉快だった。


No.624 10点 ロウフィールド館の惨劇
ルース・レンデル
(2009/09/18 23:17登録)
これが噂の、という期待感で臨んだ本書。
冒頭の有名な一文がこの物語の全てだ。即ち

ユーニス・パーチマンがカヴァデイル一家を殺したのは、読み書きができなかったためである。

この一文から始まる物語を聖ヴァレンタイン・デイの惨劇へと収斂させていく手並みは見事。
日常の、本統に何気ないアクシデント、例えばTVの故障などが文盲であるユーニスにとって狂気へ駆り立てる一因となっていく事を実に説得力ある文章で淡々と述べていく。
そして事件後の真相に至る経緯も、事件前に散りばめられた様々な要素が、単純に真相解明に結びつかない所が面白い。

運命を弄ぶレンデル、そして“怪物”を生み出したレンデルに拍手を贈りたい。


No.623 6点 わが目の悪魔
ルース・レンデル
(2009/09/17 23:13登録)
もっとストーリーに起伏があるのかと思っていたが期待していたほどではなかった。アーサー・ジョンソンが己の基盤から逸脱し、途轍もない恐怖を纏うのかと思えば、そうでもなく、終始劣等感を抱いた小心者だった。
結末も読者を突き放すように唐突に終わり、カタルシスを得ることがなかった。
そう、題名の“わが目の悪魔”が誰の心にも巣食っているというのは判るのだが、それが暴走しなかったのが物足りなさの根源か。


No.622 9点 ひとたび人を殺さば
ルース・レンデル
(2009/09/16 20:00登録)
上手い!
重厚で昏いイメージを数多の書評子から植え付けられていたが、いやいやどうして!何と読み易い、そして抜群のリーダビリティーがある。
恐らく本作は著者にとっては傑作ではなく寧ろ佳作となるべき作品だろう。
しかし、登場人物、特に女性像がどれも印象的で、登場人物表に載ってないのが不思議なくらいだ。しかもプロットをしっかり形成して取りかかる作者らしく、終始一貫したテーマが立ち上り、着地も見事決まった。


No.621 7点 ハートシェイプト・ボックス
ジョー・ヒル
(2009/09/16 00:30登録)
絶賛を持って迎えられた短編集『20世紀の幽霊たち』の作者ジョー・ヒルの初の長編は幽霊の復讐譚を扱ったホラーだ。

家族を間接的に失った遺族の復讐が動機と思われた怪異はしかし意外なバック・ストーリーが後半明かされる。
ここに至ってジュードとジョージアの幽霊との闘いという図式で展開する物語はその実、別れた元彼女フロリダことアンナ・マクダーモットの物語でもあることに気付かされる。これは素晴らしい!

読んでいる間、クーンツ作品を読んでいる既視感を感じた。
主人公の心情と信条をくどいまでに細かく叙述する語り口、登場人物が幼少の頃に親から受けた迫害というトラウマ、そして何よりも物語のキーを握る存在が犬という共通性。
だが脅威をもたらす幽霊クラドックはクーンツが生み出す、主人公に絶望的なまでの無力感を感じさせる悪魔のような怪物ほど怖くは無い。
共通するのは異常なまでの執着心と蛇が蛙をいたぶるが如き醜悪さ。
それでも悪役の造型にはやはりクーンツに一日の長がある。まあ、デビュー仕立ての作家をホラーの大御所クーンツと比べる事自体が過大な要求なのだろうけれど。


No.620 7点 シミソラ
ルース・レンデル
(2009/09/15 00:50登録)
“差別”が本書の一貫したテーマになっている。

事件の本筋のように人種差別は元より、軽い物では女が男を養うことへの抵抗を示した女性蔑視、老人の記憶は当てにならないという先入観、醜い者を見ると苛めたくなる心理。差別は心に悪戯をする。それが時には人の死に至るまでの事になる。

内容はウェクスフォードの推理が神がかり過ぎるところが多々あるが、明かされる真実が痛々しく、心を打つ。
最後の最後で明らかになるタイトルの意味は簡単な物だが、別の意味で一人の人間の尊厳を謳っているように思える。


No.619 8点 眠れる森の惨劇
ルース・レンデル
(2009/09/13 20:28登録)
今までミステリとは、事件が起こり、その事件に関する犯人、動機、手法といった様々な謎を主人公とともに探り当てる、その過程を愉しむものだと思っていたが、本書を読んでいる最中はそういう風には思わなかった。
ミステリとはある事件をきっかけに、それに纏わる人々を活写し、またそれによって起こる登場人物達の様々なドラマを読み解く物なのだな、そういう風に感じた。
前者は「推理」小説であり、後者は推理「小説」となるのだろう。
しかし本作はその双方の魅力を兼ね備えていた事を、結末で思い知らされた。
デイジイという人物の位置付けは結末に至る前には判ってしまったが、それでも尚、本作は面白い。
原題「ガンナーの娘にキスをする」
その警句が「ガンナー」=「拳銃使い」=「○○」という暗示めいた等式に歪められ、皮肉な響きを胸に残した。


No.618 7点 女を脅した男
ルース・レンデル
(2009/09/13 00:25登録)
前半7編がノン・シリーズ物で後半4編がウェクスフォード物。
率直に云えば、順番は逆の方が読後感は良かったように思うし、評価も点1つ上がっただろう。

ウェクスフォード物については措くとして、ノン・シリーズ物について云うと、長編におけるそれは、砂の一粒一粒までを描くような木目細やかな心理描写を幾度となく畳み掛ける“重量感”があり、時にはそのために辟易してしまう所があるが短編のそれはほぼ20ページ前後の長さに集約された“切れ味”が際立っており、心地良い。
久々にレンデルを読むならば長編だろうが、レンデル漬けになるとこういった短編が息抜きとなってちょうどいい。


No.617 6点 虚栄は死なず
ルース・レンデル
(2009/09/12 00:35登録)
レンデルの数あるヴァリエーションの内、38歳で結婚した女性を主人公にしたことから、所謂世間知らずゆえの犯行を描いた物かと思ったがさにあらず、ただ今回は、作者の手玉があまりに見え見えで、ある人物のある事実はサスペンスの牽引力としては弱かった。
ちらっとあとがきを見ると、本書は1965年作のノン・シリーズ2作目とのこと。「レンデル神話」のまだ草創期の作品なのだから無理もないか。


No.616 6点 殺意を呼ぶ館
ルース・レンデル
(2009/09/10 20:58登録)
作中幾度となく引合いに出されるように、これはレンデル流『千夜一夜物語』なのだ。
シュローヴ館という建物に魅了された女の破滅への道のりと、その娘の、母という繭からの脱皮と自我の覚醒とを書いた。
今回のラストは実にレンデルらしくなくて清々しい。
ショーンよ、御前は真底、男だったゾ。


No.615 8点 摩天楼の怪人
島田荘司
(2009/09/10 00:11登録)
題名、連続殺人事件に現れては消える謎の存在ファントム、さらには物語の中心となるのが女優であることから容易に連想されるのはガストン・ルルーの『オペラ座の怪人』。
ただあとがきにも述べられているが、本家が怪人と美女との悲恋の物語であるのに対し、本書はあくまでも不可能趣味、怪奇趣味を前面に押し出していること。従ってファントムが恋焦がれて止まないジョディ・サリナスなる女優がそれほど生涯を賭して守るほどの愛らしさ、崇高さを備えているとは思えなかったきらいはある。

物語全体に散りばめられた謎は今回も御手洗の閃きによって暴かれるが、果たしてこれを本格ミステリと呼んでいいものか疑問が残る。確かに手掛かりとなる暗号もあれば、事件現場の見取り図も読者に提示されている。が、しかしそれでもこの真相を看破できる読者は皆無であろう。
また今回のメインの謎とされるたった15分間―その後物語が進むにつれてそれは10分間と更に短縮されるが―で1階から34階までいかに移動して殺人を成しえたかという謎の真相もまたある専門知識、いや薀蓄を知っていないと解けないものだ。唯一おぼろげながら真相が解ったアパートの窓が一斉に爆発した謎の真相もまた専門知識が必要であり、門外漢には全く解けないものだろう。

こうして振り返ってみると、もはや御手洗シリーズは読者との推理合戦の領域を超越し、作者の奇想の発表の場になってしまったのだなと一抹の寂しさを感じる。しかしその作者の奇想が読者の予想をはるかに超え、実にファンタスティックである故に、私のような固定ファンがいつまでもいるのだ。この作風が許せる島田はやはり日本の本格シーンの中では唯一無二の別格的存在だといえよう。


No.614 8点 身代りの樹
ルース・レンデル
(2009/09/09 00:05登録)
狂える母、モブサを設定した所でこの小説は勝ったも同然である。この母の存在があったからこそ、到底起こりえない出来事がごく自然に流れとして滑り込んでくる。
そこから揺れ動く人々の心模様。
そしてテレンス・ウォンドという小技が実に最後の最後で、絶妙な形で効いてくる。心情的にはこの小心者に勝利の美酒を与えたかったのだが。
しかし珍しく実に爽やかな読後感だった。


No.613 8点 罪人のおののき
ルース・レンデル
(2009/09/07 23:37登録)
この感想は完全にネタバレ!


最後の手記で全てが裏返る。
それまでの彼は、何者よりも強く、倣岸で不遜だった。高みから見下ろしているかの如くだった。
しかしそれは人生に対する諦観から来る捨鉢な言動に過ぎなかった。
私はプライドの高さゆえの犯行だと推量したが、全くの逆で何も持たない男の現実逃避だったという落差が切なかった。
事件自体は派手さはなく、寧ろ凡百のそれだろうが、彼の放つ言葉一つ一つが哀切で、特に「私は死にたい」の一言が強く印象に残った。


No.612 7点 死を望まれた男
ルース・レンデル
(2009/09/06 20:37登録)
メインの被害者となるチャーリー・ハットンの、周囲の人々に与える嫌悪感がレンデルにしては描き込みが足りず、薄味だったように思われる。
2つ目の、ファンショーの事件がハットン殺害事件に結びつくのは容易に想像できたが、犯人の隠し方がいかにもレンデルらしい手法でニヤリとした。

今回感心したのは、キングズマーカム署に備え付けられたエレヴェーターの使い方。
この小道具をコミカルに、そして有意義に活用している手際は見事。


No.611 6点 死のひそむ家
ルース・レンデル
(2009/09/06 00:22登録)
よく出来た話だとは思う。
隣人たちの流言や噂によって作られた事実が実は全く正反対だった事などは神経衰弱で裏面のカードが一気に裏返させられたような鮮やかさを見せるのだが、文体自体が抑制が効き過ぎて情動を起こさせないのだ。結末も唐突な門切調で終わるような感じだ。
確かにあれ以上書く事は蛇足になるんだろうが、もっと他の締め括り方があったのではなかろうか?
スーザンの、デイヴィッドに対する対応の変わりようも気になるし…。う~ん。


No.610 7点 運命のチェスボード
ルース・レンデル
(2009/09/04 23:36登録)
今回の残念な点は2点。
まず登場人物表。これは明快にしすぎだろう。ある人物に関しては少なくともファーストネームだけでよかったのでは?
まあ御蔭で犯人判っちゃったけど。
2点目はタイトル。全然意味を成してないよ。原題『屠殺場に向かう狼』の方が最後に明かされる謎を髣髴させる点で断然勝っている。


No.609 8点 20世紀の幽霊たち
ジョー・ヒル
(2009/09/04 00:07登録)
スティーヴン・キングの息子であることが近年になって発覚した新進気鋭のホラー作家の短編集。

結論から云えば、玉石混淆の短編集で、総体的な出来映えとしてはやはり佳作と云えるだろう。実質的な収録作品数が17作品というのが多すぎて、逆に総体的な評価を下げているとも云える。

個人的に好きな短編を挙げると、「二十世紀の幽霊」、「ポップ・アート」、「蝗の歌をきくがよい」、「アブラハムの息子たち」、「末期の吐息」、「ボビー・コンロイ、死者の国より帰る」、「自発的入院」の7編。
次点として「うちよりここのほうが」、「黒電話」―但し最終章も含んだ―、「寡婦の朝食」、「おとうさんの仮面」の4編。
そうつまりこれら11編で本書が編まれたとするとこの作品の評価はもう1つ、いや2つは挙がるかもしれない。

確かに彼は“書ける”作者である事は認めよう。
ただ未完の大器だという感が強い。
この後、彼がどのような奇想を提供してくれるのか、非常に興味深いところだ。


No.608 7点 石の微笑
ルース・レンデル
(2009/09/02 20:42登録)
冒頭、登場人物表にも載っていない人物の失踪が案外しつこく語られていること自体に「?」マークが頭に浮かんでいたのだが、最終的にこれほど致命的に機能してくるとは。
久々に「あっ」となっちゃいました。
今回は珍しく男の狂気じゃなく、女の狂える愛。故にいつもなら狂気がしんしんと降り積もっていくのに、男が正気に戻りかけた途端、突然の大破局が訪れた。
そう、フローラよ、貴女は結局、幸運の女神だったのか?


No.607 6点 求婚する男
ルース・レンデル
(2009/09/01 23:54登録)
おいおい、どうしてこうなるの?
なぜこの作家はハッピーエンドがこうも嫌いなのだろうか?
たまには素直に物語を収束させてもいいんじゃないの?

しかし、レオノーラはひどい!最低の悪女だな。
ガイは、かつての俺を見てるようでとても痛ましかった。だからこそガイにはハッピーエンドを迎えて欲しかったのに。

しかし、冗長すぎるなぁ。
丹念に心の動きを積み重ねていこうとしているのは判るがくどくど意気地の無い愚痴に付き合わされるのにはまいったわ。


No.606 7点 死を誘う暗号
ルース・レンデル
(2009/08/31 23:26登録)
いやいや、ルース・レンデルがこんな小説を書くとは、ねぇ。

2つの物語のうち、一方は振られ男のうじうじした日常の根暗な生活が淡々と綴られるのはいつものレンデル調なのだが、もう一方はスパイごっこに興じる少年たちの、云わば青春物語だなんて!!
これがもう、おいらの少年心をくすぐるから、ジョンの話が鬱陶しくて、却ってそれが俺にとっては仇になった。
そして、2つの物語がハッピーエンドなのもまたレンデルらしくなく珍しい。

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