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ミステリの祭典

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指に傷のある女
ウェクスフォード警部

作家 ルース・レンデル
出版日1986年01月
平均点5.50点
書評数4人

No.4 6点 人並由真
(2020/04/23 14:10登録)
(ネタバレなし)
 評者にとって、久々のウェクスフォードもの。

 大昔に『ひとたび人を殺さば』だか『薔薇の殺意』だかを読んだ際に、作中でウェクスフォードが事件関係者にかけたやさしい一言「人生は全てを手に入れられる訳ではないのですよ(大意)」がすごく心に染みわたった(タイトルがどちらかでさえ覚えてない心許なさだが、いずれにしろその台詞に触れた当時の自分がさる事情からボロボロだったことはよく記憶している)。
 それゆえ、あんな『ロウフィールド館の惨劇』みたいなイヤミスの作者がどうしてこんなにやさしい主人公探偵を描けるんだ、と青い気分のなかで思ったものだった(結局それは、レンデルが優れたプロ作家の一人であるから、以上の何ものでもないこともわかってはいるのだが)。

 そういうわけで思い入れがかなり先行して、好きな探偵キャラクターのはずの割に、実はあんまり冊数読んでないウェクスフォードものなのだが(大昔に出会ったやさしいおじさんのイメージを壊したくない気分もあったかも~汗~)、さすがにもう今となってはその辺は緩やかな心情で、気の向くままに一冊読んでみる。

 そうしたら(ある程度は予想していたものの)、本格だのパズラーだのというよりも、ガチガチの警察捜査ミステリで軽くビックリした。
 しかもウェクスフォードは半ば直感で早々と容疑者を決め打ちし、証拠もないのにあまり暴走するな、クレームが来てるから、と釘をさしてくる事なかれ主義の上司の目を盗みながら独自の捜査を継続。さらにそこにはウェクスフォード個人の(中略)ドラマまでからんできて……これはもうクロフツのフレンチ警部もの(プラスアルファ)ではないか!?

 80年代以降の英国警察小説の系譜は本当につまみ食いで大系的な見識などもちあわせていないから、ここで驚くのはもしかしたら(たぶんきっと)何をいまさら、かもしれないが、クロフツからの血脈がここにちゃんと生きてることがかなり嬉しい驚きであった(しかも前述のとおり、ある意味でウェクスフォードはフレンチのひとつ向こうにいっているし)。

 予想以上にワクワク……と思いながら読み進んでいたら、えー!? というあの終盤の真相。いやミステリ作家として、もうひとつ大技のネタを導入したかったレンデルの気分も気概もなんとなくわかるような気もするが、一方でこれはちょっとあんまり唐突でしょう。サプライズの衝撃がそれまでの苦闘の捜査の積み重ねと融合してないよね? 自分が本作の途中までワクワクゾクゾクしたのは、一年前後の臥薪嘗胆を経て犯人と対決をむかえるウェクスフォードの姿(こう書くとなんかヒラリイ・ウォー風でもある)だったはずなのに、最後の最後で、あーん!?
 
 なんかもう甘味処に入ってクリームあんみつをうまいうまいと食べていたら、店の主人が出てきて、そんなに喜んでくださるのですか、でしたらこれもサービスしましょうと、頼みもしないのに、あんみつとアイスクリームの上にいきなり熱々の酒饅頭を乗せられたような気分であった。
 面白かったけれど、そういう意味で弱る作品です。サービス過剰で出来が悪く……とまでは言わないにせよ、楽しませどころがボケた感じ。
 
 それでもまあやっぱりウェクスフォード素敵だな、遅ればせながら今後も少しずつシリーズを読んでいきたいな、という一冊ではありましたが。 

No.3 5点 nukkam
(2014/08/14 18:23登録)
(ネタバレなしです) 1975年発表のウェクスフォードシリーズ第9作で、シリーズ作品としては異色のプロットになっています。犯人の正体は意外と早い段階で見当がついており、決定的な証拠をウェクスフォードたちが捜す展開となっています。最後に驚きの仕掛けを用意してあるのは見事ですが、本格派推理小説として評価するとこれは微妙かもしれません。あらかじめ謎として提示されていたわけではないのですから、巧くだまされたという快感にはつながりませんでした。

No.2 5点 Tetchy
(2009/09/20 20:14登録)
内容は冗長すぎるきらいがあるとは感じた。全然サスペンスとして盛り上がらないのだ。
だが収穫はあった。そう、G・K・チェスタトンのあの名言が。

No.1 6点 mini
(2008/10/23 10:50登録)
レンデルは非シリーズの異常心理ものとウェクスフォード警部シリーズとを書き分けていて作品数的にはほぼ互角である
それなのに異常心理ものだけが読まれていてウェクスフォードものが不当に無視されているのは残念だ
非シリーズの方が一般評価は高いが、私はレンデルの異常心理ものはわざとらしいと思うし、力み過ぎて空回りしてると思う
ウェクスフォード警部シリーズの方が良い意味で肩の力が抜けた好エンタメに仕上がっている
この「指に傷のあるう女」も捜査小説風なところが形式的な本格だけを好むタイプの読者には合わないかも知れないが、地味な捜査小説が好きな私としてはそこが良いんだよね
異常心理サスペンスの女王という側面だけで語られがちなレンデルだが、新感覚の本格派としてのレンデルももっと評価されてもいいんじゃないだろうか

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